転生孤児ウマ娘の奮闘記   作:しょうわ56

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第99話 孤児ウマ娘、再会、そして再起を願う

 

 

 

「リアン。大変な状況の中で悪いんだが……」

 

検査結果が出て、ひとまずは落ち着いたころ。

その結果を知るルドルフが、すまなそうに申し出てくる。

 

「どうしても君に直接会って話をしたいという

 希望者が、2人、生徒会にやってきていてね」

 

俺と話したいって?

それも2人?

 

「1人は、先日も話した、後輩ケアの一環と思ってくれ。

 もう1人は……こちらはまだ伏せておいたほうがいいだろうな」

 

いやに出し渋るねえ。

 

後輩? 誰関係だ?

伏せておいたほうがいいというのも気になる。

 

「会ってもらってもいいだろうか?」

 

「いいよ」

 

「すまない」

 

どうせジャパンカップは回避だし、トレーニングと言っても、

今月いっぱいはウォーキングすることぐらいしか許されてないから、

時間ならあるからね。

 

だからそんなに悪びれないでくれ。

 

「でも、いちいちそんなのに付き合ってたら、

 キリがないんじゃないの?」

 

「通常ならそうなんだが」

 

以前の相談室をやった時の状況から察するに、

他にももっと希望者が殺到してそうなものだけどな。

 

想像した通りなのは、苦笑するルドルフを見れば一目瞭然。

 

「どうしてその2人だけ?」

 

「私が判断した。双方にとって必要だろうと」

 

「ふーん?」

 

俺と会って何を話したいのか、はたして誰なのか、

そして俺のためにもなるというのか。

何が何やらまったくわからないけど、まあいい。

 

お互いに有意義な時間となるよう願うしかないか。

 

 

 

 

 

というわけで、翌日の放課後。

早速ということで、面談室にてその2人と別々に会うことになった。

 

まずは1人目。

 

「失礼しますっ!」

 

元気な声と共に、ドアを開けて入ってきたのは……

 

短く、独特なツンツンヘア。

前頭部が特徴的に白いこの子。

 

「ライアンさん?」

 

「はいっ、メジロライアンです!」

 

俺がそう呟くと、ライアンは嬉しそうに破顔した。

 

「1度会ったきりなのに、覚えていてくださったなんて!」

 

たいそう嬉しそうだが、そりゃ忘れるわけないって。

シチュ的にもそうだし、なによりウマ娘のゲーム的にもね。

 

「まあ座りなよ」

 

「はい、失礼しますね」

 

座るように促すと、机を挟んだ対面に腰を下ろす。

 

改めて見つめると、うーん、やっぱり顔はかわいいよな。

いや、顔も、か。性格的にも乙女なところ満載だしなあ。

 

私服と筋肉の印象が強くて、だいぶ損してると思う。

 

「……あの、そんなに見つめられると困っちゃいます」

 

「あ、ごめん」

 

どうやらジッと見つめちゃってたみたいで、

恥ずかしそうにそう言われるまで気付いてなかった。

 

「それで、私と会って話したいことって何かな?

 ルドルフによると、えらい剣幕だったらしいけど」

 

あのルドルフに特例扱いを認めてもらうくらいだ。

まだ会ってないもう1人と共に、相応のものがあると思うが。

 

「はい、姉のことで、ぜひともお話しておかなきゃと思いまして、

 不躾ながら、少々強引な手を取らせていただきました」

 

「お姉さん?」

 

「フルマー姉様のことです」

 

そうだった。ライアンはフルマーの妹なんだったな。

イメージが湧かないから、すぐにピンと来なかったぜ。

 

そういえばルドルフも、後輩のことだと言っていた。

フルマーちゃんのことだったのか。

 

「フルマーちゃんがどうかしたの?」

 

「はい、実は先日──」

 

そうしてライアンは、メジロのお屋敷で見聞きした

一部始終を、話して聞かせてくれた。

 

