転生孤児ウマ娘の奮闘記   作:しょうわ56

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第33話 孤児ウマ娘、お願いされる

 

 

 

 

今は京都への移動中で、新幹線の車内です。

 

グリーン車なんて、前世を通して初めて乗ったぞ。

うれしさとか楽しさとかを通り越して、恐れ多いとすら感じてしまう庶民のサガ。

もちろん快適さはバッチリです。

 

菊花賞のときのバス移動とは雲泥の差があるぜ。

 

「リアンちゃん、おなかすいてない?

 あ、飲み物のほうがいいかしら?」

 

「あ、いえ……」

 

「じゃあアイスクリームでも頼みましょうか。

 バニラでいい?」

 

「あ、はい……」

 

「すいませーん」

 

このように、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるお母様もいらっしゃいますし。

本当に実子かという扱いで、照れるというか、こちらもまことに恐れ多い。

 

見ろ、通路を挟んで反対側に座っているお父様も苦笑しているじゃないか。

 

これって傍から見ると、本当の親子のように見えるのだろうか。

なんというか少々複雑。

年齢の割に、より幼い子供のような扱いをされているような感覚も覚えてさらに複雑。

 

さて、なぜ移動中かといえば、ルドルフの天皇賞を応援するためである。

 

大阪杯の時も声はかけてもらったんだが、トレーニングにかこつけて

断ってしまったので、今度はさすがに断れず、お供することになったわけだ。

 

「ルドルフの調子、聞いてもいい?」

 

お母様に車内販売で買ってもらった、やたら硬いと聞く新幹線のアイス。

評判通りの硬さに悪戦苦闘していると、そんな質問が飛んできた。

 

親子間で直接は聞けないと前に言っていたからな。

 

「絶好調だそうです。生涯一の出来らしいですよ」

 

「まあ、それはよかったわ」

 

俺の答えを聞いて、ホッとしたように微笑むお母様。

向こうで新聞を広げているお父様も、しっかり聞き耳を立てていたようで、

ふっと表情が緩んだのを見逃さなかったよ。

 

実際、史実と年齢的なことから鑑みて、今が全盛期と言っていいんじゃないかな。

繰り返しの言葉になってしまうけど、負けることは万に一つもないだろう。

 

記念のときみたいに、シービー先輩のことは聞かれなかった。

 

これは、その有と大阪杯ですでに勝負付けは済んだとのことなのか、

別の思惑があったのかは、俺にはわからない。

だが、我が子の調子の良さを純粋に喜ぶ親の姿だと、俺は思った。

 

 

 

 

 

さあレースだ。

 

毎度のようにルドルフは好位につけ、シービー先輩は後方へ。

2周目の3コーナーでまたしても、菊花賞のような大まくり戦法に出た先輩。

4回目の対決にして初めて、先輩がルドルフの前に出た。

 

そのままシービー先輩が先頭で4コーナーを回り、

ルドルフはその後ろにぴたりと着けて直線に向く。

 

ああこれは……と思った。

 

予想通り、ルドルフは力強い末脚を発揮して先頭に出ると、そのまま突き放す。

先輩はスタミナ切れを起こしたか、ずるずると後退していく。

 

結果、ルドルフは2着に2バ身半差をつけて快勝、史実に並ぶ七冠目を手にした。

 

一方のシービー先輩は、直線で他バ全員にかわされ、なんと最下位でゴール。

史実以上の大惨敗だった。

すわ故障かと焦ったが、特に変わった様子もなく、

自分の足で引き揚げていったので、大丈夫かな。

 

最後は歩くような入線だったので、隣でお父様とお母様が抱き合って喜ぶ中、

俺は2人とルドルフには申し訳ないけど、手放しで喜べる気分じゃなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レース後。

表彰式とウイニングライブも終わり、帰り支度をしていたら

 

「ファミーユリアンさんですね?

 シンボリ家のご一同がお待ちです」

 

と言って、URAの人が呼びに来た。

 

帰りの新幹線の時間があるんだが、大丈夫か?

あの人たちのことだから、考えてないことはないと思うけど……

最悪、最終でも乗れれば明日の学校には行けるから、まあいいか。

 

もちろん門限には間に合わないので、あとで寮長に連絡しとかないと。

 

わざわざ家族で待ってるって何だろうな?

