転生孤児ウマ娘の奮闘記   作:しょうわ56

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第34話 孤児ウマ娘、アクシデントに戸惑う

 

 

 

 

「やっほーファミーユちゃん、おまたせ~」

 

天皇賞が終わった後の週末。

俺は再びシービー先輩から呼び出されていた。

 

といっても、俺は先輩から『学園外で2人だけで会って話がしたい』って言われただけで、

場所のセッティングから時間まで、全部俺が手配したんだけどね。

 

そういうのは普通、誘う側がするものなんじゃないかと思うが、

もうこの人には何も言うまい。

それに、下手に任せて、変なところに連れられても困るし。

 

というわけで、誰にも見つからない、バレないような場所探し。

 

もちろんそんな当てなどないので、破れかぶれで

商店街のおっちゃんに相談してみたところ、「任せておけ!」ってなって、

紹介してもらったのがこのお店ってわけ。

 

商店街の一角にある小料理店だが、個室が完備されており、

俺は時間前に先乗りして、その個室で先輩が来るのを待っていたというわけだ。

 

裏口から秘密裏に中へ入れる素敵仕様。

密会するにはもってこいだね。

 

「あ、おつかれさまです」

 

「待たせちゃったかな~?」

 

「いえ、まだ時間前ですから」

 

約束した時間よりもだいぶ早く現れた私服姿のシービー先輩。

なんかでっかい紙袋を持ってきているのが気になるな。

 

「じゃあお話しするね」

 

「はい」

 

お茶を出してもらい、お互い一口ずつ飲んだところで、

先輩のほうから話を切り出した。

 

「引退しようと思うんだ」

 

「!! ……そうですか」

 

先輩の口から出たのは、衝撃の一言。

いや、確かに衝撃ではあったが、予期できない言葉ではなかった。

 

「やはり足元が?」

 

「それもあるけど、ルドルフについていけなくなっちゃったからな~。

 おまけに、やる気もあんまり湧いてこなくなっちゃったし」

 

「……」

 

また足元が悪化したのかと思ったが、衰えというのは隠せないもんな。

誰にでも等しく訪れるものだが、こうして実際に目の当たりにすると、

とても切ないものを感じる。

 

体力とモチベーションの低下。どちらも致命的だ。

 

「他の誰かには言いました?」

 

「君が最初だよ」

 

「……なぜ私に?」

 

「うーん」

 

今度の質問に対する返答は、正真正銘の衝撃だった。

 

そんな大事な決断を最初に打ち明けるのが、どうして俺なんだ?

家族とかトレーナーさんとか、他にもいっぱいいるでしょうに。

 

「なんていうかな、君に最初に言うのがいいと思ったんだよ。

 君にはお世話になったからね。ジャパンカップも勝たせてもらっちゃったし」

 

「だからあれは……」

 

少し考えて出された答えに、俺も言葉に窮してしまった。

 

まだそんな風に考えてくれてたのか。

そう思うと、なんだか胸が締め付けられてきて、

二の句が継げなくなってしまったのだ。

 

俯いてしまった俺を見て、先輩はくすっと笑った。

 

「相変わらずだね君は。そんな君だからこそ、

 アタシも最初に言わなきゃって思ったんだと思うよ」

 

「先輩……」

 

微笑むシービー先輩。

笑顔だけど、その微笑みはとても寂しそうで。

 

……いかんな、俺のほうの涙腺が決壊しそうだ。

 

「そ・こ・で! 君に餞別を贈ろうと思ってね」

 

「え……」

 

そう言って、先輩は持参してきた紙袋を机上に置いた。

 

なんだって? 餞別?

マジで? うれしいっ!

 

……なんて思うかボケぇッ!

申し訳なさと恐れ多さのほうが勝ってしまうわ。

 

「じゃーんっ。アタシの履いてた靴と蹄鉄、君にあげる。

 もういらないからね」

 

先輩が袋から取り出したのは、まさに先輩が言ったとおりの品物。

お世辞にも綺麗とは言えない状態だが、それだけ愛用していたってことで、

年季と想いが詰まった一品ということになる。

 

「三冠と天皇賞、ジャパンカップはこれで獲ったんだ。

 G1用のお気に入り。少し汚れてるのは勘弁してね~」

 

「……」

 

「いま思うと、有から靴を新調したのは良くなかったんだな~。

 五冠を達成して心機一転って思ったんだけど、途端に勝てなくなっちゃった」

 

「………」

 

黙ってしまった俺をよそに、先輩は淡々と語り続ける。

そんな様子が、逆に痛々しくて。

 

「そんなわけで、君にあげる。匂い嗅ぐも舐めるも君の自由さ」

 

「そ、そんなことしませんっ!」

 

「本当にぃ~?」

 

「しませんって……」

 

ニヤぁ、と意地の悪い笑みを俺に向けてくる先輩。

どんな変態だと思われてるんだ。

 

「おっかしいな? アタシが得た情報によると、

 世の中の人は、女の子の靴とか靴下が大好きだって聞いたんだけど」

 

どこから得た情報なんだ、それは。

 

その手の人がいるのは確かだと思うが、極めてマイノリティだと思います。

それに、そういう人は男性なんじゃないかと思う。

なんで現世ウマ娘の俺に言ったんですかね?

