転生孤児ウマ娘の奮闘記   作:しょうわ56

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第100話 孤児ウマ娘、真・芦毛対決を見る

 

 

 

さて突然ですが、俺は今、箱根に向かう列車の車中にいます。

 

え? どういうことかって?

 

簡単に言うと、しばらくまともにトレーニングもできないので、

ならば温泉にでも行ってゆっくりしておいで、

というスーちゃんの計らいで、温泉地に向かっているところなんだ。

当然変装して、周囲にバレないようにね。

 

1週間くらいいていいってさ。

なんか1番のホテルの1番良い部屋を予約してるとかって言ってたけど、

楽しみなような恐ろしいような。

 

大変ありがたい気づかいで、

もちろん温泉を堪能してくるつもりでございますよ。

 

新宿駅をお昼発の特急に乗り込んで、

売店で買ってきた弁当を食べつつ、同時に購入した専門誌、

今度のジャパンカップ特集でも読みますか。

 

駅弁ひとつで足りるのかって?

 

十分だと思うよ。

もともと小食だったのは皆さんご存知だと思うけど、

ここに来てまた食が細ってきちゃったからね。

 

ピークアウトした影響だろうってスーちゃんが言ってた。

入院した際に全く食欲が出なかったこともあって、

運動もダイエットもしてないのに、あっという間にキロ単位で痩せました。

 

ウマ娘の基礎代謝半端ないって。

いやマジで。

 

今は少しガレ気味かもしれない。

まあそれはさておき、駅弁開けましょうか。

 

えーと、もぐもぐ……

なになに?

 

外国勢の分析からか。

 

え~……

筆頭に挙がってるのは、豪州のベタールースンアップ*1

コックスプレートほかG1・6勝の強者。

 

こいつは史実でもJC勝ってたな。

それが今回なのかはわからん。

 

残念ながらそこまで覚えてないけど、

記事の最初に来ているくらいだから今回がそうなのかも。

 

同じく豪州のスタイリッシュセンチュリー。

G1を2勝している。

 

次は、フランス出身で今はアメリカ所属のオード。

サンクルー大賞でインザウイングスの2着に来ている。

 

もぐもぐ……どんどん行こう。

 

アメリカのアルワウーシュ。

G1をイタリアで2勝、米で1勝している。

 

フランスのフレンチグローリー。

どこかで見たなと思ったら、BCターフに出てた。

カナディアン国際優勝、BCターフでは7着。

 

出身アイルランド、現在アメリカのプティットイル。

愛セントレジャーを制した経験あり。

 

同アイルランドのファントムブリーズ。

こちらはG1での目立った実績はない。

 

イギリスのカコイーシーズ。

G1を1勝、BCターフでは9着。

 

そしてこいつ、ゴリラ女こと自称セレブ、イブンベイ。

BCで表明していた通り、また日本にやってきた。

俺は出走できなくてごめんなあ。

せいぜいレースをひっかきまわしておくんなましよ。

 

キングジョージと凱旋門賞で見た顔、ベルメッツ。

 

えーと、もう1人いるのか。

えっと……えっ?

 

まさか、という名前が最後に、写真と共に載っていた。

 

ホーリックス。

現状G1を3勝。史実では『事件』とまで云われた、

オグリとの死闘を世界レコードで制したニュージーランドの女傑。

 

去年来てなかったから、この世界では存在してないのかと

思ってたけど、そうか、オグリの登場が遅れたから、

彼女の来日も遅れたという塩梅か。

 

写真で見る限り、芦毛のロングヘア、

赤と緑のオッドアイという、凄いかわいい子だった。

 

とすると、何か?

ベタールースンアップとホーリックスという、

オセアニアの歴代勝者が同時に2人来ちゃってるのか。

 

これ、どうなるんだろうな?

 

イブンベイがまた逃げるんだろうが、

ホークスターはいないし、他に絡むようなヤツは見当たらない。

 

まあ仮にいたとしても、去年とBCでのあの鬼畜めいた

逃げ足を見せつけられたら、絡んでいこうという思考にはならない。

 

……え?

