転生孤児ウマ娘の奮闘記   作:しょうわ56

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第52話 孤児ウマ娘、皇帝に倣う

 

 

 

 

『ウマ娘ファンのみなさんこんにちは。今週も府中ケーブルテレビがお送りする、

 週刊ウマ娘放送局のお時間がやってまいりました』

 

毎度おなじみ、府中ケーブルテレビによるウマ娘専門番組。

いつものように、キャスターの女性が一礼して挨拶を述べる。

 

『今年最後の放送になります。皆様、今年1年ありがとうございました』

 

いつもと違う点と言えば、今年最後の回ということ。

記念後だから、自然とそうなる。

 

『はい、有記念、終わってしまいましたねぇ。

 いやーファミーユリアンさん惜しかった。

 サクラスターオーさん強かったですねぇ』

 

悔しそうに言うキャスター。

リアン推しを隠さない番組なので、当然の反応である。

 

『さて今週も、解説の○○さんにお付き合いいただきます。

 ○○さん、よろしくお願いいたします』

 

『はい、よろしくお願いします』

 

キャスターから話が振られ、解説者の女性が映って頭を下げる。

 

『では早速、○○さんに有記念の解説をしていただきましょう。

 ○○さん、どうでしたか?』

 

『もちろん勝ったスターオーさんは強かったんですが、それ以上に、

 ファミーユリアンさんの「負けてなお強し」という印象があります』

 

『ほうほう、その心は?』

 

『なんと言っても、“逃げ粘った”、これに尽きます。

 並みの逃げウマならば、4コーナー手前で捉まって終わっていましたね』

 

『前走まではここで引き離していたところなんですが、

 今回はそうなりませんでしたね。なんででしょうか?』

 

『そうですね、いくつか考えられますが、1番大きいのは、

 前半が超スローの流れで、他の子にも余力が十分あった、ということですかね』

 

『えーと、1000mの入りが64.5秒ですね。うーん、確かにこれは遅い』

 

『G1では極端なスローペースです。参考までに、

 菊花賞でファミーユリアンさんが逃げたペースは60秒ジャストです』

 

『有よりも距離の長い菊花賞よりもペースが遅かったと』

 

『はい。普通は、遅い流れほど前へ行っている子のほうが有利になるんですが、

 今回はシリウスシンボリさんとサクラスターオーさんにも早めに動かれてしまって、

 よい目標になってしまいました。

 それに当初の位置取りの分、最後の末脚の差が出ましたね』

 

結果論ですがと前置きし、スローを選択したことが間違いだったのでは、

と指摘する解説者。

 

『とはいえ、ファミーユリアンさんも35.0で上がっているわけですし、

 超ロングスパートしてますからね。粘れたのが不思議なくらいです』

 

『スターオーさんの上がりが34.8、シリウスさんが35.2。

 レース自体の上がりが34.9ですからねぇ。

 ファミーユリアンさんは最後の最後でかわされましたけど、

 シリウスさんは逆に競り落としてますからねぇ』

 

『ええ、根性を見せてくれました。本当に良く粘りましたね』

 

『他の子たちは、みんなそれよりも遅いですからねぇ』

 

『1番強いレースをしたのは、間違いなくファミーユリアンさんです。

 再度申し上げますが、普通の逃げウマでは、ここまではいけません』

 

解説者の言葉に、キャスターの女性もうんうんと頷く。

 

『3着のシリウスさんとは2バ身差で、その後ろとはさらに6バ身ですから、

 いかにこの3人が強かったかですね』

 

『はい。上位3人がレベルの違う走りをしました』

 

『これは来年も期待できますね?』

 

『もちろん。サクラスターオーさんとファミーユリアンさんは

 クラシック同期ですし、シリウスさんも現役続行を表明しています。

 来年も私たちを楽しませてくれると思います。

 この先のレース界を引っ張っていく存在でしょうね』

 

解説の彼女は、そう言って回顧を締めくくった。

 

 

 

 

 

 

 

今回の『ファミーユリアンちゃんについて語るスレ』のコーナー

 

 

(有記念リアルタイム視聴組の反応)

 

:リアンちゃん単騎逃げ来た!

 

:これで勝つる!

