転生孤児ウマ娘の奮闘記   作:しょうわ56

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第41話 孤児ウマ娘、一難去ってまた一難?

 

 

 

『中山第9レース葉牡丹賞は、バ場状態「稍重」にて施行いたします』

 

 

発走時刻寸前で、場内アナウンスがバ場の悪化を告げた。

短時間だったとはいえ、あれほどの豪雨でそうならないわけはない。

 

「院長先生、リアンねーちゃん大丈夫かな?」

 

「さあ……」

 

今日もリアンの応援に来ている孤児院一行。

前回と同様に、ゴール板前でファンクラブの面々と一緒に陣取っている。

 

子供たちの疑問に、レースに詳しくない院長は首を傾げるしかない。

 

「それにしても、念のため、傘を持ってきておいてよかったわね」

 

「うん」

 

「なかったら今ごろ大変だったね~」

 

雷雨予報が出ていたので、一応にと用意しておいて助かった。

 

周りには、傘がなくてずぶ濡れになっている人たちが大勢いる。

もし用意してきていなかったら、当然着替えもないし、帰りの電車に乗れないところだった。

 

「それにしても、あんな大雨の中でも走らなきゃいけないなんて、

 ウマ娘の子たちはみんな大変ね」

 

今さらながらのことを口にする院長。

幸い雨自体こそ止んでくれたが、足元はそうもいかない。

 

(どうか何事もなく、レースが終わりますように)

 

院長はひそかに、心中でそう祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

招集がかかって、ゲートへと向かう。

 

一歩ごとに、ぐちゃ、ぐちゃ、と足元から音がする。

これで稍重ってウソだろ? 絶対『重』以上はあるって。

 

トレーニングでバ場状態不良の芝も走ったことはあるけど、

ここまで酷いのもそうそうなかったよ?

 

はあ、やれやれだ。

 

こりゃレース後、泥んこになってるのは避けられないだろうなあ。

服は専門業者が回収してクリーニングしてくれるからいいんだが、

靴とか蹄鉄とか洗うのすごい面倒なんよ。今から気が滅入ってしまう。

 

せめてその被害を最小限にとどめるためにも、

今日も先頭で逃げるのがよさそうだ。

 

バ場が悪化すれば差しも届きにくいし、前目にいるのが圧倒的に有利。

うん、逃げよう、そうしよう。

 

スーちゃんからは、状況次第で自分で考えてレースしなさいって言われているので、

自由に作戦を決められるのは大変助かっている。

 

葉牡丹賞、14人立て。

 

今日も俺の枠番は12番。

前走同様の逃げ切り勝利といきたいもんだね。

で、『12』を俺のラッキーナンバーにするんだ。

 

それじゃ12番ファミーユリアン、いっきま~す!

 

 

――ガシャンッ

 

 

「よしっ……おあっ!!?」

 

今日も、ゲートが開くのと同時に反応できたのはいいものの、

その一歩目に魔物が潜んでいた。

 

俺はスタートの時、左足を前に、右足を引いて構えるんだが、

前の左足がずるっと大きく滑ってしまった。

 

転倒するというところまで行かなかったが、手痛い出遅れには違いない。

 

「……くっそ!」

 

すぐに体勢を立て直して飛び出したが、

他に出遅れた子はいないらしく、あえなく最後方。

 

前に出なきゃいけないレースで、よりよって1番後ろからとはなあ。

 

だからって諦めるのは早すぎる。

なんせ俺は、2度の骨折からも復帰した――

 

「――ぷわあっ!? 泥っ……っく!」

 

とりあえずバ群の後ろに付けようとしたが、

前の子が跳ね上げた泥やら禿げた芝やらが飛んできて、とてもとても敵わなかった。

 

なんせ目を開けてすらいられないほどなんだからな。

こんなんじゃレースにならん。

 

現実の馬たちは普通に馬群になるけど、よく平気だよな。

中には、『水かきが付いている』なんて云われるほどの道悪巧者すらいる。

 

騎手たちはゴーグル着けてるからまだいいだろうけどさ。

道悪が苦手な馬って、足元だけじゃなくて、こういうのも理由だったりするんだろうか。

 

「畜生ッ……!」

 

自分の失態を大いに嘆きつつ、

俺は1コーナーで大きく外側を回らされることになった。

 

 

 

 

 

 

