時間は少し戻って、9月の頭。
2学期の始業式の日。
「リアン先輩!」
大声で俺を呼ぶ声がしたから、振り返ったその先には、
松葉杖なしで立っているスターオーちゃんの姿がある。
彼女は俺が気付いたことを確認すると、こちらに向けて駆け出した。
「おはようございますっ」
小走りに俺の元までやってきて、さわやかに挨拶してくれる。
俺のほうまで気分が良くなってくるよ。
「おはよう。もう走って大丈夫なの?」
「はい。ご心配おかけしましたが、もう大丈夫です。
これから菊花賞に向けて仕上げますので、待っていてください」
様子から察するに、ウソというわけではないようだ。
走っても問題なさそうだし、なにより表情が明るい。
貰ったメッセによると、スターオーちゃんは夏休み中、
施設に泊まり込んで、連日、1日中治療とリハビリに励んでいたんだって。
前に話した温泉のお湯に浸かりっぱなしだった日もあるって言ってたな。
「治ったんだ?」
「100%とは言えませんけど、気をつければ問題ないレベルまでは来ました。
これもすべては研究所の皆さんと、紹介してくれた先輩のおかげです。
先輩、改めてお礼を言わせてください。ありがとうございました」
「いやいや、私なんて。君が言ったとおりに、
君と研究所のスタッフさんが努力した結果だよ」
「それでも、です。先輩への恩は計り知れません」
スターオーちゃんはそう言うけど、やっぱり本人たちの努力があってこそだから。
俺がしたことなんて些細も些細、雀の涙程度のものだよ。
「なので、きっちりたっぷり、菊花賞でお返ししますね!」
「程ほどでよろしく」
「はい。全力で勝負させていただきます!」
いや、だから程ほどにしてちょうだい。
菊の季節に桜を咲かせるわけにはいかないな。
第48回菊花賞、枠順抽選会
ダービーの時と同様、枠順抽選会と事前セレモニーに出席する。
ダービーウマ娘として、筆頭候補としての登場である。
「ダービーウマ娘、ファミーユリアンさん」
「14番です」
「ファミーユリアン、7枠14番!」
最初にくじを引いて14番枠か。
京都3000のスタート地点は3コーナーから近いから、出来れば内枠が欲しかったんだけど、
まあ仕方ない。これでベストを尽くすしかないだろう。
「メリーナイス、8枠18番!」
「サクラスターオー、5枠9番!」
メリーナイスは大外枠、スターオーちゃんは真ん中の枠に入った。
こうして出走18人の枠順が確定。
続けて、記者を交えての質疑応答が始まる。
登壇者は、ダービー2着セントライト2着のメリーナイス、
皐月賞ウマ娘のスターオーちゃん、3度目の正直なるかのマティリアル、
夏の上がりウマ娘でトライアルの神戸新聞杯を制したレオリュウセイ、
加えて俺の5人だ。
ダービー前セレモニーの悪夢が蘇る。
これ俺はもちろんのこと、他の子、特にマティリアルちゃんなんか、
下手するとトラウマモノなんじゃないの?
酷なことされてると思うけど、平気なのかしら?
今度も俺にばっかり集中して、全然質問されなかったらどうするんだろう?
まあ他人の心配なんかしている場合じゃないんですけどね。
「ファミーユリアンさん、前走のセントライト記念では
3番手に控える形になりましたが、本番ではどうされますか? 逃げますか?」
「はい、逃げます」
言い切った瞬間、どよめきが上がるのと同時に、多くのフラッシュがたかれる。
声はともかく、フラッシュはやめてもらいたいね。眩しくてしょうがない。
「3000の長距離を承知の上で逃げると?」
「逃げます」
「競り合う子が来たらどうしますか?」
「今度は譲りません」
おおっ、と歓声が上がった。もちろんフラッシュも。
ここまで言うとは思っていなかったんだろう。
スーちゃんに教わった走り方をするには、逃げないとだめだからね。仕方ないね。
長丁場ということもあって、これで他に逃げようと思う子が出ないことを祈る。
「3000mを逃げ切れる自信があると?」
「なければ言いません」
3度目の歓声とフラッシュ。
答えるよりもこっちの反応のほうが嫌になってきたな。
「ダービー勝利後の勝ちウマ娘インタビューで」
「……!」
び、ビックリした。
次に指名されて質問してきたの、乙名史さんじゃないか。
来てたのか彼女。今回は取材で入れたんだな。
「サクラスターオーさんについて発言されていましたね?」
「そうですね」
しかも意味深な視線を向けてきてたから、余計に驚いてしまった。
さて、質問はスターオーちゃんについてか。
「約束と仰られていましたが、
事前にスターオーさんと何かお話しされていたんですか?」
関係者たちの顔色が少し変わったのが分かった。
というのも、以前の取材で、スターオーちゃんとは仲の良い先輩後輩だと
いうことを公言していたものの、ダービー前の『約束』の内容については、
俺もスターオーちゃんも揃って口をつぐんでいたからだ。
もちろん乙名史さんたちにも喋ってない。
それ以前に、彼女からはその件は聞かれてないからね。
他社なんかも、喉から手が出るほど欲しかった情報に違いない。
ん~。どうしようかな?
