転生孤児ウマ娘の奮闘記   作:しょうわ56

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第30話 孤児ウマ娘、悩む

 

 

 

 

「むーん」

 

先ほどから机に向かっている俺。

ペンを握りながらノートと睨めっこしつつ、

自然とそんな声が出てしまう。

 

宿題に難航しているというわけではない。

仮にも成人からの転生者が、中学程度の問題で

ひいこら言っていたら情けないというもの。

 

それはもうとっくに済ませた。

でも高校に上がったらわからんね。

より専門的になるし、すでに記憶の彼方だ。

 

まあそれはいいとして、いま何に困っているかというと……

 

「さっきから何を唸ってるんだ?」

 

後ろからルドルフが声をかけてきた。

振り返ると、彼女も同じように机に向かっていたところで、

顔だけこちらを向けている状況。

 

「あ、ごめん、邪魔しちゃった?」

 

「いや、うるさいというわけではないよ」

 

そう言ったルドルフは立ち上がり、こちらへ歩み寄ってくる。

 

「宿題か?」

 

「ううん、それはもう終わった」

 

「成績上位の君のことだから、大丈夫だろうとは思ったが。

 ……? 自分の名前を書いているのか?」

 

「うん」

 

隣に立って、背もたれに手をかけつつ机上のノートを覗き込んだルドルフが、

不思議そうに尋ねてくる。俺は頷いた。

 

様々な書体の『ファミーユリアン』という文字が並んでいるから、

何事かと思ったんだろう。

 

ちょうどいい、ルドルフに相談してみるか。

 

ファンに求められる機会とか多そうだし、

実際に何度もしているだろうから、具体的なアドバイスをもらえるかも。

 

「ほら、ファンクラブの件で」

 

「ああ」

 

そう答えたら、ルドルフは合点がいったとばかりに頷いた。

 

「会員証に直筆のサイン、という話だったか」

 

「うん。その練習」

 

恥ずかしながら、というか、

ほとんどの人がサインの練習なんかしたことないんじゃない?

 

芸能人とかスポーツ選手というならわかるが、

一般人が改めてサインを求められる場面なんてそうそうなかろう。

せいぜいがカードを使ったときの署名くらいなものじゃないか。

 

それも普通に名前を書くだけだと思うし。

こうやって字体を崩したり、オシャレに、なんてことは考えないだろう?

 

「普通に名前を書くんじゃだめなのか?」

 

「そこはほら、せっかく書くんだから、洒落たものにしたいかなって。

 ファンの人もそういうのを期待してるだろうし」

 

「なるほど」

 

ちなみに商店街のほうから聞こえてくる話では、

とりあえず初回設定の応募者全員に、直筆サイン入りの会員証を、ということらしい。

 

当初は先着100人に限定したそうなんだが、

例の動画の影響があって、それをはるかに超える人数が殺到したそうで、

断腸の思いで300人のところで締め切ったそうだ。

 

というわけで、俺は300人分の会員証にサインしなければならない。

実物が出来上がってくるのはまだ先のようなので、

今からその日が来るのが恐ろしい。腱鞘炎になったりしないよな?

 

ファンクラブの会員自体は、随時募集中とのことである。

 

「ルナはどんなサインしてるの?」

 

「私か? 私は普通にアルファベットで書いているだけだ」

 

「ちょっと書いてみて」

 

参考までに、ちょっと書いてもらおう。

ペンを渡すと、ルドルフは本当に普通に、サッと書いてしまった。

 

『Symboli Rudolf』と。

 

「ふーん」

 

「普通だろう?」

 

本人が言うように、特にこれと言ったことはない、普通のアルファベット。

しかし、なんだろう?

普通のはずなのに、それ以上のものを感じるのは気のせいか?

