転生孤児ウマ娘の奮闘記   作:しょうわ56

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第17話 孤児ウマ娘、選抜レースにて

新年度の幕開けである。

新入生も入ってきたので、気分も新たに頑張っていきましょうかね。

 

「おい」

 

まあ我々A組の面々にとっては、何も変わり映えしないので、

各々はそれぞれに粛々と己を鍛えるのみ。

 

「おいっ」

 

さて、このあと入学式と入れ替わりで始業式があって、

そのあとは新入生の歓迎セレモニーにも出なきゃいけない。

 

いつも思うが、式典類などはもっと短く、簡素化できないものかね?

けじめは大事だと思うし、なくすなとは言わないけど、

別に大勢1か所に集まる必要なんてないんじゃないかと思う。

 

それこそオンライン開催とかでいいんじゃないかな?

 

「……いい加減にしろ」

 

え? さっきから話しかけてきてるやつがいるだろって?

あーうん、わかってるよ。わざと無視してただけだから安心して。

 

なぜかって?

そりゃあんた、新年度が始まって早々に、

見たくない顔が現れたら誰だってそうなるでしょ?

 

「下手に出てりゃ付け上がりやがって。何様のつもりだ?」

 

「先輩に対して不遜な態度をとっている、そういう君こそ何様だろうね?」

 

「まさか、覚えていないとは言わないよな?」

 

「どちら様だったっけ?」

 

「っ……」

 

「冗談だよ」

 

さすがに覚えてないは禁句だったか。

もともとのつり目がさらに吊り上がって、怒りを露わにしている。

 

ここで怒鳴らないあたり、この半年余りで少しは成長したってことかな?

 

「久しぶり、シリウス」

 

「ふん、最初からそう言えばいいんだ」

 

俺がそう言うと、シリウスシンボリはふっと表情を緩めた。

前言撤回。偉そうなところはちっとも変わってない。

 

「相変わらず、ルドルフの腰巾着してるのか?」

 

「うん、仲良くしてもらってるよ」

 

「ちっ、少しは悪びれろよ。そういう気持ちはないのか?」

 

「この世界、図太いところがないとやっていけなくてね。

 言わなくてもわかってるだろうけどさ」

 

「はっ、余計なお世話だ」

 

笑顔で言ってやったら、気に食わない反応だったらしく、

シリウスは再び顔を歪めた。

 

おーおー、綺麗なお顔が台無しですよ。

そんな難しい顔してたら後輩にも慕われなくなるぞ。気をつけな。

 

「ところで、何か用? 私これから始業式なんだけど」

 

「懐かしい顔を見かけたから声をかけただけだ。他意はない」

 

「あっそ。あんたもオリエンテーションあるでしょ、行かなくてもいいの?」

 

「だるいな。サボるか」

 

おいこら、入学して早々サボるんじゃない。

おまえ個人だけの問題じゃなくて、おまえも『シンボリ』なんだからな。

 

家の評判を落とすようなことだけはしてくれるなよ?

 

「冗談だ。最初くらいはおとなしくしておいてやるよ」

 

わずかでもギョッとしてしまったのが悪かったか、

シリウスはここで初めて満足そうな笑みを見せ、

そう言いながら去っていった。

 

にゃろう……

最後の最後で一杯食わされた。次はこうはいかんぞ。

 

しかし、『懐かしい顔』ねぇ。

あいつなりに、何かしらの感情は持ってくれてるのかねぇ。

面倒くさいだけだが。

 

あ、俺も行かなきゃ。

 

「やあリアン」

 

講堂内部に行くと、俺を見つけたルドルフが歩み寄ってくる。

クラスが別になっちゃったから、こういう行事の際も別行動になっちゃったんだよな。

 

半ば習慣化していたから、寂しいと思わなくもない。

 

「さっきぶりだね」

 

「ああ」

 

こうして顔を合わせるのは、登校したとき以来になる。

言って、1時間くらいしかたってないけどね。

 

「シリウスには会ったか?」

 

「うん、そこで会ったよ」

 

「そうか、会えたか」

 

「あいつがどうかした?」

 

「いやなに」

 

なんだかうれしそうなルドルフ。

あいつのことだから、俺と会う前にルドルフにも会ってたのか?

 

「ほかの子には目もくれず、誰か()()()()()を捜している様子だったからね。

 私とも目は合ったが、すぐに逸らされてしまったよ」

 

「え……」

 

なんだよそれ。

もしかしなくてもあいつ、俺が来るのを待ってたっていうのか?

