『ウマ娘ファンのみなさんこんにちは。
今週も府中ケーブルテレビがお送りする、
週刊ウマ娘放送局のお時間がやってまいりました』
毎度おなじみの、番組冒頭でのあいさつ。
女性キャスターがぺこりと頭を下げる。
なお、本放送の翌日にはネットチャンネルにもアップされ、
毎回最低でも数十万再生を記録する、超人気コンテンツと化している。
当然、同局の看板番組だ。
『さて先週の開催では、秋のG1シリーズの前哨戦として
注目の毎日王冠と京都大賞典が行われました。結果は――』
通常のメニュー通りに番組が進行していく。
そうして番組開始から10分が経過したころ
『特集です』
ときどき行われる特集企画のコーナーに移る。
今回の特集は、番組としても、非常に力が入っていた。
なにせ……
『この番組をご覧の皆様なら、もう既にご存知ですよね?
はいそうです! 2年近く密着してまいりましたファミーユリアンさんが、
先日の日曜日、ついにデビュー戦を迎えました』
前回取材時の写真が、画面いっぱいに表示される。
はにかんだ笑顔。
『もちろん我々はそのデビュー戦にも密着しております。
結果も皆さまはご存知でしょうが、デビュー戦の裏で何があったのか、
余すことなくお伝えいたします』
数日前に終了し確定しているレースなので、
調べようと思えばいつでも可能だし、なによりキャスターが言ったとおり、
この番組の視聴者ならば改めて言われるまでもないことである。
しかし彼らにとって重要なのは、レースの結果よりも、
他の局やネットニュースなどではわからない情報が得られることであった。
『それではご覧ください。
あ、ハンカチやティッシュを用意しておくことをお勧めいたします。
映像どうぞ……』
意味深な表情と発言を残して、映像が特集へと切り替わる。
キャスターのこの発言の真意は、この映像を見たものならば、
全員が理解することになるだろう……
10月5日、午前8時。
「おはようございますっ!」
「おはようございます」
トレセン学園の寮から出てきた、1人のウマ娘。
ファミーユリアンさんです。
我々取材陣の声にも、気さくに対応してもらえました。
今日この後、東京レース場の第5レースにて、
念願のデビュー戦を迎えます。
「いよいよですね。調子はいかがですか?」
「おかげさまで仕上がってます。いい感じですよ」
レース場へと移動しながらも、会話に応じていただけました。
数時間後に決戦を控えるとは思えないくらい、穏やかです。
彼女がトレセン学園に入学して3年半。
多くのウマ娘が半年から2年ほどの間にデビューする中、
なぜ彼女はこれほどの時間がかかってしまったのでしょうか。
本格化の具合という件もありますが、ファミーユリアンさんの場合、
故障の影響が大きいのです。
入学直後、そして一昨年の4月、2度の骨折に見舞われてしまいました。
それも、ウマ娘の命とも言える足を、両方とも。
今もまだ、彼女の左足にはボルトが入ったままです。
我々が彼女と出会ったのは、そんな手術をするほどの重傷だった、
2回目の骨折から復帰を目指してリハビリ中という時期でした。
密着特集の第1弾としてお送りしてご好評いただいたので、
まだ記憶に残っているという方もおられることでしょう。
つらいリハビリ、イチからやり直しとなったトレーニングにも
耐え抜いた彼女は、今日、デビューします。
(場面切り替え、東京レース場、控室)
控室に入ったファミーユリアンさんは、招集がかかる時間まで、
軽く身体を動かしたり、モニターで他のレースを見ながら過ごします。
「おー、この子、強いですね」
「あー掛かっちゃった」
「惜しい! あと一歩」
どこか他人事のように呟きを漏らすファミーユリアンさん。
とてもとても、このあと、今後の人生を賭ける決戦が控えているとは思えません。
そして、パドックへと向かう時間が来ました。
「じゃあ、いってきます」
「ご武運を、と言うと物騒すぎますかね」
「いえ、お気持ちは十分伝わりました。
ありがとうございます、がんばってきます」
「いってらっしゃい!」
我々の少々芝居がかった激励の声にも、ファミーユリアンさんは
笑顔で答え、部屋から出て行きました。
少なくとも私たちにとっては、まさに『出陣!』という感じでした。
東京レース場第5レース、メイクデビュー芝2000m。
いよいよ発走です。
ファミーユリアンさんは1番人気に推されました。
その人気ぶりが窺えます。
(レース映像をノーカットで流す)
まさに待ち望んだ瞬間です!
