転生孤児ウマ娘の奮闘記   作:しょうわ56

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第18話 孤児ウマ娘、「知らない天井だ」を味わう

 

 

 

 

「……ぅ?」

 

意識が覚醒した。

 

ゆっくり目を開けると、まず感じたのがまぶしさ。

慣れていくに従って、徐々に周りの景色が目に入ってくる。

 

「……知らない天井だ」

 

知っている天井ではなかった。

いやマジな話で、見覚えはない。

 

ついで左右を見てみると、どうやらここは病院の一室らしい。

 

「そういえば、選抜レースで……」

 

内から押されて、転びそうになったのは覚えているが、

その先の記憶が存在しない。

 

普通に考えればあのまま転倒して、怪我なりなんなりして

病院に担ぎ込まれたと、そんなところだろう。

 

となれば、怪我の程度はどれぐらいだろうか。

 

搬送されたくらいだから重いのか?

自分の体の具合を順番に確かめていく。

 

右手、動く。左手、腕に多少の痛みはあるが動く。

右足、動く。左足……ん?

 

「……んん?」

 

……動かない。

というか……

 

「なんじゃこりゃ」

 

リアルで声が出た。

顔を上げて視線を向けてみると、天井から足が吊られているではないか。

自由が利かないわけだ。

 

「……また骨折か」

 

こういう状態、よくあるパターンだと骨が折れてるよね?

それも、かなり重度の。

 

「デビュー前に2回の骨折なんてなあ」

 

1回目は右足。2回目は左足?

 

両足を、なんてなあ……

これはもう普通に、競技者として再起不能のレベルでは?

 

詳しい状態は医者に聞かなきゃわからないけど、少なくとも軽くはない。

前回の右足より重いことは確定である。

 

あのトウカイテイオーでさえ、泣いて逃げ出すかもしれない。

 

「はぁ……どうすっかねぇ」

 

自分の状態が確認できたところで、大きく息を吐きだした。

 

冷静なように見えるだろうが、内心はドキドキ、心臓バクバクよ?

転生者でなければ発狂モノだろうさ。

夢潰えるというのは、まさにこういう状況のことを指すんだと思う。

 

「あ、気が付きました?」

 

しばらくボ~ッとしていたら、病室のドアを開けて看護師さんが姿を見せた。

彼女は俺の様子をてきぱきと確認すると、ナースコールで医者を呼ぶ。

 

「どういう怪我ですか?」

 

少ししてやってきた医者に、俺は単刀直入に尋ねた。

 

「全身の打撲に、裂傷が何ヶ所か。左足、ここが1番重いのはわかるね?

 かなり重くて足首に近い部分だったから、手術でプレートを入れて固定してある」

 

「手術……」

 

思ったより重傷だった。

意識がないうちに手術までされていたとは。

 

思わず、吊られている左足に視線が行ってしまう。

あそこにプレートとボルトが入ってるのかあ

 

そう言われても実感なんて浮かんでこないな。

 

「全治は、全治はどれくらいですか?」

 

「何とも言えない。半年か、1年か」

 

「いちねん……」

 

おいおい、マジかよ。

本当に再起不能レベルの大けがってこと?

 

「復帰はできますか? また前のように走れるようになりますか?」

 

「……ああ、できるさ。諦めなければね」

 

「そうですか」

 

アニメでのスズカばりの質問をする俺。

 

いま一瞬ためらったな?

俺わかっちゃった。マヤノ並みの直感力。

ダメってことだな?

 

ふうん……患者にすぐに悟られるようじゃ、医者として失格じゃね?

 

その後も、看護師の話じゃ医者と普通に話していたらしいが、

俺自身はまったく覚えていなかった。

平然としていたようでも、やっぱりショックは大きかったんだよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

消灯時間になって、俺は身体をベッドに投げ出した。

いや、最初から寝ているけれども、気持ち的な問題ね。

 

あのあと、学園のほうに連絡が行ったんだろう。

クラスメイトやたづなさん、果ては理事長までもがお見舞いに来てくれて、賑やかだった。

 

ニシノライデンが土下座する勢いで謝ってきたが、どういうことなんだろ?

