「私にとっては、この有馬記念が、最後のレースになります」
俺の発言によって、たちまちのうちに、
会見場は大混乱となった。
集まっている報道陣は、一瞬にして大きな喧騒に包まれ。
司会者をはじめ、URA側も寝耳に水という感じで、呆気に取られている。
そりゃそうだ。
今日この瞬間まで、一部の人を除いて誰にも言ってないし、
打ち明けた人に対しても、箝口令をお願いしていた。
「と、突然何を言い出すのだね……?」
特に、URA理事長はショックが大きいようだ。
彼には直接、来年も走るつもりだって言っちゃってたからね。
正直、覆す格好になって悪いと思わないではないけど、
こちらとしても思うところがあったわけで、
あの時とは事情が変わったということもあるし、
申し訳ないけどそういうことなんすよ。
「えっと、あの、ファミーユリアンさん?
それは、その、今年最後のレース、という意味ではないですよね……?」
「そうですね」
「………」
司会のおねーさんが、少し的外れな質問をしてくる。
有馬は1年を締めくくるグランプリなんだから、
そんなことはわざわざ聞かなくても、というわけ。
混乱ぶりがよくわかるのう。
案の定、即答で頷くと、彼女は俯いて押し黙ってしまった。
「えー、混乱させてしまい申し訳ありません。
ですが、レース前に発表しておきたかったということで、
ご理解をいただきたいと思います」
「質問! 質問よろしいですかっ!?」
報道陣の一角から、そんな大声が飛んできた。
とりあえずは応じないと、この混乱は収まりそうにない。
「どうぞ」
「確認をお願いします!
今のご発言は、現役を引退する、との解釈でよろしいですか!」
「その通りです」
質問に応じて頷くと、再度のどよめきが沸き起こる。
そんな中、2人目の質問者が。
「では、ドリームトロフィーへの移籍ということですか?」
「いいえ」
こっちには、明確に首を振った。
「以降、レース活動は行いません。
完全に身を退きます」
3度目のどよめき。
まさか完全引退とは思わなかったか。
「理由を……理由をお伺いしてもっ!?」
「一身上の都合、とだけ、今は申しておきます」
「そ、そうですか」
3つめの質問には、それだけ答えた。
大きかったどよめきも徐々に収まっていき、
やがて会見場は沈黙に包まれる。
「勝手に始めておいて、何を、
と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが」
そのタイミングで、こう付け加えた。
「これは有馬記念の会見ですので、これ以降は、
有馬記念に関する質問のみにお答えします。
他の子の迷惑になりますし、引退に関しましては、
また別に機会を設けることをお約束しますので、そちらでお願いします。
申し訳ありませんがご容赦ください」
そう言って、頭を下げる。
手前勝手の極みだが、心よりのお願いだ。
絶対批判もあると思うけど、こればかりは譲れない、
というか理解してもらいたい。
『………』
引き続き、沈黙状態の会見場。
非常に重苦しい沈黙が続いた。
「やれやれ、完全にお株を奪われてもうたな。
最後の最後まで主役は譲らへん。さすがやで」
そんな沈黙を破ったのは、ウマ娘側からだった。
誰あろう、タマちゃんである。
「先輩、マイク貸してぇや」
「あ、うん」
俺からマイクを借りるというか、
許可を得る前にブン取ったタマちゃん。
何を言うつもりか?
