転生孤児ウマ娘の奮闘記   作:しょうわ56

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第13話 孤児ウマ娘、夏を超えて

 

8月29日。

明日、学園に帰るので、実質シンボリ家での最終日。

 

今日は、シンボリ家でのトレーニングの集大成として、

再びタイム計測をする予定だ。

 

さて、どれくらいタイムを縮められるかな?

 

タイム短縮のカギは、先日発見した、俺のウマ娘としての走り方、

例の超前傾走法の完成度合いにかかっている。

 

あれから何度も試してみたが、あのときみたいな感じになることが、

1度もないんだよね……

 

それでもアベレージ的なスピードは上がっている気はするけど、

ルドルフに追いついたあの感触は、ついにこのトレーニング中には現れてくれなかった。

 

あれが完成形ではないだろうし、今後、

必ず発現できるように完成度を高めていかねばならない。

 

「では行くぞ。用意はいいか?」

 

「いつでも」

 

ストップウォッチを手に、ルドルフが聞いてくる。

もちろん準備は整っているので、頷きを返した。

 

「位置について、よーい」

 

「……」

 

「……どん」

 

「っ!」

 

ルドルフの合図でスタートした。

 

この前と同じ、芝5Fの単走追切。

序盤はゆっくり入って、勝負所、そう、

残り600の地点でブースター点火、例の走り方に移行する。

 

スムーズに移れればいいが……

 

下手を打つと、絶対に前へとつんのめってしまう。

ここ数日は転ぶこともなくなってきたが、それでも怖さはある。

スピードの追及は、恐怖心との戦いでもあるのだ。

 

そうこうしているうちにコーナーへ差し掛かり、

内側へ身体を倒して抜けていく。

 

『6』のハロン棒が近づいてきた。

 

ウマ娘が出せる速度は、時速60キロ以上だという。

瞬間的には70キロを超えるとも。

まさに車に乗っているのと変わらない感覚。

 

実際に60キロを生身で感じるとしたら、やはり

スピード感よりも恐怖が先に来るかもしれない。

 

だが、そこはやはりウマ娘。

恐怖よりも疾走感、そして、楽しさが前面に押し出てくる。

 

残り600を通過。

 

……よし!

 

「っしゃああああああ!」

 

上体を思い切り前に倒し、イメージするのは超加速する自分。

目に入ってくるものが、スローモーションになる……

 

 

 

 

 

「……はあ……はあ……」

 

ゴール後、両手を膝について、肩で大きく呼吸。

 

出し切った。アレが発揮できたのかどうかは正直微妙だが、

今の自分が持っているものは全部出せた気がする。

 

「リアン!」

 

小走りに駆け寄ってくるルドルフ。

 

「……結果は?」

 

どうにか息を整えつつ、ルドルフに尋ねた。

 

まだ回復しきらず、顔を上げられない。

よって、彼女の表情を確かめられないので、

言葉にしてくれるまでわからなかった。

 

「やったな、68秒だ」

 

「ろくじゅうはち……」

 

「この短期間で3秒も縮まったぞ。やるじゃないか」

 

「……そう、なのかな」

 

数字だけ聞くと、あんまり成果を上げたとは思えない。

だが、ルドルフの声は明るかった。

 

実際問題、どうなのかな?

 

改めて考えて、レースでの3秒となると、かなり大きく思える。

リアル競馬なら、1秒差で6馬身とかだったような気がするから、

3秒なら18馬身差、距離にすると40m以上だ。

 

そう言われると大きいな、うん、おっきい。

 

もし、あの選抜レース時にこの走りが出来ていたとしたら、

掲示板に載るぐらいまでは行けただろうか?