『葉牡丹賞、スタートし……おっと、ファミーユリアン滑ったか。

 1番人気ファミーユリアン、最後方からになります』

 

『前走では逃げてジュニアレコードを叩き出しましたが、

 これは痛恨の出遅れ。巻き返せるでしょうか』

 

目の前の光景と場内実況に、観客たちからは悲鳴が上がった。

もちろんそれは、孤児院一行とファンクラブ一同も同じ。

 

「ああっ!?」

 

「リアンねーちゃん!」

 

「やっちまったぁ!?」

 

「なんてこと……」

 

「くそぉ、雨のバカヤロー!」

 

にわかに、阿鼻叫喚の図と化していた。

 

 

 

 

 

 

 

『向こう正面に入って先頭は4番。7番、2番と続きます。ファミーユリアン依然最後方』

 

『3コーナーを回ってバ群が徐々に詰まります』

 

『まもなく4コーナー、多くがバ場の悪化を嫌って外に行った。

 おっと、その中で1人だけ内を突く。ファミーユリアンだ!

 ファミーユリアンなんと、最後方から一瞬で3番手まで上がりました!』

 

早くも歓声が沸く中山レース場。

 

勝負どころの4コーナーで、少しでもバ場の良いところを求め、

ほとんどのウマ娘が外側へと膨らんだのに対して、

ファミーユリアンだけは最内へ突っ込み、

距離を稼いで一気に逃げた2人の真後ろへと着いた。

 

まさにコース取りの妙であった。

 

「リアンちゃん巧いっ!」

 

「よぉし来た!」

 

「ここから前みたいにぶっちぎれー!」

 

一同の興奮も、クライマックスへと達したのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3コーナーも最後方の大外を回らされた。

 

いかん……

このままでは非常にまずい。掲示板すら届かない。

 

なんとか起死回生の手を打たないと、ただコースを1周しただけになってしまう。

とはいえ、内に入れば泥んこ爆弾の集中攻撃を受けるだけだ。

 

それに、進路が開くとは限らないしな。

むしろ詰まってしまう可能性のほうが高い。

 

どうすれば……

 

600を通過。

 

4コーナーが近い。

中山の直線は短い。

ここからさらに外を回るのは、距離ロスがでかすぎる。

 

色々なことが脳裏に浮かんでは消えていく。

もう時間も距離もない。

 

「……っしゃあ決めた!」

 

この期に及んでは一か八か、インへ突っ込むしかなかろうて。

勝利を狙うにはそれしかない。

 

ひとつ勝ったからには、貪欲に勝利を目指してもいいよな?

どのみち失うものなんて何もないんだ。

だったら少しでも勝てるチャンスがある道を選ぶべき。

 

ウジウジ悩んだって始まらないし、こうなったら大博打じゃあ!

 

条件戦で使うのもどうかとは思うがしょうがない。

ファミーユリアン一世一代の大勝負、見とけよ見とけよー!

 

「おらぁぁあああ!!」

 

意を決した俺は、進路をインコースへと向けるとともに、

上体を大きく前へと倒した。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ファミーユリアン前に迫る! かわして抜けた抜けた!』

 

『差が広がる! 1バ身、2バ身! 坂も道悪も、アクシデントもなんのその!』

 

『ファミーユリアン、今ゴールイン!

 断然の1番人気に応えました、ファミーユリアンですっ!』

 

 

――うわぁぁあああああ!!!

 

 

メインレース、それも重賞かと思うほどの大歓声が上がった。

同じように、孤児院とファンクラブ一同からも歓喜の声。

 

「リアンちゃんやったぁああ!!」

 

「連勝じゃあああ!!」

 

「リアンねーちゃん強いっ!」

 

「リアンちゃん……」

 

彼らの声もまた、大歓声の一翼を担うことになったのだった。

 

 

 

中山 第9R 葉牡丹賞 芝2000m 稍重

 1着 12 ファミーユリアン  2:05.3

 2着 4 メイジンカドマツ    2.1/2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今度という今度は、勝ったという感触があった。

内にいた2人をかわしてゴールできたんだ。勝っただろ?

 

「……ふぉおお」

 

勝利の実感って、こんなにうれしいものなんだな……

逆の意味で震えてきてしまった。

思わず立ち止まって、息を整えることすら忘れるくらいだもの。

 

1コーナーからゴール方向を振り返れば、観客の大歓声が聞こえる。

それがまた拍車をかけてくるんだ。

 

これは……癖になるな。

いつぞやにシービー先輩が言っていたことも、ようやくわかった。

 

『先頭の景色』とは、こういうものなのか?

