Re:五条悟でヒーローアカデミア   作:わやわや

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活動報告でも随分前に上げてましたが、リアル事情で忙しかったりメンタルやられたりで遅れました。
この度は大変申し訳ございません。

以前まで書いていたものを、雑に切り上げてしまいましたがとりあえず一旦生存報告も兼ねて投稿致します。


五条悟②

 あの事件から三年の月日が流れた。

 五条も中学三年となり、身長も高専時代(げんさく)の五条と同じぐらいの背になった。見た目も大人び、声を掛けられる数も増えた事が鬱陶しい今日この頃。

 徹夜でクリアしたゲームの影響で重たい瞼を、サングラスを指で押し上げて軽くこする。

 

「……ふ、ぁ」

 

 欠伸を一つ。

 気怠げにスカスカな学生鞄を担ぎ直して、サングラスを掛け直す。

 五条以外から見れば光を反射しない特注の黒のレンズ、六眼の影響により見えすぎる為ゆえの処置。

 脳への刺激を減らす為だけに、手掛けられた特注の代物であるそれを通して景色を目に映す。

 いつもと変わらない通学路。

 ため息を吐いた。

 面倒臭いし、今日も今日とて惰眠を貪ろう。そう考えながら歩く道のり。

 いつもと変わらない日々だった。

 

「―――来るんじゃねえええええッッ!!!」

 

 五条の眠気でモヤがかかった脳内に、突如反響する咆哮。

 思わず、顔を顰めた五条が発信源へと目を向けた。

 

「うるせえな、何だよ朝から。―――また(ヴィラン)か」

 

 野次馬が集うその正面、線路を大きく塞ぐ様に巨大化した異形の巨人が咆哮を上げて、対峙するヒーローを牽制する姿が目に入った。

 対するのは、全身に木をモチーフにしたコスチュームを纏う新進気鋭の実力派。

 

「シンリンカムイだ!」

 

 誰か分からないがヒーローの名前を上げた。

 メディア露出も増えた人気急上昇中のヒーロー、シンリンカムイは怪物化したヴィランの瓦礫を巻き込んだ一撃を大きく跳躍する事で回避。

 ヴィランよりも高いところに着地し、その右腕を変質させる。

 

「通勤時間帯に個性の違法行使、及び強盗致傷。まさに、邪悪の権化よ」

「何ブツブツ言ってんだ、寄るんじゃねえって言ってんだろぉが!」

 

 ヴィランがその巨躯を活用し、大きく拳を振りかぶる。

 幼少期からプロヒーローと体術訓練していた五条からすれば稚拙な一撃だが、その巨体をフル活用した一撃はシンリンカムイの意識を吹き飛ばすには容易すぎる威力を秘めている。

 

「口上述べてる暇あるなら、さっさと捕まえたらいいのに」

 

 野次馬の悲鳴や歓声を他所に、心底うざったそうに欠伸をしながら五条は個性を行使する。

 瞬間、ヴィラン後方に収束する光球。

 全てを飲み込む様な引力が、前方に重心をかけていたヴィランの足元を吸い込んで体勢を大きく崩した。

 

「何だぁぁ!!?」

 

 ヴィランの動揺を知らず、シンリンカムイの目には勝手に何かにつまづいた間抜けなヴィランとして映った。

 

「これも裁きよ。―――懲戒先制必縛ウルシ鎖牢ッ!」

 

 シンリンカムイの変質した右腕から、触手の様に伸びる樹木。根を張る様に大きくしなやかに伸びた木々がヴィランに巻き付いて、体勢を固定した。

 瞬間、野次馬を覆う大きな影。

 

「キャニオン――カノンっ!」

 

 甲高い女性特有の声。

 威勢よく放たれた技名に、空を舞う巨大なヒーローの飛び蹴りにより姿勢を崩したヴィランは大きく吹き飛んだ。

 強烈な衝撃に勢いよく吹き飛んだヴィランは、壮大に土煙と少なくない瓦礫を散らして沈黙。

 即座にシンリンカムイが、その巨体に樹木を巻き付けて拘束する。

 土煙の中から出てきた巨大なヒーローは、その豊満な肢体を見せつけるかの様なピッタリとしたコスチュームを身に纏っている。それを見た野次馬達が口々に呟いて、手に持ったスマホやカメラで写真に収める。

 

「本日デビューと相成りましたっ。Mt.レディと申します!」

 