 

字の上手さ綺麗さはもちろん、神々しささえ感じられるよう。

 

こんな何気ない書き込みも、ファンからしたら垂涎の一品だろうな。

オークションにかけたら、いったいどれほどの値が付くだろうか。

 

……な~んて、邪なことは置いておいてだ。

 

「ルナはアルファベットか。私もそっちのほうがいいかな?」

 

試しに書いたものの中には、当然アルファベットのものもある。

他にも、平仮名、片仮名も書いた。

変わり種としては、例えば『ファミーユりあん』みたいな力技もある。

 

 

『Famille Lien』

 

 

ルドルフに倣って、俺もアルファベットで書いてみた。

 

元がフランス語だからか、なんかしっくり来ないんよなあ。

まあこれは慣れていないだけかもしれないし、

激しく今更だけど、慣れなきゃいけないことでもあるか。

 

「いっそどこぞのアイドルみたいに、平仮名で思いっきり丸文字にして、

 後ろにハートマークでもつけてみようか?」

 

「それはさすがに」

 

「だよねぇ」

 

そう言うと、思い切り苦笑するルドルフ。

うん、自分で言っておいてなんだが、それはない。

キャラとしてもイメージとしても100%違うだろう。

 

「どうしたらいいと思う?」

 

「そうだな……」

 

俺がそう聞くと、ルドルフは少し考えて。

 

「なんでもいいんじゃないか」

 

こんな、全然参考にならないことを言い出した。

 

ちょっとルドルフさん?

親友が悩んでいるというのに、なんでもいいはあんまりじゃありません?

 

「なんでもって……」

 

「ファンの方たちにしてみれば、書いてあることじゃなくて、

 リアンが書いた、ということのほうが重要なはずだ。違うか?」

 

「まあ、違わないと思う、けど……」

 

「なら、字面や内容には拘らずに、

 リアンの気持ちを素直に書いてあげればいいと思うぞ」

 

「私の、気持ち……」

 

「リアンは、ファンの方がついてくれることはうれしいか?」

 

「うん、まあ、うれしいし、ありがたいかな」

 

「なら、大丈夫だ。私もサインを求められたときは、

 応援への感謝と、これからもがんばるぞ、これに浮かれて慢心はしない、

 という思いで書いている。その気持ちがあれば大丈夫さ」

 

「……うん」

 

さすが実力、人気共に史上屈指の人が言うと違うわ。

説得力がありありですもん。

 

ファンへの感謝と、これからの抱負と、自分への戒めかあ。

 

「わかった、ありがと。ちょっと考えてみる」

 

「なに、たいしたことはしてないさ」

 

ルドルフはそう言って微笑むと、自分の机へ戻る。

 

考えてみれば、一介のモブ娘がこんなことで悩めることも、一種の贅沢だ。

すでにモブ娘の範疇に収まらなくなってきているんじゃなかろうか、

という思いもしないではないが、そこは一貫してモブ娘の立場を主張する所存。

 

さて、どうしようかな?

 

 

 

考えた結果、やはりルドルフと同様のアルファベットを選択し、

少し崩した筆記体ということで決定した。

 

筆記体でのサインは初めてだけど、練習したら、

片仮名よりも書きやすくなって芝が生えた。

普段に記名するときもこれで行きたいくらい。

 

よし、これで、こちらの準備は万端。

会員証の山よ、いつでもかかってきなさい!

 

 

 

 

 

後日、本当に()と化した会員証と対面することになる……

300枚は伊達ではなかったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3月も間近に控えたというこの時期。

 

まずい……

非常にまずい事態に陥っていることに、今更ながら気付いてしまった。

というのも……

 

「ルドルフの誕生日って、いつだっけ?」

 

ということである。

 

ここにきてようやく、俺は親友の誕生日を、1回も祝っていないことに気付いた。

俺の誕生日は、あんなに盛大に祝ってもらっておいて、

俺のほうからはスルーもいいところだったことに、改めて気付いてしまったのだ。

 

知り合って間もなくというときに、プレゼントされた大量の衣服。

今もほとんどがタンスの肥やしになっているが、

数少ない外出の機会には、進んでそれを着ていくことにしている。

 

他に外出着を持っていないし、なにより、着るとルドルフが喜んでくれるから。

 

去年は俺が入院していたから、病室でのささやかなお祝いだったけど、

ケーキを買ってきてくれて、お母様と一緒に食べた。

今までで1番の味だったと、今でも覚えている。

 

ここまでのことをしてもらっておいて、何も出来ずにいられようか。

いや、いられない!

