転生孤児ウマ娘の奮闘記   作:しょうわ56

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第47話 孤児ウマ娘、大きくなる

 

 

 

7月。

 

ダービーウマ娘として迎える夏休みを前にして、

出身の孤児院に里帰りしてみることにした。

 

学園に入学した年に1度帰ったきりだったし、

G1を、それもダービーなんて勝ってしまった手前、

この先は外出するのがもっと大変になってしまいそうだし、

院長にも1回帰ってらっしゃいって言われたこともある。

 

よって、夏休みの合宿前の土曜日に、“帰省”することにしたのだ。

 

電車とバスを乗り継いで、孤児院へ。

途中、子供たちへのお土産に、お菓子とおもちゃをたんまりと買い込んだら、

かなりの大荷物になってしまって一苦労。

 

他にも、思うところがあってわりかし大きな荷物を持ってきているし、

真面目にタクシー使えばよかったかと後悔し始めてる。

 

それに、ただでさえクソ暑い中を、

正体がばれないように変装しているものだから、汗だくである。

 

帽子はまだしも(もちろん普通の人間用の帽子で、耳を隠している)、

尻尾をズボンの中に入れるというのは、相当暑苦しい。

 

前世的には、なくて当然だったものがあるという、不思議な感覚。

最初のころは違和感バリバリだったが、逆にもうあるのが自然になっているのだから、

慣れというのは恐ろしいものだよね。

 

というわけで、孤児院に到着。

だいたいの時間は伝えてあるので、待ってくれているはずだ。

 

「おかえりなさい、リアンちゃん」

 

「ただいまです」

 

呼び鈴を鳴らすと、すぐに院長が扉を開けてくれる。

自然に『おかえり』と言われてしまったので、こっちもただいまと言うしかなくなった。

気恥ずかしいとかいう以前の問題だった。

 

「暑かったでしょう。ささ、中に入って」

 

「はい。あ、これお土産です。子供たちにあげてください」

 

「まあ、わざわざありがとね」

 

山のような荷物を差し出して、一緒に出迎えてくれた職員さんに渡す。

足りなくはないよな? 一応、人数分は買ってきたはずだけど。

 

「少し大きくなった?」

 

「どうですかね? 4月に測ったときは、143でしたけど」

 

「リアンねーちゃんっ!」

 

「っと」

 

中に入ると、その子供たちからも早速のお出迎えだ。

数人が駆け寄ってきて、抱き着いてくる。

 

「ダービー、すごかったよ!」

 

「つよかったね!」

 

「応援ありがとね」

 

「えへへ♪」

 

頭を撫でてあげると、へにゃっと微笑んでくれる。

かわいい。天使。

 

「こらこら、気持ちはわかるけど、こんなところじゃなんだから、

 暑いんだし早くお部屋へ行きましょう」

 

「はーい」

 

院長の言葉に従って、子供たちは我先にと駆け出していく。

俺に1番懐いている子だけは離れてくれなくて、そのまま歩いていくことになり、

院長も俺も苦笑するしかなかった。

 

「……おおっ」

 

そして、リビングルーム的な大部屋に入った瞬間、思わず声を上げてしまった。

というのも

 

「綺麗になってる!」

 

部屋が、新築物件かと思わされるくらいに、綺麗になっていたからだ。

壁紙は新しくなってるし、フローリングの床もピカピカ、

置かれているテーブルや椅子、サイドボードなどの家具類も新調されている。

 

最後に来たときは、俺がいたときと変わらずボロかったのに、

これはいったい?

 

「ふふ、驚いた?」

 

目を丸くしている俺に、院長が微笑みながら言ってくる。

 

()()()()からまとまったお金を寄付してもらえたから、

 思い切って、リフォームしたのよ」

 

「そうなんですか」

 

子供たちがいる手前、生々しい話は避けて院長が説明する。

 

無論、彼女が言う親切な方とは俺のことだ。

2戦目の賞金もそのまま寄付したから、かなりの金額であることは間違いない。

 

ありがたく思いすぎてしまったり、もったいないと思ったりで、

下手すると使ってくれないかもという危惧もあったんだが、

どうやら杞憂に終わってくれたみたいだ。

 

「キッチンも新しくしたの。見る?」

 

「見ます見ます!」

 

ほお、あの昭和の、それも中期頃のなんじゃないかと思うくらいの

ボロさと汚さだったキッチンも直したんですか? どれどれ?