 そんなカメラマンを横目に、Mt.レディは異性を誘惑する様に体を屈めて臀部を軽く突き出す様な姿勢を取る。

 

「以後お見シリ(・・・・)おきを」

 

 トドメのウィンクに観衆が湧いた。

 アイドル然とした美貌に肢体をウリにした衝撃的デビューに、老若男女問わず歓喜した。

 新しく民衆が住む街に現れた期待の大型新人二人を目の前にして湧かないのがおかしかった。

 

「―――弱きを助ける為に被害を出していいって事にならない、か。火伊那が居たらどうするんだろうね」

 

 今はいない女性を名前をあげて、五条はどこか冷めた目で未だ手を振り続けるヒーローを流し見た。

 今の現状を、そしてあれだけ見栄を張った五条の個性が伸び悩んでいるところを見て。

 火伊那が何て言葉を吐くのか、今の五条には思いもつかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻も夕方に迫っているというのに、陽がまだ残る春の放課後。

 五条は授業全て眠る事で突破し、これから遊ぼうぜと誘ってきたクラスメイトを用事があるという一言で一蹴した。

 五条が向かったのは商店街の一角だった。

 何でも有名な甘味処が出来たらしい。

 個性訓練で脳を酷使する五条にとって、脳を回す為に摂取していた糖分はいつしか好物へと変わっていた。

 甘党へとなった五条の、家柄をフル活用した情報網に引っかかった甘味処。

 不味い訳がない。

 それが、他県で出店している系列店のレビューを見た感想だ。

 昼からオープンしたらしく売り切れる事も考えたが、そこも資産家で有名な事を駆使し食後に良ければ宣伝する事を条件に取り置いて貰った。

 在庫にも問題はなし、後は寝起きの脳に栄養を与えるだけだ。

 心なしか足取りも軽く、いざ商店街に向かう五条の目に飛び込んだのは衝撃的な光景だった。

 

「ォォォおおおおおおおおお!!!」

 

 金髪の少年を依代にしたヘドロ型の異形が暴れ回り、その両手から放たれた爆炎が商店街に火をつけていた。

 

「……あ゛?」

 

 思わず立ち止まり、視線をスマホへ落とした。

 五条の右手に握られたスマホが、その暴れ回るヴィランの先を指し示していた。

 朝からヴィラン騒動に巻き込まれ、続いて楽しみに待っていた未知の甘味を邪魔するヴィラン。

 

「スゲー! 何アイツ!! ひょっとして大物敵じゃね!?」

「頑張れヒーローっ!」

 

 一歩間違えば危険が迫るというのに、テンションを上げて喜んだり応援を飛ばしたりとする民衆。

 もしかしたら有名なプロヒーローが姿を表すかもしれない事実に、期待を隠そうともせずに声を上げる人々。

 

「私二車線以上じゃなきゃムリ〜!」

 

 朝方に怪物化したヴィランに飛び蹴りを繰り出したMt.レディはビルの間から通れず声を上げる。

 

「爆炎系は我の苦手とするところ……今回は他に譲ってやろう」

 

 意気揚々と樹木を巻き付けて捕縛していたシンリンカムイは、冷や汗を流しながらヴィランから近い民間人を救出して後方へ下がる。

 

「そりゃサンキュー! 消火で手一杯だよ、消防まだぁ!? 状況どーなってんの!」

 

 消防士の様なコスチュームを見に纏うプロヒーローバックドラフトは、飛び火し状況が悪化しないようそのホースの様にした両手から大量の水を吐き出し辺りを見渡す。

 

「ベトベトで掴めねえし、良い個性の人質が抵抗してもがいてる! お陰で地雷原だ。手ェ出し辛え状況!!」

 

 鍛えられた体躯を披露するかの様なコスチュームを着たデステゴロは、救助を行いながら手短に近況を報告する。

 その時、辺りを威嚇するだけだったヘドロ型のヴィランがデステゴロに振り返った。

 

「うえ゛ぇ!」

 

 無理矢理体を動かされた痛みからか、依代の少年が声を上げる。

 開かれた右手から火花が散った。

 

 ――BOOOM。

 

 耳を劈く様な爆発音。

 アスファルトを容易く破砕して、瓦礫を吹き飛ばす一撃をヒーロー達は間一髪で避ける。

 当たれば致命傷のその威力に、ヒーロー達は一様に青褪めた。

 