彼女は帰るまで終始、頭を下げっぱなしだった。

 

そうそう、シリウスの姿もあったよ。

輪の中には入らずに、1番後ろからチラ見する程度ではあったけどね。

人込み越しに目が合ったら、何も言わずに帰っちゃった。

 

俺に直接ぶつかって来た子もいた。

 

正直どんな子だったのかなんて覚えてないけど、

青ざめた顔して今にも泣きそうな声で謝ってきたから、

レーシングアクシデントだ気にするなって言ってあげた。

 

すると、結局こらえきれずに泣き出しちゃったんだけど、

何度も頭を下げて、友人だと思われる子に支えられながら帰っていった。

 

「ルドルフ、どうしたんだろ?」

 

だがそんな中、ルドルフの姿だけがなかった。

シリウスも来ていたくらいなんだから、まさか知らないということもないだろう。

レース自体も見ていたはずだし。

 

「メールも着信も、通知もないし」

 

持ってきてもらった携帯にも、彼女からのメッセージは届いていない。

こちらから送ってもみたが、いまだに既読すらつかないのだ。

 

今までのあいつなら、授業中ででも、俺が目を覚ましたと聞いたら

飛んで来てくれてそうなのに。なんて考えるのは、さすがに自惚れが過ぎるか。

 

でも本当にどうした?

ここまで連絡がつかないのは初めてだぞ。

いつもはうるさいくらいに送ってくるのに。

 

「……寝るか」

 

とりあえずは諦めて、寝ようとするが、無理だった。

聞いた話では、丸1日眠ったままだったそうで、そりゃ眠くならないよね。

 

「はあ……」

 

ため息しか出ない。

 

さっきまではよかったな。

お見舞いのみんながいて、騒がしいながらも楽しかった。

 

個室なこともあって、1人になると途端に静かで、悲しい雰囲気になる。

 

「っ……」

 

いかん、また感情が……

 

抑え……っく……

 

だから……

 

ウマ、むす……は、厄介……

 

………

 

「……ふえええ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

選抜レースで接触転倒事故発生。

事故の概要はこうだ。

 

第4コーナーの手前で、内から2人目にいたニシノライデンの進路が詰まった。

このままでは勝負所で包まれると感じた彼女は、持ち前のパワーを生かして

強引に進路をこじ開ける作戦に出る。

 

左斜め前方への進路を確保しようと、加速するのと同時に外側へ舵を切った。

 

同期生が次々にデビューして勝っていく。

そんな中、自分にはまだスカウトすら来ない。彼女の心中には焦りが生まれる。

 

今レースには必勝を期して臨んでおり、掛かった彼女の視界には前方しか入っておらず、

横と後方に対する注意が疎かであった。

 

あおりを食ったのがライデンのすぐ外側にいた子で、急激な進路変更に

驚いた彼女は、咄嗟に過剰とも思えるほどの回避行動を取ってしまい、

そのさらに外側にいたファミーユリアンと接触。

 

体勢を崩しかけたがどうにか持ち直し、着外だがゴールしている。

 

リアンも持ちこたえようとしたが彼女は支えきれず、左側から転倒。

ちょうど直線に向けて加速していくところということもあって、

スピードが乗った状態でのアクシデントというのがまずかった。

 

走ってきた勢いそのままに、遠心力も乗ってコースを横断し、

外ラチ付近にまで転がるという大事故になってしまう。

 

その一報は瞬く間に学園内を駆け巡ったが、無論、

反応するのは当事者たちが1番早い。

 

特に劇的だったのは、目前でアクシデントが起きた、シリウスシンボリである。

 

「リアンッ!」

 

