年が明けてしばらくたったころ、府中CATVにて、
緊急特別生放送が行われた。
『ファミーユリアンさん引退!
長い間お疲れさまでした、
たくさんの感動をありがとうスペシャル!』
いわゆる引退特番というヤツである。
本人はもちろんのこと、サプライズゲストの登場もあるとのことだが……
以下は、その番組の模様を、一部抜粋したものになる。
「ファミーユリアンさんのご登場です!
みなさん盛大な拍手でお迎えください!」
司会者の紹介で、何度も頭を下げつつ、
私服姿のリアンが登場する。
リアンが出演するという告知ではあったのだが、
どうせビデオ出演なんだろ、という声もネットでは見られたが、
いきなりの生登場で番組開始早々にして、歓喜の候図となった。
あるメディアの生放送では、『888』等のコメントで
画面が覆い尽くされるほどである。
「まずは、長きにわたる現役生活、
まことにお疲れ様でございました」
「ありがとうございます」
渡された花束を抱えながら、リアンは笑顔で応える。
「今のご心境はいかがでしょう?」
「えーと、特に変化はありませんけど、
やっぱりホッとしたというのが1番ですかね。
もう成績とかトレーニングとかを気にしなくていいという点で」
そう語るリアンの表情には、確かな安堵が見て取れた。
やはり相応のプレッシャーはあったのだと感じられる一幕だった。
「それでは、リアンさんの競技人生を振り返ってみたいと思います。
最初はなんと言っても、圧巻のデビュー戦ですね」
画面にはデビュー戦の模様が流され、
右下のワイプにリアンの表情が映される。
「覚えてらっしゃいますか?」
「もちろん覚えてますよ。
といっても、この辺からもう記憶はないんですが」
最後の直線に入ったありで、このように言うリアン。
実際、どのようにゴールしたのかは覚えていなかった。
「これ、ゴール後の涙ですよ。感動しましたね」
「あ、あー、恥ずかしいんで、あんまり流さないでください」
ゴール後、トレーナーの出迎え、ライブ後の控室と、
号泣のシーンを繰り返し流されたため、
恥ずかしそうに顔を赤くするリアンだった。
「ダービーのゴール後は、リアンさんご自身は至って冷静で、
トレーナーのスピードシンボリさんのほうが大はしゃぎでしたね」
「ええ、私も驚きました。皆さんご存知だと思いますけど、
普段は凄くクールで、落ち着いた人なんですよ」
ダービーのゴール直後、引き揚げてきたリアンを
大喜びの様子で出迎えたスピードシンボリ。
「それもあってか、一時、『ギャップ萌え』なるワードが、
SNSでトレンドに上がっていたとかいないとか」
「まあ、わかりますけどね」
苦笑して応じるしかないリアン。
世間的には、沈着冷静というイメージが強いうえに、
未だにとても孫がいるとは思えないほどの容姿だから、
そうなってしまうのも無理もないか。
「スピードシンボリさんと言えば、
トレーナーを引退してしまわれましたね」
「ええ、私も報道で知った口なので驚きました」
話はスピードシンボリの引退にも及ぶ。
「本人曰く、私と一緒に辞めるつもりだったと。
私以外の子に指導する気にはならないそうです」
「そうなんですか。
それほどリアンさんに入れ込まれていたということですか」
「ですかね。光栄に感じると共に、
非常に恐れ多くもあります」
その手腕を他の子にも発揮してほしいと惜しむ声もあったが、
リアンの声を聞いて、ネット民も納得するしかなかった。
「菊花賞では、代名詞となる『幻惑』が
初めて炸裂したレースとなりましたね。
このレースプランは、いつ、どのようにして生まれたのでしょうか?」
「トレーナーからですね」
当時も話題になった幻惑について。
「夏の合宿の時から、こういうレースをしようということで、
菊花賞に向けたトレーニングを積んだんです」
「具体的には、どういう?」
「まあひたすらスタミナトレーニングですね。
普通に3000mを走りきれるだけでは、到底足りませんから」
「スピードシンボリさんの指示だったわけですね?」
「はい」
頷くリアンの表情は、苦笑であった。
あれはきつかった、と言わんばかりの。
「普段はそこまで細かくは言わない人なんですが、
このときは、こうこうこういうことだからこういうことをします、
と言われたんで、少し驚きました」
「へえ、そうなんですか」
「よほど菊花賞も勝ちたかったんでしょうね。
念願のダービーを勝って、満足するどころかってことです」
「もちろんリアンさんも、ですよね?」
「もちろんそうです」
「最初の有馬記念では、初の敗戦を喫しました。
それも、プライベートでも仲の良いサクラスターオーさんということで」
「あのときは上手くラストスパートに入れませんでしたね。
すべてが上手くはいかないのがレースですが、
あのときほどスイッチを上手く押せていれば、と思うことはありません。
