ありきたりな異世界冒険譚の筈だった   作:百万回エタった猫

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飛行機の代わりに翼竜が空を飛ぶ世界で。


第一話

 俺は今、唖然とした表情を浮かべているだろう。

 何故なら外に出ようと玄関を開け放った瞬間、目の前に広がる光景は何処までも続く大草原だったのだから。

 

「……は……ぁ?」

 

 予想外すぎる光景を前に、ようやく絞り出した声がこれである。俺の驚き具合の10分の1でも察してくれれば嬉しい。

 まあそれはともかくとして。俺の住む家は都会という都会ではなくとも、田舎という田舎でも無い。駅へ向かって歩けば30分以内に着く程度の、良くも悪くも何もない辺鄙な所だった。

 

 少なくとも、こんなだだっ広い草原のど真ん中に住んでいるなんて事は無い。

 

「えぇ……」

 

 搾り出た二言目がこれである。俺の驚き具合の100分の1でも察して欲しい。

 其処に来てようやく俺は後ろを振り返るという事に思い至った。そう、玄関から出て来たのならば当然背後には家の玄関がある筈で―――

 

「無い」

 

 玄関どころか、さっきまで握っていた筈のドアノブだって無い。それはまるで、俺一人だけが突然何処かへテレポートしてしまったかのようで……。

 

「いやいや」

 

 頭の中の自分と会話するように、咄嗟に口から否定の言葉が出てくる。そんな非現実的な事が起こるわけ無いだろ……。

 

 そうして俺はしばらくの間、白昼夢を見ている気分で立ち尽くすのだった。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 テュポボスポン王国の首都プブロポから馬車に乗って八時間。そこから更に歩いて二時間。俺達はテュポボスポン王国一の高さを誇る山『ホイホイテュポ山』の麓町へ到着した。

 

「此処からぱぷろぽ峠まではホイホイテュポ山を越えていくのが一番の近道……なんですが」

 

「そのルートは現在封鎖されている、と」

 

「なんでよ?」

 

 俺達は麓町にある冒険者ギルド内の一角で、ギルドから借りた一帯の地図を広げながら会話する。

 

「ホイホイテュポ山に住むドラゴンが最近になって暴れだし、その影響で登山ルートは全て崩れてしまった……とのことです」

 

「山に住むドラゴンが暴れだした……ねぇ。それも魔王復活の影響かしら?」

 

 この世界の常識として、山に住むドラゴンは比較的温厚である、というものがある。もちろん例外はいくらでも居るが、大体はこの常識通り山に住むドラゴンは温厚であるらしい。

 それはホイホイテュポ山に住むドラゴンも例外ではなく、この麓町では昔から守護竜として信仰されていたとの事。つまり『勇者が悪竜を退治してオシマイ。めでたしめでたし。』で終わる話ではなく、むしろ退治しようものなら守護竜を信仰する者達によって闇討ちにあいかねない。

 

「つまり、そういうことならトーマの出番って訳ね」

 

「……対話で何とかなるモンだったら良いがな」

 

「大丈夫ですよトーマさん。最悪死んでも治せますので!」

 

「ありがとよ。そもそも俺が殺されないような立ち回りをしてくれ……」

 

 冒険は好きだ。危険に飛び込み、財宝をもぎ取る冒険譚が好きだ。秘境に立ち入り、前人未踏の地を荒らし回る冒険譚が好きだ。艱難辛苦を乗り越え、勧善懲悪を成す冒険譚が好きだ。

 だけどそれはそれ、これはこれである。特殊なスキルを持っているだけで、まだまだ中堅クラスのステータスしか持ってない奴をドラゴンの前に引きずり出すんじゃない。

 

「貴方のような中堅冒険者が居るか」

 

「トーマさんが中堅冒険者なら、この世の冒険者はほぼ全員新米冒険者ですね」

 

 解せぬ。冒険者登録を行ってからまだ一年だというのに、どうして俺からフレッシュさを取り上げたがるのか。何だかんだパーティで最も稼いでいるからかな。

 

「貴方のフレッシュさとかどうでも良いわ。それよりも山へ向かう準備と手段を整えるわよ」

 

「準備はともかく、どうやって山に入るかですね。『勇者一行ですけど』と言っても門前払いを受けましたし……」

 

「そりゃそうだろ……」

 

 言ってしまえばなんだが、ホイホイテュポ山の麓町は田舎だ。前の世界のように、テレビやスマートフォンで最新のニュースを……という訳にはいかない。大きな町なら魔法の力で頻繁に首都の最新情報を放送する事が出来るらしいが、流石に全ての集落にそんな魔法・魔道具を配備するのは難しい。