「──といったことがありまして」

 

「う~ん、そっかあ」

 

内容は、なかなかに衝撃的なものだった。

 

当主自ら引退勧告してくるんか。

しかも、そんな絶対的存在の言葉を、フルマーちゃんは拒否した。

その背景にあるのは、“俺の存在(ファミーユリアン)”だと。

 

「姉は、ファミーユリアンさんとの有記念での対決を、

 乾坤一擲の思いで迎えると思います。ですので……」

 

「わかった、それ以上は言わなくていいよ」

 

ライアンの言葉を途中で遮り、皆まで言うなと頷いて見せる。

 

ただでさえ、近走は低迷が隠せないフルマーちゃんのことだ。

それが、当主の勧告を無視しての最後の一戦だということ以上に、

海外遠征で不在の間を託した俺への思いに応えたい、という一心もある。

 

……重いなあ。

何だこのクソでかクソ重感情は。

 

「不在の間を引っ張ってもらってたお礼もあるしね。

 近いうちに直接会って話してみるよ」

 

「ありがとうございます。そこまでしていただけるとは

 思ってませんでした。姉も喜ぶと思います。お願いします」

 

ライアンはそう言って、何度も頭を下げて退室していった。

 

それにしても……

ライアンの行動力にも驚かされたけど、メジロの内情、

そしてフルマーちゃんの激重な覚悟も何というか……

 

ピークを越えた上に、

健康面でも不安の出てしまったの俺で、応えられるだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人目がやってくる時間になった。

 

「失礼します」

 

時間きっかりにノック音がして、

ドアを開けて入ってきた1人のウマ娘。

 

身長は並みくらいだろうか。

鹿毛の髪を後ろで縛ってポニーテールにして、

水色地で赤い2本のラインの入った耳カバーを両耳にしている。

【挿絵表示】

 

 

……あれ?

この子、なんとなく見覚えのあるような気が……

 

「いらっしゃい。まあ座って」

 

「はい」

 

変な既視感を覚えながら、まずは着席を促す。

 

対面に座った彼女を、改めて見つめてみる。

……やっぱり見覚えがあるような。

 

どこかで会ったことがあるのか?

それとも、単なる錯覚だったり?

 

「ふふ」

 

戸惑っていたら、唐突に、彼女から笑みが漏れた。

 

()()()()()()に、ようやく会えた」

 

「へっ?」

 

そんな彼女から放たれた言葉に、困惑度がさらに増す。

思わず変な声が出てしまった。

 

大嘘つき? 誰が? 俺が?

 

そんな嘘をついた覚えは……

というか、やっぱりこの子、どこかで会ったことがあるんじゃ?

じゃないと、昔から知っている、みたいな言い方にはならないよな。

 

「トレセン学園に行けばまた会えるって言ってたのに、

 やっと入学してみたらいなくて、大嘘つきって罵っちゃった」

 

「……」

 

「でもいいや。約束通り、こうして再会は果たせたから」

 

戸惑う俺をしり目に、微笑む彼女。

再会? やっぱり前にどこかで会ってる?

 

「貴女は覚えてないかもしれないけど、わたしはしっかり覚えてる。

 実は、はじめましてじゃないんだってね」

 

「……」

 

俺は何も言えず、ただ彼女の言葉を呆然と聞くしかない。

 

「まあ無理もないけどね。わたしはあるイベントの中で、

 大勢接した有象無象のうちの1人に過ぎなかったんだから。

 でも、全く覚えてないっていうのもショックだな~」

 

「……」

 

「こう言っても思い出さない?