とか思いつつ、案内されたのは、ルドルフの控室だった。

 

「入っちゃっていいんですか?」

 

「ええ、どうぞ。ファミーユリアンさんが来られました」

 

「ご苦労様です。リアンちゃん、さあ入って」

 

URAの人はそう言って中へと声をかける。

すると、ドアが開いてお母様が姿を見せ、入るように促された。

 

「失礼します」

 

「ああ、リアン。おつかれだ」

 

「ルドルフこそお疲れ様」

 

控室ってこういう風になってるのか~。

後学のために、少々中を観察させてもらいつつ中へと入ると、

ルドルフは勝負服姿のままで椅子に腰かけていた。

 

俺の姿を認めると声をかけてきたので、俺からも労う。

 

「天皇賞制覇おめでとう」

 

「ありがとう。1番人気に相応しい走りだったかな?」

 

「それはもちろん。強かったよ」

 

「それならよかった」

 

そう言って微笑むルドルフには、若干の疲労の色は見えるものの、

覇気そのものは微塵も失われていない。

 

慢心や奢りといった気配も全くない。

普段と変わらない、いつものシンボリルドルフ、皇帝陛下がそこにいた。

 

早くも史実と並ぶ七冠を制したうえに、

この記録はどこまでも伸びていきそうで安心した。

 

「リアンも座ってくれ。相談したいことがあるんだ」

 

「わかったよ。あ、すいません」

 

ルドルフがそう言うので承諾すると、お母様が椅子を用意してくれた。

まったくもって恐縮である。

 

ルドルフと向かい合う形で座ったところで、相談って何だろうか?

お父様お母様も、なんか異様なくらいニコニコ顔なのが気にはなるが……

 

「相談というのは、他でもない。

 前に、大阪杯と天皇賞を勝てたら君に相談すると言っておいたことだ」

 

「あ、あー、あれ」

 

何かと思えば、あれのことか。

なるほど、その通りに勝てたので、約束通りに言いますってことだな。

 

「そのとき同時に、この後の宝塚記念も勝てたら、

 海外に挑戦するということも言っておいたと思う」

 

「うん、凱旋門賞に行くんでしょ?」

 

「ああ」

 

力強く頷いて見せるルドルフ。

この分なら宝塚も余裕で勝つだろうから、実現するだろうな(慢心)

 

「この先が肝心の相談事なんだが……」

 

「うん」

 

「もし私が宝塚も勝って、海外遠征が決まったら、その際は……」

 

「うん、その際は?」

 

「………」

 

「?」

 

どうしたルドルフ、なぜそこで言い淀む?

そこまで言い出しづらいことなのか?

 

「ルドルフっ」

 

「……は、はいっ」

 

ここでお母様から励ますような声が飛び、

ルドルフはビクッと身体を震わせて返事をした。

隣のお父様はと言えば、「あちゃ~」とでも言いたげな顔をしている。

 

お二人は内容を知っているな、これは。

むしろ、そっちから焚きつけてないか?

 

「リアンっ」

 

「はい」

 

事もあろうに、ルドルフは迷った上で正面突破だと決めたようで、

俺を正面から見据えて、あの強い意志のこもった顔で言うんだ。

 

まるで()()()()でもするかのよう。

 

これではこっちまで力が入ってしまうというもの。

思わず居住まいを正してしまったほどだ。

 

「私の海外遠征に、その、つい……ついて、きてもらえないだろうか……」

 

しかしそんな決意も徐々に萎んでいってしまったらしく、

どもった挙句に、その声はだんだんと小さくなっていき、

最後は蚊の鳴くような音量になってしまった。

 

「えっと、それって、一緒に海外に行ってほしいってことだよね?」

 

「ああ……お願いできないだろうか。

 もちろんリアンのことも最大限考慮する。

 向こうでの宿やトレーニングも、すべてこちらで手配する」

 

これは所謂『帯同馬』というやつだな?

 

環境が変わることでの影響を最小限にするために、

普段一緒にいる馬や仲良しを連れて行くってやつ。

 

ウマ娘だから、馬の場合よりは影響小さいだろうけど、

それでも打てる策は打っておいたほうがいいとの判断だろうか。

 

ルドルフの意思? それとも、ご両親の提案かな?

いずれにせよ、俺の返事はもう決まっている。

 

「君が望むのならば、最高級の環境を用意しようっ」

 

あー、ルドルフ、いつものように掛かってますね、はい。

ふんすっ、っていう絵に描いたような鼻息が聞こえてきそうだよ。

 

その誘い文句で引っかかるやつは、現金な奴と軽い女だけだってば。

何度も言いますが、俺は金にうるさくはありませんので、ええ(鋼の意思)

 

「どう、だろうか……私と一緒に来てもらえないか……」

 

「うん、いいよ」

 

「っ……そ、そんな簡単に返事を……いいのか?」

 

「いいに決まってるでしょ」

 

「………」

 

速攻で了承する返事をし、にこっと微笑んで見せたら、

ルドルフは呆気に取られたかのように固まってしまった。

 

それを見たお母様はくすくすと笑い出し、お父様は苦笑度合いを強める。

 

「ほら、私の言ったとおりになったでしょう?

 リアンちゃんならきっと受け入れてくれるって」

 

「……」

 

「もう、自分と自分のお友達のことじゃないの。

 リアンちゃんをもっと信じてあげなさいな。ねえリアンちゃん?」

 

「そうですね。水臭いですよ」

 

「り、リアンまで……」

 

お母様の言葉に追随すると、ルドルフはさらに打ちのめされたようで、

呆然と呟きながら、信じられないものを見たかのような視線を俺に向ける。

 

おいこら、その目はさすがに失礼だろ?

