『第35回有馬記念、本バ場入場です。
出走する各ウマ娘たちを紹介してまいりましょう』
各娘の本バ場入場に合わせて、場内へ紹介されていく。
『阪神大賞典を制したスタミナ自慢が最内枠に入りました。
消耗戦なら望むところ、1枠1番オースミシャダイ』
最初に登場したのは、内枠有利のコースで、
1番枠を引いた幸運娘。
意気揚々と返しウマへと入っていく。
『ご存知、絶対王者最大のライバルが2番枠。
共にラストランを迎える一戦で、
最後の勝負を制して有終を飾れるか。1枠2番メジロフルマー』
フルマーは堂々と歩いて入場すると、
コースに対して一礼してから足を踏み入れ、
返しウマへと入っていった。
『2000mを中心に重賞3勝の中距離のスペシャリストが
有馬記念に参戦します。2枠3番オサイチジョージ』
『この娘も息の長いベテランですが、
来年も現役続行を表明しております。2枠4番フリーラン』
『皐月賞ウマ娘が北の大地で見せた大逃げでの快勝劇。
今日も黄金の逃走劇が見られますか。
3枠5番は金色の輝き、トウショウファルコ』
艶やかな長い金髪をなびかせて、ファルコが入場。
ファンの声援に応えて軽く手を振ると、颯爽と返しウマに入る。
『最低人気でG1の2着に入った大穴娘、サンディピアリス。
3枠6番での出走です』
『対戦を待ち望んだ絶対王者との、最初で最後の一戦になります。
スタミナだけじゃないぞ、スピードをも兼ね備えた高速ステイヤー、
菊花賞ウマ娘は何を思うか。4枠7番スーパークリーク』
ゆっくりとした歩調でコースインしたクリーク。
特に何をすることもなく、そのまま返しウマへ。
『すっかり中央に馴染んだ“怪物”は、この秋、
まだG1未勝利です。もちろん結果に満足してはいないでしょう。
こちらも先輩と呼び慕う存在との最初で最後の勝負。
2番人気オグリキャップ、4枠8番からの出走です』
臆することなく、いつも通りの様子でコースに入るオグリ。
それに合わせて歓声が上がった。
だがそんな大歓声にも動じることなく、返しウマへ。
『地方出身といえばこの娘もそう。
G1勝利は先を越されてしまいましたが、
年末のグランプリ制覇こそ先んじたい。
悲願の中央G1初勝利となりますか、5枠9番イナリワン』
イナリワンは小走りにコースイン。
立ち止まることなく、返しウマに入っていった。
『こちらも長く活躍し続けるベテランの1人。
8か月ぶりの実戦ですが、しぶとく上位を狙います。
5枠10番からの発走、ミスシクレノン』
『アルゼンチン共和国杯2着からの転戦になります。
同じ距離で好走を図る、6枠11番リアルアニバーサル』
リアルアニバーサルが入場した直後、
これまでで1番の歓声が木霊した。
それもそのはず、この次の入場者は……
『ついに迎えてしまったラストラン。
無類の強さを誇った絶対王者にも、この時が来てしまいました』
ファミーユリアン、貫録たっぷりの歩いてのコースイン。
その後、客席のほうへ振り返り、笑みを浮かべて手を振ってみせる。
『積み上げたG1の白星、実に17個。
最後の走りをその目に焼き付けろ。
5ヶ国3大陸王者の雄姿を、未来へ語り継げ。
いま再び、私たちは歴史の証人となる。
圧倒的1番人気、ファミーユリアンは6枠12番』
紹介が終わったところで、リアンも返しウマに入る。
ここまでの子たちが4コーナー方向へ向かったのに対して、
リアンだけは1コーナーのほうへ走っていった。
『善戦が続く名脇役も、G1ではあと一歩二歩といったところ。
今日こそそんな二つ名を返上できますか、7枠13番ホワイトストーン』
『条件戦を3連勝で駆け抜け、重賞でも2着に入りました。
この勢いのままG1初制覇なるか。7枠14番ゴーサイン』
ここで三度、大きな歓声が巻き起こる。
『ダービー菊の二冠、天皇賞を春秋連覇したこの娘もラストラン。
その鋭い末脚は引退の花道をも華麗に演出するのか、期待しましょう。
3番人気白い稲妻タマモクロス、8枠15番』
歓声に応えるように、両手を大きく振りながら入場したタマモ。
よっしゃーとばかりにポーズを取ってから、返しウマに向かった。
『優勝直後の悲劇、そして大怪我からの奇跡の復帰。
波乱万丈なこの娘も現役最後の一戦を迎えます。真冬に2度目の、