プライベートな約束を、ここでバラしてしまっていいのかという気もあるし、
乙名史さんの質問には答えてあげたいという気持ちもある。
スターオーちゃんがいいと言えばいいかな?
そう思って、反対側の1番向こうに座っているスターオーちゃんへ、
身を乗り出して視線を向けてみた。
すると、彼女のほうも同じように考えてくれていたのか、
同様にこちらへ顔を向けて、「お任せします」とばかりに目を合わせて頷いてくれた。
スターオーちゃんに感謝し、軽く頷いて、マイクを手に取った。
「実は彼女が皐月賞を勝った後に、一緒にダービーを走ろうと約束していたんです。
しかしご承知の通り私はその時点では除外確実でしたから、
トライアルで頑張る必要があったわけですが、青葉賞を勝ち、
ダービー出走が決まりました。心の底から安心しましたよ」
そう考えると、青葉賞を勝ち、ダービーを勝てたのは、
全部スターオーちゃんのおかげというわけだな。
そもそも青葉賞に出ようと思ったきっかけも彼女だし。
俺のほうこそ、スターオーちゃんに感謝しないといけない立場なわけだ。
「ところがその後、スターオーさんには故障が判明して、
ダービーの回避が決まってしまいました。そこで改めて2人で話をして、
もう1度約束をしたというわけです」
「そ、その改めてした約束というのは?」
乙名史さんをはじめとして、周りの人間たちも、
総じて前のめりになっているのが、1段高いステージにいるからよくわかる。
まあ焦るなって。いま教えてあげるからさ。
「『秋に京都で会おう』です」
うるさいくらいのシャッター音が響き、
目を開けているのがつらいくらいのフラッシュの嵐。
「そ、それは、つまり……?」
「こうしてスターオーさんと京都で会えることになった。
約束は果たされたというわけです」
「あ、ありがとうございます!」
最後の答えは、記者さんたちが望んだものとは違ったかもしれないが、
一言一句しっかり答えてあげる義務はないよね。
ね~、スターオーちゃん?
再度視線を送ると、彼女はにっこりと微笑んでくれた。
「サクラスターオーさん!」
記者たちの熱は、続けてスターオーちゃんへと飛び火する。
「いまファミーユリアンさんが仰られたことは事実ですか?」
「はい、事実です」
記者の質問にも頷いて見せるスターオーちゃん。
事実ですかって、聞き方酷いなあ。俺の話、信じてないんかい。
あの記者どこのやつだ?
朝〇? あっ、ふーん……(察し)
「故障してダービーを諦めざるを得なくなり、酷く落ち込んでいたわたしを、
リアン先輩はやさしく諭してくれました。まだ終わっていない、
秋に菊花賞があるじゃないか、と」
あ、そこまで言っちゃうんだ?
別にいいけど、いいけどさ……
な~んか私生活まで明らかにしなきゃいけないみたいで、嫌じゃない?
「以来、わたしはその言葉を励みに治療とリハビリに専念して、
無事にトレーニングへ復帰し、菊花賞に間に合わせることができました。
リハビリの施設も先輩に紹介していただいて、すごく助かりました。
なので先輩には大変感謝しています」
スターオーちゃんにカメラが向けられているのはもちろんのこと、
俺のほうにまで向いているのはなんでかな~?
話しているのはスターオーちゃんなんだから、そっちを撮るのが筋じゃないかな~?
……なんかもう、どんな顔していいんだかわかんない。
たぶん明日のスポーツ面には、俺の引きつった笑顔の写真が載るんじゃないかな?