BCでしっかり絡んでいったおまえが言うなって?

 

しょうがないじゃん。勝負を挑まれちゃってたし、

あそこであいつの殺気を跳ね返せるようならやってたしさあ。

 

でもまあその通りですね、はい。すいません。

 

以上、外国勢総勢11人。

 

揃ったねえ。

近年の外国馬の姿がめっきり減ったJCとは見違える。

 

時代と言えばそこまでだけど、

古き良き時代を忍ばせる感じがして俺は好き。

 

対して、迎え撃つ日本勢としては、

タマちゃんとオグリの二枚看板。

 

この2人は直接対決の戦績からして五分なように、

まさに甲乙つけがたい存在だ。

 

今回も、ホーリックスを加えた芦毛の3人で、

三つ巴の争いになるんじゃないかと期待できる。

 

ほかには、オサイチとホワイトストーンの名前が見えるくらいで、

スターオーちゃんファルコちゃんやイナリ、クリークらは有1本に絞る形。

 

はてさて、どういったレースになりますやら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はふぅ」

 

温泉に浸かって、力を抜いて身体をだらりと伸ばす。

 

はあ、いい湯だ。

実際そんなことはないんだろうが、全身の疲れが

溶け出していくような気がするよ。

 

まだ時間が早いせいか、俺1人の貸し切り状態だ。

決して他人様にお見せできないような格好でも、

こうして気にしないでいいのは助かる。

 

「……はぁ」

 

もうため息しか出てこない。

それくらい疲れてたってことか。

改めてスーちゃんたちに感謝である。

 

しばらくそうやってボ~ッとしていたら……

 

「Can I sit next to you?(隣よろしいかしら?)」

 

「っ……!!」

 

突然すぐ横から聞こえてきた英語に、ビックリ仰天。

 

外国人旅行者でも入って来たのか。

そりゃ東京近郊では有名な温泉地だから、外国人も来るわな。

いやそれより、みっともない格好を見られたほうが恥ずかしい。

 

「Go ahead(どうぞ)」

 

「Thank you」

 

慌てて姿勢を正し、頭を切り替えて、

どうにか英語で返すことができた。

 

相手は声からして若い娘のようだ。

許可を出すと、彼女は1mほど離れた位置に腰を下ろした。

 

でもさ、これだけ広いんだから、

俺のすぐ隣に入ってくることないんじゃないか、とも思う。

 

「………」

 

「………」

 

しばし、彼女との間に気まずい空気が流れる。

 

チラリと横目で確かめてみたら、大きめなウマ耳が見えた。

なんと彼女もウマ娘か。

 

旅行者? 競技者? 両方という可能性も考えられる。

俺のように、トレーニングの合間の命の洗濯という線もあるし、

わからんな。欧州はシーズンオフに入ったから。

 

どこの子だろ? 英語圏なのは間違いないか。

流暢な発音だったし。

 

長い髪をアップにしているようで、毛色は芦毛だった。

 

「……ひとつ、聞いてもいいかしら?」

 

どれくらいたった後か。

彼女のほうから、そう声をかけてきた。

 

なんだよ、日本語喋れるんじゃないか。

さっきの緊張感を返してくれと思いつつ、答える。

 

「なにかな?」

 

「あなたは、どうしてそこまで強くあれるの?」

 

「………」

 

質問の内容が意味不明だ。

いったいどういうことなんだ?

 

「あなたは何のために走るの?

 いったい、誰のために?」

 

相変わらずよくわからないが、ひとつ言えるのは……

 

「質問が3つになってるんだけど?」

 

「……ごめんなさい」

 

いつのまにか質問が増えている件について。

俺がそう告げると、彼女は俯き加減に謝ってくる。

 

というか、さ。

こんなこと聞いてくるってことは、俺の正体バレてるよね?