ファミーユリアンさん、見事に逃げきって勝利しました!
それも、パッと見では着差がわからないほどの圧勝です!
……ですが彼女、ゴールした後も走り続けています。
あ、ようやく止まりました。第2コーナーまで行ってしまいました。
(ゴール後の映像を流しつつ、後取材の本人音声が挿入される)
――ゴール後もしばらく走り続けていましたが?
『ええと、恥ずかしながら、直線向いた後の記憶がまるでなくて……
気が付いたら第2コーナーまで走っていました』
――それほど集中していたということですね?
『そうだといいんですが……(苦笑)』
どうやら本人的にも、想定外の出来事だったようです。
スタンド前まで戻ってきました。
重賞レースかと思うほどのすごい大歓声です。
あ、ファミーユリアンさん、客席前まで走って行って、
一部の観客の人と何やら話していますね。
――あれは何を話されたんですか?
『重ねて恥ずかしいんですけれども、私あの時まで、
自分が勝ったという現実をまるで認識できていなくて……
あそこで教えてもらって初めて分かったんです』
――彼らはファンクラブの方ですか?
『そうですね。あと、出身の孤児院の人たちもいました』
――そのときの心境はいかがでしたか?
『……いま思い出しても、ちょっと言葉にできません。
信じられなくて、頭が真っ白になってしまって……』
そのあと掲示板を確認して、泣き出してしまったファミーユリアンさん。
係員が来るまでその場から動けませんでした。
この後付け音声のための取材をした時の、
苦虫を噛み潰したかのような表情が印象的です。
(地下バ道、出迎えるスピードシンボリ)
トレーナーであるスピードシンボリさんに迎えられます。
「おめでとうリアンちゃん」
「っ……!」
「あらあら」
いまだ完全には泣き止んでいないファミーユリアンさんでしたが、
トレーナーの出迎えを受けて、再び感極まってしまったのでしょう。
抱き着いて今度こそ号泣です。
スピードシンボリトレーナーのほうも、担当バということを抜きにして、
まるで本当の孫をあやすかのような対応です。
両者の絆の深さが窺えますね。
結局落ち着くのにはしばらく時間を要して、
口どり式とウイニングライブの予定が少し遅れました。
彼女のこれまでの苦労を思えば、それくらいの遅延は何のそのでしょう。
事実、URAや周りの人たちの反応は非常に温かいものでした。
よかったですね、ファミーユリアンさん。おめでとう!
(ライブ後、控室)
ウイニングライブが終わりました。
ファミーユリアンさん、綺麗でしたね。
このときばかりは笑顔が輝いていました。
「リアンちゃん、おめでとう」
「おめでとーリアンねーちゃん!」
「院長……みんな……」
応援に来ていた孤児院の皆さんがやってきました。
歓喜の笑みを浮かべた子供たちがファミーユリアンさんに抱き着きます。
すると、ファミーユリアンさんはまたもや大号泣です。
このような光景を見て、何も思わない、思えない人間がおりましょうか。
かく言う私も、もらい泣きしてしまいまして……
こうして編集している最中でも涙腺が緩んできます。
「仕方のない子ね。勝ったのに泣いたらダメじゃない」
そう言いつつ、自らも泣きながら子供たちごと抱き締めたのが、
孤児院の院長先生だそうです。
大変お世話になった方だと仰っていました。
非常に美しい光景ですね。これ以上の形容はできません。
以上が、我々が密着したファミーユリアンさんのデビュー戦の一部始終になります。
以前より彼女のファンであったという方、
デビュー戦を見てファンになったという方にも、
ご満足いただける内容になったと自負しております。
願わくば、ファミーユリアンさんの未来に幸多からんことを。
(ブログにアップされたトロフィーを掲げた写真で映像終わり)
『……はい。ファミーユリアンさんのデビュー戦特集でした』
映像がスタジオへと切り替わる。
『いやー、本当によかったですねぇファミーユリアンさん。
何度見てもうるっと来てしまいます』
キャスターの目には、光るものが滲んでいた。
普通に見ても心に刺さるのに、思い入れがあればなおさらだろう。
『ジュニアレコードでの大圧勝劇、痺れましたね。
次走の情報はまだ伝わっていませんが、どこへ出走しようとも、
大注目の存在であることは変わりません。
ですよね、解説の○○さん?』
『そうですね。ジュニア級の2000mで2分を切ったのは彼女が初めてです。
あれだけの着差ですし、ポテンシャルは相当のものを秘めていると思います』
『これは一躍、来年のクラシック主役候補の登場、なんてことにも?』
『ん~、どうでしょう。まだ時期尚早という気もしますが』
キャスターの気の早すぎる質問に、
解説者も苦笑を浮かべる。
いくらなんでも、という心情だろうか。
『何はともあれ、このまま順調に成長していってほしいですね』
『ファミーユリアンさんは故障に泣かされただけに、
本当にそう願ってやみません』
ファン一同たっての願いだろう。
無事に成長して、クラシックに臨んでくれと。
『府中ケーブルテレビは、これからも可能な限り、
ファミーユリアンさんを追い続けます。
以上、特集のコーナーでした』
今回の『ファミーユリアンちゃんについて語るスレ』のコーナー
(デビュー戦密着動画公開後の反応)
:府中ケーブルテレビGJ!
