「やっぱここのハニトー、クオリティ高いわ。歌よりこれが目当てで来るまである」
「別にそれも間違ってはいないと思いますが。お店としても、飲食メニューの方が利益率は高いでしょうし。
あ、護君。アイスと生クリーム少し下さい?」
「ん、ほれ。好きに取ってってくれ」
「ありがとうございます。それではお返しにこちらのパンケーキ、半分どうぞ」
「……さっきシェアって言ったけど、これ食べきれない分押し付けてるだけだよな? まぁ、貰うけど」
(貰うのか……)
目の前で繰り広げられる呑気な会話。
先程の話し合いから一転、マイペースにスイーツを分け合う二人を眺めながら、綾小路はぼんやりした表情でコーヒーを啜った。
小休止とは言っても他クラスとの話し合いの最中に、よくもまぁここまで寛げるものである。
それとなく周りを見渡せば、堀北や平田、ついでに本来Aクラスサイドである筈の葛城すらも、なにやらもの言いたげな表情。
それはこの状況で寛げる図太さへの感心か、あるいは呆れか。
おそらくはその両方なのだろう。綾小路は珍しく他の者と気持ちを共有する一体感という物を感じていた。
「うわっ……改めて見るとすっごいボリューム。五条君そんなに食べて太んないの?」
そんな中、他の者とは毛色の違った驚きの声を上げたのは軽井沢。
彼女も彼女で何とも呑気なリアクションだが、問いかけた内容自体は割と真っ当な指摘である。
なにせ五条の前にあるのは、食パン一斥の上に特盛のパフェを乗せたかのような、見ているだけで胸焼けしそうな
如何に食べ盛りの男子高校生と言えど、夕食前のこの時間に食べるには明らかに過ぎたボリュームだ。
「俺、体脂肪率って二桁いったことないんだよね」
「そんだけ食べて!? 噓でしょ!?」
何気にサラッととんでもない事を言う男である。
プロのスポーツ選手ですら、その多くは体脂肪率10%~15%程度。一桁台となってくるとその中でも一握り。紛うことなきトップアスリートと同レベルということになる。
軽井沢のように声こそ上げなかったが、平田や堀北も目を瞠り驚きを隠せない様子だった。
「マジ。俺って結構燃費が悪くてさ。特に最近は体育祭の準備やらで色々やることも増えたもんだから余計にね」
「だとしても護君、今の発言は多くの女性を敵に回しかねませんよ?」
と、そこで五条をやんわり嗜める坂柳。
対し、言われた五条はどうもピンと来ていない様子で問い返す。
「ん、何か駄目だった?」
「年頃の女性であれば、誰だって日頃から体型維持に気を遣っているものです。
なのに目の前で今まで太ったことが無いと、無頓着な発言をしながらスイーツを食べている方がいたら癪に障るのは当然でしょう」
「それ、一緒にパクついてる奴が言っても説得力無くね?」
「私はちゃんと日頃からカロリー計算していますから。摂取した分、ちゃんと脳を使って消費しているので問題ありません」
「いや、私からしたらそれも煽ってる風にしか聞こえないんだけど」
「おや、それは失礼致しました」
軽井沢からのツッコミにあらあらうふふと笑みを浮かべる坂柳。
改めて思うが、なんだろうか。この空間は。
三人が呑気に会話を広げる一方で、対照的に葛城と堀北、真面目な二人は気が緩まぬようにと硬い表情。
どっちつかずの平田は困ったように苦笑を浮かべている。
本来この場はAクラスとDクラスの会合の場であるはずなのに、これでは誰がどの立場に居るんだかわかったもんじゃない。
まぁそれを言ったら、そもそも我関せずと傍観者を気取ってる自分に言えた義理も無い訳だが。
そんなことを思いながら、綾小路は視線を彷徨わせる。
(それにしても――)
視線の向く先は五条護本人――ではなく、正確にはその手元。
静かな動作でトーストを切り分け口に運ぶ姿を見ながら、綾小路は思う。
(――随分と
それは五条の所作、テーブルマナーを指しての感想――ではなく、気になったのはその動きのスムーズさ。
やけに切り分けるのが速い。
プチトーを頼んだ軽井沢なんかは如何にも切り難そうにナイフをギコギコと動かしているというのに、五条の方はまるで抵抗など無いかのようにスムーズにトーストを切り分け食べ進んでいる。
同じ店のナイフで、こうも切れ味に差が出るものだろうか。
「ん、綾小路君もハニトー食べたかった?」
少し見過ぎてしまったか。こちらの視線に気が付いた五条からそんな問いが投げ掛けられる。
「いや……美味そうだとは思ったが、今更注文するのもどうかと思ってな」
「別に気にしなくてもいいと思うけど。なんなら口付けてないとこ切り分けようか?