彼女は、すぐ目の前でファミーユリアンが外側へ吹き飛ばされたのを見た。

一歩間違えたら、巻き込まれていたのは自分だった。直後にいたのが自分なのだ。

にもかかわらず、彼女はすぐさま行動に出る。

 

「っちい!」

 

シリウスシンボリは、自分もレース中であることを忘れ、

芝が剥げてしまうくらいの急ブレーキをかけて止まると、

即座に踵を返してリアンの救護に向かった。

 

「大丈夫か!? くそ、気ィ失ってる!」

 

倒れているリアンのそばにしゃがみ込み、状態を確認して叫ぶ。

 

「救急車だっ、早くしろ!」

 

 

 

 

 

トレーナー席

 

「あれはまずいぞ」

 

「ああ、危ない倒れ方したな」

 

「選抜レースで事故なんて……」

 

総じて難しい顔をしているトレーナー陣。

女性トレーナーの中には、悲鳴を上げ、顔を覆ってしまう者もいたくらいだ。

 

「リアンちゃんっ……!」

 

トレーナーになったばかりのスピードシンボリは、

今すぐにでも駆け出して助けに行きたい衝動を、どうにか抑え込んでいた。

 

(ここで私が真っ先に駆け寄ったら、関係があると認めてしまうようなもの。

 我慢……今は我慢しなきゃ……!)

 

今ではすっかり鳴りは潜めたが、いつまた、例の人物を特定しようという動きが

再燃するかもわからない中、ヒントを与えるような行動は厳に慎むべき。

スカウトするとなれば普通にバレるだろうが、今はまだ早い。早すぎる。

 

リアンにとっても、自分にとっても、良くないことになるのは明らか。

なので迂闊な真似はできなかった。

 

(……私は信じてるわ。あなたを育てるって夢、決して諦めないからね……!)

 

固く握りしめられた彼女の両拳からは、真っ赤な血がしたたり落ちていた。

 

 

 

 

 

観客席

 

「……リアンが」

 

レースを観戦していたルドルフは、これが現実だと信じられなかった。

 

第4コーナーで、唯一無二の親友が吹き飛んだ。

今は、見るも無残な格好で、ターフ上に倒れている。

 

「………」

 

両眼を見開き、4コーナーのほうを見つめたまま、微動だにしない。

 

事故が起きた。

誰が巻き込まれた? 親友であるリアンが。

 

このレースはなんだ? 選抜レース。

リアンはなぜこのレースに出た? 出る必要はあったか?

……否。いずれは出なければならないが、今日この日、

このレースである必要はなかった。

 

では、なぜだ?

 

レースに出なければ、事故に巻き込まれることもなかったはず。

不必要なレースに出たのは、なぜだ?

 

「私が……勧めたから……?」

 

……そうだ。

確かにあのとき、あまり乗り気ではなかったリアンに、

必須でないレースに出走するよう提案説得したのは、自分だった。

 

「……私の、せいか?」

 

極端な結論に達してしまったルドルフは、愕然として、目の前が真っ暗になる感覚に襲われる。

倒れているリアンが、動く様子を全く見せないことも、ルドルフの心理にマイナスの負荷をかけた。

 

「わたしの……」

 

呆然と呟くルドルフ。

 

騒然としている観客席から、彼女の姿はいつの間にか消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

選抜レース翌日の夜

 

「……わたしのせいだ」

 

ルドルフは、授業にもトレーニングにも出ず、寮の自室で引きこもっていた。

あのあと、自室までどのように行動したのか、全く覚えていなかった。

 

部屋の電気もつけず、昨日から飲み食いもせず、一睡もしていない。

ルームメイトのベッドにもたれかかって、ただひたすら、

壊れたレコーダーのように、同じ文言を呟き続けるだけ。

 

「わたしの――」

 

 

ガチャリ

 

 

「――」

 

「邪魔するぞ」

 

