「見事BCクラシックを制しました
ファミーユリアンさんにお越しいただきました。
おめでとうございます!」
「ありがとうございます」
レース確定後、日本向けの勝利インタビューを受ける。
凱旋門賞の直後はあんなだったから、
急遽キャンセルになっちゃったからね。
今回もすんなりとは行ってないけど、受けなくちゃと思ってさ。
「大変お疲れであるところを応じていただき、
まことに申し訳ございません。体調はいかがでしょうか?」
「ええ、はい、いつにも増して疲れはしましたけど、
まあ大丈夫です。ご心配をおかけしました」
定番の祝福する言葉の後、二言目には心配させてしまってすいません。
凱旋門賞後のことがあるからなんだろうな。
こう言うと、インタビュアーの人は、ホッとした様子で頷いてくれた。
実際、今は呼吸は落ち着いてるんで、問題はないと思う。
しかしまあ汗が止まらない。
今も服の袖で、何度も拭いながらのインタビューになっている。
「ではレースを振り返っていただきたいのですが──」
そのあとも、型通りのやり取りを済ませ、
勝利インタビューは無事に終了。
「じゃあリアンちゃん、医務室に行くわよ」
「わかりました」
ライブまでは時間が空くので、その間を利用して、
医務室に行って診てもらうことに。
大丈夫だと思うんだけどなあ。
でもスーちゃんが言うように何かあってからでは遅いし、
以前にはなかったことが起きているのもまた事実。
念のために診てもらうというのも、いいのかもしれない。
大量に汗をかいてしまったので、
スポーツドリンクで水分を補給してから、医務室へ向かう。
「………」
その道中で、シリウスのヤツが腕組みしながら何か言いたげに、
こちらを見つめているのを発見した。
あー、また心配かけちゃったかなあ。
あとでメールするのは当然として、
とりあえず勝ったぞという報告はしておくか。
『b』
サムズアップして見せて気持ちを送る。
すると……
『b』
なんと、あいつも同じようにして応えてくれた。
それも、悪ガキみたいな笑みを浮かべて、だ。
いつになくデレてくれるじゃないの。
とか思っていたら、即座に踵を返していってしまった。
相変わらずのツンデレだのう。
まあいいや。反応してくれただけで儲けものだ。
あ、そうだ。貸してもらったテープ状のやつ、
返さなきゃいけないんだけど、どうしよう?
まあいいか。また会う機会もあるだろう。
そうしてほっこりした気持ちになりつつ、
医務室に入ったところ……
「……よおリアン」
「あ」
先客がいた。
「サンデー……」
「セレン、だ。同じことを何度も言わせるな」
「ごめん」
「……ふん」
サンデーセレニティその人。
彼女は椅子に座った状態で、応急処置を受けているところだった。
痛みがあるのか、眉間にしわを寄せながら
左足首をアイシングしている状態。
確か故障したのは左足だったよな。
これって……
「ああ、そうだよ」
俺の表情から察したのか、
サンデーのやつは、諦めたかのような声で肯定した。
そして自虐するように笑う。
「無様なもんだ。意気がって出走したのはいいものの、
いくらも走らないうちに競走中止とはな」
「中止……」
競走中止……
スーちゃんの顔を窺うと、静かに首肯して見せる彼女。
そうだったのか。
自分のことで精いっぱいで、全然気づいてなかった。
やっぱり治り切ってはいなかったんだな。
早々に競走中止したってことは、走れるような状態でもなかったと。
無理しやがって。
「笑いたきゃ笑うがいいさ」
「笑わないよ」
なおも自嘲するサンデーに対し、俺は首を振る。
「私との約束があったから、
自分の身体も顧みずに走ってくれたってことでしょ?
感謝しこそすれ、間違っても笑ったりなんてしないよ」
「……お優しいことで」
そう言うと、自嘲の笑みが苦笑に変わった。
しかし気持ちは伝わったようで、棘が抜けていって、
お互いに微笑み合う。
「勝ったそうだな。祝福が遅れた。おめでとう」
「ありがとう」
そして、サンデーからお祝いされた。
根は素直なやつなんだよ。
その前の態度や言動で、大いに誤解されているようだけど。
「それより、おまえまでどうして医務室に?