 

「……もう過ぎちゃってたらどうしよ」

 

気付いた瞬間、今年こそはお祝いしようと決意したのだが、

間もなく3月になろうかという今この時、

すでに過ぎてしまっているという可能性も大いにありうる。

 

いつだかにルドルフが言っていたように、ウマ娘の誕生日は、

総じて上半期に集中している。これは元となった競走馬が

そういった時期に生まれるのがほとんどであるためだと思われる。

 

だから早ければ年明け早々だし、遅ければ6月生まれということもある。

ルドルフが3月以降の生まれであることを祈るしかない。

 

「とりあえず、誕生日を調べるところからか」

 

最大の問題は、俺が日にちを知らないということである。

くそ、前世ではネットで検索かければ一発なのに、こういう時は困るな。

 

本人には聞けないし、ここはストレートに、お身内に聞くのが最善だ。

 

「……もしもし? はい、リアンです。突然すいません。

 不躾で恐縮なのですが、少々お尋ねしたいことが……

 はい、はい、え? え、ええ、私は元気です。それより……」

 

電話したのは、ルドルフのお母様。

聞きたいことを聞くよりも先に、俺の調子や近況を聞かれて焦ったよ。

 

『ルドルフの誕生日?』

 

「はい。今更なんですが、去年もおととしも、

 私のほうからは何もしていなかったことに気付きまして」

 

『そういうこと。3月13日よ』

 

俺が尋ねると、お母様は少しだけ、やさしげな笑い声を漏らしてから答えてくれた。

まだ2週間くらいあるな、ホッとした。

 

ついでと言っては何だが、ルドルフの好みも聞いてしまおうか。

 

「恥を忍んで重ねてお尋ねしますが、ルドルフは何をもらったら喜ぶでしょうか。

 心当たりのものはありますか?」

 

『うーん、そうねぇ……』

 

お母様は少し考えて

 

『あなたからの贈り物だったら、あの子はなんだって喜んでくれるわ』

 

なんて、何の参考にもならないことを申された。

 

……あの娘にしてこの母ありか。

少し前にも同じようなやり取りをした覚えがあるぞ。

 

『あなたから、というのが大事なのよ。がんばってね』

 

はあ、そうですか……

そういうのが1番困るんですけどねぇ。

 

俺は電話を切ってもしばらくは、脱力して動けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルドルフの好物って何だろう?

 

そう考えたときに最初に浮かんだのが、

実馬が好きだったというリンゴ。

こちらのルドルフも、デザートにアップルパイを選ぶくらいには好きだ。

 

バースデイケーキにはアップルケーキで決まりとして、

プレゼントにケーキだけでは味気ない。

 

他に何かないかと考えたんだが……

 

考えてみれば、あいつはいいとこのお嬢様なわけだ。

しかも、今やレース界の頂点として君臨している。

物欲というのもあまり聞かない。

そもそもあいつ、欲しいものとかあるのか?

 

はい、詰みました。

本当にどうしようか……

 

「リアンちゃん?」

 

「……マルゼン先輩?」

 

「下向きながらぶつぶつ言っちゃって、どうしたの?

 ちゃんと前見て歩かないと危ないわよ」

 

と、考え事をしながら歩いていたら、危うく人とぶつかりそうになってしまった。

それがマルゼン姉さんで二重の驚き。

 

「何か悩み事かしら? お姉さんに話してごらんなさい?」

 

「……実は」

 

藁にもすがる思いだったので、周りにルドルフの気配がないことを確認して、

思い切ってマルゼン姉さんに相談してみることにした。

 

「そっか、ルドルフの誕生日か」

 

「はい。去年は盛大にスルーしてしまったので、今年は、と思いまして」

 

「それで、何をプレゼントするかで悩んでる?」

 

「はい……。良いものがとんと浮かんでこなくて。

 マルゼン先輩は、去年はどうしたんですか?」

 

「あたし? 普通にケーキあげておめでとう、で終わりだったわね」

 

そうか、マルゼン姉さんくらいになれば、それくらいで済むのか。

物品で悩まないでいいのは羨ましい。

 

「あなたからであれば、何でも喜んでくれるんじゃない?」

 

それ、お母様にも言われました。

言われましたけど、やっぱりそれが1番困るんです。

 

「う~んと、そうだ、ルドルフって、チェスが好きじゃない?」

 