まあ特にウマ娘ならそうなるかあ。

風呂の中では変装もできん。

 

いやー、初見の外国の娘でもわかるくらいになったか。

なんか照れると同時に誇らしい。

ドバイも凱旋門もBCも勝ったからなあ。えっへん。

 

それはさておき。

 

「君も走っているのかな?」

 

「うん」

 

「そっか」

 

この子もレースをしていると確定した。

 

まあ体つきからして想像はできたさ。

小柄なほうだと思うけど、しっかり鍛えてるようだしね。

 

「何のために、誰のために走る、か。

 永遠のテーマだねぇ」

 

「……」

 

「君は知っているかわからないけど、

 私はね、孤児なんだ。生まれてすぐに捨てられて、

 運よく孤児院に拾われて育てられたの」

 

「What's? Really?(ええっ? 本当に!?)」

 

「うん、本当」

 

「……信じられない。貴女ほどの人が、そんな境遇だなんて。

 てっきりエリートなのかと思ってたわ」

 

驚きのあまり、一瞬だけ母国語に戻る彼女。

そりゃまあ初めて聞いたら驚くよなあ。

 

「よく、ここまで強くなれたわね」

 

「そりゃ苦労したもの。色々な人に助けられながら、

 ひたすら努力努力努力、だよ」

 

「……嫌にはならなかった?」

 

「まあ、イエスとは言えないね」

 

諦めかけたこともあった。

だけど、色々な人の助けがあって、今がある。

 

「これも知ってるかわからないけど、

 私はそんな生まれだから、チャリティとかもやっててね。

 世の中の恵まれない人のための活動してるんだ」

 

「……」

 

「だから原動力としては、そこになるのかな?

 私を拾って、育ててくれた人のために。

 私をここまでにしてくれた人に、恩返しをするために走ってる」

 

「………」

 

彼女は、俯き加減のまま、俺の話を黙って聞いている。

 

「君には、そういう人はいないかな?

 友人でも、ご両親でもいいと思うよ?」

 

「……いるけど」

 

そう応じた彼女は、その先を言うのを幾分か躊躇った後、

衝撃的な言葉を口にした。

 

「アタシは……期待されるのが怖い」

 

「怖い? どうして?」

 

「だって……いくら結果を残しても、

 人々が見ているのは“アタシ”じゃなくて、他の誰か、

 なんだもの……」

 

どういう意味だ? 詳しくはわからないが、

どうやら周囲に恵まれている状況ではないようだ。

 

決して虐められてるとか、期待されてない、

ってことではないようだけど。

 

「『第二の〇〇』『彼女を超えられそうか』『〇〇の代わりに』

 ……散々そう言われてきたわ。

 誰も、本当のアタシ、アタシ自身を見てくれていないの」

 

……ははぁ、なるほどねぇ。少し読めた。

 

要するに、どれだけ努力して勝とうが何だろうが、

周りが見ているのは先ごろの人や別の人であって、

誰も彼女自身を見ていないというわけだな。

 

つらいのう。努力して結果が出ても、

全部他人との比較にされるんじゃ、そりゃ怖くもなるわ。

 

でもそんなこと言われるってことは、

君自身も相当に強いってことだよね?

 

「アタシ……どうしたらいいの……

 がんばってもがんばっても、アタシを見てもらえない。

 こんなの、もう耐えられない……」

 

「勝つしかないさ」

 

「えっ……?」

 

ビックリしてこちらを見つめてきたのが分かった。

でもそれは無視して、正面を見据えたまま、話を続ける。

 

「自分が自分である、他の何者でもないっていうなら、

 勝って勝って勝ちまくって、私は私なんだということを

 証明し続けるしかないさ」

 

「……」

 

「そうしたら逆に、今度はいま比較されてるその人が、

 強くなった君と比べられるようになるよ」

 

「……」

 

「少なくとも、私はそう思うな。

 だからそのときそう呼べるように、お名前を教えてほしいな?」

 

「………」

 

そう言って彼女のほうへ初めて顔を向けると、

彼女は茫然と、こちらを見つめている。

 

そしてしばらくすると、ぷっと噴き出した。

 