 

たまたまじゃなかったのかよ。

うわあめんどくさ……

 

「改めて、よろしく頼むよ、リアン」

 

「やだ」

 

「そう言わずに」

 

「やだ」

 

「頼むよ」

 

前と同じく即答する俺。

やさしげな笑みを浮かべて、それでも促してくるルドルフ。

 

しつこいシンボリは嫌われるぞ、ルドルフにシリウス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今年度の1回目の選抜レースの日。

 

出走するのは新入生が中心だが、上級生もいないわけじゃない。

今回は俺もそのうちの1人だ。

 

俺が出走するのは、芝の中距離2000m戦。

スプリント戦はあの1戦でほとほと懲りたんで、もう二度と出ない。

頼まれても出てやるもんか。

 

ちょっとでも長いところなら、あれ以上の走りはできるでしょ。

ルドルフと並走できた実力を見せてやる!(競争できた、とは言わない)

 

調整も順調に来ている。

 

トレセン学園に着任したスーちゃんによれば、あの夏よりも

心身ともにひとまわりたくましくなったわねとのことだ。

 

ちなみに、見習いトレーナーと未契約の生徒が直接話すのは

あまりよろしくないとのことで、もっぱらメッセや電話での会話だけどね。

 

彼女の言うとおり、今年度の健康診断で、身長で3センチ、体重で2キロ増えていた。

 

ニシノフラワーちゃんを抜いた!(少なくとも2年超の遅れ)

もちろん小躍りして喜んださ。体重はともかく、身長がうれしい。

早く140センチを越えたいところだ。

 

診断前にそのことを見抜いたスーちゃんの眼力は、さすがの一言である。

それでも平均には遠く及ばないから、まだまだ精進しなければ。

 

スーちゃんといえば、会見で見てあげたい子ができたとバラしたせいで、

その子とは誰だと特定しようという動きが、一部のマスコミで展開された。

 

プライバシーの侵害になること、それにシンボリ家が動いたのかどうかはわからないが、

すぐに下火となって、やがて沈静化した。

 

ホント短期間で収まってくれてよかったよ。

その間は、どこから情報が洩れるかわからないから、

お互い連絡するのも控えましょうってことになってたんでね。

 

なんか芸能人にもでもなったような気分だった。

まあウマ娘自体、アイドルという側面もあるから、間違ってはいないのかな。

 

さて、話を選抜レースに戻そう。

 

ざっとエントリーリストを見てみたところ、

スクラムダイナ、シリウスシンボリ、スダホーク、タカラスチール、

ミホシンザン、サクラユタカオー、エルプス、クシロキングといった面々を確認。

 

俺が知っている名前だとこれくらい。

やはり歴史は繰り返すのか。

 

注目はやはりミホシンザンのようだ。

一般人でも知っているような偉大な五冠バの娘ということで、前評判もかなり高い。

今年の1番バは間違いなくこの子。

 

中距離でかち合わなければいいなと思ってたところ、なんとミホシンザンはマイル戦へ出走。

ホッと胸を撫で下ろしたのもつかの間、ある意味、

彼女よりも一緒に走りたくない子と一緒の組に入ってしまった。

 

「胸を借りるよ。なあ先輩殿?」

 

「……よろしく」

 

シリウスシンボリ、である。

一応腐ってもシンボリのご令嬢ということで、2番手グループの評価は受けているようだ。

 

なぜか得意満面の笑顔でそう告げてきたので、

俺は表情に出さないようにそう返すのが精いっぱいだった。

 

よりによって、あいつと一緒か。

なんか嫌な予感がする。変なことが起きなきゃいいけど。

 

 

 

 

 

出走するレース直前。

 

招集所に向かうときに、遠目だが、トレーナー席から

こちらを眺めていたスーちゃんと目が合った。

 

(いってきます)

 

(ええ、がんばって)

 

サッカー代表もびっくりのアイコンタクトを交わして、いざレースへ。

もらったゼッケンを装着して、心を落ち着――

 

「無様なレースだけはしてくれるなよ」

 

「………」

 

「ちっ、無視かよ」

 

――かせようとしたけど、こいつのせいで無理だった。

集中していると見せかけて、無反応を通す。

 

まったくこいつは、他人様に迷惑かけるのだけはやめんかい。

 

ところで、シリウス以外で一緒に走るメンバーに、クラスメイトがいた。

ニシノライデンちゃんだ。

 

G1こそ取っていないが、そこそこ名の知れた馬だったと思うんだけど、

まだスカウト受けてなかったんだ。意外といえば意外。

晩成馬だったっけ?