 

……やめよう。

タラレバの話をしてもしょうがない。

あのときはあのとき、今は今だ。

 

何はともあれ、1ヶ月前の自分よりは確実に速くなっているのだ。

素直に喜ぼうじゃないか。

成果が何もないよりは、遥かにマシなのだから。

 

「成長を実感できたか?」

 

「……うん」

 

たぶん今の俺の顔は、自分で想像している以上に、にやけているんだと思う。

ルドルフもわかってるんだと思うけど、茶化したりはしてこない。感謝。

 

「次は私だ。今日は本気で行くぞ」

 

「ほどほどにね」

 

そんな俺に触発されたのか、一転して真剣モードに突入の皇帝陛下。

もちろん、俺の言葉は聞き入れてもらえなかった。

 

 

 

「60秒って……」

 

本物のレースペースと変わらんやんけ!

ええい、シンボリの皇帝陛下はバケモノか!

 

……バケモノだったわ(滝汗)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「寂しくなるわねぇ」

 

シンボリ家を離れる朝。

見送りに出てきてくれたお母様が、名残惜しそうに言った。

 

「おいおい。何も今生の別れというわけじゃないんだぞ」

 

「そうですけど……」

 

お父様にそう言われても落ち着かないのか、

ふらふらと視線を彷徨わせたのち、ついには目元を覆って俯いてしまった。

 

おいおいおい、そこまでなんですかい。

そこまでされると、うれしいを通り越して引きますぜ。

 

本当に、俺の何が、この人たちの琴線に触れたんだろうなあ。

 

なんか実の娘であるルドルフよりも、総じて扱いが良い気がするんですけど?

あの、ルドルフさん、気を悪くしないでくださいね?

 

横目でチラリと確かめた限りでは、気分を害してはいないようで安心した。

 

「リアンさん!」

 

「は、はい」

 

と、不意に顔を上げたお母様。

涙目で俺を見つめ、両手で俺の手を取った。

 

「またいつでも来てね。待ってるから」

 

「はい」

 

「遠慮はなしよ。ここはもう、あなたの“家”なんだから」

 

「………」

 

今世の俺に対するクリティカルヒット。

どうやらその手の類の言葉には、抵抗力がマイナスのようである。

 

ついこの間、同じようなことを院長に言われたばかりだというのに、

瞬く間に込み上げてくる何かをこらえきれない。

 

「……ふえっ」

 

「あ、あらあら」

 

これには逆にお母様のほうが面食らってしまったらしく、

一瞬だけ戸惑ったものの、すぐに正面から抱き締めてくれた。

 

「仕方のない子ね。よしよし」

 

「っ……」

 

ぐずる俺を、やさしく慰めてくれるお母様。

自分で言うのもなんだが、そんな様子は、本当の母親みたいで。

 

誤解のないように言っておくが、家庭の愛に飢えているというわけではないよ?

確かに今世では親のいない子だけど、前世ではきちんと両親おりました。

 

虐待されたとかネグレクトされたというわけでもない。

普通に愛されて育ったんです、はい。

それがどうしてこんな……ぐすっ……

 

ロリ化した精神のせいだな。きっとそうだ。

 

「すいません、お手数おかけしました……」

 

「いいのいいの」

 

数分後、落ち着いた俺は、お母様にペコペコ頭を下げている。

 

恥ずかしくて死にそう……

ルドルフとお父様の生暖かい視線も、傍から見るには良い画なのかもしれんが、

当事者になってみると耐えられないくらいだ。

 

今の学園にスーパークリークがいなくてよかった。

真っ先に目をつけられて、甘やかされ放題だっただろう。

 

「甘えてくれたほうが嬉しいわ。おかわりする?」

 

「いえ、もう、大丈夫です……」

 

「ふふふ、残念」

 

友達の母親に甘やかされるって、どういう状況だよ。

 

本当にもう、勘弁してください。

服の袖で涙をぬぐって、綺麗さっぱり忘れたい。

 

「あなたにはまた会いたいわね。いえ、会える気がする」

 

おや、いつのまにか1人増えてる。

 

「スピードシンボリさん」

 

「スーちゃん」

 

「え?」

 

「スーちゃん、って呼んでって言ったわよね?」

 

「……」

 

気付かぬ間にやってきていたスピードシンボリさんは、

俺の言葉に、口を尖らせながら言う。

 

あれ、本気だったんかい。

 

「ほら、呼んでみて」

 

「ええ……?」

 

よ、呼ばなきゃダメ?