 

ソッチ方面の欲望はもはや湧いてこないというか、

元から持っていませんから。

 

そういや、アプリのレジェンドレースの報酬も靴だったっけ。

良からぬ妄想をしていた連中もいるとかいないとか。

 

「とにかく、そんな大事なもの、受け取れません」

 

「受け取ってくれないなら、捨てちゃおうかな」

 

「え……」

 

「それでどこの誰ともわからない人に拾われて、ペロペロされちゃんだ」

 

「……()()()からは離れてください」

 

ふざけるのは大概にしてほしい。

こっちは真面目に話してるんだ。

 

「ファミーユちゃん」

 

「はい」

 

すると、俺が少し怒気を含んだことに気付いたのか、

先輩も雰囲気を変えた。やっと真剣になってくれたようだ。

 

「君にだからこそ、あげるんだよ。

 ほかの人にはこんなこと言わないよ」

 

「……」

 

「この意味、わからない君じゃないよね?」

 

「……わかりますけど、わからないです」

 

先輩の気持ちはとてもうれしい。

わかるからこそ、俺なんかが受け取っていいものじゃない。

 

こういうものは、もっと立派で、大きな志のある、

五冠ウマ娘ミスターシービーの後継者たりえる人物に――

 

「ファミーユちゃん」

 

「ぁ……」

 

「受け取って?」

 

「……わかりました」

 

先輩は腰を上げて身を乗り出し、俺を見据え、俺の手を取って握りながら言う。

ついには俺のほうが根負けしてしまった。

 

だって、相手はあのミスターシービーだぞ?

バッチリ見つめられて、両手で手をがっしりと握られて、

これで断れるやつがいるなら会ってみたい。

 

「そっかそっか、よかった~」

 

「まったく……強引な人だ」

 

「我が道を往く。それがこのアタシ、ミスターシービーさ」

 

靴やらを紙袋と一緒に俺に押し付け、満足そうに言う先輩。

あの豪脚がもう見られないと思うと、やっぱり寂しい。

 

 

 

翌日、ミスターシービー引退のニュースが、世間を大いに賑わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、明日はいよいよ宝塚記念だ。

ルドルフが凱旋門へ向かう壮行レース。

 

遠征プランは先立ってすでに発表されており、

シービー先輩の引退によって、ルドルフに敵うライバルはもういないと見なされ、

世間的には、もうフランスへ行くのは決定事項みたいになっていて、

皆の関心は、凱旋門賞自体の展望へと移っている。

 

聞いたところによると、今年の欧州戦線は、

去年の同レースを制したサガス、コロネーションカップを勝ち、

日本ではサクラローレルの父として有名だったレインボウクエストらの争いとのこと。

 

懸念だったダンシングブレーヴの存在だが、

どうやら来年以降の登場のようだ。

 

ルドルフには悪いが、一安心した。

あいつ的には、より強いやつと戦いたいという思いもあるんじゃないかと思うが、

史上最強とも名高いやつが相手じゃ、アウェーということもあって正直、ねぇ。

 

なんにせよ、まずは明日のレースで勝つことだ。

調子も引き続き良いってことだし、まあ普通にやれば負けはしな――

 

 

プルルル♪

 

 

……電話?

シンボリのお母様からだ。なんだろう?

 

明日も一緒に新幹線で応援に行くことになってるから、その確認かな?

 

「もしもし、リアンで――」

 

『リアンちゃんっ、大変なのっ!』

 

「……ど、どうしました!?」

 

電話に出るなり、俺の言葉を遮ってまで、お母様の大声が響いてきた。

彼女がここまで大慌てするのも珍しい。

 

『ルドルフが……』

 

「……!」

 

 

 

 

 

シンボリルドルフ、出走取り消し。

 

これは夜の番組で大々的に報道された。

テレビで流されるニュースを、俺は歯ぎしりする思いで見つめている。

 

くそ……まずった……

そうだよ、『これ』があったじゃないか……

 

史実のルドルフも、レース前日になって、宝塚記念の出走を取り消している。

原因は、阪神競馬場の杜撰な芝の張替えによって芝が剝がれ、

ダートが剥き出しになった部分であわや落馬かという転倒をしたこと、という話だ。

 

体調不良を察した調教師と、牧場側の対立とかもあったらしい。

 

知らないわけじゃなかったが、忘れていた。

いや、忘れていたじゃ済まされない話だ。

 

せめて一言伝えておくべきだったか。

阪神レース場の芝に気をつけろって。

 

なんでお前そんなこと知ってんの、ってなことになるのは明白だが、

言い訳なんざ後からどうにでもなる。

 

阪神の芝状態良くないらしいよ、ところどころ剥げてるらしいよってさ。

クラスメイトが話してるのを聞いたとか、どうだろう?

