転生孤児ウマ娘の奮闘記   作:しょうわ56

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最終話 孤児ウマ娘、『家族』になる

 

 

 

今日これから引退会見だ。

 

激しく今さらなんだが、会見というのはいつも緊張する。

人前に出ることはもちろんそうだし、

下手な発言はできないという緊張感が常に付きまとっている。

 

ましてや今日は引退の会見だ。

 

突発的に発表した前回とは違い、

記者たちもそれなりに準備してくるだろうから、

こちらも相応に覚悟して臨まないといけない。

 

やれやれ、引退したというのに、気苦労は絶えないね。

クリークのフォローも入れてあげないといけないし。

 

さて、そろそろ時間か……

会見場に向かおうとしたところで、()()は現れた。

 

「よおリアン」

 

「シリウスッ!?」

 

なんと、まったく予期していなかったシリウスの登場。

 

こいつ、BC以降、今までどこで何してた?

というか、いつのまに帰国してたんだ?

 

「あんた……」

 

「フフ」

 

あまりに予想外すぎて、次の言葉が出てこない。

そんな俺を、シリウスはニヤニヤしながら見ている。

 

その様子がまたイライラさせ、焦燥感を煽るのだ。

 

「なんだ? 言いたいことがあるなら、

 はっきり言ったほうがいいぞ?」

 

こいつ……

まあいい(よくない)、今はこいつに構っていられん。

そろそろ向かわないと遅刻してしまう。

 

「私これから記者会見なんだ。悪いけど──」

 

「そうそう。あのときおまえに渡したものについてだが」

 

「──」

 

放っておいて会見場に行ってしまおうとしたら、

次のシリウスの言葉で、文字通り黙らされてしまった。

心当たりがありすぎてしまったから。

 

もちろん、こいつから借りた、勝負服の一部のテープ状の布。

 

忘れていたわけじゃないぞ?

こいつと会う機会がなかったし、音沙汰もないから、

どうしたものかと思っていたんだからさ。

 

「……今は持ってない。

 寮の部屋にはあるから、後で持っていくよ」

 

あいにくと今は手持ちじゃなかった。

部屋に帰ればあるから、後で返しに行くって。

それでいいだろ?

 

当然、綺麗に洗濯して、ちゃんと保管してあるさ。

 

「はっ、ご期待に沿えず申し訳ないがな」

 

持ってないタイミングで突然会いに来て、俺の苦虫を噛み潰した

反応を楽しみにしていたのかと思ったんだけど、

シリウスの対応は、予想とは正反対のものだった。

 

「あれはもう返さなくていい。

 というか、そのまま持ってろ」

 

「え……?」

 

そのまま持ってろ?

どういうことだ?

 

「私にももう必要なくなったんでな。

 煮るなり焼くなり好きにしていい」

 

「………」

 

シリウスにも必要なくなった?

それって……

 

「それだけ伝えに来た。じゃあな」

 

「あ、ちょっと──」

 

「リアン」

 

「……なに?」

 

言うだけ言って、踵を返しそうになるシリウス。

向こうを向いて、立ち止まったまま名前を呼ぶ。

 

そして──

 

「おつかれさん」

 

「………」

 

顔だけこちらへ振り返り、ぶっきらぼうにそう言った。

横顔しか見えなかったが、微笑んでいたように見えた。

 

「じゃな」

 

「……ちょ待っ」

 

こいつがそんなこと言うのかという衝撃で、

引き留めるのに失敗してしまい、

手をひらひらさせながら去っていく後ろ姿を見送るしかない。

 

まさか、あいつが素直に労ってくれるとはね。

予想外すぎて何もできなかったわ。

 

「シリウスのヤツ……」

 

意外過ぎて、自然にこっちも笑ってしまう。

なんか全部吹っ飛んで、気持ちが一瞬でハイになったわ。

 

「ファミーユリアンさん、お願いします」

 

「あ、はい、いま行きます」

 

ちょうどここでお呼びがかかったこともあり、

非常に良い気分で、競技生活締めくくりの会見に望むことができたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

乙名史さん、全然泣き止まなかったけど、大丈夫かな……

あの様子だと、いまだに落ち着いてなさそうだ。

 

会見場からの退場時に、満場の拍手で送ってもらったのには感動した。

マスコミには悩まされたこともあったけど、

やっぱり良い関係を築いておくことに越したことはない。

 

マジで頑張ってきてよかったと思ったよ。

 

さて、フォローするなら早いほうがいい、ということで、

だいぶ時間が押してしまった記者会見の直後、

俺はクリークを捜して回った。

 

教室にいない。

自室にいない。

カフェテリアにもいない。

 

はて? 母性の化身のような妖怪でちゅねはどこかな?

