春の日の昼下がり、私たち
娘は来年小学校に通う年齢で色々なものに興味津津な年頃だ。
頭の方向を忙しなくさせる娘の様子を横目で注意しつつ歩いている。
するとこちらの視線に気付いたのか顔をこちらに向けて笑顔で声を掛けてきた。
「ママ!」
娘はよく笑う子だ。
「なぁに?」
私はそう答えつつ歩みを止め腰を下ろして目線を合わせる。
「あのね、えっとね」と迷う様に言葉を続けながらも娘の瞳は真っ直ぐと私を捉えていることがわかる。
きっと、何をどう伝えるべきか考えているのだろう。
片親のせいで普通の家庭よりも苦労をかけてしまっているせいか、少々過度に気を使う子に育ってしまった感じがする。
その事が悲しくあり申し訳なく思う。
「今日はね! お鍋が食べたいの!」
すると思っていたよりも子供らしい元気な言葉が帰ってきた。
娘はお鍋が大好きだし私も好きだ。
そう言えば今日は少し肌寒い。
「じゃあ、今夜はお鍋にしようか」
「うん!」
うちは母子家庭で私自身に親も近しい親戚も居ない。
二年前まで歳の離れた兄が存命だったのだがとある事件に巻き込まれ逝去してしまった。
それからは母娘二人で生きてきたのだ。
「よーし! 木の子たっぷりの美味しいお鍋にしようね」
満遍の笑みを浮かべ「やったー!」と喜んでくれる娘を見ていると子供だった頃の自分自身が重なって見える。
私も兄に対して同じ様なやり取りを繰り返した記憶がある。
『今日は寒いから鍋にするでござるよー』
『やったぁ!ありがとうお兄ちゃん!』
少し特徴的な喋り方と口角を目一杯上げニカッと笑う兄との生活。
経済的に恵まれていたとは言えない幼少期だったと思う。
『面目ないでござる……クリスマスケーキちっさいのしかなかったでござるよ』
『ショートケーキ大好きだから嬉しい! 半分こにして食べよっ!』
机の上に置かれた一人分のショートケーキを前に申し訳なさそうにうなだれる兄。
毎日遅くまで働いていつ寝ているのかよくわからない様な兄が、クリスマスと誕生日はこうして祝ってくれている。
それだけで嬉しいのに不満に思うことなんてなかった。
寂しい時や落ち込んだ時には精一杯支えてくれたし、応援が欲しい時には背中を押してもくれたのだ。
私は充分満ち足りていたし幸せだった。
そんな事を考えていたら、両親が交通事故で他界し兄と二人きりになってしまったあの日の事を思い返していた。
「お父さんとお母さん死んじゃったの?」
父と母が事故に巻き込まれ二度と会えなくなってしまったその日、涙ながらにうったえる私の問いに、
「そうでござるなぁ」
煙突から上がる白い煙を見上げながらいつも通りの調子で返答する兄。
間が伸びた返答するその言葉に少し苛立ちを覚えたのを覚えている。
「もう! ふざけないでよ! しゃべり方、変……!」
大声を出したせいか感情に歯止めが効かなくなり涙が余計に止まらない。
別に兄が原因というわけじないことはわかっていた。
これは単なる私の八つ当たりだったのだと思う。
「むぅ……すまぬでござる」
罵声を浴びせる私に対して弱々しい言葉が返ってくる。
勢いにまかせ更に言い募ろうとした私だったのだが気付いた。
兄の手が少しだけ震えているのに気付いたのだ。
上を向けていたため兄の表情はわからない。
