転生孤児ウマ娘の奮闘記   作:しょうわ56

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第45話 底辺モブ娘、最高の舞台へ(後編)

 

 

 

 

今回の『ファミーユリアンちゃんについて語るスレ』のコーナー

 

 

 

(青葉賞リアルタイム視聴組の反応)

 

:ダービー出るには連対が必要

 しかし半年ぶりの実戦、脚部不安明け、初距離

 ここで連対できないとオープンから降格濃厚

 正念場だなリアンちゃん

 

:3番人気か、正直過剰じゃね?

 

:そうかな? 俺は妥当だと思うよ

 

:久しぶりでも落ち着いてるな、良い感じだ

 

:がんばってくれ、ダービーでリアンちゃん見たい!

 

:さて発走だ

 

:良いスタート!

 

:リアンちゃんスタート上手いよね

 

:前走は滑って出遅れたけど、反応自体は良かったからな

 

:スタート◎

 

:1人くっついてきてるな

 

:単騎にはならなかったか

 

:さあ直線

 

:引き離せ!

 

:引き離した!

 

:つええ

 

:相変わらずの伸び脚

 

:逃げて差す!

 

:初戦でも思ったけど、逃げウマ娘の末脚じゃないよなあ

 

:大・圧・勝!

 

:3連勝でG2制覇だ! ダービーも出られる!

 

:タイムwww2分25秒3www

 

:この距離を逃げて上がり34秒9www

 

:大草原ですわ

 

:ファーwwwルドルフのダービーレコードにコンマ3www

 

:信じられるか? この子の足、2回折れてるんだぜ?

 

:しかも、プレートとボルト入ってる

 

:これはひょっとして、ひょっとする?

 

:いや、こりゃ本番で1番人気確定じゃね?

 

:何を言うか、俺の大本命はもうとっくに決まってるぜ

 

 

 

(ダービー前記者会見中継)

 

:1番の強敵はマティリアルか?

 

:たぶん

 

:席次にも表れてるな

 

:あっ

 

:マイクwww

 

:リアンちゃん、何事もなかったかのように答えてるけど、

 マイク落としそうになっただろw

 

:内心は冷や汗ダラダラかな

 

:ポーカーフェイスw

 

:2400勝ってるのリアンちゃんだけなのか

 

:嘘だ、絶対1番枠狙ってた

 

:1番とは言わずとも、内側は狙ってただろうな

 

:堂々の逃げ宣言!

 

:逃げ切りってそんなに少ないんか

 

:現状、ダービー逃げ切ったのは9人しかおらん

 50年以上の歴史でたった9人だけや

 

:データ班調査乙

 予想以上に少なかった

 

:ちなみに名前挙げてもらうことはできる?

 

:URA発足以前からも含めると、ワカタカ、フレーモア、オートキツ、

 ダイゴホマレ、メイズイ、キーストン、タニノハローモア、そして

 会見でも名前が出たカブラヤオーとカツトップエース。以上9人や

 

:サンクス

 

:悲報、青葉賞組ダービー未勝利

 

:げえ、マジか

 

:連対もない

 

:言うてまだ歴史の浅いレースやしな

 

:リアンちゃん困惑しとる

 

:なんやこの記者、要らん事言うなや

 

:まあお仕事だし仕方ない

 

:よう言うた! それでこそ男や

 

:女の子やぞ

 

:ウマ娘やぞ

 

:真面目な話、破ってこそのジンクス

 期待してるぜリアンちゃん!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダービー前夜。

例のごとく、早めに寝ようと布団へ入ろうとしたら

 

 ~♪

 

携帯が着信を奏でた。

こんな時間に誰だと思ったら、シリウスからのメッセだった。

 

相変わらず空気読まない俺様だなあと思いつつ、開封する。

 

『私に肩を並べられるかな?』

 

内容まで俺様だった。

あいつなりの不器用な励ましだってのはわかるけどさ。

 

とはいえ、あいつは曲がりなりにもダービー、菊花賞の二冠バ。

そして、去年の天皇賞も制しているから、競走成績ではG1・3勝の明らかな超格上。

例えダービーを勝てたところで、肩を並べられるとは思えんのだが。

 