もうすっかり日が落ちてしまったから、

あんまり時間もないんだけど、どうしようか?

 

あさってにはホープフルステークスがあって、

ローバルちゃんの応援に行かなきゃいけないから、

出来れば今日中に済ませておきたいところなんだが……

 

本当なら、もう少し早い時間に終わっているはずだったんだけどな~。

記者たちからの質問に片っ端から答えていたら、

こんな時間になっちゃったもんで……

 

いないなあ。

これだけ捜して見つからないとなると、

どこかに引きこもっちゃってるのかなあ。

 

仕方ない、次の場所で見つからなかったら、

今日は諦めることにする。

そろそろ腹が減ってきたこともあるので、

カフェテリアに行って晩御飯にしよう。

 

というわけで、ここにはいないだろうと思って、

行っていなかった場所に最後に向かう。

 

そしたら……

 

いたんだなこれが。

なんてこったい。

真っ先に除外した場所にいたとは……

 

どこかといえば、校舎の屋上。

この寒風吹きすさぶ中を、それもこんな時間まで、

こんな吹きさらしの場所にいるとは思わないよ。

 

「クリークさん」

 

「っ……!?」

 

屋上のど真ん中で、何をするでもなく、

佇んでいる様子のクリークに向かって声をかける。

 

するとクリークは、あからさまに身体を震わせた。

 

「どうしたの、こんなところで」

 

「お……お姉さま……」

 

俺がこんなところに現れるとは思っていなかったか、

明らかに狼狽え動揺している様子。

 

「ど、どうして……」

 

「とりあえず場所を変えようよ。

 私はもういいけど、風邪でも引いたら大変でしょ?」

 

「……しばらく出走しませんから、

 引いてしまっても大丈夫です。

 出走したくてもできませんし。出走停止なので……」

 

投げやり気味に言うクリーク。

 

での失格で、クリークは出走停止の処分を受けた。

しかし、だからと言って、体調を崩してもいいということにはならない。

 

「いやいやアスリートたるもの、体調管理には

 最大限の注意を払わないとダメだよ」

 

努めて優しく声をかける。

病気なりかけ?の俺が言っても説得力ないかもだけど。

 

「それに、君は来年以降の日本を背負って立つ存在だから。

 ここで体調崩してレース出来ないなんてことになったら、

 悔やんでも悔やみきれないと思うよ」

 

「私が? 日本を……?」

 

俺がそう言うと、クリークは目を丸くして、

信じられないことを聞いたとでも言いそうな顔をした。

 

「……御冗談を。私なんて、目先の勝利に目がくらんで、

 すぐ隣もまともに見られない女ですよ?

 そんな私が、日本を背負うだなんて、おこがまし過ぎます」

 

そして苦笑を見せる。

 

どうやら自分がしでかした大失策に気付いてはいるようだ。

反省もしているようだが、これは完全に自信まで失っているなあ。

 

あかんねぇ。どうしたもんかなあ。

 

……ここはちょっと荒療治もやむなしかあ?

一か八かの大博打になりそうだが……

 

よし、では行こうか。

 

「クリークッ!」

 

「ッ……」

 

覚悟を決めて、声を荒げる。

クリークは再び、ビクッと身体を震わせた。

 

「タマちゃんにあんなに甘えるよう迫っておいて、

 いざ自分が受けて立つ側になると逃げるの?

 ふざけないで。もうG1まで勝ったんでしょ?

 もう簡単に逃げられる立場じゃないんだよ?」

 

「………」

 

「それでも逃げるって言うなら、もう何も言わない。

 学園も退学して、どこへなりとも行けばいいさ」

 

「………」

 

クリークは何も言わず、俯いている。

 

さあ、どう出る?

ここで潰れるか? それとも奮起するか?