ただ黙って手を握ってくれていたことだけは覚えている。
生まれつき体が弱く小学校へまともに通えていなかった私と、恐らくどこにでもいそうな普通の兄。
そんな兄が変わってしまったのは高校へ進学してからだったと思う。
どうやら虐めにあっていたらしいのだ。
しばらくの間は耐えていたそうだが虐めが悪質なものになるに従い不登校となってしまったそうだ。
自分の部屋から出てこなくなってからは漫画やアニメ、ネトゲといったものに熱中していたようだった。
気づけば口調も変わってしまったが、そんな兄のことを私は嫌いではなかった。
息子が悲惨な目に遭わされて父は憤っていたし、その頃の母は毎晩泣いていた。
それでも兄に何かを強制することは無く心が落ち着くまでさせたい様にするといったスタンスで接していた。
とても理性的な両親だったと思う。
暫くすると兄は何もしていないことに不安を感じてきたのか、次第に家の仕事を積極的に手伝う様になった。
昔からよく遊んでくれていた兄だったが共働きだった両親に変わり、寝込み気味な私の面倒もよく見てくれるようになったのだ。
虐めに遭うと言ったことがどういう事かわかっていなかった私は、そのことを単純に喜んでしまっていた。
父と母が亡くなってから暫くして周りに頼れる大人が居なかった私達は……と言うか兄は高校を中退して働きだした。
今考えてもよく引き篭もりだった兄に外へ出て働くという決断が出来たものだと思う。
余談だけど、二人とも未成年であったため後見人らしき人も居たのだそうなのだが私は一度も会ったことがない。
兄が成人するまでの数年間がその人が出した後見人になる条件だったそうなのだが、私は一切面識を持つことはなかった。
それから数年がたった。
体の弱かった私は成長に伴い体力や免疫力が高まり、少しづつだけど学校へ通う事も出来るようになってきていた。
中学に進学した頃になると家事に関しては基本的に私の担当だった。
「お兄ちゃん」
その晩のおかずの最後の一品をテーブルに置きつつ兄へと声をかける。
その日は長年胸に秘めていたある提案をする決心をしていた。
「む、なんでござるか妹殿」
嫌な予感でもしたのか怪訝そうにこちらを伺う兄、少し緊張気味の様子である。
私としても真面目な話題なためか若干緊張していた。
「私、学校卒業したら働くから」
そろそろ進路を考えなければならない時期なのだ。
この時の私は少しでも早く兄の負担を減らしたい、そんな気持ちでいっぱいだった。
「うーむ」
少しホッとした表情をしつつ一旦手に持った箸を置き、顎に手を当てて考えてるそぶりをする。
そして結論が出たのかグーとパーの形をした両手をポンッ叩き答える。
「バイトするのはいいけど、高校は出ておくでござるよー」
ござる口調がすっかり定着した兄を見て「自分は高校中退したのに」とは言わないし言えっこない。
そんな事をすれば私は私を許せないだろう。
そうでなくとも兄は今まで散々私の為に自分の人生を消費してきたのだ。
働きたい理由もそんな兄の負担を少しでも減らしたい一心でのことなのだ。
だが聞けば公立高校ならば卒業迄問題ない程度の貯金があるのだそうだ。
望むなら大学へも行かせてくれるという。
「でも……」
果たしてそれは私のためだけに使って良いお金なのだろうか?
