転生孤児ウマ娘の奮闘記   作:しょうわ56

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第6話 孤児ウマ娘、絶望する

 

 

 

5月の大型連休明け。

 

疲れや睡眠不足と戦いながらも、どうにかハードワークをこなす日々。

連休中はルドルフが実家に帰っていたので、

これ幸いとばかり、より厳しい鍛錬を自分に課した。

 

実馬のブルボンは、1日に多いと5本も坂路を駆け上がったという。

ならば、俺はそれ以上の本数をこなさないと、

少なくともブルボン以上の実績は残せそうにない。

 

がんばった。がんばったんだけど……

さすがに5本は無理だった。3本で足が死んだ。

4本目なんてとてもとても……

 

なんて自分で止めるまでもなく、3本目が終わった段階で、

そこらへんで見ていたトレーナーの1人に、もうやめろと制止されたよ。

 

無関係の人に止めなきゃいけないと思われるほどヘロヘロだったかな……

確かにその日は、寮に戻ることさえ苦痛だった。

 

苦痛と言えば、運動量を増やしたので、食事量も増やさねばならず、

こちらも苦痛と言えば苦痛である。

食べたい、食べなきゃとは思うんだけど、身体が受け付けてくれないんよ。

 

無理に食べると、決まって気持ち悪くなって、最悪おえってしちゃうし。

 

おかげで、思うようにトレーニングはできないわ、

そのくせ疲労は溜まる一方だわ、体重は増えるどころか減ってばかりで……

 

本当、オグリやスぺなんかの大食い自慢が羨ましいよ。

あれだけのトレーニングをして、どこに太る要素があるんだと問い詰めたい。

 

 

 

 

 

今日も放課後が訪れた。来て、しまった。

 

近頃は、トレーニングに行くのがつらい。怖い。

いくらがんばっても報われないのではないか、

きつい思いをするだけ無駄なのではないか。

 

そんな思考が、気を抜くとすぐに出てきてしまう。

 

アプリみたいに、自分の能力が数字でわかるんなら、

成長できていることを自覚できて大助かりなんだけどなあ。

 

……な~んて馬鹿なこと考えてないで、トレーニング行こ。

 

終業後、考え事をしていたせいで、教室内の人影は既にまばら。

完全に出遅れてしまった。俺も早く行かなければ。

 

そう思い、自席から立ち上がろうとしたときだった。

 

「ファミーユリアンさん、いらっしゃいますか?」

 

教室の前のドアから、緑色のスーツを着込んだ、1人の女性が現れた。

 

あ、あれは、理事長秘書の駿川たづな!?

なぜうちの教室に? しかも、いま俺を呼んだか?

 

「ファミーユリアンは、私ですが……」

 

「よかった、いらっしゃいましたか」

 

おそるおそる、手を上げつつ名乗り出た。

 

教室に残っているほかの生徒たちが、なにやらヒソヒソ話をしている中、

彼女は俺を認めると、笑みを浮かべならゆっくりと歩み寄ってきた。

 

な、なんだこの、言いようのない巨大なプレッシャーは!?

これが泣く子も黙るという(嘘)、理事長秘書だというのか。

 

伊達に『緑の〇魔』と揶揄されていないな(汗)

 

「ファミーユリアンさん」

 

「は、はい」

 

「理事長がお呼びです」

 

「……はい?」

 

 

 

 

 

な、なんだ、何事だというんだ……

ただの一介なウマ娘の俺に、理事長のような偉い人が、どんな用がある?

 

落ち着け……落ち着いてよく考えろ。

 

俺、何かやらかしちゃった?

全然そんな覚えなんてないんだけど……

 

でも普通に考えて、理事長や学園長が生徒を呼び出すなんて、

不祥事や悪い話以外にないよなあ?

 

ま、まさか、退学とか!?

 

い、いや、そんな、それこそまさか。

俺まだ何も……

 

何もしてなかったわ……

 

ここまで来ると逆にそれが悪いレベル?

選抜レースでの成績が悪すぎて、トレセン学園にはふさわしくないって思われた?

 

『中央を無礼(なめ)るなよ』ってことかい?

 

マジで? マジか……マジかぁ……

 

入学してわずか1ヶ月でこんな仕打ち、あんまりだ。

たったのひと月で何を示せというんだ?

そりゃ、速い子は最初から速いだろうけど、中には晩成タイプの子もいるかもしれない。

 

それを、こんな早い段階で足切りしちゃうのか?

だったら合格させなければいいのに。

 

院長になんて言い訳すれば……

いやそれより、明日からどこに住めばいいの?

