転生孤児ウマ娘の奮闘記   作:しょうわ56

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第97話 孤児ウマ娘、色々と発覚する

 

 

 

「おかえり」

 

「……ただいま」

 

8ヶ月ぶりになる学園寮の我が部屋、ドアを開けるなり、

ルドルフが満面の優しげな笑顔で迎えてくれた。

 

それだけで胸が熱くなって、

声が出てくるまでに数秒のラグが生じてしまった。

 

遠征中にも何度か顔を合わせてはいるけど、

こうして正式に帰国してってなると、

やっぱり感じるものは違うようだ。

 

なんかもう泣いてばっかりだな。

帰国してからだけで、何回目だって話よ。

 

「入口で立ち話というのもなんだ。

 中へどうぞ。荷物も持とう」

 

「ありがと」

 

ルドルフにバッグを持ってもらって、中に入る。

 

おお、この感じ……

まあ当然っちゃあ当然なんだが、変わってないなあ。

予想した通り、きちんと管理してくれていたみたいだ。

 

「ベッドも整えておいた。

 今すぐに寝ることもできるぞ」

 

「では早速……だ~っいぶ!」

 

以前のように、いや、俺が自分でやっていたころ以上に

綺麗にメイキングされているベッドへ、そのまま飛び込んだ。

 

お~、もふもふのふかふかだ。

お日様の匂いもする。

しっかり干していてくれたのかな。

 

「子供か君は」

 

ルドルフが呆れているようだが、知ったこっちゃないね。

俺は今、日本に帰ってきたということを猛烈に実感している。

 

いや、冗談抜きでそう思う。

 

「やれやれ、仕方ないな」

 

「はは」

 

「ふふふ」

 

身体を起こすと、苦笑してこちらを見つめているルドルフ。

自然と笑いが込み上げてきて、2人して声を上げて笑った。

 

「本当にお疲れ様だな」

 

「うん。すんなりここまで帰ってこられればまだいいんだけどね」

 

空港での一幕をはじめとして、

色々なところや人の間を連れ回されて、疲れたのなんの。

 

特にURAでは、精神的にちょっと参ったぜ。

理事長の謎ムーブと謎言動にも首を傾げざるを得ないし。

 

普通に旅行に行って帰ってきたのとはわけが違うんだな。

 

「それもまた大スターの宿命だ」

 

「うん、わかってる」

 

ただの1人の人間じゃないもんな。

 

俺は“ファミーユリアン”。

それも、世界の大レースまで勝ってしまったんだから。

 

「追い討ちをかけるようで悪いが、生徒会としても、

 君にはもうひと働きしてもらわないといけない。

 いや、本当に心苦しくはあるんだが」

 

「はいはい、わかってるって」

 

帰ってきました、はいおしまい、とはならないよねぇ。

先ほど盛大に出迎えてもらったとはいえ、学園でもさらに正式に、

お疲れ様会なんていった行事が予定されているんだろう。

 

「それと……」

 

「まだあるの?」

 

それだけじゃないんかい。

なんか意味深な笑い方してるのが気にかかるが……

 

「君がいない間は、君と関係の深い子たちが

 随分と寂しそうにしていてね。私個人としても気になるから、

 そちらのほうのケアもお願いしたいんだが?」

 

「……あー」

 

ケアって……言い方ァ!

 

ファルコちゃんも随分と悩んでいたそうだし、

他のみんなも結構そんな感じなんかね?