:控室の中にまで入れてるんか、すげぇ
:なあ、これ……泣けるんやが
:俺も泣いた
:。・゚・(ノД`。)・゚・。うわぁぁん
:リアンちゃんがゴール後に掲示板見て泣いてるのを見て泣き、
引き上げてトレーナーに抱き着いて泣いてるのを見て泣き、
ウイニングライブ後に孤児院の人たちと抱き合って泣いてるのを見て泣く
3度泣いた俺に隙は無い
:泣いてばっかりで草
まあ俺もだけど
:苦労したよな……報われてよかったな……
:もらい泣きしないやつは人間じゃない
:相変わらずの良い仕事
:きのう今日で編集したのか、すごいな
:それもそうだけど、この短い時間でさらに取材して、
リアンちゃんの生声アテレコしてるのものすごい
:応じてるリアンちゃんもすごいな、疲れてるだろうに
:他局には真似できんな
:以前からの関係の深さがなせる業か
:子供たちかわいいな
:孤児院の子か
:そうか、パドックで聞こえたのはこの子たちの声か
:リアンちゃん慕われてんなあ
:院の手伝いして、年下の子の世話もしてたっていうから、
そりゃ慕われるよ。姉みたいなもんだろ
:院長もすげぇ良い人そうだ
:そうでもなきゃ孤児院なんて……
:こんなかわいい子たちの身寄りがないなんてな
:なんなら保護者に立候補してもいいのよ?
:さすがにそれは
:何の関係もないやつがいきなり名乗り出ても難しいだろう
:そこまでしなくても少額でもいいから、寄付したればええねん
わいはもうしたで、ささやかやけどな
:少しでもそう思う人が増えてくれれば、
リアンちゃん的にはリアルレースよりも大勝利じゃね
:そういうのも取材受けてる理由だろうしな
恩返ししたいって公言してるんだし
:どこから寄付できるの?
:直接じゃないけど、その手の団体とかはいくらでも
:詳しくはwebで
:ここがweb定期
:これで少しは恩返しできたのかな?
:充分だと思う
:大半が未勝利で引退していくことを考えれば、
ひとつ勝っただけでも十分すぎるだろ
:弱者の励みにもなるな
2度の大怪我でも諦めずに努力すればってことをまさに見せつけたんだ
:はい、ここにも励まされた人間がいますよ
:おー、がんばれよ
:まずは明日、家から出てみたいと思います
:そこからか……
:まあ、がんばれ(汗)
:はい、明日から本気出します
:嫌な予感しかしない……
:なんにせよがんばれよ(遠い目)
:府中ケーブルテレビは、これからもファミーユリアンさんを追い続けます
だってさ
:密着続けるのか、ええやん
:なんなら引退後も囲っちゃえ
:前に誰かが言ってた、キャスター就任が現実味を帯びてきたな
:ケーブル局になんてもったいない!
:全国、いや、ネットチャンネルあるから変わらんか
:次走も期待してるよ!
:それはリアンちゃんに? 府中CATVに?
:無論、両方!
ドキュメント風の映像が皆さまの脳裏に浮かんでいるとよいのですが
仮にリアンが海外遠征する場合、初戦は何が良いですか?
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ドバイワールドカップ
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ドバイシーマクラシック
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ガネー賞(仏)
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クイーンエリザベス2世カップ(香港)
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アメリカ遠征