転生孤児ウマ娘の奮闘記   作:しょうわ56

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第38話 孤児ウマ娘、『サクラ』咲く?

 

 

 

TTGが卒業し、ルドルフたちの新生徒会が発足。

4月になると、新年度になるとともに、俺も高等部へと進学した。

 

デビューはおろか、ロクにレースにも出ないまま、

主にリハビリ生活で中学時代を過ごすとは思わなかったな。

トレセン学園に入学してる時点で、すでに望外だったと言えばそうなんだけど。

 

さあそれでは、年度冒頭の毎年恒例、新入生ちゃんチェックと参りましょうか。

今年度入ってきた有望株たちをまとめてみると……

 

筆頭はクラシック二冠のサクラスターオーかな。

「菊の季節に桜が満開!」の菊花賞の実況は有名だ。

 

スターオー……有馬記念……うっ、頭が……

あれは悲しい事故だったね。

この世界ではああならないことを願うしかない。

 

続いてダービー馬のメリーナイス、二冠牝馬マックスビューティ、

牝馬三冠を阻止したタレンティドガール、悲劇のマティリアル、

名ステイヤーのスルーオダイナ、といったところか。

 

あれ? 何かメンツが足りなくない?

と思ったらそうだった。

 

本来ならこの世代に当たるはずの、タマモクロス、イナリワン、

ゴールドシチーの名前がない。

 

イナリは大井出身だから、途中で編入してくるのかもしれないが、

タマとシチーがいないのはどうしてだ?

 

気になったんで、会長になったルドルフに頼み込み、

全新入生の正式な名簿を見せてもらった(持つべきものは権力者の友達だね)が、

やはり見当たらなかった。

 

去年までは、その世代にモデル馬がいる子たちは揃って入学してきていたが、

今年になって、その法則が通用しないという事態に。

 

その3頭の共通点はと洗い出していくと、

3人ともゲーム上に登場しているという点が浮かんでくる。

 

もしかして、ゲームに出ている子たちはまた何か別の、謎な法則性が働いている?

でもシービーはルドルフの1個上という史実通りだったしなあ。

 

うーん、わからん……

 

まあ同世代のタマとシチーは、ゲーム上では先輩後輩みたいだし、

考えること自体が無駄なのかもしれん。

 

ここからは、史実知識があまり役に立たないってことなのかも?

本格的にifの世界に突入するってことかい?

 

それはともかく、今年度は俺にとっても勝負の年。

まずは選抜レースだ。調整はここまで順調なので、あとはレースで結果を出すしかない。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あのっ!」

 

新年度が始まって数日後。

 

選抜レースへの最終調整が佳境を迎える中で、放課後、

今日もトレーニングへ向かおうかと教室を出たところ、いきなり誰かに呼び止められた。

 

振り返ると、長い黒髪の女の子がいる。

 

「ファミーユリアン先輩ですよね?」

 

「そうだけど、君は? はじめましてだよね?」

 

「あ、はい、突然ですいません」

 

俺がそう言うと、彼女はぺこりと頭を下げた。

両側にひと房ずつ出ているサイドテールがぴょこんと跳ねる。

俺より頭ひとつ分は高いから、160センチくらいはあるかな。

 

 

【挿絵表示】

 

 

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そして、おっぱい。

制服の上からでもわかる、豊満な胸部装甲が印象的である。

 

耳も結構大きいな。

ライスやアヤベに続く、耳デカ属のウマ娘だ。

 

「申し遅れました。わたし、新入生のサクラスターオーと申します!」

 

お、おう……君がスターオーちゃんですか。

 

まさか今年の1番バが、向こうから声をかけてくるとは思わなかったよ。

いったいどういうつもりなんだろうね?

 

「わたし、ファミーユリアン先輩に憧れて、トレセン学園に入ろうと思ったんです。

 こうしてお会いできてすごいうれしいです!」

 

「え、そ、そうなの?」

 

「はい! ネットに上がってる動画とか、全部見ました」

 

「そうなんだ……」

 

スターオーちゃんは、目をキラキラ輝かせて熱く語る。

サクラ軍団特有の、花柄の瞳が特徴的……って、そうだよ。

 

君、『サクラ』なんでしょ?