 

さっき顔を見た限りでは、そんなことは……

あ、あー、そういえば、イナリはなんか変な顔してたなあ。

最近は成績上がってないし、変に考えてしまっているのかもしれない。

 

あとは、まだ顔を見ていないフルマーちゃんあたりか。

ある意味、最大の被害者というか、

影響を受けたのは彼女なのかもしれない。

イナリと同様、この秋は勝ててないしなあ。

 

しかし、なんて言って声をかけたものやら。

 

「簡単じゃないか」

 

俺の悩みをよそに、まさに他人事とばかりに言うルナちゃん。

 

「なんでもいいから君から一声かけられれば、

 みな喜んでホイホイついてくるだろうさ」

 

「ホイホイって……」

 

そんな、みんなを黒光りする悪魔みたいに言いやがって。

それに、なんでもいいから、は1番困るんだぞ。

 

でも迷惑かけたのは事実なんだし、俺から言うべきでもあるよなあ。

どうしようか……

 

 

 

 

 

疲れているだろうということで、

今日は早めに休ませてもらうことになった。

 

ルドルフにも付き合ってもらって、

今宵の我が部屋は早くも消灯だ。

 

「悪いね」

 

「私も早く寝たいと思っていたから、ちょうどいいさ」

 

こんな風に軽口を叩き合える関係、いいよね。

いつまでもこんな仲でいたいものだ。

 

11月になって、日本も寒さが増してきているようで、

ぶるっと思わず身体を震わせたところで、布団に潜り込む。

 

うむ、やはりルドルフが干してくれていた布団はあったかいなあ。

改めて、親友の気遣いがありがたい。

 

「……そういえば」

 

すぐに心地よくなって、程よく眠気も催してきた時。

ふと思い出したことが気になって、思わず声に出していた。

 

あの謎行動、親友に聞いておいてもらいたかったのかもしれない。

 

「どうした?」

 

「あんまり大きな声では言えないんだけど、

 URAの理事長がさ……」

 

昼間の顛末を離して聞かせる。昼間の顛末を話して聞かせる。

その間、ルドルフは一言も発しなかった。

 

「──ってなことがあったんだよ。

 な~んか不自然というか、不思議だと思わない?」

 

「……そうか。君にもやったのか」

 

「私にも?」

 

静かに聞いていたルドルフだったが、俺が同意を求めると、

ひとつ小さく息を吐き出した後に、こう言った。

 

期待していた答えとずいぶん違うんだが、どういうことだ?

誰か他にも、こういうことをやられた子がいるとか?

 

「私も、有を連覇した直後に顔を合わせた際、

 同じように聞かれたことがある。来年はどうするのか、とな」

 

「……」

 

他ならぬルドルフ自身だった。

 

そりゃ、俺たちクラスになれば、動向を気にかけるのはむしろ当然。

年末で区切りをつける子も多いので、そのタイミングで、

以降の活動について尋ねること自体はなんら不思議ではないんだが……

 

言いようのない、この違和感は何なんだ?

察するに、ルドルフも同じようなことを感じてはいるようだし、

ますます訳が分からない。

 

「これは、あくまで私が感じたことで、

 向こうとしてはこう取られるのは不本意で、

 何か別の意図があったのかもしれないが……」

 

こう前置きして、ルドルフが語ったこと。

 

「要は、『進退伺』というやつなのではないかと思う。

 一般的な使い方とはまるで逆だが、

 圧倒的な結果を出した者に対して、もう十分だろう?

 と肩を叩いたわけだ」

 

「………」

 

衝撃的過ぎて、返す言葉が出てこなかった。

何か言い返そうとしたんだけど、何も言えなかった。

 

「特に君は、私以上の結果を残したわけだからな」

 

「……そろそろ後進に道を譲れ、って?」

 

「ああ」

 

「………」

 

ようやく声を出せた。

一縷の希望で否定してほしかったが、無残にも打ち砕かれる。

 

なんだよそれ……

 

これまで一生懸命トレーニングして、レースして、

血の滲むような努力と苦労をしながら勝ってきたっていうのに、

まだ何も発表していない時点でそれを言っちゃうのか。

 

そりゃ確かに、ウマ娘のピークは短くて、

こんなに長くトップに君臨した娘は、初めてなのかもしれない。

新旧の入れ替わりが激しいのもまた事実だ。

 

ならばなおのこと、結果を残して、世間にも受け入れられた存在を

大事に扱ってほしいと思うのは、我がままなんだろうか?

