さあさあ、やってまいりましたよトレセン学園!
入学式を明日に控え、今日これから入寮するのだ。
ここに来たのはこれで3回目。
入試のとき、合格発表のとき、そして今このとき。
校舎には試験で入ったが、寮に入るのは今日が初めてだ。
関係者しか入れないので当たり前である。
トレセン学園には、美浦、栗東と2つの寮があるが、
俺はどちらに入ることになるのだろうか。
モデル馬がいるのなら、現役時代に所属したトレセンのほうになるんだろうが、
俺に関してはそうもいかない。
なんせモチーフなんていない、転生者の魂が入っただけのただのモブですから。
外見に関しても、鏡で自分の姿を見るたびに、ああモブだな~って思いますもの。
今の服装も相まって、傍から見たら、『ザ・モブ』といった感じなんだ。
まあ腐ってもウマ娘なだけあって、かわいいとは思いますけどね。
うーん、時間的にはかなり早く来ちゃったけど、大丈夫かな?
とりあえず聞いてみるか。
結論、美浦寮でした。
時間が早かったせいで、まだ誰も来てなかったよ。
案内してくれた寮長ウマ娘さんに
「一番乗りだよ、気合入ってるね」ってからかわれちゃった。
それと同時に、「荷物それだけ?」ともね。
小さい肩掛けカバンひとつだけだったからさ。
ほら、俺って私物極端に少ないから、これでもだいぶ余裕があるのよ。
荷物事前に送ったりもしてなかったから、驚いたんだろうね。
「こりゃストイックでハングリー精神の塊みたいなウマ娘が来たねぇ」
荷物これで全部ですなんて言ったら、さらに苦笑度合いが深まっていた。
いやいや、全然そんなことはありませんよ。
むしろそういうアレじゃ、俺なんて下から数えたほうが、いや、
ダントツでシンガリかもしれない。
……改めて、こんなところでやっていけるのか不安になってきたぞ。
いや、いやいや、まだ入寮しただけだぞ。
最初からそんなんでどうする。がんばれ俺!
院長にいっぱい寄付するって約束しただろ!
「……荷物整理しよ」
自分で自分を落ち着かせるようにそう言いつつ、カバンを床に下ろす。
そして、部屋を一通り見まわした。
「おー、アニメで見たまんまだ」
マヤノが爆睡してたり、スズカが左回りしてたそのまんまの部屋。
ここはウマ娘の世界なんだと再認識する。
えーと、家具一式が部屋の両側にあるけど、どっちを使えばいいかな?
早い者勝ちでいいのか? ルームメイトが来るまで待つべき?
しかしいつ頃来るのかわからんしな……
特に俺は早く来すぎてしまった感があるので、最悪、
数時間待たされるという事態も考えられる。
寮長さん曰く、整理がついたら、寮内や学園内を見学していいとのことなので、
早く終わらせて、施設見学へと繰り出したい。
よし、ここは先乗りした特権ということで、勝手に決めさせてもらいます。
窓に向かって右側の家具ちゃんたち、君たちに決めた!
というか、ルームメイトって誰なんだろうな?
というより、どの世代になるのか、というほうが正しいか。
出来れば、突出したコのいない、平均的な世代だと嬉しい。
史上最高だと名高い98年クラシックの黄金世代や、
オペ・ドトウなどの覇王世代なんかだと、俺なんかの出番なんてナッシングだ。
でも寮長がヒシアマ姐さんじゃなかったから、少なくとも最近の世代ではないのか。
だとすれば、まだ実装されていない世代ってこと?
なら俺にもワンチャンある?
まあ元より、重賞戦線で活躍できるなんて思っちゃいないけどね。
オープンに上がれればめっけもの、条件戦でも入着できれば御の字。
ああそんなことより、まずは1勝できるかが運命の分かれ道だよなあ。
勝てないと、退学や転校なんてことになりそうだしねぇ。
むしろそうなりそうな可能性のほうが高いんだよなあ。
「……はぁ」
自ずとため息が出てしまう。
やめやめ、考えれば考えるほどドツボにはまる。
嫌なことなんて考えないで、今は目の前のことに集中しよう。
コンコン
「ん?」
カバンから荷物を取り出そうとしたところで、部屋のドアがノックされた。
誰だ?
知り合いなんて皆無だから、普通に考えたら寮長さんだろうか。
何か伝え忘れたことでもあるのかな?
「はい?」
『ルームメイトのご到着だよ。開けてもらってもいいかな?』
ドアの前まで行って声をかけると、寮長さんのそんな声が返ってきた。
予想は正しかったようだ。
俺も随分と早い時間だったが、ルームメイトの子も同様だったらしい。
こりゃ大真面目で律儀なタイプだな。
とりあえず意思疎通に困難はなさそうでホッとする。
自慢じゃないが、これでも俺は陽キャではないんだ。
どちらかといえばコミュ障だと思ってるんで、
付き合いやすいタイプだと大変ありがたいですぞ。
「はい、どうぞ」
……な~んて、心に隙を作ったのが大間違いだった。
なんせドアを開けた先に立っていたのが――
「シンボリルドルフという。今日からよろしく頼む」
「………」
後世において有名な、伝説の七冠バだったのだから。
アイエエエ!
