ジャパンカップの次の週末。
俺はまた、スターオーちゃんのお見舞いに病院へやってきた。
というのも、紹介したい人がいるとのメッセをもらったからだ。
すわ恋人か!? なんて焦ったりはしていない。
あの子のことだから、そんなことはないと思うし、
同じクラブ出身の子だとの記載があったためだ。
それだけでなんとなく察しはついた。
元がサクラの子といえば、『ヴィクトリー俱楽部』。
そして、スターオーの次のサクラとなれば……
「スターオーちゃん、いる?」
「あ、リアン先輩、お疲れ様です」
個室であるスターオーちゃんの病室を覗いて声をかけてみると、
彼女の明るい声が返ってきた。
「入ってもいいかな?」
「どうぞどうぞ」
「それじゃ失礼しますよ~っと」
許可をもらって中へと入る。
ベッドの上には、ニコニコしているスターオーちゃんの姿。
そのベッドを挟んだ向かい側には、やや緊張した面持ちの子が1人。
おお、やはりか。
「お呼び立てしてしまってすみません。
ジャパンカップ後の体調はいかがですか?」
「多少の疲れはあるけど、気にするほどじゃないよ。
有馬記念も控えてるから、気張らないとね」
「そうですか。くれぐれもご自愛くださいね」
「うん」
やはりスターオーちゃんの声は明るい。
表情も朗らかだし、どこか吹っ切れたような印象。
ジャパンカップでの激励は無駄ではなかったか。
よしよし。
「2年連続ファン投票1位は間違いないでしょう」
「いやあお恥ずかしい限りで」
発表は来週だったかな?
スターオーちゃんの言うとおり、まあそうなるだろう。
元より出走する予定でメニュー組んでる。
「あ、どうぞ座ってください」
「うん」
勧められるままに、ベッド脇に置かれているパイプ椅子に腰を下ろす。
すると、それまで向こう側で控えていた例の子が、
スターオーちゃんに目で促されて、俺の前へとおずおずとやってくる。
「お、お会いできて光栄ですっ」
そして、ペコっと頭を下げた。
犬耳みたいな横の髪がぴょこんと揺れる。
「リアン先輩、紹介します。
ヴィクトリー倶楽部の後輩、サクラチヨノオーちゃんです」
「サクラチヨノオーと申します。よ、よろしくお願いします!」
スターオーちゃんから紹介されて、再び頭を下げるチヨちゃん。
さっきから気付いてたけど、
まさか紹介される前に声に出すわけにはいかないからね。
トレセン入学前だからか、アプリ版よりも少し小さい印象を受けるが、
やっぱりというかなんというか、しっかり“チヨちゃん”だった。
「はじめまして、ファミーユリアンです」
「ご、ご活躍のほどはかねがね……
うわあ、本物のファミーユリアンさんだあ……」
感激している様子のチヨちゃん。
ここまで喜んでもらえると、恥ずかしくもあるけど、
それ以上に嬉しくなってくるね。
「チヨちゃんは、来年トレセン学園に入学するんですよ」
「そうなんだ。じゃあ4月にまた会えるね」
「え、えと……まだ入学できると決まったわけでは……」
「大丈夫、チヨちゃんなら絶対合格するから」
「そ、そうですかね……」
スターオーちゃんからそう言われて、照れるチヨちゃん。
まあ確かに試験はこれからだし、一般的には、合格するとも限らない。
だけど、史実のダービー馬を落とすなんて真似は、絶対にしないと言い切れる。
「サクラチヨノオーちゃん?」
「は、はいっ」
「私も、チヨちゃんって呼んでもいいかな?」
「あ、はい、どうぞ呼んでくださいっ」
「じゃあ、チヨちゃん」
「はい! えへへ……」
ああもう、かわいいなあチヨちゃん。
このかわいさは反則だろう。
思わず抱きしめたくなっちゃうくらいだ。
「そうだ、スターオーちゃん、一緒に写真撮ってもいい?」
「写真ですか? 構いませんけど」
「お見舞いに行ったってブログで報告しようかと思って。
ほら、ファンの皆さんも心配してるだろうから」
「そうですね、ファンの皆様には、本当に申し訳ないです」