「実はな、ウチも今年限りで引退して、
ドリームリーグに行くつもりやったんや」
タマちゃんからも衝撃発表がなされた。
多数のシャッター音、フラッシュから見て、
報道陣からしてみても同様だったようだ。
「な……タマ! 何を言うんだ」
ショックを受けたのは、オグリも同じだったらしい。
きっと来年も、手強いライバルと一緒に走るつもりだったんだろう。
抗議するように声を張り上げるも
「全盛期なのにもったいないって思う人もおるやろうけど、
こう見えて一杯一杯なんやで?」
当のタマちゃんは、それを無視するようにして話を続ける。
「この体格やし、ウチ最初から食が細うて大変やったんや。
どこぞのお節介な先輩のおかげでだいぶ改善したんやけど、
それでももう、第一線で踏ん張るんはしんどくてな」
確かに、どこぞの誰かさんが介入しなければ、
ダービーと菊の二冠はなかっただろうな。
介入した甲斐があったってもんだ。
……と、お節介が申しておきます。
「幸い、家族を養えるくらいには稼げたわけやし、
ドリームリーグに移るにはええ機会や」
そう言って、冗談っぽく笑ってみせる。
本当に史実以上には稼いだわけだしなあ。
「年下からの突き上げも厳しいことやしな。なあオグリ?」
「タマ……」
さすがのタマちゃん、オグリへのフォローも忘れてはいなかった。
ニマっと笑ってオグリへ笑いかけると、
オグリのほうも感じ入るものはあったようで、
感慨深そうに見つめ返していた。
「っちゅうわけで、お節介な先輩。
お礼参りといくで。ウチが勝って引導渡したるから、覚悟しときや!
綺麗に有終飾るのはウチやからな!」
「望むところだよ。返り討ちにしてあげる」
「言うたな~。っしゃー、やったろ!」
隣から強烈な宣戦布告がなされたので、応じておく。
お互い笑顔で頷き合って、健闘を誓った。
「タマモさん、私にもマイクを貸していただけますか」
「おう、ええで」
「ありがとうございます」
続けてマイクを欲したのは、フルマーちゃんである。
先んじて引退を決めているはずのフルマーちゃん、何を話すのか。
「尊敬し敬愛するファミーユリアンさんと、
奇しくも同じ日、同じ場にて発表ということになりましたが、
これも運命なのでしょう。むしろ良かったと思います」
柔和な笑顔と声で、さらっと言った。
「私もこの有馬記念をもって、現役を引退いたします。
お誘いもありましたが、ドリームトロフィーリーグには参りません」
最後に、と俺は聞いていたから、驚きはない。
周りも気付いていた節はあったのか、
俺の時やタマちゃんと比べると、動揺は少なかったようだ。
「体力的な限界を感じるようになり、結果も伴わなくなりました。
もっと早くに身を退いてしかるべきとも思いましたが、
どうしても、もう一戦したいと強く願ったわけでして、
有馬記念に参戦させていただく次第でございます」
しかし、相応のシャッター音とフラッシュがしていたように、
やはり衝撃として伝わるのだと思う。
「ファミーユリアンさん、お互い最後の一戦ということですが、
今の私にできる全力でお相手を。よろしくお願いいたします」
「うん、こちらこそよろしく」
頭を前に出して、末席にいるフルマーちゃんと顔を合わせ、
お互い納得して頷き合う。
俺の引退宣言に動揺していないかと心配したけど、
フルマーちゃんをはじめ、他の子たちは冷静に受け止めているようである。
外部に出ない学園での様子とかの情報を見聞きしているであろうからか、
外の人間たちよりは予期できていたのかもしれない。
こういうことを確認したかったからの、先ほどの発言でもある。
正直ホッとした。
俺のほうこそ、
全力で勝負することを誓うよ。
「フルマーさん、わたしにも貸してください」
「ええ、どうぞ」
次にマイクが渡ったのは、スターオーちゃんである。
おいおい、まさか?
「わたしもこの一戦で引退させていただきます。
あの大怪我から復帰できただけでも奇跡なのに、
こうして引退発表ができるなんて夢のようです」
予想通り過ぎて吹いた。……フイタ。
なんなの、この連鎖反応的な電撃引退発表は。
「原点から今に至るまで、わたしのすべては、
リアン先輩にあると言っても過言ではありません。
改めてリアン先輩に感謝するのと同時に、
最後の勝負になりますので、
悔いの残らないレースにしたい思いでいっぱいです」
相変わらず、俺への思いが重い(シャレじゃない)子だよ。
やれやれ、受け止めきれるかなあ?