スズカパイセンの言うことも、今では理解できる。……かもしれない。

 

「……うはぁ、どろどろ」

 

そして気付けば、服も腕も足も、みんな泥まみれ。

この分では、顔も頭もそうだろう。

 

まっくろくろすけ出ておいで? ここにいるぞ!(謎

 

こんな状態でテレビに映ってるとか恥ずかしいな。

でもまあ、これもまた勝利の勲章か。

 

軽く走って正面スタンド前へと戻る。

さらに大きく膨れる歓声。

 

そうだ。前走では泣いちゃってそれどころじゃなかったから、

手を振り返すくらいはやっておこうかな?

 

 

わああああ!!!

 

 

ますます歓声が大きくなってしまった。

うれしいけど、なんでこんなに人気あるのか、まったくわからんなあ。

 

そうこうしているうちに係員が呼びに来て、無事に1着を確認。

 

タオルも渡してくれて、とりあえず顔だけぬぐって、

改めて観客の皆さんに手を振り返してから、地下バ道へと引き上げた。

 

 

 

「リアンちゃんっ!」

 

「あ、スーちゃん」

 

すると、いの1番にスーちゃんのお出迎え。

大慌てな様子で駆け寄ってくる。

 

ああそうか、怒られるかな、これは。

あんな盛大に滑って出遅れかましてくれたら、そりゃ怒るよなあ。

 

よし、ここは一発とぼけておこう。

 

「え、えへへ……ミスターシービーしちゃいました。

 ちょっと滑ってしまっ――」

 

「そんなことはどうでもいいわっ!」

 

「――へっ? わぷっ」

 

照れ隠しに頭を掻く仕草でもしておけば完璧。

……と思ったんだが、なんとスーちゃんに、

駆け寄られた勢いそのままに抱き締められてしまった。

 

「あ、あの? 汚れますよ?」

 

「足は? 足はなんともないの!? 捻ったりしてない?」

 

重ねて言うが、今の俺は全身泥まみれ。

そんな俺を抱き締めては、スーちゃんの高そうなスーツも汚れてしまう。

しかし彼女は、そんなことには構わず、俺の肩を掴んで真顔で聞いてくる。

 

「え、はい。なんともないです」

 

「……よかった」

 

「……」

 

俺がそう答えると、スーちゃんは大きく息を吐き出し、

再び俺をがばっと抱き締めた。

 

「本当にもう……この子は心配ばかりかけて」

 

「……すいません」

 

「もういいわ。無事ならそれでいい」

 

「……はい。すいませんでした」

 

……そうか。滑った時に怪我してないか、心配してくれたのか。

 

重ね重ね申し訳ない。

ふざけてないで、まずは謝らなければならなかったな。

本当に申し訳ない。

 

スーちゃんのぬくもりと優しさに包まれて、なんだかジーンと来た。

 

「念のため、あとで医務室に行って診てもらいましょう」

 

「いえ、大丈夫じゃないかと」

 

「いいえ、診てもらいます。いいわね?」

 

「アッハイ」

 

圧力のある笑顔に、問答無用で黙らされた。

 

さすがの威圧感。

かつての名ウマ娘にして、あのルドルフの祖母だというのが、

大いに納得できる一幕であった。

 

そうして、レース確定後に医務室に行って診てもらったが、

現時点では特に異常は見られないとの診断だった。

 

みんな安心してたし、俺もそう。よかったね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただい――」

 

「リアンッ!」

 

「――まっ!?」

 

何事ッ!?

帰宅してドアを開けた途端、飛び出てきたルドルフに抱き着かれてしまった。

 

「足は! 足は大丈夫かっ!?」

 

あの祖母にして、この孫あり、か。

まったく同じ反応で、思わず少し噴き出してしまったよ。

 

「大丈夫。一応、医務室でも診てもらってきたけど、

 なんともないよ。平気平気」

 

「そ、そうか。それならいいんだ……」

 

俺が笑って見せると、ルドルフはあからさまにホッとした様子を見せた後、

照れ臭そうにそっぽを向いた。

 

いやあもう、心配かけっぱなしですいませんねぇ。

全部、雨が降ったくらいで滑ってしまった俺が悪いんです。

周りのみんなは悪くありません。

 

「中に入ってもいいかな?」

 

「あ、ああ、すまない。疲れているだろう?