俺のスレ内でも、心配する声が多数上がってたからね。
決して良い状態とは言えないけど、少しでも彼らを安心させてあげたい。
「顔だけ写るようにするから。いいかな?」
「わかりました、いいですよ」
「ありがと。私と一緒に自撮りするような感じで……
じゃあ、はい、チーズ」
「あ、待ってください。髪ぼさぼさで恥ずかしいです……
チヨちゃん、悪いけどブラシ取ってくれない?」
「私が梳かしてあげますよっ」
その後も俺たちは、こんなやり取りしながら和気藹々として過ごした。
実に楽しいひと時だった。
「チヨちゃんも入る?」
「え、悪いですよ」
「平気平気。将来のダービーウマ娘と出会いましたって、
ファンの人たちに紹介してあげる」
「い、いやいやいや………」
だがしかし、不覚にもこの時、俺は気づいていなかったんだ。
チヨちゃんが登場したということは、
同世代のあの
「……あ、そういえば」
スターオーちゃんのお見舞いで滞在すること1時間余り。
あまり長居するのも悪いということで、2人に引き留められつつも
病室を後にした時、ふと思い出した。
「トニービンもこの病院にいるんだっけか」
ジャパンカップで対戦したトニービンも、
この病院に入院しているという事実。
府中で故障したウマ娘は、ここに運ばれるようにでもなってるとか?
「どうするかな……」
せっかくここまで来たんだ。
真剣勝負して、声をかけてもらった仲として、顔を出しておくべき?
聞いたらどこの病室か教えてくれるかな?
全くの部外者だし無理か?
かなり大きな病院だし、しらみつぶしに捜して回るわけにもいかない。
まあ聞くだけ聞いてみるか……
「あ、すいません」
ちょうど通りかかったナースステーションで、
居合わせた看護師さんに尋ねてみることにした。
「あっさり教えてくれたわ」
実に呆気なく教えてもらえた。
プライバシーどうなってんのと思わないでもないが、
まあ時代ということで納得しておこう。
中にはウマ娘ファンの人もいて、俺のことも一目で見抜かれて
軽く騒ぎになってしまった。仕事に支障が出てしまったのなら申し訳ない。
「えーと、ここかな?」
教えてもらった個室の前へと到着。
なんてことはない。スターオーちゃんの部屋のすぐ近くだった。
そりゃ同じフロア・エリアに集めるだろうなと、後になって気付いた。
でも実際やってきたのはいいものの、なんて声を掛けたらいいのか悩むな。
やっほートニービンさん、怪我の具合どお~?
……フレンドリーすぎるわ!
顔見知りとはいえ、1度対戦しただけの相手にこんな真似は出来ん。
はーいトニービン、負けて怪我して入院している気分はどう?
NDK? NDK?
さすがに上から目線が過ぎるわ!
どうしてこんな鬼畜なイメージが浮かぶんだ俺は。
まったくやれやれだぜ……
「FamilleLien?」
「!」
悩んでいたら、不意に名前を呼ばれてビックリした。
「What are you doing?」
(何をしているの?)
「ムーンマッドネスさん」
振り返ると、そこには『貴婦人』ことムーンマッドネスがいた。
貴族のお嬢様風の出で立ちで、二つ名にふさわしい姿だ。
同じくジャパンカップに参戦した彼女。
帰国せずにトニービンに付き添っているのか。
友人同士なんだっけか。さすがの仲良しだ。
「あー、ええと、I came to see TonyBin,
but I don't know what to say……」
(トニービンに会いに来たんだけど、
なんて声を掛けたらいいのかと……)
「I was amazed. You should just say it normally」
(呆れた。普通に声かけて入ればいいじゃない)
なんて声を掛けたらいいのか迷っていると言ったら、
普通に言って入ればいいのにって呆れられてしまった。
いや、その普通が難しいんですよ、『普通』が。
「Follow me」
(ついてきて)
え? 一緒に入ってもいいの?