当然、その進学を進める提案には否定的な気持ちが高まった。
私が余程難しい顔をしていたからだろうか、兄は少し申し訳なさそうな表情で、
「これはさ、兄ちゃんのお願い! っていうか一生に一度の我が儘でござる」
そんな事を言って土下座までして懇願してくる。
「それは少しずるいなぁ……」
兄に聞こえぬよう口元で不満を言う。
基本的に兄が私に対して何か頼るような事は無い。
私にしても兄に対して我儘は言わないよう気をつけてはいたのだが、お願いはされるよりもする方である。
普段滅多にない出さない切り札を出されこちらの旗色は一気に悪くなる。
私が働くのは貴方のためでもあるのよ? と恩着せがましい言葉がむくむくと膨れ上がる。
だが周りに頼るべき大人が居ない状況であってもこれほど考えてくれる人がいて、私は充分幸せだなと感じるのだが……
やはり申し訳なくなってしまうのだ。
「……わかった。でも、少し考えさせて」
ありがとね――と最後に小さくそう返すと、口角を目一杯上げニカッと笑ういつもの笑顔があった。
高校二年の秋頃。
当時アルバイト先で知り合った大学生と関係を持った。
初めのうち私たちは上手くいっていた、と思う。
仕事中に体調を崩すことも多かった私をよく気にしてくれるとても優しい人だったし、真面目な人だと思っていた。
以前より恋に憧れも大きかったことも手伝って私自身大いに身浮かれてしまっていたけれど、
「えっ?できちゃったかもしれない? 参ったな……」
人間の内面と言うものは追い詰められ初めてわかるのかも知れない。
体調に大きな異変が起きたのは付き合い始めて半年過ぎた頃だった。
初めはいつもの不調かと思ったのだがそうではなかった。
もちろん不安にはなったがそれ以上に嬉しかったし絶対に産みたいと思った。
だが当時の私は学生だ。
ひとりで判断をするには足りないものだらけだった。
それに産みたいと思う気持ちは私の独りよがりかもしれない。
当然、相手の男性にも相談はしたけれど……
「お互いまだ学生でしょ? 子供とか結婚なんて考えられるわけないじゃん」
お前何言ってるんだ? とでも言いたげな言外から感じるプレッシャーにパニックになってしまい言葉が出ない。
「次出来たら絶対結婚するからさ。今回は諦めよう! ね?」
ヘラヘラ笑いながら、追い討ちをかけてくる。
「オレは気をつけていたしなぁ……他に男でも居たんじゃないの?」
期待した言葉でなかった事もあるが、そもそも真面目に考えてくれていない事が伝わってきてしまう。
そう思うと途端に黒い感情が胸中に広がり相手をキッと睨みつけてしまう。
「はは、ちょっと落ち着けって……」
その後この人は連絡もなくアルバイトを辞めた。
住んでいたアパートも引き払ってしまい音信不通となってしまったのだ。
もっと時間をかけて理解を深め合えば幸せな結末を迎えられただろうか?
それとも、初めから都合の良い女とでも思われていたのか?
浮かれていた私にも原因の一旦があったのだろう。
ただ今でもはっきりと言える事がある。
平気な顔をして命を諦めろと言う人とは家族になる事なんてあり得ない。
そしてあの軽薄な態度と一言も無く逃げたことは絶対に許せない。
渦巻く状況が激しく心を掻き乱した。
この事が引き金となったのか私は体調を大きく崩してしまった。
このままではお腹の子が危ないかもしれない。
追い討ちをかけるように不安が胸を締めつけけた。
動ける内に急いで病院へ行って検査を受けたところ、妊娠8週目である事とお腹の子は『かろうじて』無事であると告げられた。
私はこれまで父や母、そして兄に命と日常を守られてきた。
きっと気づかない所でも沢山の人達に守られてきたのだろう。
そんな私がこの小さく弱々しい命を簡単に諦めていいわけがない。
この子の味方は私しかいないのだから。
絶対に守る、そう強く決心したのだった。
例え兄に反対されたとしても一人で産んで育てる決心はしていた。
していたのだが、その強い決心と比例して兄から幻滅されることが怖かった。
私の事はどう思われてもしかたがない。
だがお腹に宿る子を否定される事がとても怖かったのである。
けれどその心配は杞憂だった。
これまでの事を相談したところ、
「心配するなでござるよ!」
ニカッとしたいつもの笑顔を見せ、あっさりと受け入れてくれたからだ。
その時私は感情が溢れてしまい声を上げて泣いてしまった。
涙が止められなかった。
何を言われても決して泣かないそう思っていたのに。
結局の所、兄と学校の先生達の協力もあり高校は休学する事になった。
程なくして無事娘を出産した。
甘く考えているつもりはなかったのだが子育ては正しく戦いだった。
特に夜泣きに精神を削られたものだが、初めて発した言葉が「マァマ」だった時は無限に頑張れる気がしたのを覚えている。
相変わらず生活に余裕はなかったが、私が仕事に出られる様になれば多少は改善されると思っていた。
それに兄には兄の人生があるのだ、いつまでも甘えてはいられない。
気持ちを新たにしつつ忙しくも穏やかな日々を過ごしていたのだが悲劇は唐突に訪れる。
近隣の繁華街で殺人事件が起こりそれに兄が巻き込まれたのだ。
連絡を受け、急いで病院へ向かう。
この時の私は「悪い冗談に決まっている。あの兄が死ぬはずがない」そう思っていた。
しかし私の願いは打ち破られる。
病室に入るとそこには白い布をかけられ冷たくなった兄がいたからだ。
「なん……で?」
聞けば犯人に襲われそうになった子供を庇って刺されたのだという。
兄が……兄が死ぬわけない! その認識が間違っていると理解したとき世界が暗転したような感覚がした。
犯人は依然逃亡中との事だったのだがそんな事はどうでも良かった。
私には……
私に、
わた、ワ撾、タシは、
waタ蚩si.`死死死ァ瘂鼃……箛櫚鋤死死死死ァア死アァ⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎!!