まさか怪我したのか!? っ……」
「ああいや、怪我はしてないよ。
ちょっと体調がおかしかったから、念のためにね」
「そうか……」
俺が医務室に来たことについて、
邪推して思わず立ち上がりかけ、痛みに顔をしかめるサンデー。
何やってんだよおまえは。
心配してくれるのはいいけど、まずは自分の身体だろ。
「では診ましょう」
「お願いします」
ここで先生が登場して、ゴール直後の状況を説明し、診察してもらう。
脈を測り、血圧を診て、いくつかの問診を行う。
結果、発汗の多さと脈の増加、血圧の上昇は見られるものの、
レ-ス直後だということを考えれば、さほどの異常ではないとのこと。
他に特になければ、普段通りで構わないとの診断だった。
よかった、安心したぜ。
実は、内心ではドキドキしてたんだぜ。
はっ、まさか、脈や血圧が上がってるのはそれのせいだったり?
「悪くはないようで良かったけど、帰国したら、
真っ先に研究所に行って、徹底的に検査してもらいましょう」
とりあえずはスーちゃんも安心した様子だけど、
こんなことを言い出した。
まあ確かに、日本を離れて久しいことだし、身体のメンテを兼ねて、
1度、隅から隅まで調べてもらうのもありかもしれない。
でも、帰国、か。
……終わったんだな、海外遠征。
結果的には大成功で終わった。終えることができた。
いろいろ大変なこともあったけど、
今にして思えば、どれも良い思い出、ってところかな。
こうなると早く帰って、早くみんなの顔を見たいところだ。
どんな反応を示してくれるだろうか?
「何事もなかったようで何よりだ」
「うん、ありがと」
診察を終えたところで、サンデーがそう声をかけてきた。
こいつの治療も終わったところのようだ。
「セレンはどうなの?」
「ここではここまでだ。あとは病院だってよ」
「そう」
まあそうだよな。
応急処置はできるけど、本格的には、
ちゃんとした病院に行かないとってところだろう。
「まあこれで引退だろうな。
怪我もそうだし、綺麗さっぱり諦めがついた」
「そう……」
元の怪我の時点で引退勧告されてたようだし、
妥当といえば妥当な判断と言える。
能力的には、もっと勝てそうなだけに惜しいのう。
ゴアもそうだったけど、強いということはそれだけ負荷もかかるということ。
そっくりそのまま、俺自身にも返ってくることだが。
「よし、決めたぞ」
「……?」
そう言って、何かを決心した様子のサンデー。
……嫌な予感がするんですが?
「脚が治ったら、俺様も日本に行くぞ!」
「はい?」
え、マジで?
そりゃあ、現実では引退後に日本に来て、
不世出のスーパーサイアーになるわけだが……
「もちろんリアンのこともそうだが、何より、
おまえという存在を生んだ国に興味がある。
いや、俄然興味が出てきた!」
「そ、そう」
はあ? そういう解釈というか、そう思っちゃうの?
国に興味? まあ日本に興味を持ってくれるのは、
うれしいっちゃあうれしいわけだけど……
正直、ピンと来ないというかなんというか。
こういう形で修正力が働くんですか、そうですか。
「そのときは歓迎してくれるよな!?」
「あ、ああうん、もちろん」
「あんがとよ。絶対行くから待っててくれ!
そうだ、ベフィのやつも連れて行ってやろう!」
ゴアまで巻き込むんか。
おいURA。
トニーやムーンと同じく、世界的スーパースターを
囲い込む大チャンスだぜ。それも2人同時に。
……勘弁してくれ。
『こちら成田空港到着ロビーです』
テレビの中継で映し出される成田空港。
『ご覧ください。早くも集まったファンの方たちが、
それぞれ歓迎の思いを胸に、
世界を制した“英雄”の到着を今か今かと待ち構えております』
何重にもなっている人垣。
彼らの手には、歓迎やありがとうといった、
感謝が示されたボードが握られている。
それもそのはず。
今日これから、ドバイ、凱旋門賞、BCの世界三大レースと言っても
過言ではないレースを制した『英雄』、それも同一年にすべて制覇という、
史上類を見ないまさに世界チャンピオンが、まもなく帰国するのだ。
人々の熱狂ぶりは、この局だけではなく、
テレビ各局がこぞって中継を行なっている状況からしても、
よくわかるところであった。
映像が、着陸態勢に入っている、1機の航空機に切り替わった。
『おお、あれに乗っているわけですか!』
『早く姿が見たいですね!』
『まもなく到着する様子です』
それだけで大騒ぎするスタジオ。
ミーハー的要素満載の日本的光景が、今まさに繰り広げられていた。
入国審査を終えて、ロビーに向かう。
さあ8か月ぶりの日本だ。
ファーストクラスのフラットシートで爆睡したおかげで、
気分はスッキリ爽快。
メイクもスーちゃんにしてもらって準備バッチリだぜぇ。
……あ、ごめん、ウソ。
さすがに疲れてて身体がクソ重いけど、
絶対テレビとかで中継されているだろうから、
そういうのは顔に出さないようにしないといけない。
よし、覚悟完了。
いざ参る!