それは助かる。
「Thanks」
お礼を言って、扉を開けて中へと入っていった彼女へ続く。
そしたら
「うわっ」
思わず声が出てしまうくらいに驚いてしまった。
だって、部屋一面が色とりどりの花々で埋まっていたんだもの。
「You have the same reaction as me, it's so funny」
(私と同じ反応で笑えるわ)
ムーンマッドネスにクスッと笑われてしまった。
彼女と同じ反応?
どうやら彼女も、俺より前に同じ洗礼を受けたようだ。
「Moon?」
「Hi Tony,you've got a guest」
(トニー、お客様よ)
「Guest?」
(客?)
肝心のトニービンは、ベッドの上にいた。
客と聞いて首を傾げるトニービン、その視線が俺を捉える。
「FamilleLien!」
瞬間、彼女の表情がパッと輝いた。
「You've come」
(来てくれたのか)
「Hello, how are you feeling?」
(こんにちは、お加減どう?)
「I'm better now」
(たった今よくなったよ)
具合はどうかと聞いたら、いま良くなったよ、だって。
嬉しいこと言ってくれるじゃないの。
本当、記者会見の時の威圧的で冷徹なイメージとは何だったのか。
別人なのではないかという気さえしてくるよ。
「Please sit down」
(座ってくれ)
「Thanks」
ベッド脇の椅子へと腰を下ろす。
その間に、気を利かせてくれたのか、ムーンマッドネスは、
花瓶を持って部屋から出て行った。
「How are you getting on? Everything all right?」
(調子はどうだ? 問題ないか?)
「No problem」
(うん、ないよ)
「That's good」
(それはよかった)
お見舞いにやって来たのに、逆に心配されてしまった。
俺の故障歴とかも知ってたりするんだろうか。
そうやって微笑むと、年相応の少女に見えるから不思議だ。
「What's wrong with these flowers?」
(このお花はどうしたの?)
「Presented by Japanese fans.
It's disappointing that so many fans expected so much」
(日本のファンからプレゼントされたんだ。
こんなに期待されていたのに情けない)
と思ったら、不意に表情に影が。
期待されてたのに情けないって?
そんなことはないと思うぞ。
現にこれだけの花をプレゼントされてるんだから、
ファンたちは純粋に心配してくれるだけだって。
それに、凱旋門賞馬のジャパンカップの成績って、ね?
あんまり芳しくないことは良く知られて……
あ、そうか、この時代だとまだそんなことは云われてないか。
「What does that say about the monster
who finished fifth despite having a broken bone?」
(骨折したのに5着に入った化け物が何を言うのやら)
と、ここでムーンマッドネスが戻ってきた。
花瓶を台に置きながら、トニービンに横目で言う。
骨折してなお5着に入った化け物? はは、言うねぇ。
さすが友人という間柄だ。軽口が冴え渡っている。
「You're as harsh as ever」
(相変わらず手厳しいな)
手厳しいと苦笑するトニービン。
いや割と真面目に、海外で骨折しつつもG1で入着するのは、
なかなかなことだと俺も思うよ。
ムーンさんは視線が物語っていたように、
半ば本気で呆れてるんじゃないかな?
「Well, anyway, take it easy until your injuries heal」
(とにかく、治るまでゆっくりしてね)
「Ah……」
とにかく俺がゆっくり治してくれと言ったら、
トニービンは窓のほうを見て、見事な冬晴れの空を見上げた。
「Maybe it's time to forget the title of European champion
and relax for a while」
(欧州王者なんて肩書忘れて、しばらくゆっくりするのもいいかもしれない)
肩書忘れてゆっくりしたいって?
うん、それがいい。怪我してるんだからなおさらだ。
「FamilleLien,you're going to run in the アリマキネン?」
(君は有馬記念に出るんだろう?)
