転生孤児ウマ娘の奮闘記   作:しょうわ56

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第16話 孤児ウマ娘、弥生賞を観戦する

 

 

 

スーちゃんの言い分は、以下のとおりである。

 

 

・合否が不明だし、合格したら伝えようと思っていた

 

・たとえ合格しても、受験した時点ではトレーナーになるとは限らなかった

 

・トレーナーになれたとしても、1年間は見習いで契約はできない

 

・見習いが明け、晴れて正式にトレーナーになれた暁には、

 堂々とスカウトをしに行くつもりだった

 

・隠し立てしていたつもりはない。聞かれなかったから言わなかっただけ

 

 

なんというか、もうね……子供かと。

特に5番目に関しては、100%擁護のしようのない言い訳だ。

家族に対しても内緒だったというんだからな。

 

ホントに、いつの間に受験してたんだよ。

 

ありえなかったと思うけど、たとえば、

隠し通せたままだったとして、その間に俺が他のトレーナーと

契約しちゃってたら、どうするつもりだったんだ?

 

あの会見の後の放課後に電話が来たから、散々愚痴ったあとに

その疑問をぶつけてみたら、

『そのときは、運命だと思ってあきらめるしかないわね~』だって。

 

合格も辞退していただろうって言うんだよ。

どこまで自分勝手なんだと問い詰めたい。実際にしてやったさ。

笑ってごまかされるだけで、まるで応えてなかった様子だけど。

 

……で、俺をスカウトするつもりだっていうのも判明したわけ。

 

1年は待たされるわけだけど、実力も足りてないからちょうどいい。

来年、スーちゃんが正規のトレーナーとして認められて、

俺も相応の力を身につけられていたら、契約を結びましょうってことになった。

 

それも、今のところ他の子を見る予定はないってことみたいなんだよ。

つまり、専属契約ってことだ。

 

モブの身としては、過分すぎる待遇だよな。

 

現状では、俺のほうが追い付けない可能性のほうが大きいので、

より一層精進しなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだまだ朝晩は冷え込み、春の到来が待ち遠しい3月初旬。

ルドルフが3戦目を迎えた。

 

報知杯弥生賞。

現実世界の現在はディープインパクト記念という副題になっているこのレース、

言わずと知れた皐月賞のトライアルで、3着以内には優先出走権が与えられる。

 

ここをステップに選んだのは、ルドルフだけではなかった。

 

暮れのホープフルステークスを圧勝したビゼンニシキ。

彼女もまたここを叩き台とし、皐月賞へと向かうローテを組んだ。

 

かくして今年のクラシック戦線は、本番の前に

トップ2と目される大物が直接対決することになり、大いに盛り上がっている。

 

レース前夜、寮の自室にて。

 

「寝なくていいの? 明日レースでしょ」

 

俺はルドルフに、努めて自然体で声をかけた。

 

時刻は22時。

そこまで遅いというわけではないが、早く寝たほうがいいんじゃないか?

 

「……ん、ああ」

 

ルドルフは、机に向かって何かを考えているようだった。

机上には何も出ていないので、イメージトレーニングでもしてたのかな。

俺の声に反応して、顔をこちらに向けた。

 

「もうこんな時間か。気づかなかった」

 

「もしかして、緊張してる?」

 

「そんなことは……ある、かも、しれない」

 

彼女の顔は、驚くことに強張って見えた。

歯切れの悪いところからしてみても、事実のようだ。

 

有力との初対決で、ナイーブになったか?

こいつでも、そんなふうになるんだな。

 

「はは、自分でもわからない。私はどうしてしまったんだ」

 

よく見ると、細かく震えている。

これは重症だ。

 

どうしたものか……

いつもは俺が励まされてばっかりだし、勇気づけて上げられればいいんだが。

 

そうだ。

 

「ルドルフ、こっち向いて」

 

「……? ぁ……」

 

そっとルドルフに近づいて、こちらに振り向いたところを、

彼女の顔を自分の胸に押し付けるようにして抱き締めた。

 

座っている状態で助かった。

立っていたら、身長の関係で、物理的に不可能だったから。

 

「……リアン」

 

「私が泣いたときも、

 ルドルフにこうしてもらって落ち着いたから。どう?」

 

「ああ……」

 

抱き締めたときに小さく声を上げたルドルフ。

抵抗されるかもという予想も少しあったが、彼女は身じろぎひとつせず、

おとなしく抱かれたままになっている。

 

心が不安定なとき、人肌の温かさはよく効く。

経験者が言うんだから間違いない。

 

あ、クッション性には期待しないでくれ。

俺には君たちみたいな()()()ものはついてないんだ。

硬かったらごめんね。

 

「明日は私も応援に行くからね。一般席になっちゃうけど」

 

「十分だ。君が来てくれていると思うだけで心強い」

 

「そこまで言ってもらえれば、応援冥利に尽きるよ。

 月並みなことしか言えないけど、がんばってね。ニシキに負けるな」

 

「ああ、負けないさ」

 

さて、そろそろ落ち着いてきたかな?