まあ少なくとも、『ダービーウマ娘』って同じ肩書は名乗れるか。

 

既読スルーはさすがにかわいそうだな。

返信、『首を洗って待ってなさい』。

 

その返信はすぐに来た。

 

『良い度胸だ。心配して損したぜ』

 

ふん、余計なお世話だっつーの。おまえは宝塚出るんだろ。

他人にちょっかい出してないで、最近勝ててないんだし、そっちの調整優先しろ。

 

「電気消すぞ?」

 

「あ、お願い。ありがと」

 

シリウスのある意味いつも通りな行動で、良い感じにリラックスできたところで、

気を遣ってくれたルドルフが部屋の明かりを消してくれた。

 

「おやすみ、リアン」

 

「おやすみ、ルナ」

 

暗くなって、ルドルフが布団に入るのを見届け――

 

「リアン、今日も添い寝しようか?」

 

「――ぶっ!?」

 

ルドルフからの突然の提案に、噴き出してしまった。

こいつ、急に何てこと言いやがる。

 

「げほっ……だ、大丈夫、だと思う、今日は」

 

「そうか、ならいいんだ」

 

ルドルフの声が優しい。決してからかっているというわけじゃなく、

こいつも気を遣ってくれてるんだろうな。

 

突然すぎて断ってしまったが……惜しいことしたかな。

ルドルフのぬくもりと匂いは、精神的に効く。

 

「改めて、おやすみ」

 

「おやすみぃ」

 

再びあいさつを交わして、横になった。

……うん、大丈夫だ。変な昂りも興奮もない。

気持ちよく寝られそうだ。

 

その予想は正しく、翌朝、決戦の朝の目覚めも爽快だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『1番ファミーユリアン、僅差ですが2番人気です』

 

パドックに出て行くと、さっそくアナウンスで今日の人気が伝えられた。

 

日本一の舞台で2番人気になるなんてね。

もちろん悔しさなんかないよ。むしろ上出来すぎて驚きしかない。

 

そうそう、今日が俺の勝負服の初お披露目だな。

さあみんな、存分に見てくれ!

 

 

【挿絵表示】

 

 

スーちゃんから譲ってもらった大事な勝負服。

さすがにそのままというわけには、サイズ的にも、

残念ながらデザイン的にも行かなかった。

 

上はほぼそのまま流用し、俺の身体に合うように直してもらった。

元が首元と肩が丸出しで寒そうだったんで、

小さな赤いリボンをワンポイントにしたケープを着用。

 

下は全面的に作り直した。

 

というのも、スーちゃん仕様ではロングの袴だったんだけど、

俺としては、走るのに長い裾はどうしても気になってしまってね。

本人の意向が最優先だっていうスーちゃんにお許しをもらって、

上と合うような様相の和風ミニスカートを新調した。

 

帯は流用して、黒ニーソと靴もそのまま。

いや、スーちゃんがどうなのかわからないけど、

いくら何でも下駄じゃ走れないってば。

 

そういや、スケート靴なんて猛者もいたな。

あれ実装時には絶対変更されるだろ。 *変更されました

 

『本日初披露の勝負服は、担当トレーナーである

 スピードシンボリ師より譲られた物だそうです』

 

『そうですか、なるほど、道理で見覚えがあるはずですよ』

 

解説者の人、何年前からレース見てるんだ?

スーちゃんの現役時代を知ってる?

 

『ダービーの舞台でも堂々としていますね。

 わずか4戦目とは思えません。期待できそうです』

 

アナウンスをさらりと流しつつ、客席を見渡すと……あった。

 

いつものファンクラブの横断幕。

何も変わっていないが、今日はいつにも増して大きく、輝いて見える。

 

G1出走者には、URAの計らいで、家族などを特別に招待できる権利がある。

入場料や現地までの交通費が無料になるほか、貴賓席での観戦など、様々な特典が付くんだ。

 

もちろん俺も利用しない手はない。

だが、ご存知の通り俺には家族はいないので、

必然的に、招待するなら孤児院の人たちになる。

 

ちょっと人数多くなりそうなんですが大丈夫ですかって、

URAと孤児院側に相談してみたところ、院長と子供たちはこの招待枠で

入場してもらうことになり、他の職員さんたちは、

特別な入場枠を設けてもらって、応援に来てもらうことになった。

 