俺は有栖のパンケーキがあるし、食器も余ってるしね」
「……それじゃあ、折角だし少し貰っていいか?」
見た所、五条の方にこちらを探ろうとするような妙な含みは感じられない。純粋な善意による申し出。
綾小路は少し考えた後、素直にその申し出を受け入れることにした。
ここで遠慮をするより、素直に厚意に甘えた方が心証が良いだろうという打算。
何より綾小路自身、カラオケで食べるハニトーに興味があったというのもある。
「はい、どうぞ」
「ああ、ありがとう」
差し出された小皿を受け取りながら、簡素に礼を述べる。
何やら隣の堀北から「お前までなに気を抜いてんだ」とばかりにキツイ視線を向けられたが、しかし仕方ないだろう。
そもそも綾小路としては、この話し合いの行く末――体育祭の結末がどうなろうと然したる関心は無いのだ。
クラスに協力するとは言ったが、だからと言ってやる気が有るかどうかは別の話。
堀北の視線を気にしないようにしつつ、小さく切り分けられたハニトーを口に運んだ。
食べた瞬間、感じたのは口の中に広がる蜂蜜の風味。表面はサクサク、中はモチモチとしたトーストは噛むほどにその奥からジュワリとした甘さが舌の上に広がっていく。
「これは……美味いな」
初めて食べたが、悪くない。
ゆっくりと咀嚼し嚥下した綾小路はただ一言、素直な感想が口から漏れた。
「フフッ、どうやらお口に合ったようですね」
その呟きが聞こえたのか、微笑まし気な視線を向けて来る坂柳。
こちらの反応に対するたわいもない一言――なのだが、綾小路は全く接点も無い彼女からいきなり声を掛けられて小さな戸惑いの念を抱いた。
とはいえ、ここで言葉に詰まるのは如何にもコミュ障な反応である。綾小路は変に思われぬようにと平静を装いながら言葉を返す。
「……ああ、トーストに蜂蜜がこんなに合うとは思わなかった」
流石に五条が食べてるようなサイズは大きすぎだが、パンと蜂蜜ならスーパーで簡単に手に入る。
今度自分で作ってみるのもいいかもしれない、と思う程度には気に入った。
「いや、トーストに蜂蜜ってそんな珍しい組み合わせじゃなくない?」
「察してあげなさい軽井沢さん。綾小路君に友人とカラオケに行くなんて経験があると思う?」
「あ、そっか。ごめん」
そこで素直に納得して謝らないで欲しい。
そして堀北。お前は先程までだんまりだったくせに、何故こちらをディスる時だけこうもスラスラ言葉が出るのか。
そんな風に内心で恨み言を呟く綾小路だったが、しかしそれに対し、フォローの声は思わぬところから発せられた。
「あまり、そのような発言はすべきでないと思いますよ?」
「……どういう意味かしら、坂柳さん?」
「世の中、人によっては複雑な境遇を抱えた方もいるものです。
遊びに行きたくてもそれが許されない環境だった。もし相手がそのような方であったら、今の発言は少々配慮に欠けた発言だとは思いませんか?」
「……あなたは、彼がそんな人間に見えるのかしら?」
「さぁ、どうでしょう。私はもしそうだったらという話をしただけですから」
思わぬところから
それでも何も言い返さないのは、未だ体育祭に関する話し合いも途中なのに下手に揉めるのを嫌ったのか。
しかしながら綾小路としては、気を遣われたことに対するありがたみを感じるより、むしろ警戒心が芽生えていた。
(……こいつ、知っているのか?)
