「ルドルフは自在性も多様性も持っている。その気になればテンからの大逃げも、
最後方からのゴボウ抜きも出来るんだ」 岡部幸雄
『シンボリルドルフさん、皐月賞制覇おめでとうございます』
『ありがとうございます』
テレビでは、勝利者インタビューの模様が映し出されている。
マイクを差し出された勝負服姿のルドルフは、堂々と答えていた。
『レースを振り返っていただきたいのですが、
あの大逃げは当初からの作戦だったんですか?』
『いえ、当初は前走同様の作戦を考えていました』
『ということは、直前になって変更したと?』
『はい。こう言うと他のウマ娘に失礼かもしれませんが、
普通に勝つだけではいけない理由が出来てしまったものですから』
『普通ではいけない? その理由は、お聞きしても?』
『ええ。先日、私の友人が不幸な事故により怪我をしてしまい、
今も病院にいます。彼女を励ますためにも、少々どころじゃない
派手なパフォーマンスをする必要があった、というわけです。
私事で申し訳ありません』
『なるほど、友情の絆が成した業というわけですね。
その甲斐あってか素晴らしいレコードを叩き出したわけですが、
これについてはいかがですか?』
『時計は副産物にすぎません。ですが、光栄には思います』
『次走は当然ダービーとなりますね?』
『はい』
『今日のパフォーマンスから見ますに、二冠はおろか、
去年のミスターシービーに続いての三冠が期待されますが、
いかがでしょうか?』
『期待は重々承知しています。応えられるよう頑張ります』
『以上、シンボリルドルフさんでした。ありがとうございました』
『こちらこそ』
インタビュアーが礼を言ってインタビューは終わり、一礼したルドルフ。
カメラが寄ったところで、一本指を差し出すポーズを取ってみせる。
明らかに三冠を意識した姿勢であった。
「言われちゃったわね、リアンちゃん」
「ですねぇ」
テレビでのインタビューを見つつ、苦笑しながらお母様が言う。
俺も同じように笑いながら頷くしかない。
当然のことながら、ルドルフが言っていた
入院している俺を励ますために、あんな大逃げをしたと、全国放送で宣言した。
……宣言、されてしまった。
あんにゃろう、今度来たらとっちめてやる。
心に秘めたるものがあるのはわかっていたが、
全国へ向けて言い触らさなくてもいいじゃないか。
また過熱報道合戦みたいなことにならなきゃいいけど。
「あんまり驚いたようには見えないわね?」
いえ、お母様。
俺もレース中は内心冷や冷やモノでしたよ。
直線向いた途端に、ツインターボ師匠よろしく逆噴射しないかと。
「そういえばレース中も私と違って落ち着いていたし、リアンちゃん、
もしかしてあの子に何か言われていたの?」
「はい。誰にも真似できないような勝ち方をする、と」
「そう。テレビで言っていた通り、あの子らしい励まし方だわ」
「ですねぇ」
まあ、そこまで決心するのにひと悶着あったんですがね。
それは言わぬが花というやつかな。
しかし、これでルドルフも晴れてG1バの仲間入り。
ますます俺なんかの手の届かないところに行っちゃったわけだ。
これでこの先、2つ3つと勲章を増やしていくとどうなっちゃうんだろうな?
三冠どころか、七冠ウマ娘の友達が、こんな冴えない、
骨を折ってばっかりのモブ娘で、世間から何か言われたりやしないか。
……ええい、やめやめ。
そんなことはルドルフと知り合った最初から分かっていたことだ。
俺から離れていくことを奴が望むとも思えないし、
彼女から絶交でもされない限りは、『友達』でいさせてもらおう。
とりあえずは、お祝いのメッセージでも入れておくか。
皐月賞制覇おめでとう。
思っていた以上のレースだったよ。
度肝を抜かれて素直に脱帽です。
それと、インタビューで話したことについて言いたいことがあるから、
首を洗って待ってなさい。いいね?
そのあと、ダービーまでの間にあったレース界の出来事について、
軽く触れておく。
春の天皇賞では、モンテファスト先輩が勝利。
彼女は姉も天皇賞を制しており、見事な姉妹制覇となった。
当時は存在しないNHKマイルカップ。
主な出走メンバーは、朝日杯勝ちのハーディービジョン。
ジュニア級のG2京王杯を勝っているサクラトウコウ。
そして、意外なことにビゼンニシキ。
皐月賞で大差で敗れて心折れてこっちに回ったのかと思ったんだが、
なんと彼女はマイルカップ後にダービーにも出走するという、
かのマツ〇ニ調教師もびっくりのローテで挑むことを表明する。
肝心のレースだが、ハーディーとの壮絶な叩き合いの末、ビゼンニシキが勝利した。
なんか息も絶え絶えな様子で、インタビューでもいつも以上に無口だったが、
大丈夫なんだろうか?