 ……その上、『勇者一行』ってパーティ名はこの世界において割とスタンダードだということだ。『勇者○○と愉快な仲間達』とか、『竜殺しの勇者○○率いる不死軍団』とか、『ホニヒカキラー』とかがパーティ名として跋扈する中、『勇者一行』のなんと慎ましやかな事。あほくさ。

 

「……まぁ、こういうのは一度町長あたりに話を聞くのが物語の王道(セオリー)って奴だ。案外、町長の頼み事を二三聞いてやればすんなり入山許可が出るかも知れねえな」

 

「そうねぇ。一度町長の所へ行くのが物語のありきたりな展開(セオリー)よね」

 

 今なんか若干悪意を感じるような音声が聞こえたが。

 

「とりあえず、いつまでも此処に居る訳にも行きませんし……ホイホイテュポ山を越えるのが近道とは言え、遠回りしていく道でも三日四日違う程度ですから最悪無視していけば良いですもんね」

 

「聖女にあるまじき発言」

 

「伊達に長く生きてないですよトーマさん。僕達で解決しそうになければ他の人に任せるのも手ですから」

 

「そーよトーマ。いくら私達が王様公認の『勇者一行』だからって出来る事と出来ない事があるのよ。無理そうならさっさと遠回りするのが賢いやり方ってモンよ」

 

「本音は?」

 

「こんなフーゾク一つ無いド田舎に長居したら私の○○○(ピー)に藻が生えるわ!!」

 

「地元の人敵に回す発言&ド下ネタ止めろ馬鹿!」

 

 大抵の冒険者ギルドには酒場が併設されてあり、一仕事終えた冒険者がどんちゃん騒ぎするのは珍しくない。そして此処、ホイホイテュポ山の麓町の冒険者ギルドも同じように酒場が併設されている。何だったら田舎故に酒場はここ一ヵ所しかない。

 まだ日が出ているとは言え、もう良い時間。冒険者に限らず、一仕事終えた農民や町民だって来てもおかしくない。……まあ、今は閑散としてるが。

 

「まあまあ、それよりもまだ明るいうちに町長さんの所に行きましょうよ。最悪遠回りしてもいいですが近道出来るのならそっちの方が良いですし」

 

「そうね。とっとと行って、ちゃっちゃと解決するに越した事は無いわ。ほら行くわよトーマ、交渉事は貴方の役目でしょ!」

 

 そういう事になった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「どうも。私が町長のポプピリポ・パピプペポです」

 

「なんて?」

 

 町で一番偉そうな場所(失礼)を目星につけて移動すれば、一発で町長宅を引き当てる事が出来た。

 町長宅だからさぞや豪勢な家構え……というわけもなく、そこらの民家に毛が生えた程度の木造二階建て建築。首都なら普通の民家と大差ない家から現れたのは緑色の髭をもっさり蓄えたおっさんだった。

 

「口にマリモついてますよ」

 

「髭です」

 

 ぽりたんも思わずツッコんでしまう程にマリモだった。居るんだよな時々……どうやって生活してるんだか想像できないナマモノが……。

 口もとが完全にマリモで隠れているおっさんに案内され、応接室(兼リビング)の固い椅子へ座る。ぽりたんだけ。

 狭い家だからね。いきなり来客三人来ても対応に困るよね。

 

 町長を名乗るパピプペポ氏に俺達が王国公認の『勇者一行』であること、魔王討伐の為にホイホイテュポ山を越えていきたいことを話した。

 

「なるほど……つまりカクカクシカジカ四角いムーヴという訳ですな」

 

「違いますけど」

 

 急にどうした。

 

「お話はわかりました。しかし私に出来る事はあまり無いようです」

 

「何とかなりませんか?」

 

「そう言われましても……登山道の復旧には早くてもひとつき程掛かりますし、なによりホイホイテュポドラゴンが何故暴れているのかも解っていない状況です。山に近づくのすら、我々一般人には困難なのです」

 

「問題ないわ!ウチにはそういうのパパッと解決してくれる奴が居るから!でもその為にはまずドラゴンに近づかなければいけないわ。とりあえず山に入る許可だけちょうだい」

 

「うーむ、しかしですなぁ……王国に認められたとはいえ、ドラゴンが暴れまわる山を登るのは自殺行為……」

 

「大丈夫よ!ドラゴンなんかにやられる程『勇者一行』は弱くないわ!それに、ドラゴンにやられるようじゃ魔王討伐なんて夢のまた夢。この勇者ぽりたんに任せなさい!」

 

