転生孤児ウマ娘の奮闘記   作:しょうわ56

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第55話 孤児ウマ娘、再び淀の坂で加速する

 

 

 

 

天皇賞の前に、今年の新入生の話をしておこうか。

 

『タマモクロス』

 

名簿に載っていたその名前。ついに来たかタマちゃん。

ということは、どこかでイナリも転入してくるんだろうな。

 

タマちゃんと争うことになるのは、早くて再来年か。

それまで俺が現役でいられるという保証はないけど、

今のうちから覚悟はしておこう。

 

タマが来たということは、来年はあの()()が入学してくるんだろうか?

それとも史実準拠の編入か。いずれにせよ興味は尽きない。

 

 

 

 

 

「おうおうおう、あんたがファミーユリアン先輩かいな!」

 

入学式の日の放課後、背後からそんな声がかけられた。

もう声だけで頬が緩んでしまったよ。

だってアプリやアニメで聞き慣れた、あの特徴的なダミ声だったんだから。

 

「ウチはタマモクロスっちゅうんや。よろしゅうな!」

 

振り返ると案の定の人物が、人懐こそうな笑みを浮かべて立っていた。

相変わらずちんまい。いや、俺が言えたことじゃないかもしれないけど。

でもやっぱり小さくてかわいいなあ。

 

「よろしく。ええと、タマモさん?」

 

「タマでええで! 先輩やし、仲良しはみんなそう呼んどる」

 

「そう。じゃ、今後はそう呼ぶね」

 

しかし、入学直後で、1人で先輩に声をかけられるのはすごい度胸だよな。

スターオーちゃんもそうだったけど、何か特別な理由でもあるんだろうか?

 

「で、わざわざ声をかけてきたのはなんでかな?」

 

「そうや。どうしても先輩に一言、言いたいことがあったんや」

 

気になったので聞いてみると、やはりそうだとのこと。

いったいどんな理由なのやら。

 

「ほんなら言うで」

 

「うん」

 

「……すぅ~」

 

タマちゃんはわざとらしく、大きく息を吸い込むと

 

「なんで、でかくなってしもうたんや!」

 

そう、叫んだ。

 

……はい?

どういう意味でしょうか?

 

「でかく……? 何が?」

 

「そんなんタッパに決まっとるやろ!

 ちょっと前までウチとそんな変わらん身長やったのに、

 今はそんなにでかくなってしもうてるやないかい」

 

ああ、うん、そういうことね。

今年の健康診断はまだだけど、160近くくらいにはなってるんじゃないかな。

たぶん止まってはいないと思う。

 

「ウチと同じぐらいでもダービー勝てるんやって、

 秘かに心の拠り所やったのに、どないせいっちゅうんや!

 がんばってトレセン学園には入ったけど、ウチはどうすればええんや」

 

「そんなこと言われても……」

 

まあ、うん、気持ちはわからないでもない。

ないけど、八つ当たり以外の何物でもないよね?

 

「やっぱり小は大には勝てへんのか?

 いや、そないことあらへん。あってはいけないんや」

 

「……」

 

「先輩、責任取ってや!」

 

「……どうしろと?」

 

なるほど、だからなりふり構わず声をかけてきたってわけか。

 

まあ、うん、気持ちはわかるよ?

去年前半までの俺なら、同じように悩んで、ひがんでいたかもしれない。

なので突き放すことはできず、そう尋ねるしかなかった。

 

「先輩と一緒にトレーニングさせたってや!」

 

すがるような視線と声で、タマちゃんは言ってくる。

 

「先輩と一緒に鍛えれば、

 ウチも先輩みたいに大きくなれるかもしれへんやろ?」

 

「ええ……」

 

め、滅茶苦茶だ。

確かに気持ちはわかるんだけど、だからって、なあ?

それに、それは俺の一存で決められることじゃない。

 

新入生がいきなり上級生と一緒にって、学園的にはいいんだろうか?

 

「なあ、頼むわ先輩! ウチの家貧乏で、

 レースで活躍して家族を養わなきゃいけないんや!