一般客は入場制限がかかるわけだから、入れるだけでもというわけ。

貴賓席と一般席では月とスッポンだし、人がごった返すわけだから、

職員さんたちには少し申し訳ないが、これで勘弁してください。

 

彼らもこの中にいるのかな? ちょっと見つけるのは無理そうだ。

院長たちも、この人だかりでは、貴賓席から動けないかもしれない。

 

横断幕があるってことは、ファンクラブの人たちも来ているってことだよな。

最低でも、入場の抽選に当たった人がいるってことで、

そして、わざわざ見にきてくれたということになる。

 

大変ありがたく思う。

 

彼らの期待に応えるためにも、そして何より、

スターオーちゃんを裏切らないよう、必勝を期したい。

今日だけは何が何でも勝つ。

 

よーし気合も闘志も十分だ。

みんな、見ててくれよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1番人気、マティリアル。

2番人気、ファミーユリアン。

3番人気、タイコベータ。

4番人気、メリーナイス。

 

発走直前の人気である。

1、2番人気の差はごくわずかで、皐月賞でも1番人気を背負った

人気者と僅差というのは、人々のリアンへの期待の表れと言えよう。

 

『さあ第54回日本ダービー、発走時刻が迫りました。

 この晴れやかな青空と緑のターフをご覧ください。

 今年のダービーは最高のコンディションで行われます』

 

場内の熱気をよそに、実況の冷静なアナウンスが響く。

観客たちの視線は、正面スタンド前にて、

ゲート入りの招集を待っている18人のウマ娘たちに釘付けだった。

 

『皐月賞ウマ娘サクラスターオーが故障で不在の中、

 1番人気に推されたのは皐月賞2着のマティリアル。

 スターオーがいないときに負けるわけにはいかないでしょう。

 その豪脚が炸裂することに期待です』

 

『彼女に次ぐ2番人気は、青葉賞を勝って本番に臨むファミーユリアン。

 同舞台を見事に逃げきって、有力候補に名乗りを挙げました。

 わずか4戦目にして栄光を手にするのでしょうか。

 堂々の逃げ宣言をしていますが、はたして?』

 

『3番人気は――』

 

その一方で、とある貴賓室の中の一室では、

18人の中でも、ただ1人のみにしか注目していない一団がいる。

 

おわかりであろう。

リアンに招待された、かの孤児院の一行だ。

 

「今日リアンねーちゃんが出るレースって、

 日本で1番なんだよね?」

 

「そうよ。ダービーっていって、日本最高のレースなのよ」

 

「そんなレースに出てるリアンねーちゃん、すげーよな!」

 

「うん、すごい!」

 

「前もぶっちぎりで勝ってくれたし、今日もぶっちぎりだよ!」

 

「ああ!」

 

「………」

 

子供たちにも、これが日本最高峰のレースだとわかっているようだ。

バルコニーに身を乗り出して興奮している様子を、院長は目を細めて見守っている。

 

(リアンちゃん)

 

院長の視線が、スタンド前のターフ上、ゲート後方にて、

準備運動をしているリアンの姿を捉える。

 

(絶対成功するって信じていたけど、まさかここまで……)

 

公言してはいたが、レース素人の自分でも知っているくらいの、

大レースも大レースに出走するまでになってくれるとは、正直思っていなかった。

勝利を挙げてくれただけでも大感激なのに、G1、それも最高の舞台に立ってくれるとは。

 

しかも、こうして招待までされてしまうとは、うれしい悲鳴とはこのことか。

 

(……いやだわ。まだ発走前だっていうのに、視界が……)

 

スタンド上階からでは、ただでさえ小柄なリアンがより小さくしか見えない。

だが、今だけはそれ以上に大きく見えた。

 

思わず涙腺が緩んでしまい、子供たちに気付かれぬよう、

そっとハンカチを取り出して目元をぬぐった。

 

(私たちのことは気にせず、最高の舞台を楽しんでらっしゃい)

 

気を取り直し、改めて応援の念を送る院長だった。

 

 

 ~♪~♪

 

 

発走時刻を迎え、ファンファーレが鳴り出すとともに、観客が手拍子を送る。

G1ではおなじみとなった毎度の光景。

 

1枠1番のリアンは真っ先にゲートへ収まった。

他バも順調に収まっていき、特に問題もなく、態勢は整う。

 

『全ウマ娘ゲートに収まりました。

 2400m先にある栄光を手にするのは果たしてどの子か。

 第54回日本ダービー、……スタートしました!