 『また転ぶのが怖い。痛いの嫌だ』」

 

「っ……!!」

 

そう言われた瞬間、脳裏にフラッシュバックする当時の記憶。

 

 

 

 

 

「ねえ君、走るの好き?」

 

「好き。でも、また転ぶのが怖い。痛いの嫌だ……」

 

「実はね、お姉ちゃんも骨折してるんだ。それも足を、2回」

 

「2回!? 痛くなかった?」

 

「そりゃね。でもこうやってまた走れてるんだ。

 骨折しちゃったのは残念だけど、君の場合は腕なんだから、

 諦めずに頑張れば大丈夫だよ」

 

「そうかな? トレセン学園に行けば、またお姉さんに会える?」

 

「会える会える。今度はトレセン学園で会おうね」

 

「うん、わたしがんばる!」

 

 

 

 

 

「……言った! 確かに、学園で会おうって言った!」

 

「思い出してもらえた?」

 

思い出したことを伝えると、嬉しそうに目を細める彼女。

ああ、あのとき頭を撫でてあげた時と同じ表情を……

 

「……大きくなったね」

 

「うん」

 

ホントに見違えたよ。

そうか、トレセン学園に入学できたのか。

 

あれから何年経ったのか、

ちょっとすぐには思い出せない。

 

「あのとき言えなかった名前、言うね。

 あとから母さんに、なんで言わなかったんだって怒られたんだ。

 大スターに覚えてもらえるチャンスだったのにって」

 

そうだ、結局あの時は名前を聞けなかった。

いつかは聞けると思っていたのが、今ここに現実のものに。

 

「わたし、ヤマニングローバルっていいます。

 改めまして、よろしくお願いします。ファミーユリアン先輩」

 

自己紹介し、にこっと笑う彼女。

 

ヤマニングローバル!*1

……あ、あー! そうか、そういうことだったのか!

 

イベントから帰ってきて、やたらシービーパイセンが

感謝してたのが思い出される。

 

シービーの代表産駒の一角だもんな。

そりゃウマソウルが熱心に囁いてくるよ。

 

すべてが腑に落ちた瞬間だった。

 

「そんな、他人行儀な呼び方しなくていいよ。

 君と私の仲じゃない、普通に名前で呼んで」

 

「いいの? じゃあ、リアンさん」

 

「うん」

 

「へへ」

 

当時と同じような笑い方するなあ。

かわいいったらありゃしない。

 

「こっちはなんて呼べばいい?」

 

「好きに呼んでいいよ」

 

そう言われるとなあ。

ヤマニンは冠だから他と被りそうだし、

かといってグローバルちゃんではちょっと長い。

 

略してもグロちゃんじゃ、グロいとかと重なってなんか嫌だ。

 

「お友達には何て呼ばれてるの?」

 

「普通にヤマニンさんとか、グローバルさんとか。

 だからどう呼んでくれるのか、ちょっと期待しちゃうな~?」

 

うぐぐ、ハードル上げよってからに。

どうしよう……これは責任重大。

 

「よし、じゃあ、私は『ローバルちゃん』って呼ぶよ」

 

「ろーばる? わお、新鮮な響きだ~」

 

「嫌だった?」

 

「ううん。リアンさん専用って感じでいいよ。

 うん、すっごくいい!」

 

「よかった」

 

思いつきも甚だしい呼び方だったが、

本人も喜んでいるからこれで行こう。

 

「骨折はちゃんと治ったんだ?」

 

「うん、この通り。もうデビューもしてて、

 3連勝中なんだよ。重賞も2つ勝ったの!

 デイリー杯と東スポ杯!」

 

「へえ、すごいじゃない」

 

「えへへ、すごいでしょ!」

 

自慢気に胸を張って見せるローバルちゃん。

この年齢にして、相応に素晴らしいものをお持ちのようで。

 

すでにデビュー済みで、重賞2つ含む3連勝とは、

凄いどころの話じゃない。エリート街道まっしぐらじゃないか。

 

さすがレジェンドジョッキーが三冠の器と評しただけはある。

 

「今度はホープフルステークスでG1に挑戦するんだ。

 有終わった後だから、リアンさんも応援に来てくれるよね?」

 