 

ウマソウルの導きを信じるしかない……

 

「……お姉さま」

 

顔を上げたクリーク。

その表情は、先ほどまでとはまるで違っていた。

 

「わかりました。私、やります」

 

この博打は、俺の勝ち。

いえい!

 

「確かにお姉さまが仰られる通り、

 一喜一憂できる立場じゃありませんものね。

 曲がりなりにもG1を勝った王者として、

 もっと堂々としていかないと」

 

そう、それでいいんだよ。

 

誰しも失敗はある。俺だってそうだ。

大切なのは、そこで歩みを止めないこと。

反省できることは反省して、次に活かせばいい。

 

君にはまだ、次も、その次もあるんだから。

 

「すみませんお姉さま。

 また、お手数をおかけしてしまいました」

 

「いいんだよ。かわいい後輩を助けるのは、

 先輩の大事な役割なのさ。

 甘えられるうちは、素直に甘えておきなさい」

 

「甘え……そう、ですね。甘えて……」

 

普段は他人を甘やかすほうだけに、

甘えるほうなのは慣れていない様子。

複雑そうな表情を見せている。

 

あーもーしょうがないなあ。

 

「クリークさん、こっちおいで」

 

「え? はい」

 

手招きして、クリークを近くまで呼び寄せる。

そして

 

「とりゃっ」

 

「きゃっ」

 

近寄ってきたクリークを、思いきり抱き締めた。

不意を衝かれた彼女は、完全に俺の胸に顔を埋める格好になる。

 

「お、お姉さま……!?」

 

「こら暴れない。素直に甘えておきなさい」

 

「甘え……いいん、でしょうか?」

 

「良いも悪いもないよ。さっきも言ったでしょ?

 甘えられるうちは甘えておきなさいって」

 

「……はい」

 

慌てて離れようとしてもがくクリークだったが、

そう言うとすぐに大人しくなった。

そんな彼女の頭を撫でてやりつつ、考える。

 

こうなるともう幼子と変わらんなあ。

身長も体格も、とっくのとうに俺よりでかいというのに。

 

厄介なことこの上ないが、こうして抱き締めていると、

愛おしいとまで感じてくるから不思議だ。

 

それこそクリークじゃないけど、母性ってこういうことなのかもしれん。

転生して20年余りにして、ついに『女』に目覚めたのか?

 

「お姉さま」

 

「うん?」

 

「私……がんばります。

 もっとがんばって、日本を背負って立てる存在になります。

 だから、そのときは……」

 

「そのときは?」

 

「また……こうやって、甘えさせてもらってもいいですか?」

 

これがおそらく、現時点でのクリークができる、

最大限の『甘え』なのだろう。

 

もちろん拒む理由はない。

それがモチベーションになってくれるなら、望むところだ。

 

「もちろんいいよ。

 そのときを楽しみにしておくよ」

 

「はい……」

 

「でも、周りはよく見てね」

 

「すいません……」

 

「ああもうこんなに身体冷やしちゃって。

 いつから屋上にいたのさ?」

 

「すみません……」

 

俺の言葉に対していちいち謝ってくるクリークをあやし続ける。

 

ところで、いつまでこうしていればいいんですかね?

早く暖かいところへ移動しないか?

俺まで寒くなってきちゃったんですけど?

 

……っくしゅ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今年最後の開催日に、今年最後のG1であるホープフルSが行われる。

以前から約束していた通り、ローバルちゃんの応援にやってきた。

 

3連勝中であり、重賞も連覇している彼女は、

今日も堂々の1番人気での出走だ。

 

「ローバルちゃん」

 

「リアンさんっ!」

 

本バ場に入場したローバルちゃんに声をかける。

俺に気付いた彼女は、嬉しそうに駆け寄ってきた。

 

「来てくれたんだ。あんなことの直後だから、

 無理かと思ってた」

 

「約束だからね」

 

「うん、ありがとう!」

 

本当に嬉しそうに笑うローバルちゃん。

 

ごめんね、余計な心配かけて。

最終調整に影響出ちゃってないか、こっちも気を揉んだけど、

この様子なら大丈夫そうかな。

 

「ローバルちゃん」

 

「なに?」

 

「勝ったら、ライブまでの間に少し時間貰えないかな?