そこは同門の先輩に憧れて~とか、テイオーみたくルドルフを見て~、

とかって話ではないのかい?

 

「リハビリしてるときの動画とかすごかったです。

 怪我しても絶対あきらめないって姿、わたしも見習わなきゃって思って」

 

「お、おう」

 

力説し始めるスターオーちゃん。

なぜこうも俺にこだわるのか、その理由も直後に判明する。

 

「わたし実は、生まれつき足がちょっと曲がっていまして……

 小さい頃からずっとコンプレックスだったんです。

 幸い普通にしている分には影響はなくて、走る時も、

 徐々に違和感はなくなってきたんですけど、ずっと気にしてました」

 

そうなのか。これ、実馬のエピソードなんかな?

スターオーと言えば有馬での故障ばかり気にしてて、

他のことは正直よくわからん。

 

「身体も強くはなかったので、たまたま先輩の動画を見つけて、

 リハビリに励む先輩の姿を見ていたら、私も頑張るぞって思えたんです。

 それからはいっぱいトレーニングできて、

 こうしてトレセン学園に入ることができました。

 重ねてお礼を言います。ありがとうございますっ!」

 

「ああ、うん……希望を持ってもらえたのなら私もうれしいよ」

 

「はいっ!」

 

感謝してもらえるのはうれしいし、俺のリハビリ姿が励みになってくれたんなら、

大いに本望だし大歓迎だけど、君さ、ちょっと場所を選ぼうか?

 

ほら、ここは人目のある廊下だし?

ああほら、周りの子たちが何事かと目を丸くしちゃってるからさ。

いやそこ、ヒソヒソ話しないで!

 

「えっと、スターオーちゃん、でいいかな?」

 

「もちろんです」

 

「場所を変えようか。長くなりそうだし」

 

「あ、す、すいません。お手数おかけします」

 

もう1度、ぺこっと頭を下げるスターオーちゃん。

素直な良い子っぽい。

 

というわけで、彼女を連れてカフェテリアへと移動です。

今日のトレーニングは諦めよう。これは話が長くなりそうだ。

こうも熱く語ってくれる子を突き放すわけにもいかん。

 

もうだいたい仕上がってるし、1日くらい平気だろう、うん。

まだ1週間くらいあるしな。

 

「はいどうぞ。ニンジンジュースでよかったかな?」

 

「ありがとうございます、いただきます」

 

向かい合わせの席に座る。

 

……改めて見てみると、綺麗な子だ。

ウマ娘なんだからみんなかわいいんだけど、ひときわ目立つ容姿と言える。

リアルにどこぞのトップアイドルなんじゃないかってくらい。

 

さすが二冠馬の魂を受け継いでるなって思えるよ。

 

「で、私が憧れなんだっけ?

 うれしくはあるけど、面と向かって言われると恥ずかしいなあ。

 まだ実績も何もあったわけじゃないんだし」

 

「そんなことないですよ。少なくともわたしにとっては、

 ファミーユリアン先輩は、誰よりも素晴らしい先輩なんです」

 

「そう、ありがと」

 

なんというか、その、普通に照れる。

頭を搔くことしかできないや。

 

「それと、呼ぶとき『リアン』でいいよ。

 ファミーユリアンだと微妙に長いでしょ?

 他の人も、リアンかファミーユって呼ぶからさ」

 

「わかりました、リアン先輩」

 

笑顔で頷くスターオーちゃん。

やっぱり素直な良い子じゃないか。素晴らしいのは君だ。

 

「ネットの動画全部見たって本当?」

 

「本当です。一時期は食い漁るように見てました」

 

「マジか」

 

全部って言いきれるのはすごいな。

切り抜きとかMADとか含めたら、相当な数があると思うんだけど。

俺やファンクラブでさえ、全部は把握しきれていない。

 

それだけ時間と労力かけたってことか。

……すごくないこの子?