そして有終の桜を咲かせるか。大外8枠16番はサクラスターオー』
スターオーは、まず大きく頭を下げてからの入場。
歩いてコースインすると、しばらくそのまま佇んでから、
満を持して駆け出して行った。
『以上、出走16人での争いになります。
第35回有馬記念、本バ場入場の模様をお伝えいたしました』
全員が無事にコースインし、発走地点へと向かう。
結局、1コーナー方面へ返しウマを行なったのは、
リアンただ1人のみだった。
発走時間まであと数分。
ゲートの後方にして、その時を待つ。
他の子たちはやはり気を遣ってくれているのか、
俺に近寄っては来ずに、距離を取ってくれている。
返しウマも、俺と同じほうへ来た子はいなかったな。
別に打ち合わせしたわけでも何でもないんだけどな。
大変ありがたく、1人のこの時間を使わせてもらおう。
こんな緊張感を味わうのも最後。
なんかもう、ドキドキしているのかしてないのか、
緊張しているのかさえ分からなくなってくるよ。
スタンドからも距離があるし、
あんなに大きかった歓声も、ここまでは届いてこない。
まあ今はそこまで騒いでないのかもしれないけど。
「時間です。集まってください」
程なく招集がかかり、ゲートのすぐ手前へ。
奇数番の内側から、順番にゲートの中へ入っていく。
さすが選ばれし優駿たちで、トラブルなど全くなく、
時間もさほどかからずに俺の番となる。
もちろん何の問題もなく、最後のゲートイン。
この狭い空間内の空気も、中から見る景色も、最後なんだよなあ。
「………」
しっかり味わって、記憶しておかなければ。
そんな思いで、ゲートの金属に触れ、撫でる。
……非常に冷たかった。
「かんりょ~」
態勢完了の合図がかかった。
よしっ、行こうかっ!
『第35回有馬記念、スタートしました!』
『メジロフルマー飛び出した。
好スタートからハナを切っていきます。
トウショウファルコも続いていく』
アクシデントなどもなく、全員が綺麗にスタート。
まず先手を取ったのがフルマーで、わずかに遅れてファルコが続く。
『ファミーユリアンは前の2人を見る格好で3番手』
『その他、有力勢は中団以降か』
リアンも決して悪いスタートではなかったのだが、
追いかけるという素振りもなく、3番手で落ち着いた。
『改めて前から見ていきましょう』
『先頭メジロフルマー立ちました。
1バ身でトウショウファルコ続いて、3コーナーから4コーナー』
フルマーとファルコが縦列に並ぶ。
『2バ身開いてファミーユリアン3番手』
リアンは3番手で4コーナーを回る。
『大歓声の中山レース場。
さらに2バ身開いて、オサイチジョージ、リアルアニバーサル、
ミスシクレノンこのあたり固まっています』
『その外にスーパークリーク』
『オグリキャップ、ホワイトストーンの2人が8番手9番手。
直後にサクラスターオー、ゴーサイン』
『3バ身ほど開いてフリーラン、オースミシャダイがいて、
後方イナリワンとタマモクロス並んでいる。
昨年と同様13、4番手くらいの位置取り』
『サンディピアリス最後方』
『1000mは59秒1で通過しました』
そこまでというわけではないが、それでもハイペース。
全体としてバ群は固まらず、バラけた展開になった。
『メジロフルマー先頭で向こう正面に向かいます。
2番手1バ身で変わらずトウショウファルコ』
態勢は変わらず向こう正面へ。
『ファミーユリアンも2バ身差で変わらず単独3番手』
『内からオサイチジョージ、リアルアニバーサル、
ミスシクレノンも変わらず。外めスーパークリーク』
このあたりも位置取りは変化しない。
ハイペースながら淡々と流れている。
『イナリワンとタマモクロス並んで後方。
さらにうしろにオースミシャダイ、フリーラン、
サンディピアリスぽつんと最後方で全く変わりません』
スタート直後から、各ウマ娘の位置取りが微塵も変わらないという、
異例なレース展開となる中で、真っ先に動くのは果たしてだれか?
『メジロフルマー先頭で3コーナーにかかります。
これで走り納めのメジロフルマーです。
どこまで行けるか、どこまで粘れるのか?』
『トウショウファルコも後ろに付けたままだ』
近走の成績から、実況もどこまで持つのかという考えのよう。
ピッタリと後ろにつけているファルコも、余力は残っているか?