ダービーの前週のオークスでは、やはり史実通りにトウカイローマンが勝った。
勝利者インタビューでは無難に答えていたが、
汗だくで頬を紅潮させている様子は妙に艶めかしく、
俺の中での『やべーやつ』認知度はもう1段上がった。
ダービー2日前の金曜日、夕方。
「やあ」
ルドルフがお見舞いにやってきた。
2日後に決戦を控えているとは思えないほどの、穏やかな表情で。
「来なくていいって言ったのに」
「随分なご挨拶だな。失礼するよ」
俺がそう言うとルドルフは苦笑して見せ、
お構いなしに枕もとの丸椅子に腰を下ろした。
「だって、ダービーだよ? こんなことしてる場合じゃないでしょ」
メッセージでもさんざん言ったんだ。
でもこいつは聞く耳を持たなかった。
関係者が誰もが1度は夢見るダービー制覇。
それがまさしく手に届くところにあるというのに、
ここで調整失敗なんぞと言われたら俺の立つ瀬がない。
「だからこそ、だよ。ダービーの前に、君の顔が見たかった」
「……真顔で言わないでよ」
また、そういうことを平然と言う。
ナチュラルたらし、それもシンボリ家の固有スキル、
ファミーユリアンへの特効ダメージを発揮しないでくれ。
くさいセリフ禁止!と叫びたい。
「今度は普通でいいからね?」
「ああ。私もあんな冒険は1度で十分だな」
よかった。ダービーで大逃げなんて真似をする気はないようだ。
普通にやれば普通に勝てるんだから、変なことをしないのが常道。
変なものを背負って負けたとか、世間様に叩かれたくないし(本音)
ほら、皐月賞のときのあれで、少なくともそんな友人がいることはバレてるわけだし。
なにより俺の精神的ダメージががが。
あの大逃げでも、何かダメージが残っていないか心配したんだけど、
杞憂に終わってくれて何よりだった。
「当日は、君も観戦に来てくれるんだろう?」
「うん。外泊許可下りたからね」
2度目の骨折から1ヶ月半。俺はいまだに入院中の身だ。
経過は比較的順調であり、まもなく退院という運びになる予定だけど、
具体的な日取りは決まっていない。
よって、観戦しに行くには、外出か外泊の許可がいるわけだが、
シンボリ家が後押ししてくれたこともあって、外泊許可が下りた。
明日の朝、いつもの車で迎えに来てくれて、寮には行かず、シンボリ家で一泊。
日曜の昼頃にレース場へ向かい、レースを見て、夜になる前には病院に戻る予定だ。
「やっぱり月並みなことしか言えないけど、
がんばってね。無敗の二冠、期待してるから」
「ああ、その言葉で百人力だよ。絶対に勝ってみせる」
不敵に頷いて見せるルドルフ。
絶対があると言われた皇帝陛下が、そこにはいた。
第51回東京優駿、当日。
シンボリ家の面々と共に、東京レース場にやってきた。
恐れ多くも、お父様に車椅子を押してもらっての入場になった。
一般客は前売りの入場券がないと中にすら入れないという状況の中、
VIP用の入口から極秘に場内へ。
もちろん一般向け入場券は完売しており、盛況な様子だ。
それだけでも驚いたんだけど、入り口で迎えてくれたURAの職員さんに
案内されたのは、スタンド上階にある貴賓席である。
さすがシンボリ家、名門だということを思い知らされた。
「ふおおお……」
外のバルコニーに出てみると、ものすごい光景に、
年頃の乙女には似つかわしくない声が漏れてしまった。
鮮やかな緑が映える広大なターフ、巨大な電光掲示板、
眼下の一般席にはごった返す人の群れ、etc、etc……
前世でも、1度でいいからダービーデイに生観戦したいと思っていたが、
こんな形で実現するとは思っていなかったよ。
「リアンちゃん、あくまでまだ入院中の身なんだから、
あんまりはしゃぎすぎてはだめよ?」
「あ、はい、すいません」
「ふふ、気持ちはわからないでもないけどね」
「私なども、こんな年になってもなお、ダービーの日は心躍るものがある。
リアン君、気にしないでくれたまえ。
もちろん身体に負担をかけない範囲で頼むよ」
もっと覗き込もうとして、思わず片足で立ち上がろうとしてしまったら、
お母様からやさしくではあるが窘められてしまった。
慌てて振り返ると、お母様は微笑んで、お父様も苦笑していた。
年甲斐もなくハッスルしてしまうところだった。
これだから幼ウマ娘の精神は……
ウマ娘としては、日本一の大レースを前にして、
本能的に興奮しているというのもあるんだろうね。
そんな舞台に立てるのは18人だけの、非常に狭い門なのだから。
ひとつ前のレースが終わり、いよいよダービーの発走が近づいた。
電光掲示板に、直前の人気が表示される。
当然ルドルフが1番人気なんだが……
「支持率91.0%……!?」
「まさかダービーでこんな数字を見ることになるとは」
驚愕の声を上げる俺。
お父様ですら、困惑した声を漏らしている。
9割越えの支持なんて聞いたことないぞ。
2番人気のビゼンニシキでさえ、5%にも満たないんだから、
そのすごさがお分かりいただけると思う。
どこまですごいんだ、シンボリルドルフ!