 

「お~」

 

再び声が出た。

だって本当に見違えたんだもん。

 

すげぇ、食洗器と乾燥機もあるじゃないか。おおっ、オーブンまで。

逆に職員さんたちのほうが貧乏性に陥っていそうな環境だったが、

結構豪快にお金を使ってもらえたようだ。

 

大いに本望である。結構結構。

 

「子供たちのお部屋にもね、エアコンを完備できたの」

 

おおお、リビングにしかなかったエアコンが、各部屋にも。

 

これで寝苦しい熱帯夜ともおさらばだね。

本当に、扇風機だけで凌ぐのはきつかったな。

この夏は快適に過ごせますね。

 

「それもこれも、すべては()()()()のおかげよ。

 感謝してもしきれないわ」

 

「本当にそうですね。今後もあるかもしれませんよ」

 

「あら、リアンちゃんにそんなことがなんでわかるのかしら?」

 

「さあ、なんででしょうか」

 

青葉賞とダービーの賞金もありますのでね。

それこそ、前までとは桁が1個2個違うんだ。

 

「ありがたくはあるんだけど、でもね、リアンちゃん」

 

「なんです?」

 

「うちはもう十分だから、その方には、

 違うところにも目を向けてほしいなと思うの」

 

「違うところ?」

 

「ええ。貧しいところは他にもごまんとあるでしょう。

 その方には他にもできることがたくさんあるでしょうし、

 援助してもらっておいて生意気なことを言うようだけれど、

 うちだけに拘ってもらいたくはないの」

 

「他に、できること……」

 

確かに院長の言うとおり、お金がなくてひいこら言っている人たちは

他にも大勢いるだろうし、困っている施設も多くあろう。

 

他にもできること、なあ。

それはもちろん、お金の問題だけではない、ということですよね?

 

……難しいなあ。

メディアに露出の多いレース界だし、人気もあるし、

それもG1勝ちウマ娘ともなれば、その発信力は大きいか。

 

でも下手こくと炎上案件になりかねないしなあ。

難しい。実に難しい……

 

「わかりました。考えてみます」

 

「あらあら、どうしてリアンちゃんが考えるのかしら?」

 

「あ……そ、そうですね、何を言ってるんだか。すいません」

 

あぶね、せっかくのお芝居が台無しになることだった。

慌てて謝ると、院長は仕方のない子ねとばかりに苦笑している。

その笑みの裏側には、確かな期待があるようだ。

 

敵わないなあ、院長には。

トレセン学園受験の件といい、俺この人に一生頭が上がんない。

 

……あれ? 考えてみれば俺って、

周りにそういう人ばっかりじゃない?

 

どんだけ助けられてきてんだよ、俺ってば(汗)

 

「ねーちゃんねーちゃん!」

 

「院長先生も、むずかしいお話はもう終わった?」

 

「こっち来て遊ぼうぜ~」

 

ここで、俺たちの様子にしびれを切らした子供たちが騒ぎ始めた。

いけねぇ、子供たちほったらかしだったな。

 

「あーはいはい、いま行くよ~」

 

「リアンちゃんが買ってきてくれたお菓子があるから、

 一緒にお話ししながら食べましょうね」

 

「本当? やった~」

 

「喜ぶ前に、お礼を言いなさい?」

 

「リアンねーちゃん、ありがとうっ!」

 

「はいはい、どういたしまして」

 

やっぱり子供たちは天使だ。

かわいい笑顔を見ているだけで癒される。

気力もフルチャージされました。

 

合宿に向けた意気込みがマックスになったのはもちろんのこと、

今後の人生についても考えさせられる、実に意義深い帰省になった。

 

「それと、みんなにというか、ここで預かってほしいものがありまして」

 

「まあ、なにかしら?」

 

「これです」

 

そう言って、子供たち用とは別に持ってきていた荷物を開封。

 

「じゃん」

 

「これって、トロフィー?」

 

「はい、ダービーの優勝トロフィーです」

 

「まあ……」

 

「すっげー!」

 

「金ぴか!」

 

「かっこいい!」

 

出てきた代物に、院長は目を丸くして言葉を失い、

子供たちは総じて目を輝かせた。

 

「手元に置いておいてもしょうがないんで、

 ここで保管しておいてもらえないかと思いまして」

 

「構わないけど、いいの?