「チェス、ですか? 将棋のヨーロッパ版みたいな?」

 

「そう。付き合って何回かやったことあるけど、腕前も相当なものよ」

 

「チェス……」

 

そうだ、思い出した。これ公式情報だ。

どこかに載っていたような気がする。

俺の前では披露したことないから、すっかり忘れてたよ。

 

「関連のものを探してみたらどう?」

 

「わかりました、その線で探してみます。ありがとうございます」

 

「お礼を言われるほどのことじゃないわよ。

 悩める後輩ちゃんを助けるのは、先輩の役目だしね」

 

そう言って、お茶目にウィンクして見せるマルゼン姉さん、マジお姉さん。

本当に助かった。

今度商店街に行く用事があるから、そのときに探してみよう。

 

 

 

 

 

そんなわけで、商店街へゴー。

追加でサインしてもらいたいものがあるっていうから、

まずはそっちの用件を済ませてしまわないと。

 

騒ぎになるのはこりごりなので、多少のカモフラージュ(帽子とかマスク)をして

小走りに駆け抜け、商店街の管理事務所へ一直線。

 

なんか人が増えている気がするのは、ファンクラブ管理要員で人を雇ったからだとか。

そりゃコンピューターとかそういう方面での知識のある人が必要だよな。

 

でもよくピンポイントで雇えたなと思ったら、その人も俺の動画見た人だったというオチ。

渡りに船だと思って応募したんだって。すんごい偶然もあったものだよね。

聞いたところによると、待遇もそれほど悪くはないらしい。

 

むしろ、俺と直接話すことができて、すごく感激してた。

とある会社のチーフエンジニアだったそうだが、人間関係で悩んでたそうだ。

給料はいくらか下がったけど、それを補って余りあるほど楽しいって。

転職してよかったって。

 

なんだかこそばゆい。

 

「こんにちは、リアンです」

 

「おお、リアンちゃん、待ってたよ」

 

そんなことを思いつつ入っていくと、いつものおっちゃんが出迎えてくれる。

この前、300枚の会員証にサインした場所もここ。

 

あなたファンクラブができてから、いっつもここにいるような気がしますけど、

自分のお店はいいんですか? あ、奥さん任せですか? そうですか。

 

「それで、追加でサインって何ですか?」

 

「これだよ」

 

「これって、会員証?」

 

おっちゃんが差し出してきたのは、さんざん見た会員証。

クレジットカード状のもので、表には会員番号、氏名が記載されており、

なんと個人の顔写真まで貼付されているという本格的なものだ。

 

一見すると学生証みたいな一品。

 

なんでも商店街の中に、そういうものを扱っているお店もあるんだとかで、

そこに頼んで作ってもらったそうだ。

 

そして裏面には、こう言うと恥ずかしいが、俺の写真。

制服姿のブロマイドみたいなものだ。これも専用で撮られた。

 

勝負服があれば、それを着たのが良かったんだろうけどね。

デビュー前の身で用意するのは不可能というもの。

 

勝負服って、どの段階で作るんだろうね?

オープンに上がったら、G1に出ることもあるかもってことで作るのかしら?

でも格上挑戦することもあるだろうしなあ。

 

まあ底辺モブの俺には、雲の上の話だよ。

 

それより、会員証の発行は郵送でしたらしいし、個人情報保護とか大丈夫か、

と不安に思わないでもない。

情報流出事件とか起こさないでくださいよ。頼むから。

 

「まだあったんですか? ってこれ、おじさん個人のじゃないですか」

 

「おうよ。俺と女房のだぜぇ」

 

渡された2枚をよくよく見てみたら、おっちゃんと奥さんのものだった。

 

輝く会員番号000と001は、この2人で占められている。

職権乱用だと声高に叫びたい。

 

「悪いんだけど、俺たちのものには、〇〇さんへって名前入りで頼む。

 このまえ言うの忘れちゃってさあ、女房にも散々どやされちまったんだ。

 こういう役得があってもいいだろ、なあ!?」

 

「はあ」

 

なあ、って言われてもなあ。

まあ別にいいけど、私欲にまみれすぎて逆にあっぱれだわ。

 

「わかりました」

 

「おおっ、恩に着るぜっ!」

 