 小さい弟と妹もおる。頼む先輩、このとーりや!」

 

「………」

 

必死に頭を下げるタマちゃん。

 

それを言われちゃうとなあ……

まるっきり俺と被るし、出来ることなら支援してやりたい。

やりたいけど、なあ?

 

「とりあえず、落ち着いてタマちゃん。みんな見てるよ」

 

「はっ……。え、えらいすんません先輩!

 ウチ我忘れて、ついついヒートアップしてもうた」

 

俺がそう言うと、タマちゃんは慌てて頭を下げてきた。

 

「ほんまは少し冗談言うだけのつもりだったんです!

 なのに、あんな……忘れてください!」

 

「いいから落ち着いて。ね?」

 

「ぁ……」

 

ぽんぽんと、頭を優しく撫でる。

タマちゃんは一瞬だけ強張ったものの、すぐに受け入れてくれた。

 

なんてことはない。

子供相手にするようなことで申し訳ないけど、

中学に上がったばかりの子供だから問題ないよね?

 

焦るなタマちゃん。君にはまだ時間がある。

 

「気持ちはわかるよ。でも焦らないで。

 焦って無理に頑張ったって、良いことなんてひとつもないからさ。

 下手したらどこぞの誰かさんみたいに、2回も骨折して

 中学時代の大半をリハビリにあてることになるよ」

 

「……」

 

ピクッと震えるタマちゃん。

誰のことを言っているのか、わからなくはないよね?

心の拠り所だって言ってくれたから、俺のことは調べてるだろう。

 

俺だってケガの上に、本格化を1年待っての結果なんだ。

焦ったって何にもならないよ。

 

「とりあえず入学はできたんだから、まずはじっくり身体を鍛えよう。

 トレーニングはもちろんのこと、他の面でもアドバイスはできるからさ。

 なんでも気軽に聞いてきてくれて構わないよ。答えられることなら答えるから」

 

「……ええんか?」

 

「もちろん」

 

「おおきに」

 

泣きそうになっていた顔が、笑顔に変わった。

うんうん、かわいい子は笑ってなんぼだ。

 

「なんや先輩、本当のお姉さんみたいやなあ」

 

頭を撫でていると、気持ちよさそうに目を細めるタマちゃん。

 

家では弟妹たちの手前、気を張ってなきゃいけないだろうからなあ。

なんだかんだ言っても、やっぱり中学上がりたての子供なんだし、

年長者には甘えてくれて構わないのよ?

 

クリークみたいにでちゅね遊びしろなんて言わないし、

適切な距離感と節度を持ってね。

 

それくらいのことならお安い御用だ。

……なんか将来のライバルに塩を送っているような気もするが、気にしないことにする。

 

「ほなら先輩、ウチはこれで。またな!」

 

タマちゃんは笑顔でそう言い残し、元気に駆けていった。

 

 

 

翌日以降、なぜかスターオーちゃんがこれまで以上にべったりになって困った。

事あるごとに「……誰にも譲りません」って呟いてるけど、なんのことやらさっぱり。

 

ルドルフからも、「また後輩をひっかけたのか」なんてからかわれるし、

なんなんだよもう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ウマ娘ファンのみなさんこんにちは。週刊ウマ娘放送局、

 春の天皇賞直前増刊号のお時間がやってまいりました』

 

府中CATVの看板番組が、通常枠ではないスペシャル番組を放送した。

本放送が枠順確定後の金曜夜、ネット公開が深夜0時であった。

 

『さて今日も、解説の○○さんにお付き合いいただきます。

 ○○さん、よろしくお願いいたします』

 

『はい、よろしくお願いします』

 

いつものメンツ、いつもの展開。

 

『では早速、○○さんに天皇賞の展望をお聞きしましょう。

 ○○さん、どうですか?