「あ、うん、行くよ」

 

「えへへ、やった。わたしがんばる!」

 

子供みたいな無邪気な笑顔しおってからに。

まあこの年じゃまだ子供か。

 

この顔とセリフも、あの当時と被って良き。

 

「でも、朝日杯じゃないんだね?」

 

「トレーナーがね、クラシックを見越して、

 早い段階で2000m経験しておいたほうがいいっていうからさ」

 

「へえ、そうなんだ」

 

なかなか先の見えるトレーナーさんのようで安心した。

早くもクラシックを見据えているわけね。

 

「リアンさんは、2000より短い距離は走ってないね?」

 

「そう言われてみればそうだね」

 

2000m未満のレースへの出走経験はないな。

言われるまで全然意識してなかったけどさ。

 

マイル戦とか出てみたらどうだったかな?

 

「リアンさんとお別れした後、わたしね──」

 

「はいはい」

 

その後も雑談を交えつつ、ローバルちゃんといろいろ話をした。

数年分の思いが一気に出てくるわ出てくるわ。

率直に言って圧倒されてしまって、相槌を打つのが関の山だったよ。

 

次走だというホープフルも勝てれば、ジュニアチャンプの可能性高いな。

すでにG2を2勝しているから、最有力なのは間違いない。

 

まあ朝日杯の結果次第だけど、そっちには誰が出るのかな?

ずっと海外だったから、国内の、

それもジュニア級戦線にはちょっと追いつけてない。

 

なんにせよ、目標に向かってお互い頑張ろう!

……フルマーちゃんの件もあって、俺のほうは気が重いけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、ライアンにも頼まれてしまった、

フルマーちゃんへのアフターケアに関して、だが。

 

正直、どうしたものかと思っている。

 

いきなり俺から、会って話をしたいと言われたら、

フルマーちゃんのほうは驚いてしまうのではないだろうか。

 

それも何事かって身構えてしまうような気がする。

さらに間の悪いことに、成績が上がっていない状態で

呼び出されたりしたら……ってなるのは必定。

 

まあそれでも、会って話をしないことには始まらないし、

約束しちゃった以上は、会わなきゃいけない。

 

ルドルフのやつなんかは「会いたいと言えばイチコロ」、

なんて気軽に言ってくれるが、当事者はそんな心境にはなれんよ。

 

……はあ。

覚悟決めて、メールしますか。

 

『こんにちはフルマーちゃん、お久しぶり。

 会って話をしたいから、都合の良い日時を教えて』……と。

 

余計なことは一切書かず、単刀直入の文面にしておいた。

そのほうがいいかと思ってね。

 

やれやれ、まったく……

 

今は自分自身のことでも手いっぱいだというのに、

なんやかんやと湧いて出てきて困ったものだ。

 

まあ、身から出た錆かね。

 

『確認しますので少々お待ちください』

 

フルマーちゃんの返信は、さほど待たずに送られてきた。

 

やっぱりメジロのお嬢様ともなると、

日常からスケジュールの確認が必要なんだなあ。

 

俺はいつでもいいから、確認が済むのを待ちますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、フルマーちゃんのほうも俺の都合に合わせますとのことだったので、

早いほうがいいかと思い、翌日の放課後、

同じように面談室の予約を取って、落ち合うことになった。

 

そうしてやってきた約束の時間。

待たせては悪いと思って、10分前に面談室の前まで行ったところ

 

「ごきげんよう、ファミーユリアンさん」

 

なんと、すでにフルマーちゃんが待っていて、

俺の姿を見るなり、優雅な仕草でカーテシーを決められてしまった。

 

「早めに来たつもりだったんだけど、

 ごめん、お待たせしちゃったね」

 

「いえ、私が早く来すぎただけですから」

 

いつものように微笑むフルマーちゃんだったが、

やっぱりどこか愁いを帯びているように見える。

 