 

「気持ちはわからないでもないよ。

 一極集中という面からすると、興行主側から見たら、

 あんまり良いとは言えないからね」

 

「……」

 

「さっきも言ったが、私の私見だからな?

 変に拡大解釈してURAに突撃しないでくれよ?

 明確に言われたならまだしも、

 言葉を濁されるばかりか、後味が悪くなる」

 

「大丈夫、そこまで子供じゃないよ」

 

自分で言っておいて、ちょっと焦っているルナちゃんがかわいい。

まあ気にするなって。俺もそこまで怒っているわけじゃない。

 

ただ、なんか猛烈に虚しくなっただけだ。

 

「ちなみに、ルナはなんて答えたの?」

 

「熟考中です、と。君は?」

 

「走るつもりだ、って言っちゃったんだよね」

 

「そうか」

 

それきり、ルドルフは何も言わなかった。

 

誰もが羨むトップだからこその悩みってのも、あると思うんだ。

そこで決断して、走り続けるのもよし。

はたまた、身を退いて別の道に行くのも、また人生。

 

でも自分で言うのもなんだが、少なくとも、ここまで内外にアピールして、

貢献してきた功労者にかける言葉、採るべき態度じゃないとは思う。

 

なんだかなあ……

 

襲ってきていた睡魔も退散しちゃったし、

文字通りの眠れない夜になりそうだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──アン、リアン」

 

「……ぁ?」

 

いつのまにか眠っていたようだ。

 

どれぐらい時間がたったのかはわからないが、

強烈な寝苦しさと、呼び起こす声で目が覚めた。

 

「起こしてしまってすまない。

 だが大丈夫か? 随分とうなされていたが」

 

「うなされ……?」

 

目を開けると、廊下から漏れてくる僅かな明かりの中、

ベッド脇に膝をつき、心配そうにこちらを覗き込むルドルフがいる。

 

「いま何時……?」

 

「夜中の2時過ぎだ」

 

気付けば全身汗びっしょりで、妙に熱っぽい。

喉が痛い。なんだかボ~ッとする。身体の節々の痛みもある。

 

なんだ……? 熱がある……?

 

「……けほっ」

 

「これはいけないな」

 

咳も出てきてしまった。

明らかに体調不良だ。

 

現にルドルフも、これだけで状況を理解したようだ。

 

「寮長も寝ているだろうから、宿直の人に連絡しておこう。

 それと車の手配もだな。病院に行こう」

 

そう言いつつ、早くも自分のスマホを手に取り、

どこかに電話をかけ始めた。

 

「………」

 

その様子を、横になったまま見つめることしかできない俺。

どうやら熱は相当に高いらしい。

 

帰国したその日に熱を出すとか、漫画でもベタすぎる展開だな……

仕組まれているんじゃないかと思っちゃうくらいで。

 

向こうで、なんか悪い風邪でも貰ってきちゃったかな?

あるいは、会見場とかURAでか?

 

「……こほっ、っ……!」

 

ルドルフに移したらまずい。

それだけは避けねばと思い、必死になって口元を手で覆う。

 

マスクとかあったっけか?

なんにせよ……帰ってきてからで、本当に良かった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真夜中に病院に駆け込んだ診断結果から言うと、インフルエンザだった。

症状が重めということもあり、そのまま入院。

 

まさか帰国初日に発症し、せっかく自室に戻れたのに、

また部屋から出なければならないとは、自分で自分に呆れるよ。

 

でも不幸中の幸いと言えるのかどうか、

より事態が深刻になる、ウマ娘特有の『ウマインフルエンザ』*1でなくて助かった。

 

どれくらい深刻かというと、

感染者が出ただけで、レースの開催が中止になるほど*2だ、

と言えばわかってもらえるかな。

 

喉の違和感とかあったけど、それが前兆だったんだなあ。

 