 

「他に憧れた人とかはいないの? 同じサクラの人とかは?」

 

「うーん、強いて挙げれば、

 小さい頃に指導してもらったサクラショウリさんでしょうか」

 

ええと、ダービー馬だったっけか。

史実の父馬だったな。

 

考えてみたら、この時期って、サクラにそこまでの活躍馬っていない?

バクシンはもうちょいあとだし、ローレルに至ってはもっと後だしなあ。

そういえばサクラって、シンボリやメジロほどは、結びつき強くないんだっけ?

 

「でもそういう意味では、長く母親代わりに面倒を見てもらった、

 スターロッチさんのほうが印象深いですね。

 母の親戚筋の方で、とても良くしていただいたので」

 

「母親代わり?」

 

「はい。まだ小さかったころに、母とは死別してますから。

 おぼろげに覚えているくらいで、顔も写真でしかわかりません」

 

お、おおう、重い過去を平然と……

身体的なハンデを克服した件といい、この子メンタルも半端ないな。

 

スターロツチ(発音はスターロッチ)かあ。

3歳牝馬で唯一、有馬を制している馬だよな。

子孫に活躍馬が多数いることでも知られる、まさに名牝だ。

 

「ごめん」

 

「いえいえ。孤児のリアン先輩に比べれば、わたしなんてまだ恵まれてますよ。

 特に不自由することもなく育ててもらいましたから」

 

そうか、実の親がいない、という点では同じなのか、俺たちは。

彼女が俺に憧れを抱いたというのも、もしかしたら、それも加味されているのかも。

俺もなんか急に親近感が湧いてきたぞ。

 

暗い話を笑顔で話してのけ、こっちの失礼を笑って許してくれるその姿、

なんて愛い奴じゃ。これは、かわいがってあげなきゃいかん。

 

「選抜レース頑張ってね」

 

「はい。リアン先輩も出られるんですよね?

 お互い頑張りましょう」

 

「2000m戦には出てこないでね?」

 

「コテンパンにして差し上げます、と申し上げたいですがご安心を。

 まずはマイルで考えてますので」

 

そのあとも、スターオーちゃんとは色々と話をして、

出会って間もないけど、すごく仲良くなれた気がする。

こんな軽口を言い合えるくらいの仲にはなったよ。

 

お互いの健闘を祈って、握手して別れた。

外は既に暗くなり始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さあ、年度1回目の選抜レースですよ。

 

俺が出走するのは、2000mの第3組。

組み合わせに恵まれて、特に目立つ子のいない組に入った。

 

しかも大外の枠順だ。

内で包まれたくない俺にとっては、最良と言っていい。

 

不運続きだったけど、少しは運も巡って来たか?

この調子で2年前の悪夢も振り払ってしまいたい。

 

数日前の健康診断で、身長がやっと140センチ台に届いたことが判明した。

タマやデジたんなど、同じくらいの小さいウマ娘は他にもいるから、

俺もようやくにして、彼女たちと戦える最低限のステージに上がれたってことかな?

 

ますます気持ちが昂ってくる。

 

そんな俺の心境を知ってか知らずか、夕べ、

スーちゃんからメールが届いたことを思い出した。

 

『気負わず、自然体で』

 

一言だけだったから、思わず、誤送信なんじゃないかと疑っちゃったよ。

続きがあるんじゃないかとね。

結局、しばらく待ってみてもそれ以外には送られてこずに、

スーちゃんらしいと逆に納得してしまった。

 

……そうだったそうだった。変に気負うと、また変なことが起きるんだよ。

余計なことは考えずに、レースだけに集中、集中!

 

「第3組に出走する子は、集合してくださーい」

 

招集がかかってゲートイン。

いざ出陣だ。

 

 

――ガッシャン

 

 

ゲートが開くのと同時に飛び出した。

よし、上手く出られた。

 

加速していくのと共に、右側、内ラチ側の様子を確かめる。

 

……おろ? 意外とついてくる子がいない?

それとも、みんなスタート失敗しちゃった?