『600標識にかかります』
もしや最終直線までこのままか?
そんな考えがよぎった時、レースは動いた。
『ファミーユリアンさあ動いた!
前のトウショウファルコに迫っていく!』
3番手のリアンが加速し、前との差を詰めにかかった。
途端に湧き上がる大歓声。
それと共に、続く各ウマ娘たちにも動きが生まれる。
『オサイチ、リアルらも加速したか?
スーパークリークも負けじとスパートに入った!』
リアンの後ろにいた数人もここぞとばかりに加速。
クリークも同様に反応を示したが、彼女の場合は、
他の子たちとの“決意”が違った。
(……見えた! ここですっ!)
彼女の目には、レースに勝つ、
憧れのお姉さまに勝利する道しか映っていない。
その『道』は、最終コーナーをショートカットする形で、
右斜め前方へと伸びていた。
「はああああっ!!」
彼女は当然そのコースへ進路を取るために、
身体を右へと倒し、内側へと猛然と切り込んでいく。
だがしかし、彼女のすぐ右隣には、他の娘がいた。
ドンッ
「っ……!?」
『あっと接触したか?
ミスシクレノン、リアルとオサイチ、バランスを崩した!』
『スーパークリーク4番手へ上がった!』
当然のように両者はここで接触。
ぶつかられた格好のミスシクレノンは、さらに内側のリアルアニバーサルに接触、
リアルアニバーサルは最内のオサイチジョージにも接触するという連鎖が起きてしまう。
この3人は、たまらず体勢を崩して後退する。
クリーク自身には影響が出ず、内へ入った彼女はラストスパートへ。
『メジロフルマー先頭で直線に入った。
トウショウファルコ2番手。追っているが差はどうか』
『今日は失速しない、失速しないぞ!?』
実況の声が上擦った。
前走までならここで失速してズルズルいくところで、
フルマーはなおも先頭をキープしているからだ。
『ラストランの意地! トウショウファルコも粘っている!
両者の差は1バ身半だ』
『ファミーユリアンも迫ってきた!』
『後方は横に大きく広がった!
オグリ抜けてきて5番手だ! スーパークリークも伸びる!
その後ろはイナリワンとタマモクロス並んで追ってきている!』
ファルコの後ろは、内からリアンがにじり寄る。
バ場の中ほどからオグリが迫り、クリークも脚を伸ばす。
その後ろの大外からは、イナリとタマモが並んで追い込み態勢。
『200を通過!』
『まだメジロフルマー先頭っ』
裏返る実況の声。
観客たちの歓声も最高潮を迎える。
どちらかといえば悲鳴に近いだろうか。
今日も早々に失速するだろうという予想に反して、
ゴールまで粘るんじゃないかというフルマーの逃げ足。
オグリやイナリ、タマモたちの追い込み。
そして何より……
『ファミーユリアンは依然3番手!
どうした、伸びないのかっ!?』
絶対王者の動向が気がかりだった。
3番手をキープしているものの、これまであった伸びが見られない。
もう直線半ばだというのに、そんな気配すらない。
やはり状態が悪かったのか。
『オグリ来た! ファミーユリアンをかわして3番手!
スーパークリークも王者をかわしたっ』
『お~っとその外からさらに凄い脚で追い込んでくる2人!
イナリとタマモクロス! 並んで一気に迫ってきたぁ!』
オグリとクリークがリアンを抜いたところで、
外から猛然と追い込んでくるイナリとタマモ。
オグリらをかわす勢いで、さらに前方のフルマーとファルコに迫る。
『メジロフルマー粘っている!
しかし最後に待っているのは中山の急坂だっ』
逃げ込みを図るウマ娘にとって共通の、
最大の敵が立ちはだかった。
それは、なんとか前を追おうという、
リアンにとっても同じ。
(……くそっ、足がっ……!)
強いトレーニングができなかったツケが回って来たのか、
ここに来て足が全く動かなくなった。
(まだ坂があるっていうのに……!)
最後の急坂が控えているのに、である。
しかもこの分では、『切り札』も使えそうにない。
そうこうしているうちに、オグリとクリークが
外からかわして行くのが見えた。
(……ここまでか)
終戦、という2文字が脳裏をよぎる。
引退レースで綺麗に有終を飾った馬はいるが、
それよりも、涙を飲んだ馬のほうがはるかに多い。
自分はここまで恵まれた。恵まれすぎた競技人生だった。
だからもう、このまま終わってもいい。
(……いや)
投げやり気味に諦めかけたところで、
自分の中の何かが待ったをかけた。
正体などわからない。
もしかすると、ウマ娘としての本能なのかもしれない。
肝心なのは、まだ“勝負”を諦めてはいけない、ということだ。
レース前に言われた異常を感じたわけでもないのだから、
ここで諦めてしまっては悔いが残る。
それに、真剣勝負を挑んできてくれている、
一緒に走った子たちに対して失礼だろう。
(負け……られるかぁっ!)