『うわああああああああああっ!!!』
!!!
ロビーに出た瞬間、轟いてきた大歓声に度肝を抜かれた。
「うおおおおおおおおおめでとぉ~っ!」
「ありがと~リアンちゃん~っ!」
「感動じだ~あ゛あ゛あ゛あ゛!!!
おお……おおっ……!
ファンの人たちの声がダイレクトに……
歓声だけじゃなくて、拍手まで起きておる……
レース場とは段違いに距離が近い分、大きく聞こえる。
それに屋内の空間だから、幾重にも反復して聞こえて……
うおおお、いつもの横断幕も持ってくれてるのが見える。
あれはファンクラブの一団か。
それ以外にも、あんなに大勢の人、人、人。
これは大感動、大感激だっ!
大きく頭を下げてから、手を振ってみせる。
そしたら……
『リ・ア・ンっ! リ・ア・ンっ!』
こんなところでリアンコールの大合唱が始まってしまった。
いつまでも聞いていたい衝動に駆られて、動けなくなってしまう。
結局、業を煮やした空港の職員の人に促されるまで、
しばらくその場に立ち尽くして、
久しぶりに聞くリアンコールを大いに堪能することになった。
「それでは、ファミーユリアン帰国会見を始めます」
その足で、空港内に設けられた会見場に向かい、記者会見を行う。
隣にはもちろんスーちゃんも座っているよ。
会場に入るなり、フラッシュの嵐でさ。
歓迎してくれるのはいいんだけどね。何度も言うようだが、
こればっかりは、何度やっても慣れないよなあ。
「まずはファミーユリアンより、一言申し上げます。
ファミーユリアンさん、よろしくお願いいたします」
司会者から促されて、マイクを渡される。
さて、第一声はどうするべきかね。
「えー、みなさん、こうして無事に帰ってこられましたことを
報告できることになりまして、大変喜ばしく思っております。
私としましても、最高と言ってもいい結果を残すことができまして、
満足するのと共に、今はホッとしています。
数々のご支援ご声援、ありがとうございました」
そこまで一気に言って、頭を下げる。
頭を上げるついでに司会者を見て、進行を促した。
「では代表質問に移ります。
幹事社の〇〇、○○さん、お願いします」
「○○です。代表して質問をさせていただきます。
ご覧のように、たくさんのファンが詰めかけていましたが、
どう思われましたでしょうか?」
「凄く驚きました」
続けて代表質問へ。
少しは待ってくれてる人がいるかなって期待したけど、
あんなに集まってるとは思わなかったよ。
「改めて、それだけ応援していただけたんだと実感できまして、
うれしかったです。感謝の言葉もありません」
「遠征中に1番嬉しかったこと、また、
1番つらかったことは何でしょうか?」
「うれしかったことは、それはもう、世界の大レースで勝てたことです。
それもひとつだけではなくて、ふたつみっつと、
勝利を積み重ねられたことが何よりだと思ってます」
単発にならなかったことが1番かな。
ドバイだけ、キングジョージだけとかで終わらなくてよかった。
もちろん、ひとつ勝てるだけでも十二分に大きなことなんだけどね。
「つらかったのは……やっぱりフォワ賞での敗戦ですかね。
負けたこともそうですし、雨の中で、すごく寒かったのを覚えてます」
アレは本当にきつかった。
特に、体調崩すんじゃないかってヒヤヒヤしたしな。
「ドバイWC、コロネーションカップ、キングジョージ、
凱旋門賞、BCと、文字通りの世界に名だたる大レースを
勝利なされたわけですが、ご自身の中で、
1番大きな勝利だと思われているのは、なんでしょうか?」
「単純には比較できませんし、どれもうれしかったのは、
先に申し上げた通りですが……
やはり凱旋門賞が格別でしょうか」
「世界一の伝統と格式を誇るレースですものね」
「それもありますし……何より、
戦友の想いに応えられたというのが大きいですね」
「と、仰られますと?」
「ええと……」
どうしようかな……
詳しく言っちゃうと、シリウスのヤツが怒りそうだしなあ。
それは俺たちの間だけで秘めておきたい気持ちもある。
加えてルドルフやスーちゃんの想いもあるしさ。