兎にも角にも、40度近い発熱では、動こうにも動けない。

大人しく寝ていることにしましょうかあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3日後、無事に解熱。

 

その間は本当に、トイレ以外は寝たきり状態。

喉が痛くて食事はおろか、水分すら摂るのがきつかったし、

食欲もほとんど湧いてこなかったので点滴が主。

 

節々が痛くて、熱も高いしで、寝ているだけでも正直しんどかった。

 

しかし熱が下がっても待機期間があるので、

学園にウイルスをまき散らすわけにもいかず、

もう数日は病院のベッドで過ごすことになる。

 

 

~♪

 

 

暇を持て余していると、スマホから着信音が。

すぐに確認してみれば、スーちゃんからだった。

 

『具合はどう?』

 

シンプルに状況を尋ねてくる内容。

 

『熱は下がりました。もうしばらく辛抱です』

 

こう書いて返信。

ものの数秒でさらに返信が届く。

 

『そう、お大事にね。治りかけが大事よ』

 

続けて着信。

 

『リアンちゃん、今年は学園の健康診断受けてないでしょう?

 せっかくと言うとあれだけど、病院にいるんだから、

 動けるようになったら受けてきなさいな。手配はしておくから』

 

なるほど、確かに、海外に出ていた関係で、

今年の健康診断は受けてなかったな。

 

了解しました、と返信。

 

まあそのあとに、研究所にも行くことになるんだろうけどね。

スーちゃんのことだから、そっちの手配も済ませているだろう。

インフルで予定が押しちゃったけど。

 

『それと、退院したらお話があります。

 急ぎはしないけど、なるべく早く来て頂戴』

 

うん? なんだろう?

今後のローテについてかな?

 

話し合うのは毎度のことだが、

改まって話があると言ってくるのも珍しい。

 

わかりました。先延ばしにするのも気持ち悪いので、

退院したその足でお伺いします、と再返信。

 

あ~、高熱が出ていた関係で、なんか今でも頭がくらくらする。

身体は重いままだし、全般的にすっきりしない。

全身のそこかしこから違和感がバリバリ。

 

……そうだ、違和感といえば。

 

BC発走直前に感じた、左足手術部に感じた()()

今さらだけど、スーちゃんに報告しておいたほうがいいだろうな。

 

今の今まで忘れていたからしょうがない。

あれから出てないし、気のせいだったのかもしれないし。

 

『私からもお話が』

 

おそるおそる話を切り出す。

怒られ……るだろうな、たぶん、メイビー。

 

『非常に今さらなんですが、BC発走直前に──』

 

さて、どういう反応になるだろうか。

……覚悟完了。

 

『なんですぐに言わなかったの!!!!!!』

 

そら来た。

ビックリマークの数が、スーちゃんの怒りを表している。

驚愕の6個だ、6個。

 

『すいません。すぐに消えたので気のせいだと思いましたし、

 レース後はあんな感じだったので、忘れてしまってました』

 

覚悟は決めていたので、涼しい顔で返信する。

いや、反省はしてますよ、はい。たぶん。

 

『まったくもう。それで、どんな違和感?

 今も出ているの? どんな状態? 痛みはない? 大丈夫?』

 

そして飛んでくる矢継ぎ早の質問の嵐。

彼女の焦り様が手に取るようにわかる。

 

ホントのホントに、心配の重ね掛けで申し訳ありません。

 

『今は感じません。痛みもないです』

 

『そう、よかったわ。それも診てもら……

 いや、研究所のほうがいいわね。伝えておくわ』

 

『お願いします』

 

『了解。くれぐれも無理はしないようにね』

 

という感じで、やり取りは終了。

 

ふ~、やれやれだね。

とにかくあと数日、我慢するしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さらに2日して、待期期間も過ぎたので、退院と相成りました。

退院する前日に、言われていた健康診断を受け、翌朝1番で学園に戻る。

 

