ジャパンカップの翌日
「先輩すまんっ!」
「申し訳ない」
たまたま学園内で顔を合わせたタマちゃんとオグリ。
会うなり、いきなり頭を下げられた。
この反応だと、わざわざ俺を捜していた可能性が高い。
何事?
「でかいこと言うといて、結局勝てへんかった。
詫びのしようもあらへんっ」
「努力はしたんだが、あと一歩及ばなかった……」
「ああうん、謝ることなんてないよ」
そういうことね。
衆人環境だからまた困る。
こんなんじゃ、俺が勝利を強要したとか誤解されかねん。
「勝負なんだし、勝敗は時の運とも言うでしょ?
堂々と戦った結果なんだからしょうがないよ」
「「しかし……」」
「しかしもかかしもナシ!
はい頭上げて。この件はこれでおしまい。手打ち!」
「……ホントーにすまん」
「……ああ」
いまだ落ち込んだままの2人の肩をポンポンと叩いて、
強引に話を終わらせる。
こうでもしないと、いつまでたっても引きずられそうだ。
まったくもう、やれやれだな。
成田空港にやってきた。
いや、俺がどこかに行くわけじゃないよ。見送りだ。
誰を見送りに来たかと言えば……
「ファミーユリアンさんっ!」
ロビーに轟くいつもの大声。
こらーっ、お忍びで来てるのに、でかい声で呼ぶんじゃない!
見ろ、周りの一般の方々が、何事かとざわめき始めたじゃないか。
「来てクダサイましたのネ!」
「うん」
つばの広い帽子に、ドレス姿というセレブルックの彼女。
言わなくてもわかるだろうけど、イブンベイだ。
今日離日すると聞いたんで、連絡を取ってもらって、
こうして落ち合ったというわけだ。
「最後、一緒に走れなかったから、これくらいはと思ってさ」
「ありがとうございます。
デスが、最後などと言わず、また一緒に走りましょうネ!」
「ああうん、どうかな」
「ぜひ!*1」
機会があれば、と言いそうになったけど、たぶんもう、ない。
いや、確実にないと思う。
ニコニコしてるイブンベイには悪いけど、走れてもう1戦だろうか。
「色々とお世話になりマシタ!
またきっとどこかでお会いしましょう」
「うん」
差し出された右手を、おそるおそる手に取った。
……痛くない。
「同じミスは繰り返しませんワ。セレブですもの♪」
俺の様子を見て、したり顔で言うイブンベイ。
さすがに学習してくれたようだ。
逆に言えば、それまでは学習しなかったのかというのと、
BCのときの俺の悲鳴がよほど堪えたらしい。
「それでは、また。
英国にお越しの際は、ぜひともご一報くださいマセ」
「うん」
「シーユー♪」
「じゃあね」
終始上機嫌だったイブンベイが、
ゲートに消えていくのを、幾ばくかの寂しさと共に見送った。
師走になり、いつまでもトレーニングしないわけにはいかない。
スーちゃんと相談して、そろそろ再開してみるかということになった。
もちろん体調を見ながらにはなるが、
やってみないことには始まらないから。
「……リアンちゃん」
準備運動していると、歩み寄ってきたスーちゃんが、
遠慮がちに声をかけてきた。
「有馬記念。本当に出るつもりなの?」
遠慮がちだったその理由。
またその話か、ということ。
「あなたほどの実績を上げたのなら、もう──」
「ストップ」
なので、途中で話を遮った。
その話は、事前に散々したはずなのだ。
「それはもう終わった話ですよ。
私は有馬に出るべきなんです。いや、出なきゃいけない」
「……」
このまま何も言わずに現役を終えることもできるだろう。
しかしそれは、誰も望んでいないバッドエンド。
何より俺自身が、それでは到底納得できない。
「だから、出ます」
「……わかったわ」
それだけ言うと、スーちゃんも小さく息を吐きながらではあったが、
頷いて指示を出してくる。
「それじゃあまずは軽く1周してみて、
問題がないようなら、
「はい」
スーちゃんの言葉に頷いて、
準備運動もそこそこに、コースへと入る。
今日は周りも騒がしい。
というのも、帰国して以来初めてのバ場入りだけあって、
マスコミ関係者が多数、取材で押し寄せてきているからだ。
その時はぜひとも取材させてほしいと猛烈なプッシュがあり、
スーちゃんも学園側も押し切られてしまったとのこと。
今も盛んに、俺の様子を撮っている。
ちょっと恥ずかしい。
「……ふ~」
なんか緊張するなあ。
怪我から復帰して、初めて走った時以上かもしれない。