「ダメだっ! これ解決出来んのは今この場にいねえぞ!」

「誰か有利な個性(やつ)が来るのを待つしかねえ!!」

「それまで被害を抑えよう! 何、すぐに誰か来るさ!」

 

 悲劇的なまでな現状に対して、他人頼りのヒーロー。

 ヒーロー飽和社会、個性で個性を制する現代社会にて不利な個性には有利な個性を持つヒーローを待つ事が一般的なのだ。各々に正義感があっても、覆しようのない相性不利にヒーロー達は悲観する。

 

「くそっ!!」

 

 デステゴロは何もできない現状に歯噛みし、力不足を嘆く。

 自分自身にもまるでナンバーワンヒーローの様に、全てを吹き飛ばせる様なパワーがあれば、と。

 民衆がざわめく中で、五条はわなわなと震えていた。

 目の前のヘドロが爆破を起こした影響によって、吹き飛んだ瓦礫が五条の目的地である店に直撃したのだ。

 五条が握るスマホが悲鳴を上げた。端正な顔立ちに青筋が浮かぶ。

 朝から続く不幸と、楽しみにしていたものが目の前でなくなった事で怒りが臨界点に達した。

 さて、どう目の前のヴィランを片してやろうか。

 そう考えてる矢先、事件に変化が訪れる。

 

「お、おい! 戻ってくるんだ少年!!」

「んっ?」

 

 五条が小首を傾げて声の向かう先へ視線を伸ばせば、緑髪の少年が放たれた矢の如く野次馬の間を縫って飛び出していた。

 

「(……無個性じゃん)」

 

 五条の六眼が映し出す緑髪の少年の個性。

 誰よりも弱く、誰よりも臆病な筈の少年は民衆の声に振り返りもせず駆け抜ける。

 

「―――――かっちゃん!!!」

 

 ヘドロのヴィランに取り込まれかけていた金髪の少年は、大きくその目を開いた。

 口を開けて、声を出すが音に鳴らない。

 緑髪の少年は、目の前のヴィランが繰り出そうとする爆破の一撃を背負っていたリュックを投げて当てることで停止させる。

 ガクガクと足を震えさせながら、それでも尚ヴィランの元へと辿り着いた少年は必死に掴んでも掴み切れないヘドロに両手を突っ込んで金髪の少年を助けようとしていた。

 

「デクゥ、何で、テメェが……っ!」

 

 デクと呼ばれた少年――緑谷(みどりや)出久(いずく)の、少しばかりのヘドロへの抵抗が叶い金髪の少年――爆豪(ばくごう)勝己(かつき)は漸く己の意志で声を上げた。

 その表情には、恐怖と焦燥。そして、なぜ自分が緑谷に助けられようとしているのか分からない戸惑いが張り付いていた。

 

「分からないっ。足が勝手に動いたんだ、何でか分からないけど!!」

 

 どちらが助けられているのか分からない程、一歩間違えれば死んでしまう状況に恐怖で怯える緑谷が、その両目に今にも零れそうな涙を蓄えて言う。

 その右手を突き出して、ヘドロに取り込まれた爆豪の手を掴み取るために。

 

「君がっ! ―――救け(たすけ)を求める顔をしていたから!!」

 

 瞬間、五条は背筋を震わせた。

 ヴィランに恐怖したからでも、楽しみにしていた甘味処が潰れた怒りでもない。

 ただ純粋に放たれたその一言は、五条の胸を強く打ち付けた。

 まさしく五条が考えていたヒーロー像だ。

 現代社会にありふれたヒーローではなく、まさしく物語に現れる様な見返りを求めずただ困っている人間を助ける本来のヒーローの姿。

 正義を持って、助けを求める弱き者を救うヒーロー像。

 かつて火伊那が語って聞かせてくれたその姿。

 

「ははっ、やるじゃん」

 

 その綺麗な口元に弧を描いて、五条は個性を行使する。

 怒りをぶつける為じゃなく、目の前のヒーローの危機を救うために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 五条悟の前世は一般的なサラリーマンだった。

 

 一般的というものの、超が付く程のブラック企業に勤めていた。勿論、今生きる世界の様に特殊な能力もないし魔術も呪術なんて持ち合わせていなかった。

 