「……! マ……! ねぇママ! 聞いてるの?」
「えっ? あっ、どうしたの?」
私は今、何を考えていた……?
「ちゃんと前を向いて! 前を向いて歩かないと危ないんだよ?」
ほっぺを膨らませて腰に手を当てわたし怒ってます! とアピールする娘を見る。
どうやら娘の声で現実に引き戻されたようだ。
少しだけ早くなっている鼓動を感じ、それを落ち着かせるよう自身の胸に手をあて深呼吸をする。
(スゥ……ハァ……スゥ……うん、落ち着いた……)
心配をかけないよう努めて明るく聞こえるよう言葉を返す。
「ふふ、ありがとうね」
娘の目線の高さまで屈み、お礼の意味を込めて頭をなでる。
すると気持ち良さそうに目を細めて撫でる手に頭を擦り付けてきた。
事件から数年が経ち私も成人した。
兄のことについては正直心の整理はついていない。
稀にではあるが、今の様に心を乱してしまったりもする。
だけど子供を庇って刺されるなんて何とも『兄らしい』少しはそう思えるようになってきたのだ。
今日は日差しが暖かい。
「お買い物の前にちょっとだけお散歩しよっか」
「はーい!」
娘の了解をとり商店街へ向かう道を少し外れてみることにする。
緩やかな傾斜を登ると小さな公園に着いた。
休日は親子連れで賑わうのだけど平日の今日は閑散としている。
ここで娘の好きなブランコで遊ぼう、そう思い遊具エリアへと向かってみたのだが生憎先客が居たようだ。
そこには一人の少女が居た。
物憂げな様子で何かを考えている様だった。
(不思議……)
明るいはずの公園の一角が、少女の居るその場だけより一層輝いて見える。
年頃は十四、五歳程だろうか。
腰ほどまで伸びた濡羽色をした艶やかな黒髪、涼しげな目元に緩く弧を描く桜色の唇。
テレビや雑誌でも見たことがないような絶世の美少女だった。
勿論その少女とは面識がないのだがどうにも目が離せない。
不意に少女の顔がこちらは向くと物憂げな表情から一転、口角を目一杯上げ笑うその表情に思わず、
「え?」
――お兄ちゃん?