思えば、この部屋に来た時から違和感はあった。
時折こちらに向けられる視線。堀北や平田に向けられるものとはどこか毛色が違った、何か見定めようとするかのような、そんな意図を含んだ瞳。
そこに加えて今のやり取り。
綾小路の胸中で芽生えていた「もしや」という疑惑が、明確な形を帯び始めていた。
ふと会話が途切れ、場に沈黙が落ちる。
言葉には出さずとも、堀北から発せられる不機嫌そうな雰囲気のせいか、何となく場に気まずい空気が流れ始めた。
「……失礼しました。他のクラスの立場で差し出がましい事を言ってしまいましたね。気分を害されたようでしたら申し訳ありません」
「あ、いや……そんな事は無いと思うよ。坂柳さんも何かしら思う所があって言ったんだと思うし、僕らも友達同士だからって少し遠慮が無かったと思うからね」
空気を読んで謝罪する坂柳に、平田もそれに合わせて場を取り持つべく言葉を返す。
平田としてはこの状況、何とも難しい立場だろう。今後の話し合いを進める都合上、向こうとの関係が拗れるのは困るが、かといって坂柳の肩を持てば堀北の機嫌を損ねかねない。
平田の様子からは、互いの不興を買わぬようにと必死に言葉を選んでいる様子が見て取れた。
そもそも彼自身はほとんど会話にすら加わっていなかったというのに、それでもこういう時率先して動けるのだから流石である。
だから軽井沢。そこで「友達?」などと首を傾げてくれるな。平田が困っているだろう。
ついでに綾小路にも地味にダメージが入っている。
「フフ、ではこの話はお互い非があったということで、ここまでにしておきましょうか」
そう言って坂柳がしめくくり、どうにかこの会話にも区切りがついたところで、ふと葛城が口を開いた。
「……では、そろそろ本題に戻ってもいいだろうか」
言いながら、分かりやすく時計へと視線を向ける葛城。
確かに、気付けば随分と話し込んでしまっていたらしい。見ればカラオケルームの利用時間も迫っている状態だった。
「そうですね。Dクラスの皆さんはどうでしょう? 考えは纏まりましたか?」
Dクラスの――とは言っても、結局こちらの代表は堀北と平田の二人だ。
坂柳からの問い掛けを受け、平田は堀北の方へとどうだろうかと視線を向ける。すると堀北は、軽く息を吐き一呼吸置いてから、意を決したように口を開いた。
「そうね。私自身の考えに関しては、ある程度纏まっているわ。ただ、今この場でクラスの代表として答えを返せるかと言われれば話は別。
確認だけど、そちらとしても今この場で結論を急ぐつもりはないのよね?」
「そうですね。先程言ったことはあくまで提案にすぎません。なのに今この場で結論を出せと言ってしまっては、ある種の強制になってしまいますから」
先程の坂柳からの提案――成績上位者の出場順を教え合う。
これに関しては何も今すぐ結論を出す必要はない。参加表の提出期限まで猶予もある上、今この場で堀北たちの一存で頷いてしまえば、後から知ったクラスメイト達から不興を買うことにもなりかねない。
「堀北さん達としても、一度持ち帰って検討するお時間は必要でしょう。こちらとしては、この場においては一応の納得さえして頂けたら十分と考えています」
そしてAクラスとしても、今この場で結論を急ぐ理由が無い。
そもそも向こうにとってこの場は、
果たしてこの状況、堀北はどこまで見えているのか。
綾小路は静かに見守る構えを取った。
「納得ね……それじゃあ、その納得を得るために幾つか確認したいことがあるわ。
まず、あなたはさっき、出場順を教え合うのは成績上位者三名と言ったけど、その成績に関してはどうやって証明するつもりかしら」
まずは当然の疑問。
成績上位者と言ったところで、まさかクラス全員の記録を明かす訳にはいかないし、仮にそうした所で「調子が悪かった」だの、適当な理由を付けて手を抜いた記録を渡されないとも限らない。
明確な基準が無い限り、正しい成績上位者が教えられるという保障はない。
「それに関しては然程難しくも無いでしょう。そちらとしても、既に他クラスの目ぼしい実力者は把握しているのではありませんか?