 

:いや、これやけに遅くね?

 

:遅いな、バ群詰まってる

 

:すごい窮屈そうやな

 

:リアンちゃんスローペースの逃げ!?

 

:溜め逃げだぁ

 

:今までにない展開

 

:残り1000で行ったーっ!?

 

:なにィ!?

 

:おいおい早すぎないか

 

:しかし後続付いていけな……いや来てる!

 

:シリウスとスターオー!

 

:完全に3人が抜け出した

 

:3人の叩き合いだ

 

:ルドルフ・カツラギ・シービーのJCの再現!

 

:いけーリアンちゃん!

 

:がんばれええええええええ!!

 

:競り落とせ!

 

:シリウス撃墜!

 

:スターオーも落ちろぉおおお!!

 

:落ちろカトンボ!

 

:あああああああああああ

 

:いやああああああああああ

 

:うわあああああああああああああ

 

:ダメか……

 

:負けたぁ

 

:アタマ差……

 

:うわああ悔しぃぃいいいい!!!

 

:連勝ストップ……

 

:大きいアタマ差になったな

 

:でもよく粘ったよ

 サクラスターオーもよく頑張った。おめでとう

 

:2人の仲が良いだけに複雑だな

 

:リアンちゃん、スターオーの腕を掲げさせて勝利を称える

 

:さすがだリアンちゃん

 

:決着してすぐに、そうそうできることじゃない

 しかも負けてるんだからな

 

:スターオーなんで最初喜んでなかったん?

 

:リアンちゃんに遠慮したんじゃない?

 先輩なんだし

 

:勝負なんだから、遠慮することなんかないのにね

 

:だからリアンちゃんが真っ先に称えただろ

 

:リアンちゃんになんか言われて満面笑みになったの草

 

:きっと祝福されたんだろう

 ある意味正直だよな

 

:ウッキウキでスタンド前に走って行ったな

 

:これ年度代表どうなる?

 

:ううむ

 

:リアンちゃんとスターオーに絞られたことは間違いないが……

 

:G1勝利数だと同じなんだよな

 

:俺はやっぱりリアンちゃんだと思う

 クラシックの圧倒的な強さは段違いだもん

 

:クラシック二冠+有2着 VS 皐月賞+有記念

 ファイッ!

 

:負けたとはいえアタマ差の接戦だしな

 

:ポイント制ならリアンちゃん

 

:そうだな、総合的に見てリアンちゃんだな

 

:しかし完全に世代交代したな

 JCでわかってはいたが

 

:だからJCのことは……

 

:こうなるとJCスキップが痛いな

 ダイナアクトレスを物差しにすると、確実に勝ててたと思うし

 

:まあタラレバ言ってもしょうがない

 

:人事は尽くした、あとは天命を待つのみ

 

:何はともあれ来年も楽しみだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まもなく今年が終わる。

N〇Kの大みそか恒例の番組をぼんやり眺めながら、俺はこの1年を振り返った。

 

脚の謎の違和感から始まって、だらだらしているうちにスターオーちゃんに感化され、

励まされてクラシックを目指し、実際にダービーに出走して、なんと勝ってしまった。

夏には思い切りトレーニングして、スーちゃん直伝のペースコントロールを覚え、

それを駆使して菊花賞も制覇、二冠を達成した。

 

年末には有にも出て、スターオーちゃんの2着に惜敗。

 

……ふぅ。なんとも目まぐるしい1年だった。

G1、それもクラシックを勝ってしまって、世界が180度変わったなあ。

まるで突然、異世界にでも放り込まれてしまったかのような感じ。

 

いや、ウマ娘になってる時点で、異世界感バリバリなんですけどね。

 

今や俺は、ウマ娘レース界の看板として、スターオーちゃんと並んで、

来年以降をリードしていく双璧だと見られているようだ。

 

俺が俺じゃないみたいだよ、まったく。

 

「どうした、ため息ばかりついて」

 

向かいのベッドにいるルドルフが、笑みを浮かべながら声をかけてきた。

 

さすがに冬休み、三が日くらいは生徒会の仕事もない。

ゆっくりできそうだと嬉しそうに言っていた。

 