最後の気力体力を振り絞り、『切り札』を使うんだ!
「ぅ……おおおおおっ──!!」
……刹那。
リアンの視界は真っ黒に染まった。
『残り100!』
『オグリとスーパークリークがかわした!』
ついにオグリとクリークがフルマーを捉え、先頭に出る。
しかし
『外からイナリとタマモも飛んできたっ!』
『内オグリとスーパークリーク、外からイナリとタマモ!
それぞれ並んでの追い比べだ!』
それを超える勢いで、大外からイナリとタマモが強襲。
ゴール前50mにして、4人が横並びの事態となる。
『横一線でゴールイぃいンッ!』
『これはわかりませんっ!
いったい誰が勝ったのか!!』
4人はそれぞれ全く譲らず、内2人、外2人の離れたほぼ同時の入線態勢。
だが、勢いは外のほうが勝っている。
上がっていたゴールの大歓声が、直後に、悲鳴と怒号に変わろうとは、
この瞬間には誰もが思わなかっただろう。
後続勢が続々とゴール板を通過していく中……
『っ……! ファミーユリアンがゴールしていませんっ!
ゴール手前100mでうずくまっている!』
急坂の後中で、両膝をついた状態のまま動かない。
中継映像ではゴールの模様がアップで流され、
後方の様子はフレームアウトしてしまった。
また、現地の観客はゴールに注目していた人たちが大半であったため、
気付くのがワンテンポ遅れたようであった。
『サクラスターオーが傍らにいます!』
『これは、何がありましたか……
ま、まずはゴールの瞬間のリプレイが出ます』
どうやら、いち早く異常に気付いたスターオーが介抱している模様だが、
それ以上のことはまるで分からない状態。
場内ターフビジョンと中継の映像には、決勝線上の映像が流される。
『……やはりわかりません。
外のほうが勢いはありましたが……』
スローにしても、目視では判断がつかないほどの接戦。
内と外で離れているから余計にそうだった。
それぞれの比較でも、どちらが前に出ているのかも不明である。
『それよりも心配なのはファミーユリアンです。
競走中止、ということでしょうか……
リプレイ出ますか? はい、出ました』
『……坂にかかったところで、急失速して……
止まるようにしてうずくまっています』
別アングルの映像が再生される。
これによると、坂に差し掛かったところで急失速。
最後は歩くようにして足が止まり、ゆっくりと膝をついていた。
救いなのは、転倒や崩れ落ちる、というところまでは行っていないことか。
少なくとも、自制は効いているように見えた。
他の子たちが傍らを駆け抜けていく中、
誰よりも早く気付いたスターオーが、
自らのレースを顧みずに、すぐ傍へ駆け寄っていっている。
『スターオーが状態を見ているようですが……
あっ、ファミーユリアンの頭が動きました!
意識はあるようです。安心しました……』
誰もが固唾を飲んで見つめていたことだろう。
ここで、リアンの頭が、スターオーの呼びかけに応じたのか、
彼女のほうへ向き直るのが確認できた。
最悪の事態ではないようで、安堵の空気が流れる。
しかし、100%の安心はできない。
『トレーナーのスピードシンボリ氏をはじめとして、
数人が駆け寄っています。医療スタッフでしょうか』
『えー、改めてレース結果をお伝えいたしますと……
1着から4着まで写真判定です。
結果が確定するまで、投票券は捨てずにお持ちください。
内からオグリキャップ、スーパークリーク、
イナリワン、タマモクロスの1着争いです。
5着メジロフルマーのみ番号が上がっております。
勝ち時計は2分31秒9、2分31秒9です』
『そして、審議の青ランプが点灯しております。
第35回有馬記念は審議が行われています』
『とんでもないグランプリになりました……』
徐々にしおれていく実況の声が、
事態の深刻さ、重大さを如実に物語っていた。
ラストラン、ゴールできず……?
仮にリアンが海外遠征する場合、初戦は何が良いですか?
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ドバイワールドカップ
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ドバイシーマクラシック
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ガネー賞(仏)
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クイーンエリザベス2世カップ(香港)
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アメリカ遠征