 ズバリ聞いちゃいますけど、ファミーユリアンさんは勝てますか!?』

 

いきなり核心を突いたキャスター。

これには解説者も苦笑する。

 

『勝てる勝てないで言えば、勝てます』

 

『おお! その心は?』

 

『その前に、まずは情報を整理しましょう』

 

逸るキャスターを落ち着かせ、解説者は解説を始める。

 

『有力バの枠順から。3枠5番にメジロデュレンさん、4枠8番にファミーユリアンさん、

 5枠10番にサクラスターオーさん、7枠13番にメリーナイスさん、

 8枠16番にシリウスシンボリさんが入りましたね。

 上位人気が予想される面々はこんなところです』

 

番組収録は前々日投票の結果が出る前なので、こういう言い方になる。

 

『枠順に有利不利はありそうですか?』

 

『これといったものはないと思われますね。次にレース展開ですが』

 

『ファミーユリアンさんが逃げますか?』

 

『他に強い逃げウマが見当たりませんので、自ずとそうなります』

 

食い気味のキャスターからの質問に、淡々と答える解説者。

すでに慣れてしまっている雰囲気だ。

 

『セントライト記念や、前走のメジロフルマーさんを見るに、

 彼女に競り掛けていく子はいないと思います。

 前走より距離が延びますのでなおさらですね』

 

『言っちゃなんですが、自殺するようなもの?』

 

『言葉は悪いですが』

 

あいまいに頷く解説者。

ましてや最長距離のG1。自然な意見だった。

 

『有力バに後ろから行く子が多いので、

 どういうペースを選択するのかが見どころとなります』

 

『メジロデュレンさん、メリーナイスさん、そしてサクラスターオーさん。

 このあたりの子たちは中団でしょうか』

 

『そうですね。シリウスシンボリさんはそんな中団の少し前、

 先行勢の後ろあたりになるでしょう』

 

『ファミーユリアンさん、今回はどういうペースを作るでしょうか。

 早いのか、遅いのか、平均ペースか、あるいは、菊花賞の時のような

 可変式の変則ペースになるのか』

 

『こればかりは、レースが始まってみないとわかりませんね。

 ファミーユリアンさん自身もそう考えているかもしれません』

 

『ファミーユリアンさんの第一の魅力が、

 そんな自在性のある先行脚質ですもんねぇ。

 で、番手からでもレースができる。まさに「幻惑」』

 

『はい。どんな展開にも対応できます。

 スタミナも菊花賞で実証済みですので、本命という点は揺るがないでしょう』

 

『第二の魅力、逃げて差す末脚を、また見たいですねぇ』

 

解説者の言葉に、満足そうに頷くキャスター。

 

『対抗バとしては、やはりサクラスターオーさんですか?』

 

『地力からすると、そうなりますね。G1を連勝してきていますし、

 勢いもあります。有記念のときのように、

 早めに捕まえることができれば、勝機はあるでしょう』

 

『シリウスシンボリさんはどうですか。

 前走で2年ぶりの勝利、それも3000mでレコード駆けしてます。

 その2年前の勝ち星は、何を隠そう、この春の天皇賞でした』

 

『彼女も力はあるんですが、別の意味で、

 始まってみないとわからない面があるので』

 

『ムラっ気、というんですかね。

 実際、2年間は好走はすれども勝てなかったわけですし』

 

『ちょっと信頼感には欠けますね。3番手まででしょう』

 

番組はその後、関係者のコメントなどを紹介し、終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「リアン先輩、そんなの持ってたんですね?」

 

京都への移動中の新幹線車内。

例によって、スターオーちゃんと相席で向かうことになった。

 

席に着いたところで、荷物から音楽再生用の機械と

イヤホンを取り出して装着しようとしたら、スターオーちゃんから

そんな質問が怪訝そうに飛んできた。

 

しまった。彼女としては、菊花賞のときみたいに

わいわいおしゃべりしながら行くのを想定していたんだろう。

いきなりこっちに集中しますも同然の行動は避けるべきだったか?

 

「音楽ですか? 何を聞くんです?」

 

いや、単純に興味がありますって顔だな?