 

まあなんでもいいか。

とにかく包まれたくないから、行けるならこのまま行ってしまおう。

 

単独先頭で1000mを通過。

 

うん、良い感じだ。

上手く単騎で逃げられた場合は、現状では62~3秒くらいで行ければ理想だと思っていた。

まさにそのくらいのペースになっていると思う。

 

最近はもっぱら、レースを想定して、一定のペースで走ることを練習してたからね。

だいたいの感触は身体で覚えたっていうものだ。

 

まだまだ足も軽いし、スタミナも十分残っている。

これはもしかして、行ける? どうなんだ?

 

正直自分のことだけで精一杯で、後ろのことを気にしている余裕なんて全然ない。

だから、後続がどうなっているかなんて、まるでわからなかった。

 

なんにせよ、残り600まではこのまま……

 

600mを通過。

 

……よし、ゴーサインだ!

 

身体を右に傾けて4コーナーに向かって駆け抜けていく。

直線に入った。

 

あとはもう全力で、力の限り走るだけ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ……はぁ……」

 

ゴール板を通過して、しばらく走ったところで徐々に速度を落とし、

立ち止まって膝に手をついて、肩で大きく息をする。

 

ど……どうなった……?

 

無我夢中で走ってたんで、600を過ぎてからの記憶が全くない。

なので、勝ったのか負けたのか、

逃げ切れたのか差されたのか、それすらもわからなかった。

 

「えーと、12番ファミーユリアンさん」

 

「は、はい」

 

呼吸が整い始めたところで、係員のお姉さんが走り寄ってきて、声をかけられた。

 

実際の競馬では、レース後は、騎手が騎乗馬を誘導して所定の位置、

着順のところへ馬を着けて、下馬して鞍などを外し、後検量という流れになるんだが、

ウマ娘レースの場合は、係員がやってきて着順を告げられる。

 

今の俺みたいに、レースに集中しすぎたり、

接戦になって自分でも着順がわからないといった場合があるためと思われる。

 

ウマ娘である場合がほとんどなので、引退後の受け皿という面もあるんだろう。

場合によっては、遠くまで走らないといけないときもあるだろうし。

 

さて……何着だと言い渡されるのだろうか。

 

「おめでとう、1着ですよ」

 

「……はい?」

 

「見事な逃げ切り勝利でした。がんばりましたね」

 

「………」

 

勝っ……た? 俺が? 1着?

……マジですか。マジですかーーーーー!!!

 

おなじみ3着~でもなく、着外でもなく、1着ですと!?

………うわお。

 

「さあ、こちらへどうぞ」

 

「は、はい」

 

お姉さんに連れられて戻る間も、信じられない思いでいっぱいだった。

 

まさか……まさかまさかの1着!

しかもさらに驚くことに、5バ身もの差をつけての勝利だと聞かされた。

 

「影をも踏ませぬ逃げ切りとはああいうのを言うんですね」

……って、べた褒めされてしまったよ。

 

マジか。マジかぁ……

いや、うれしくないわけがない。ないんだけど……

 

あまりに衝撃的すぎて、実感が湧いてこなかった。

くそっ、ウマ娘人生での初勝利なのに、勝った瞬間のことを覚えていないなんて……

 

ルドルフに頼んで、あとで絶対映像見せてもらおう。

 

メディアにも焼かせてもらって、永久保存版にするんだ。

学園内の選抜レースと言えど、勝ったというのは非常に名誉なこと。

のちのちの話の種にもなろうものだよ。

 

返す返す、記憶がないのは惜しまれる。

 

招集所へと戻って、レース後の申し合わせをして、結果が確定。

俺の勝利が正式に認定された。

 

 

 第1回選抜レース

 2000m第3組

 1着 ファミーユリアン  2:02.9  着差 5バ身

 通過順位 1 - 1 - 1 - 1

 前半1000m 62.5  3F 35.1 4F 47.8

 

 

 

 

 

 

 

「お、来たぞ」

 

「……え?」

 

招集所から出て、着替えに行こうとすると、

数人の人だかりがこちらに向かってくる。

 

瞬く間に彼らに囲まれてしまった。

 

「ファミーユリアン君、勝利おめでとう!」

 

「見事な逃げ切りだったね。ちょっと話を聞いてもらえないか?」

 

「私と一緒に、来年のクラシックを目指しましょう。

 あなたなら夢で終わらない、いいえ、終わらせないから!」

 

「……えぇ?」

 

なぁにこれぇ……?