スターオーさんには悪いですが、やり直したいくらいですね」
「やり直したいレースは、これが1番?」
「そうですね。明確に失敗したと思うレースは、
これが1番だと思いますから」
当時も後悔を語っていたが、今でもそうなのかと、
多くのファンが納得する一幕であった。
「メジロフルマーさんとの初対決となりました日経賞を経まして、
魂の大逃げとなった春の天皇賞。いかがでしょう?」
「苦しかったです」
思い切り苦笑するリアン。
司会も同じように苦笑するしかなかった。
「そして、メジロフルマーさんの直接対決2戦目の宝塚記念。
大雨の中での決戦となりましたが、リアンさん、雨は?」
「嫌いではないですよ。苦手というわけでもないです」
雨のレースは嫌いではないというリアン。
しかし、好きでもないのは、後の出来事とも重なること。
「服の洗濯が大変だなとは思いますね。
業者さんに感謝しないといけません」
「メジロフルマーさんとはこれ以降も、何度もぶつかることになります。
先着を許したのは、アクシデントのあった最後の有馬だけですが、
本当に良いライバル関係になりましたよね」
「ええ、本当に感謝しかありません」
想いを噛み締めるように何度も頷くリアン。
他のレースも思い返しているのだろうか。
「秋の天皇賞では2度目の敗戦。
そのうえ、サクラスターオーさんが大怪我をされてしまいました」
「………」
「リアンさん?」
「……あ、すいません」
レース映像を険しい顔で見つめていたリアン。
司会の問いかけに、反応するのが少し遅れた。
「自分も経験のあることですから、レース中や
それ以外でも、事故の映像を見るのは心が痛みます」
「私たちがリアンさんと出会うきっかけになった怪我も、
学園内でのレース中の事故が原因でしたね」
「はい。あのレースも録画されていて、
後から見る機会があったんですけれども、
我ながら完全にドン引きしました。うわあ、って」
「どれだけ壮絶な事故だったんでしょうか……」
「見ないほうがいいですよ」
外部に出回ることはないだろうが、
それに限らず、事故は起こらないでほしい。
そう願うほかはない。
「ジャパンカップでは、スターオーさんに捧げる世界レコード」
「喜んでもらえたのでよかったです」
「お友達になられるトニービンさんと
ムーンマッドネスさんとの出会いでもありましたね」
「はい。2人とも得難い存在です」
海外をよく知る2人の友人の存在は、
のちのち、非常に重要になるのである。
「日本レコード圧勝の有馬記念。
シニア1年目を完勝で締めくくりました。
前のレースのジャパンカップ以上のハイペースになったわけですが?」
「フルマーさんが競りかけてきたので」
嫌そうに言うリアンだったが、
どことなくうれしそうでもあったのは、気のせいだろうか。
「シニア2年目は、これ語る必要ありますか?
問答無用の年間無敗で完全制覇ですよ?」
あまりに圧倒的過ぎるシニア2年目の成績に、
職務放棄とも取られかねない発言をする司会者。
それもそのはずの成績であるので、
誰も文句は言えず、ただただ苦笑するしかない。
事実、生放送中のコメント欄でも、
『必要なし』『次行こう』というコメントで溢れ返った。
「はい来ましたシニア3年目。
そうです! 満を持しての海外遠征ですね!」
ここに来て一層の力を籠める司会者。
むしろ、そうしない理由があるだろうか。
それもそのはず。
帰国して以降はあんな状態であったがために、
裏事情がほとんど出回っていないのだ。
ここで根掘り葉掘り聞きたいところであったろう。
「海外初戦はドバイワールドカップになりました。
ここまでで実戦では走ってないダートでの一戦となったわけですが……」
「自信はありましたよ」
堂々と言ってのけるリアン。
その根拠は、当時の発表の際も語っていたこと。
「イベントでしたが大井でそれなりに走れましたし、
現地に行ってからも、特に違和感は感じなかったので」
「相手関係とかはいかがだったんでしょうか?」
「もちろん強い子はいましたけど、
そこは走ってみないことにはわかりませんから、
走らないうちに怖気づいてどうするんだという思いで、はい」
前評判の高かったアメリカの2人。
その2人と、関係を持つことになろうとは。
「直前のレースで、シリウスシンボリさんが一足先に、
日本ウマ娘初の海外G1制覇を成し遂げました。
このときのご心境はどうだったんでしょう?」
「やったな、おめでとう、と。
現地にいたのに、控室だったので生で見られなかったのが残念ですね」
「先に勝ちやがってこの野郎! とか思ったりは?」
「してない、してません」
ぶっちゃけた質問に、思わず手も使って否定するリアン。
正直すぎる司会者に、コメント欄も大いに盛り上がった。
「レース前に、アメリカのお二人と話されてますよね?
