転生孤児ウマ娘の奮闘記   作:しょうわ56

73 / 122
第70話 孤児ウマ娘、“悪魔”と邂逅する

 

 

 

宝塚記念が終わってしばらくたってから、

俺は再びスーちゃんにトレーナー室に呼ばれた。

 

わざわざ部屋に呼ぶくらいだから、また内密の話ということだろう。

はてさて、今度はいったいどういう話なのやら?

 

「ファミーユリアンです」

 

『開いてるわよ』

 

「失礼します」

 

放課後、スーちゃんのトレーナー室の前までやってきて、

ノックして声をかけると、すぐに返事があった。

もう1度声をかけてからドアを開けて中へと入る。

 

すると――

 

「やあ、リアン君」

 

「突然でごめんなさいね」

 

「――!!?」

 

なんとびっくり、シンボリのお父様とお母様がいるではないか。

これにはさすがに驚かされたよ。

 

「あ、お疲れ様です」

 

だけど、咄嗟に挨拶を返せるあたり、俺もだいぶ毒されたなと思う。

お二人と出会った当初だったら、たぶん何も言えずに立ち尽くしてたんじゃないか。

 

「スーちゃんとお話ですか? 出直してきましょうか?」

 

「いいや、それはもう終わったよ」

 

「ここからの主役はリアンちゃん、あなただから」

 

「はあ」

 

平日のこんな時間にやってきているくらいだから、

シンボリの中での話かと思ってお邪魔かと思ったんだが、

気を回しすぎたか。

 

でも、ここからの主役は俺? ますます訳が分からんな。

というか、肝心のスーちゃんはどこだ?

 

……いた。自分の席についてパソコンとにらめっこしてる。

 

「スーちゃん、来ましたよ。お話って何ですか?」

 

「ちょっと待って。もう1人来るから」

 

「もう1人?」

 

そのスーちゃんに改めて声をかけると、彼女は視線を動かさずにそう言った。

 

「せっかくだし、こちらに座って話でもしないかね?」

 

「直接会うのも久しぶりなんだし、ね?」

 

「わかりました」

 

首を傾げるしかない事態だが、お父様お母様がこう仰るので、

俺もソファーに座らせてもらって雑談し始める。

 

確かにお母様が言ったとおり、

電話とかメッセではちょくちょくやり取りしているけど、

じかに顔を合わせるのは久しぶりだったな。

 

そうして話しながら待つこと15分余り。

 

「遅れました。申し訳ありません」

 

「ルドルフ?」

 

「待たせてしまったようだね、すまない」

 

現れたのはルドルフだった。

 

「軽く顔を出して指示してくるだけのつもりだったんだが、

 思ったより時間がかかってしまったよ。失礼」

 

ルドルフはそう言って、俺の隣へと腰を下ろす。

 

そういや、今日も生徒会室に行くと言って教室から出ていったな。

こっちに来るから指示出ししていたというわけか。

 

「さてそれじゃ、揃ったことだし始めましょうか」

 

スーちゃんも自席からこっちへと移ってきて、どうやら話が始まるようだ。

数枚の紙を持っているようだけど、何かの書類かな?

 

……待てよ? 今の今まで気付いてなかったんだが……

 

対面には、スーちゃん、お父様、お母様の3人。

言わずと知れた親子関係であり、『シンボリ』の中心人物たちだ。

加えて、俺の隣には()()()()ルドルフがいる。

 

あの~、これって、もしかしなくても、家族会議ってやつですか?

でもそれだと、お母様が言ってた俺が主役ってのも変な気がするが……

 

まあとにかく、スーちゃんの話を聞こう。

 

「まずは、リアンちゃんの意思を確認するわね」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「来年も現役を続ける、と思っていいのよね?」

 

何を聞かれるかと思ったら、そんなことか。

そんなの答えは決まってますよ。

 

「もちろんです」

 

「オーケー、了解よ」

 

走れる限りは走ります。

できる限りお金を稼がないといけないのでね。

 

というか、今まででどれだけ稼いだんだろう?