 こういうのは自分の手元に残しておきたいんじゃないの?」

 

「いえ、残しても意味はありませんから。

 押し付けてしまうようで悪いんですけれども」

 

「とんでもない。リアンちゃんの努力の結晶だもの。

 ここはリアンちゃんの家なんだし、喜んで引き受けさせていただくわ」

 

「じゃあ、よろしくお願いします」

 

「ええ」

 

院長にトロフィーを手渡す。

おそるおそる、まるで神々しいものでも受け取ったかの如くな院長の姿に、

少しジーンとしてしまった。

 

シリウスが勝った時にフライングで手にしたことのあるダービーのトロフィーだけど、

こうして自分が勝ち取ったものだと思うと、また違った感慨があるね。

 

「みんなの励みになるわ。

 1番目に着くところに飾っておきましょうね」

 

なんだか恥ずかしいけど、預かってもらう立場だから何も言えない。

祭壇に飾って拝みでもしそうな雰囲気である。

 

いや、それだけはやめてほしいかな~って。

 

それと、院長はああ言ってたけど、この孤児院に対する寄付はやめないよ。

前みたいな大金というわけではなく、少額でもいいから毎月送る。

 

レースで活躍できなきゃすべては水の泡だから、いっそう頑張らないとね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8月。

例によって、千葉のシンボリ牧場での合宿だ。

 

「合宿を始める前に、おさらいよ」

 

「はい」

 

コースへ出る前に、スーちゃんと合宿目的の確認。

 

「今合宿1番の目標は、菊花賞に向けてのスタミナ鍛錬よ」

 

「3000mを走り切れるスタミナ、ですね」

 

「そう。言うまでもなく菊花賞は長丁場よ。

 余裕で走り切れるくらいのスタミナをつけることが、まず第一」

 

ダービーの2400とは、比べるまでもない長距離。

まずは完走できるスタミナがないと話にならない。

 

「第二には、これまでもやってきているけど、

 一定のペースを保って走る練習と、菊花賞を勝つために、

 1度息を入れて再加速するという走り方の習得よ」

 

「再加速」

 

「そう。どうもあなたは、これまでのレースと記録を見る限り、

 一定のペースで淡々と走るのは得意だけど、

 ペースを変化させることは不得意、というか慣れていない感じがあるのよね」

 

確かに、一定のペースで走るってことは得意だ。

練習を始めてすぐにできるようになったしな。

 

前世で、単純作業の繰り返し、なんて仕事してたからかな?

 

「菊花賞を逃げ切るのは、単純な一辺倒のペースでは到底不可能よ。

 逃げて菊花賞を勝ったウマ娘って、最新がいつの誰だかわかる?」

 

「いえ、わかりません」

 

「第20回のハククラマよ」

 

「ハク、クラマ?」

 

第20回っていつだ?

それに、その名前にも覚えはない。

 

「まあ知らなくても無理ないわね。

 私よりも年上で、同門の出だから、当時はお世話になったものだわ」

 

「そうなんですか」

 

スーちゃんよりも上の世代なのか。それも同門の出?

言われてみれば、セイウンスカイが勝った時に、なんか話に出てたような?

 

「それだけ難しいってことですね?」

 

「そう。普通に逃げただけでは勝つのは至難の業なの。

 まああなたが逃げるとは限らないし、逃げ以外の戦法を取ることも

 ありえるだろうけど、逃げる可能性が高いわよね?」

 

「そうですね。現時点では、1番走りやすいです」

 

前にも言ったかもしれないが、後方からのレースなど御免なのでね。

これも何度も言うけど、バ群に揉まれたくないし、進路が詰まるのは最悪なので。

脚を余らせるのってイヤだよね。

 

「そんな走り方ができる子なんて、滅多にいないんだけど、

 あなたにはできるって信じてるわ」

 

そんな子がホイホイ出てきたら、商売あがったりだな。

強い逃げウマというだけで貴重なのに。

 