このときは何を?」
「ん~まあ、お互い頑張りましょうとか、そのような感じです」
実際は、半ば挑発されたような格好だったのだが、
馬鹿正直に真実を語ればいいというものでもない。
あえて事実をぼかすリアンであった。
「……ごーるっ!
はあ、今でも手に汗握りますよ」
レース映像のゴールに合わせて発言する司会者。
実際にその両手は握られていて、汗びっしょりであった。
「このときも、スピードシンボリさんはお喜びで、
今度は彼女のほうが泣いてしまってましたね」
「度肝を抜かれました。喜ぶとは思ってましたが、
まさか泣くとは微塵も思ってなかったもので」
「ご自身は海外で勝てませんでしたからね。
ほら、リアンさんに抱き着いて大号泣ですよ」
「あとからご家族から叱られたそうですので、
もうこのへんで……」
引退後は、海外で過ごしていたことは広く知られているだけに、
その想いの強さもひと際なのは、今さらながら納得なのである。
「この写真! いいですよねぇ。
お二人の表情がいいです。特にシリウスさん」
表彰式の後に撮られた、日の丸を挟んだリアンとシリウスの写真。
これがモニターに表示されて、うっとりした声をあげる司会者。
「私これ以外に、
シリウスさんのこんな表情見たことありませんよ」
「ぶっきらぼうですからねぇ」
「どういう経緯でこのお写真を?」
「私から誘いました。一緒に写真撮ろうって」
「はあ、すごいですねえ」
シリウスのマスコミ嫌いは誰もが知るところ。
それを一声で、それもこんな表情で収まらさせてしまうあたり、
リアンとの関係性が窺い知れる1枚である。
「構図もリアンさんがお考えに?」
「考えたというか、その場のノリでこうなりました。
受けは良かったようで何よりです」
ネットでのコメントも、さすがリアンを略した『さすリア』で
占領され、これにはリアン本人も満足そうであった。
「コロネーションカップも勝って、海外2連勝。
ヨーロッパでもG1を勝ちました。
そして問題のキングジョージです! リアンさん?」
「……問題というと?」
「おとぼけはなしですよ」
迫ってくる司会者に、苦笑を返すリアン。
司会者はなおも真顔でリアンに迫る。
「ズバリ本音をお聞きします。
やられた、とお思いになられたんでしょう?
包囲網を敷かれたという意味で」
「……そうですね」
「やはりそうですか」
欧州勢が捨て身で潰しにかかってきた、という、
見る者が見ればというか、丸わかりだった展開。
それはリアンも渋々であるが認めた。
「でも、レースですから、何があってもおかしくはありません。
実際ルール上は何の問題もない行為です」
「それはわかりますけど……そこまでしますか?」
「まあいいじゃないですか。
終わったことですし、勝てたんですから」
「むむむ、リアンさんがそう仰るのなら……
でも2度目はあっては欲しくないところです」
納得のいかない様子の司会者、そしてネットであったが、
当のリアンがこう言うので、引き下がるしかなくなった。
「次はフォワ賞ですが、生涯で初めて、
連を外す3着となってしまいます」
「これは私としても相当堪えました。
雨のロンシャンが厳しいとはわかっていたつもりでしたけど、
想像以上、いや、斜め上に飛び抜けてました」
「もうこれは度外視するしかありませんね」
「ですね、そう思うしかないです。
実際そう捉えて割り切りましたから」
重バ場のロンシャンは、もはや別次元。
最初から勝つのは不可能だったと思うほかはない。
「はいそして来ました、日本の悲願だった凱旋門賞です!