皇帝!? 皇帝ナンデ!?
実際に声には出さなかった俺を褒めてほしい。
それくらいの衝撃と驚愕度合いだった。
「ファミーユちゃん?」
「……あ、ああいえ、なんでも」
何秒間か固まっていたのだろう。
寮長さんの声で我に返らされた。
と、とにかく、名乗られたのだから名乗り返さないと。
ええと……
「ド、ドーモ、シンボリ=ルドルフ=サン。ファミーユリアンです」
思わずどもってしまい、手を合わせて拝んでしまった。
……まだショック状態から抜け出せていないようだ。
「君は何をしているのかな?」
「ふふ、面白そうな子で安心したよ」
2人には思いっきり失笑されてしまった。
うぅ、恥ずかしい……
「中に入ってもいいかな?」
「ああはい、どうぞ……」
「失礼するよ」
皇帝陛下は、許可を得ると、俺の横を通り過ぎて
颯爽と部屋の中へと入っていった。
「わかっているとは思うけど、仲良くね」
「承知してます」
「じゃ、よろしく~」
寮長さんと手を振って別れ、ドアを閉める。
ふ~やれやれ。
まさか皇帝陛下がルームメイトになるとは思わなかった。
しかしこれで、この時空が、アニメ時点ではないことが判明した。
ルドルフが会長になる前、それも入学時となると、かなり昔のことか。
ゲームに登場しているウマ娘でいうと、
すでに在学中なのは、マルゼン姉さんとシービーくらいか。
2人ともデビュー前の可能性も。
そうすると大半が未入学ということになるわけで、あれ、これ、
もしかしなくても世代的には空白期ということ?
もちろんクラシックや王道路線はノーチャンス。主に皇帝陛下のせいで。
短距離も……あ、ダメだ。マイルにはピロウイナー先輩おるやん。
スプリンターはどうだったかな。ちょっと覚えてない。路線整備前?
なんにせよ、まずは1勝できたらの話だけどな。
そもそも俺の適性ってどこなのよ、って話にもなる。
他のウマ娘たちって、自分の適性距離とか脚質とかって、どうやって知るのだろう?
「そんなところに突っ立ってどうしたんだ?
こっちに来て話そう」
「あ、うん……」
考え込んでいると、奥からそんな声がかかった。
一瞬で立場が入れ替わっている。
まあしょうがない。俺なんか、ごまんといる中のモブ中のモブ娘。
相手は七冠を制する皇帝陛下なのだ。
同列に考えるのは、おこがましいというものだ。
「改めて、シンボリルドルフだ。
ルームメイトとして、お互い切磋琢磨していこう。よろしく頼むよ」
「ファミーユリアンです。こちらこそ、よろしくお願いします」
再び自己紹介しあって、見つめ合う。
こうしてみると、やはりというか、顔立ちが少し幼いな。
原作前だから当然なんだが、それでも荘厳とした凛々しさと、
溢れ出るオーラというか、カリスマ性が感じられる。
さすが僕らの皇帝陛下だ。
あれほど慕われることになるのも、実際に対面してよくわかった。
「とりあえず荷物を整理しようか」
「そうだね。あ、机とかタンス、どっち使う?」
「どちらでも構わないが」
「じゃあ私こっち使おうと思うんだけど」
「では私はこちらだな」
家具の選択はすんなり決まった。
当初の予定通り、俺が向かって右側、ルドルフが左側。
しばらく荷物の整理。
というか、俺の荷物は少ないので、ものの数分で終わってしまったが。
「君の荷物はそれだけなのか?」
「そうだよ」
「そうなのか」
手持ち無沙汰となって、ベッドに突っ伏した俺。
まだ整理中のルドルフがそんな声をかけてきた。
ルドルフは大きなトランクケースを持参してきている。
今日からここが生活の拠点になるわけだから、普通はそれくらいの量になるよな。
怪訝そうな雰囲気になっているのが伝わってくるけど、
大丈夫だ皇帝陛下。君は間違ってない。
「私なんてこれでも減らすのに苦慮したんだ。
断捨離でもしたのか? やりくり上手なのは羨ましいな」
「あーうん、そうじゃないんだ。
もともと私物なんてほとんど持ってなかったから」
「私物がない?」
「うん。持ってきたのは勉強道具と、服が数着くらい」
「………」
俺がこう言うと、押し黙ってしまった皇帝陛下。
ジッと見ているのも悪いかと思って視線を外してたんだけど、
どうしたんだと思って目を向けてみたら
「……少し、込み入ったことを聞いてもいいか」
「う、うん」
ものすごく怖いお顔をしていらっしゃった。
飛び起きて正座の体勢になってしまった俺は正しいと思う。
美人が怒ると、ものすごく怖いよね。
「出会ったばかりでこんなことを聞くのもどうかと思うが、
少々懸念が浮かんだんでね、許してほしい」
「な、なにかな……?」
「その、私物がないというのは、買い与えてもらえなかった、
ということなのだろうか?」
……はい? 何を言っているんですかねぇ、この皇帝陛下は。
「もしそういうことなら、同じウマ娘として見過ごすわけにはいかない。
相応の機関に連絡して、相応の対応を……」
「ま、待って待って!」
1人で勝手に突っ走りそうな陛下を、慌てて制止する。
もしかしてこの人、俺が虐待かなんかされたと思ってる?
