ありきたりな異世界冒険譚の筈だった   作:百万回エタった猫

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プロローグ

 夢にまで見た異世界、剣と魔法のファンタジー。

 レンガのような何かで出来た巨大な城の、謁見室。

 跪く俺達()()()()の前には、絢爛豪華な装飾を施された大きな椅子に座る老人が一人。枯れ枝のような手足と、皺の刻まれた顔が年齢を伺える。

 

「勇者達よ、よくぞ参った」

 

 その枯れた見た目とは裏腹に荘厳で威厳の感じられる力強い声が広い謁見室に響く。

 

「知っての通り、今この国は滅亡の危機に瀕している。御伽噺で語られる魔王が復活し、魔物が各地に蔓延り出した。精強な騎士団も総出で魔物狩りを行っているが魔物達の増える速度に追い付いていない……。諸君らの腕前を見込み、国から直々に依頼をする。どうかこの国に平和を取り戻してくれないか」

 

「お任せください王様!この勇者が、そして私の仲間達が、必ずや魔王の首を取りこの国を平和にしてみせます!」

 

 王様の依頼に、我らが勇者が自信満々に答えた。

 魔王が復活し、勇者が立ち上がる。まさに英雄譚の序章に描かれているような出来事を目の前にした近衛兵達は、興奮を抑えられないようでソワソワとしていた。

 かく言う俺も目の前で行われた英雄譚の始まりにドキドキと胸を高鳴らせ、その物語に登場人物として飛び込むことが出来るという事実にワクワクしていた……。

 

「ありがとう勇者『ぽりたん』よ。テュポボスポン王国は諸君らを支援する!見事魔王討伐を完遂した暁には、望むものを与えよう!」

 

 ……こんな冗談みたいな名前が出てこなければ、な。

 テュポボスポン・スッポンポ国王は玉座から立ち上がり、その手に持った王杖を振りかざす。

 

「今、我が国で用意出来る最上級の装備だ。その他必要な物があればポスボンド騎士団長に言うと良い」

 

 国王の言葉に合わせ、近衛兵達が一抱えもある宝箱を3つ持ってきて俺達に渡す。勇者ぽりたんは俺に目配せするのを合図に、俺は腰に着けていた『魔法の袋』に宝箱を全てしまった。

 

「……それが噂の何でも入るという四次元ポケッ「魔法の袋です」……であるか……」

 

 誰がなんと言おうとこれは『魔法の袋』だ。例えアホの勇者が変な名で呼ぼうと、そしてその変な名が周知されようと。これは『魔法の袋』なんだ。

 オレも欲しいなぁ……という表情を隠さない近衛兵が元の位置に戻るのを確認した国王が再び王杖を振りかざす。

 

「さあ行け勇者達よ!テュポボスポン王国に光あれ!」

 

 王杖から神々しい光が放たれる。その光景は、もし物語として本に書かれる事があれば間違いなく挿し絵として採用されること間違いなしな場面だ。

 

「テュポボスポン王国万歳!」

 

「勇者ぽりたん万歳!」

 

 近衛兵達が一斉に声を張り上げ、希望に満ちた祝福の歓声をあげる。日夜続く魔物達との戦いに疲弊した兵達にとって、間違いなく勇者ぽりたん一行は希望の光そのものなのだ。

 そうして、俺達はテュポボスポン城を後にする。各地に蔓延る魔物達を、そして魔王を討伐するために。この国に平和をもたらすために。

 

 それは、まさに英雄譚の序章だった。……勘弁してくれよ。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 テュポボスポン王国の首都プブロポ、そこで最も高級な宿屋『プブロポポボロッカ』の食堂に俺達は居た。

 

「私達もいよいよ本格的に『勇者一行』としての活動が始まる訳ね!」

 

 ニッコニッコと満面の笑みを浮かべながら下賜されたミスリルの剣を磨く女の名前は『なぼり・ぽりたん』。神に選ばれた勇者の末裔(自称)なのだが、勇者と呼ぶに相応しい剣の腕前と魔法の才能を持つ。

 

「僕達の長い旅路も、漸くスタートラインを切ったのですね……」

 

 祈りを捧げるように両手を組んで目を閉じる聖女の名前は『カスタード・プリン』。清浄なる闇夜教会の聖女にしてパーティの回復役であり、まだ幼さの残る外見とは裏腹に老練な拳闘士でもある。

 そして黙々とメシを胃に送り続ける作業を続けている俺の三人が『勇者一行』のパーティーメンバーだ。名前は彷徨冬真。

 

 この世界に転移?してから一年。夢にまで見た剣と魔法のファンタジー世界。何度も死ぬような思いをしたが、とても満足している。初めて見る魔法に感動し、初めて使う魔法に感激し、たかがゴブリンとなめて掛かれば痛い目に合い、身体を鍛えてリベンジすれば初めて生き物を殺す感覚に恐怖し、そして前の世界では絶対に見られないような絶景を目にして涙を流した。本当に、本当に満足いく冒険の一年だった。

 ……そう、ただ一つ。この世界のネーミングセンスがえげつねぇ事を除けば。

 

「……ぽりたん。魔王が居る場所って何処だったか」

 

「ん~?ぱぷろぽ峠でしょ?急にどうしたのよ」

 

「プリン。魔王の名前って何だっけ」

 

「ホニヒカですが……どうしたのですかトーマさん?そんな子供でも知ってる事を改まって聞いて……」

 

「そうだよな、そうなんだよなぁ……」

 

 何だよ『ぱぷろぽ峠』って!『魔王ホニヒカ』って!!?