「何よそれ。頑張ってきた人に対して、

 もっと頑張れって言うの」

 

「そういうこと。

 結局のところ、努力はし続けるしかないってことさ。

 諦めたところが終着点になっちゃうからね」

 

某先生が言ってたみたいにさ。

諦めなければ、道は開くさ。

 

「……わかったわ」

 

そう言って頷いた彼女は、

バシャッと水しぶきを上げながら立ち上がった。

しなやかな肢体が露わになる。

 

ほぉ……小柄だけど、出てるところは出て、なかなか……

 

って、そうじゃない。

エ〇目線はいかんぞ。

 

「ミズ・ファミーユリアン。

 貴女に会えて、話ができてよかった」

 

そのまま立ち去ろうとする彼女。

いやだから、君の名前──

 

「今度のジャパンカップを勝って、

 アタシがアタシであると証明して見せるわ。見てなさい」

 

──ん?

なぜここでジャパンカップの話が……?

 

「それじゃ、ここでね。Bye!」

 

そう言って、去り際に見せてくれた笑顔。

かわいい。……じゃなくて。

 

その瞳は気付いてみれば、左右で色が違っていて……

電車の中で見た、雑誌に載っていた写真が蘇る。

 

!! あ、待って、待って待って!

もしかしなくても彼女──

 

混乱する俺をしり目に、彼女は湯船から上がり、

浴場自体からさっと出て行ってしまった。

 

「……なんてこったい」

 

しばらく、彼女が去っていった方向を見つめて、

ずるずると滑り込むようにして身体をお湯へと沈める。

 

なんでこんなところにいるんだよ……!

というか、なんで出会っちまったかなあ……

 

「タマちゃんオグリぃ……ごめんよぉ……」

 

これは完全に、敵に塩を送ってしまった。

2人には弁解のしようもない。

 

罪悪感と、彼女の正体に気付かなかった恥ずかしさとで、

急速に身体が火照っていく。

 

「………」

 

頭のてっぺんまでお湯に沈む俺。

意識が少しずつ薄れていく。

 

 

 

直後に入ってきた一般の人に発見され、

ひと騒動になるのはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ってなわけで、金曜日の午後に学園に戻った。

 

もう少し滞在していてもいいと言われてはいたんだけど、

週末も丸々空けてしまうのは、また違うと思ってさ。

ジャパンカップは現地で見なきゃと思ってもいるし。

 

「お、帰ってきよったな」

 

寮の門をくぐろうとしたところで、早速かけられる声。

 

「温泉どやったー先輩?」

 

「疲れは取れただろうか?」

 

振り返ると、タマちゃんとオグリが並んで立っていて、

こちらへ笑顔を向けていた。

そのまま小走りに駆け寄ってくる2人。

 

「ああうん、堪能してきたよ」

 

「そりゃあよかったなー」

 

「何よりだ」

 

ああ、改めて思うけど、この芦毛コンビはいいよね。

見ているだけで癒される気がするよ。

真っ先に帰ってきたのに気付いて、

心配して声をかけてきてくれたのもポイント高い。

 

……それだけに、利敵行為してしまったのが悔やまれる。

 

「2人とも、仕上がりはどうかな?」

 

「おかげさんでバッチリや!

 気力体力ともに充実しとるで~」

 

「私もばっちりだ。誰にも負けない自信がある」

 

「お、言うやんオグリぃ。

 ウチにも負けへんつもりか~?」

 

「ああ、そのつもりだ」

 

「はは、そっか。期待できそうだね」

 

2人とも調子は上々のようで、

俺がそう言うと、揃って力強く頷いてくれた。

 

「何より先輩が出てへんジャパンカップを、

 外国のパッと出なんかに獲られるわけにいかへんからな」

 

「安心してくれ。大先輩がいなくても、

 私たちがタイトルを守って見せる」

 

「頼もしいなあ」

 

2人の頼もしさと言ったら。

ああ本当に大きくなってくれたねぇ。

まあ史実的にわかっていたことだけれども。

 