前走の敗戦もあってか、国内では不安視する向きもありました」
「そうみたいですね」
バ場が合わないのではと見て、
回避を推奨するメディアがあったことも事実である。
「一応お聞きしますけど、諦める気は?」
「無論ありませんでした。
そもそもの大目標が凱旋門賞でしたからね」
「ですよね」
最初からそんな選択肢はない。
もちろんアクシデント等があれば別だが。
「シリウスシンボリさんと隣同士になりましたね。
スタート前に何か会話されたりはしたんですか?」
「はい。彼女の言葉で、逃げる決心がついたんですよ」
「ほほう。詳しくお聞きしたいところです」
「えーとまあ、逃げるか後ろから行くか、
ちょっと決めかねていたところがあったんで、
ちょっと発破をかけられてしまって、はい」
「それで2人で逃げることになったと?」
「結果的にはそうなりました。
シリウスが何を考えてそう言ったのかまではわかりませんけど」
世界最高峰の舞台で、日本勢2人による大逃げ。
そうなったのはシリウスの言葉によるものだった。
ファンの間では新たに判明した事実に大盛り上がり。
そしてそれは、次の発言で最高潮となる。
「それに、彼女には助けてももらいました。
実は最終直線で、足が動かなくなりかけたんですよね。
そこでシリウスから励ましてもらいまして、
最後の力を振り絞れたというわけです」
「そうなんですね!」
キャスターのテンションも爆上がり。
まさかレース中にそんな出来事が起きていたとは。
もちろん初出の情報だった。
「だから凱旋門賞に勝てたのは、
半分以上シリウスのおかげだと思います。
大変助かりました」
「シリウスさんご自身は凱旋門賞では二桁着順に沈みました。
でも直線半ばまではリアンさんと競っていたわけで、
そう考えると、リアンさんを助けるために出走したんでしょうか?」
「さあ、そこまでは考え過ぎだとは思いますけどね。
あいつの真意は測りかねるところが多々あるので」
苦笑しながら答えるリアン。
シリウスを『あいつ』呼ばわりしたことも、
ネットでは盛り上がりを見せることになる。
「勝利後は、バ場に倒れてしばらく動けませんでしたね。
今にして思うと、この頃からお身体に異変が起きていたんでしょうか」
「ですね」
初めて異常が出たのが、このときである。
リアンは深々と頷いた。
「まだ自覚はありませんでした。
このときは衰えが来たとは微塵も思ってなかったですし」
「このあとのBCのこともありますし、
ちょっと言うのは憚られますが、有馬がああでしたから、
本当にギリギリのタイミングでの偉業達成だったんですねぇ」
「ですね。
自分で自分を褒めてあげたいと思います」
どこかで聞いたことがありそうなセリフ*1であったが、
前世知識の勝利だった。
「海外遠征締めくくりの一戦、BCクラシックです。
まずはこのスタート地点に驚きました。
こんなコースもあるんですね」
「私も驚きましたよ。
世界は広いということですかね」
日本では考えられないほどのコース設定。
まさに海外あるあるであろう。
「サンデーセレニティさんと、ドバイ以来の再戦となりました。
彼女とお話はされたんですか?」
「はい。再会の挨拶と健闘を称え合いました。
残念ながら彼女は怪我が治りきってなくて、
ああいう結果に終わってしまいましたが」
アメリカの大物との再会、再戦。
約束は果たされたが、完走はできなかった。
「渡米した時の空港に、わざわざ迎えに来てくれたんですよ。
ビーフィーゴアさんと一緒に」
「へえ、それはまたすごい。良いご関係なんですね」
「もったいないくらいです」
「これにてドバイ、ヨーロッパに続いて、アメリカをも制圧されました。
5ヶ国3大陸の王者となられたわけです。
改めてご感想はいかがですか?」
「いやあ、上出来すぎて逆に困ってしまいますね。
本当に……よくここまで来られたと思います」
「長かったですね。
本当の本当にお疲れさまでした」
「はい。……っ……ありがとうございます」
キャスターから労われて、
思わず言葉に詰まり目元を拭うリアン。
引退会見では涙を見せなかったが、
ここで引退発表後初の涙となった。
「はいそれでは、ここでサプライズゲストのご登場です」
告知もあったサプライズゲスト。
いったい誰が来るのかと、ネットでは数々の憶測を呼んだ。
リアンにも知らされてはおらず、
自身では、まさか院長が顔出し出演か、と気を揉んでいたところ。
はたして?