「Yes」
再び俺のほうを見て、トニービンはそう聞いてくる。
有馬記念のことまで知ってるのか。
「You beat Tony,if you lose,we won't accept it」
(トニーに勝ったんだから、負けたら承知しないわよ)
俺が頷くと、ムーンさんが負けたら承知しないぞと口を挟んでくる。
「I heard you lost last year」
(去年は負けたそうじゃない)
「Moon」
去年負けてることまで調べてるのか、たまげたなあ。
察したトニービンが窘めに入ってくれるも
「Don't worry, I won't lose」
(心配ご無用、私は負けないよ)
自信を持ってそう言い切れる。
元より背負っているものがあるからね、負けられないね。
うん、スターオーちゃんが復帰するまで、俺は負けない。
「I see」
(了解だ)
「If you know what you're doing, fine」
(わかってるんならいいわ)
トニービンもムーンさんも、俺の答えに満足してくれたか、
2人とも綺麗に微笑んでくれた。
「That said, you can call me Tony if you like」
(よかったら、『トニー』と呼んでもらえると嬉しい)
え? 愛称で呼んでいいって?
突然だったのでムーンさんの表情も確認したら、
彼女は意外そうにしつつも、仕方ないわねとばかりに苦笑していた。
「Then call me Lien」
(それなら私のことも『リアン』と)
「All right, I'll do that」
(わかった、そうさせてもらうよ)
「I can't help it, you can call me Moon too」
(しょうがないから、私のことも『ムーン』って呼んでいいわよ)
そう言って微笑む“トニー”。
対抗したのか、ムーンさんもムーンって呼んでいいわよって言ってくれた。
もちろんムーンにも、リアン呼びを持ちかけて了承してもらったよ。
ひょんなことから、2人と友達になれてしまった。
連絡先も交換したので、彼女たちが帰国したとしても、
やり取りすることは可能である。
やったね?(なぜに疑問形?
リアンが帰った後のトニービンとムーン
「あなた、この短時間で随分とリアンに懐いたのね?」
「嫉妬か?」
「はぁ? 別にそんなんじゃないし!」
友人同士の他愛のないじゃれ合いが行われていた。
「だがまあ、そうだな……」
「へえ、認めるのね」
「強者は強者を認める、というやつかもしれないな」
「なにそれ」
自分で言ってちゃ世話ないわ、というムーンに、
トニービンは再び苦笑する。
「肩書は忘れるんじゃなかったの?」
「そうだったな」
そして、ふふっと幼い少女のように笑った。
「彼女は強い。
いずれ、世界にその名を轟かせることになるだろうさ」
ファン投票の結果、リアンは初めて30万を超える票を得て、
2年連続で1位を獲得。
また、故障で出走できないスターオーにも10万票以上の支持が集まり、
ファンの根強い信頼と、復帰への願いが露となる。
枠順抽選の結果、3枠3番レジェンドクイーン、5枠5番にメジロフルマー、
5枠6番にマティリアル、6枠7番にシリウスシンボリ、
6枠8番にメジロデュレン、7枠9番にスズパレード、
7枠10番にファミーユリアン、という出走表になった。
出走12人という少人数である。
これから本バ場入場だ。
パドックで言っていたけど、俺の支持率85%で、
有馬記念史上での最高支持率更新なんだってさ。
以前はハクチカラが記録を持っていて、76.1%だったとか。
十冠のときのルドルフでさえ超えられなかった記録を、
俺が抜いてしまった。なんて恐れ多いことだろう。
ハクチカラか……
もはや遥か彼方の遠景過ぎて、伝説上の存在とすら思えてくるよ。
「ファミーユリアンさん」
地下バ道をゆっくり歩いていると、後ろから追いついてきた、
これで3度目の顔合わせとなるメジロフルマーちゃんから話しかけられた。
「随分と遅れてしまいましたが、あのときのお返事、
今しても構いませんか?」
京都大賞典、アルゼンチン共和国杯と、G2を連勝してきている彼女。
エリザベス女王杯には目もくれず、
明らかに有馬一本に絞ったかのようなローテであり、
明らかに史実以上の戦績を積んで臨んできている彼女。
あのときとはもちろん、宝塚のとき、
俺からまた一緒に逃げられたらいいって言ったことだろうな。
無論、拒否する理由はない。
「歓迎だよ」
「それでは、お返事申し上げます」
俺が頷くと、フルマーちゃんはメジロの令嬢らしく、
上品にふわりと微笑んでから、華麗にカーテシーを決めてみせる。
「今日も私と一緒に、逃げてくださいますか?」
「もちろんいいよ。私についてこられるかな?」
「力の限り、ご一緒させていただきます」
「うん」
「胸をお借りいたしますわ。では、ご健闘を」
再度頷いたら、パアっと笑顔を輝かせて、
お互いにもう1度頷き合って、彼女は先に向かっていった。
いいねいいね、そうこなくては。
フルマーちゃんの笑顔を見た瞬間、背筋がゾクゾクっとしたよ。
もちろん寒気じゃなくて、意気高揚したという意味でね。
武者震いがするのう!