こうして、第35回有馬記念の事前記者会見は、
4人ものトップウマ娘たちが同じ場で、それも相次いで引退発表するという、
異例中の異例という記者会見となった。
今回の『ファミーユリアンちゃんについて語るスレ』のコーナー
(国際ランキング更新に対する反応)
:国際ウマ娘ランキング更新
ファミーユリアン、史上最高値を記録!
https://www.umamusumenews.com/*******
12月1日に更新された国際ウマ娘ランキングにおいて、
ファミーユリアンが新たな金字塔を打ち立てた。
すでにダートにおいては136ポンドを得ていたが、
先のBCクラシックの結果を踏まえてさらに上積みし、
139ポンドという評価を獲得した。
この数字は、芝で138ポンドを得ているダンシングブレーヴ*1をも超え、
歴代でも単独の史上最高値となる。
また、芝のレーティングでも、既得の134ポンドから137ポンドへと
上方修正されており、芝ダート共に過去のレジェンド級とも
肩を並べる、いや、それ以上の評価を得ることとなった。
:めでたい!
:久々の明るいニュース
:妥当だな
:あの世界レコードだもの
:ダンブレを抜いたか!
:芝とダートの違いはあるとはいえ、
歴代1位は凄いな
:両方でランクインしてるのがおかC
:それも単独1位と2位だったからな
:そもそも芝ダートの二刀流できる子がそういない
:ましてやどちらも超々一流と来た
:まさに日本の至宝
:さすがリアンちゃん
:同じ時代を生きられることが幸せなレベル
:走る姿を見られたこともな
:ほんとデビューから追ってこられたことが誇りだわ
:甘いな
下手しなくても、デビュー前から追ってる人がいるぞ
:ファンクラブの初期メンとか、もはや伝説
:わい297番、呼んだか?
:297番! 297番じゃないか!(驚愕)
:生きていたのかワレぇ!(歓喜)
:懐かしいこのやり取り
:何もかもみな懐かしい……
:滑り込みFC初期メンktkr!
:最古参ニキ、まじ尊敬する
(有馬記念出走表明、に対する反応)
:ファミーユリアン、有馬出走へ!
https://www.umamusumenews.com/*******
複数の関係筋によると、ファミーユリアンが
有馬記念出走を決意したことが明らかとなった。
陣営からの正式発表はされていないが、
先のファン投票中間発表での圧倒的な結果から、史上初の4年連続となる
1位選出が確定的となり、出走の意思を固めた模様。
:マジか!
:え、本当に?
:朗報だけど、状態良くなったんか?
:そこはまだわからんな
:速報! ファミーユリアン、バ場入り
https://www.umamusumenews.com/*******
ファミーユリアンがトレーニングを再開した。
本日トレセン学園のコースに入り、
15-15でコースを2周して負荷をかけた。
海外遠征から帰国して以来、
初めてのバ場入り、トレーニングとなる。
改めて、出走の意思を明確に示した。
以下、ファミーユリアンのコメント
「久しぶりのトレーニングとなりましたが、
やはり身体を動かすのは気持ちがいいですね。
まだまだどうこうという状態ではありませんが、
大一番に向けて、努力します」
:おお
:トレーニングの記事も出たか
:とりあえず走れそうな状態なのは良かった
:レースできるところまで戻ってくれるか
:JCは悔しい結果になったから、
今度こそスカッとさせてほしいな
:もちろんオグリもタマモも黙ってはいまい
:対戦を熱望しているクリークもいるぞ
:JCが創設されてちょうど10年
日本勢が勝ったのはカツラギ、シービー、ルドルフと
リアンちゃんだけだな
:しかも、カツラギシービールドルフの3人は同着優勝だから、
きちんと勝ったのはリアンちゃんだけということになる
:それも連覇だ
:改めてリアンちゃんの偉大さがよくわかるのう
:待て、ルドルフも連覇してるだろ
:そうだった、めんご
:ファン投票の圧倒的さも頷けるというもの
:記事にあったとおり、4年連続1位となれば史上初
現記録もリアンちゃん自身が持ってる3年だからな
:リアンちゃん、記録いくつ持ってるのよ?
:調べるのが大変なくらいは
(有馬記念記者会見、に対する反応)
:出席ウマ娘、全員リアンちゃん関係者で草
:本当だw
:これは芝生えるwww
:ファン投票上位独占しちゃったからね、
仕方ないねw
:ここまで来た感が半端ない
:唯一シリウスシンボリだけがいない
:動向不明だからなあ
:BC後の情報がさっぱりや
:リアンちゃん、公の場は久しぶりたけど、
心なしかやつれてないか?