……悲壮感が漂っているなあ。

俺と話すことで、少しでも気が晴れてくれたらいいんだが。

 

「じゃあ入って話そうか。カギは預かってきてるから」

 

「はい」

 

ドアの鍵を開けて、連れ立って室内へと入り、

向かい合って腰を下ろす。

 

「久しぶりになっちゃったね」

 

「海外へ行っていらしたので仕方ありませんよ。

 ご挨拶が遅れました。素晴らしい御成果おめでとうございます。

 そして、おかえりなさい」

 

「うん、ありがとう」

 

流れるような言葉回しで述べて、頭を下げたフルマーちゃん。

 

ライアンから聞いた限りでは、

俺と合わせる顔がないって嘆いていたらしいけど、

今のところそんな様子は見受けられないな。

 

「凱旋なされた際にお出迎え出来なくて、まことに申し訳ございません。

 あの日はどうしても都合がつかず……」

 

「いいよいいよ。自由参加だったんでしょ?」

 

「本当に申し訳ありませんでした」

 

いや、訂正。そんな都合なんてなかったことは、

ライアンの証言で既に裏が取れているわけだが、

無理に嘘をつかなければいけないくらいには追い詰められているようだ。

 

やれやれだな……

 

「ときに、フルマーちゃん」

 

「っ……はい」

 

ここらで本題に入るか、ということで切り出すと、

気の毒なくらいにビクッと反応を示したフルマーちゃん。

 

本当、俺のほうが申し訳なくなってくるよ。

 

「フルマーちゃんこそお疲れさま。

 それで、ありがとね」

 

万感の思いを込めて、感謝を伝えて頭を下げる。

数秒してから頭を上げてみたら

 

「………」

 

まさしく、 ( ゚д゚ ) ってな感じで、

こちらを見つめているフルマーちゃんがいた。

 

え、何その顔は?

お嬢様が浮かべていい表情じゃありませんよ?

 

「そ……そのような……

 感謝をされる謂れなど、今の私には、何も……!」

 

フルマーちゃんは視線を左右に泳がせた挙句、

先ほどまでの落ち着きとは打って変わって、

所々で詰まりながらも、早口でそうまくし立てる。

 

「そんなことないよ」

 

焦りまくっている彼女をこれ以上刺激しないように、

努めて優しく語りかけた。

 

「私がいない間の日本を盛り上げてもらったじゃない。

 G1も勝ってるでしょ?」

 

「……で、ですが、勝ったと言っても大阪杯だけで……

 それ以降は……特に宝塚では、ものの見事に自滅してしまって……」

 

わたふたしながらなんとか言葉を紡ぐフルマーちゃん。

 

「……直接、託していただいていながら、この体たらく。

 まことに、まことに申し訳なく……!」

 

ついには言葉にすらできなくなってしまったか、

ここまで言って項垂れてしまうフルマーちゃん。

 

……もう見ていられない。

 

「ごめんね」

 

謝りつつ立ち上がり、フルマーちゃんの横へと移動。

 

「やっぱりそれが原因で苦しめちゃったね。

 私のやり方が悪かった。もっと別の方法で伝えるべきだったね」

 

「そんなっ──ぁ……」

 

「ごめんね、フルマーちゃん」

 

え!?という感じでこちらを見上げてきたフルマーちゃんを、

座ったままで、腕を回して頭を抱き寄せた。

 

体勢の差があるから、自然と胸に抱き寄せる格好になる。

 

「君は十分にやってくれたよ。

 だから、ありがとう」

 

「……お怒りでは、ないのですか……?」

 

「怒る? まさか。感謝こそすれ、怒るわけなんかないよ」

 

「……ぅ」

 

「ありがとう。ありがとう、フルマーちゃん」

 

「~~~ッ……!」

 

「よしよし」

 

静かな嗚咽が聞こえ、身体の震えが伝わってくる。

緊張の糸が切れてしまったようだった。

それでも号泣にまで至らないのは、育ちの良さか。

 