 

それはともかく、レースだ。

各バ、順調にゲート入りを済ませ、スタートを待つ。

 

ほんの数秒が、永遠とも思われるくらいに長く、あたりは静寂の世界……

 

 

――ガシャン

 

 

ゲートが開いて、スタート!

 

直後にまず考えたのは、集団についていけるとかということ。

追走できるかどうかで、その後の展開が大きく変わる。

 

ついていけなかったらどうしようかと思ったが、ごく自然に、

大外の枠順だったこともあって、好位の外側に取りつくことができた。

 

体躯の小さい俺が、内側で包まれてしまうと、抜け出すのが非常に困難になってしまう。

枠順を見た時から想像していた、最良のシナリオと言っていい。

 

いける……いけるぞ!

 

最低でも、1年前のレースとは全く違う。

これなら大差負けということもないはずだ。

 

「っ……」

 

夏からのトレーニングが実を結んだということか。

うれしくなって、つい口元が緩んでしまう。

 

「ふふ」

 

「……!」

 

そんな慢心を諫めてくれたのが、真後ろから聞こえてきた不敵な笑い声だ。

おそるおそる、後ろを確認すると、奴がいた。

 

「さあ、ここからどう動くんだ、先輩?」

 

「………」

 

まるで俺をマークするかの如く、シリウスシンボリ。

ゾクリと、殺気のようなものまで感じられる始末である。

 

にゃろう、刺客にでもなったつもりか?

生憎だが、それはおまえに見合った二つ名じゃないんだよ。

毛色も違うんだぜ? 似合わないからやめておけ。

 

「私を楽しませて見せろ!」

 

「……」

 

走りながらなのに、よく口が回るやつだ。

レースのほうに集中せんかい。

 

1000mを通過。

 

体感では、遅くも早くもない、と思う。

このあたりの感覚というのがいまだによくわからない。

 

騎手なんかは、このへんのペース判断が的確な人ほど勝てると云うな。

まさに勝敗に直結する要素と言えよう。

 

レース自体は、1人抜けて逃げている子がいるが、

2番手集団がそのままその他多数というダンゴ状態。

 

勝負の第4コーナーが近づくにつれて、位置取り争いが熾烈になってくる。

 

まだまだ……

俺の勝負は、残り600のハロン棒を過ぎてからだ。

 

そこでうまく、あの走りへ切り替えることができれば……

 

『6』のハロン棒が見えてくる。

同時にコーナーへと入り、身体を内側へと傾けつつ、準備を整える。

 

残り600を通過。

 

……ここだ!

心のスイッチを入れ、ラストスパートに――

 

 

ドンッ

 

 

――えっ?

 

その瞬間、俺はコース内側から何かに強く押された。

 

何か、ではないな。

俺のすぐ内側にいた子が、大きく外側によれたのだ。

そのあおりを食って接触し、俺も外へと弾き飛ばされる格好になる。

 

「っく……!」

 

その瞬間までは、何が起きたのかをだいたい理解はできた。

実際の競馬でもよくあることだ。

 

だから対処もできた。

右へと切り込んでいくカーブだから、外へと膨らまないように、

左足を外へ出して踏ん張ろうとする。

 

「……あっ」

 

だが、最高速へ向けて加速しようとした瞬間の出来事で、

支えようと思って、左足1本で支え切れるものではなかった。

 

刹那、俺の身体は自身の意思とは全く正反対の、外ラチへ向かって飛んでいく。

 

「リアンッ!」

 

誰のものかわからない叫び声が聞こえ、

ものすごい衝撃が加わったこと、までは自覚がある。

 

 

 

 

 

「……ぅ」

 

気が付けば、俺はコース上に仰向けに倒れていた。

青い空に加え、視界の片隅に外ラチが見えるから、

本当にコース外側いっぱいのほうまで吹っ飛んだようだった。

 

「………」

 

考えられたのはそこまで。

遠巻きに誰かが叫んでいる声をかすかに聞きながら、俺は意識を失った。

 

 

 




やっちまったZE
いろいろ思われるかと思いますが、いつか糧になると信じて……

参考にした馬も、デビュー前とは限りませんが、2回骨折してます。
それでも復帰して、八大競争を制してますから、
諦めなければきっと勝てるさ!

仮にリアンが海外遠征する場合、初戦は何が良いですか?

  • ドバイワールドカップ
  • ドバイシーマクラシック
  • ガネー賞(仏)
  • クイーンエリザベス2世カップ(香港)
  • アメリカ遠征
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