「本日のゲスト、ホーリックスさんです。どうぞ!」
「え……」
まさしく思いもつかなかった人物の登場。
視聴者もリアンも目を丸くする中、彼女はさっそうと現れた。
「改めてご紹介いたします。
去年のジャパンカップの覇者、ニュージーランドから
やってきてくれました、ホーリックスさんです!」
「どうも、ホーリックスよ」
紹介されてスタジオ中央まで歩み出て、
軽く頭を下げたホーリックス。
「ホーリックスさんは、母国であるニュージーランドが
シーズン真っ盛り*2であるにもかかわらず、今回
来日していただきました。本当にありがとうございます!」
「どういたしまして。私は休養中だし、
もうしばらくはレースもないから、どうってことないわよ。
私から望んだわけでもあることだしね」
「………」
そしてキャスターからの補足の説明に頷くと、
開いた口が塞がらない状態のリアンを見やり、
ニヤリと口元を緩ませた。
「ハーイ、ミズリアン。お久しぶりね」
「な、なな……なんで君が?」
「ふふーん、驚いた?」
「お……驚いたなんてものじゃないよ!
ど、どういうことなんですか!?」
いまだ衝撃が収まらず、番組関係者にツッコミを入れるリアン。
したり顔で言うホーリックス。そしてキャスター。
「実を申しますと、リアンさんの引退と聞いて、
ホーリックスさんご自身からお問い合わせがあったんですよ。
でしたら、今度特別番組の収録がありますので、
ぜひともご出演いただけませんかと交渉したところ、
快くOKしてくださいまして」
「えええええええええ!?」
わざわざ南半球から!? とか、
わざわざ自分から問い合わせたのか、とか、
府中CATVに聞くあたりわかってるな、という意見がコメントに溢れる。
「な……どうして?」
「どうもこうもないわよ。
私にもっと頑張れとか言っておいて、
自分はさっさと引退とかどういうつもり?
ひとこと言わなきゃ気が済まないわよ」
「それは……申し訳ないとは思うけど……」
「……ふふ、冗談よ、冗談」
ホーリックスが険しい顔で圧をかけたことで、
少々の不穏な空気が漂うが、ホーリックス自身が表情を崩して
笑って見せたことで、そんな空気は跡形もなく四散する。
「半分はそうだけど、もう半分は、
もう1回あなたに会いたかっただけ」
「そ、そうなんだ」
「はい! お二人はどういうご関係なのか、
私、気になりますっ!」
そんな2人の間に割って入るキャスター。
視聴者たちも大いに気になっていたところだったので、
『GJ』というコメントが画面を占領した。
「まずはお二人の出会いからお聞きしたいです。
失礼ながら、接点がないようにお見受けするんですが」
それはそうであろう。
一緒にレースを走ったわけではないし、
他にこれといった繋がりがあるとは思えない。
「最初は、というか、実際に会うのは2回目なのよね」
「うん、そうだね」
「ええっ!?」
さらには、顔を合わせるのはこれで2回目だという衝撃的な事実。
キャスターだけではなく、視聴者たちも総じて驚きを見せる。
「たった1回会っただけで、
ここまでのご関係になられたわけですか……」
1回顔合わせしただけで、直接テレビ局に問い合わせるほどの仲に?
いったいどのような出会いだったというのだろうか。
これを聞いた全員が理解したことだろう。
『あ、この娘“も”か』……と。
「そ、それはともかく、いつどこで出会われたんですか?
ホーリックスさんが前回来日なされた、
ジャパンカップの際のことだと思いますが……
もしや、それ以前に出会われていたと?」
「いえ、ジャパンカップの時で合ってるわよ」
キャスターの質問に頷くホーリックス。
しかし、次に出てきた言葉は、意外なものだった。
「でも、レースやそれ関係で会ったというわけじゃないの」
「そうなんですか」
レース関係で出会ったというわけではない。
とすると、どこをどうしたら出会うことになるのか。
全く予想できない展開で、視聴者たちもさらに盛り上がる。
「ではどこだったかはお聞きしても?」
「あれは、ええと、なんていったかしら?