離れようかと思い始めたころに

 

「リアン」

 

ルドルフのほうから呼びかけられた。

 

先ほどまでの震え声じゃないから、

落ち着いたとは思うけど、なんだ?

 

「ついでと言っては何だが、ひとつお願いがあるんだ」

 

「強欲なやつめ。はいはいなんですか」

 

「こうして部屋で2人のときだけで構わないから、

 私のことを『ルナ』と呼んでもらえないか」

 

「るな?」

 

「ああ。私の幼名なんだ。

 前髪に三日月形の白い毛があるだろう?」

 

ああ、聞いたことあるな。

元馬の流星が元ネタだっけか。

 

「ウマ娘名が決まるまでは、そう呼ばれていたんだ」

 

「へえ、そうなんだ」

 

「……いいかな?」

 

「いいよ。でも、必ず勝つこと」

 

「ああ、約束する」

 

ルドルフはそう言って、身体を離した。

 

その表情は、精気と覇気に満ちている。

大丈夫そうだな。

 

「じゃあ、1度呼んでもらってもいいかな?」

 

「いま? ……んんっ。ルナ、がんばれ」

 

「今の私にとって、これほどの応援は他にない。

 ああ、明日は絶対に勝ってみせるよ」

 

改めて言うとなると恥ずかしいのだが、期待の眼差しに射抜かれて、諦めて実行。

ルナと呼んであげると、目に見えて耳としっぽが立ち上がり、

頬が紅潮してくるのが見て取れる。

 

逆に掛かりすぎてない?

だ、大丈夫かいな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

G2レース、それもクラシック前の一戦としては、

異例の大観客でごった返す中山レース場。

 

どうやら入場制限がかけられるほどだそうで、

俺も入れないのではと焦ったが、トレセン学園の生徒には優先権があるようだ。

制服ということで、学生証を見せたら入れてもらえた。

 

こりゃスーパーG2とか云われることになりそう。

スズカVSエルコンVSグラスの、あの伝説の毎日王冠のように。

 

今日の1番人気はビゼンニシキ。

年末のあの走りを見せられたら、そりゃ人気するよな。

 

一方のルドルフは2番人気に甘んじた。

ニシキに比べると、今のあいつは実績で劣るからな、仕方ない。

 

『………』

 

パドックに出てきたビゼンニシキは、

いつもと変わらぬ無表情のまま、上着を脱いで周りを見渡すと、

何事もなかったかのように戻っていく。

 

ポーズくらい決めて見せろよ。相変わらず愛想ないな。

少しくらいは、ファンの皆さんに応えてあげようと思わないのかね。

1番人気なんだぞ。

 

『っ……』

 

一方のルドルフは、毎度の右腕を突き出した後、

腕組みをするポーズを披露する。

 

うん、大丈夫そうだな。程よく気合が乗っていい感じだ。

 

そうこうしているうちに発走時刻を迎え、各ウマ娘が続々とゲートイン。

特に問題はなく、レースはスタートした。

 

過去と同様にすっと前目につけるルドルフ。

ビゼンニシキは、そんなルドルフをマークするように直後に位置。

1000m通過は61秒から62秒。やや遅めの平均ペース。

 

3コーナーから4コーナーにかけて、徐々にルドルフが進出を開始すると、

同じようにニシキもついていき、直線に向く。

 

中山の直線は短いぞ!

 

思わずそんなフレーズが聞こえてきそうな展開。

 

直線に入ったところで前にいた2人を呆気なくかわし、

先頭に躍り出るルドルフ。ニシキはなおもついていく。

 

残り100。

 

完全に2人が抜け出した。

しかしその2人の間の差は詰まらない。むしろ開く。

 

ゴールしたときには、その差は1バ身4分の3まで開いていた。

初の直接対決は、ルドルフの完勝である。

 

史実での結果を知っていたとはいえ、

実際に観戦するのは、さすがに手に汗握った。

 

気づけば、周りのほかの観客と同じように声を上げ、

ガッツポーズをとっていたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「G2ウマ娘様のご帰還だ~」

 

「前にも言ったが、小芝居は要らない。普通にしてくれ」

 

部屋に帰ってきたルドルフを、盛大に出迎えた。

俺としては、最大限の敬意を払ったつもりなんだけど、

ご本人様には不評だった。大変不本意である。

 

「クラシック前哨戦を制したご気分はどうですか?」

 

「ん、まあ、あくまで本番は次だ。次も頑張らないとな」

 

「おー、がんばれ」

 

「ああ」

 

ぶっきらぼうな言い方のほうが、今のルドルフには受けがいいらしい。

優しい微笑みを見せてくれた。

 

「ところで、ルドルフ――」

 

「……」

 

「――あら?」

 

と、名前を呼んだところで、上機嫌そうだった表情が一変し、

謎の鉄仮面へと変化してしまった。

 

な、なにその反応。なんで急に不機嫌?