 さすが選ばれし優駿18人、きれいなスタートです、出遅れはありません』

 

さすが最高の舞台に集いし精鋭18人。

全員が揃ったスタートを切った。

 

『その中でも1番ファミーユリアン好スタート。

 逃げ宣言の通りハナを切ります。

 続いてトチノローラー、タイコベータで1コーナーを回ります』

 

逃げ宣言が功を奏したか、ハナ争いでリアンに絡んでいく子はいなかった。

バラけた状態で全バが1コーナーを駆け抜ける。

 

『2コーナーから向こう正面、2バ身のリードでファミーユリアン、

 敢然と先頭を行きます。2番手も変わらず7番トチノローラー追走』

 

『淡々と流れます第54回日本ダービーです』

 

『1番人気マティリアルは12、3番手の後方に位置しています』

 

『大欅を過ぎて差がやや詰まったか。トチノローラーが1バ身ほどに接近。

 3番手はタイコベータです。以降はバラけました。縦長になっています』

 

向こう正面に入り、全体が落ち着いた。

2番手を走るトチノローラーが徐々に差を詰めて、差はほとんどなくなって3コーナーに入る。

 

『4コーナーへ向かうファミーユリアン、依然先頭だが、

 トチノローラーぴったりついた。手ごたえはどうなんだ?

 今日もここから伸びるのかファミーユリアン? 青葉賞の再現なるか!?』

 

『さあ直線を向いた! 来た来たぁ、ファミーユリアンいつもの前傾走法!

 2番手以下を引き離しにかかる! 伸びるぞ、さらに伸びる!』

 

直線に入り、リアンがすでに認知されつつある前傾走法に移行した。

目に見えて伸びているのが分かり、後続との差が開いていく。

 

『残り200m! ファミーユリアンもはや独走!

 2番手にはメリーナイスが上がってきたが、これはもはや届きそうにない。

 その後ろはさらに離れた』

 

『差が開いた開いた! 5バ身、6バ身、まだ開く!

 ファミーユリアン大きく逃げた。どこまで逃げれば気が済むんだ!?』

 

リアンが1人だけ坂を駆け上がったころに、2番手にメリーナイスが浮上。

しかし時すでに遅く、すでに先頭との差は絶望的だった。

3番手以降は、メリーナイスからさらに数バ身は離れている。

 

『ファミーユリアン、他バをまったく寄せ付けずに圧勝でゴールインっ!

 青葉賞に続いて、2400mを悠々と逃げ切って見せました。

 2400逃げ切るとはこういうことだ、ファミーユリアンです!』

 

もちろん大勢は変わらず、リアンが逃げ切って優勝。

遅れて2番手はメリーナイスが入り、3着とはさらに6バ身の差が付いた。

 

『勝ち時計は2分24秒7、2分24秒7です。

 あの皇帝シンボリルドルフが記録したダービーレコードをコンマ3秒縮めました。

 さらには第1回ジャパンカップでアメリカのメアジードーツが作った、

 2400mの日本レコードをもまとめて更新しています。恐ろしいウマ娘です!』

 

『上がり3ハロンは34秒4、4ハロンは46秒7。

 孤児院出身のウマ娘が、最高の栄誉を掴み取りましたぁっ!!』

 

大歓声が上がる観客席。

 

ゴールした瞬間、掲示板に番号とタイムが表示された瞬間、

レコードという赤い文字が示された瞬間、それぞれのタイミングでの声が重なって、

まるで声のウェーブでも来ているかのよう。

 

『タイムも驚きですが、ご覧ください。着差なんと9バ身!