 ちょっとお話したいと思ってね」

 

「お話? いいけど、どんなこと?」

 

「まだ秘密。知りたかったら勝つことだね」

 

「わかった。絶対勝ってくるからね!」

 

俺からそう言うと、小首を傾げつつも、

不敵に微笑んで、自信満々に返しウマへ入っていった。

 

若いっていいなあ。

 

「若いよねぇ」

 

「っ……」

 

すぐ隣から聞こえてきた声にビックリした。

なんと、シービーパイセンじゃないっすか。

 

「いつの間に来てたんです?」

 

「秘密♪」

 

あ、そうですか。

もうこの人の自由っぷりにも慣れたよ。

 

にしても、最近はおとなしかったのに、

どうしてまた急に現地観戦なんてことを?

 

「どうもあの子には、シンパシーを感じるんだよね」

 

あ、なるほど。

ウマソウルのお導きですか。

 

「だったら声かけてあげればいいのに。

 きっと喜びますよ」

 

「ん~そうしようかとも思ったんだけどさ。

 それはクラシックまで取っておこうかなって」

 

「なるほど」

 

本番は来年ってわけですか。

でも先輩ほどのレジェンドウマ娘から直接声かけられたら、

マジで喜ぶと思うんだけどな。

 

「まあまずは今日の勝利を期待しよう♪」

 

「そうですね」

 

そうやって、シービー先輩と並んでレースを見守った結果、

ローバルちゃんは5バ身差の圧勝だった。

 

 

 

 

 

「ささ、入って」

 

「お邪魔するね」

 

表彰式の後、ローバルちゃんの控室へ、

無理を言って通してもらった。

 

そうそうシービー先輩だけど、ローバルちゃんの勝利を見届けた後、

気付いたらもういなくなっていた。

本当に掴みどころのない、蜃気楼のような人だよまったく。

 

「まずは、G1勝利おめでとう。強かったよ」

 

「えへへ、ありがと!」

 

お祝いすると、満面笑みを浮かべるローバルちゃん。

やはりあの頃と全然変わっておらず、こちらもほっこりする。

 

「リアンさんが来てくれたから張り切っちゃった。

 まあわたしが本気出せば、これくらいわけないって」

 

「こら、自惚れないの。

 そんな考えじゃ足すくわれるよ。気を付けて」

 

「はーいごめんなさい」

 

だけど、一応しっかり釘は差しておく。

 

レースに絶対はないんだからな。

ルドルフや俺の姿を見て育ってきているだろうから、

そう言われてもあんまり実感がないかもだが。

 

「で、お話って何?」

 

「うん、じゃあこれ、ローバルちゃんにあげる」

 

そう言って、持ってきていたバッグから取り出したものを、

ローバルちゃんに渡す。

 

「靴と蹄鉄? これって……

 リアンさんが使ってたやつじゃ……?」

 

「うん、そう」

 

その正体にすぐに気づいた彼女。

意外そうにこちらを見つめてくる。

 

「私にはもう必要ないものだからね。

 “夢”の続きという意味で、君にあげるよ」

 

「夢の……」

 

「まあ二番煎じなんだけどね。

 私もシービー先輩が引退するってなった時に、

 先輩から使ってた靴とかをもらったんだ」

 

「シービーさんから……

 そうだ、そんな記事をネットで読んだよ」

 

雑誌とかニュースじゃなくて、ネットなんだなと。

ふとしたことで、時代の移り変わりを感じる今日この頃。

 

「もらってくれる?」

 

「……うん、もらう」

 

それはさておき、譲られることの意味が分からない子じゃない。

少しの逡巡の後、ローバルちゃんはしっかりと頷いてくれた。

 

よかった。断られたらどうしようかと。

 

「任せて。リアンさんやシービーさんの想い、

 わたしがちゃんと受け継ぐから」

 

「うん」

 

俺の靴と蹄鉄を、ぎゅっと胸に抱きながら言うローバルちゃん。

 

予想してた以上に聡い子だった件。

……良い子だねぇ。泣きそうになっちゃったよ。

 

「絶対、三冠ウマ娘になるんだ。

 そして、行く行くは海外でも勝って見せるから、見ててね!」

 

「うん、期待してるよ」

 

ローバルちゃんのキラキラした、

希望に満ち溢れた目と表情を見ながら、つくづく思った。

 

若いっていいな、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

年が明けて、正月気分もそろそろ抜けてくるかというころ。

 

現役を退いて初めて迎える正月は、それはもうぐうたらしまくった。

おかげで途端に数キロ太ってしまったよ。

ほんの1週間前かそこらまで、痩せ過ぎで困っていたのが嘘みたいだ。

 

そんな折に飛び込んできたビッグニュース。

それは……

 

『スピードシンボリ、トレーナー引退』

 

……である。

 

え、なにそれ?