 ゆっくり休んでくれ」

 

「うん」

 

「荷物を持とう」

 

「ありがと」

 

ルドルフのほうこそ、生徒会の仕事で疲れているだろうに、

荷物を運んでもらってしまった。

 

本当ならこんな時間にはまだ帰れていないから、無理言って帰らせてもらったんだろうな。

つくづく申し訳ない。あとでピロウイナー副会長にも詫びを入れておこう。

 

「改めて、2勝目おめでとう、リアン」

 

「ありがとう。本当にもう、ひとつ勝てただけでも御の字なのに、

 ふたつも勝てるなんて思ってなかった。夢の中にいるみたい」

 

「これは夢じゃないぞ、現実だ。

 それに、私は前から、君はこれくらいはやるだろうと思っていたよ」

 

お互いベッドに腰かけて話し出す。

 

本当にぃ?

意地悪言うわけじゃないけど、俺が勝ったからそう言っているわけじゃないよね?

 

「自惚れるわけじゃないが、本気の私に追いつけたウマ娘なんてそういない。

 その数少ない子が、リアン、君なんだ」

 

あの夏の並走トレーニングのことか。

 

確かに、超前傾走法を最初に発揮したとき、ルドルフに追いつけはしたけど。

あれ、マジのマジで本気出してたの?

 

そりゃ、トゥインクルシリーズを無敗で駆け抜けたルドルフだから、

追いつけた子なんて、JCで競ったシービー先輩くらいなものだが……

 

「本音を言えば、G1のひとつくらい楽に勝ってもらわないと、

 私の尊厳も地に落ちてしまうから、もっとがんばってもらいたいんだが」

 

「えーなにそれ」

 

「冗談だ」

 

おいおい、どっちなんだよ。

でもまあ確かに、それくらいの実力は示さないと、

ルドルフの親友は大っぴらに名乗れないよなあ。

 

がんばりますかあ。

 

「差し当たっては、暮れのホープフルか?」

 

「うーん、まだ未定」

 

「そうか」

 

未定だけど、出ない可能性のほうが高いな。

いや、ほぼ出ないと言っていいかもしれない。

 

今日もヒヤッとしてしまったし、ひと月のうちに2回もレースをする体力が、

いまだ本格化を迎えてくれないこの身体には、厳しいんじゃないかな。

 

ちょっと足を滑らしたくらいでこの心配のされようだし、

スーちゃんもホープフルもありうるみたいなことは前に言ってたけど、

本心はあまり乗り気じゃないと思う。

 

「何はともあれ、これでオープン昇格だな。C組に転籍だぞ。

 もしかすると、また私と同じクラスになるかもしれないな」

 

「うん、そうなったらうれしいな」

 

「ああ、大歓迎しよう」

 

10月の初勝利で、すでにB組には移っているが、さらにC組へと移籍だ。

A組を離れるときに、入学以来一緒のクラスだった連中からは、

送別会という名の大騒ぎで、盛大に送り出してもらったことを思い出す。

 

今回は在籍した期間が短いから、そこまでのことにはならないと思うけど、

きっと笑って送り出してくれるに違いない。

だって、笑っちゃうくらいにみんな、良い子たちなんだもの。

 

同期入学の子たちももう高校生だし、A組の彼女たちは今後どうするんだろうなあ。

チャンスが潰えない限りは挑戦し続けるんだろうけど、その気力がいつまで持つのか。

 

すでに大半の子が勝つか、諦めるかしてA組から去っている。

いまだA組にいる子は、両手で事足りるくらいしかいない。

 

がらんとした教室と彼女たちのことを思うと、胸が締め付けられる。

1人でも多くの子の夢が叶うことを願うしかない。

 

……な~んてな。

 

ちょっと前までは、俺自身がそう思われる対象だったってのに、

ホント勝負の世界というのは厳しいものだ。

俺がそんなことを考えること自体が、彼女たちに対して失礼なのかもな。

 

「父様も、リアンに直接お祝いを言いたいと言っていたぞ。

 あとで電話があるんじゃないかな」

 

「そっか、わかった」

 

初勝利の時も、帰宅して即、タイミングを図ったかのように着信してビックリしたよ。

それはもういっぱいお祝いしてもらった。

 

生憎と、どうしても外せない用事と重なってしまって、

生観戦はできなかったけど、って逆に謝られすらしてしまった。

 

いやいや逆です。こんなモブ娘の、たかが新バや条件戦になんて、

名門のご当主様が見に来ないでくださいって、こっちがお願いしたいくらいだ。

 

 ~♪~♪

 

ここで、俺の携帯から軽快な着メロが発せられた。

 

「ほら来た」

 

したり顔で言うルドルフ。

俺はバッグから携帯を取り出しつつ、思わず室内を見回してしまう。

 

本当に良いタイミングなことで。

この部屋、実は隠しカメラとか仕掛けられてたりしないよな?