気持ちと呼吸を落ち着けて、ゆっくりと走りだす。
たくさんのシャッター音、フラッシュの光が瞬く。
それは徐々に後方へと遠ざかっていった。
コースを1周して戻ってきた。
足を止めると、すかさずスーちゃんが寄ってきて声がかかる。
「大丈夫そう?」
「そうですね、今のところは」
「よし」
頷くスーちゃん。
手にしているクリップボード上の紙に、何やら書き込んでいる。
「じゃあ次は、15-15*3くらいで1周しましょうか」
「わかりました」
しばらく走ってなかったんで、
正確にタイムを刻めるかという不安もあるけど、
とりあえずやってみるか。
よし、行ってきます。
「……はぁ」
1周してきて足を止める。
息が切れるというほどじゃないものの、
少し呼吸が乱れてしまった。
うぬぅ、やっぱり身体はなまっているなあ。
有馬までにどこまで戻せるか。
「さすがね」
再び歩み寄ってきたスーちゃん、
ストップウォッチを見ながら、うれしそうに声をかけてきた。
「ほとんど完璧なラップよ。
体内時計は衰えてないわね」
「そうですか、よかったです」
よかった、ホッとしたぜ。
そっちまで衰えてたら、もうお手上げだった。
「体調はどう? 息苦しさとかはない?」
「大丈夫です」
「疲れは? 身体は重くない?」
「少し。でも問題ないですよ」
「よし」
ひとつひとつチェックするようにして、頷くスーちゃん。
手探りというか、状態を見つつ確認しながら、
というのがこっちとしてもよくわかるな。
本当、心配ばかりかけてごめんなさい。
「じゃあもう1本やって、今日はおしまいにしましょう。
それで明日になっても問題が出なければ、
また明日から徐々に負荷をかけていきます。いいわね?」
「了解です。ではいってきます」
「ええ、気を付けて」
再度のスーちゃんの励ましとシャッター音に送られて、
もう1周するために走り出した。
11月末時点での、国際ウマ娘ランキングが発表された。
ダートI部門にて、すでに136ポンドで
過去最高評価をもらっていたわけなんだが、
BCクラシックでのパフォーマンスが評価されて、
プラス3ポンドの139ポンドをいただいてしまった。
芝ダートの違いはあるにせよ、
あのダンシングブレーヴをも超える数字。
一部報道によれば、史上初の140ポンドもありなんじゃないか、
なんて議論もあったらしい。
芝のほうでも、凱旋門賞でのレコード樹立が評価されたか、
芝L部門で3ポンド上積みの137ポンドとなった。
恐れ多いことこの上ないが、厳しい状況の中では、
一筋の明るい光明である。
これを励みにして頑張りたい。
少なくとも、評価に恥じない走りをしないといけない。
数日たって。
「……はぁ、はぁ」
負荷が相応にかかってくると、当然、負担も相応になるわけで。
今も追切を1本終えたところなんだが、
体力が完全に戻ってはいない状態にせよ、
1本だけでこんなに息が切れるのはまずいなあ。
それに加えて、筋肉痛が遅れて出てきていること。
これじゃ衰えというより老化じゃないか。
「きつそうね。ここまでにしておきましょう」
「はい……」
厳しい表情でスーちゃんが言う。
また不整脈が出ても困るし、素直に応じた。
再発したら、有馬どころじゃなく、
即刻引退なんて事態になるのは目に見えている。
急がなければならないのも事実だけど、
無理してはいけないのもまた事実。
もどかしいけどしょうがない。努めて自制せねば。
「……着信? チヨちゃんからか」
更衣室に戻って着替えて、スマホを手に取ったところで、
チヨちゃんからの着信があることに気付いた。
彼女からのメッセージも久しぶりだな。
怪我のリハビリを邪魔しちゃ悪いと思って、
俺から直接連絡を取るのは控えていた関係で、
実に久しぶりのコミュニケーションになってしまった。
「ええと? 『お話したいことがありますので、
お時間があるときにご連絡お待ちしています』……か。
何の話かな?」
また何かの相談だろうか?
遠慮しがちなチヨちゃんがわざわざ言ってきたくらいだから、
それなりのことであろうことは想像に難くない。
ちょうどいい。
トレーニングも予定より早く終わっちゃったことだし、
今から直接会って話そうじゃないか。
もちろんチヨちゃんの都合がつけばだけど。
「『じゃあ会って話そうか。今から出てこられる?
