季節は夏を超えて、秋を迎えた。
9月も中ごろに入ると、30度を超えることもまれになり、
過ごしやすくなってきた今日この頃。
ルドルフが夏明けの初戦を迎えた。
中山レース場でのセントライト記念。
日曜日が開催日なので、毎週日曜はリハビリの休養日でもある。
よって、大手を振って応援に行けるというわけだ。
例によって負けるとは全く思わないけど、
夕べもルドルフに応援に行くって言ったら、皇帝陛下は
大いに喜んでいたので、これくらいならお安い御用でさ。
ここでちょっとしたドッキリを仕込んでやった。
かなり早い時間からパドックに張り付いて、
正面の最前列に陣取ってやったのさ。
出てきた瞬間に笑顔で手を振ってやったら、あいつ、どんな顔したと思う?
目を丸くして硬直したんだ。吹き出しそうになったぜ。
でも即座に我を取り戻して、いつもの姿に戻ったのはさすがの一言。
肝心のレース自体も貫禄の圧勝で、三冠に向けて視界ヨシ!
レース後、帰路の電車の車内で、ルドルフからメッセージが届いた。
『粋な応援をしてくれたお返しをしないとな(#^ω^)ピキピキ』
……。
………。
お、お手柔らかにお願いします……((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
10月度の選抜レースの日。
選抜レースの開催日は、基本的に授業はない。
自習するか、自主的にトレーニングするか、休養するかになる。
トラックコースは使えないから、トレーニングは坂路かプールだ。
まだ復帰できていない俺は、必然的に勉強か休むかの二択になるわけだ。
レースを見るという手もなくはない。
実際に、レースを見に行った月もある。
だけど今回は何となく気が乗らなかったので、図書室に行って、
適当に勉強しながら過ごしていた。もうすぐ2学期の中間テストもあるしな。
午後3時を過ぎ、そろそろいいかなと思って、手を止めて帰り支度を済ませる。
もう最終レースも終わっている時間だ。
選抜レース終了後は、終業していいことになっている。
寮に直帰しても構わないけど、一応は教室に顔を出しておくかな?
ほら、俺ってクラス委員長だし、誰かいたら声掛けくらいしておかないとさ。
もしかしたら、今日のレースでスカウトされた、って子がいるかもしれない。
だったらぜひとも祝福してあげないとね。
いろいろ優しくしてもらっているので、俺もみんなに優しくしてあげたいところ。
そう思って自分のクラスへと足を向ける。
選抜レースがあるたびに、クラスからぽつぽつとスカウトされていき、
転籍に伴って1人、また1人と人数が減っていく。
即ち、勝利を挙げることができたというわけだ。
非常に喜ばしいことではあるが、一方で非常に複雑でもある。
自分はいったいいつまで、A組に留まり続けるのだろうか。
はたして、B組に上がれる日は来るのか?
そう考えると、心にどす黒いものが満ちてくる。
「……やめやめ」
暗い気持ちを振り払うため、わざと声に出して、首を振った。
なにも俺だけがそんな思いを抱えているわけじゃない。
A組は全員そうだと思う。
みんながみんな、そんな恐怖と日々戦い、抗い続けているのだ。
さて、誰かいるかな?
「おい~――」
「あっ、ファミーユリアンさんっ!」
「――っすう!?」
教室に入りながら声を掛けたら、誰かが目の前に立ちはだかって、
思わずぶつかりそうになってしまった。
ったく、誰だよ、いきなり人の目の前に飛び出してくるのは。
「聞いて聞いて! 私っ、いの一番にあなたに報告したくて、
あなたが来るのを待ってたんですよっ!」
「ら、ライデンさん?」
「はいっ、ニシノライデンですっ」
誰かと思えば、ニシノライデンちゃんだった。
見れば体操服姿のままで、随分と浮かれているようだが、何か……
あ、なるほど、これは……
「スカウトされた?」
「はいっ!」
「そっか、よかったね、おめでとう」
「ありがとうございますっ!」
先んじて言ってあげると、ライデンちゃんは満面の笑みで頷いた。
ついにスカウトされたか。
今の今までされてなかったのが、むしろおかしかったんだよなあ。
「ライデン、自分のレースが終わってスカウトの話を受けてから、
ずっとリアンさんを待ってたんだよ」
「そわそわそわそわしながらね~」
「着替えもしないで、まだかなまだかな~って首を長くしながらさ」
「おまえはキリン娘かっての」
「え、それは悪いことしちゃったな」
ライデンちゃんと一緒に教室にいた連中から、
これまでの様子が語られた。
ずっと図書館に籠りっぱなしだったからなあ。
せめて距離別のすべての組が終わるタイミングくらいでは、
様子を見に来てみるべきだったか。
「いいのいいの。私が勝手に待ってただけだから」
笑顔を崩さずに言うライデンちゃん。
良い顔だ。
あんなことがあったけど、彼女には引き続き頑張ってもらいたい。
原作では取れなかったG1にも、手が届くくらいになってほしいね。
「とりあえず、シャワーを浴びて着替えておいで。
待ってるから、話はそれからでもできるよ」
「うん、そうします。それじゃねっ」
足早に去っていく彼女を、他のみんなと同じく微笑ましく見守る。
よかったよかった。
未勝利で終わるような子じゃないんだからさ。
だけどそういう、思い立ったが即行動、みたいな短絡思考は、
絶対に直したほうがいいと思うよ。
じゃないとまた斜行しちゃうよ。がんばれ。
翌月には早くもデビュー戦を迎えたライデンちゃんは、見事に初戦で勝利。
もともと地力はあるんだ。2人吹っ飛ばすくらいにはね(汗)
別に今でも何とも思ってないよ? 皮肉っぽいこと言っちゃったけどさ。
みんなと一緒に祝福してあげたら、
ライデンちゃんわんわん泣いちゃって、もう収拾がつかなかったな。
そうして彼女もA組から去っていき、また1人クラスの人数が減った。
第45回菊花賞。
なるか、2年連続三冠!