もしこちらが選出した生徒にご納得頂けないと言うのであれば、知りたい生徒を直接指名して頂いても構いません。
勿論その場合、こちらも同じ条件とさせて頂きますが」
それはある種の脅し。
もしもこちらが成績上位者の情報に固執せず、敢えて実力が低い者の情報を求めAクラスを出し抜こうとした場合、向こうも同じことをすると坂柳はそう言っているのだ。
仮にそうなった場合、生じるのはAクラスとDクラスの腹の探り合い。戦力を分散させ、BクラスとCクラスの得点を削るというこの提案の前提自体が崩れることになる。
両者にとってメリットは無い。
「もう一つ……お互い出場順を明かしたとして、その情報が他クラスに漏れないという保証は?」
「それに関しても、こちらを信用して頂くしかありませんね。とはいえ、情報漏洩のリスクに関してはお互い様でしょう。
こちらがお約束できるのは、少なくとも故意に情報を漏らすような真似はしないということ。
そのような事をしたところで、得をするのはBクラスとCクラスのみ。この点に関しては、お互いに信用できるのではありませんか?」
「……そうね」
表情を押し殺しながら頷く堀北。
この反応からして、やはり気付いているらしい。この取引の本質――そもそも向こうがこの提案を出した段階で、こちらは袋小路に嵌っていたことに。
「…………私から聞きたいことは以上よ。あなた達は何かある?」
長い黙考の末、ようやく言葉を吐き出した堀北。
その表情からは、納得というよりどこか諦めにも似た気配が感じられた。
「僕からは特には……聞きたいことは全部堀北さんが聞いてくれたからね」
「ん~、私もいいや。そもそも話に付いていけてないし」
続けて堀北の視線は綾小路に向けられるが、それに対し綾小路はそっと首を横に振る。
「いや、特に無い」
「そう……ひとまず、この場においては前向きに検討させて頂く、と返させてもらうわ」
セールスの場面だったら遠回しの断り文句として使われる、定番の言葉。
しかし坂柳はそれに対し、至って楽し気な様子で言葉を返した。
「フフ、そうですか。では色よい返事をお待ちしております」
カラオケの受付から、「あと5分です」と電話が来たのはその直後の事。
かくして、AクラスとDクラスの最初の対談は幕を閉じた。
◆◇◆
「あー、疲れたぁ~」
話し合いが終わって、綾小路達四人は学生寮への帰路を歩いていた。
先頭を歩きながら、グッと身体を伸ばす軽井沢。その後ろ姿を数歩遅れた位置から眺めなら堀北が呆れたように口を開く。
「あなたは何もしてなかったでしょう」
「そりゃ話にはついていけなかったけど、なんて言うかその場の緊張感? みたいのがさ、精神的に疲れたって感じ」
「……とてもそうは見えなかったけど」
確かに。あの状況でプチトーを頼むばかりかそれを綺麗に平らげといて、緊張したも何もないだろう。
至極尤もな堀北の呟きに、平田は苦笑を浮かべながら話を切り替えるべく口を開いた。
「けど、何はともあれ揉めることが無くて良かったよ。
坂柳さんの話を全て鵜呑みにする訳じゃないけど、少なくとも向こうも同じ赤組同士でぶつかるのは避けたいみたいだったからね」
平田としては、Aクラス側に敵対の意志が無いと確認できただけで最低限の収穫はあったと言えるのだろう。
しかしその一方で、堀北は浮かない表情で呟きを漏らした。
「…………そう簡単な話でもないわ」
「……なにか、気になることでもあるのかな? 堀北さん、話し合いの時もずっと考え込んでたよね?」
平田の問い掛けに対し、堀北は僅かに考え込む素振りを見せると、チラリと周囲へ視線を向ける。