別にSっ気があるというわけじゃないと思うけど、
あんなこと言われたら受けて立たないわけにはいかないよね。
ヘリオスとパーマーに先駆けての爆逃げコンビ結成か?
「リアンさん」
続けて声をかけてきたのは、同期のパレードちゃん。
彼女ともこれで3度目のレースか。
「あたし、これが最後のレースなの」
「え、引退するの?」
「ええ」
「そうなんだ」
そうか、また寂しくなるな。
考えてみれば、俺たちくらいの年齢になると、
もう第一線からは退くのが普通なのか。
他のスポーツとは、ピークの年齢が明らかに違うよね。
実際の馬がそうだから、と言われてしまえばそれまでなんだけどさ。
「だから悔いの残らないようなレースをするつもり。
それだけ。お互い頑張りましょう」
「うん」
そう言って、パレードちゃんは本バ場に向かった。
いまや数少ない同期がまた1人。
少しだけしんみり。
「おい」
今度は誰だ?
と思ったら……げえっ、シリウス!?
おまえまで何かあるのか?
「モテモテだな」
「うるさい」
別に望んでこうなってるわけちゃうわ。
で、おまえは何が言いたい?
「私も今の今までは、これで最後かと思っていたんだが」
「え……」
マジで? シリウスも引退するの?
史実的にもそういう年か……
改めて、俺も年を取ったなと思わざるを得ない。
「気が変わった。来年も走る」
「え?」
「同期が引退すると聞いただけでそんな腑抜けた顔をするようじゃな。
私が一緒に走って喝を入れてやるしかないだろ?」
「………」
「まあそういうわけだから心配するな。はっは」
などと、訳が分からない供述をしており……
じゃないよ! そんな顔してたのか、俺は?
うむむ、シリウスのやつ……
どこまでが冗談で、どこからが本当なのか、判断が付かん。
「……よしっ」
何はともあれ、今できることを全力でやりつくすのみ。
両手で頬を叩いて気合を入れ直して、
先に行ったシリウスに続き、俺も本バ場に向かった。
『第33回有馬記念、まもなく発走となります。
展開はどうなりそうですか?』
『まずファミーユリアンが逃げるのは間違いないでしょう。
そして気になるのは、メジロフルマーがどう出るかです』
『この両者が対戦するのはこれが3回目になりますが、
前の2回、日経賞と宝塚記念では、どちらも絡んでいっていますね』
『その結果が、日経賞では日本レコード。
宝塚では不良バ場とは思えないほどのタイムでした。
今回も競っていくとしたら、日経賞以上のタイムが
出るんじゃないでしょうかね』
『ファミーユリアンがまた一緒に逃げようと誘った、
なんて情報も上がっていたくらいでしたね』
『その答えが今日見られますか、期待大です』
『3番手にはレジェンドクイーンですか』
『そうですね、それも間違いありません。
その後ろにスズパレード、シリウスシンボリあたりでしょうね』
『2人で逃げるとなるとハイペースが予想されますが、
ズバリ予想タイムは?』
『2分30秒フラット前後。先ほども言いましたが、
日経賞以上のタイムが出てもおかしくありません』
『期待しましょう。さあスターターが台に向かいました。
グランプリのG1ファンファーレが響きます』
枠入りは順調に進み、短時間で完了。
態勢は整った。
一瞬の静寂の後――
ガッシャン
『スタートしました!』
ゲートが開いて全員が無事にスタート。
出遅れなどのアクシデントはなかった。
『外からファミーユリアン行きます。やはりメジロフルマーも続いた。
両者並んで後続を離していきます。ハイペース必至!』
さすがの出足の良さでリアンがハナを奪いかけたところへ、