無敗で三冠達成すれば史上初!
死角なし! 注目は勝ち時計!
京都へと向かうバスの車中にて、暇潰しに読んでみたスポーツ新聞、
そのどれもが1面にて大々的に報じている。
いずれもがルドルフの三冠達成を確実と見て書かれており、
中には、勝つのは当然として、タイムに注目しているものもあるくらいだ。
皐月、ダービーがレコード勝ちだったんで、菊花でも、というのだろう。
無敗で三冠に続き、三冠すべてでレコードと来れば、
それはもう前代未聞どころの騒ぎじゃないだろう。
ディープクラスでも連続でレコードなんて真似は出来てないんだからな。
きっと未来永劫、語り続けられていく伝説になる。
車内そこかしこから、ウマ娘たちの浮かれた声が聞こえてくる。
みんなにも新聞やら雑誌やらが配られたので、
同じ記事やらを呼んで興奮したり、語り合ったりしているんだろう。
そもそもどうしてこんなバス移動しているのかと言うと、
2年連続三冠かという今後2度とないかもしれない事態に、
気を良くした学園側が急遽、大型バスを貸し切り、応援ツアーを組んでくれたのだ。
もちろん生徒は無料、引率はたづなさん。
なかなかに太っ腹だが、あの理事長が奮発して、ポケットマネーから出してくれたのかも?
日曜の朝に出発、現地にてレースを観戦後、
とんぼ返りで夜に学園着という超弾丸ツアーだけどね。
明日は絶対身体バッキバキになってそう。
俺に関しては、当初はシンボリ家のほうで一緒に行こうと誘ってくれてたんだけど、
せっかく学園側が用意してくれたんだからということで、こちらに参加した。
環境から行けば、新幹線移動(それもグリーン車)だろう
シンボリ家の人たちと一緒のほうが良かっただろうが、こうして学園のみんなと
わいわいしながら行って帰ってくるのも悪くはなかろう。
新幹線のグリーン車なんて乗ったことないから、少々惜しいけど。
それはまあ、来年の春の天皇賞の時もお声はかかりそうだし、そのときにとっておこう。
ちなみに、来週の天皇賞に回ったニシキちゃんと、
スワンステークスに出走予定のハーディーちゃんは、
このツアーには参加していない。
レースがあるんだから、調整優先ということでね。
本人は残念がっていたけど、しょうがない。
ニシキはわからないけど。だって相変わらず人と喋ろうとしないんだもん。
さて、肝心のレースである。
曇天でやや薄暗い京都レース場、バ場は稍重。
スタンドの一角に陣取った、我がトレセン学園応援団の声援、
もちろん一般ファンたちの大声援も送られて、ゲート入りは順調に進み、スタート。
ルドルフはいつもより後ろ目、中団の後方寄りに位置して、
2週目の3コーナー、坂の登りまではそのまま。
下りから進出を開始して、4コーナーでは先行した子たちが外へと膨れる中を、
1人だけ内を突いて堂々と3番手まで進出。
このあたりレースセンス抜群だよなあ、あいつは。
先頭に出たあとはもう毎度のごとく、突き放す一方である。
最後に外から1人、すごい勢いで突っ込んできたが、時すでに遅し。
『赤い大輪が薄曇りの京都に大きく咲いた!』
『我が国ウマ娘レース史上、不滅の大記録が達成されました!!』
日本ウマ娘史上初、無敗の三冠、成る。
ゴールの瞬間の大歓声は、一生忘れられないだろう。
勝ち時計は、3分3秒4。
思わず「阪神関係ない」とツッコミを入れたくなる数字、
まあそれはいいとして、稍重のコンディションを考えれば、
破格のスーパーレコードのおまけつきだ。
無敗で三冠のうえ、三冠すべてでレコード勝ちという、まさに金字塔である。
ウィニングランを終え、スタンド前まで戻ってきたルドルフは、
大声援に応えるように軽く手を振った後、3本指を天高く掲げた。
明日も授業があるため、長居はできない。
レースが終わってすぐの、ウイニングライブも見られない
ホントにとんぼ返りだが、来てよかった。
遠隔地でのレースの場合、日曜午後のレースのウイニングライブの参加者は、
疲労とコンディションを考慮して、現地での宿泊が許されている。
月曜午前の授業は公休扱い。
よって、ルドルフに会えるのは、早くて明日の昼頃だ。
とりあえずメッセでお祝いのメッセージを入れておきつつ、
バスに揺られて学園まで帰った。
月曜、放課後。
いま俺は、一足先に寮の部屋へと帰宅して、
本日の主役、いや今や、ウマ娘界の主役と化した親友の帰りを待っている。
手には、俺の退院祝いの際に使われることのなかったクラッカー。
まだとってあるというので、ひとつ譲ってもらってきた。
もうさんざん祝福されただろうが、もう1回だけ付き合っておくんなまし。
待つことしばし。
「帰ったぞ」
無敗の三冠バとなった皇帝陛下が、満面の笑みを浮かべてご帰宅だ。
すかさずクラッカーを鳴ら――
「おめで……あれっ?」
――なかった。
「ちょっ、シケってるじゃんこれ!」
やられた……
くそっ、肝心なところで粗悪品を掴まされたっ!