:確かに、頬がこけたような……
:ガレ気味?
:うーむ、これは心配
:レースとかいう状態ではないのかもしれん
:調子よくないというのは本当だったのか
:それでも出走しなければいけないというのがつらい
:こういう状況だからなあ
:ファン「出て」
ウマ娘側「出て」
URA「出て」
リアンちゃん「……お、おう」
こうですか?
:なんてわかりやすい構図
:トップはつらいよ
:それでも……
それでもリアンちゃんなら……!
:理事長、話なげーよ
:リアンちゃんの声をはよ
:お偉い人の話っていうのは、
どうしてこうも長いのか
:全国の校長先生、言われてるぞ
:やっとリアンちゃんの生声を聞ける
:待ってた
:久々の生声だ~
:……え?
:いまなんて?
:は?
:あああああああああ
:ええええええええええ
:まじで!
:いや、えあ、う?
:ま、待て落ち着け皆!
:まだそうと決まったわけじゃ……
:最後???
:引退……
:………
:うわあああああああああああああ
:うそぉおおおおおおおおおおおおお
:いやあああああああああああ
:聞き間違いじゃなかった……
:ドリームにも行かないだと……
:なんで……
:そんなあ
:………(虚無)
:俺も司会の人と同じ気持ちだった……
年末のグランプリで何を言っているのかと……
:理由は……言ってはくれないのね
:まあ、これ以上のものは得られないからなあ
:モチベの問題なんだろうか?
:身体的とか、健康上というのもありそうではある
:確かに、近走のレース後は大変そうだった
:残念だけど仕方ない
:今までありがとう!
:ちょ、まだ終わってないから!
:そうだ。有馬で有終といこう!
:えっ
:タマモ!?
:タマモクロスもかよ……
:えー
:2人続けての引退発表とか
:オグリ……
:オグリのマジで知らなかった感
:本当はこっちがサプライズしようとしてたんか
:ひときわちっこいからなあタマモ
:本格化前のリアンちゃん並みだしなあ
:知られざる苦労があったんだろうか
:お節介な先輩?
:誰?
:そらもう……
:そうか……だから慕ってるのか
:リアン派の筆頭としてはスターオーだけど、
どうやら負けず劣らずのものはありそうな感じ
:「返り討ちにしてあげるよ」
リアンちゃんマジ大ボス
:フラグ立ったな
:どっちの?
:ん?
:フルマー?
:まさか……
:フルマーまで!
:まあフルマーはこれで最後感が出てた
:近頃の成績見ると、記念出走みたいなもんやろな
:俺は忘れないよフルマー
:間違いなくリアンちゃん最大のライバルだった
:リアンちゃんの高速逃げについていけたのは彼女だけ
:好勝負をありがとう!
:だからまだ終わってない言うとろうが
:……え?
:おい
:スターオーおまえもか!
:なんなのこの会見
:怒涛の引退宣言ラッシュ……
:スターオーは復帰できただけでも御の字だろうて
:でも秋天で3着に入ってるんやで?
もうそういう次元じゃないんよ
:付き合わされてるオグリやファルコの心境はどうなんだろうな?
:燃えるか、萎えるか
:萎えるようじゃ先は見えてる
:ましてや大恩ある大先輩なんだしな
:だな
これで燃えないんじゃ男が廃るってもんだ
:女やぞ
:ウマ娘やぞ
:真面目な話、これだけ引退が重なると、
逆の逆を行ってさらに伝説感が増してくる
:おうよ
一時たりとも目の離せないレースになるぞ
:現地で見られる人が羨ましい
:当日の視聴率もすごいことになりそうだ
:この会見の視聴率もな
仮にリアンが海外遠征する場合、初戦は何が良いですか?
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ドバイワールドカップ
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ドバイシーマクラシック
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ガネー賞(仏)
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クイーンエリザベス2世カップ(香港)
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アメリカ遠征