そう声を上げようとしたその瞬間、
「あっ!」「わぁ!」
突如発生した突風で散り際だった桜の花が一斉に舞い上がった。
唐突に私達の視界を白桜色が埋め尽くす。
「すごいすごい! お花いっぱいだよ!」
はしゃぐ娘が転ばぬようその小さな体を支える。
空いた手で額に傘を作り視界を確保しようとしたけれど、花の乱舞が収まるころには既に少女の姿はなかった。
幻覚でも見たのかと思い、傍にいる娘に聞いてみる。
「そこに綺麗なお姉ちゃん居たよね?」
「んー? 見てないよー?」
ブランコを指差し問いかけてみたのだが、この子は見ていないらしい。
現実離れした美しさは幻でしかなかったのかも知れない。
けれど、
(もっとゆっくりしてけばいいのに)
もしかすると兄が姿を変えて会いに来てくれたのかも知れない。
そう思うと心が暖かい気持で満たされるのだ。
無軌道に吹く風に煽られ顔にかかった長い髪を無造作にかき上げる。そして背中に流れる冷や汗を誤魔化すようにゴリゴリと頭を掻く。
「今この世界から途方も無いものが失われた気がするでござる」
『……貴女のその推測は
呆れた調子の声が脳内で響く。
『ですがこの程度で済んで運が良かった。そう思って欲しいものですね』
先程の一人、という言葉には語弊があったかも知れない。
実は俺の頭の中には別人格を有する同居人が居るのだ。
「はいはい、ありがとうでござるよー」
君は技能担当で、こっちは馬力担当だろー? とは言わない。
俺は若干不貞腐れたようにその場に座り込み胡座をかく。
そして宙に出現させた赤い糸で輪っかを作り、その中を覗く。
すると愛しの妹に見守られながら、楽しそうに遊ぶ天使な姪っ子の様子がバッチリ見えた。
「ふおおおおおおおおおおお!」
『……デバガメですか。気持ち悪いですね』
「ほっとけでござる」
人聞きの悪い。これは権能を利用した崇高なる事象の観測である。
美しい
この世界で生きていた時は、望遠鏡でも無ければ数キロ離れた場所を覗き見るなんて真似は出来ない普通の人間だった。
そう、俺は以前この世界で普通のサラリーマンとして生きていた享年28歳のナイスガイだ。
彼女? ふっ、仕事が恋人だったよ。
それがまぁ休日ブラブラしてたら包丁を持ったイカレ野郎に刺されて殺された。
そこで人生終わったと思いきや、記憶を保ったまま別の世界へと転生したのだ。
超絶美少女の姿で。いや、本当色々あったんだよ……
変な言い方だが俺はある意味真っ当に死んだ。
そしてその魂は輪廻の輪へと還る筈だった。
だがその途中、神を名乗る存在から「条件をのめば、もう一度家族に会える」という交渉を持ちかけられたのだ。
そしてその条件は『異世界で神の巫女として人々を助け導く』といったとても胡散臭くてフワッとした感じのものだった。
本当に胡散臭いとは思ったのだ。
だが突然過ぎる家族との別れのショックで正常に判断できなかったからか、俺はその話に飛びついてしまった。
よく話も聞かずに。
巫女と言えば女だよな。うん。
巫女の力を授かった俺は体が女に変化した。さよなら……愚息よ!!(血涙)
そして現世への帰還の鍵となる権能を授かった。
その授かった権能の名は、
『運命の赤い糸』
これは言葉から想像出来るようなロマンティクなものではなく神の、と言うより邪神の血管で出来た血肉の呪いそのもの。
縁で繋がる人間に
ちなみに前世からの癖であるござる口調は能力を高める為の供物の一つなのだ。
我が神、全てを漆黒に彩るまさしく闇そのものが『美少女巫女ちゃんがござる口調とかまじウケるんですけどwww』といったニュアンスの思念を送ってくるのだ。
いや、飽くまでニュアンスであって実際そう言われた訳ではないが、ござる口調で喋っていると喜ぶ気配が伝わってくるし力も高まるのだ。
些か納得いかない部分ではあるが、そもそも口調を直す気がなかったので気にするだけ無駄である。
まぁ、そんなこんなで異世界での布教活動や救済活動しながらこの物騒な能力を強化しまくった。
そして満を辞して日本へと戻ってこれたのだ。
「それで同居人殿、代償の影響は大丈夫なんでござるか?」
愛しの妹と天使な姪っ子の御姿を心のファインダーへ焼き付ける作業の傍らで、頭の中の同居人に問いかける。
『無事、代償発動の軌道修正に成功しました。消滅寸前の中性子星を一つ飲み込む程度で済みましたよ』
ん?
「へー、ソレハヨカッタデゴザルネ?」
転生して異世界人となった俺がこの現代で行動を起こすと、何かしらの影響やら代償が必要になる様なのだ。
今回の場合、前世で強い執着のあった妹と相互に視認したことで星一つ犠牲にしたらしい。
俺がこの世界で以前のように過ごしたとしたら一体どうなってしまうのだろう?