だから人生としても、ウマ娘としても大先輩のあなたを、

そんな呼び方はできませんって。

 

「諦めろ。こうなるとお婆様は頑固だぞ」

 

「ごめんなさいね、聞き分けのない老人で」

 

「そこ、聞こえてるわよ」

 

助けを求めたお二方も、力になってはくれなかった。

しょうがない、あとで怒らないでくださいよ?

 

「す……スーちゃん」

 

「はーい♪」

 

「………」

 

この人は……伝説のウマ娘とは、とても思えんな。

 

威厳も何もあったもんじゃない。

子供のようなはじける笑顔は、とてもかわいらしいけど。

 

「会えそうというか、会うわ。

 都合がつけば、またトレーニング見てあげられるし」

 

「え、それは、ぜひお願いします」

 

「了解よ。じゃ、あなたの番号教えてくれる?」

 

というわけで、スーちゃん(もう諦めた)と連絡先を交換。

このひとの眼力は確かだし、また何か重大なアドバイスをくれるかも。

 

期待してないと言ったら大ウソになる。

 

「それじゃ、失礼します」

 

挨拶もそこそこに、車へ乗り込んだ。

もちろん例のリムジンですよ。

 

「ルドルフ」

 

「はい」

 

俺の後から乗り込もうとしたルドルフに、お母様から声がかかった。

 

振り返るルドルフ。

2人の視線が、しばし交わった。

 

「しっかりね」

 

「わかってます。シンボリの名に恥じぬ走りをお約束します」

 

「ええ、がんばって」

 

ルドルフの言葉に、お母様は少しだけ寂しそうな表情を見せたが、

すぐに持ち直して激励した。

 

名門の親子というのも複雑だよね。

 

お母様のほうも、本当はもっと世話を焼きたいのではないか。

ルドルフはルドルフで、まだまだ甘えたいのではないか。

 

年齢にしては成熟してるっぽいルドルフだから、

そんな様子は微塵も見せないけどね。

お母様もそんな我が子のことがよくわかるから、深入りはしない。

 

……はっ!?

もしかしてお母様、そんな鬱憤を俺で晴らしてらっしゃる?

 

う、う~ん、なんか俺としても複雑な気持ちになってきたぞ。

まあお互いそれで上手く行くのなら、それでいいか。

 

「気を付けていってらっしゃい」

 

「「いってきます」」

 

俺とルドルフ2人して、お決まりのセリフを口にして。

 

そんなわけで、俺たちはシンボリ家を後にし、

トレセン学園への帰路へと着いたのだった。

 

 

 

 

余談だが、その日の夜に、いきなりスーちゃんから電話が来たので驚いてしまった。

要件は、『今度の週末どう?』ということである。

 

無論、トレーニングのお誘いだ。

一杯やらない?みたいな軽いノリで言われたので、さらにビックリ。

 

いやさあ、誘ってもらえるのはうれしんだけど、突然過ぎない?

それに、今度の週末ってんなら、別れる前にも誘えたでしょ?

 

はあ~っ、何と言いますか。

 

やっぱり伝説というからには、一癖も二癖もあるんだな。

勉強になりました。

 

 

 

 




仮想固有スキル

『Liens familiaux』
残り600m地点で発動
超前傾走法によって加速力と速度が上がる



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仮にリアンが海外遠征する場合、初戦は何が良いですか?

  • ドバイワールドカップ
  • ドバイシーマクラシック
  • ガネー賞(仏)
  • クイーンエリザベス2世カップ(香港)
  • アメリカ遠征
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