深読みし過ぎた。反省。

 

「聞いてみる?」

 

「はい。……これは?」

 

試しにイヤホンを渡して、再生させてみる。

スターオーちゃんの眉がハの字に曲がった。

 

「英語、ですか?」

 

「そう。英会話の教材」

 

よくある、聞き流すだけで英語ができるようになるというやつだ。

 

イベント出演時だったり、こうした遠征時だったりの

移動する時間や空き時間が増えたので、そこを何か有効活用できないかと思って、

方々に聞いて回ってみた結果、ルドルフから示されたのがこれだ。

 

ルドルフが言うには、『空いた時間を最大限に有効活用できる』そうで、

特に移動の時間に使うには最適だとか。

さらには、これからはグローバルな時代だから、

英会話をできるようにしておいて損はないってことなんだと。

 

さすが海外遠征まで企図したやつの言うことは違うね。

おススメの教材も教えてもらったので、思い切って購入し、

今まさに勉強中というところである。

 

まあ成果のほどはまだまだなんだけどね。

今年になって始めたばっかりだし、ようやく少しずつ、

ネイティブの人が話す英語がわずかながらも分かりかけてきたかな?

という段階だ。

 

こんな俺でも好成績を維持できているように、前世よりも

頭の出来が根本的に違うようで、そこに期待かな?

 

「英語勉強してるんですか?」

 

「うん。移動の時間で何かできることないかって相談したら、

 ルドルフからこれをお勧めされてさ。始めてみたんだ。

 あいつも最初はこれから入ったって言ってたな」

 

「へえ、会長からですか。

 ちなみに会長って、英語話せるんです?」

 

「英語は普通に。あと、フランス語とかもわかるみたいよ」

 

「えーすごい。意外でもないけど意外ですね」

 

あいつは頭も良いからなあ。

レースや生徒会で忙しいのに、学年首席で居続けるくらいには頭が良いよ。

 

というか、シンボリ家の皆様はみんな頭が良い。

お父様もお母様も一流大学の出らしいし、

スーちゃんも海外志向だっただけあって、数か国語はわかるみたい。

 

ああ見えてシリウスも、成績は何気に優秀だ。

 

「英語かあ。やっぱりこれからの時代は必須ですかねぇ」

 

「かもしれないね」

 

スターオーちゃんも将来、海外とか考えてるなら是非。

君くらいの実力があれば通用すると思うよ。

 

「わたしもやってみようかなあ……

 あ、邪魔しちゃってすいません。お返しします」

 

「うん」

 

イヤホンを返してもらって、自分の耳に付ける。

 

さて、京都までの2時間ちょっと。

英語を聞き流しつつ、居眠りでもしながらいきましょうかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さあ春の天皇賞、発走が迫りました。

 最終の展開予想をお願いします。ファミーユリアンが逃げますね?』

 

発走時刻が迫り、各ウマ娘たちがゲート後方へ移動していく。

 

『間違いなく逃げますね。注目はペースです』

 

『早くなりますか?』

 

『他に有力な逃げウマがいないだけに、そこは読めませんね。

 いずれにせよファミーユリアンが単独で逃げて、

 後続勢がいつどこでどう動くか、という点に尽きるかと思います』

 

『有記念のようになれば、

 早めに捕まってしまうということもあり得ますか?』

 

『それも十分にあり得ます。逆に、誰も鈴を付けに行かず、

 そのまま差をつけて逃げ切ってしまうという展開も十二分にあります』

 

『難しい流れになりそうです。さあファンファーレ!』

 

G1のファンファーレが鳴り響いて、枠入りが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スタンドのほうでファンファーレが鳴っているのが、遠巻きに聞こえてくる。

内枠のほうから順番にゲート入りが始まった。

 

「リアン先輩」

 

隣の隣、10番枠のスターオーちゃんが歩み寄ってきて、声をかけてきた。

 

「改めまして、勝負です。

 今のわたしにできる精一杯をぶつけますからね」

 

「うん、望むところだよ。全力で勝負だ」

 

「はい」

 

右手をグーにして突き出すと、スターオーちゃんも同じようにして、

拳を軽く突き合わせた。そして、微笑み合う。

 

外のほうへ視線を向けると、こちらをじっと見つめていたシリウスと目が合った。

 

あいつとも2度目の実戦になるな。

前回の有では、俺もあいつも負けて

中途半端な結果になっちゃったからな。

今度こそ完全に決着を付けようじゃないか。

 

「……ふん」

 

同じようにしてあいつにも拳を向けたら、無視されてしまった。

まあ期待はしてなかったけれども、なんか反応してくれてもいいじゃないかよ~。

 

「8番、入って」

 

「はい」

 

係員の指示に従ってゲートイン。

全員が入り終えるまで少し待たされる。

 

緊張の一瞬……

 

 

――ガッシャン

 

 

よしっ!