内からフルマーが並びかけ、完全に並走状態となる。
『1周目の直線、ファミーユリアンとメジロフルマーが並んで飛ばします。
3番手レジェンドクイーンとは7、8バ身の差。
その後ろレイニースワンとメジロデュレン付けている。
スズパレード、フリーラン内々追走。外にセイオー、ハワイアンスコール。
真ん中にフレッシュボイスがいます。さらにはマティリアル。
シリウスシンボリぽつんと最後方。
前から後ろまではおよそ20バ身ほどでしょうか。
予想されたとおり縦長の展開になっています』
隊列は1コーナーを過ぎ、1000mを迎える。
『1000m通過は58秒0!
ジャパンカップ以上のハイペースになりました!』
驚きの声を上げる実況。
客席からも大きなどよめきが沸き起こった。
『ファミーユリアンとメジロフルマー、
日経賞、宝塚に続いて3度目の先頭争い。
さあどこまで付いていけるんだメジロフルマー?
3度目の正直成るか? この秋はG2を連勝してきています。
夏までの私と思うなよ? 敢然とファミーユリアンに挑戦します!』
3度目の対決とあって、実況の声にも熱が帯びる。
後続とはもう10バ身以上離れた。
さあて、どうするつもりなんだフルマーちゃんよ?
横目でチラッと確認した限りでは、
彼女はただまっすぐ前を見据えて必死の表情で走っている。
余力があるようには見えない。
もうすぐ残り1000mのハロン棒だ。
ぼちぼち……
本気出していきますかね。
さあさあフルマーちゃん、ここからが勝負所だぜ?
『残り1000mを通過。ここでファミーユリアンわずかに前に出る。
メジロフルマーここまでか? いや、離れない、離れません!
前には出られましたが、それ以上には離されない。なんという気迫!』
……ほほぉ、やるねぇフルマーちゃん。
そのまま離されていくのかと思ったけど、
足音を聞く限りでは、真後ろにくっついたままのようだ。
あの決意表明は伊達ではなかったか。
よろしい。ならば、本気中の本気を出しましょうか。
まもなく600のハロン棒。
超前傾走法、行くぜぇっ!!
『残り600。ファミーユリアンいつもの走法へ移行した。
昨年はうまく切り替えができなかったと言っていたこの地点で、
さらに加速! メジロフルマーついていけるか!?』
『やや離されましたがフルマーそれでも離れない!
2バ身差で直線へ向いた! あと310m!
後ろはもはや眼中にない。そのはず10バ身以上はあります!』
最終直線へ入った段階で、リアンとの差は2バ身。
3番手とはいまだに10バ身以上あった。
『2人のマッチレース! さあ行けファミーユリアン!
負けるなメジロフルマー! 差し返せるか!?』
もはやどちらとも言えない実況は、力を込めて両者を応援した。
観客たちも同様のようで、大歓声を上げている。
『最後に待ち受ける中山の急坂!
ああっとメジロフルマーさすがにここで一杯になったか!
一気に失速した! 差が開く!』
が、さしものフルマーもついに限界。
中山の急坂で脚が止まり、リアンとの差があっという間に開いた。
『これが、
今日もまた他バの追随など全く許さず逃げ切るぞ!
異次元の逃亡者ファミーユリアン、圧勝ゴールインッ!』
リアンが先頭でゴール。
そのまま粘ってメジロフルマーが5バ身差で2着。
3着には後方から追い込んでシリウスが入ったが、
それ以下のウマ娘たちには触れられすらしないという異例の実況になった。
『勝ちタイム2分29秒4、2分29秒4が出ました! 日本レコード更新!』
『上がり3F35秒7、4Fは47秒9。
宝塚に続いてのグランプリ連覇!