何も聞いてませんけど!?

 

確かに、俺が引退して担当が1人もいなくなっちゃったけど、

新しく見つければいい話だし、引退する必要なんかなくね?

 

「スーちゃん!」

 

もちろんすぐに、直接問い質しにスーちゃんの部屋へ直行。

 

「来たわね。来ると思ってたわ」

 

俺が来ることを察していたのか、悠然と構えていたスーちゃん。

それどころか、すでに部屋の片づけを始めている状態だった。

 

「もう免許返上しちゃったから、

 この部屋もすぐに明け渡さないといけないのよ」

 

あ、そうですか……

 

「ごめんなさい、ちょっと手伝ってくれる?

 話ならそのあとで聞くから」

 

「あ、はい」

 

というわけで、問答無用でしばらく荷物の整理を手伝う羽目に。

で、あらかた片付いたところで、お茶を淹れて休憩がてら、

話をすることになる。

 

「ここでリアンちゃんとこうしてお茶を飲むのも、

 これが最後になるわね」

 

湯飲みを口に運びながら、淡々と言うスーちゃん。

 

この様子だと、決意は固い様子。

というか、もう返上しちゃったということだ。

 

本人の決断だからしょうがないっちゃあしょうがないけど、

そうならそうで、発表する前に言ってほしかったなあ。

 

「さて、何を聞きたいのかしら?」

 

「なんで辞めるんです?

 確かに担当はいなくなりましたけど、新しく募集するなり、

 見つけるなりして、なんならチームに入る手もあるじゃないですか。

 辞める必要までは感じません」

 

「肝心の、『新しい子を指導する』意欲が湧かないからよ」

 

「……そこまでなんですか?」

 

「ええ、そうね。元々、進むも退くもリアンちゃんと

 一蓮托生だと思っていたの。

 あなたと共にトレーナーになって、共に成長して、

 共に辞めていく。それが私の道なんだってね」

 

「……」

 

「それに、あなた以外にここまで熱中できる子なんて、

 そうそう見つからないだろうしね」

 

いや、俺と比べられてしまっては、他の子が可哀そうでは……

自分で言うのもなんだけど、比肩できるのって、

ルドルフやシービー先輩クラスのレジェンドくらいになってしまう。

 

しかしまあ、俺と一連托生って……

そこまで想ってくれてたんだなあ。

初めて会った時のことが、昨日のように思い出される。

 

「報告が遅れたのは謝るわ。

 なんとなく自分からは言い出しづらくてね。

 マスコミに頼っちゃった。ごめんなさい」

 

「いえ、それはいいんですけど……

 今後はどうするんですか?」

 

「さあ、あなたと同じで、何も決まってないわ。

 また海外にでも行ってみようかしらね」

 

やはり海外志向が強いんだな。

もしその方向で何かあったら、また頼りにさせてもらおう。

 

「あなたこそどうするの? 学園は?」

 

「ルドルフにも聞かれましたけど、とりあえず大学には行こうかなと。

 興味はありましたし、まずは見識を深めるところかなって」

 

「そう。知識は大事よ。

 何をするにでも、まずは知識がないと始まらないわ」

 

「ですね」

 

知識の塊なスーちゃんが言うと説得力あるね。

 

前世では底辺もいいところだったんで、

大学なんてところとは縁もゆかりもなかった。

行ってみたい気持ちは最初からあったんだな。

 

問題は、どこに行き、何を学ぶかだ。

 

「何はともあれ、お疲れさまでした」

 

「ありがとう。あなたこそ、ね」

 

お互いに、ここまでを振り返って称え合い、

わだかまりや不信感なんては一切存在しなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リアン」

 