「タマちゃん、オグリ」

 

「なんや?」

 

「どうしたんだ?」

 

「……ごめんね」

 

だから先の件もあって、謝らずにはいられなかった。

 

「な~にを言うとるんや。水臭いで先輩」

 

「そうだ。謝る必要なんかないじゃないか」

 

「先輩は出られんことに負い目感じてんのかもしれへんけど、

 体調が整わへんのやから仕方ないやん。

 今回はウチらに任せておけばええんや。なあオグリ」

 

「ああ。大船に乗ったつもりでいてくれ」

 

「……ありがとね」

 

2人の気遣いがあったかい。

でもなあ、さっきの『ごめん』はそういうことじゃないんだ。

 

本当に、余計なことをしてしまった。

ただの海外の子かと思って、迂闊すぎたわ……

 

せめて2人が負けないように、現地で応援はさせてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほんっとーに、先輩が出てたら、

 なんて言われてもうたらあかんで、オグリ」

 

「ああ、そうだな。

 いっそう気合を入れなきゃいけないな、タマ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『第10回ジャパンカップ、まもなく発走となります』

 

『締め切り直前の1番人気はオグリキャップ。

 2番人気タマモクロス、3番人気はベタールースンアップです』

 

以下、イブンベイ、カコイーシーズ、ベルメッツと続く。

ホーリックスは9番人気である*2

 

前走ではタマモに敗れているオグリだったが、

人気では今回もタマモを上回った。

 

『さて注目の展開ですが、記者会見で堂々と逃げ宣言したイブンベイ。

 去年のように逃げますでしょうか』

 

『ファミーユリアンの回避を残念がってましたからね。

 間違いなく逃げるでしょう。他に有力な逃げウマもいませんので、

 単騎逃げになると思います』

 

『去年のようなハイペースになりますでしょうか?』

 

『競り合う相手がいませんから、去年ほどにはならない

 とは思いますが、彼女のことですからわかりませんねぇ』

 

気分屋なところは嫌というほど見せつけられているため、

ふとしたことで、去年並みにもなりうる。

 

逃げるのは確定として、果たしてペースはどうか。

 

『対する日本勢ですが、オグリキャップとタマモクロスが双璧となります。

 どのあたりに位置しますか』

 

『オグリはおそらく中団、

 タマモクロスはオグリよりは後ろだと思います』

 

『前走では前に行ったタマモですが?』

 

『距離が400m伸びますし、ダービーなどで勝ってもいる距離ですから、

 本人も自信を持って走れるでしょうからね』

 

『なるほど。さあスターターが台に向かいました。

 ジャパンカップ、ファンファーレです!』

 

ここで発走時刻を迎え、ファンファーレが高らかに鳴り響く。

同時に枠入りが始まり、各バが順調に収まっていった。

 

『態勢完了しました。

 海外から帰ってきた絶対王者が不在の中、

 ジャパンカップを制するのは誰か。……スタート!』

 

『予想通りイブンベイ飛び出しました』

 

特にアクシデント等はなく態勢は整い、無事にスタート。

内枠からイブンベイがあっという間にハナを奪った。

 

 

 

 

 

「おほほほほ!」

 

相変わらず、走りながら絶叫するイブンベイ。

 

「ファミーユリアンさん! 貴女がいないのは残念デスが、

 やることに変わりはありません。

 ワタクシの走りをしかとご覧アソバセ! おほほほほっ!」

 

彼女は猛然と加速していく。

 

 

 

 

 

『イブンベイ先頭で1コーナーを回っていきます。

 早くも5バ身のリード。2番手オサイチジョージ、プティットイル、

 カコイーシーズ、スタイリッシュセンチュリーあたり並んでいる』

 

『オグリキャップは中団8、9番手くらい。

 タマモクロスはオグリを見るような格好』

 

中団につけたオグリをマークするように、

タマモはオグリの直後に位置した。

 

『向こう正面に出てさらに飛ばしていくイブンベイ。

 後方はもう10バ身近く離れました』

 

『2番手オサイチジョージ。内にホーリックス上がってきている。

 カコイーシーズ、プティットイルもここです』

 

『1000mをいま通過。……58秒2!