スーちゃんが車で迎えに来てくれたので、

そのまま話をしようということになり、

駐車場に停めた後にトレーナー室へ向かう。

 

「寒っ……」

 

さらに寒さが増してきた今日この頃。

朝方は冷え込みが顕著になってきたようだ。

車から降りた瞬間に、思わず身震いしてしまう。

 

「………」

 

それだけでは済まず、さらなる異変に襲われる。

 

足元がスースーする。というか、左足がいやに冷たい。

さらに詳しく言えば、手術した部分から先が、異様に冷たく感じる。

いや、冷たいのもそうだけど、むしろ指先が痺れているような感覚……

 

これは……?

 

「リアンちゃん? どうしたの?」

 

「あ、いえ……」

 

「じゃあ私の部屋へ行きましょう」

 

「はい」

 

突っ立ってしまっていたようで、

スーちゃんから不思議そうに声をかけられた。

 

「………」

 

彼女の後を歩き出すも、違和感が続いている。

 

相変わらず痛みはないし、歩いてもそれ以上のことはない。

なんなんだろうなこれは。

前回の脚部不安ともまた違う、初めての感触だ。

 

「いま暖房入れるわ。お茶も淹れるわね」

 

「やりますよ」

 

「いいのよ。病み上がりなんだから、ゆっくりしてて」

 

「すいません」

 

スーちゃんのトレーナー室に着くと、座るように促される。

 

お茶の用意も、普段なら俺がやってるんだが、

今回ばかりは遠慮するよう言われてしまった。

 

仕方なくソファーに腰を下ろし、お茶を待っている間に

暖房が効いてきて、部屋が温まってきた。

 

室温が上がっていくのにつれて、足の違和感も徐々に消えていく。

 

なんだったんだ?

もしかして、寒さが原因、だったりする?

 

「はい、お茶どうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

……などと考えていれば、スーちゃんがお茶を持ってきてくれて、

心を落ち着けるようにして一口すする。

 

たった今、報告というか、相談しなきゃいけないことができてしまった。

 

「さて、リアンちゃん」

 

「はい」

 

「話がある、といった件についてよ」

 

テーブルを挟んだ対面に座ったスーちゃん。

そう切り出して、持っていた湯飲みをテーブルに置く。

 

「凱旋門賞やBCのあとの様子、方々の話を

 総合して考えるに、リアンちゃん、あなたは……」

 

そこでいったん言葉を切るスーちゃん。

 

深刻そうな表情から察するに、俺のことなのに、

彼女のほうが、よりショックを受けているようだった。

 

「あなたは、ピークアウトしました。

 そう考えて間違いないと思うわ」

 

スーちゃんはこちらをまっすぐ見つめながら、

はっきりとそう宣言した。

 

「すべてのウマ娘、いえアスリートがそうであるように、

 いつかはピークを越え、衰え始める時が来ます。

 例外はありません。あなたにも、その時が来たということよ」

 

「……ピークアウト」

 

「短い者は、1年にも満たない。

 長くてもせいぜいが2年ほど。対してリアンちゃんは、

 5年もの長い間トップフォームを維持してきた。

 本格化が遅かったとはいえ、驚異的と言うほかはないわ。

 だからこそ、数々の偉業を成し得たわけだけれど」

 

……そうか、ピークアウトか。

その可能性は考えてなかったというか、すっぽり抜け落ちてたわ。

 

レース後に体調が悪くなったり、

あんなに苦しかったのは、ピークを越えて、

能力的に下り坂になったから、ということなのか。

 

今まで出来ていたことが、出来なくなったと。

 

「アウト後については、それこそ千差万別。

 急激に衰えて満足に走れなくなる者がいたり、

 逆に衰え方がとてもゆっくりで、その後もある程度は走れる子がいたり」

 

「……」

 

「あなたがどうなるかは、正直言ってわからないわ。

 経過を見ながら、慎重に判断していくしかない。

 今のところは、レース自体にはさほど影響は出ていないようね」

 