日本では有名な温泉地で……」
「箱根だね」
「そうそう、ハコネよ」
「箱根???」
地名がすぐには出てこなかったホーリックスに、リアンが補足を入れた。
首を傾げるキャスターに、同様の視聴者たち。
温泉? 箱根? とコメントが流れる。
「ジャパンカップの前にリラックスしたいなと思って、
紹介してもらったのがそこだったのよ」
「ええと、つまり、温泉に入りに行かれていたと?」
「そう。そしてそこに彼女もいたというわけ」
「リアンさん?」
「偶然出会っちゃいましてね。
私もその時は箱根で海外遠征の疲れを癒していたので。
もちろん約束してたわけじゃないですよ。
それまで顔も知りませんでしたし、正真正銘の初対面でした」
信じられない、といった様子でリアンを窺うキャスター。
リアンは苦笑しながら肯定する。
「本当すごい偶然ですね! 温泉での出会いですかあ」
仕組まれていたんじゃないかというほどの偶然の出会い。
まさかそれが、本当に
「よほど印象に残る出会われ方をしたんだと思いますが、
そこを詳しくお聞きするわけにはいきませんよね?」
「リアン?」
「……ご勘弁を」
「むむむ! 残念ですが仕方ありません」
興味は尽きないが、あくまでプライベートな場面なので、
遠慮がちに尋ねるキャスター。
リアン次第とばかりにホーリックスは顔色を窺うが、
リアン自身は苦笑しながら断った。
途端に、残念がるコメントで溢れ返る。
リアンとしては、自分と親しい者が出るレースなのに、
外国勢に塩を送る行為をしたことが、
まだ記憶も新しいだけに話せなかったのだろう。
「ところで、その1回だけで自ら問い合わせされるほどにまで
なったわけですが、ホーリックスさん」
「なにかしら?」
「ズバリお聞きします。
こうして再びお会いしてみて、どうですか?」
「ん~」
そう聞かれたホーリックスは、
口元に指を当てつつ少し考えて。
「やっぱりうれしいわ」
少しはにかんで、こう答えた。
「あれほどの実績を残した人だからね。
同じウマ娘として、なにより競技者として尊敬するわ。
諦めないことの大切さを教えてもらったの」
「なるほど」
帰国してから、リアンの生い立ちなどを調べたんだろう。
改めてその凄さを再認識したようである。
話を聞いているリアン自身は、出会った時の様子を漏らしたりはしないか、
笑みを浮かべつつも冷や汗で一杯だった。
「ホーリックスさんご自身も素晴らしいウマ娘であることは、
もはや疑いようもないことですけど、
そんなホーリックスさんからもそのように思われるリアンさんは、
やはり別格なんですねぇ」
「やはりも何も、当然だと思うわよ」
「ちなみに、ちなみにですよ?
やっぱりそのときのやりとりが非常に気になるわけなんですけれども」
再びぶっこんでいくキャスター。
お仕事だから仕方ない。
「お聞かせいただくわけには……」
「リアンがダメと言ったからだーめ。
It's a top secret」
「ですよね。失礼いたしました」
もちろんイエスと言われるわけもなく、キャスターは頭を下げる。
目配せしてきたホーリックスに、リアンも内心で頭を下げた。
またしても残念がった視聴者たちであったが、
ホーリックスの「だーめ」という言い方が非常にかわいらしかったため、
その容姿も相まって、撃墜される者が多発したとか。
「ホーリックスさん、今後のご予定は?」
「3月に中距離のG1があるから、まずはそこに照準を合わせているわ。
10月にはオーストラリアのコックスプレートにも行くつもり。
前に遠征したときは敗れているから、今度こそ勝ちたいわね。
もし勝てたら……」
「勝てたら?」
「ジャパンカップの連覇を狙ってみるのも、いいかもしれないわね?」
「はい! 連覇宣言いただきました!」
ホーリックスの今後の予定に話が及んだ。
ジャパンカップにも触れられたため、
ここぞとばかりにスタジオ、視聴者たちも再度盛り上がる。
「予定といえば、リアンのほうはどうなっているの?」
「特に何も決まってないよ。
進学はするつもりだけど、どこに行くのかも含めて白紙状態」
「そうなんだ」
リアンの引退後の予定も聞いたホーリックス。
何やら思案しているようで。
「……時間はある、ってことよね?」
「早い話がそうだね。進学するにしても勉強しなきゃだし、
早くて来年の話かな。それがどうかした?」
「うん、その……ニュージーに来てもらえないかしら?」
「え? ニュージーランドに?」
思案の理由は、母国に誘いたかったからか。
すわURAからの引き抜きかとネットがいきり立つが、
どうも事情が違うらしい。
「ニュージーにも良い温泉がいっぱいあるわ。
温泉に来てたってことは、貴女も温泉好きなんでしょ?