ミスターシービーを抜いて史上2位のG1、6勝目です。
ファミーユリアンですっ!!』
第33回有馬記念 結果
1着 10 ファミーユリアン 2:29.4R
2着 5 メジロフルマー 5
3着 7 シリウスシンボリ 5
「有馬記念を制しましたファミーユリアンさんです。
おめでとうございます」
「ありがとうございます」
レース確定後、恒例の勝利インタビューを受ける。
最初のうちは全然慣れなかったけど、
もうそんなことは言っていられなくなってきたな。
「今のお気持ちをお聞かせください」
今の気持ち?
そうだな……やっぱり……
「メジロフルマーさんに感謝を伝えたいです」
ゴール後はすぐに話しかけようと思ったんだけど、
それよりも早く係員のお姉さんが来ちゃったんで、
話せなかったんだよね。
「メジロフルマーさんに? 感謝?」
「はい。フルマーさん、一緒に逃げてくれてありがとう。
おかげでこんなに素晴らしいレースが出来ました、と」
首を傾げるインタビュアー。
まあ正確な情報は出回ってないから無理もない。
俺からの一方的な呼びかけだったし、答えをもらったのは
レースの発走直前だったしな。
でも、間違いなく正直な俺の今の気持ち。
フルマーちゃんがいてくれたから、一緒に逃げてくれたから、
こんなにも満足してる。今もまだ興奮が収まらないくらいだ。
彼女はついていけなくてごめん、不甲斐ないって思うかもしれないけど、
そんなことは全然ない。むしろ、もっと一緒に逃げたいね。
来年も、レッツ、エスケープ!
「えー……」
全然想定していない答えだったのか、
インタビュアーさんが言葉に詰まってしまった。
お仕事難しくしてしまって申し訳ない。
お詫びと言っては何だが、ちょこっと情報提供しましょうか。
「トニーとムーン、見てる? Are you watching?」
そう言って、カメラに向かって手を振った。
途端に慌てだす関係者たち。
「ま、まさか、トニービンさんとムーンマッドネスさんですか!?」
「ええ。この前お見舞いに行って、お友達になりました」
「なんと……お二方が中継を見ていると!?」
「たぶん見てくれていると思います。
ムーンには、トニーに勝ったんだから、有馬で負けたら承知しない、
って言われましたから」
「おお……」
「Tony、Moon、I did.
You don't have to get angry, right?」
(トニーとムーン、やったよ。
これなら怒られなくて済むよね?)
さっきとはまた違った理由で言葉を失っているのに構わず、
続けて英語で呼びかける。
きっと見てくれていて、満足してくれてるんじゃないかな?
また今度、スターオーちゃんを見舞うついでと言っては失礼だけど、
2人にも会いに行こうと思う。
ライブ後に携帯を見てみると、2人からメッセに連絡が来てた。
トニーは「Congratulations, my friend!」(おめでとう友よ!)
っていう短くも思いのこもった一言。
ムーンからは、「Well, not bad」(まあ悪くはないわね)
なんてツンデレなお言葉をもらったよ。
もちろんスターオーちゃんやチヨちゃんからもメッセージが。
フルマーちゃんの件を含めて、うれしい限りである。
グーグル翻訳万歳
今回の有馬
フルマー 3F 36.7
シリウス 3F 35.8
第67回の有馬
イクイノックス 3F 35.4
このペースで逃げて上がり35.7がいかにおかしいか
タイホ君は悠々と逃げたのに37秒台で沈みましたからね
海外帰りはやはり難しいのかなあ
仮にリアンが海外遠征する場合、初戦は何が良いですか?
-
ドバイワールドカップ
-
ドバイシーマクラシック
-
ガネー賞(仏)
-
クイーンエリザベス2世カップ(香港)
-
アメリカ遠征