 これは、ええと、すいません少々お待ちを……いま番組で調べて……

 判明しました。これはダービー史上最大着差です。第10回セントライト、

 第22回オートキツの8バ身を抜いて、ダービーでの最大着差となります』

 

『そしてファミーユリアン、わずか4戦目でダービー制覇。

 URA発足以降では最少キャリアでの優勝です。

 いまレース界の常識が覆されました。なんということでしょうか』

 

『おまけに、青葉賞出走組としては、初のダービー制覇です。

 ファミーユリアンのダービーは、まさに記録づくめの勝利となりました!』

 

ダービーレコード、日本レコード、ダービー史上最大着差、最少キャリアでの優勝。

おまけに、青葉賞から初のダービーウマ娘の誕生。

これでもかというくらいに新記録が付いて回る、歴史的な勝利となった。

 

『ファミーユリアンがスタンド前に戻ってきました。

 右手を掲げています。この大歓声、手を振って応えています。

 ファミーユリアンです!』

 

スタンド前に戻ってきたリアンは、観客からの大歓声に迎えられる。

手を振って応えていたリアンは、客席に向かってぺこりと大きく頭を下げた。

 

「リ・ア・ン! リ・ア・ン!」

 

「……リ・ア・ン! リ・ア・ン!」

 

「リ・ア・ン! リ・ア・ンっ!!」

 

それを受けて、誰が始めたか、とあるところからリアンコールが始まった。

たちまちのうちに大人数に飛び火していき

 

 

『リ・ア・ンっ! リ・ア・ンっ!』

 

 

ついには、観衆全体を巻き込む大合唱となってしまう。

さすがに戸惑っていたリアンだが、両手を振ってしばらく観客に応えた後、

迎えに来た係員に連れられて、地下バ道へと下がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ビックリした。

 

なんでここでリアンコールが起きちゃうんだよ。

ダービーで勝てたことよりも、そっちのほうが驚きだわ。

 

中野元騎手も、アイネスフウジンも目を丸くしていると思う。

 

それにしても、勝つ気は満々だったが、本当に勝ってしまったな。

実感なんて全然ない。

むしろ、これが現実なのか、夢の中なのか、判断できないくらいふわふわしてる。

 

……え? ふわふわと聞いて?

いや、アヤベさんの出番もまだまだですんで、座っててください。

 

「リアンちゃんっ!」

 

「あ……」

 

地下バ道に引き上げてきて、ちょっと落ち着けるかと思ったところで、

スーちゃんがすごい勢いでこっちに駆け寄ってくる。

現役時代かと見間違うほどの俊足だった。

 

「おめでとうっ!」

 

「むぎゅっ」

 

と思ったら、勢いそのままに抱き着かれて、情熱的に抱き締められた。

 

「ダービーよ! ダービーで勝ったのよ私たち!」

 

「そ、そうですね」

 

「やったわね! あははっ!」

 

そして、2度3度と振り回される。

普段クールなスーちゃんがこんなに喜びを爆発させて、はしゃぐなんてなあ。

やっぱりダービーは特別なんだと思わされる。

 

スーちゃんは大レースこそ勝って、年度代表ウマ娘にもなっているけど、

ダービーは勝てなかったからね。

トレーナーになったからには、どこかで今度こそダービーを、と思っていたのだろう。

 

でも、自身の孫娘が勝ったときよりも喜んでない?

 

「ダービー制覇! うふふふ!」

 

「あ、あの、うれしいのはわかりましたから、

 そろそろ放してもらえると……映ってますよ」

 

「はっ!? ご、ごめんね。おほほほ……」

 

俺から言われて、ようやく我に返ったのか、俺を放したスーちゃん。

周りをマスコミ関係に囲まれて、写真や映像をバッチリ撮られていることにも気づいたのか、

慌てて取り繕い始めるが時すでに遅し。

 

大丈夫だよスーちゃん。

名門出身のお嬢で、どこか固くてとっつきにくいってイメージが先行してると思うけど、

今の姿を見てもらえれば、ファンの人にも本当の人柄をわかってもらえるよ。

 

よかったねスーちゃん!(他人事

 

「勝利ウマ娘インタビュー、よろしいでしょうか?」

 

「あ、はい」

 

レースが確定したところで、メインの放送局からインタビューの依頼が来た。

軽く身だしなみを整えて、カメラの前へ。

 

その途中、関係者の中に、何か言いたそうにちょろちょろしている

乙名史さんを見つけたので、目が合った瞬間にウインクしてあげた。

 

“またあとでね”