「ん? ああ、なんか激動の1年だったなって思ってさ」

 

「そうか。だがこの程度で音を上げていては、

 この先やっていけないぞ」

 

「そうなんだよねぇ」

 

来年以降は、マークもより厳しくなるだろうし、

みたいな体たらくを晒していては、

後輩たちにあっという間に追い抜かれてしまうに違いない。

 

スターオーちゃんにも失望されてしまうだろう。

彼女とは、仲の良い先輩後輩、友人というだけではなく、

切磋琢磨して競い合う良いライバルでありたいものだ。

 

「今や君は、全ウマ娘が羨み、目標とする存在なんだ。

 大変だとは思うが、よろしく頼むぞ」

 

「ああ、うん、善処はしますよ~」

 

「気のない返事だが、まあいい。

 君がそういう性格だというのは、散々思い知らされているからな」

 

そう言って苦笑するルドルフ。

 

無敵の皇帝陛下として君臨した彼女の口から言われると、

それはもう説得力が抜群でございますことですよ?

かつてはルドルフが、その役割を全部受け持ってたんだからなあ。

 

正式にバトンを渡されてしまったと考えるべきか。

そういえば、と自分の机に視線を移すと、シービー先輩から譲られた、

靴と蹄鉄が目に入ってくる。

 

もちろんあのあとすぐに、両方とも綺麗に洗濯掃除して、

以降も手入れは欠かさずに大事に飾っているさ。

これに似たレース用の靴も作ってもらったし。

 

シービー先輩からも、直々に後継者に指名されたようなものだよなあ。

まったく、歴史に名を残す超名バが揃いも揃って、よくもまあ、

こんな底辺もいいところのモブ娘に思いを託せたものだ。

 

……はい、わかってますから、もう何も言わないでいいですよ。

おまえみたいなモブがいるかってことでしょ?

二冠を制するモブって何さ。モブの法則が乱れる!

 

モブ娘(当時)ということにしておいて。

お願いだから。

 

「そういえばさ、私、ちょっと考えていることがあって、

 でも私だけじゃよくわからないから、誰かに相談したいんだけどさ」

 

気恥ずかしくなったので話題を変える。

以前から、頭の片隅でちょこちょこ考えていたことだ。

 

「お父様に持ちかけてみたいんだけど、今はちょっと、

 正直話しかけづらくてさあ」

 

「ああ……」

 

俺がそう言うと、ルドルフも困ったものだとばかりに、

眉間にしわを寄せる。

 

「まさか、負けた本人以上に気にして、落ち込むとは思わなかったよ」

 

記念に、中山レース場まで応援に来てくれていたお父様とお母様。

今まで応援に来られていなくて、いざ生観戦した途端に俺が負けてしまったので、

自分たちは疫病神なのではないかと気にしてしまい、塞ぎ込んでしまっているというのだ。

 

全然そんな風に考えてなんていないのに、必要以上に気に病んでしまって、

もう現地に応援しには行かないとすら言っているらしい。

 

実の娘であるルドルフ経由の情報だから、間違いはない。

だからこそルドルフも渋い顔をしているんだしな。

 

「あの人たちも困ったものだ。

 そんなことを気にしてもしょうがないというのに」

 

「ねぇ?」

 

来ると緊張するのは確かだけど、来てくれないのは、

それはそれで寂しい。我がままの極みだけどそれが本心。

 

気にしていると言えば、スーちゃんもスーちゃんで、

スローに落とさせたのは自分の指示だから、敗因があるとすれば私にあると取材陣に語り、

責任を感じてしまっているようだった。

 

いや、敗因はいつも通りに走れなかった俺の未熟さゆえです。

いつもようにスイッチを入れられてさえいれば、少なくとも、

もう少しは走れていたはずだから。

 

責める気も押し付ける気も全くないんで、また気軽にアドバイスしてください。

よろしくお願いします。

 

「私でよければ話を聞くぞ。

 私では力不足かもしれないが」

 

「そんなことないよ」

 

ルドルフで力不足では、他の誰にも言えなくなっちゃうな。

もちろん厚意に甘えさせてもらうとしますか。

 

「私も、ルナみたいにしてみようかと思ってさ」

 

「私みたいに? どういうことだ?」

 