 

「……のか」

 

「え?」

 

「約束を破るのか、リアン」

 

「え、ええと……?」

 

「部屋で2人のときは、ルナと呼んでくれる約束だろう」

 

「あ……あー」

 

そういえば、そんな約束したね。

でも、そんな一瞬で表情変えることないじゃない。

ビックリしちゃったよ。

 

「私は勝ったんだぞ? なのに、なぜだ?」

 

「ご、ごめん、完全に忘れ……もとい。

 勝ったのが嬉しくて浮かれてたんだよ。だから怒らないで……」

 

「……はぁ、もういい」

 

手を合わせて謝ると、ルドルフは大きく息を吐きだした。

表情も、やれやれという感じに変わっている。

 

「私も、君がそういうタイプだということを忘れていたよ」

 

「いや、だからごめんって……」

 

「いきなりだったから戸惑うのも当然だろう。

 そうだろう? ファミーユリアンさん?」

 

「うぅ……あーもー! どうしたら許してくれるの!?」

 

ルドルフの反撃に、俺はもう低頭平身、謝るしかない。

すると、くすっという笑い声が漏れた。

 

「冗談だ。頭を上げてくれ、リアン」

 

おそるおそる頭を上げると、ルドルフはやはり苦笑していた。

 

ど、どこからどこまでが冗談だったんだ?

ホントこのひと、“そうなる”と威圧感すごいから、

冗談が冗談だと取り切れないのよ……

 

「だが、約束のことは本当だぞ。

 ルナと言って祝福してくれるのを期待していたというのに、

 見事に空振りさせられたよ」

 

「う……それはもう、ごめん。

 ついうっかりしちゃって、次からは気を付ける」

 

「無理をする必要はないんだぞ?」

 

「いや、無理じゃないから」

 

「そうか? ならぜひ頼む」

 

「了解」

 

ふう、肝が冷えたぜ。

 

しかしこうなると、室内と外とで、両方気を付けないといけないな。

外でうっかりルナ呼びしないようにしないと。

 

 

 

 

 

入浴後のまったりタイム。

 

お互い寝間着姿でベッドに横になりつつ、

レース中とかレース後の話を一通り聞いた後、

不意に話が途切れた、そんなとき。

 

「リアンは、レースには出ないのか?」

 

ルドルフ、いや、ルナから質問が飛んできた。

 

「レースって、選抜レース?」

 

「ああ」

 

「いやあ、まだ早いんじゃないかなぁ」

 

選抜レースなあ。

毎月やっているのは知っているが、まだその水準に達してないんじゃないか?

下手に出て、またドンケツになるのは嫌だし(本音)。

 

「あの走りができれば、いい線行くんじゃないかと思うぞ」

 

「うーん……出せれば、ね」

 

お恥ずかしい話だが、実のところ、あれをモノにできたとは言い難い。

そう、まだ完成どころか、不発に終わることのほうが多いんだ。

 

出せれば確実にスピードは上がるし、タイムも縮まるんだけど、

出せなかったときのリスクのほうが、残念ながら現状では大きい。

 

あのとき勢いとはいえ、理事長には次のレースでは結果を出すと言ってしまった手前、

少なくとも掲示板くらいには入らないと、示しがつかないのではないか。

 

「一応、レースの出走は任意とはいえ、

 あまり出ないのも印象が悪くなるぞ」

 

「そうだよねぇ」

 

確か、アグネスタキオンのシナリオか何かでそんな話が出るんだっけ?

研究に没頭しすぎてレースに出ず、危うく退学になりかけたって。

 

「来月のレースに出てみてはどうだ?

 新入生も入ってくるから、今の自分の立ち位置がわかるはずだ」

 

「……わかった、出てみる」

 

悩んだ末、出走を決断した。

 

苦汁を飲まされたあのレースからちょうど1年。

スーちゃんと出会い、自分の走りとやらに目覚めかけてから半年。

さすがに1年に1回くらいは出走しないとまずい気がする。

 

ルド……ルナの言うとおり、今の自分の力を計るには良い機会だ。

良い結果が出てくれればいいんだが。

 

「たとえ負けても、成長したことが分かれば、

 ルナの皐月賞にも勢いをつけられるよね?」

 

「ああ、この上ない活力になる」

 

例年通りなら、年度1回目の選抜レースの直後に、皐月賞が来るはずだ。

結果を出して、良い形でルナにバトンタッチしたい。

 

「ふあ……」

 

ここで、ルナが大きなあくびを漏らした。

 

「あ、ごめん。疲れてるよね。今日はもう寝よう?」

 

「ああ、すまないな。そうさせてもらうよ」

 

気が利かなくて申し訳ない。

疲れが残っては大変だ。次こそが大切な大一番だからな。

 

「じゃあ電気消すよ」

 

「ああ、頼む」

 

立ち上がって照明を消し、再びベッドへもぐりこむ。

 

「おやすみ、ルナ」

 

「おやすみ、リアン」

 

お互いに挨拶しあってから、目を閉じる。

今日は良い気分で眠りにつけそうだ。

 

 

 

 

仮にリアンが海外遠征する場合、初戦は何が良いですか?

  • ドバイワールドカップ
  • ドバイシーマクラシック
  • ガネー賞(仏)
  • クイーンエリザベス2世カップ(香港)
  • アメリカ遠征
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