こうなるともう幼子と変わらない。

孤児院時代を懐かしく思いつつ、泣き止むまであやし続けた。

 

 

 

 

 

「もっ、申し訳ございません……!」

 

何分たったのか。

不意にフルマーちゃんがそう言い出して、パッと離れた。

 

「お見苦しいところを……!」

 

「はい、ティッシュ」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

真っ赤になって大慌てになっているところへ、

すかさずポケットティッシュを渡して得点稼ぎ。

赤い顔がさらに赤くなって、大変かわいらしい。

 

こう言うと人間の屑だと思われてしまうかもしれないが、

名家のお嬢様が普段は絶対に見せないであろう姿を堪能できるというのは、

数少ない役得だと思ってしまっていいのかな。

 

「落ち着いた?」

 

「……はい」

 

俺の問いに、恥ずかしそうに頷くフルマーちゃん。

顔は綺麗になったが、それでもまだ目元は腫れたままだ。

目も充血していてまだ赤い。

 

「重ね重ね、私の伝え方が悪くてごめんね。

 君1人に背負わせるような格好になっちゃったか」

 

「いえ、貴女は悪くありません。

 期待に応えられなかった私がみんな悪いんです」

 

まだ言うか。

でも表情も口調も明るくなったから、もう大丈夫かな?

 

「今後はどうするのかな?」

 

「有記念に出ます」

 

次走を聞いてみると、フルマーちゃんは、

決意に満ちた顔でそう答えた。

 

「私の最後の一戦になります。ですので……」

 

「わかった。私もそのつもりで臨むよ」

 

「はい、お願いします。ありがとうございます」

 

フルマーちゃんの決意に応じるべく、俺も頷いた。

彼女は嬉しそうに口元を緩め、頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はあ~っ」

 

退室していったフルマーちゃんを見送ってから、

大きく息を吐きながらどっかと腰を下ろす。

 

とりあえずはこれでOK、と。

 

フルマーちゃんは有が最後になると言っていたが、

俺のほうも最後になりそうなのは、伝えられなかった。

 

もしかすると出走することすらできないことにも……

いや、どうにかそれだけは避けたいところだけれども……

 

「俺の身体が、どこまでもってくれるか、だな」

 

自分の胸に手を当てながら、呟く。

これを聞いていた者は、誰もいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フルマー、ライアン姉妹のやり取り

 

「……ん? 姉様からメールだ。

 『大変! ファミーユリアンさんから会いたいってメールが!

  ど、どうしましょう……!?((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル』」

 

「ファミーユリアンさん、さっそく行動してくれたのかぁ。

 感謝です! それはそうと、姉様、なんでそんなに焦ってるの?」

 

「『羨ましいなあ。せっかくのお誘いなんですから、

  そのまま会ってくればいいじゃないですか』……と」

 

「え? 『こんな状態で会うことなんてできないわ』?

 何言ってるんですか! 会って話さないことには始まりませんよ」

 

「『だめ……会えない 』『恥ずかしすぎて……』『無理><』

 『きっと不甲斐ない私にお怒りなんだわ……』

 だーもう! 四の五の言わず話してきなさいっ!」

 

 

*1
現実では、ライアンやマックイーン、アイネスフウジンらと同世代。デイリー杯まで3連勝して将来を嘱望されたが、管理調教師が予後不良レベルというほどの骨折でクラシックを棒に振る。主戦だった武豊をして「G1を4つ(三冠、有馬)損した」と言わしめるほどの大器だった。復帰後もG2を2勝した





ローバルちゃんから漂う、某フレンズ的なケモノ臭

仮にリアンが海外遠征する場合、初戦は何が良いですか?

  • ドバイワールドカップ
  • ドバイシーマクラシック
  • ガネー賞(仏)
  • クイーンエリザベス2世カップ(香港)
  • アメリカ遠征
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