「これまで一緒に走ってきた数々の子たちからも、
様々な想いを託されて走ったんだと思っていますので、
そういう意味で、ということですね」
よし、上手くごまかせたぞ。
こう言えば特に問題はなかろう。
シリウスのヤツには改めて、
また別の機会に感謝を伝えるとしよう。
「凱旋門賞以外で、印象に残っているレースはありますか?」
「うーん、キングジョージですかね」
アレはマジでやばかった。
事前情報がなかったら負けてたね。
「刻々と変化するレースの中で、上手く状況に対応して、
上手く勝てたと思います。それと、トニーとムーン、
トニービンさんとムーンマッドネスさんから頂いたアドバイスが、
非常に的確だったことも付け加えておきます。
2人には大変感謝しています」
「具体的に、どのようなアドバイスを?」
「ええと、あちらでは位置取り争いが激しいから、
万が一のことも考えておけと、そういった類のことです」
凄くマイルドにぼかして言ったけど、
まあ伝わるだろうなあ。しょうがないか。
他に言いようがないもん。
俺も思うところがないではないが、終わったことだし、
結果的には勝てたんだから良しとしよう。
「スピードシンボリトレーナーにお伺いします」
「どうぞ」
質問がスーちゃんにも飛ぶ。
「遠征の最中、1番気を付けたことは何でしょうか?」
「もちろんリアンさんの体調、健康管理、これに尽きます。
もともと身体の強い子ではありませんし、
故障させるわけにもいきませんから、
細心の注意を払ったつもりでいます」
だよねえ。スーちゃんの答えに納得だ。
数々の出来事でそれは感じる。
フォワ賞での敗戦後のことなんて、それは顕著だった。
「現状でのファミーユリアンさんの状態については、
どうなんでしょうか。皆さん大変心配されていることかと思いますが、
凱旋門賞と、BCのレース後の様子を見る限り、
あまり良いとは思えませんが?」
「私もそう思います」
記者の質問に、深く頷いて見せるスーちゃん。
「疲労の蓄積が大きな要因のひとつだと見ていまして、
一応、現地での検査で問題はないとの診断は頂いていますが、
これから詳しくチェックすることになると思います」
「では、気が早くて申し訳ないのですが、次走については?」
「未定です。すべてはこれから、
リアンさんの体調、状態次第になります」
やっぱりみんな心配してくれてるんだなあ。
つくづく申し訳ない。
「同じことの繰り返しになってしまいますが、
1番嬉しかったこと、つらかったことをお聞かせください」
「それはもう、凱旋門賞を勝ってくれた、
それだけで十分です。私の、いえ日本の夢を叶えてくれた。
……何も言うことはありません」
最後は当時の思いが蘇ったのか、
不自然に言葉に詰まったスーちゃん。
映像で見返したあの喜びようから察するに、
ドバイの時以上の感動があったんだろう。
「……本当に……私などにはもったいない、
誰に対しても、堂々と誇れる、素晴らしい教え子です……」
さらに途切れ途切れになりつつ、言葉を紡ぐスーちゃん。
ついにはハンカチを取り出して目元を拭った。
会場にも、労いと感謝、祝福の思いが満ちていく。
あーもう、こっちにまで伝わってくるじゃないか。
やめてくれよもう……
代表質問の後は、恒例の質疑応答へと移った。
「府中ケーブルテレビの乙名史です」
そして案の定、真っ先に手を上げて1番に指名されたのは、
乙名史さんである。他社もファンたちも文句なんか言わないし、
もはや慣例と化した感があるな。
「大変お疲れさまでした」
最初に労ってくれたことに対し、軽く頭を下げて応じる。
いやいや、乙名史さんもご苦労様でした。
一足先に帰国していたとはいえ、わずかな時間しかなかったわけで、
そんな中で準備を整えてこの会見にも来ているのは、
まさにあなたこそお疲れさまとしか言えませんよ。
「帰国された今、真っ先に行きたいところと、
会いたい人は誰でしょうか?」
おう? 意外なところを突いてきたな。
いや、彼女だからこそ、かな。
おそらく俺の回答も、おおよそは見当がついているんじゃないか?