 なんと昨年よりコンマ3秒早いペースで通過しました!』

 

ホークスターと競り合った昨年より、さらに早い。

2年前のリアンと比べても0.2秒早く、JC史上最速の逃げになった。

観客席から大きなどよめきが沸き起こる。

 

『オグリキャップ中団。依然それを見るようにしてタマモクロス』

 

オグリとタマモの位置関係は変わらず。

これはそのまま最終直線まで続くことになる。

 

『さあ飛ばしていくイブンベイ。

 どこまで持つのか。大欅の向こうを通過した』

 

『10バ身離れてオサイチ、ホーリックス追走。

 カコイーシーズが単独4番手』

 

『600標識を通過。

 イブンベイ先頭で直線に入ります』

 

直線に入って、客席がさらに盛り上がる。

 

『内からホーリックス上がってきて差を詰める!』

 

『外からオグリ来た!

 そのうしろタマモクロスも上がってきている!

 さらにはベタールースンアップも来ているぞ』

 

坂下の段階で、先頭イブンベイの脚色が鈍りつつあり、

内からホーリックスがあっという間に差を詰めた。

外からはオグリと、それを追う形でタマモクロスが脚を伸ばす。

 

『府中の坂! ああっとイブンベイさすがに失速!』

 

坂に差し掛かって、イブンベイはスタミナ切れを起こしたか、

急速に勢いを失い沈んでいく。

 

『代わってホーリックス先頭に立った』

 

『オグリとタマモクロス迫る!』

 

坂上でホーリックスが完全に抜け出した。

そこへオグリとタマモが外から襲い掛かる。

 

『オグリかわせるか? オグリがんばれ!』

 

場内は、実況を含めてすべてがオグリの味方。

大歓声が彼女の背中を押す。

 

しかし……

 

『ホーリックス先頭! オグリ迫るも詰まらない!』

 

すぐ後ろまでは迫ったが、それ以上にはいかない。

先の天皇賞と同じ格好だ。

 

『ホーリックス! オグリ! タマモクロス!

 芦毛3人の壮絶な競り合いになった!』

 

『うしろベタールースンアップは離れている』

 

内ホーリックス、中オグリ、外タマモ。

オグリが長身であるだけに、左右の小柄さがまた目立つ。

 

4番手ベタールースンアップとは3バ身あり、

脚色の差もあって、優勝争いは芦毛の3人に絞られた。

 

『ホーリックス粘る!』

 

『ゴール目前! オグリとタマモなおも迫るがかわせない!』

 

『ホーリックスが一歩抜け出て先頭でゴールインッ!

 2着争いオグリとタマモは接戦です!』

 

『ベタールースンアップ4番手入線』

 

『ニュージーランドのホーリックスです!

 南半球出身の娘が初めてジャパンカップを制しました!』

 

根性を見せて抜かせなかったホーリックスが勝利。

オグリとタマモも最後まで追ったが、僅かの差で届かなかった。

 

実況でも触れたとおり、南半球出身者が勝ったのは初めて。

オーストラリアのベタールースンアップも4着に入り、

これまで軽んじられてきたオセアニアにおけるレースのレベルが、

証明された瞬間でもあった。

 

 

 

 

 

第10回ジャパンカップ  結果

 

1着 ホーリックス    2:23.2 

2着 オグリキャップ     クビ

3着 タマモクロス      ハナ

4着 ベタールースンアップ   3

5着 オード        アタマ

6着 カコイーシーズ    アタマ

7着 ホワイトストーン   1.1/2

8着 イブンベイ        1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あああああああああ……

やっぱりこういう結果になっちまうんか……

 

今日は俺が目立つわけにもいかないんで、

スタンド上階の貴賓室から大人しく見守っていたわけなんだけど、

俺は今ほど、穴に入りたいと思ったことはない。

 