ちょい待ち。確かに恵まれた環境でなかったことは事実だけど、
しっかりと育ててもらいましたから! 誤解です!
「虐待じゃないから! 生まれが孤児で、施設で育ったってだけ」
「……なに? 本当か?」
「本当だよ。もし本当に虐待されてたなら、
こうやってトレセン学園に入ることもできてないでしょ?
受験するのだってタダじゃないんだしさ」
「確かに……」
俺がそう説明すると、ルドルフは口元に手を当て、何かを考え始めた。
わざわざ余計にお金のかかるようなことはしないでしょ?
虐待するようなクソ親なら、なおのことそう。
むしろウマ娘であることをいいことに、違法なことに手を染めそうじゃないかい?
それこそ、普通の人間ではできないような過酷な労働とか、闇レースとかさ?
「生まれてすぐに孤児院の前に捨てられてたみたいでね。
今朝までそこで生活してたんだ」
「そうなのか……。しかしそれでもスルーはできない案件だな。
ウマ娘を捨てる親がいるとは思いたくない」
難しい顔をしたまま、低い声で呟くルドルフ。
そりゃ俺だってそう思いたいさ。
でも現実にそうなってしまったんだから、認めるしかない。
捨てた理由を言うとまた揉めそうだから、それは黙っておこう。
「……すまない。早とちりしたようだ」
「いいよいいよ」
数秒して、ルドルフは申し訳なさそうに謝ってきた。
いやいやそんな、頭下げるようなことでもないでしょ。
「他人のプライバシーに土足で踏み込むような真似をしてしまった。
どうか許してほしい」
「だからいいってば。私のことを心配してくれたんでしょ?
うれしかったし、それで十分だよ」
「君は優しいな。だがそれでは、私の気が済まないんだ」
ええい、この頑固者め。
本人がいいっていうんだからいいってんだよ。
「何かお詫びを……そうだ、何か欲しいものはないか?
これでも名門と云われる生まれなんだ。可能な限り力になろう」
「ええ……」
名門って、シンボリ家ですか。
いやいや、何もそこまで……
そこまで言われちゃうと、こっちが恐縮しちゃうよ。
「ええと、今は特にないかな?」
「そうか……」
俺が断ると、目に見えて落ち込んでしまう皇帝陛下。
耳も力なく垂れさがってしまい、まさに『ションボリ』ルドルフ。
これは、何か頼まないと後に引くパティーンだ。
まったく厄介な……
物で解決するのもあまりよくないと思うし、あー、何かないか……
「えと、じゃあこうしよう」
「ああ、何をすればいい!?」
復活早いっすね、陛下。
しっぽピーン。耳も、今までのが嘘みたいに伸び上がっていますよ。
「私、出身が出身だから、今までウマ娘に詳しい人がいなかったこともあって、
自分のことを含めて『ウマ娘』がよくわかってないんだよね。
だから何かあったら、相談とかに乗ってもらってもいいかな?」
「もちろんだ。私でいいのなら、相談でも何でもしてくれ」
「じゃ、そういうことで。よろしくね、『ルドルフ』」
「……!! ああ、任せてくれ!」
なんか、やけに陛下の目が輝いてるんですけど?
本当に、言ったこと以外にはやってもらわなくていいからね?
「その……」
「? なに?」
と思ったら、またなんかモジモジして、言いにくそうにしだした。
はいはい、今度は何ですかね?
「私も、君のことを、呼び捨てにしてもいいだろうか?」
「なんだそんなこと。お好きにどうぞ。
私も勝手に呼んじゃったしね。友達同士で遠慮なんかしないしない」
「友達……友達。うん、そうだな。友達同士で遠慮なんかしないな!」
「……?」
またやけにテンション上がってる。
ルドルフってこんな奴だったっけ?
「では改めて、よろしく頼む、『リアン』」
「こちらこそよろしく、ルドルフ」
翌日、俺たちは無事に入学式を終え、晴れて学園生となったのである。
仮にリアンが海外遠征する場合、初戦は何が良いですか?
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