もしかしなくても俺、スカウトされてる?

 

すげえな、ひとつ勝っただけでこんなに声がかかるものなのか。

実力の世界だと言ってしまえばそれまでだが、なんか釈然としない。

喜びよりも、世の中の世知辛さを感じてしまった。

 

ちょうど3年前のあの日、1人寂しく寮に帰った道のりが、昨日のことのように思い出される。

疲労で身体が鉛のようだったし、惨めなんてものじゃなかった。

 

みんなゲンキンなもんだ。

 

こちとら、故障歴2回、それも何よりも大事な両足を折っている、

よわよわモブ娘ですけど、それでもいいのん?

 

「君をスカウトさせてくれ」

 

「いやいや、ぜひともうちのチームに。

 僕は逃げウマ娘の育成には自信があるんだ!」

 

「いいえ、私のチームへお願い!

 うちにはカツラギエースがいるから、彼女と一緒に

 トレーニングできるのがうちの強みよ」

 

「え、ええと……」

 

数人のトレーナーと思しき人たちに囲まれ、戸惑ってしまう。

 

むむ、カツラギがいるのはちょっとだけ興味深いな。

あれだけの逃げウマ娘だ、話を聞いてみたい気はする。

 

それに、なんだかんだ言ったけど、

G1ウマ娘を育てたトレーナーから声がかかるのは、すごくうれしいじゃないか。

 

は、話を聞くだけならいいかな~?

 

「お疲れ様です皆さん」

 

などと思ってしまう中、()()は、遅れてやってきた。

 

「ですけど残念ながら、その子には私が最初に目をつけていました。

 横取りはやめていただけませんか」

 

「ス、スピードシンボリ女史」

 

名家の出身らしく、凛とした完全な『外向け』モードのスーちゃん。

数人の歴戦トレーナーを前にしてなお、その威厳を失わない姿は、

俺でも思わず「か、かっこいい……(トゥンク)」ってしてしまいそうなほどだ。

 

現に、他のトレーナーさんたち、明らかに狼狽してるからな。

 

「さ、最初からって……?」

 

「少なくとも、あなたたちが声をかけるずっと前から、です」

 

「あ、もしかして、合格会見の時に言っていたのって――」

 

「ご想像にお任せします。さて……」

 

女性トレーナーをニッコリ笑顔で黙らせて、その視線が俺へと向く。

そして歩み寄ってきて、右手を差し出してきた。

 

「スカウト、受けていただけるかしら?」

 

「喜んで」

 

俺はがっしりと、その手を両手で取った。

 

 

 

 

 

 

 

「はい、これで契約完了よ」

 

あのあと、スーちゃんのトレーナー室へと移動し、

条件を色々と確認して、契約書にサイン。

これでめでたく、スピードシンボリ師と、専属担当契約が成立した。

 

契約といっても、基本は根本的なことばかり。

何か不都合があれば、その都度見直しましょうという曖昧なもの。

 

普通なら許されないだろうが、その点、俺は心配していない。

なんせ『シンボリ』だもの。

 

彼らがそこまでするメリットなんかないし、なにより、

家族だとまで言ってくれた人たちのことを、信頼しないわけにはいかない。

 

「ありがとうございます。

 改めまして、よろしくお願いします、トレーナー」

 

「こちらこそよろしく、リアンちゃん。

 堅苦しいのは嫌いだから、今まで通り『スーちゃん』でお願いね」

 

「わかりました」

 

頭を下げると、笑って言うスーちゃん。

先ほどの有無を言わせぬ鬼の笑顔とは段違い。

 

「でも、ちょっと焦りましたよ。

 なんで最初にスカウトに来てくれなかったんですか」

 

そう、俺のことを買ってくれているのなら、誰よりも早く、

それこそ招集所の前で出待ちしていた、ってなってもおかしくない。

 

おかげで、カツラギのことで、心がちょっと揺らいでしまったじゃないか。

いや、100%俺が悪いんですけど。

 

「ごめんなさいね」

 

俺の冗談めいた軽口にも、スーちゃんは笑っていた。

 

「あなたの走りが想像してた以上で、

 ちょっと感動して動けなかったのよ」

 

「感動って、そこまでですか」

 

動けないほどの感動とは?