「というわけで、ペースをコントロールする練習をします」

 

「はい」

 

ペースをコントロールねえ。

いったいどんな練習をするんだろうか。

 

「第三には、次走のセントライト記念への調整。

 これは最後の1週間くらいになるから、

 今は頭の片隅にでも入れておいてくれればいいわ」

 

「わかりました」

 

「以上よ。始めましょうか。まずは軽く走り込み」

 

「はいっ!」

 

何はともあれ、俺はスーちゃんを完全に信用しているので、

言われたことを忠実にこなしていくだけだ。

 

さあ、がんばろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8月29日、合宿最終日。

 

「リアンちゃん、お疲れ様」

 

「お疲れ様でした」

 

最終日恒例のタイムアタックを、無事に記録更新して終えて、

所定のメニューをすべて完了した。ミッションコンプリート!

 

スーちゃんが重視してたペースをコントロールするっていうのも、

とりあえず形にはなったかなという気はする。

3000mの長距離を逃げ切るのに必要なことは、わかった感じだ。

 

要は、逃げウマっていうのは、どうしても他バの目標にされてしまうから、

それを把握したうえで、あえて逆手に取ってやろうってことだな。

 

結構えげつないことをやろうとしてるけど、だからこそ効果は大きい。

あとは、実戦で上手く発揮できるかどうかだ。

 

「ところでリアンちゃん。私、気付いたんだけど」

 

「はい、なんですか?」

 

と、スーちゃんが小首を傾げつつ、こちらを凝視してくる。

なんだ? 何かまずったことでも?

 

「あなた、大きくなってない?」

 

「はい?」

 

「身体よ。身長と、おっぱい」

 

「……はい?」

 

何を言われるかと思ったら、お、おっぱい!?

問い返すのに時間がかかり、思わず頭を下げて、自分の胸を見つめてしまう。

 

今はレースに出るときのような体操服1枚で、

タイムアタックした後だから、汗でびったりと張り付いている状態。

なので、服の上からでも体型が一目でわかる。

 

……わずかではあるが、膨らんでいるように見えるな?

 

「ちょっとこっち来て、私の前に立ってみて」

 

「は、はい」

 

「……やっぱり」

 

スーちゃんの目の前に立ってみると、彼女は2度3度と頷いた。

 

「大きくなってるわよ。前は私の肩くらいまでしかなかったのに、

 今は頭のてっぺんが顎くらいになってる」

 

「確かに……」

 

前は、見上げないとスーちゃんと目を合わせられなかったのが、

今は、軽く上目遣いするくらいで合うようになっている。

 

「そう言われてみれば、服がきつくなった気がするような……?」

 

それで余計に、おっぱいの件がモロバレになったというわけ?

ぱっつんぱっつんなのん?

 

戸惑っている俺に対して、スーちゃんは優しく微笑んだ。

 

「本格化、始まったかしらね」

 

「本格化……」

 

そう、か……そうなのか?

待ちに待った本格化が、ようやく来てくれたってことなのか!?

 

「………」

 

やばい、うれしすぎて言葉が出てこない。

それどころか、身体が震えてくる始末。

 

「ダービーであの強さだったのに、さらに本格化しちゃったら、

 どれだけ強くなってくれるのかしらね?」

 

「……さ、さあ?」

 

「ふふ、よかったわね」

 

「……はい」

 

「あとでちょっと身長測ってみましょうか。

 確か、ルドルフが小さいころに使ってた、壁にかけるタイプのがあったはずよ」

 

「お願いします」

 

というわけで、急遽、倉庫に眠っているという代物を引っ張り出してもらって、

身長を測ってもらった。結果……

 

「150……うん、151か152センチってところね。

 正確には、精密な機械使ってみないとわからないけど」

 

「150センチ超えた!」

 

まだ小柄な部類ではあるけど、大台を超えた感はある。

しかも、本格化したというなら、まだ伸びてくれるはずだ。

 

それにしても、この1ヶ月やそこらで10センチ近く伸びたことになるな。

そういえば、このまえ会った院長も、そんなようなことを言ってたような?