実際、ファンクラブの件は全部言い出しっぺのおっちゃんのおかげだし、

これくらいならサービスサービス。

一筆するくらいで喜んでくれるなら安いものよ。

 

ちなみに、300枚にサインした次の日は、さすがに手が痛かった。

 

「○○さんへ、と。はい、できましたよ」

 

「おおお、すばらしいっ!」

 

サインしたものを手渡すと、小躍りして喜ぶおっちゃん。

まあ、悪い気はしない。

 

「じゃあ、私はこれで行きますね。買い物しないといけないんで」

 

「おうよ、ありがとよ。店に寄って女房にも顔見せてってくれな」

 

「はい、そうします」

 

「買い物って、うちの商店街で? 何か入用かい?」

 

「ええと……」

 

イチから探すのも骨が折れるから、ダメもとで相談してみようかと思って

聞いてみたら、これがビンゴ。

 

「そういうものなら、いい店があるぜ」

 

「本当ですか?」

 

そうして店を紹介してもらい、さっそく行ってみる。

幸いよさげな一品も無事に見つかった。

 

俺の手持ちの現金でも買える値段で一安心。

こんなことでシンボリ家のカード使うんじゃ元の木阿弥だしさ。

 

よかったよかった。

あとは当日まで、ルドルフに見つからないように、どこに隠しておくかだな。

 

 

 

 

 

3月13日、ルドルフの誕生日当日。

 

何食わぬ顔で一緒に登校し、授業に出てトレーニングを終え、

商店街のケーキ屋さんで頼んでおいたアップルケーキを購入し、帰宅。

準備をして、トレーニングで遅く帰ってくるルドルフを待つ。

 

「ただいま」

 

午後5時半。ルドルフが帰ってきた。

すかさず計画を実行に移す。

 

「おかえり~」

 

 

パンッ

 

 

「な、なんだ?」

 

迎えるのと同時に、調達してきたクラッカーを鳴らした。

いつぞやの二の舞にならないよう、新しく買ってきたものだ。

 

「誕生日おめでと~」

 

「たん、じょうび……?」

 

「3月13日、ルナの14歳の誕生日だよ。おめでとう」

 

「……そう、か。私の誕生日……そうだったな」

 

呆気に取られたルドルフの顔が、みるみる喜色に染まっていく。

さながら幼い少女のよう。だがこれで終わりじゃないぜ。

 

間髪を入れずに、プレゼント攻撃だ。

 

「はい、これプレゼント」

 

「私に? あ、開けてもいいか?」

 

「どうぞどうぞ。ケーキもあるよ」

 

「……これは、チェス盤と、駒だな」

 

誕生日用にラッピングされた包みを、微妙に震えながらも丁寧に開けていくルドルフ。

出てきたのは、折り畳み式のチェス盤と駒のセット。

 

まあ安物だよ。いいものはそれこそ青天井らしいし。

でも、これを選んだ理由があるんだ。

 

「チェスが好きだって聞いたからさ。それ、駒が磁力でくっつくやつだから、

 移動中の車内とかでも安心して使えるよ。

 遠征の時とか、良かったら暇潰しにでも使ってみて」

 

遠征の時の乗り物の中とかって、すごく暇だと思うんだよね。

寝るって手もあるが、それが1番だとも限らないし、使ってくれたらうれしい。

 

「………」

 

「……ルナ?」

 

「っ……」

 

「ちょおっ!?」

 

喜色満面の笑顔だったのが、瞬く間に目を潤ませていくではないか。

ついには大粒の涙が数滴流れた。

 

泣くほどうれしかったのか!?

 

「な、泣かないでよ。気に入らなかったのかと思うでしょ」

 

「す……すまない。あまりにうれしくて、

 どうしていいかわからなくなってしまった」

 

服の袖で涙をぬぐうルドルフ。

 

「本当に気に入らなかったわけじゃないよね?」

 

「そんなわけないじゃないか。誕生日のプレゼント、

 それもリアンが選んだくれたものだぞ。絶対ありえないな」

 

「そ、そう。ならよかった」

 

涙の止まったルドルフが力説してくる。

喜んでくれたんならいいんだけど、妙に力が入っているようで、

なんか怖いよ皇帝陛下。

 