そして周りに自分達以外の生徒が居ないことを確認してから口を開いた。
「先に言っておくわ。今回の取引を受ければ、体育祭で私達がAクラスに勝てる可能性はかなり低くなると思ってちょうだい」
「え、それってどういう……」
足を止め、困惑の表情を浮かべる平田。
「難しい話じゃないわ。あの提案通り、お互いに優秀な生徒の出場順を教え合ったらどうなると思う?」
「どう……」
こういう時、なまじ頭が働く者は質問の意図を深く読もうとして返答が遅れるものである。
代わりに、至ってシンプルな回答を返したのは軽井沢だった。
「そりゃあ、向こうの優秀な生徒に、こっちの遅い生徒をぶつけるんじゃないの? そういう話だったでしょ?」
「そうね。私なら間違いなく成績下位の生徒から順に勝ち目の薄い相手に振り分けていくでしょうし、それは向こうも同じでしょう。
つまり私達は、お互いに成績上位者と下位者をぶつけることで、得られる得点を相殺することになる」
ここまでは、おそらく平田や軽井沢も既に理解していただろう事実。問題はここからだ。
「この時点でAクラスとDクラスの得点は五分。それなら、残った組み分けはどうなるかしら?」
「残った……ッ、そうか!」
ここに来て、ようやく平田が理解に至る。
「どうやら理解できたみたいね……そう、お互い成績の劣る生徒から順に振り分けて行けば、この時点で残るのはお互いクラスの中間層の生徒達。
そうなれば、クラス全体の能力で劣っているこちらが不利になるのよ」
例えばだが、まず男子100m走であれば走者は各クラス二人ずつ先取しての計10組での争いになる。
AーD間で優秀な生徒を三人ずつ教え合い、成績下位の生徒から順にそれらの生徒が走る組に振り分けたとして、計6組が自然な形で埋まることになる。
そうなれば、残るのはクラスにおいて中から中の上程度の能力を持つ中間層の生徒達。
走順が決まっていない残る4組にそれら中間層の生徒達が固まれば、クラスとしてアベレージの高い方が有利となるのは自明の理だ。
現状、クラスとしての総合力で言うならDクラスは最下位だろう。しかしそんな中にも、堀北や須藤、平田といった実力者もわずかだが存在する。
逆にAクラスにも、坂柳を始めとして一部運動が苦手な生徒はいる事だろう。
大凡この手の勝負に於いて番狂わせが起こるとしたら、良くも悪くもこういった外れ値となる生徒の存在なのだ。
(逆に言えば、手札を効率的に切らせれば番狂わせは起こらない)
戦力を効率的に配分するとは、つまり運が介在する要素を狭めるということ。
そして運が絡まなければ、行き着く先は必然の結果。
すなわち、純然たる実力差が浮き彫りになる事を意味しているのだから。
「けどさ、それならそんな取引、受けなきゃいいんじゃないの?」
「いや、そうとも言えないよ軽井沢さん。確かに今の話を聞いた限り、この取引はAクラスの有利になるようになってる。
けどだからって、BクラスとCクラスの得点を削るってメリットが消える訳じゃないからね」
坂柳の提案の一番厄介な点はコレだ。
改めて言うが、現状Dクラスの戦力は他クラスに比べ明確に劣っている。何の策も弄せず正面から運に任せて挑んだ場合、AクラスはおろかBクラスやCクラスにも負ける可能性は高い。
Aクラスへの不利を飲み込んだ上で、それでも受けた方がまだ利があるというのだからタチが悪い。
「そうね。結論から言って、私はこの取引は受けた方がいいと思ってる」
「Aクラスより、まずはBクラスとCクラスに狙いを絞るってことだね?」