 確か――死んだその日の天候は、雨。

 深夜零時を半ば過ぎた時刻。

 漸く書類整理も終えて、退社をすれば外は大雨だったのを覚えている。

 昼時に漠然とSNSでニュースを見た。

 ここ数十年無かったゲリラ豪雨が来るとの事だった。

 こんな豪雨の中で仕事とはバカバカしい、常人なら思うが長年ブラック企業に勤めて麻痺していた僕はいつも通りのことだと思いながら慣れた道を走って帰った。

 

 傘を家に置き忘れてしまい、全身に豪雨が叩きつけられて、スーツがビショビショに濡れて肌に張り付いたのが酷く気持ち悪かったのも覚えている。

 

 靴の中に侵入して、じゃばじゃば音が鳴る。

 忙しい毎日の影響で伸びに伸びた前髪が顔に張り付いて、前が見えづらかった。鼓膜を震わす雨の音、髪の毛に遮られて狭くなった視野。 

 

 記録的豪雨だった。

 

 この日本における都会に身を置いていたし、公共設備も点検され安全だと思っていた。

 しかし、微かなクラック(ひび割れ)があり、そこから豪雨によりひびが侵食していき土台が弱くなり陥没したのだ。

 どんどん地面を食い尽くす様に広がっていく穴。

 すぐに逃げ出せたハズだった(・・・・・・・・・・・・・)

 逃げ出そうとした矢先、視界に入ったのは女性がその穴に巻き込まれて落ちそうになる姿。

 

 

 それを見た時、何故か体が勝手に動いていたのだ(・・・・・・・・・・・・)

 

 

 何故、そうしたのか分からない。

 ただ体が勝手に動いた。

 もしかすると、幼少期のバカバカしい夢の一環であった特戦隊や物語のヒーローへの憧れが残っていたのかもしれない。

 

 鞄を投げ出して、水を含んで重くなったジャケットを走りながら脱ぎ捨てた。

 濡れた靴が脱げても構いなしに女性の所まで一息で追いついた。その後、手を引っ張って後ろに投げる様に救い出した。

 しかし、勢いをつけすぎたのか女性との位置を交換する様に崩落に巻き込まれた。

 幸い、投げ飛ばした女性の場所までは陥落しなかったらしい。

 

 轟々と自分自身に叩きつける瓦礫や水流に、漠然と死ぬんだと感じた。

 脳裏に走る幼少期から現在に掛けての記憶。

 その中でも特に印象的だったのは、その時好きだった作品の呪術廻戦の記憶。

 五条悟が封印された後どうなるのか、これから先作品が見れないのかと思い、それと同時に女性を救えた事に幼少時代の夢だったヒーローの一人になれたのだろうかなんて考えて意識が暗転した。

 

 

 

 次に気がつけば、既に今の世界に転生していた。

 あれよこれよと過ごし、実年齢としては五条の方が年下ではあるが精神年齢を加味すると似た年齢だった火伊那と出会い、個性と体術の訓練に明け暮れる日々。

 今生きる世界では、前世の幼少時代憧れていたヒーローが正式な職としてある。

 そう知った時から、誰かを救うヒーローになる為に頑張った。

 運が良い事に、五条悟の能力全てを持っている。

 個性と呼ばれる異能が常識の世の中でもトップヒーローになれるだけのポテンシャル。

 

 欠点は、思ったことや言動が五条悟に引っ張られることだがそれは昔からの夢の前には些細な事だ。

 

 しかも、教えてくれるのはプロヒーローレディナガンとして有名な筒美火伊那。

 家族様々の繋がりである。

 レディナガンの掲げるヒーロー像も、前世の自分が描いていたものと一致していたし、世間がナンバーワンオールマイトと謳っても五条の中での一番はレディナガンだった。

 

 小学校を卒業する年、中学に入る前にレディナガンが目の前から消えた。

 

 目の前から、というよりかは声しか聞いていないのだが。

 とてもしんどそうな、哀しそうな声をしていた。

 助けようと思ったが、ピシャリと断られて電話が切れたと思えば同行のプロヒーローを殺害したときた。

 

 何が何だかわからなかった、何でレディナガンが。

 たしかに失望した、裏切られたと感じたがそれ以上に五条は自分自身に腹が立った。

 五条悟として生まれて、この世界で誰も届かない位置に辿り着ける個性なハズなのに大切な人一人と護れない事に。

 それと同時に、レディナガンから離れた五条は他のヒーローへ目を向けた。

 

 するとどうだ? 