トレーニング早く終わったから、カフェテリアにでも
行こうかと思ってたところなんだ』……と、送信」
その旨を書いて送ると、返信はすぐに来た。
お礼と、すぐに行きますとのこと。
ではカフェテリアで落ち合いましょう。
「急なのにすいません」
久しぶりに会ったチヨちゃん。
普通に歩いてきてたので、順調に回復しているようだな。
「あ、ご挨拶が遅れました。
海外での勝利と無事な帰国、おめでとうございます」
「ありがとう。もう会う人会う人そう言われるよ」
「1ヶ月も遅れてしまって、申し訳ないです」
「大丈夫だよ」
お互い、通常の状態ではなかったからね。
特に俺のほうは、さ。
「脚はだいぶ良くなったみたいだね?」
「あ、はい。スターオーさんに紹介していただいた
施設でのリハビリが非常に順調でして。
あそこって、元はリアンさんが通われていた所なんですよね?」
「厳密に言うと、私も紹介してもらったクチだけどね」
良い方向へ作用しているようで何より。
この分なら、史実より復帰も早まりそうだし、
結果を出すこともできるだろうか。
「本当にすごいです。復帰まで1年以上はかかる、
もしかすると復帰できないかもって最初は言われてたんですけど、
年明けにはトレーニングを始められそうでして」
「へえそっか、よかったね」
「はい! 引き続きリハビリ頑張ります」
うん、がんばれ。
オグリとの関係で色々大変だろうけど、
クラシック二冠ウマ娘の意地と矜持を見せつけてやるんだ。
「それで、話っていうのは何かな?」
「はい、その、妹のホクトのことなんですけど」
「ホクトちゃん?」
そういえば、彼女も今年入学してたんだったな。
もうデビューしたのか?
「デビュー戦、特別と連勝できまして、
今度の朝日杯でG1に挑戦するんです」
「ほお、それはすごい」
デビュー済みで連勝してたのか。で、朝日杯挑戦と。
史実では確か勝ってて、兄弟制覇になったんだっけ。
こっちの世界でも、姉妹制覇に挑戦するわけだ。
「それはぜひとも応援に行かなきゃね。
ホクトちゃんに伝えておいてよ。
あ、でも、プレッシャーになっちゃうかな?」
「あの子に限ってはそれはないと思いますよ。
むしろ張り切りすぎを心配しちゃいます」
「そっか。じゃあ伝えておいて」
「確実に伝えます。えへへ、ありがとうございますリアンさん。
私から言わなきゃって思ってたんですけど、
先に言われてしまいました」
「え、どういうこと?」
満面笑みを浮かべているチヨちゃん。
ん~? 何か先走っちゃったこと言ったか?
「実はお話というのは、ホクトの応援に来ていただけないかと、
お願いしようということだったんです」
なるほど? そういうこと?
「身勝手なお願いなので、どう切り出したものかと
思っていたんですが、リアンさんから言っていただけたので、
とても助かりました」
てへへ、と苦笑しているチヨちゃん。
それくらいなら遠慮なんかすることないのにね。
「本来なら、ホクト自身が出向いてお願いするのが筋なのに、
あの子と来たら、『おねえに任せた!』って……」
「あはは、ホクトちゃんらしい」
「笑い事じゃないですよぉ」
頬を膨らませるチヨちゃん。かわいい。
まあいいじゃないの。
その程度のおねだりなら安いものさ。
「本当にありがとうございます、リアンさん。
あの子、頑張ると思います」
「うん。あとは……」
「はい……」
ここで、俺とチヨちゃんの思いは重なった。
お互い苦笑するしかなくなる。
「雨が降らないことを祈ろうか」
「ですね」
また、テルテル坊主つくろうか?