 

確認するまでもなく、携帯の画面に示された番号は、お父様のものだった。

 

「もしもし、リアンです」

 

『やあリアン君、葉牡丹賞勝利おめでとう。身体はなんともないかね?』

 

「ありがとうございます。ご心配おかけしてすみません、大丈夫です」

 

『それは重畳だ』

 

二言目には心配だからなあ。

シンボリ家の人たちは、同じ行動原則でもあるんかいな。

 

『母さんも自分で確認したいそうだから、ちょっと替わるよ』

 

「あ、はい、わかりました」

 

『リアンちゃん? 足は大丈夫?』

 

「はい、大丈夫です。本当に申し訳ないです」

 

『いえいえ、それならいいの。

 すごいレースだったわね、おめでとう』

 

お母様に至っては、初っ端からそうだった。

お祝いより先に心配って、俺はどれだけ過保護にされてんだって話よ。

来るなとは思ってたけど、その上を行かれてしまったわ。

 

『それだけ言いたかったの。お父さんに替わるわね』

 

「はい」

 

お母様からはそれだけだった。

電話口には再びお父様が出る。

 

『さてリアン君、だいぶ遅れてしまったが、初勝利のお祝いの件だ』

 

「どうなりましたか?」

 

先ほど述べたメイクデビュー勝利の時に話した件で、

お父様が何かお祝いを考えておくと言っていたのだ。

 

オープンに上がったらとかわしていたけど、実際に上がってしまったので、

もはや断れる状況にない。諦めて受け入れる。

 

『少し早いがクリスマスも兼ねて、とりあえずは記念のクオカードを300枚ほど作ったから、

 ファンクラブのほうに送っておいた。確かそのくらいの人数だったね?』

 

「えっと、私のサイン入りの会員証を持ってる人数なら、そうですね」

 

ってか、クオカード? 300枚?

さらっとすごいこと言ってないかこのお方。

 

『おや、しまった、もっと多かったのかね』

 

「ええと、初期の限定メンバーが300人で、そのあとも増え続けてます」

 

『そうかね。では今回の記念カードはもっと作るとしようか。

 差し当たって1000枚くらいで足りそうかね?』

 

「えっと……はい、充分です」

 

『わかった、ではそうしよう』

 

「……」

 

しかも、“今回は”とかさらに言い出しましたよ。

1000枚だって? 桁が大きすぎて、答えに窮してしまったじゃないか。

 

ファンクラブの合計人数はそれよりも多いけど、

正確に言うと全員分作ろうとか言い出しかねないので、やめておいた。

 

うん、あとはもう、商店街のおっちゃんに投げつけよう。

そうだ、それがいい。向こうでよい活用法を考えてくれるだろう。

なんか考えることすら疲れちゃったよ……

 

もちろん費用はシンボリ家持ちなんだろうね。

これもあってか、俺は考えるのをやめた。

 

 

 

 

 

 

スターオーちゃんからも、お祝い電話がかかってきた。

 

『リアン先輩、葉牡丹賞見てました!

 出遅れたのに、それもバ場が悪くて勝っちゃうなんてすごいです』

 

「ありがと」

 

テンション高め、声も高めのスターオーちゃん。

 

ちょ、どうどう、抑えて抑えて。

無理に立ち上がったりしてないよね?

怪我した足に負担かかっちゃうぞ。

 

『そうだ、足は大丈夫ですか? 怪我してませんか?』

 

「大丈夫だよ」

 

『よかったです。……先輩に先越されちゃいましたね』

 

「スターオーちゃん、わかってるとは思うけど、焦りは禁物だよ?