かいつまんで説明すると、ルドルフが個人から全体へと視点を変えたように、

俺も自分のことばかりじゃなくて、もっと他人の、

言ってしまえば社会全体のためになるようなことをしてみたい。

 

特に俺は孤児院の出身なので、その方面に力を入れていきたい。

そう、ルドルフに伝えた。

 

いつしかに院長に言われてから、秘かに考え続けてきたことだ。

 

「そんな感じ」

 

「なるほど、君らしい」

 

説明を聞いたルドルフは、褒め称えるわけでも、

馬鹿にするわけでもなく、ただそれだけ感想を漏らした。

 

「どうかな?」

 

「ああ、とても良いと思うぞ。

 名実ともにウマ娘のトップに立った君が行動するなら、

 世間に対する影響力も大きいだろう。

 私みたいに引退後ではなく、現役の内ならなおさらだと思う」

 

「そっか」

 

ルドルフのお墨付きを得た。

しっかし、『ウマ娘のトップ』っておまえ、恥ずかしいことこの上ないなおい。

その称号はまだ早いんじゃないかな~?

 

「でも、具体的にどうするってのがまだ全然なんだよ。

 だからお父様に相談したかったんだけど」

 

その手の知識が全然ないからなあ。

お父様ならいろいろ知ってそうだから、相談したかったんだが。

 

「そういうことなら、

 君のところの院長先生に相談したらいいんじゃないか?」

 

「院長に?」

 

「ああ。彼女ならその道の専門家だろう?

 少なくとも私たちよりは内情に詳しいはずだ」

 

「そっか、それは盲点だったな」

 

確かにルドルフの言う通り。

灯台下暗しとは、まさにこのこと。

 

でもなあ……

その院長に言われて考え始めたことだからなあ。

彼女に相談するというのはお門違いな気がする。

 

さあてどうするかな?

 

「……あ、除夜の鐘が」

 

「明けたな」

 

そうこうしているうちに年が明け、正月を迎えた。

新しい1年の幕開けだ。

 

「明けましておめでとう。今年もよろしく、ルナ」

 

「ああ、私こそよろしく頼む、リアン」

 

俺たちはにっこり笑顔で、新年最初の挨拶を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

年が明けて早々、俺は孤児院へとやってきた。

もちろんルドルフと話した件について、具体的なことを相談するためだ。

 

「明けましておめでとうございます、院長」

 

「おめでとうリアンちゃん。今年もよろしくね」

 

「こちらこそお願いします」

 

挨拶もそこそこに、中へと通される。

話は事前に通してあるので、今日は他の関係者の人も来てくれているはずだ。

 

「リアンねーちゃん! あけましておめでとー!」

 

「おうみんな、おめでと~」

 

中に入ると、さっそく子供たちに囲まれてしまった。

元気いっぱいな笑顔ばかりで、相変わらず癒される。

 

「はいこれ、お年玉」

 

「やったー!」

 

「ありがとうリアンねーちゃん!」

 

そして、1人ずつお年玉を手渡すと、笑顔がさらに爆発した。

ああ、癒される。

 

「ねーちゃんたちは大事なお話があるから、ちょっと静かにしててね。

 また後で遊ぼう」

 

「はーい」

 

そう言うと、ホクホク顔でそれぞれの部屋のほうへ戻っていった。

子供たちの笑顔はいいね。

 

「ありがとねリアンちゃん。わざわざ来てもらった上にお年玉まで」

 

「これくらいわけないですよ。

 それに、私のほうから相談に乗っていただくわけですからね」

 

「でもリアンちゃんもまだ学生の身の上だし、

 私たちとしては肩身が狭くて……申し訳ないのよ」

 

「気にしないでください。好きでやってることですし、

 今だからこそ言えることですけど、お金ならありますから」

 

「リアンちゃん、本当にありがとね」

 

「いえいえ」

 

今までの賞金、ほとんど手つかずで残ってますから。

あるところにはあるんだの典型。ホント世の中は不公平だ。

 

「こちら、公益財団法人の方」

 

「はじめまして、ファミーユリアンです。

 わざわざお越しいただきましてありがとうございます」

 

「こちらこそお会いできて光栄です」

 