「同時に、今度こそ先輩と一緒のレースに出られるので、
今はレースがすごく楽しみなんです。
リアン先輩、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
スターオーちゃんからの挑戦状に、俺からもそう返した。
マイクは持たずにね。これもう個人間のやり取りだからいいでしょ?
最前列にいた記者くらいには聞こえたかな?
どこかからか『すっ、素晴らしいですっ!』なんて
聞き覚えがありそうな声が聞こえてきたが、気のせいだと思いたい。
俺たちの間に挟まる格好だった3人には、大変申し訳なかった。
さすがに気が引けたんで、後でスターオーちゃんと一緒に謝りに行ったら、
あなたたちの仲の良さは知ってるから気にしてない、って苦笑されちゃったよ。
つくづく申し訳ない。
土曜日、移動の新幹線車中にて。
「わたし、関西へ行くのって初めてなんです」
隣の席でスターオーちゃんがはしゃいでいる。
通常、同じレースに出走する者同士が隣り合わせになることはない。
同じ列車、同じ車両になることはあっても、相席はない。
真剣勝負を前にしての両者の感情に配慮したものだ。
なのにこれはどういうことかといえば、
もともとURAから支給されたのは各々のトレーナーとの隣合わせ指定券だったんだ。
東京駅まで連れ立って一緒に行ったんだけど、
せっかくだから自由席に変えて隣り合わせで行きましょうよとの
スターオーちゃんの提案に乗って、トレーナーさんたちも了承した結果というわけだ。
今もきっと、ひとつ後ろの席で、スーちゃんと
スターオーちゃんのトレーナーさんは苦笑しているだろうな。
運よく自由席も空いていて助かった。
車内では寝るくらいしかすることないし、だったら
スターオーちゃんと楽しくおしゃべりしながら行くほうが絶対いい。
条件戦に出走する子は、早い時間帯のレースは別として、
当日、直前に電車移動なんて普通にあることだから、それに比べれば雲泥の差。
G1出走ともなれば、URAも相応に待遇してくれる。
前日移動で、宿泊手当も出してくれるのはとてもありがたい。
この世界、景気良いよなあ。
「先輩は行ったことあるんですよね?」
「うん、ルドルフの菊花賞と天皇賞応援しに行ったときにね。
京都レース場にも入ったよ。お客さんとしてだけど」
「いいなあ。また学園でそういった企画してくれませんかねぇ」
よほどのことがないと無理だろうね。
また2年連続で三冠バが出るとかじゃないと。
「あ、あのっ」
「はい?」
そんな話をしていると、通路側から声がかかった。
視線を向けると、若い男性が焦りつつも、必死に自分を律しようとしている様子。
あ、これは……
「シーッ」
「あ、はい」
一目でファンの人だってわかった。
ここは自由席だけど、たとえ指定席だって、通りすがりの人に
こうして正体がばれることは普通にありうるわけだ。
だから先手を打って、とりあえず大声はまずいって伝える。
男性はどうにか落ち着いてくれたようだった。
「サインしましょうか? 書けるものあります?」
「あ、こ、この手帳にお願いします」
「わかりました。何かご希望はありますか?」
「じゃあ、日付と、○○さんへってお願いできますか?」
「はい」
男性が差し出してきた手帳の空いたページにサインする。
リクエスト通りに日付と名前もさらさら~っと。
「これでいいですか?」
「あ、ありがとうございます。あの、菊花賞頑張ってください。
僕も京都に応援に行く最中なんです」
「ご期待に沿えるよう頑張りますね」
「きょ、恐縮です。うおお、握手してもらっちゃった……」
そう言いつつ右手を差し出すと、彼は自分の服で手を擦ってから、
おずおずと手を差し出してきたので、それを取って両手で包み込む。
だいぶ感動しているようで、瞬く間に顔が紅潮していった。
「じゃ、じゃあこれで。がんばってください!」
手を離すと、彼は随分と興奮した様子で、足早に自分の席へと向かっていった。
ファンの人の応援ほどうれしいものはないね。
特に、直接言ってもらえるのは格別だよ。
商店街の件で経験済みだけど、何回あってもいいものだ。
「あの人、すごくうれしそうでしたね」
「そうだね」
「隣にはわたしもいるんだけどなあ」
少し羨ましそうに言うスターオーちゃん。
そうだよ、皐月賞ウマ娘もすぐ隣、窓側の席にいたんだぞ。
スターオーちゃんには見向きもしなかったな。気づいてなかったのか?