一緒に温泉巡りできたらいいなって……
美味しいものもたくさんあるから……」
気恥ずかしそうに、伏目がちに誘う姿はまさに乙女。
これにはネット民も今度こそ多くが撃沈。
当のリアンも、最初こそ驚いたが、断る理由はなかった。
「わかった。いつにしようか?」
こう言って応じる構えを見せる。
ホーリックスの表情はすぐさま輝いた。
「3月と4月はレースもあって立て込むから、
それが終わった後の5月とかどう?
5月なら日本の秋に当たって、気候も良いし」
ウキウキしながらそう申し出る。
「じゃあそうしようか。
私はよくわからないし、お任せしちゃってもいい?」
「もちろんよ!」
リアンも頷いて、いよいよ本決まりの様子。
なおもウキウキ状態のホーリックスは、その豊満な胸を張る。
「とびっきりのコースを案内してあげるから、
そのつもりでいなさいな。
予定が決まったら連絡するから、連絡先教えて?」
「うん、後で交換しようね」
「1番おすすめなのは──」
「うんうん──」
早くもおすすめの場所などの話で1人大盛り上がりのホーリックス。
はいはいと相槌を打つしかなくなるリアン。
こうなると置いてけぼりなのが、
キャスターと視聴者たちである。
「……私、何を見聞きさせられているんでしょうか?」
キャスターの虚しい一言が、
わいわい盛り上がるホーリックスとリアンの会話の傍らで、
生放送に乗っかった。
「さて、お送りしてまいりました特別番組も、
そろそろお開きといたしましょう」
生放送も、まもなく終了の時間を迎える。
といっても予定をかなりオーバーしているのだが。
「ファミーユリアンさん、長々と、
それも生放送にお付き合いくださり、
まことにありがとうございました」
「いえ、こちらこそ。楽しかったですよ」
「ホーリックスさんも、
わざわざ海外からありがとうございました」
「You're welcome」
サプライズゲストとして登場したホーリックスも、
こうして番組の最後まで出演し続けた。
「リアンさん、最後になりますが、
番組をご覧の皆様にお言葉をお願いします」
「はい」
促されたリアンは立ち上がって、スタジオの中央へと歩み出る。
同時に照明が落とされて、頭上からのスポットライトのみとなった。
「えー、ファンの皆様、長年にわたる応援ご声援、
本当にありがとうございました。
皆様の声があったからこそ、頑張れたんだと思います。
感謝のしようもございません」
正面のカメラを見据えて、リアンは言う。
「私は引退しましたが、ウマ娘レースは続いていきます。
オグリキャップさんをはじめとして、
イナリワンさん、スーパークリークさん、
トウショウファルコさん、ヤマニングローバルさん等など、
まだまだ強くて魅力的な娘がたくさんいます。
彼女たちばかりではなくて、他にもいっぱい出てくることでしょう。
引き続きたくさんのご声援を頂戴できれば幸いです」
幾人かの名前を挙げ、今後のこともお願いする。
自分が引退したからといって、それで終わりではないのだから。
「ウマ娘レースと、皆様のますますのご健勝、ご発展を祈ります。
ありがとうございました」
最後に大きく頭を下げたところで、挨拶は終わり。
スタジオの照明も元に戻される。
キャスターとホーリックスも、リアンも左右に寄り添ってきた。
「それでは、長時間のご視聴、ありがとうございました。
改めまして、リアンさんの戦績を振り返りつつお別れとなります。
皆様、さようなら~」
手を振るリアン、ホーリックス、キャスターの三者。
徐々に画面が暗くなっていき、暗転したところで、
下から上にリアンの戦績一覧がスクロールしていく。
ファミーユリアンさんが保持されている記録一覧
(カッコ内は2位の記録)
G1最多勝 17勝(10)
重賞最多勝 21勝(12)
最多連続連対 23戦(19)
重賞最多連対 23(17)
重賞最多連勝 11連勝
史上初の天皇賞春秋連覇
天皇賞3勝(春2勝、秋1勝)
史上初のシニア級王道路線完全制覇(年間無敗)
連覇したG1
天皇賞春(初)、宝塚記念(初)、ジャパンカップ、有馬記念
レコード更新14回
世界レコード2回 日本レコード8回
保持世界レコード
芝2400m 2:22.2
ダート10F 1:57.65
日本レコード
芝2000m 1:56.4