「はあっ……はあっ……ゲホッ!」
追切を2本消化したところで呼吸が苦しくなり、
思わず膝に手をついて咳き込んでしまった。
ああ、まずいなあ……
走力に関しては徐々に取り戻しつつあると感じているが、
走った後が本当にやばい。
以前はなんでもないか、ほんの数分で回復していたところでも、
このような有様だからなあ。
……マジで潮時だなあ。
「リアンちゃんっ!」
そんな様子を見たスーちゃんが飛んでくる。
「大丈夫っ? 苦しいのっ!?」
「……だい、じょうぶ、です。はあはあ……」
「………」
俺の言葉に、無言で背中をさすってくれるスーちゃん。
苦しいのは確かだが、まだ実戦ほどじゃない。
このくらいで音を上げていては、有馬に出走なんてできない。
だけど……
本格的に危険を感じた。
「……スーちゃん」
呼吸が落ち着いたところで、告げる。
「あとで、お話があります」
「わかったわ」
厳しい表情だったスーちゃんが、フッと微笑んだ。
きっと察してくれたのだと思う。
この日のトレーニング後、俺は自分の気持ちを彼女に打ち明けた。
スーちゃんは労うように頷いた後、黙って了承してくれた。
朝日杯の前に、孤児院へ行っておこうと思う。
有馬を控えている中、今週を逃すと、
出走の前に訪れる機会はなさそうだから。
理事長に頼んで、預けておいた凱旋門賞のトロフィーを
一時的に返却してもらって、それを手に孤児院へ向かう。
子供たちへも大量のお土産を用意した。
「おかえりなさい、リアンちゃん」
「ただいま」
いつものように、
聖母のようなやさしげな笑みで迎えてくれた院長。
「これ、凱旋門賞のトロフィーです」
「まあまあ、そうなの」
トロフィーを見せて、職員の皆様方と改めて喜びを共有して、
子供たちにお土産を渡して、ひとしきり騒いだ後、
空気を読んだ職員の皆さんのおかげで、院長と2人になる。
「なるべく早くと思っていたのに、
1か月以上もたっちゃいました。すいません」
「いいのよ。大変だったんでしょう?」
「まあ、そうですね」
病気のことも、一応は伝えてある。
院長は、気にしないでと笑うだけだった。
「ときに、リアンちゃん」
「はい」
「
「!!」
一発で言い当てられてしまった。
敵わないなあ、この人には。
「バレバレですか」
「バレバレです。
赤ん坊の頃からあなたを見ているんですよ」
相変わらず、院長は優しく微笑んでいる。
別に隠すつもりはないんだし、何よりそれを伝えに来たんだし。
緊張する必要は全くないんだけど、やっぱり少しは力んでいたようだ。
でも、院長から踏み込んでくれたおかげで、綺麗さっぱり消えた。
「実は──」
もっと言いにくい、伝えづらい雰囲気になったらどうしようかと
思っていた懸念など何のそので、実に呆気なく伝えることができた。
院長は黙って聞いていて、「お疲れ様」と微笑んで言ってくれた。
……その後は言うまでもないだろう?
乙名史さんにも伝えておいたほうがいいだろうな。
いつだかに、私に言う前に発表したりしませんよね、
って泣きつかれちゃったからな。
先に言っておかないと、大変なことになりそうだ。
その模様の想像をしてしまい、苦笑しながら、
電話帳を開いて彼女へダイヤルする。
「もしもし乙名史さん? 電話で失礼します。
実は──」
伝えた時の彼女は、まさに茫然自失。
これ大丈夫かと思ったが、大丈夫じゃなかったようだ。
のちに漏れ聞いたところによると、
この後の彼女はまさに放心状態で、
しばらくは何も手につかなかったそうだ。
『サクラホクトオーだ。サクラホクトオー勝ちました!』
『昨年のチヨノオーに続いて、姉妹で朝日杯制覇です!』
1番人気に推されたホクトちゃん、
期待に応えて見事勝利し、姉チヨちゃんに続いての朝日杯勝利。
「やったー! おねえっ、リアンさーん!
あたし、やったよ~!」
大喜びな様子で飛び跳ねながら、こちらに手を振るホクトちゃん。
いいねぇ、よかったねぇ。
なんか、彼女の姿がすっごく眩しく感じる。
やっぱり若さっていいなあ。
「リアンさん、ありがとうございます。……うぅ」
「チヨちゃんが泣いてどうするの」
「す、すいません。でも……ぅぅっ……!」
「ああ、はいはい」
チヨちゃんも妹のこととはいえ、大感激しているようで、
大粒の涙をこぼしながら泣き始めてしまった。
確かに、雨というだけで外に出ることすら嫌がっていた
あの様子からしてみたら、ここまで大成してくれた喜びは察して余りある。
でもまだジュニア級だからね?
あくまで本番はクラシックでしょ?