あのときからすでに予兆は出ていたんだろうか。

 

他人から指摘されないと気づけないくらい、急激だったんかねぇ。

 

「おめでとう、リアンちゃん。もっと大きくなってね」

 

「ありがとうございます。

 まだまだ大きくなりますよ。見ていてください」

 

何事かと目を丸くしていたお母様も、

測定に付き合って見守っていてくれて、祝福してくれた。

 

「というわけで、予定変更ね」

 

「え?」

 

「明日は学園に帰る予定だったけど、1日買い物に回さないと」

 

「買い物?」

 

「だってあなた、服がきつくなってるんでしょう?

 下着から何やら、まとめて買い直さないとだめでしょう」

 

「……ですね」

 

スーちゃんの言うとおりである。

既にきついのだから、この先、このまま着続けるのは不可能だろう。

 

今の今まで気づかなかった俺は、大間抜けだな。

レースとトレーニングに集中しすぎて、自身の肉体の成長なんて、

まるで頭に入っていなかった。

 

本格化が全然来なかったんで、忘れてたんだよ。

 

「ブラも買わないとね」

 

「え?」

 

「胸も大きくなってきたんでしょう? ダメよ~ちゃんと着けないと。

 形が崩れちゃうし、なにより、擦れて痛いわよ?」

 

「……」

 

意地悪そうに言うお母様。

 

それは……正直言って経験ないので、

経験豊富な()()()()()にお任せします、はい……

 

 

 

ちなみに、学園に戻ってルドルフに会った瞬間、

「背、伸びたな?」って言われて驚いたよ。

 

さすがは我らが皇帝陛下、その観察眼、洞察力は健在だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『菊花賞トライアル、G2セントライト記念、パドックです』

 

『1番人気はもちろんこの子、圧倒的な強さでダービーを制しました、

 ファミーユリアンです。現時点で支持率80%を超えています。

 さあどうでしょうか?』

 

『いやあ驚きました。見違えましたね。

 夏を超えてかなり成長したようです。今まさに本格化といったところでしょう』

 

解説者はやはりよく見ている。

 

金曜日に学園の保健室に行って測ってもらったら、154センチまで伸びていた。

やっと人並みの範疇に入ってきたかな?

 

背が伸びてくれることはもちろんいいし、うれしいんだけど、誤算がひとつ。

服を総替えしなければならなくなったことからもお分かりいただけると思うが、

勝負服の問題が出てきてしまったんだ。

 

結構ぴっちりした服なので、もう着られなくなってしまった。

試しにと着てみようとしたら、腕を通したところで、あ、これあかん、

ってわかってしまったよ。何より胸周りが……ゴホン。

 

そんなわけで、全面作り直しが決定。

あの勝負服は、たった1度、それもダービーだけの幻となってしまった。

もったいないがしょうがない。

 

スーちゃんから譲り受けた大切なものだし、大事に保管することにします。

 

さてレースだけど、できたらペースコントロールを試してみたいが、

さすがに一筋縄ではいかんだろうな。

そもそも距離自体が違うんだし、仮にここでできても、本番ではわからないし。

 

余計なことは考えずに、ひと叩きのステップとして挑むとしましょうか。

 

そして今回からは、レース用の靴を新調した。

これまでは市販のやつを使ってきたんだけどさ。

 

実はダービーの祝勝パーティーの際に、大手のメーカーの人を紹介されて、

一般向けのランニングシューズ開発するのと同時に、それを基に練習用の靴も提供。

さらにはオリジナルモデルのレーシングシューズを作りませんかという話になった。

大変ありがたいお話なので快諾し、作ってもらえることになったんだけども。

 

俺の足に合った実用性はもちろんのこと、ひとつ要望を入れさせてもらった。

それは、シービー先輩から譲られた靴に、デザインを寄せること。

 

ここらで先輩から選ばれてしまったことを俺的にも認めて、

形にして示しておこうかと思ってさ。

自分で言うのもなんだけど、偉大な五冠バの後継者足り得るようにってね。

 

メーカー側は俺の意を良く汲んでくれて、少なくとも外観は先輩のものそっくりになった。

シービーモデルとして売り出しても全く問題はない逸品。

 

でも機能的にはもちろんのこと、俺の足にジャストフィットする優れものだ。

もちろん合宿を通して履き潰すほど慣らしたので、問題のないことは証明済み。

 

G1でもないのに、勝負服クラスのを使うのはどうかとも思ったんだけど、

決意表明は早いほうがいいかと思ってさ。

今後も、レースの格とかは関係なく、この靴を使っていくつもり。

 

靴と共に、気分も新たにしてまいりましょうか!