何らかしら代償が発生する事に関しては説明無しでも気付いてはいたし、以前より頭の同居人から忠告を受けていた。
だがここまでヤバいものとは思わなかった。
まぁどんな代償があろうと一度戻ることは決定していたんだけどね。
何があっても同居人が何とかしてくれると思っていたし、どうしても二人に会いたかったかのもある。
そしてこれから言うことが一番の理由であり問題だった。
俺の持つ権能『運命の赤い糸』大先生が少々問題を起こしてくれたのである。
以前異世界でちょっとピンチになった時、この能力を極限にまで一気に高めて解放したことによって前世の縁を辿って能力が暴走してしまったのだ。
荒れ狂う
このままでは拙いと思った俺は咄嗟に願った『誰よりも強く幸せになって欲しい』と。
だがコントロール不能になった
その
これが発動すれば必ず妹を不幸にする、そのことだけは直感的に理解できた。
だが幸いにも送り込んだ
そう言った事情があったからこそ必死こいてこの世界へ舞い戻ってきたのである。
そして先程、妹へ付与されてしまった
元々自身の権能から派生した力であることもあり、ほぼ代償無く散らすことが出来たのだ。
勿論、同居人大明神様の卓越した権能コントロールのお陰である。
では何故この度星が一つ消滅してしまったのか?
それは先程近くで二人を見ようとして俺がうっかり自身の隠蔽を解いてしまった時のことだ。
妹と目が合った瞬間、バッチリ代償を発動させてしまったのだった。
本当はもっとエゲツない事態になっていたのだろう。
それを誰にも迷惑のかからない消滅寸前の星一つで済んだのだ、はっきり言って頭が上がらない。
『だったら普段からもう少し慎重に行動を……』
「あー、あー、あー、聞こえぬでござる聞こえぬでござる」
久しぶりの里帰りなのだ。説教じみた小言はノーサンキューである。
でもまぁ嬉しい誤算もあった。
妹への縁を経由して姪っ子にも
母親の方へ流れた
この
もしかするとこの
何か一つでも歯車が噛み合わなければ、今頃どうなっていたかわからない。
「『静寂なる
『問題ありませんよ』
姪っ子の
「二人とも元気そうでほんとに良かったでござる……」
もっと長生きして一緒にいたかった気持ちは勿論ある。
だがひとまず現世での心残りは消化出来た、か……?
いやいやいや重要な要件が残ってるじゃないか。
「クックック……お楽しみはこれからでござったなぁ?」
俺は邪悪に歪む己の顔を自覚しつつ、空間に溶け込む様にその場を後にしたのだった。
その日の深夜。
俺は妹から伸びる縁を辿ってとある男の住むマンションへと侵入していた。
そしてその男が眠る寝室へ侵入し、枕元で腕を組み仁王立ちで男を
「ケッ!」
幸せそうに眠る間抜けヅラを見てついつい悪態をついてしまう。無駄にイケメンなのが余計腹立たしい。
この男は妹に子供が出来たからと何の責任も果たさず黙って逃げたクズである。
「クックックッ……どんな報いを受けさせてやろうかでござる」
俺は今、自身の存在を徹底的に隠蔽している。
たとえ男が目を覚したところで認識される心配はないだろうし、イレギュラーがあったとしても相方が何とかしてくれる。
起きてしまってもかまわない、そのくらいの気持ちで間抜けヅラを踏みつける。
「う、うーん……」
わーっはっはっ、いい気味だ!
「……ンべロッ」
「ギャーーーーーー!!!」
急いで後ろへ飛び退る。
このクズ足舐めてきやがった!
思わず叫んでしまったが厳重に消音結界も張ってあるので声は漏れていないはず。
少々焦ったもののクズは変わらず眠っているようだ。
寝ながらにして精神的苦痛を与えてくるとはなぁ!