 どや顔でこんなこと言っているがこの女、今回の件に関しては完全に他力本願である。おい町長、そんな感動したような目でぽりたんを見るな。そいつは女勇者という名の中身オッサンだぞ後悔するぞ。

 

「フゥン、そういうことでしたらコレをお持ち下さい」

 

「これは……?」

 

 パピプペポ氏は焼け焦げた鉄の首飾りと一枚の紙を渡してきた。

 

「その首飾りは代々『竜使』の者達が継いできたものです。本来であれば、その首飾りを着けている者はドラゴンに襲われない筈でしたが……」

 

「この焦げ……まさか、その『竜使』の人は、もう……」

 

 プリンが悲痛な声をあげながら首飾りを撫でる。

 見たところ、首飾りには魔法的な防護は掛かっていない。おそらく単なる目印程度だったのだろう。しかしその目印すら判別出来なくなってしまっている程に山のドラゴンは錯乱しているのか……。

 

「『暴れるドラゴンに会うとか絶対無理』と言いながら私に投げつけてきて……それ以降家から一切出てこずに引きこもりニートになってしまい」

 

「いや生きてるんかいィ!!!?」

 

 ツッコミしながら床に首飾りを叩きつけるプリン。気持ちはわかるが、それはただの鉄製品なんだからやめろ。

 

「紛らわしいんですよ!なんですかこの意味深な焦げは!僕はてっきりドラゴンに焼かれて死んだものと……!」

 

「ああ。その焦げは少し前に町の若者が魔道写映機片手に、『ドラゴン撮ってイイネ5000兆ゲットだああ』とか何とか言いながら山へ突撃していって魔道写映機と共に燃やされて帰ってきまして……」

 

「ただの馬鹿じゃん」

 

 ぽりたんの無慈悲なツッコミが入る。それで死んでいればダーウィン賞受賞待った無しだったな。

 というか魔道写映機って普通に超高額品なんですが。

 

「まあなんにせよ、この首飾りがあれば山の警備の者も通してくれるでしょう」

 

「はあ……なんにせよ分かりました。この勇者ぽりたんが、暴れるドラゴンを鎮めてみせましょう。……ところで、こっちの紙は?」

 

「おお、そうでした。折角山に登るのなら、ついでに採ってきて貰いたい物がありまして。自然薯をほんの20本程……」

 

「勇者にやらせる仕事じゃねぇぇぇッ!!!!」

 

「図々しいが過ぎる……」

 

 自然薯20本は普通に重労働なんですが。お使いクエストってそういう……。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 パピプペポ氏に『誰がやるかバーカ(意訳)』と伝え、さっさとホイホイテュポ山へ。

 途中、入山規制をしていた警備の人に鉄の首飾りを見せると、『コイツらもバカッターしに行くのか……』みたいな目で見られた。解せぬ。

 

 王国一の高さを誇る山なだけあり、山の中腹に至る前に完全に日が暮れてしまった。

 

「だから明日の朝イチから登山始めれば良かったってのに……」

 

「煩いわよトーマ!」

 

 この世界の住人は、前の世界と比べて非常に丈夫で頑強だ。子供でも、一人で富士山程度の山を一日で登りきる事が出来ると言えば想像できるだろうか?多少鍛えた大人が垂直跳びをすれば2m超は当たり前。ぽりたんに至っては100m走るのに2~3秒程度、しかも重装備のままときた。

 それもこれも魔法の存在あってこそなのだが、魔法の力を当たり前のように使うこの世界の住人にとってエベレスト以上の高さを誇る山を登山装備無しに登るなんてよくある話だった。

 

 だからと言って日没直前に山登りするような奴なんて普通は居ないのだが。

 

「あー煩い煩い!フーゾク一つ無いあの町が悪いのよ!」

 

「ちったぁ我慢しろよクソレズビースト」

 

 国に認められる程の実力と実績をもつ俺達『勇者一行』が王国の支援を受ける前は滅茶苦茶貧乏だったのは、ほぼ全て男子高校生よりも性欲旺盛なクソレズ勇者ぽりたんのせいである。

 稼いだ金はほぼ全て風俗に使い、マトモな装備どころか食料を買う金さえも残らない。俺とプリンが仲間に加わるまでどうやって生きてきたんだと疑問に思った事も数えきれない程だ。

 俺が『勇者一行』に加入する前は女のパーティメンバーが居たらしいが、毎晩の行為(ぽりたんは同意の上と言っていたが本当かどうか怪しいものだ)のせいで逃げ出してしまったようだ。