それからまもなく、何気なくルドルフから声をかけられた。

内容は、とんでもないものだったと後から判明する。

 

「今度の週末、予定があったりはするか?」

 

「週末? 何もないよ?」

 

引退したから暇も暇です。

まあ現役だったとしても、よほどのことがない限り、

週末には予定は入ってなかったけど。

 

「そうか。なら『うち』に来てくれ。

 父から、君を労いたいとパーティーの知らせが届いていてね」

 

「お父様が? パーティー?」

 

「ああ。あの人のことだからな」

 

うち、というのは、当然、シンボリ家に、ということだろう。

お父様主催というなら納得だ。

 

「恐れ多いなあ。承知しましたとお伝えしておいて」

 

「わかった、伝えておく」

 

いまだにご招待には慣れない。

もう何十回と足を運んでいるのになあ。

 

もとよりお断りするという選択肢は、

現役という免罪符が消えてしまったので、存在しない。

 

そんなわけで、週末はシンボリのお屋敷でパーティーです。

 

 

 

……いつもなら、俺に直接連絡を入れてくるお父様が、

ルドルフを介して伝えてきたことに、疑問を持つべきだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあやあリアン君! よく来てくれたね!」

 

「お疲れ様だったわね」

 

「お招きいただき、ありがとうございます」

 

お父様お母様に大歓迎される俺。

まあえらい歓迎ぶりだよね、毎度のことだけどさ。

 

「さあさあ、こっちの席へついてくれたまえ」

 

「ささ、遠慮なんかしないでいいのよ」

 

「え、あの……はい」

 

そこはいわゆる『上座』というやつでは?

いくら主賓だからって、そこは……あ、はい、わかりました。

 

もちろん断れるはずもなく、促されるままに1番奥の席に着く。

 

見渡してみると、お父様お母様をはじめ、

ルドルフとスーちゃん、そしてルドルフのご兄弟も全員いる。

ご家族勢揃い。

 

「さて、まずは食事といこう」

 

「リアンちゃん、腕によりをかけていっぱい作ったから、

 たくさん食べて頂戴ね」

 

「あ、はい、いただきます」

 

いえあのー、もう現役辞めたんで、

これまで通りの食事量出されても困ってしまうんですが?

 

いやあの、まあ、食べますけどね。

 

そうして食事を楽しむこと数十分。

宴もたけなわとなってきたところで……

 

「リアン君、折り入って話があるんだが、

 聞いてくれないかね?」

 

手を止めて、お父様がこんな提案をしてきた。

 

なんです、改まって?

それに、なんでそんなに真剣な表情なんですか?

 

お酒が入っているはずなのに、えらいマジモードなんですが。

周りを見れば、お母様やルドルフ、スーちゃんたちは笑顔笑顔。

 

お父様とのギャップがすごいんですけど……

え、何の話なんですこれ?

 

「実は、君には内緒で、秘かに進めていた話があってだね」

 

「はあ」

 

「ぜひとも受けてもらいたい話なんだ。

 ああ、何も心配はいらない。孤児院の院長先生には、

 前もってお話して了承をいただいているよ」

 

院長にも話が通っているんか。

 

ますますもってわからない。

いったい何の話──

 

「リアン君。いや、リアン。

 私たちと『家族』になってもらえないかな?」

 

 




皆様、長らくのご愛読、まことにありがとうございました。
これにて「転生孤児ウマ娘の奮闘記」完結でございます。

最後のリアンの返答は描いていませんが、
ご想像にお任せしますということで……
まあ最終話のタイトルでおわかりですよね?

正妻戦争も決着していませんが、
あんまり詳しく書いちゃうのも無粋かなって。
いえ単純に私の力量不足な故です。申し訳ない(汗)

今後は、ネタがあれば、短編などの投稿もあるかもしれません。
すべては思い付き次第です。

それでは改めまして、2年を超える長い間、
お付き合いしていただいてありがとうございました。
また機会がありましたら、お会いいたしましょう。

仮にリアンが海外遠征する場合、初戦は何が良いですか?

  • ドバイワールドカップ
  • ドバイシーマクラシック
  • ガネー賞(仏)
  • クイーンエリザベス2世カップ(香港)
  • アメリカ遠征
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