さすがに皐月賞での大逃げ爆速レコードのインパクトが強すぎたか。
でも今回は逃げないし、時計には期待できないが、
正直、負けるところは完全に想像できない。
それこそレース中に故障でも発生しない限りは。
……フラグになりそうで怖いが、大丈夫だ。
なにせあいつはシンボリルドルフ、絶対があるウマ娘なのだから。
本バ場入場を経て、高らかにファンファーレと手拍子が鳴り響き、
ついに迎えた発走の時。
東京2400のスタート地点は正面スタンドの前、まさしく目と鼻の先だ。
それでも遠目だから細かい表情までは確認できないが、
パドックから通してあいつは落ち着いているように見える。
まさに隙はない。
各ウマ娘がゲートイン。
態勢完了。一瞬の静寂……
スタート!
1コーナーを回ってルドルフは先団の後ろ、8番手につける。
ライバルのビゼンニシキは、その1バ身前方の7番手。
弥生賞とは前後が入れ替わってのほぼ同じ態勢。
これは3コーナー過ぎまで続く。
4コーナーが近づいて、ビゼンニシキが外から進出していく。
遅れてルドルフも上がっていく。
直線に向いて、ビゼンニシキが先頭に並びかけるが、そこから伸びない。
距離の壁か、あるいは過酷なローテのための疲労か、バ群に沈んだ。
ルドルフは直線で外へと持ち出すと、一気に弾ける。
『ルドルフ、並ばない。一気にかわして先頭!』
『その差は広がる一方だ! ルドルフ強いっ、強すぎる!』
『シンボリルドルフ、デビューから5連勝、無敗で二冠達成!』
『皐月賞に続き、ダービーでもレコードを更新です!』
誰よりも早く、ゴール板を駆け抜けたルドルフ。
後続には、残り400mだけで5バ身もの差をつけていた。
ウィニングランを終えスタンド前に戻った彼女は、
観客席に向かって、2本指を高々と掲げて見せた。
レース後の口取式には、なぜだか俺も参加させられて、
記念撮影に一緒に収まってしまった。
え? いや、なんで俺まで?
車椅子だからご迷惑では……だなんて言い訳はまるで通用しなかった。
お母様の「貴女はもう我が家の一員なのよ?」という一言で撃沈です。
本当にね……それを言い出されたら、もうあきまへんがな。
抵抗力ゼロを通り越してマイナスなので、逆らうだけ無駄というもの。
やっぱりもう将来的には、『シンボリリアン』になるしかないようです。
ルドルフ自身も喜んでくれて、勧められるままに
彼女の右隣というナイスポジションで収まってやりましたとも。
もちろん反対側にはご両親ですよ。
「ボクは、シンボリルドルフさんみたいな、
強くてかっこいいウマ娘になりますっ!」
……おや?
先に引き上げていったルドルフを追いかけて歩いて(俺は車椅子だけど)いたら、
なんだか聞き覚えのある声が聞こえてきたぞ?
「君の名前を聞いてもいいかい?」
「ト、トウカイテイオーですっ」
おお、これは……
アニメ2期での冒頭、ルドルフとテイオー出会いのシーンじゃないか。
ロリテイオーかわいいなあ。
というかここ、マジで関係者しか入れない場所なんだけど、
どうやって忍び込んできたんだ?
ルドルフとテイオーのやり取りを見て、周りの大人たちも和んでるし、
まあいいのかね。おかげで俺が声をかける余地など全くなかったけど。
ということは、何年後かわからないけど、テイオーが入学してくるんだな。
楽しみなような、厄介なような……
俺はテイオーからどういう扱いを受けるんだろうね?
というか、その頃まで学園にいられるのかな?
豆知識
単勝元返し
直近での有名どころは2005年菊花賞 ディープインパクト 支持率79.03%
G1級レースでの単勝元返しは65年天皇賞秋 シンザン以来
クラシック史上最高の単勝支持率 63年菊花賞 メイズイ 83.2%
G1史上最高 57年天皇賞秋 ハクチカラ 85.9%
ダービー史上最高 ディープインパクト 73.4%
作者調べ(間違っていたらごめんなさい
仮にリアンが海外遠征する場合、初戦は何が良いですか?
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ドバイワールドカップ
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ドバイシーマクラシック
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ガネー賞(仏)
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クイーンエリザベス2世カップ(香港)
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アメリカ遠征