「さすがの人気ですね先輩。
わたしもあれくらい、すぐに気付いてもらえるようになりたいなあ」
隣にいたのがスターオーちゃんだと知ったら、彼、きっと後悔するぞ。
ダブルでサイン貰えるチャンスだったのに、って。
G1、それもクラシックの皐月賞を勝ってるんだから、
ウマ娘ファンなら知らないはずはないと思うんだけどな。
まあ興奮し過ぎて我を忘れてたみたいな状態だったようだし、
多少は致し方ないか。
「菊花賞で先輩に勝って、知名度でも先輩に勝ちますね」
「おう、その意気だ」
「えへへ、生意気言ってすみません」
そんなことないって。
史実の二冠馬に対して、そんな恐れ多いこと言えませんよ。
「あ、先輩先輩! 富士山があんなに大きく見えますよ!」
「ほんとだねぇ」
こんなちょっとした出来事がありつつ、新幹線はさすがの速さで順調に進み。
静岡に入ったあたりから、車窓から大きく見える富士山に、スターオーちゃんは大興奮。
俺はここまで大きくじゃないけど、普通に見える地域出身(前世)だから、
あんまり理解できない感覚だけどな。
「あっ海!」
「海だねぇ」
その後も、事あるごとに大はしゃぎするスターオーちゃん。
子供か、君は。ああ、まだ中学生だったわ。
そりゃはしゃいじゃうよねえと納得。
少なくとも、退屈はしない道中でしたわ、ええ。
孤児院のみんなだけど、さすがに京都へ来てもらうのに日帰りでは忍びないので、
今回はURAの招待は辞退して、自費で招いてあげることにした。
すでに夕べに現地入りして、今日は朝から京都観光をしているはず。
ちょっとした旅行だけど、楽しんでくれてればいいな。
菊花賞当日、パドック
ダービーのみの着用となってしまった幻の勝負服に代わり、
新調した勝負服のご披露だ。
さあ、とくと見よ!
『ダービーウマ娘の登場です。1番人気14番ファミーユリアン。
背が伸びたことで、着られなくなってしまったとのことで、
本日は新勝負服のお披露目となりますが……』
『ほお、これはこれは、また随分とイメージを変えてきましたね』
『手元の資料によりますと、今回は自身の名前のフランス語から、
帽子とスカートはフランスの民族衣装っぽくデザインした、とのことです』
『なるほど、アルザス地方っぽくですね』
解説が説明してくれたとおりである。
関係者向けに、内密にということで配布した資料というものがありましてね。
今度は、名前の由来がフランスなので、向こうっぽくしてみたというわけ。
あくまで『ぽく』ね。
なので頭に付けてる黒いヘッドドレスは、完全に装飾品。
パドックでのお披露目時のみの着用で、走るときは外すよ。
なぜかって? こんなん邪魔でしかないじゃないか。
空気抵抗が増してスピードに影響しそうだし、
風圧でどこかに飛んでいってしまいそうだ。
スイーピーの帽子? 知らない子ですね(遠い目)
あれ機械仕掛けらしいし、外れない仕組みもあるんだよきっと。
ともかく和から洋への180度方針転換なので、何か言われないかと、
ちょっとビクビクしている。
『2番人気は、ダービー2着のメリーナイスです』
『前走のセントライト記念でも、ファミーユリアンの2着に敗れていますが、
差は縮めましたし、3度目の正直といきたいところですね』
『3番人気はマティリアルです。
春は期待に応えられませんでしたが、今回はどうでしょうか』
『人気ではありますが、どうですかね、厳しそうですかね』
『この評価には大いに不満か、
皐月賞ウマ娘サクラスターオーは9番人気です』
『実力は確かですが、やはり故障明けなのと、急仕上げなのが気になりますね。
3000の長距離を走り切れるのかどうか。
ここは好走というところまでじゃないでしょうか』
スターオーちゃん9番人気って、不人気過ぎない?
史実でも、故障明け半年ぶりでそんなに人気落としてたのか?