 

ゲートが開くのと同時に、満を持してスタート。

今日も自分の中でのタイミングは完璧だった。

他の子よりもひと呼吸は早かったんじゃないか。

 

何はともあれ、日本での最長距離G1であり、

ダービーを除けば、最も権威のあるレースとも言っていい春の天皇賞。

 

みんな、俺についてこられるもんなら、ついてきてみな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『春の天皇賞、スタートしました。ファミーユリアン、いつものように好スタート。

 1人だけポーンと飛び出してぐんぐん加速していきます』

 

『2番手9番、4番が3番手につけます』

 

『ほか有力バは中団以降か。1周目坂を下ってホームストレートへ』

 

『順位を整理しましょう。ファミーユリアン単独で逃げます。

 早くも5バ身はリードを取りました。ペースはどうか』

 

『まもなく最初の1000mを迎えます。59秒3で通過しました』

 

『9番4番が続いて、メジロデュレンここにいます。

 並んでサクラスターオー、今日は前目につけています』

 

『メリーナイスは後方から。さらにもう1人、なんと16番シリウスシンボリ、

 今日は最後方からになった。これは作戦なのか?』

 

『先頭からシンガリまで、20バ身くらいか。縦長になりました』

 

1コーナーを回った段階で、スターオーとシリウスの作戦が綺麗に別れた。

 

スターオーは有の再現を狙ったか、リアンの逃げをスローになると読んで、

前半を前目につけるという決断をした。

 

一方のシリウスは、反対にハイペースの展開になるだろうと踏み、

思い切って最後方に控えるという判断である。

 

この違いがどう出るか、現段階では誰にもわからない。

 

『さあファミーユリアン飛ばしていく。後ろとは10バ身以上離れたぞ。

 早いのか、どうなんだ? このペースでいいのか、このまま行ってしまうのか?』

 

向こう正面に入って、リアンのリードはさらに広がった。

誰も追いかけようとしない。

最後方のシリウスとは、もう100メートル以上の差が付いた。

 

『京都の第3コーナー、難所の坂を登ります。

 菊花賞の再現なるかファミーユリアン。状況は極めて似てきたぞ』

 

『あとは足が、スタミナが持ちますかどうか。

 2番手10番サクラスターオー早くも上がってきた。ますます菊花賞の再現か。

 さながらリプレイを見ているかのようだ』

 

坂を登り切ったところで、スターオーが単独2番手に上がった。

そして後方でも動きがある。

 

『外からシリウスシンボリもまくって上がってきた。3番手を窺う勢い』

 

『先頭は依然ファミーユリアン、脚色は衰えないぞ! 逃げ切ってしまうのか!?』

 

リアンが差をつけた単独先頭のまま、4コーナーの植え込みを回った。

2番手スターオーとの差はまだ10バ身以上。

シリウスが単独3番手に上がり、その後ろとはまた差が開いた。

 

『さあ逃げる、ファミーユリアン逃げる!

 後ろのサクラスターオーとはまだ10バ身以上あるぞ!』

 

『スターオー迫れるか? いやスターオー伸びない!

 スターオーここまでか? 逆にシリウスシンボリ迫る! かわして2番手!』

 

直線半ばで、スターオーの脚色が明らかに鈍った。

後方から迫ったシリウスになすすべなくかわされ、3番手に落ちる。

 

『ファミーユリアン先頭! リードは5バ身から6バ身!』

 

『シリウスシンボリ猛然と追い込んだ! 一気に差が詰まる!』

 

最後の1ハロン、さしものリアンも脚色に陰りが見える。

そこを突いたシリウス。みるみるうちに差が詰まった。

 

『必死の形相ファミーユリアン粘れるか!?