 

ルドルフ自身の身体こそが1番だったのに。

 

畜生……時すでに遅し。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やあ、リアン』

 

21時ごろ、ルドルフから電話がかかってきた。

容態が心配でずっともやもやしていたから、速攻で出た。

 

『すまない。私の不注意で怪我をしてしまった』

 

思ったよりも声は明るかった。

が、それで安心はできない。

 

「私こそ、ごめん……」

 

『なんで君が謝るんだ?』

 

「あーうん、いや……なんでだろうね……」

 

『私に聞かれても困るぞ』

 

申し訳なさから思わず謝ってしまい、

電話するのもつらいであろうルドルフに苦笑させてしまった。

つくづく不肖な親友で申し訳ない。

 

「それで、怪我の具合はどうなの?」

 

『軽く捻った程度だ。世間で言われているほど重くはないんだ。

 多少の痛みはあるが普通に歩ける』

 

「そう……」

 

現役引退か、なんて報道も一部でされてたけど、

どう見ても大げさすぎるよね?

本人がこう言うんだから、本当にそうなんだろう。

 

とりあえず、重くはなくて安心、安心か?

俺は相槌を打つことしかできない。

 

『ただ、これで、海外遠征に影響が出るのは間違いない。

 こちらから頼み込んでおきながら、君には申し訳ないが……』

 

「あ、いや、私のことなんて全然気にしなくていいよ。

 今は自分のこと、怪我を治すことだけ考えて?」

 

『ああ、すまないな』

 

そう言うルドルフは、本当に申し訳なさそうで、

声を聞いているだけで、こちらまでつらくなってくる。

 

特に、誰にも言えない負い目があるだけに、俺にはなおさら効いた。

 

ルドルフの体調に比べれば、俺の初海外なんて事情は月とスッポン。

比べることすらおこがましいんだから、マジで気にしなくていいさ。

……惜しいなんて思ってないよ。本当だよ!?

 

予定では、8月の頭に渡欧して、9月に前哨戦を使い、

本番へと臨む計画だった。

 

前哨戦はどこに使うか決まってはいなかったが、

同距離同レース場のフォワ賞が有力だった。

愛チャンピオンステークスやバーデン大賞という線も考えられた。

 

しかし、これで少なくとも、8月の渡欧は無理だろう。

前哨戦を使うチャンスも失われたと言っていい。

 

それでも強行して遠征してぶっつけ本番で臨むか、

あくまで中止するかはこれから検討されるだろうが、

おそらくは……中止だろうな、と思う。

 

くそっ、こういうところでは史実に忠実でなくてもいいのに……

シリウスの脚部不安の件といい、つくづく運命というのは残酷なものだ。

 

「とにかく、気をつけて帰ってきてね。

 移動で悪化させたなんてことになったら目も当てられないよ」

 

『ああ、明日の朝には発つから、昼前には帰れる。帰ったらまた話そう。

 いろいろと話したい。ほかならぬリアンと、話をしたい』

 

「うん、待ってる。いっぱい話そう」

 

『ああ、頼む。それじゃ』

 

「うん、おやすみ。……はあ~っ」

 

電話を切った途端、大きなため息が出てしまう。

 

あいつ、努めて冷静を装っていたが、内心はぐちゃぐちゃだったんじゃないか?

テンション高めっぽかったのがその証拠。

わざと意識して、俺に心配かけさせまいとしてたんじゃないの。

 

俺と話したいって言っていたのも本心だと思う。

電話で話せないこともあるだろうし、顔を合わせてしっかりと、ってことだろう。

 

「話、しっかり聞いてやらなくちゃな」

 

愚痴っぽい、というか、全編にわたって愚痴大会になるんじゃないか。

俺はそれをきちんと受け止めてやらねばならない。

 

あいつが弱みを見せられる相手なんて、そうそういないと思うし、

それだけでも非常に光栄なことなのだから。

 

 

 

 

翌日の午後、めっちゃ話を聞いた。

……夜までかかった。

 

普段から不満とか鬱憤とか、色々と溜まってたんだと思う。

あいつの立場上、表立って口にすることなんてできないだろうし、

性格からしても、人前で弱音を吐くなんてことは絶対にしない。

 

シリウスと同じような膨れっ面してたんで、失礼ながら、

血縁ってごまかせないんだなって、何度も笑いそうになっちまったよ。

 

幸い、吐き出し終わったときには、すっきりした顔していたし、

最悪の事態だけは避けられたと思いたい。

 

ストレスのはけ口でもいいから、あいつの役に立てたのならよかった。

 

 

 

 

 

後日、ルドルフの海外遠征の中止が正式に発表された。

 

 

 

仮にリアンが海外遠征する場合、初戦は何が良いですか?

  • ドバイワールドカップ
  • ドバイシーマクラシック
  • ガネー賞(仏)
  • クイーンエリザベス2世カップ(香港)
  • アメリカ遠征
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