 

「海外、海外だぞ? 国内の遠征とはわけが違うんだ」

 

「うん。だから、海外旅行できてラッキー、みたいな感覚?

 さすがにデビューがまだじゃ向こうのレースには出られないだろうし、

 観光気分でお付き合いしますよってことで」

 

「………」

 

「凱旋門賞ってことは、フランス、パリだよね?

 海外旅行って初めてだな、今からすっごい楽しみ!」

 

無論、前世から通してって意味でな。

自慢じゃないが、何泊もする長期の旅行なんて、修学旅行くらいしか経験がない。

 

そこ、寂しい人生だったんだなとか言うな!

金もそこまでなかったし、何より興味がそんなになかったんだよ。

 

その点ウマ娘レース界は、遠征と称して全国に行けるからいいよね。

北は北海道から南は九州まで、出走できるレースさえあれば、公費で旅行し放題。

最高じゃないか。

 

勝たないといけないプレッシャーが付いて回ることと、

疲労が増して故障するリスクが上がることさえ除けばね。

 

「あ、パスポート取らなきゃいけないよね?

 服とかも新調しなきゃダメかなあ?」

 

向こうのレース場って格式高いみたいだし、

ドレスコードとかあったりするのかもしれない。

 

「安心してリアンちゃん。

 そういうことは私たちが責任を持って全部やるわ。だからあなたはただ、

 ルドルフとちょっと長めの旅行に行くって思ってくれればそれでいいの」

 

「わかりました、お任せします」

 

「ええ、任せておいて♪」

 

「ちょ、ちょっと……ちょっと待ってくれ……」

 

俺とお母様のやり取りが、自分の意思とは無関係なところで、

勝手にどんどん進んでいくものだから、さしものルドルフも混乱しているようだ。

 

普段は絶対に見せないような困惑顔を、これでもかというくらいに晒している。

ファンには絶対に見せられない姿だな。

 

「ほらルドルフ、いい加減にシャキッとしなさい。

 そんなんじゃ了承してくれたリアンちゃんに失礼でしょ」

 

「は、はい……。リアン、本当にいいんだな?」

 

「うん。一緒にフランスに行こう。

 そして、凱旋門賞を勝つんだ。いいね?」

 

「………」

 

「ルドルフ?」

 

「リアンッ!」

 

「うわっ」

 

黙りこくったと思ったら、急に抱き着かれた。

それも力強く情熱的に。

 

ちょ、ちょっと苦しいんだが?

 

「私は……本当に……素晴らしい友人に恵まれた」

 

「ルドルフ」

 

「今ここに、私は誓う。必ず凱旋門賞に勝利して、

 皆の期待に応えて見せると。日本ウマ娘の実力を、海外に見せつけると」

 

「うんうん、がんばってね」

 

「ああ……!」

 

どうやら感極まってしまったらしい。

ポンポンと背中を叩いてなだめてやる。

 

まったく、本番でこんな掛かり方したら怒るからな?

 

おまえの決意はわかったから、離してくれないか?

ちょ、ちょっと本格的に苦しくなってきたんですけど……

 

「改めて、ありがとうリアン。君は最高の親友だ」

 

「けほ……どうもね」

 

ここでルドルフから離れてくれて助かった。

締め落とされるかと思ったぜ。

 

ルドルフの笑顔のまぶしいこと。

マジのマジで凱旋門勝てるって思ってんだろうなあ。

俺もそれにマジで期待したい。

 

日本競馬界、ウマ娘界の長年の悲願だ。

数多の名馬が挑んでは夢潰えていったこのレース。

日本馬どころか、欧州調教馬以外の優勝は皆無。

 

はたしてルドルフは、そんな大目標を達成することができるだろうか。

今年の勝ち馬って何だったかな?

 

まさか80年代はおろか、史上最強とも称されるダンシングブレーヴか?

細かい年まで覚えてないのが悔やまれる。

重なっていないことを祈るしかない。

 

「ではリアン君。ルドルフのトレーナーさんとも相談して、

 日程などの詳しいことが決まり次第、また知らせるよ」

 

「はい、お願いします」

 

「私からも礼を言わせてくれ。娘の願いを聞き遂げてくれて本当にありがとう。

 君は我がシンボリ家にとって、もはや欠かすことのできない重要な一員なんだ。

 ありがとう、ありがとう」

 

「い、いえそんな……頭を上げてくださいお願いですから」

 

日本を代表する名門のご当主様が、

俺みたいな一介なモブウマ娘に頭なんか下げちゃいけませんって……

隣では、さっきまで笑ってたお母様が、なぜだか涙ぐんで一緒に頭下げてるし。

 

本当にね、家族の幸せってこういうことなのかって、このときは思ったよ。

 

お世辞抜きで、このルドルフなら凱旋門賞にも勝てる。

本気でそう感じた。

 

 

 

仮にリアンが海外遠征する場合、初戦は何が良いですか?

  • ドバイワールドカップ
  • ドバイシーマクラシック
  • ガネー賞(仏)
  • クイーンエリザベス2世カップ(香港)
  • アメリカ遠征
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