 骨を2回折った先輩からのありがた~いアドバイスだ」

 

『ふふ、わかってます』

 

そんな彼女の声が急に低くなったので、念を入れて忠告しておく。

俺の気持ちは伝わったらしく、スターオーちゃんはおかしそうに笑ってくれた。

 

『私もこういうのには慣れてますから大丈夫です。

 最近は調子が良かったので、ちょっと張り切りすぎちゃいましたね』

 

そういえば、もともと身体は強くないって言ってたもんな。

 

君こそ、くれぐれも気をつけてな。

俺がもう1回故障したところで、歴史には大した影響なんてないと思うけど、

スターオーちゃんが消えたりしたら、どんな修正力が働くかわからん。

 

『それに、もうすぐ復帰できる見込みなんです。

 2月くらいにはレースにも出られそうですよ』

 

「そっか、よかった。クラシックには間に合うね」

 

『はい。皐月賞、一緒に走りたいです』

 

「皐月賞、ねぇ」

 

いやいや、俺なんかがとんでもない。

君がクラシック制覇するところを、テレビででも眺めてますよ。

 

『G1出走も先輩のほうが早そうですね。

 ホープフル、出るんでしょう?』

 

「いや、たぶん出ないと思うよ。相談はまだだけど」

 

『そうなんですか? どうして? チャンスだと思いますよ?

 メリーナイスさんとホクトヘリオスさんは朝日杯ですし、

 他にこれといった有力な人は出てこないと思います』

 

さすが同世代に詳しいな。

でも今は無理できないんだ。

 

「今はまだ、間隔詰めてレース走る気はないからさ。

 勝負服も作ってないし」

 

『そうですか、残念です。先輩なら勝てそうなのになあ』

 

心底残念そうなスターオーちゃん。

 

だから俺はただのモブなんですってば。

過度な期待はしないでくださいってばぁ(困惑)。

 

スターオーちゃん、後輩だからって、

いつもいつも先輩を立てなくたっていいんだからね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回の『ファミーユリアンちゃんについて語るスレ』のコーナー

 

 

 

(次走発表)

 

:葉牡丹賞か

 

:まあ妥当なところでない?

 

:同じ芝2000か

 

:順調なステップですね

 

:これを勝てれば、ホープフルもワンチャン?

 

:ワンチャンどころか、出てくれば有力じゃね?

 

:うん、出てくれば俺は本命にする

 

:あのタイムを見て、本命にしないやつがいるか?

 

:他のメイクデビューと3秒、いや4秒違うもんな

 

:改めてデビュー戦のすごさを実感してる

 

:前にも出てたけど、ルドルフの皐月と同タイム

 シービーの秋天ですら1分59秒3だからな

 わずかコンマ1の差でしかない

 

:あのシービーと接戦になるんだ

 ジュニア級の小娘どもじゃ文字通り影すら踏めんよ

 

:まあ勝ってからの話だな

 

:こうやって皆とわいわい語り合うのが楽しいんだ

 

 

 

 

(葉牡丹賞、リアルタイム視聴組の反応)

 

:さあさあ2戦目ですよ!

 

:直前の大雨がどう出るか

 

:小柄なだけに、パワーのいるバ場は向かないだろうから、

 一抹の不安はある

 

:いったれリアンちゃん!

 

:道悪なんてぶっ飛ばせ!

 

:よっしゃ好反応! って、あああああ!

 

:げえええええ!!!

 

:ぎゃあああ滑ったぁ!

 

:出遅れ……

 

:よく転ばなかったな。でもこれは痛いぞ

 

:大外回らされてる

 

:かなりの距離ロスだ。これはダメかも……

 

:諦めるな!

 

:そうだ! リアンちゃんは2度の骨折にも諦めなかったんだぞ。

 俺たちが先に諦めてどうする!

 

:デビュー戦、1人だけ2400m戦やってたことを忘れるな

 外回らされるくらいなんだ

 

:4角やっぱりみんな外へ行くか。

 って、3番手? どこから来た!?

 

:( ゚д゚)

 

:ワープした!?

 

:いええええええええええええ!

 

:2勝目フーッ!

 

:キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

 

:すげぇ、すげえよリアンちゃん!

 

:初戦もすごかったが、今日のほうがすごくないか

 

:出遅れて最後方からワープして勝つとか

 

:リアンちゃん、超能力者だった?