 

「おっぱい……おっぱい吸いたい……揉みしだきたい……」

 

「テメェの揉んでろ」

 

「自分の揉んでも楽しくないのよ!牛みたいなデカチチを真っ赤になるまで引っ張り倒したいし育ちかけチッパイを泣くまでさすさすしたいのよぉぉぉッ!!!!」

 

「まじて口閉じてくれねぇかな……」

 

 ワキワキと手を動かすぽりたんを無視し、夜営準備を終える。

 この世界の住人は非常に頑強だが、それでも死亡率は日本と比べ物にならないくらい高い。魔物・猛獣・怪物、そして同じ人間……街の中でもそこそこ危険だが、街の外に出れば更に多くの危険と隣り合わせだ。街の外に居る限りどれほど安全に力を入れようとも、完全な安心を得るのは無理と断言出来る。魔法の結界を張ろうとも、力ずくで破ってくるモンスターや結界破りの魔法を覚えている山賊も少なからず居る。

 臆病過ぎる程度じゃ足らない。『ありえない』すら想定して安全を造る。

 

「トーマさん、こちらの方は完了致しました」

 

「おう、こっちも今終わった」

 

 隕石の直撃すら弾いてみせる程の強固過ぎる結界を張り終え、漸く一息つく。

 隕石なんか降ってくるわけがない?此処は剣と魔法のファンタジー世界。隕石並みの超質量の生き物がいきなり降ってくる事がありえるんだぞ。ましてや此処はドラゴンの住処、むしろ()()()()()()()()()()()()

 

「おっぱい、おっぱい、おっぱい、おっぱい……」

 

 死んだような目でおっぱいを連呼しながら、(見た目だけは美少女の)プリンの胸を擦るぽりたん。これが勇者かと思うと、本当に涙が出てくる。

 プリンも慣れたのか、そんなぽりたんを受け入れている。死んだ目で。

 

「コレがぽりたんさんじゃなくてトーマさんだったら……」

 

 パーティメンバー達の性癖に問題がありすぎる。なんで俺こんなパーティに入ってんだ。

 精神の限界にきているぽりたんに、魔法を込めた右拳を叩き込む。

 

「催眠拳!」

 

「おっぱボッ!?」

 

 その綺麗な顔をぶっ飛ばし、寝袋にぶちこむ。魔法を込めた攻撃というのは中々に高等技術なのだが、悲しいことにコレをお見舞いする機会はモンスター相手よりぽりたん相手の方が多い。

 

「おふっ、ふひひ、うぇへへへへ」

 

 陸に打ち上げられた魚のようにビクンビクン跳ねながら気持ち悪い声をあげて夢の世界へ落ちたぽりたんに静音の魔法を掛ける。これで朝になるまで、俺達はぽりたんの気持ち悪い喘ぎ声に悩まされなくて済む。

 

「ようやく邪魔者が静まりましたねトーマさん……これからは僕とオトナな時間をーーー」

 

「催眠拳!」

 

「おっとそうはいきませんよ!まあこの後イくのはトーマさんでーーー」

 

「催眠脚!」

 

「ぶへぇーッ!?」

 

 フェイントの拳を引き戻し、本命の蹴りをプリンの顔面に叩き込む。なんで夜営する度に貞操の危機を感じなきゃいかんのだ。

 

「ンぉっ……♥️おほぅッ……♥️トーマさんッ……♥️そこはッ……あひぃッ……♥️ぐへへ♥️」

 

 ぽりたんと同じように気持ち悪い笑みを浮かべ眠るプリンを寝袋にぶちこみ、静音魔法と消臭魔法を掛ける。これで朝まで安心して眠れる……。一番の脅威が仲間って意味がわからん……。

 

 そうして漸く静かになった夜。夜空を見上げれば満天の星、だが見知った星座なんて見当たらない。すっかり変わってしまったのは星空だけでなく、それを眺める俺の眼も変わってしまった。

 遥か、遥か遠くの小さな、小さな星すら見ようと思えば望遠鏡無しに観察出来る魔眼。必要なことだったとはいえ、自分の身体が少しずつ変わっていくのは恐ろしい。恐ろしいが……ワクワクする。

 

 嗚呼、異世界。夢にまで見た空想的な現実の世界。

 明日はどんな不思議が待っているのだろうか。

 そんなことを想いながら、俺の意識は沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝目が覚めた俺のすぐ隣に、全身に鱗が生えた全裸の美女が寝ていた。




朝ちゅん!!!
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