確認する意味合いが強いということか。
「出身の孤児院に行って、院長たちに報告したいですね」
こう答えると、うんうんと頷く乙名史さん。
予想通り、かな。
「なんとお伝えしますか?」
「うーん、どうでしょう……
たぶん言葉に詰まって何も言えなくなっちゃうと思いますから、
今から考えていくのは無駄になっちゃいますね。
まあお互い感極まって、という結果になると思います」
「なるほど、ありがとうございます!」
お礼だけ言って、腰を下ろす乙名史さん。
やけにあっさりだったな。
その分、後で何かおねだりされそうだ。
……その様子も取材させてとか言い出さないよな?
さすがにプライベートが過ぎますぞ。
空港での会見を終えると、URAの本部へと移動。
幹部の皆さんにご報告だ。
「おめでとうっ!」
「ありがとうございます」
ここでも型通りのお祝いをされて、
花束なんかを渡されて、祝福ムード一色だったんだが。
「ところで……」
URAの理事長が皆から隠れるようにしながらコソコソと、
言いにくそうにしながらも切り出してきたこと。
「来年も走るつもりなのかね?」
今ここで聞くことか?とも思ったけど、
別に隠すようなことでもないし、まあいいかと軽く応じた。
「そのつもりですが、何か?」
「いや、結構結構。大いに頑張ってくれたまえよ!」
「はあ」
そう言って、ポンッと俺の肩を叩いて行ってしまったURA理事長。
聞き出しづらそうにしていた割には、
やけに簡単なリアクションだったが、なんだったんだろうか?
「トニーとムーンも、色々ありがとね」
「なに、たいしたことはしていないさ」
「そうね、すべてはリアンが頑張ったからよ」
URAの職員となっているトニーとムーンの姿もあって、
2人に歩み寄って手を取り、感謝を伝えた。
「何かお礼しないとなあ。何がいい?」
「不要だよ。報酬はURAから頂いているさ」
「まあ、くれるというなら貰ってあげるけど?
コンビニスイーツ全部盛りというのはどう?」
冗談めいて尋ねたら、2人からも冗談めいた答えが返ってきた。
トニーはそうだと確信できるが、
ムーンのほうは……冗談なんだよな?
「なんにせよ、これで契約の半分は果たせたというわけだ」
「どういうこと?」
「単純なことさ。URAとの契約の中に、
君のサポートをするという役目も含まれていたからね」
トニーはそう言って、わざとらしくウィンクをしてきた。
そういやドバイで会った時にも言ってたっけ。
「もちろんそれだけじゃなくて、
大切な友人だから手助けしたんだからね?」
「わかってるわかってる」
「本当にわかっているのかしら……」
疑いの目を向けてくるムーンだが、
それは邪推が過ぎるというものだよ。
2人が仕事だからというだけではなく、
友達として助けてくれたというのは、最初から分かっているとも。
特に、キングジョージの時は助かった。
あの助言がなければ、囲まれて混乱して、
そのまま終わっていたに違いない。
2人とも、本当にありがとう!