 

 ヒーロー飽和社会と言えど、本当にヒーロー然とした活動をしている人はいるのだろうか。

 

 自分が求めていたヒーローが何か分からなくなり、ただ日課になった個性訓練をするも昔みたいに本気で出来なかった。

 

 ただ淡々と過ぎる日々に、鬱屈する日常。

 五条悟になっても、大切な一人を救えない自分に反吐が出た。

 

 この世界に生きるヒーローへ、少しばかりの絶望を持った五条の目の前に現れた緑色の少年。

 弱々しいのに力強い言葉に、かつての憧憬をその心に灯した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君がっ! ―――救けを求める顔をしていたから!」

 

 その叫び声は商店街全域に響き渡る。

 悲鳴にも似たその声は、野次馬の中で埋もれていた痩身の壮年男性を震え上がらせた。

 口元にその痩せ細った手のひらを当てて、視線を落とす。その手中に広がる、口から溢れた血液に己の不甲斐なさを感じた。

 

(情けない……情けないっ!!)

 

 目を閉じて、己自身を責め立てる。

 その男性の正体は、全世界から注目されるナンバーワンヒーローとして第一線で活躍するオールマイトその人だった。

 理由もあって、今は痩身であるが個性を使えばその全身は二メートルを超える巨体となる。

 そんな後悔に震えるオールマイトは、緑谷と少しばかりの顔見知りであった。

 つい先刻、目の前で暴れるヴィランに襲われている緑谷を見つけて助け出したのが切っ掛けで紆余曲折あり、緑谷の将来についての相談を受けた。

 オールマイト自身、個性使用の制限時間が迫っていた事もあり、目の前のひ弱な少年がヒーローになるのは無理だと決め付けて、緑谷が夢描いていたヒーローへの道を閉ざす様な言葉を投げかけたのだ。

 

(それなのにっ!)

 

 それなのに。

 彼はここにいる誰よりも。

 勿論、活動限界を迎えているナンバーワンと呼ばれるオールマイトの目からしてもヒーローに見えた。

 震え、沸き立つ怒りは緑谷に投げかけた言葉に対しての後悔か、それとも野次馬の中で埋もれて助けを待つ少年に手も差し出さず己の身を案ずるだけの無力な自分への憤怒か。

 

「君を諭しておいて、己が実践出来ないなんて!」

 

 ここに、ナンバーワンヒーローが顕現する。

 痩身の男性は、たちまちにその体躯を大きくさせる。筋肉が膨れ、全身の関節が唸りを上げる。

 垂れ下がっていた金髪が、跳ね上がり視界が開く。

 活動限界を超過した反動で、その口元から血が溢れた。同時に、電気信号となり全身に叩きつける激痛。

 痛みも後悔も怒りも全て、跳ね除ける様に群衆から飛び出した。

 弓を引き絞る様に畳んだ肘、放つ一撃は天候すら変える天災の一撃。

 

「プロは、いつだって命懸け!」

 

 命少ない自分よりも、長く生きるこれから未来を背負う若者の命を救う為に。

 ヒーローという弱き人々を守る為の存在を、火を絶やさぬ様に。

 オールマイトがその拳を振りかぶり、突き出そうとした瞬間だった。

 

「―――よっ、と」

 

 オールマイトの眼前、ヴィランとの中間に突如降り立った学生服に身を包んだ白髪の少年。

 軽快な声と共に、目の前に現れた少年を前にしてオールマイトの拳は繰り出される。

 

「少年っ!? 避け―――ッッ!?」

「きゃぁー!」

 

 オールマイトの声も虚しく、拳は少年に直撃する。

 野次馬からの悲鳴が喧騒に包まれた商店街を切り裂いた。

 誰もが凄惨な未来を予想した。

 オールマイトの絶大な威力を誇る拳が、少年の体に当たりその衝撃を全身に叩きつけて粉砕すると幻視した。

 しかし――

 

「―――何だよ、人の気分下げるようなマネするやつ……オールマイト?」

「え、ぇええええ!? 何で生きてっ、いや、生きててくれた事は大変嬉しい事なんだけど、え、ホントに大丈夫?」

 

 オールマイトの拳は、まるでそれ以上の進行を妨げるかのようにぴたりと静止していた。

 少しでも動かせばその白磁の肌に触れられるはずなのに、触れない(・・・・)