「……そうですね」

 

異変が出たとはいえ、いずれもレース後のことだ。

レースも結果を出せているわけだし、そういう判断になろう。

 

だが、今後、次はどうなるかわからない。

というか、衰え方次第では、次走すらないということもありうるわけか。

 

「やっぱりショックよね」

 

生返事の俺を見て、スーちゃんはそう思ったようだ。

そりゃまあ確かにショックと言えばショックだけど……

 

「いえ、むしろ安心しました」

 

「安心? どうして?」

 

「変な病気とかじゃなくてよかったなって」

 

「………」

 

俺の言葉に、スーちゃんは目を丸くした。

言っていることが信じられないとばかりの反応だった。

 

言っておくけど本心だよ。

病気じゃ下手すると取り返しがつかないが、まだ誤魔化しが効くことだしさ。

どうやればいいのかはわからないけど。

 

「病気だったらどうしようって、ちょっと頭をよぎったんですよ。

 でも衰えなら、騙し騙しですけど、まだ走れるかもしれないですよね?」

 

「……」

 

「大丈夫です。絶望したりはしませんよ」

 

「……相変わらずのメンタルね、あなたは」

 

微笑みながらそう言って見せると、

スーちゃんのほうが泣きそうな顔になってしまった。

 

考えてみれば、担当を持つこと自体初めてなんだから、

教え子が衰えるさまを見るのも、これが初めてになるんだよな。

 

スーちゃんのほうが逆につらいんじゃない?

実際、こんな顔しちゃってるんだからさ。

 

「次走についてだけど、

 とりあえずジャパンカップは回避でいい?」

 

「ですね。残念ですけど」

 

気を取り直したスーちゃんの質問に頷く。

 

たぶん対戦を待ち望んでいる子たちは結構いると思うけど、

残念ながら、圧倒的に時間が足りない。

 

ただでさえ疲労とピークアウトの件があるのに、

今回のインフル感染が致命的だった。

とてもじゃないけど間に合いそうにない。

 

下手すると、有にまで響きそうだ。

何とかそっちには出たいと思ってはいるが……

 

……それに、である。

 

「あの、スーちゃん」

 

「何か要望かしら?」

 

「いえ……その、左足の違和感に関して、なんですが」

 

「……聞かせて」

 

先日、打ち明けた違和感の件。

付け加えるべき事項が、ついさっき起きてしまった。

 

即座に強張るスーちゃんの表情。

 

「BCのときはこのまえ話した通りです。

 で、ついさっきのことなんですが、新たに違和感が出まして……」

 

「ついさっき? 本当に? どういう状態?」

 

「急に冷え込んだせいかとも思うんですけど、

 手術した部分だけが妙にひんやり感じたんですよ。

 他はそこまでじゃないのに、そこだけ冷えているというか」

 

「………」

 

「それに、そこから先が痺れるような感覚があった気がして」

 

「………」

 

「痛いわけじゃないですし、歩くのにも問題なかったので、

 走れないわけでもないと思いますが……どう思いますか?」

 

「……医者じゃないから、なんとも言えないわ」

 

スーちゃんでもわからないか。

まあ彼女の言うとおり、医者ではないからな。

 

「なんにせよ早く研究所に行って、診てもらいましょう。

 ゆっくりと言っておいて悪いけど、明日でもいい?」

 

「はい」

 

「じゃあそうしましょう」

 

俺も、わかるんなら早く原因特定したいし、

特に予定もないから構いませんよ。

ジャパンカップの回避も、今しがた決まったわけですし。

 

「……ふ~っ」

 

頷いたスーちゃんが、大きく長い溜息をついた。

そして湯飲みを手にして口に運ぶ。

 

俺も真似して一口……

話をしていたせいで、すっかり冷めてしまったな。

 

「一気にいろいろなことが起きて、何が何やら」

 

「ですよねぇ」

 