 勇者ぽりたん率いる、チーム『勇者一行』はぱぷろぽ峠へ赴き、死闘の末魔王ホニヒカを討伐しましたってか!?なんだこの聞いてて気の抜ける名詞の連続は!

 

「世界が俺に厳しい……」

 

「本当にどうしたのよトーマ。貴方の名前が変なのは今に始まった事じゃないわよ」

 

「そうですよトーマさん。例え変な名前であろうと、大事なのは何を為し、何を成したか……ですから。トーマさんがとても凄い人だということは僕達がよく知っておりますから」

 

「そういう所なんだよ!」

 

 頭をテーブルに打ち付けながら叫ぶ。勇者ぽりたん、聖女プリン、魔王ホニヒカが許されて、何故『彷徨冬真』が駄目なのか。

 名前を変える事は何度か考えた。だが、この何でも有りファンタジー世界に来て一年。髪の色は変わり、瞳の色は変わり、肉体も若干人間辞め始めてる程度には変わり、もはや前の世界の俺と同一人物であるという証拠は名前しかない。親から貰った身体が一切合切変わっちまった以上、前の世界との繋がりはこの名前しか残っていない。そう思えてしまったから、俺は名前を変える事を拒んだ。

 変な名前と言われ続けようと、俺は『彷徨冬真』で在り続ける。

 

 ……だが、もし遠い未来において『勇者ぽりたんの冒険譚』を読んだ子供が俺の名前を見て失笑してたら……流石に凹むなぁ。

 

 ため息一つ。そもそも俺の名前の何がおかしいのかが分からんから気にしてもしょうがない、という結論に至る事幾数回。名前を変えないと決めた以上、変だ何だと言われるのは我慢するほか無いのだ。

 テーブルに打ち付けた頭を上げ、食事を再開する。高い宿屋特有の高級食材を存分に使った食事は、この一年で異世界貧乏飯に慣れ切った俺の舌を驚かせるには十分だった。

 

「よーし。トーマも復活したし、久々に腹一杯食べたら……夜の店行くわよ!!」

 

「勝手に一人で行って下さい。僕はトーマさんと一緒に寝ますので」

 

()()()は寝ないけどな」

 

「何よ貴方達それでもタマついてんの!?プリン!貴方が来ればお店のオネーチャン達の喰い付きが違うのよ!!勇者命令です一緒に来なさいッ!」

 

「イヤーッ!!?やめてください!!!ちょっ、待っ、痛ッ!!!はな、放してくださいッ!!!」

 

「何よ貴方、嫌だ嫌だ言っておきながらしっかりココ()()してるじゃない!男なら溜まってるモン吐き出しちゃった方が楽よ!多分!」

 

「違ッ!?コレは別にっ……あッ!ヤダッ!!た、助けてトーマさぁんッ!!!」

 

 突如目の前で行われる乳繰り合いに頭痛がしてきた俺はため息を吐きながら、ぽりたんに『指差しの呪い』を掛けた。

 

「王様の依頼受けたその夜にセクキャバ行く勇者が居るか普通」

 

 おっさんみたいな趣味をしている女勇者から聖女(男)を引き剥がす。

 

「うぐぐ……此処で私が倒れても第二第三の勇者が現れ、必ずやキャバ嬢をお持ち帰りするだろう……」

 

「キャバ嬢言うな」

 

 腹を抱えて床に蹲るぽりたんに追撃の呪いを掛け、ぽりたんに宛てられた部屋へ投げ込む。悪は過ぎ去った。

 

「ありがとうございますトーマさん……お礼に僕のお尻を掘っ」

 

 指差しの呪いがプリンに当たり、床に蹲った所でプリンに宛がわれた部屋へ向けて蹴り飛ばしておく。

 そして俺は自分の部屋へ入り、しっかりと施錠してベッドに入る。

 どうして俺の仲間はこんなにもキャラが濃いのか。女勇者(おっさん)とホモ聖女(男)。矛盾塊か何かか?

 ……だが、まあ……悪くない。この一年で色々あり、妙な縁で繋がってしまったんだ。毒を食らわば皿まで……とは流石に言い過ぎか。だけど個性的な仲間と共に異世界を冒険するなんて、何とも痛快な話じゃないか。

 

 

 明日からは魔王討伐の度が始まる。それはきっと、今まで以上に辛い事や苦しい事が起きるかもしれない。だがそれでも、それらを乗り越えた先には計り知れない程の達成感がある筈だ。

 更なる冒険の旅を想像しながら……俺は眠りに着いた。





『彷徨 冬真』

 ファンタジー世界で冒険する事を夢見ていた少年は、ある日突然異世界へ放り出された。
 一切の常識が通用しない異世界を何とか生き延びていた彼は、いつの間にか特殊なスキルを持っていた。


『なぼり・ぽりたん』

 おとぎ話が好きだった少女は、ある日から天啓を得たかのように勇者の末裔を名乗り出した。
 幸か不幸か、剣と魔法を十全に扱う才能を持っていた少女はおとぎ話を実現させる為に強大な相手へ立ち向かっていった。


『カスタード・プリン』

 神の寵愛を受け続けた少年は、人ならざるモノへと変わってしまった。
 人間の一生分以上の時を生きた先で、少年は愛を知った。
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