応接間で待っていたのは、人のよさそうな30代くらいの女性だった。

お互いに挨拶して名乗り合い、握手を交わす。

 

院長に、ルドルフにしたようなことと同じような話を持ち掛けてみたところ、

そういうことなら、と紹介してもらったわけだ。

ルドルフの言っていたことがドンピシャだったわけである。

 

「このたびは、うちの法人にて基金を創設していただけるとのことで」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

詳しく言うと、ルドルフが言っていた『現役のうち』という単語がヒントだった。

要は、他のスポーツ選手たちがやっているような慈善活動を、

俺も始めてみようと思ったわけだ。

 

例えば、野球選手がヒットを打ったらとか、サッカー選手がゴールを決めたら、とか、

そういう類の寄付とか慈善活動とかあるじゃん?

二番煎じもいいところだけど、同じことを俺もやってみようと思いついたわけ。

 

で、いろいろ調べてみた結果、そういった『基金』を個人で創るのには、

運営や管理の面で色々と問題があるらしく、院長にも相談してみた末に、

税制上でも優遇が受けられるので、ここの法人様にお任せしてみては、

という結論に至ったのである。

 

「では、わたくしどものマイ基金制度を利用して、

 『ファミーユリアン基金』を設立、恵まれない人たちのために

 活用するということでよろしいですね?」

 

「はい。名称がちょっと恥ずかしいですけど」

 

「とんでもない。ファミーユリアンさんのお名前を冠したほうが、

 注目もされますし、協力していただける方が増えますよ」

 

「だと、いいんですけどね」

 

言うまでもなく、基金設立の目的は、俺の活動の根幹と言っていい弱者救済。

今までは俺個人と、出身の孤児院だけに限られていたが、

この機会に基金を創設して、広く世の中全体を見渡してみようというわけだ。

 

事故や災害で親を喪った子供たちのために。

病気や、やむを得ない理由で経済的に苦しむ人たちのために。

 

原資は無論、今まで稼いだ賞金と、これから稼ぐであろう賞金。

 

もちろん無限に出てくるわけではないので、ますます負けられなくなった。

それと共に、走る理由が増えたというわけだ。

 

俺が走って、賞金を稼ぐことができる限り、

この基金はずっと続いていくということになる。

 

また、法人のほうで金銭面での運用もしてくれるそうなので、

そこで利益が出れば半永久的に存続することも可能。

ぜひそうなってほしいものである。

 

手続きすればすぐにでも運用に入れるというので、その場で即決。

財団法人の人は、丁寧な説明に終始して、うれしそうに帰っていった。

 

「それにしてもリアンちゃん、思い切ったわね。

 いくらお金があるといっても、なかなか決断できるものではないわ」

 

法人の人が帰った後、院長が言う。

 

「とはいえ、賞金の3割を基金に回すなんて、

 思い切りが良すぎる気もするけれど、本当に大丈夫?」

 

えらい心配げな顔だな。

そんな不安になるような要素あります?

 

「税金で半分持ってかれて、そのうえ3割も寄付なんてしたら、

 あなたの手元には2割くらいしか残らないのよ?」

 

う……改めて言われると、確かに少々心許ない気もする。

だけど、大丈夫さ。要は勝ち続ければいいんだから。

 

例えば賞金1億のレースで勝てれば、2千万は自分のものになる。

遊んで暮らすというには程遠いが、そんな豪奢な生活をする気なんてないし、

それくらいの収入があれば普通に暮らしていく分には十分だろう。

 

きっと大丈夫! ……たぶん。

 

「他に使い道もありませんし、だったら、

 社会のために役立てるのがいいですよね」

 

お金は回ってなんぼの世界。ただ持っているだけじゃ意味がない。

なら、持っている人が相応に使わないとね。

 

「リアンちゃん……本当に立派になって……」

 

思わず涙ぐんで、ハンカチを取り出し目元にあてる院長。

やめてください。そういうことされると、俺も涙腺が死ぬ。

 

「とにかく、これまで以上に頑張って走って稼ぎますから、

 見ていてください。それで、できれば、応援をお願いします」

 

「もちろんよ。子供たちともども、最大限応援するわ」

 

俺の言葉に、院長はニッコリ笑顔で頷いてくれた。

 

よし、モチベはマックス。

子供たちの笑顔で十分癒されたし、とりあえずは

今年の初戦に向けてがんばっていきまっしょい!