URAを後にして、トレセン学園へ。
本当の意味での凱旋はここからだ。
パンッパンッ
正門前に到着して車から降りると、クラッカーの音が響いた。
そして気付く。空港でのことと同様、
生徒たちが幾重もの人垣を作っていることに。
『ファミーユリアン先輩、お帰りなさい!』
さらには、生徒たちの大合唱。
思わず胸と目元が熱くなる展開だ。
そして、数人の生徒が前へと出てくる。
「リアン先輩」
「スターオーちゃん……」
先頭を切ってきたのは、スターオーちゃんだった。
彼女の手には、大きな花束。
……あ、やばい。涙腺決壊しそう……
この光景だけでもダメなのに、スターオーちゃんでダメ押しだって。
スターオーちゃんだけではなく、
彼女に続くのは、タマちゃん、オグリ、ファルコちゃん、イナリにクリーク……
みんな笑顔だけど、イナリだけはなんか複雑そうな顔をしている。
「だめですよ、泣いたら」
「そんなこと言われても……」
花束を渡される際に、満面の笑みで釘をさしてくるスターオーちゃん。
なんとか零れる前に、手で目元を拭って耐えた。
「復帰戦、応援しに行けなくてごめんね」
「謝る必要なんてありませんよ。
先輩が成した大偉業に比べれば、私個人の事情なんて些細なことです」
復帰2戦目の秋天では、差を開けられたとはいえ、
3着に食い込んでるし、全然些細なんかじゃないだろぉ……
ああ駄目だ、収まった涙がまた……
「積もる話もありますけど、理事長たちが待ってますから、
はい、理事長室に行きましょう」
「……うん」
スターオーちゃんに慰められながらという、
衆人環境の中を辱められつつ、理事長室へと向かう羽目になった。
「歓迎っ、慰労っ、大感謝っ!」
「リアンさん、お帰りなさい。お疲れさまでした」
理事長室に入るなり、理事長が熱烈に歓迎してくれ、
たづなさんからも労いの言葉をいただいた。
「ただいま戻りました」
「うむっ」
「これ、凱旋門賞のトロフィーです。
しばらくは学園に飾ってもらえたら、と」
「いいのか?」
「はい、ぜひ」
「了承っ。たづな、すぐに手配を」
「かしこまりました」
手荷物で持ってきた凱旋門賞のトロフィーを、
学園で展示してもらうために理事長に渡す。
これを見て、生徒のみんなに、少しでも活力を分けてあげられたら。
大事そうに受け取った理事長からたづなさんへと渡され、
たづなさんもたいそう慎重に扱って、
ひとまずは理事長室の机の上が安置の場所となる。
「これが凱旋門賞のトロフィー……
輝いているな! なあたづな!?」
「はい、そうですね。眩いばかりで」
そういや、理事長のモチーフと云われていたノーザンテースト*1、
G1勝ちはフォレ賞*2しかないわけだが、そのフォレ賞の開催日*3は
凱旋門賞ウィークなんだよな。
やっぱり憧れは強いんだろう。
トロフィーを見つめるあなたの瞳こそ、キラキラ輝いてますよ。
「疲れているだろう、ささ、座ってくれ。
たづな、お茶を頼む」
「はい」
席に座って、しばし2人と歓談する。
楽しい時間が流れた。
「……こほ」
「どうした? 大丈夫か?」
「ちょっと喉が……」
その途中で喉に違和感を感じ、少し咳が出た。
飛行機の中が乾燥でもしてたかな?
あるいは、空港とか移動の車内か?
うむぅ、イガイガする……
「それはいかん」
途端に血相を変える理事長。
「すぐ部屋に戻って休みたまえ。
引き留めてしまって悪かった」
そう言って、即時の帰宅を認めてくれた。
続けてたづなさんが言う。
「お部屋は、ルドルフさんが準備してくれています。
今すぐにでも休めると思いますよ」
「そうなんですか」
それは、ルドルフにも悪いことをしたなあ。
天下の無敗十冠ウマ娘、生徒会長様に、
ハウスキーパーみたいなことをさせてしまった。
「では部屋に戻ります。遠征の仔細はまた後日、
トレーナーと共に報告しに上がりますね」
「うむ、急がないでいいぞ。ご苦労だった」
「ゆっくり休んでくださいね」
「はい、失礼します」
立ち上がって一礼し、理事長室を出る。
8か月ぶりの我が部屋かあ。
ルドルフのことだから抜かりなくやってくれてると思うけど、
どうなっているのかな?
リアンフィーバー、ここに極まる
このたび、本編の100話越えが確定しました
中途半端な数になるかもしれませんが、
今しばらくのお付き合いをお願いいたします
仮にリアンが海外遠征する場合、初戦は何が良いですか?
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