「ええ……繰り返しになるけれど、この取引はAクラスにとって優位な取引よ。つまり捉えようによっては、少なくともこの取引においてAクラスが私達を裏切る可能性は低いとも言える」
「確かに……」
現状のクラスポイント差を考えるなら、AクラスがDクラスを陥れるメリットは薄い。
そういう意味では、堀北の選択は間違っていない。クラスの事を考えるなら、正しく合理的な判断だと言える。
(これもある意味成長ではある、か)
そんな堀北の姿を見ながら、綾小路は独り言ちる。
これまでの堀北であれば、おそらくAクラスが相手だろうと負けるものかと、根拠も無く自分の力を妄信し挑みかかっていたことだろう。
それが変わった理由は――おそらく五条。
たかがビーチバレーとはいえ、堀北にとって兄が負けた姿は余程の衝撃だったらしい。
今のままでは勝ち目が無いと素直に認める。自分の弱さを受け入れる。
その点を挙げれば、堀北のこれは確かに成長と言えるだろう。しかし――
(――まずいな)
綾小路としては、堀北がどのような選択をしようと好きにすればいいと思っている。今回の体育祭がどのような結果に終わろうと、それ自体に関心は無いからだ。
問題はその判断をするに至った過程。
綾小路には今の堀北が合理的という理由を盾に、負けて仕方が無いと、戦わずに済むようにと、自分に言い訳しているように見えた。
(一番の問題は、堀北自身がそれを自覚していないこと)
折れるのはいい。高い壁にぶち当たったのなら、自分を見つめ直す時間も必要だろう。
だが本人がそれを自覚せず、壁を越えるべきものとも認識できていないのであれば、どれだけ待った所で成長は無い。
今のままでは、堀北はクラスを引っ張る存在足り得ない。
(やはり、テコ入れは必要か)
語る堀北の姿を眺めながら、綾小路は今の彼女に必要なピース。それを静かに計算し始めていた。
大変長らくお待たせいたしましたぁ!
言い訳をさせて頂くのであれば、今回かなり個人的にモチベーションが上がらない回だったと言いますか、自分で書いといてなんだけど正直今回は書いていて面白味が感じられず、文章が出てこなかった。
展開上必要だと思ったから書いたけど、正直何度体育祭自体すっ飛ばしたいと思ったか。
すみません。愚痴になってしまいました。
とりあえず、一応今回書きたかった要点は二つ。
一つは雑談の中で有栖さんに対し、綾小路が意識を向けるきっかけを作りたかったというのがまず一つ。
本当はもっとホワイトルーム関連でもっとブッ込んだ話題ぶち込もうかとも思ったんですが、流石に会話が混沌とし過ぎて、収集がつかなくなったんで断念しました。
で、もう一つがシンプルにAクラスの作戦に関する説明。
どこかしらでこの作戦の仕組みに関する説明はしなきゃと思ったんですが、体育祭の渦中や体育祭が終わった後だと長々と解説する暇が無さそうだし、いっそここで解説してしまおうと、そう思った結果がこれ。
なるべく噛み砕いたつもりですが、上手く解説出来たかちょっと自信が無い。
もし分かり難いようでしたら、改めて修正するなり、後書きで補足するなりさせて頂きますので、どうぞよろしくお願いいたします。
夏休みの締めくくりの水着回、開催するならどっちがいい?
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よう実4.5巻準拠。学内プールに行こう
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高専メンバー参加型。学外で皆と楽しもう