 

「何が何だかわからないが、何にせよ助かったぜ人質クン! 助けてくれたところ悪いが爆死だ!」

 

 そんな二人の隙を見逃さないのが、ヴィランである。

 強個性の依代を手に入れた反動か、昂揚感で脳内が麻痺する。

 爆豪の体を無理矢理に動かして、右手の汗腺がまるで涙の様に滴り落ちる。

 

「危ない少年! そこを退きなさい!」

「――ン? これのどこが危ないんだよ、目ついてる?」

 

 オールマイトの声も虚しく、どこ吹く風とばかりに耳をほじりながら五条はヴィランに相対するように振り向いた。

 迸る火花、完璧な直撃コース。

 ヘドロのニヤケた表情を、ウザそうに見ながら五条は無防備にもその攻撃を正面から受けた。

 

「Lサイズのグリルの出来上が……りぃ!?」

「まったく、舐められたもんだよね。こんな雑魚個性にやられると思われてるなんて」

「なにが、どうなって………」

 

 驚愕するヴィランを始めとする観衆。

 その中には、オールマイトも被害者である爆豪、そして五条を奮い立たせた緑谷の姿があった。

 一様にしてその表情に、驚きと困惑を貼り付けている。

 しかし、そんな事知らないとばかりに当事者である五条はのんきにも耳くそのついた小指を見て顔をしかめ、ヴィランに向かって吹きかけた。

 

「汚ねえ! 何飛ばしてやがる殺すぞガキが!」

「見た目ベトベトンなんだから一緒でしょ」

「(さっきのは人質(クソガキ)が抵抗しやがったせいだ、この距離なら木っ端微塵にしてやれる!)――舐めんなクソガキ!!」

 

 五条の目前で、両手を突き出して汗腺が破裂する。

 BOOOOM!!

 溢れ出た汗腺が火花となって、大きな爆撃となった。

 

 

「っ、少年!!」

「いやああああああ!」

 

 野次馬とオールマイトの叫び声が、爆音に飲まれた。

 完全な手応えに、ヴィランは笑みを抑えきれなかった。爆豪はその有りすぎる感触に、思わず嘔吐した。

 

(くそっ、クソッ! 俺がノンキにクソヴィランに捕まってなけりゃあこんなことに!!)

 

 もし過去に戻れるんであれば、立ち向かおうとした自分を殴ってでも引き止める。絶望と後悔に、爆豪が歯を食いしばる。

 

「くっ、私が盾になるべきだった。そうすれば少年は……!」

 

 オールマイトは後悔する。

 押しのけてでも位置を入れ替わり、少年を救うべきだったことを。

 もっと早くにヴィランを捕獲すればよかったことを。

 

 

 

「―――けほっ、もういい? ポケモンならターン制は守ってよね。もしかしてアニメ版? イヤになるよホント」

 

 

 

 そんな爆豪とオールマイトの思いをよそに、爆炎を裂いて、鼻を摘んで手を仰ぐ五条が姿を現した。

 

「は?」

 

 呆気にとられた声、誰が溢したかも不明だった。

 ただそこに、外傷も身に纏った学生服に一つの汚れもなく佇む五条の姿。

 あたかも当然の様に、振る舞うその姿にオールマイトも攻撃を加えたヴィランでさえも思考が停止した。

 ゆっくりと掲げた人差し指に、光が灯る。

 

「―――んじゃ、俺のターンね」

「なっ、ん、だよコレ……ぁぁああああああああ!!!!」

 

 急激に指先に集まった光が膨張する。

 爆発的な速度で、辺りの爆炎や塵を巻き込んだブラックホールの様な吸引力。それでいて、液体化したヴィランのみでその他の人間を吸い込まない個性の練度。

 依代にしていた爆豪を吸い込まず、渦巻く光球にヴィランが吸い込まれた。

 

「いいとこにいいもんあるじゃん、これでいいか」

 

 そう言いながら、五条は地面から水筒を拾い上げた。

 

「あ、僕の水筒……」

 

 緑谷は呟く。

 先程、ヴィランに向かって投げつけたリュックの中にしまっていたオールマイトグッズの一つである水筒である。

 その水筒の蓋を開けて、中身を全て捨てた五条は圧縮したヴィランを中に詰め込んだ。

 

 

 

 

 

 




高校卒業するまでは高専五条のままという天与呪縛
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