()()がなかったら、オグリかタマちゃんが

勝っていたかもしれないと考えると、非常に居たたまれなく……

 

うしろにいるURAの皆さんからの視線が、

心なしか痛く感じてしまうほどで。

 

でも、アレを放っておくこともできなかったしなあ。

あそこで出会ってしまったことが運の尽きか。

 

……そう思ってあきらめるしかない。

うぅ、ホントのホントに、タマちゃんにオグリごめんよぉっ。

 

こうなった以上は、あの子、

ホーリックス嬢にも、アフターフォローをしておかなきゃいかんね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勝利インタビューを終え、控室に戻ったホーリックス。

 

「……久しぶりに良い気分だったわ」

 

現在では格上の存在である日本のG1を、

オセアニア勢として初めて制した。

それはもちろんであるが、それ以上に嬉しかったのは

 

「あそこまで“アタシ”を見てくれたのは、初めて」

 

勝利インタビューで、相応の扱いを受けたことである。

 

慣例としてインタビューがあることは知っていた。

どういう扱いをされるのか、母国でのことがあったため、

あまり気乗りしない状態で迎えたのだが、

日本のマスコミは想像した以上に、いや、

想像を絶するレベルで、『勝者』を称えてくれたのだ。

 

自国の者の勝利ではないのにもかかわらず、である。

 

「ホーリックスさん、ホーリックスさん! ですって。フフッ」

 

インタビューの模様を思い出し、思わず笑みが漏れるホーリックス。

そんな彼女のもとに、1人の使者が訪れる。

 

「ホーリックスさん、とある方より、

 メッセージを預かっております」

 

彼女はURAの職員を名乗り、こう言って、

メッセージカードを手渡してきた。

 

「メッセージ? 誰から?」

 

「さあ、私は預かっただけですので。

 確かにお渡ししました。では私はこれで」

 

それだけ言って、退室していった彼女。

変なのと思いつつ見送って、受け取った封筒を眺めてみる。

 

表面には、裏表共に何も書かれていなかった。

開封してみる。

 

すると……

 

「……あ」

 

本文の後ろに書かれていた差出人の名前に、

小さく声が漏れる。

 

「『FamilleLien』……」

 

先日、とある温泉で偶然顔を合わせた、()()()からだった。

そうだとわかった途端、急いで本文の内容を確かめる。

 

「『Congratulations!

  You get nothing if you don't try.Just do it!』」

 

(やらなきゃ何も得られない。為せば成る……か)

 

手書きのその内容。

先日の彼女との会話が蘇り、十分に実感を得ることができた。

だから、頷く。

 

「わかったわ。もっとがんばって大きくなってみせるから、

 見てなさい、ファミーユリアン!」

 

 

*1
史実勝者

*2
史実の勝利時も9番人気





ファミーユリアン、敵に塩を送るの巻
ゴシップ誌に悟られたらマズイ!w

温泉で出会ったのは本当に偶然
彼女は温泉好きなようなので、レース前に趣味を満喫していも不思議じゃない、
ってことでこんな展開に

シングレのように健康ランドで出会うよりは、
説得力あるんじゃないかと思ってます(汗)

で、初対面の相手に、いきなりこんな深刻な悩みを相談するか、
ってことですけど、著名な相手ならまた違うと思うのですよ

それも世界のトップ中のトップですからね
わざわざ近づいて声をかけた時点で確信犯
思わず相談したくなるのも、無理なかろうということでおひとつ



本編100話到達。そして本作も2周年となりました。
これもひとえにお読みいただいた皆様のおかげです。
本当にありがとうございます!
もう少しだけお付き合いください。



そして3周年情報量エグすぎw
とりあえずドゥラとオルフェは確保しようと思います。
……友人? んなもん二の次や(諦め)

仮にリアンが海外遠征する場合、初戦は何が良いですか?

  • ドバイワールドカップ
  • ドバイシーマクラシック
  • ガネー賞(仏)
  • クイーンエリザベス2世カップ(香港)
  • アメリカ遠征
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