もう何度目だかわからない言葉を吐いた時、部屋のドアが開く音が響き、

実際にドアが開いて廊下の光が差し込んでくる。

 

「……シリウスか」

 

ドアを背にして腰を下ろしている状態だったが、声で分かった。

 

「鍵がかかっていたはずだが」

 

「おまえの担任と寮長に頼まれた。

 いけないよなあ、優等生ともあろうものが無断欠席しちゃあ。

 様子を見て来いとよ。ったく、なんで私なんだ。電話くらい出ろ」

 

「……そうか」

 

シリウスの声に反応はするものの、体は全く動かさない。

自嘲気味の声が漏れるだけだ。

 

「ついでだ、伝えておいてやるよ。リアンが目を覚ましたってよ」

 

「!! リアンが……」

 

ここで初めて、ルドルフがぴくっと体を震わせた。

 

「放課後に、私もほかの連中に混ざって見舞いに行ってきた。

 案外元気そうだったぞ。頭に包帯、顔には大きな絆創膏で、左足は吊られてたがな」

 

「吊られ……骨折、ということか?」

 

「だそうだよ。詳しくは知らん」

 

「………」

 

「とにかく、無断欠席だけはやめろ。駆り出される私の身にもなれ。

 それと、別におまえがどうなろうとどうでもいいが……

 リアンに心配をかけさせるな。今のあいつはそれどころじゃないんだ」

 

「………」

 

「言うことは言ったし、あとはおまえ次第だ。

 ったく、柄でもない世話焼いちまった。じゃあな」

 

それだけ言って、扉が閉まる音とともに、差し込んでいた光が消える。

室内は再び暗闇に支配された。

 

 

 

 

 

「………」

 

時刻は、すでに深夜と言ってもいい時間帯。

シリウスが去った後も、ルドルフは動こうとしない。

 

先ほどまでと違う点は、呪詛のような呟きがなくなったことぐらいである。

 

「リアン……」

 

不意のつぶやき。

 

「私は――」

 

 

ピロン♪

 

 

「――」

 

ほぼ同時に、脇に放り出したままの携帯端末が、この場には不釣り合いに軽快な着メロを奏でた。

スリープが解除され、暗闇にほのかな明かりが浮かび上がる。

 

それまでは、電話だろうがメールだろうが、いくら鳴っても

一向に反応を見せなかったルドルフだが、このときだけは違った。

 

「……リアンから」

 

見ようと思って見たわけではない。

少し視線を落としたら、たまたま目に入ってしまっただけ。

 

だが、画面に表示されたその名前に、ルドルフの身体は動いた。

携帯を手に取り、メッセージを開いてみる。

 

 

『さみしいよ』

 

 

たったの一言だけ、それだけのメッセージ。

 

 

ピロン♪

 

 

ピロン♪

 

 

さらには、立て続けに2件。

 

 

『るなに、あいたい』

『こえがききたい』

 

 

「リアンッ……!」

 

無変換なのが、逆にルドルフの心を捉えた。

リアンの心境が、手に取るように分かったからだ。

 

重傷を負って、病室に1人きりであろう彼女。

 

しっかり者のようで実は泣き虫の彼女のことだから、今も泣いているに違いない。

そんな姿が即座に浮かんだ。そして、全身に血の気が戻ってくる感覚。

 

他ならぬ親友の頼みを、いま聞いてやらないでどうする?

 

「待ってろ、いま行く!」

 

いてもいられなくなったルドルフは、

自責の念など構わずに、そのまま飛び出していった。

 

 

 

 




GW最終日につき特別更新!


ルドルフを曇らせたかった、などと供述しており――
なお、実際に足を吊られる状況があるのかはわかりません。

仮にリアンが海外遠征する場合、初戦は何が良いですか?

  • ドバイワールドカップ
  • ドバイシーマクラシック
  • ガネー賞(仏)
  • クイーンエリザベス2世カップ(香港)
  • アメリカ遠征
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