 1完歩ごとに迫るシリウス、届くか? 届くのか!?

 脚色は完全にシンボリ!』

 

4バ身、3バ身、2バ身……

 

――だが届かない。

 

『しかしファミーユリアン逃げ切った! ゴールインッ!

 菊花賞に続いて京都の長丁場を制したのはファミーユリアン!』

 

シリウスもよく追い込んだが、1バ身半まで迫ったところがゴールだった。

 

『シリウスシンボリ追い込んで2着!

 離れてサクラスターオー3着入線です!』

 

シリウスから遅れること5バ身でスターオーが3着。

4着メジロデユレンとはさらに3バ身離れた。

 

『勝ち時計3分13秒2! もう1度申し上げます。勝ち時計は3分13秒2!』

 

『レコード! 従来のニチドウタローのレコードを5秒半も縮めました!

 なんということだ。菊花賞に続いてのスーパーレコード樹立ぅ!』

 

アナウンサーも思わず声が上ずってしまうほどの勝ち時計。

当然のように日本レコードをも同時に更新している。

 

これでリアンは、2400、2500、3000、3200の4つの日本レコード保持者となった。

 

『あっとファミーユリアン、ゴール直後に前のめりに倒れ込んだ。

 大丈夫か!?』

 

ところが、歓喜のゴール直後にアクシデント発生。

 

ゴールしてすぐのところで、リアンがばたりと倒れてしまった。

予期せぬ事態に、大歓声が上がってきた場内は、瞬く間に静まり返ってしまう。

 

『スターオー駆け寄った。ゴールした各バも心配そうに横を駆け抜けていきます。

 シリウスシンボリも戻ってきた。脇にしゃがみ込みます。

 何がありましたか……心配です……』

 

追い込んだ勢いそのままに、かなり遠くまで行ってしまっていたシリウスも、

事態に気付いてすぐに取って返し、リアンのすぐ脇にしゃがみ込む。

 

ゴールの瞬間には歓声を上げた観客たちだったが、

すぐに静まり返り、固唾を飲んでその様子を見守るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リアン先輩ッ!」

 

倒れ込んで少しの間動けなかったが、スターオーちゃんの声で我に返った。

 

「リアンッ! どうした!?」

 

遅れてシリウスもやって来たみたいだ。

2人ともえらい血相変えた声色だが、そりゃそうか。

ゴール直後に倒れれば、そりゃ心配するよ。

 

とりあえず起き上がらないとな。よいしょ……っと。

 

「先輩! 大丈夫ですか!?」

 

「うん、だいじょうぶ……疲れて足がもつれちゃっただけ」

 

「……なんだ」

 

「っち、心配かけさせやがって。大丈夫ならすぐに立ちやがれ。

 紛らわしい真似するんじゃねえよ」

 

「たはは、ごめんごめん」

 

上体を起こし、正座の体勢になったところで、2人に謝った。

本当に申し訳ない。もつれた足がみんな悪いんじゃよ。

さすがにこのペースでの3200逃げ切りは、相当ダメージが来たみたいだ。

 

「怪我ではないんですよね?」

 

「うん」

 

「急病とかでもありませんよね?」

 

「平気平気。本当にただコケちゃっただけ」

 

「ふ~っ……よかったです」

 

俺の顔を覗き込むようにして、心配そうに尋ねてきたスターオーちゃん。

2回の返答を経て、ようやく安心してくれたみたいだ。

大きく息を吐き出して微笑んでくれた。

 

「立てますか?」

 

「うん。……ありがと」

 

スターオーちゃんに手を貸してもらって、立ち上がる。

一張羅の勝負服に芝やら土やらが付いてしまった。いかんいかん。

軽く払ったところで、ハタと気づいた。

 

2人がこれだけ心配しているくらいだから、お客さんたちはもっとだよな。

そっちにもお詫びをせねば。

 

観客席のほうに向かって、深く腰を折ってぺこりと頭を下げた後、

大丈夫だとアピールするために両手を挙げて振った。

 