 

ちなみにローテは、日経賞、天皇賞、宝塚を予定。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こういった基金や慈善活動は、知名度が何よりモノを言う。

支援したくても、その存在を知らなければ何もできない。

 

というわけで、動画を撮って公開し、広く支援者を募ることにした。

 

「はい、みなさんこんにちは。ファミーユリアンです。

 今日はみなさんに、重要なお知らせがあって、動画を撮っています」

 

「撮影はわたし、サクラスターオーでお送りします」

 

「……です、はい」

 

今日も今日とて、スターオーちゃんが協力してくれている。

そしてスマホを構えつつ、相変わらず出しゃばる彼女。

まあ動画が目立ってくれてみんなに周知されるのが第一だから、まあいいか。

 

スターオーちゃんだけでなく、最初に俺が相談したルドルフから話が広がったらしく、

そのルドルフやピロ先輩、シービー先輩、マルゼン姉さんをはじめとして、

卒業したTTGの先輩方、果ては理事長までもが動画に出演してくれた。

 

編集が大変だったぜ。

いや俺がじゃなくて、ファンクラブの人が全部やってくれたんだけどね。

 

「――というわけで、広くご支援をいただける方を募集します。

 詳細は、ファンクラブのホームページに載せますので、

 ぜひご覧になってみてください。皆様のご支援、お待ちしております」

 

「わたしも協力します。有記念の賞金、全部寄付しますよ!」

 

「いやいや……」

 

の賞金全部って、おいおい。

冗談だよね? まさか本気じゃないよね?

 

 

 

……後日、基金の残高には、衝撃の金額が!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回の『ファミーユリアンちゃんについて語るスレ』のコーナー・その2

 

 

(ファミーユリアン基金設立について)

 

:リアンちゃんが基金創設だって!

 

:なんと

 

:そうか、リアンちゃん孤児だもんなあ

 

:カネ持っててもなかなかできることじゃない

 

:それをいち学生がやっているという

 

:リアンちゃんがまだ高校生だという事実

 

:俺たちっていったい……

 

:考えるな、感じろ

 

:何を?

 

:もちろんリアンちゃんの志をだ!

 

:賞金の3割とな? 大丈夫か?

 

:税金で半分消え、3割も寄付するとなると、2割しか残らんぞ

 

:基金の創設者が身を切らないと格好がつかないもんな

 

:創設してる時点で身銭切ってるんですがそれは

 

:なーに、これからも勝ち続けてくれるから心配ないさ

 

:しかし基金の設立報告紹介動画が豪華すぎる

 

:スターオーに始まって、ルドルフ、ピロウイナー、

 シービー、マルゼン、TTG……

 

:トレセン学園の理事長まで出てるやんけ

 

:リアンちゃんの人脈よ

 

:凄まじいの一言に尽きるな

 

:スターオー有の全額寄付するってマジか?

 

:あの子ならやりかねん

 

:いや、さすがにリアンちゃん止めるやろ

 

:どうだろうな

 

:あの子、一種の崇拝みたいな感情持ってない?

 

:ただの先輩じゃないことだけは確か

 

:俺、少ないけど寄付してくる

 

:おれも

 

:わいも

 

:ちょっとパチンコ行ってくる

 

:俺は競艇に

 

:明日オートの開催あったかな……

 

:待ておまえら、それは不毛の道だ

 

:汚い金を崇高な目的に寄付するのはちょっと……

 

:ない袖は振れないんだ。仕方ないんだ……

 

:カネにキレイも汚いもあるかい!




トップ層にとってはシーズンオフになりますので、
レースとは直接関係のない話が増えますが、
こういうこともリアンの活動の根幹たるところですので、
どうぞお付き合いくださいませ。

仮にリアンが海外遠征する場合、初戦は何が良いですか?

  • ドバイワールドカップ
  • ドバイシーマクラシック
  • ガネー賞(仏)
  • クイーンエリザベス2世カップ(香港)
  • アメリカ遠征
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