 

 

『セントライト記念、態勢完了。スタートしました』

 

 

うむ、今日も出足の反応ヨシ!

スターオーちゃんに、「どうしてそんなに良いスタート切れるんですか?」って

聞かれたことがあるんだけど、上手く説明できなかった。

 

なんていうかな、ゲートの開く瞬間がなんとなくわかるというか、

自分の中でよしってなったタイミングと、ゲートのタイミングがぴったり合うんだ。

感性だとしか言いようがない。

スターオーちゃんに大いに睨まれてしまったことは、言わなくてもわかるよな?

 

さていつものようにハナを切っていこうと――ん?

 

 

『ファミーユリアン好スタートですが、

 そのファミーユリアンをかわして2人が行った』

 

 

外から2人が、すごいスピードで先頭に立ってそのまま逃げて行った。

現実なら、出ムチを何発もくれている勢い。

 

ひえー、飛ばしてるなあ、あいつら。

あんなんで最後まで持つのかね?

とてもそうは思えないが……ははーん?

 

さては連中、玉砕覚悟で俺を潰しにかかってきたな?

菊花賞に先立って試してみようってか? だがそんな策には引っかからないぜ。

 

スズカパイセンみたいに、先頭だけに固執するってわけではないしな。

要は、前が詰まらないような位置にいられれば、それでいいんだ。

 

どうぞお好きに逃げてくだせぇ。

 

 

『ファミーユリアン、控えた3番手で1コーナーを回ります』

 

『中山の外回りコースへ』

 

『3バ身ほど離れてファミーユリアン単独3番手』

 

 

ん~、前2人は結構速いペースなんじゃないかこれ?

俺くらいの位置でも、平均よりは早いと思う。

 

 

『ダービー2着のメリーナイスは6番手。前は依然2人が逃げている』

 

『3コーナー、態勢は変わりません。ファミーユリアン3番手のまま』

 

『600のハロン棒を通過』

 

 

前の2人は、もうかなりきつそうだ。

一方の俺は、長距離の練習を散々こなしたし、

無理はしてないので余力は十分。

 

さあ行こうか!

 

 

『ファミーユリアン動いた! 前2人にあっという間に迫る』

 

『並んで、いや並ばない! 一瞬で置き去りだ!』

 

 

直線に入る手前で、前にいる2人をあっさりパス。

お約束でその2人は「むりぃ~」って叫んでたよ。

 

 

『直線に向いてファミーユリアン突き離す! いつもの単走になった。

 2番手にはメリーナイス上がってきたが、差は詰まりません!』

 

『残り100! ファミーユリアン単独で坂を駆け上がる!』

 

『ファミーユリアン、無傷の5連勝でゴールイン! 5バ身差メリーナイス2着!』

 

『夏を超えてさらに逞しくなりました。これは菊花賞が楽しみです。

 ファミーユリアンですっ!』

 

 

ゴール後、すぐに減速して振り返り、観客の歓声に手を振って応える。

 

いえーい、孤児院のみんな見てる~?

また勝っちゃったぜいえーいっ。

 

すみません、調子に乗りました。

慢心いくない。反省。

 

さあてスターオーちゃん、一足先に京都で待ってるよ!

 

 

 

G2 セントライト記念 結果

 

1着 ファミーユリアン  2:12.9R

2着 メリーナイス      5

 

 

 

 

 

 

今回の『ファミーユリアンちゃんについて語るスレ』のコーナー

 

 

 

(セントライト記念・リアルタイム視聴組の反応)

 

:リアンちゃんでっかくなってね?

 

:背、伸びてるな

 

:解説も言ってるけど、本格化来たか

 

:やっとか、良かったなあ

 

:おっぱいも……いや、やめておこう

 

:賢明な判断だ

 

:このスレの説明文、どうするよ?

 

:ああ。『ちっこくてかわいい』の部分な?