「そんな他人事みたいに言わないで。

 あなたのメンタルはいったいどうなっているの」

 

「そうは言われても……」

 

いろんなことから、実感できてはいるんだけど、

それでもまるで現実感がないというか、さ。

 

やっぱりショックはショックなのかもしれんね。

自分でもわかっていないだけでさ。

 

 

 

そんなわけで、翌日、研究所に行くことになったんだ。

詳しい診断が出てくれることを祈るしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回の『ファミーユリアンちゃんについて語るスレ』のコーナー

 

 

(BC勝利インタビューを受けての反応)

 

:インタビュー始まるな

 

:それより体調が気になる

 

:だなあ

 膝ついて苦しそうだったし……

 

:あそこまで明確に苦しそうにしたのは初めてだしさ

 

:前走の後といい、立て続けだからなあ

 

:前走は倒れたまま動かなかったから、

 はっきりと苦しむ様子を見せられるときついな

 

:うわ、汗びっしょり

 

:顔色は悪くないけど、発汗凄いな

 

:何度も汗拭ってる

 

:やっぱりどこか悪いんじゃないの?

 心配すぎる

 

:まあレース直後だし、こういう子も少なくはないが……

 

:早く水分補給させてあげて!

 

:あごから滴ってる……

 

:現地暑いのか?

 

:10月も末だぞ、そんなわけない

 

:ましてやニューヨークだ

 こっちよりも寒いだろ

 

:ホントどうしちゃったんだリアンちゃん……

 

:なんかそっちばっかり気になっちゃって、

 内容が全然頭に入ってこないわ

 

:俺も

 

:単なるレースの影響だと思いたい

 

 

 

 

 

 

(リアン、インフル罹患に対しての反応)

 

:ファミーユリアン、インフルエンザ発症

 大事を取って入院 ジャパンカップに影響必至か

 https://www.umamusumenews.com/*******

 

:うわああああああ

 

:マジか

 

:/(^o^)\ナンテコッタイ

 

:向こうでもらっちゃったのかなあ

 

:日数的にたぶんそう

 

:帰国翌日に入院とは……

 

:ここに来て運がないのう

 

:ここまでが幸運続きだったというか

 

:2度の骨折

 脚部不安

 

 これでも幸運だったと申したか?

 

:あ、うん、すまん、そうだったな

 

:まあデビューして以降は幸運だと言っていいでしょ

 

:運もあるけど、実力が第一だよ

 

:ジャパンカップまで3週間ちょっと

 こりゃ無理だろ

 

:快癒まで1週間は見なきゃならんから、

 そこから2週間で仕上げるのは……

 まあ、うん、無理だな(残念無念)

 

:スポーツ選手は下手に薬飲めないからつらいのう

 

:インフル薬は大丈夫のはず

 

:ウマ娘でも効くのか?

 

:わからん

 

:長期遠征の疲れもあるだろうし、

 まずはゆっくり休んでくれ

 話はそれからだ

 

:焦らないでいいからしっかり治してね

 

*1
馬インフルエンザ。非常に伝染力の強い馬の呼吸器感染症

*2
国内では2007年8月に36年ぶりに流行し、競馬開催が1節中止になった。アメリカ、イギリス、フランス、スウェーデンなどでは毎年のように発生しており、珍しいことではない。なお人間には感染しない





なお、ウマ娘世界にウマインフルエンザがあるのかどうかは、
定かではありませんのであしからず


ピークアウトの概念について、3期アニメでやってくれたのは助かりました
同時に、「先を越された!」と感じたのもまた事実でございまして……

結果として、後追いという形になっちゃいます
まあ描写的に助かったところもあるんですがね

仮にリアンが海外遠征する場合、初戦は何が良いですか?

  • ドバイワールドカップ
  • ドバイシーマクラシック
  • ガネー賞(仏)
  • クイーンエリザベス2世カップ(香港)
  • アメリカ遠征
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