クラシック戦線でも、姉に続いてもらおうじゃないか。
「ホクト、ジュニアチャンピオンになれるでしょうか?」
「うーん」
ホクトちゃんが引き上げるとチヨちゃんも落ち着いて、
今年度の表彰について言及してきた。
チヨちゃんには悪いけど、分は悪いな。
このあとのホープフルには、すでに重賞を2勝している
ローバルちゃんが出てくるし、ローバルちゃんが勝つとすると、
ジュニアチャンプは彼女で決まりだと思う。
それと、こっちのほうには驚かされたんだが、
阪神JFを勝ったのがゴールドシチーなんだよな。
随分年代がずれたが、彼女もあの容姿だからインパクトは十分。
もしホクトちゃんが選ばれるとしたら、
ローバルちゃんが大敗したというときのみで、
ゴールドシチーとの比較になり、彼女は負けがあるから、
デビュー3連勝での戴冠だし、6対4で若干有利かなというところ。
「うぅ、自分の時以上にドキドキします……!」
チヨちゃんが朝日杯出走を悩んでいた様子も思い出されるねぇ。
僅か1年前の出来事か。
なんか遠い昔のことように思えるよ。
……俺も年を取ったもんだ。
なお、前世分は加算しないものとする。
「それではこれより、第35回有馬記念、
事前記者会見を始めさせていただきます」
URA本部での記者会見に出席。
俺は、とある一大決心を持って臨んでいた。
出席者は俺のほかには、スターオーちゃん、タマちゃん、オグリ、イナリ、
クリーク、ファルコちゃん、そしてフルマーちゃんのファン投票上位勢、合計7人。
全員俺と関係あるじゃないかというツッコミはなしな。
ついに年末の大一番の記者会見を、
関係者で独占するというところまで来てしまった。
なんて恐れ多いのだろう。
「まずはURA理事長よりご挨拶を──」
URA理事長のあいさつを右から左に流しつつ、考える。
ところで、シリウスのヤツ、あれ以来一向に姿を現さないんだけど、
どうしてるんだろう? この有馬にも出走してないしさ。
帰国したとすら聞かないし、どこで何をしていることやら。
ルドルフに聞いてもわからないって言うし、なんだかな。
例の借りたやつも返せてないし、どうしろってんだよ。
仕方なく、ほんと~に仕方なくだが、また帯に仕込んで走ろうと思う。
「最初に、ファミーユリアンさんにお伺いします」
「はい」
程よく理事長の話を聞き流すと、
当然のように、俺に最初のマイクが回ってくる。
さて、本題だな。
機を窺いましょうか。
「4年連続でのファン投票1位*4での選出となりました。
これについてはいかがでしょうか?」
「ファンの皆様に感謝するしかありません。
特に今年は、まだ国内で走っていないのにもかかわらず、
たくさんの票をいただきました。ありがとうございます」
走ってないのに1位。
しかも、2位の倍以上の得票数。
本当に感謝の言葉もない。
「帰国されての初戦になりますが、調子はいかがでしょう?」
「正直なところ、調子はあまりよくありません」
シャッター音とフラッシュが乱れ飛ぶ。
正直に言うとは思わなかったかな?
「ですが、最善を尽くすことはお約束します」
どこまでできるかはわからんがな。
急仕上げにも程があるし、強いトレーニングもできなかった。
しかし、それはすでに報道されているので、
想定の範囲内だったか、そこまでの騒ぎにはならなかった。
「前人未踏の有馬記念3連覇がかかります」
「ええ、ぜひとも勝って
確か平地では、同一G1の3連覇もないんだよな。
最後に、その記録を作って終わりたいね。
……そう、
「すいません、ちょっとよろしいでしょうか?」
「え、あ、はい、どうぞ」
ここだとばかりに申し出る。
ごめんなさい、ほんの数分ばかし時間をもらいますよ。
「申し訳ありません。この場をお借りしまして、
ひとつ、大事なことを発表させていただきます」
周りがざわついている。
報道陣に限った話ではなく、他の出席している子たちも同様なのは、
わざわざ横を見て確かめるまでもない。
すまんねぇ。
レース後に発表することも検討したんだけどね。
それだと、なんで走る前に言ってくれなかったんだって、
下手するとレース自体を後悔しちゃう子が出かねないと思ってね。
だったら潔くレース前に、ちょうどいい発表の場があるから、
そこで報告しようと思ったんだ。
もっと早く発表しとけって?
うん、その通り。でもこれは俺のわがままだから、
許して許して。
「それでは発表します。
私にとっては、この有馬記念が、最後のレースになります」
一瞬の静寂の後、これまでの人生でも最大の、
大きなどよめきとシャッター音、そして無数のフラッシュが同時に襲い掛かってきた。
リアン、突然の引退宣言
一瞬にして大混乱に陥る会見場
はたして?
仮にリアンが海外遠征する場合、初戦は何が良いですか?
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ドバイワールドカップ
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ドバイシーマクラシック
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ガネー賞(仏)
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クイーンエリザベス2世カップ(香港)
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アメリカ遠征