まぁ、意識外での接触には問題はないことはわかった。
それに前世のゴツい足なら兎も角、今の俺はちょっと見たことないレベルの美少女なのだ。直接の接触は軽率だったかもしれない。
そう考えた俺はこのクズにお似合いの
「お前には『昏き洞穴に広がりし
『運命の赤い糸』
男に向けた右腕から赤く細長いものが伸びて行く。糸の様に見えるそれは邪神の血管で呪いの血肉。
やがて肉の穂先の先端を男の肌に接触させ、なんの抵抗もなく内部へと侵入する。
ちなみにこの『昏き洞穴に広がりし
覚醒当初こそ能力を暴走させてしまう俺だったが、今ではイメージ通り自由自在である。権能行使による世界への代償もない。
クヒヒッ、せいぜい苦しめ。そして(社会的に)死ねぇ!
『小物感が半端ないですね』
「ほっとくでござる」
呆れた様子で語りかけてくる同居人の言葉に俺は思わず真顔になってしまう。
愉快な気分に水を差すのはやめて頂きたい。
この男がいなければ姪っ子はこの世に存在しなかったとは言え、まだまだ天罰が足りない感はある。
そう思った俺は男の顔にマジックで適当な落書きをして、ひとしきり爆笑した。
更に何故か異性に嫌われたり、お金が貯まらないといった小さな
そして帰りがけ便所のトイレットペーパーにハラペーニョを擦り込んでその場を後にしたのだった。
スッキリとした俺は公園に戻り赤い糸を使って妹と姪の寝室を盗さゲフンゲフンッ! 観測をしていた。
ふむ、穏やかに眠っているようだ。
その寝顔を心の網膜へと焼き付ける。
「さてと、そろそろ戻るでござるかね」
非常に名残惜しい……だが来ようと思えばいつでも来れるのだ。
『あの方達もお待ちでしょうからね』
「そうでござるなー」
そう、異世界には俺を待っている人々がいる。
そして我が神の布教がてら、人々を守り導かねばならない。
はっきり言って俺が人を導くなんて器でない事はわかっている。
だが偽善だろうが単に都合よく利用されようが、死んだあとに振り返って後悔のない人生なら最高じゃないか。
死は終わりではなく魂に刻まれた意志は続いていく事もあるのだと、
今は頼もしい
『また大切なものを残して早死にしそうですね』
「辛辣な物言いが癖になってしまいそうでござる」
前世の未練は解消出来たのだ。
今世も何とかなるだろう。
「この世界に戻ってきた時は同居人殿に門を開いて貰ったでござるが、帰りは
『あっ、ちょっと!』
珍しく同居人が焦った様子で何かを伝えようとしてくるが、俺は気にせず夜の空に向け片手を上げ帰還のための門を作り出す。
コツみたいなものはこっちに来た時に一度見たので掴んでいる。
一呼吸で見える範囲の空一杯に、幾層にも折り重なった立体的な魔法陣を描き出す。
それは夜の闇に流れる巨大な川の様にうねり弾けを繰り返し、やがて収束し荘厳な門へと形を変える。
そしてその門は今世の縁を繋げて異世界への道を指し示す。
よし、成功だ。
少々得意になりつつ帰還の意志を高めていると、
『オォオォオォオォオォオォオォオォオォオォオォオォ!!!!』
門の奥から何千何万という雄叫びが轟いた。
きっと門の先には沢山の人々が俺の帰還を待っているのだろう。
雄叫びに魔力が乗っているのか世界の壁を超えてもの凄い衝撃圧が飛んでくる。
念のため結界を張ってあったので音と衝撃が地上に届く事はない。
視覚情報もイジってあるのでオカルトニュースとかにもならないだろう。
「さて、帰るでござるよ!」
『全く、貴女という人は……』
その日、有史以来あり得ない数の流れ星が観測され話題となった。
その原因が、注意力の足りない神の信徒による傍迷惑な能力の代償である事は余り知られていない。
なろうで投稿した小説を少し整えて投稿してみました。
最後までお読みくださり有難う御座います!