レース場に入ってからは会ってないけど、
彼女これは内心燃え上ってそうだなあ。
某競馬ゲームみたいに史実補正掛かりそうだし、やはり要注意だ。
発走直前。
ゲートの手前で時刻を待つ。
スーちゃん直伝のペースをコントロールする走り、上手くいくかどうか。
まずは単騎逃げに持ち込めるかどうかが第一関門。
そして、絡まれないことが第二関門となる。
会見であれだけ言ったし、俺に絡んできたやつの、セントライト記念での
玉砕ぶりを見ているだろうから、逃げられないなんてことにはならないと思うが……
まあ四の五の言っても始まらない。
なるようにしかならないから、出たとこ勝負で行こう。
いつもそんな調子だろうって?
そうだよ。そんな細かく考えられるタイプに見えないだろ?
その通りなんだよなあ。反論しないしするつもりもない。
発走時刻となり、ファンファーレが鳴り響いて、ゲート入りが始まる。
特に問題なく進み、全員が収まった。
『第48回菊花賞、全員ゲートに収まりました。態勢完了』
ガッシャン
よっしゃー出陣。
まずは飛ばしていくぜぇ!
『スタートしました! 綺麗なスタートです、全員揃いました。
1周目、第3コーナーの坂に向かいます』
『ファミーユリアンやはり行った。ぐんぐん行って早くも4、5バ身のリード』
『メリーナイスも好スタートで外から3番手を窺う勢い』
ほどほどに加速しつつ坂を下り、4コーナーから直線へ。
コーナリング中に横目で確認したが、突っついてくる子はいないみたいだ。
牽制した甲斐があったな。しめしめ。
『1周目の直線コースに入りました。大歓声が上がります』
『ファミーユリアン堂々と先頭を行きます。リードは5バ身。
メリーナイス3番手。サクラスターオーは中団あたりにいます。
マティリアルはさらに後方に位置』
ゴール板付近で1000mを通過。
……体感で60秒くらい。よし、目標クリア。
勝負はここから。ここからペースを……落とす!
『1コーナーを回ってファミーユリアンの一人旅は続きます。
いや、差が詰まってきた。2番手6番接近、3バ身、2バ身まで接近』
『2コーナーから向こう正面に入りました。しかしそれ以上には詰まらない。
むしろまた開いたか? 3バ身4バ身程度まで開いた。
態勢は変わらず、縦長の展開になっています』
いいぞいいぞ。直線だから確認はできないが、
1度近づいた足音が離れて行った。
俺自身のペースはそこまで変えていないので、狙い通りだ。
ここらでレース距離のちょうど半分あたり。
まだ半分もあると思うか、もう半分来た、と思うべきか。
なんにせよ、余力はまだまだ十分。
2回目の坂に向かって力を溜めないとな。
『ファミーユリアン先頭のまま坂を登ります。
高低差4.5mある、京都の難所と云われている第3コーナーの坂です。
各バどのように登り、どのように下っていきますか』
再加速、そう、ここから再加速しなければならない。
そんな時に下り坂があるのだから、利用しない手はないよねということで、
シービー先輩よろしく、タブーを犯してみようかね?
残り600までは坂を使って加速。
そこから先は、超前傾走法ちゃんに聞いてくれ。
さあ行くぞぉお!!
『……! ファミーユリアン下りで行った! 後続を引き離しにかかる!』
『差が開く! 後ろはどうするんだ? 行ってしまうぞ!?
メリーナイスも動いた。2番手に上がる。
サクラスターオーも上がってきた。メリーナイスに並びかける!』
『600を通過。4コーナーへ向かうファミーユリアン、後続は追いきれない!
ファミーユリアン先頭で植え込みを通過、直線へ向いた。
開いた開いた! 差が開いた! 京都でも「逃げて差す」は炸裂するのか!?』
『逃げた逃げた逃げた! ファミーユリアン逃げ切りか、逃げ切るのか!?
ハククラマ以来の逃げ切り濃厚!』
『サクラスターオー、メリーナイスを振り切って2番手も遥か後方だ!』
『逃げ切った逃げ切った! ファミーユリアン逃げ切ったぁ!』
『タケホープ、シリウスシンボリに続いて、
史上3人目のダービーと菊花賞の二冠達成!』
『勝ち時計は……うわあ! 3分3秒2、3分3秒2、レコード!