芝2200m 2:09.7
芝2400m 2:22.2
芝2500m 2:29.4
芝3000m 3:03.2
芝3200m 3:13.2
ジュニアレコード
芝2000m 1:59.4
コースレコード
東京 芝2000m 1:56.4
東京 芝2400m 2:22.2
中山 芝2200m 2:12.0
中山 芝2500m 2:29.4
京都 芝3000m 3:03.2
京都 芝3200m 3:13.2
阪神 芝2200m 2:09.7
ベルモントパーク
ダート10F 1:57.65
ファミーユリアンさん全戦績
新馬 東京 芝2000m 良 1着 1:59.4R
葉牡丹賞 中山 芝2000m 稍 1着 2:05.3
青葉賞(Ⅱ) 東京 芝2400m 良 1着 2:25.3
東京優駿(Ⅰ) 東京 芝2400m 良 1着 2:25.0R
セン記念(Ⅱ) 中山 芝2200m 良 1着 2:12.9R
菊花賞(Ⅰ) 京都 芝3000m 良 1着 3:03.2R
有馬記念(Ⅰ) 中山 芝2500m 良 2着 2:33.3
日経賞(Ⅱ) 中山 芝2500m 良 1着 2:29.9R
天皇賞春(Ⅰ) 京都 芝3200m 良 1着 3:13.2R
宝塚記念(Ⅰ) 阪神 芝2200m 不 1着 2:13.9
オールカ(Ⅱ) 中山 芝2200m 良 1着 2:12.0R
天皇賞秋(Ⅰ) 東京 芝2000m 良 2着 1:59.0
JC(Ⅰ) 東京 芝2400m 良 1着 2:22.2R
有馬記念(Ⅰ) 中山 芝2500m 良 1着 2:29.4
大阪杯(Ⅰ) 阪神 芝2000m 良 1着 1:56.9R
天皇賞春(Ⅰ) 京都 芝3200m 良 1着 3:16.8
宝塚記念(Ⅰ) 阪神 芝2200m 良 1着 2:09.7R
天皇賞秋(Ⅰ) 東京 芝2000m 良 1着 1:56.4R
JC(Ⅰ) 東京 芝2400m 良 1着 2:22.4
有馬記念(Ⅰ) 中山 芝2500m 良 1着 2:30.4
ドバイW(Ⅰ) メイダン ダ2000m 良 1着 1:59.50R
コロネC(Ⅰ) エプソム 芝2420m 稍 1着 2:34.43
KGⅥQ(Ⅰ) アスコット 芝2406m 良 1着 2:28.60
フォワ賞(Ⅱ) ロンシャン 芝2400m 不 3着 2:45.86
凱旋門賞(Ⅰ) ロンシャン 芝2400m 稍 1着 2:24.90R
BCクラ(Ⅰ) ベルモント ダ10F 良 1着 1:57.65R
有馬記念(Ⅰ) 中山 芝2500m 良 14着 ─
27戦23勝 2着2回3着1回
完結と言いつつ、すぐさま短編を投稿するスタイル
リアンからのお別れ
https://youtube.com/shorts/HPBP_rgqbu4
https://www.nicovideo.jp/watch/sm43388372
放送を見た各娘の反応
「海外のコは積極的だなあ」
「ぐぬぬ……」
「……姉様?(汗)」
「わたしもリアン先輩と温泉行きたい!
今度誘ってみようっと♪」
「てやんでぇ! 公の場で惜しげもなく……
恥ずかしくないのかってんだ。
(あたしも、姐御を誘ってもう1度大井に行きてぇなあ)」
「私もお姉さまと……ううん、今はそれどころじゃないわよね」
「かぁ~っ! 公共のネット使って何やってんねん。
ネットは私物とちゃうで。なあオグリっ?」
「温泉……ごちそう……いいな……」
「あ……そやな、オグリはそういうヤツやったわ」
仮にリアンが海外遠征する場合、初戦は何が良いですか?
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ドバイワールドカップ
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ドバイシーマクラシック
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ガネー賞(仏)
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クイーンエリザベス2世カップ(香港)
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アメリカ遠征