途端に湧き上がる大歓声。

みなさん重ねて申し訳ない。でも、勝ったどー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あっ、どうやら大丈夫のようです。立ち上がって手を振っています。

 いやあ心配しました』

 

『どうやら転んでしまっただけのようですね。ひと安心です』

 

再びの大歓声の中、係員に連れられ、リアンは引き上げていった。

 

「ったく、人騒がせな奴だ」

 

「そうですね」

 

見送ったシリウスとスターオー。

困ったものだとばかりに苦笑を浮かべる。

 

「しかし、今回は完敗でした」

 

「……そうだな」

 

一転して、今度は眉間にしわを寄せる2人。

 

特に、ペース判断を誤ったスターオーのほうは深刻だった。

では勝ったシリウスにも、先着を許してしまったのだから。

 

「やっぱり強いですね、リアン先輩は」

 

「そうだな」

 

「あなたにも負けてしまいましたし」

 

「ふん」

 

そう言って笑いかけるスターオーに、

シリウスはぶっきらぼうに鼻を鳴らして目を逸らした。

 

「宝塚で再びリベンジですね。もちろんあなたにも、ですよ」

 

「はっ、言ってろ」

 

リアンが引き上げていったほうを見やりながら、

決意を新たにする2人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「放送席放送席、勝利インタビューです」

 

レース確定後、恒例のインタビューを受ける。

 

「春の天皇賞を制しましたファミーユリアンさんです。

 おめでとうございます」

 

「ありがとうございます」

 

「まずは、皆さん大変心配されていることかと思います」

 

まあそう来るよな。

絶対最初に聞かれると思っていた。

 

「お身体に異常はありませんか?」

 

「はい、申し訳ありません、ご心配をおかけしました。

 足がもつれて転んでしまっただけなので、大丈夫です」

 

「それを聞いて安心しました」

 

周りのみんなが総じてホッとしている様子がわかる。

本当すみません。スーちゃんにも怒られました。

 

「ではレースを振り返っていただきたいのですが、

 スタートからゴールまで先頭を守り通しました。

 全て予定通りですか?」

 

「そうですね、概ね上手く行ったんじゃないかと思います」

 

ハイペースで逃げたのも予定通り。

前走のことがあって、挑んでくるなら喜んで受けて立つところだったんだけど、

結局は誰もついてこなかったね。

 

磨り潰してやる気満々だったんだけどなあ。

 

「3分13秒2という、大驚愕のタイムが出たことについてはどうですか?」

 

「ええと、まあ、そこまで狙っていたわけではないので。

 ですが、結果は結果として嬉しく思います」

 

「最後はシリウスシンボリさんに迫られました。

 お気付きでしたか?」

 

「来るだろうなとは思ってました。

 最後は私も足が上がってしまったので、誰かしらは、はい」

 

「1バ身2分の1凌いだところがゴールでした」

 

「はい、ええと、危ないところでしたね」

 

言われるまで気づいてなかったのは秘密。

そこまで迫られてたのか。やるなあ、あいつ。

 

スターオーちゃんと並んできているかもしれないとも思ったけど、

今回はシリウスの底力が勝ったようだね。

 

「次走は宝塚になりますか?」

 

「はい、おそらくは」

 

「宝塚でも、圧巻の逃走劇を見せてください」

 

「がんばります」

 

「ファミーユリアンさんでした。放送席どうぞ」

 

軽く頭を下げて、インタビュー終了。

 

ふう~っ、毎回そうだけど緊張する。

このあとのウイニングライブもだ。

何回やっても慣れるものじゃないよ、まったく。

 

 

 

 

第97回天皇賞 結果

 

1着  8 ファミーユリアン  3:13.2R

2着 16 シリウスシンボリ   11/2

3着 10 サクラスターオー   5

 

 




生まれも育ちも関東なもので、
関西弁がおかしくてもご容赦ください。

仮にリアンが海外遠征する場合、初戦は何が良いですか?

  • ドバイワールドカップ
  • ドバイシーマクラシック
  • ガネー賞(仏)
  • クイーンエリザベス2世カップ(香港)
  • アメリカ遠征
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