ルドルフの時計をコンマ2秒上回って、ダービーに続いてのレコード勝利です!』
……ぜぇ……ぜぇ……
さ、さすがに疲れた……
ゴール板を過ぎたところですぐに減速して足を止め、
膝に手をついて呼吸を整える。
これまでで1番疲れたが、やり切った感も1番ある。
肩で大きく息をしつつ掲示板を見上げると、1着欄に燦然と輝く14という数字。
そして、我ながら誇らしく見えるレコードという赤い文字。
「リアン先輩」
しばらくそうやって息を整えていると、横から聞き慣れた声が。
言うまでもなくスターオーちゃんだった。
「おめでとうございます。強かったですね」
「ありが――ゲホッゲホッ!」
「だ、大丈夫ですか!?」
「だいじょうぶ……けほ」
祝福してくれた彼女にお礼を言おうとしたら、息が詰まってむせてしまった。
スターオーちゃんのほうが先に呼吸戻ってるって、さすがの心肺機能だな。
故障明けとは思えない。早めに動いておいて正解だったかもしれん。
それにしても、スーちゃんの作戦の見事なことよ。
前半いつも通りいくと見せて、中盤ごっそりペースを落とし、
後ろの目をごまかしておいて、再加速して引き離すというペースコントロール。
特に、1度近づいた2番手がまた離れて行ったのが大成功。
あそこで追いついちゃったから、自分たちのほうがオーバーペースなんじゃないかと
錯覚させ、向こうのペースこそ狂わせるのがこの作戦の1番の肝だ。
まさに天晴れ! 天下一品だよ。
「本当に強かったです。付け焼刃のトレーニングじゃ敵いませんでした。
もう少し時間があったら、なんていうのは言い訳ですね」
さらりと言うスターオーちゃんだが、
その顔には、隠しきれない悔しさが滲んでいる。
史実では、その“もう少しの時間”があったわけだしなあ。
季節外れの桜が咲くことがなくなってしまったわけだし、
彼女の表情も合わせて、少々複雑な気持ちになってしまう。
「でもやられっぱなしじゃいませんからね。必ずリベンジしますから」
「うん」
「それではお先に失礼します。ライブで会いましょう」
「うん、おつかれ」
スターオーちゃんはぺこりと頭を下げて、引き上げていった。
よかった、最後には笑みを浮かべてくれた。
じゃあ、俺も引き上げるとしますかね。
ちょっとまだ走れそうにないから、時間がかかって申し訳ないけど、
歩いて戻らせてもらいましょうか。
……やばいなあ、身体の重さが半端ない。
こんなのは、1日で何レースも走った、最初の選抜レースのあと以来だ。
これが長距離戦か……
『リ・ア・ンっ! リ・ア・ンっ!』
スタンド前まで来たところで、ダービーに続いてのリアンコールが発生。
まさか、これがもう1回起こるとは……
うれしいんだけど、どうしていいかわからなくなるから困るんだよなあ。
とりあえず手を振っておくくらいしかできない。
係員が呼びに来るまで、俺は大観衆の声に応え続けた。
第48回 菊花賞 結果
1着 14 ファミーユリアン 3:03.2R
2着 9 サクラスターオー 8
エイシンテンペスト
「被害者の会に入会します」
(リアンが入ったせいで除外、史実で6枠14番だった馬。
ちなみに最低人気でした)
ラップタイムはこんなもの
他2頭のタイムも参考に置いておきますね
セイウンスカイ
13.3-11.5-11.7-11.7-11.4-12.1-13.1-13.5-12.7-12.9-12.3-11.9-11.6-11.5-12.0 3:03.2
59.6 64.3 59.3
2:03.9 3F 35.1
タイトルホルダー
12.5-11.1-11.5-12.1-12.8-12.6-12.8-14.3-13.1-12.6-12.4-11.7-11.5-11.4-12.2 3:04.6
60.0 65.4 59.2
2:05.4 3F 35.1
ファミーユリアン
12.5-11.6-12.0-12.0-11.9-13.0-13.2-12.8-13.0-12.6-12.3-11.9-11.4-11.5-11.4 3:03.2
60.0 64.6 58.6
2:04.7 3F 34.3
4F 46.2
史実のダービー菊花賞の二冠はタケホープしかいない不思議
頭のアレに関して、没案がいくつか
せっかくですので上げておきますね
【挿絵表示】
【挿絵表示】
【挿絵表示】
個人的には3番目が良かったんですが、
ウマミミと一緒に設定できなかったんですよね
泣く泣く没になりました
仮にリアンが海外遠征する場合、初戦は何が良いですか?
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ドバイワールドカップ
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ドバイシーマクラシック
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ガネー賞(仏)
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クイーンエリザベス2世カップ(香港)
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アメリカ遠征