 

:普通に『かわいい』でよくね?

 

:強くてかわいい、を推す

 

:まあそこは次スレ立てる奴に任せよう

 

:毎度の好スタートだが、なんだあの2人

 

:無理やり行った感じだが、もしや?

 

:ああ、リアンちゃん潰しに来たんだろうな

 

:恐れていた展開だけど、すんなり控えたね

 

:さすが冷静だ

 

:ハイペースの3番手、理想的じゃないか

 

:あっというまにかわした!

 

:そりゃアレだけ無理に逃げればタレるよ

 

:圧勝!

 

:デビュー以来の連勝を5に伸ばす

 

:さすがのレコードタイム

 

:しれっとレコード出すなあ

 

:番手のレースも問題なくこなして、ますます死角なくなった

 

:強いなあリアンちゃん

 

:近年でも稀に見る逃げウマ娘じゃね?

 

:ダービーと同じ1着2着か

 

:差は詰まってるが、トライアルだし、

 リアンちゃんもまだ100%ではなかろうし

 

:この差は永遠にこれ以上詰まらない気がする

 

:あとは3000もつかやな

 

:菊花賞マジで楽しみだな!

 

:俺、ひとつすごいことに気付いたかもしれない

 

:ん?

 

:どうした急に

 

:何事だ?

 

:リアンちゃんが履いてる靴、新しくなってるんだけどさ

 

:目聡いな

 

:さすがコアなファンは目の付け所が違うね

 

:シャープでしょ?

 

:で、それがどうした?

 

:シービーが履いてたやつとそっくりなんだ

 色合いはちょっと違うけど、そのものと言ってもいいかもしれない

 

:よく気付くなそんなこと

 

:ホントに? 誰か比較してくれ

 

:急造で悪いし、画質も悪くて済まんが

 https://www.********

 

【挿絵表示】

 

 

:ん~、確かに言われてみれば

 

:そうとも言えなくはない、か

 

:すごい手作り感w

 

:がんばったなw

 

:でもそうだったとして、

 なんでリアンちゃんがシービーの靴を?

 

:さあ

 

:何か思うところがあったのかもな

 

:外野には見当もつかんが、きっと深い理由があるんだろう

 

 

 

(後日談)

 

:リアンちゃんモデルの靴が発売だって

 

:ほう

 

:メーカーのサイトに開発裏話が載ってるな

 事の経緯が詳しく書いてあるぞ

 

:リアンちゃん、シービーから靴譲られてたのか

 

:だからシービーに似た靴はいてたのか

 

:道理で。納得したよ

 

:さすがの仲の良さ

 

:前のレースのとき気づいた人いたよね?

 

:気付いたやつすげえな

 

:シービーの想いも受け継いで走る、か

 

:部屋の机の上に飾ってるって、

 リアンちゃんの思い入れも相当だなこりゃ

 

:そりゃそうだろ

 

:あのシービーからわざわざ直接譲られたんだろ?

 その意味が分からないリアンちゃんじゃあるまいて

 

:よっしゃーリアンちゃんモデルの靴買うで

 勝ったうえでますます応援しちゃる!

 

:俺も

 

:その靴はいて応援に行こうぜ

 

:ファンクラブの必須装備になったりして

 

:菊花賞の見どころが増えた

 

 




メリーナイス
「ファミーユリアン被害者の会、会員募集中です」



靴は似ているってことにしておいてください(土下座)


ハククラマってシンボリ牧場の生産なんですね。
あまりの偶然にびっくりしました。
あと、メジロアサマ、サクラショウリ、ツルマルツヨシもシンボリ牧場産だそうです。

サクラショウリとサクラスターオーは父子。
つまり、リアンとスターオーは、最初から縁があったんだよ!

Ω ΩΩ< な、なんだってー!!


スーちゃんダンシング動画第2弾!
https://youtube.com/shorts/GuhPmHorF1c
https://www.nicovideo.jp/watch/sm41446654

仮にリアンが海外遠征する場合、初戦は何が良いですか?

  • ドバイワールドカップ
  • ドバイシーマクラシック
  • ガネー賞(仏)
  • クイーンエリザベス2世カップ(香港)
  • アメリカ遠征

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