ホームレス一直線? そんなの……

 

「着きましたよ」

 

「!!」

 

色々なことが浮かんでは消えてを繰り返しているうちに、

たづなさんの案内は終わり、理事長室のドアの前。

 

「理事長、ファミーユリアンさんをお連れしました」

 

『入りたまえ』

 

たづなさんがノックして声をかけると、中からそんな声が返ってきた。

 

アプリでよく聞いた声。

どうやら毎回ガチャで現れてほしい、あのちんまい理事長は健在らしい。

 

「歓迎ッ! さあ、かけてくれたまえ」

 

「し、失礼します……」

 

室内に入ると、予想通り、あの理事長が扇子を広げつつ、笑顔で迎えてくれた。

 

どうやら怒っているという雰囲気ではなく、少しホッとしたが、

まったくもって油断はできない。

 

「さて、君を呼んだのは――」

 

「あのっ!」

 

「――っ?」

 

だから、先手を打つことにした。

 

「ここを追い出されたら私、他に行く当てがないんです!

 だから退学だけは……退学だけは何卒ッ……!

 次のレースでは必ず結果を出しますので!」

 

俺にできることは、もうこれしかなかった。

お涙ちょうだい作戦。情に訴える道しかないのだ。

 

もう決定事項なら覆るとは思えないが、せめてもの情けを……

 

「今はまだ底辺も底辺かもしれませんが、次の……

 次のレースでは、必ず成長した姿をお見せします!

 ですので退学だけは――ッ!」

 

「ファミーユリアンさん落ち着いて!」

 

掛かってしまった俺を、たづなさんが慌てて制止する。

思わず立ち上がりかけてしまったので、彼女の手が俺の肩にかかった。

 

……すごい力だった。

 

「そういう話ではありませんから!

 誤解させてしまったのなら謝ります」

 

「……退学じゃ、ない?」

 

「はい。ごめんなさい、はじめに説明するべきでしたね」

 

「………」

 

誤解? 早とちり?

……はは、なんだ。俺もルドルフのこと言えないじゃないか。

 

落ち着いた途端、全身から嫌な汗が噴き出してきた。

 

「どうぞ」

 

「す、すいません」

 

察してくれたたづなさんから差し出されたハンカチ。

恐縮して顔をぬぐう。すごく良い匂いがした。

 

でも、退学ではないとすると、いったい何の話なんだ?

 

「疑問ッ! 行く当てがないとは?」

 

「理事長。この子は孤児院の出身なので……」

 

「そうか、そうだったな」

 

まあ知らないはずはないよな。

入試の際には書類審査もあるはずだ。

 

「理事長、本題に入りましょう」

 

「む、そうだな」

 

理事長はたづなさんとの会話を終えると、

改めてこちらへ向き直り、俺をまっすぐ見据えながらこう言った。

 

「先日、とあるトレーナーから報告があった。

 新入生の1人のウマ娘が、無茶なトレーニングをしていると」

 

「……」

 

……あの人か。

告げ口するとはやってくれる。

 

いやまあ、俺の身を案じてのことだとはわかるけどさ。

 

「確かめてみると、君であることが分かった。

 懸念ッ! 君はなぜそのような無茶を続けるのか?

 このままでは故障するのは必定と、彼は言っていたぞ」

 

なぜ……と言われても……

強くなるため、としか……

 

「御覧の通り、私は小柄です。パワーもない。

 だからこそ、いっぱいトレーニングして、力をつけなければ。

 そう考えるのは不自然でしょうか」

 

「それで身体を壊しては、元の木阿弥ではないか?」

 

「………」

 

現時点では精いっぱいの回答も、理事長に一刀両断されてしまった。

 

……じゃあどうしろと?

このまま弱いままでいろってんですか?

 

トレーニング内容の助言を求めようにも、通常の教官では高が知れている。

かといって専門家のトレーナーも、契約してもらえない限りは口出しできない。

 

どうしろってんだよ!? 詰んでるじゃないか!

 

「まあまあ理事長、いきなりでファミーユリアンさんも

 困惑しているでしょうし、その辺で」

 

「む、そうだな。少々高圧的だったか」

 

「………」

 

俺のボルテージが再び上がっていくことに気づいたのか、

再びたづなさんから制止が入って、理事長も矛を引っ込めた。

 

俺としては、爆発する機会が失われて、肩透かしを食らった気分なり。

やり場のなくなったこの思い、どうしたらいい?

 

ここで暴れたところで、立場をより悪くするだけだと思うけど。

それこそ退学処分だな。ワラエナイ。

 

「いいですかファミーユリアンさん。大前提として、

 トレセン学園は教育機関という側面も持っています。

 ですので、レースで結果が出ないからといって、

 即座に退学になるようなことはありませんから、安心してください」

 

「……そうなんですか?」

 

「ええ。中には本格化の遅い子もいますし、その点は大丈夫です」

 

「本格化……」

 

それだ、そこがよくわからんのよ。

 

ウマ娘には、急激に身体や能力が成長する、所謂『本格化』と

呼ばれる現象が起こるらしいのだが、個人差がひどく大きいらしいのだ。

 

それこそニシノフラワーのように飛び級するような子もいるし、

十代後半でようやくという、大器晩成型もいると聞く。

 

他の連中はもう来ているのだろうか?