 

「考えてもみなさいな。自分の目を付けた子が、

 5バ身もの差をつけて圧勝してくれたのよ。

 そりゃあ勝ってくれたらいいなあとは思っていたけど、

 負けた子をスカウトしにいこうっていうのとは訳が違うわ」

 

「そんなものですか」

 

「そうよ。むしろプレッシャーを感じてしまったわ。

 これほどの才能のある子を、私が潰してしまうわけにはいかないって」

 

「……」

 

そっちのほうが大きかったせいだってこともある?

いや、いやいや、俺にそこまでの才能なんて……

自惚れるのも大概にしないと。反省。

 

「最初にあなたを見たときは、なんてバランスの悪い、

 でたらめな走り方する子だなって驚いたけど」

 

あのときはねぇ……

 

思えば、スーちゃんと出会えたっていうのは、凄まじい幸運だったんだな。

会えてなかったらと思うとゾッとするよ。

きっと今でも、掲示板すら厳しい状態だったに違いない。

 

いや、学園にいることすらできていなかったかも。

 

「本当に、よくここまで成長してくれた……」

 

「……」

 

あさってのほうを見つめて、遠い目になっているスーちゃん。

俺のほうまでしんみりしてしまう。

 

「とはいえ、これが終着点ではないわ。

 より一層鍛えていくから、そのつもりでいなさい」

 

「はい、お願いします!」

 

この日から、本当の意味での、競技人生が始まったんだ。

 

 

 

 

俺との契約が発表されると、周りは予想通り、再び騒がしくなった。

でも、スーちゃんとシンボリ家、それに乙名史さんが徹底的に俺を守ってくれたおかげで、

マスコミの過度の報道合戦に巻き込まれることはなく、普通にトレーニングできた。

 

その点でも、俺はたくさん感謝しなければいけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やったな、リアン」

 

少し離れた位置から、リアンが出走したレースを見届けたルドルフは、

誰に向けたものというわけでもなく、声を漏らした。

 

シリウスとの勝負を見たときから、これくらいのことはできるだろうと踏んでいた。

なので特別な驚きほどのものはないが、客観的に確認できたことは大きい。

 

「……ここからだ」

 

そして、一人心地に2度3度と頷く。

 

区別をつけるというのもあまりよい気はしないが、

今この時が、いわば『新生』ファミーユリアンの出発点だ。

いずれこの日が、伝説の幕開けと云われるようになる日がきっと来る。

 

そう、信じて。

 

「さて、仕事に戻らなければ」

 

無理を言って生徒会から抜けてきていた。

授業がない日も、生徒会の仕事はてんこ盛りだ。

今も副会長のピロウイナーたちは忙しくしていることだろう。

 

理想を追うような暇もない状態だが、それを言っても仕方がない。

まさに自分で選んだ道なのだ。

()()()()ように、地道に一つずつこなしていくしかなかろう。

 

「だがその前に……」

 

レースの記録映像を、リアン用にメディアに焼いておくとしようか。

なにせ自分の事故ですら自ら見に行くような親友なのだ。

勝利したレースを見逃すとは、とても思えなかった。

 

「ふふ、喜ぶ顔と驚く顔、どちらが先に出るかな?」

 

その時の様子を想像しながら、ルドルフは生徒会室へと戻っていった。

 

 

 

 




スーちゃん「普通に出遅れたわ(汗)」


満を持してスターオー登場。
アプリにも実装オナシャス!

お気に入り登録6000件ありがとうございます‼️

仮にリアンが海外遠征する場合、初戦は何が良いですか?

  • ドバイワールドカップ
  • ドバイシーマクラシック
  • ガネー賞(仏)
  • クイーンエリザベス2世カップ(香港)
  • アメリカ遠征
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