「リアンが誕生日を祝ってくれて、私を気遣ったプレゼントまでくれた。

 ああ、なんだか夢のようだ。こんなことは初めてだよ」

 

「は、初めて? ウソでしょ?」

 

「もちろん家族には毎年祝ってもらっているし、厳密に言えば違う。

 だが、()()からここまで祝ってもらったのは初めてなんだ」

 

「そう……」

 

「ああ。だからとてもうれしい」

 

そう言って、ルドルフは再び笑みを浮かべた。

 

家族以外からのお祝いが初めてだって、何気に重い告白だな。

祝ってもらったこと自体はあるんだろうけど、それはきっと上辺だけ、

形だけのものだったんだろう。シンボリのお嬢様としての。

 

そう考えると、ルドルフも結構不憫な幼少期だったんだろうか。

それを幼くして悟れるくらい、賢かったという見方もできるな。

 

「あ、去年はごめんね。知らなくて」

 

「そんなことはどうでもいいさ。ああ、今日は人生最良の日だ」

 

そ、そこまで言う?

ダービー勝った日とか、三冠達成した日よりも上?

ウソだろオイ。

 

「さっそく次の遠征、大阪杯の時から活用させてもらうよ」

 

「うん」

 

大阪杯、天皇賞、宝塚と関西3連戦になるからな。

大いに使ってやってくれ。

去年のことも気にしていないようでよかった。

 

「ところで、君の前では話したことはなかったはずだが、どこで?」

 

「チェスのこと? マルゼン先輩から聞いた」

 

「マルゼンスキーか」

 

納得したように頷くルドルフ。

姉さんも、何回か一緒にやったって言ってたしな。

 

「じゃあこれからは、君とも対局できるな」

 

「え、私、駒の名前がなんとかわかるくらいの知識しかないけど?」

 

「大丈夫、懇切丁寧に教えてあげよう」

 

「う、うん。よろしくお願いします」

 

「楽しみだ。ふふ、ふふふ」

 

「………」

 

ルドルフは、チェス盤の箱を抱き締めながら、幸せそうに笑っている。

やっぱりちょっと怖いよ……

 

 

 

翌日、お母様から1通のメールが。

 

『上手くやったわね、おめでとう。そして、ありがとう。

 2人の母より愛をこめて』

 

早速、定例のご報告がなされた模様。

2行目の文章は要りましたかね?(照)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回の『ファミーユリアンちゃんについて語るスレ』のコーナー

 

 

 

:商店街のホームページ見ろ

 ファンクラブのページとブログが追加されてるぞ

 

:本当だ

 

:ここもフットワークが良いな

 

 

 

 

:直筆サイン付きの会員証、300名までか

 

:ここの住人で300人に入れた人いる?

 

:俺はだめだった

 

:重すぎる

 

:何回も試したけど、繋がらなかったよ

 

:登録を受け付けました

 キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

 

:おお

 

:おめ

 

:ちな会員番号297番だった

 画像添付

 

:滑り込みセーフだな。おめ

 

:ああ、締切……

 

:時間切れかあ

 

:直筆サイン入りの会員証欲しかったなあ

 

:以降も会員の募集は続けるみたいだから、

 興味のある人はぜひ入会を。登録だけなら無料だぞ

 

 

 

 

 

:会員証の直筆サインの話、本当だった!

 

:写真うp助かる

 

:マジでリアンちゃん書いてくれてる!

 

:隣の山www

 

:あれ会員証が積みあがってるのかw

 

:300枚はさすがに壮観だな

 

:厚み結構あるのか

 

:というか、縦に全部積み上げるなよw

 

:ネタにしてるな

 

:わかっててやってるなw

 

:崩れる崩れるwww

 

:ジェンガできそう

 

:わい297番。手元に来るのがマジで楽しみ

 

:いいなあ

 

:羨ましい

 

:届いたら報告頼む

 

 




30話にしてデビューの影も形もなし
なお、まだまだ時間がかかる模様

相変わらずルドルフの愛は重馬場

仮にリアンが海外遠征する場合、初戦は何が良いですか?

  • ドバイワールドカップ
  • ドバイシーマクラシック
  • ガネー賞(仏)
  • クイーンエリザベス2世カップ(香港)
  • アメリカ遠征
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