 

引き続き密着取材は受けてるんだからさ。

あとで必ず機会はありますし、作りますから。

 

すると意図が伝わったのか、安堵した顔で頷いてくれた。

 

「えー放送席放送席、見事レコードでダービーを制しました、

 ファミーユリアンさんにお越しいただきました。おめでとうございます」

 

「ありがとうございます」

 

勝利インタビューを受けるのもこれが初めてだ。

あ、この人どこかで見たことある。

と思ったら、お台場局の某有名アナウンサーさんだった。

 

「良いスタートから先頭に立ちました。道中はいかがでしたか?」

 

「はい、想定したとおりに走れました」

 

「逃げ宣言をされていた通りの展開となりましたが、

 ご自身で想定されていたものと変わりありませんでしたか?」

 

「そうですね」

 

「後ろに1人ついてきていましたが、意識はされましたか?」

 

「いえ、特には。自分のレースをするだけだと思っていたので」

 

「直線を向いてからは、前走同様、圧巻の走りでしたね」

 

「ありがとうございます。がんばりました」

 

「2分24秒7のダービーレコードにして日本レコード、

 ダービー史上最大着差の9バ身という結果に対しては、いかがでしょう?」

 

「はい、あの~……一生懸命走った結果ですので、単純にうれしいです、はい」

 

レコードだの最大着差だの言われても、他に答えようがない。

終わったばかりで、実感もあんまりないしさ。

 

きっともうちょっと時間がたったときに、

レース史上に残る大偉業を成し遂げたんだよって言われて、

ふおおお、って悶えることになるんだと思います。

 

「この勝利を、誰に1番伝えたいですか?」

 

「ええと、孤児院のみんなに。というか見に来ているので、

 みんなもう知ってると思います」

 

「なんてお伝えしますか?」

 

「ん~、月並みですが、やりました勝ちました! と言うと思います」

 

「記録づくめで聞きたいことが山ほどあるんですが、

 申し訳ありません、時間の関係で最後に――」

 

「すいません最後というなら、私から一言いいですか」

 

「え、あ、はい、どうぞ」

 

最後という単語を聞いて、強引に話の主導権を奪った。

レース前から、勝ったらインタビューを受けるだろうから、

そのときにどうしても言いたいことがあるって思ってたんだ。

 

テレビ側で聞きたいこともあるんだってわかりますけど、

こっちもこれだけは譲れないんで、申し訳ないですけど許してください。

 

あとでなら、もっと取材受けますから。

 

「サクラスターオーさんへ」

 

「……!」

 

スターオーちゃんの名前を出した瞬間、

周りの人たちすべてが、ギョッとしたのを感じた。

それでも構わず、言いたいことをカメラの向こうへ言う。

 

「見ててくれましたか? 約束守りましたよ。

 だからあなたも約束守ってくださいね」

 

またしても皐月賞のときのルドルフと同じことしてるな~と思いつつ、

いや、実名出しちゃってる分、俺のほうがタチ悪いわな。

 

パッションの赴くまま、勝ったハイテンションそのままに、

俺はカメラに向かって拳を突き出した。

 

「秋に京都で会いましょう!」

 

俺たちの関係を知らない人たちがどう受け止めたのかはわからないけど、

俺にははっきりと、『はい、必ず!』って頷くスターオーちゃんが見えた。

 

 

 

第54回 東京優駿 結果

 

1着  1 ファミーユリアン  2:24.7R

2着  8 メリーナイス      9

3着  2 レイニースワン     6

 

12.3-11.5-12.2-12.1-12.0-12.6-12.6-12.7-12.3-11.7-11.3-11.4 2:24.7

1000m通過60.1 1000~2000m 61.9

2000m通過2:02.0

4F 46.7 - 3F 34.4




ダービーウマ娘リアン爆誕!



メリーナイス
「ファミーユリアン被害者の会を立ち上げたいと思います。
 とりあえずキョウカイシップさん(青葉賞2着)を勧誘します」

仮にリアンが海外遠征する場合、初戦は何が良いですか?

  • ドバイワールドカップ
  • ドバイシーマクラシック
  • ガネー賞(仏)
  • クイーンエリザベス2世カップ(香港)
  • アメリカ遠征
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