確かめておくべきだった。
何か月もたってれば、そりゃそうだよなあ。
「ふふふ」
「はは……」
そんな様子をおかしかったか、さらなる笑みを零すルドルフ。
俺も苦笑するしかない。
「やってくれるって信じてたよ。
もう聞き飽きただろうけど、おめでとう」
「ああ。………」
「どうしたの? 疲れてる?」
俺から祝福されたルドルフは、頷いた後に、目を閉じて固まってしまった。
やっぱりいろいろと疲れがあるのかな、と思ったら
「いや。リアン、君から祝ってもらえるのが1番だと予想していたが、
やはりその通りだったと、喜びを噛み締めていただけだよ」
思わずこっちが赤くなってしまいそうなセリフを吐く。
またそういうことを、皇帝陛下はさらりと言うんだからなあ。
臭いセリフは禁止だと言わなかったか?
とりあえず上がってもらって、というのも変だな。
こいつにとっても、ここは自室なんだから。
荷物を置いて、ベッドに腰かけたのを見届けた後、俺もベッドに腰を下ろした。
「取っちゃったねぇ三冠」
「ああ、取ってしまったな」
俺の声に、ルドルフは感慨深げに頷いた。
そして、驕りや浮かれとは正反対の、引き締まった表情に変わる。
「この先のほうが大変かもしれない」
「だよねぇ」
世間の目は、自ずと一層厳しくなるだろう。
自分へも厳しい皇帝陛下のことだから、心配は要らないだろうが……
「でも、ここでは、私の前くらいでは気を抜いていいよ。
そうでもしないとルナちゃんの神経張りつめて壊れちゃう」
「む、ルナと呼んでくれるのはうれしいが、
そういう使い方をされるのは不本意だぞ」
「わ、ルナちゃんが怒った。怖いこわ~い」
「リアン」
「ふふ」
「ははは」
茶化す俺も、冗談だと見抜いたルドルフも一緒に笑う。
そうそう、こういう他愛のないことでも何でもいいから、
ストレス溜めないで発散させてくださいな。
「この先のローテは?」
「ジャパンカップ、有馬記念だと思う。
来年は、何か問題がなければ大阪杯、天皇賞、宝塚だろうな」
当然、王道路線に行くか。
史実では、中1週という厳しい間隔と、
体調を崩したせいで初黒星を喫することとなる、鬼門のジャパンカップ。
三冠馬同士の初対決という世紀の一戦、
これを制したのは三冠馬でも海外馬でもなかったというのが、
またドラマチックではないか。
「来週の天皇賞には、シービーが出る。
普通にやれば勝ってくるだろうから、また気合を入れねばな」
「四冠VS三冠になるかあ。盛り上がるだろうなあ」
先の毎日王冠でほぼ1年ぶりに復帰したシービー先輩。
2着に敗れはしたが、健在ぶりを見せるには十分な末脚だった。
あの分なら、史実通りに勝つだろう。
両者ともに実力人気を兼ね備えた超大物だから、
当日のレース場の熱気はどれほどになるか、想像もつかない。
入場制限がかかるのは確実。
俺も応援に行くつもりだが、最悪、トレセン学園の生徒でも入れないかもしれない。
大人しくテレビ観戦が吉だろうか?
「シービーだけじゃない。
宝塚を勝ったカツラギエース先輩も侮れない」
「だよねえ」
去年の有馬を獲ったリードホーユーに、G1で何度も入着のテュデナムキングに、
カツラギに、短距離路線にはピロウイナー。
本当に、シービー世代もバケモノぞろいだぜぇ。
「いずれにせよ、私は自分のベストを尽くすだけだ」
そう言うルドルフに、慢心などは欠片すら見られない。
はたしてルドルフは、ここで史実を超えて早くも四冠となるのか?
すでに超えてるじゃんという気はしないでもないから、
きっと期待に応えてくれるはず。G1をいくつ勝ってくれるか、今後の焦点はそこだな。
がんばれルナちゃん!
仮にリアンが海外遠征する場合、初戦は何が良いですか?
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