 

:逃げだけじゃないって証明したな

 

:そりゃあ『逃げて差す』ですしおすし

 

:あの末脚なら、後ろからでも差し切れるってわけか

 

:この道悪で差し切れるのって相当よ

 

:だな。3倍マシでもいいかもしれん

 

:道悪も苦にしないのか

 

:死角が減っていいね

 

:リアンちゃん真っ黒

 

:ひでぇ汚れだ。洗濯して落ちるのかあれ

 

:それだけバ場酷かったってことだな

 

:イン突いたのが英断だったってこともな

 

:なんにせよ、この2戦を見た限りでは、怪物級のパフォーマンスだ

 来年のクラシックが楽しみになった

 

 

 

(レース後、夜)

 

:おい皆、これ……

 

 快勝のファミーユリアン、レース後医務室へ。故障か?

 https://www.umamusumenews.com/********

 

:え? マジで?

 

:そんな、ウソだと言ってよリアンちゃん!

 

:口どり式にも出てたじゃないか!

 そんな素振り微塵もなかったぞ!?

 

:ま、まあ待てみんな、落ち着け。落ち着いて素数を数えるんだ。

 まだ1社が報じただけ……って、各社一斉に来てる!?

 

:医務室へ行ったのは確かっぽいな……

 

:いやあああ!

 

:3度目の故障とか

 

:\(^o^)/オワタ

 

 

 

:公式ブログきた!

 

 お騒がせしてしまっているようで申し訳ございません。

 医務室へ行ったのは事実ですが、念のために診てもらっただけであり、

 現時点では自覚症状はありませんし、異常も見受けられない、との診断でした。

 さすがに疲れは感じますが、元気はいっぱいです!

 次もがんばるぞい!   〇〇年12月 FamilleLien

 

 ひと安心!

 

:よかったー!

 

:何事もなくて何より

 

:マジで更新乙

 

:反応早くて助かる

 

:よぉし、皐月賞の本命は決まった!

 

:┐(´∀`)┌ヤレヤレだぜ。本当に良かった

 

:くれぐれも身体労わってねリアンちゃん

 

 

 

(ファンクラブ、クリスマスプレゼント企画発表)

 

:ファンクラブでクリスマスプレゼント!?

 

:初期メン300人に、初勝利記念クオカード配布、だと!?

 

:しかも会員証と同様、リアンちゃんの直筆サイン入りだって!

 

:なんてこった

 

:俺は今まで、ここまで他人を羨ましいと思ったことはない

 

:ホシィ……

 

:おい297番! 297番はいないのか!?

 

:わい297番、呼んだか?

 

:生きていたかワレェ!

 

:最近見ないからどうしたのかと思ってたよ

 

:すまんかった。ずっと忙しくてな。ROMってた

 

:297番さん、この企画の通知とか来てます?

 

:メールで来てたぞ

 これまでのご愛顧と応援のお礼とクリスマスプレゼントを兼ねて、

 ささやかですがお返しをいたします、って文面だった

 

:くぅ~っ、いいなあ

 

:届いたら画像うpしてくれな

 

:一般会員には何かないのかぁ!

 

:と思ったら続報来てるじゃん

 

 なお追加企画として、葉牡丹賞勝利を祝しまして、

 初期メンバー300名に今回と同様、葉牡丹賞仕様の直筆サイン入りクオカードをプレゼント。

 ほか会員様700名にもプレゼントしちゃいます。応募者多数の場合は抽選となります。

 

 だってよ! やったなみんな!

 

:入っててよかったファンクラブ!

 

:抽選か……

 

:全員応募するとは限らんが、絶対抽選になるだろ

 

:いま会員何人いるのよ?

 

:6000人超えてる

 

:結構当たりそう?

 

:7/60か。高いと見るか低いと見るか

 

:欲しいやつは今からでも遅くはない、入会するんだ

 応募条件は12月末時点での登録会員様、だからな

 

:こんなことして、リアンちゃん大丈夫?

 寄付するお金なくなっちゃわない?

 

:このくらいではなくならんだろ

 

:下世話な話はやめるんだ

 

 

 




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道悪な皐月賞  → ミスターシービー
出遅れな皐月賞 → ディープインパクト
後方からのレース → 上記両馬

結論
どちらも超怪物

ファミーユリアン → ???

仮にリアンが海外遠征する場合、初戦は何が良いですか?

  • ドバイワールドカップ
  • ドバイシーマクラシック
  • ガネー賞(仏)
  • クイーンエリザベス2世カップ(香港)
  • アメリカ遠征
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