 

「基本的に、本格化を迎えてからデビューという運びになります。

 ですから何も心配することはありませんよ。

 私の所見ですが、あなたはまだ本格化していないようですし」

 

「………」

 

人間でいう、第二次性徴と同じ感覚なのかなあ?

 

だとすると、ゲーム上で小柄なままデビューを迎えるウマ娘、

例えばアグネスデジタルとか、タマモクロスとかはどうなんだろう?

 

本格化してあの体躯なのか?

それとも、まだ私は変身を残している、という状態なのか?

 

あるいは、身体の成長と競争能力には、関係がないのか?

 

うーん、謎だ。

公式が言及しているわけではないはずなので、深く考えるだけ無駄かな?

 

「なので、今はまだ無理をするときではありません。

 しっかりと学力を整え、基礎体力の向上を目指してください」

 

「……はい」

 

そうなるのかあ。基礎トレーニングなあ。

あくまで通常メニューの範囲内で、と言うのだな?

 

「ですが、ゆめゆめ油断はなさらないように。

 お分かりだとは思いますが、ここは勝負の世界です」

 

「………」

 

「自分の限界を悟ったり、違う道を模索したりして、

 学園から去っていく子たちは少なからずいます。

 あなたがそうならないことを、理事長も私も、心から願っています」

 

「同意ッ! がんばれ若人よ!」

 

理事長はご自分も若いんじゃないんでしたっけ?

まあいいや。

 

たづなさんのおかげで、当面の危機は去った。

最後に釘を刺すことも忘れない、大変ありがたかったよ。

 

俺は来た時とは打って変わって、実にすっきりさっぱりして、

2人に対して頭を下げて理事長室を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リアンッ!」

 

「え……うわ」

 

部屋から出たところで、なんとルドルフに出くわした。

いや、出くわしたでは済まない。飛びつかれた。

 

「理事長に呼び出されたと聞いた。無事か!?」

 

俺の両肩を掴んで、揺さぶる勢いで尋ねてくるルドルフ。

 

無事かって、なにその聞き方。

理事長は凶悪なモンスターか何かなのか?

そこまで焦ることかよ。

 

「この通り、何もないよ。少しお話しただけ」

 

「そ、そうか」

 

俺の言葉にルドルフはあからさまにホッとして、

胸を撫で下ろした様子で大きく息を吐きだした。

 

というかおまえ、トレーニングはどうしたんだ?

 

「リアンが呼び出されたと聞いて、いてもたってもいられず……」

 

おいおい、これがあの皇帝陛下の姿か?

恥ずかしそうにモジモジする様子は、年頃の乙女そのものじゃないか。

 

はっきり言おう。かわいい。

普段の凛とした姿もいいが、年相応というのも良きものよ。

 

それにしても耳がお早いことで。

 

教室には他の子もいたから、そこから広まったんだろうな。

すでに全校中の噂になっているかもしれない。

 

はぁ、やれやれだ。

校内放送がかからなかったのは、まだ幸いかもな。

放送されていたら、校内にいる全員の耳に入っていたことになる。

 

「はいはい、わかったから、早くトレーニングに戻りなさい。

 先輩たちにちゃんと謝るんだよ?」

 

「む、それくらい言われずともわかっている。だいたい――」

 

「はいはい、行った行った」

 

「ちょ……また後でな!」

 

強引にルドルフを押して、練習へ戻らせる。

 

こっちもやれやれだ。

 

俺の心配をしてくれるのはうれしいし、助かることもあるけど、

おまえは七冠を制するウマ娘なんだ。

ただのモブたる俺とは違う。悲しいことだけどな。

 

俺なんかに時間を浪費するな。自分のために使え。

 

……なんてな。柄にもなくかっこつけてみた。

キャラが違うのは重々承知してるから、苦情やツッコミは受け付けません。

あしからず。

 

さてそれじゃ、今日はもう寮に戻って休むとしましょう。

 

無茶をする必要はないとわかったので、

まずは、身体を早く万全な状態に戻さないとな。

 

 

……パキッ

 

 

 

「え?」

 

歩き出そうとして、右足を前へと出した瞬間、

そんな嫌な音が、その右足から聞こえたような気がした。

 

 

 

 




Q.秋川やよい嬢は、ルドルフ入学当時から理事長なの?

A.

            /)
           ///)
          /,.=゙''"/
   /     i f ,.r='"-‐'つ____   こまけぇこたぁいいんだよ!!
  /      /   _,.-‐'~/⌒  ⌒\
    /   ,i   ,二ニ⊃( ●). (●)\
   /    ノ    il゙フ::::::⌒(__人__)⌒::::: \
      ,イ「ト、  ,!,!|     |r┬-|     |
     / iトヾヽ_/ィ"\      `ー'´     /


実際のところ、公式で言及してくれないので不明としか……

仮にリアンが海外遠征する場合、初戦は何が良いですか?

  • ドバイワールドカップ
  • ドバイシーマクラシック
  • ガネー賞(仏)
  • クイーンエリザベス2世カップ(香港)
  • アメリカ遠征
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