全然気にしてなかったらわからない。

今度計算してみようかな?

 

それに、衰えを自覚してきたってわけでもないしね。

それどころか、健康診断で測ると、いまだに身長と体重が伸びてるんだ。

さすがに伸び幅は大幅に下がったけど、まだ成長してる。

 

できればルドルフに追いつきたいところだが、どうだろうか。

あと2センチなんだが。

 

「5年目のシーズンということになるか。本当お疲れさまだね」

 

「ルドルフの現役が実質2年半だったことを考えると、長いわね」

 

感慨深そうに言うお父様とお母様。

でもお母様、ルドルフは余力を残しての引退だったから、

計算外のことだと思いますよ。

 

「リアンちゃん17戦しか走ってないじゃない。

 まだまだ全然だわ。私は43戦走ったわよ」

 

「フィジカルモンスターの母さんと比べちゃいけない」

 

「なんですって? モンスター?」

 

「まあまあ」

 

確かに、旧3歳から7歳まで走った“スピードシンボリ”は、

比較対象としては間違っていると思えなくもない。

しかも、日本アメリカ欧州と飛び回っての43戦だ。

海外遠征黎明期ということもある。凄まじい。

 

こちらの世界のスーちゃんがどういう戦績だったのかは詳しく知らないけど、

現実とリンクしているんだろうから、それに準じているんだろう。

 

「リアンちゃん、身体には気を付けてね」

 

「ありがとうございます」

 

なだめに入ったお母様からそう言われて、小さく頭を下げる。

 

で、本題はなんですかね?

それだけを確認したいわけじゃないんでしょ?

 

「……コホン。それで、リアンちゃん」

 

「はい」

 

息子にからかわれてムキになったスーちゃんというのも珍しくて面白かった。

わざとらしく咳払いしているのは草。

 

「まだ先の話だし、正式な話というわけでもないのだけれど」

 

……随分もったいぶるな。

スパっと話してもらいたいものだが。

 

「来年のドバイミーティング*1に、あなたを招待するという話が、

 先方様のほうから内々に知らせてきているということでね」

 

「……え?」

 

なんだって? ドバイ?

ちょっと待って。いったい何の――

 

「ワールドカップでも、シーマクラシックでも、ターフでも、

 どれでも好きなレースに出て構わない*2とのことよ。

 まだ非公式だけど、これが向こうからの招待状と内諾書。

 正式なものはまた送ってくるでしょう」

 

「……」

 

そう言って、俺に見えるように机上に数枚の紙を置いて見せる。

なるほど、スーちゃんが持ってたのはこの書類か。

 

……マジで? ドバイミーティングに俺を招待?

それも、世界最高峰のどのレースにも出ていいって?

 

「もちろんURAからも内諾は得ているから、あとはあなた次第よ。

 あ、正式発表までは外に漏らさないでね」

 

「……」

 

「で、リアンちゃんはどれに出たい?

 あなたの考えを最優先にするわ」

 

「……ちょっと待ってください。

 話が急すぎて何が何だか……」

 

「まあ唐突だったのは認めるわ」

 

苦笑するスーちゃん。

正直言って混乱している。

 

何がどうなってそんな話になったんだ?

 

「実を言うと、今年の頭にもそんな話はあったそうよ」

 

「え……」

 

「でも、今年は国内に専念するって宣言しちゃってたから、

 私のところというか、URAの内部で止まってたみたい」

 

「えぇ……?」

 

今年も話はあったんかい。

まったくもって知らんかった。

 

というか、テレビ番組でちょろっと言ったことが元で

そんなことになってたなんて、思ってもみなかったよ。

 

「来年も現役を続けるというのなら、当然海外は視野に入ってるわね?」

 

「それは……はい、そうです」

 

トニーとも約束しちゃってるからな。

それに、ファンの間でも、そういう期待が高まっているのも知っている。

秋天を勝てれば、大方のタイトルはすべて手にすることにもなるんだしさ。

 

「そこで私たちが事前に集まって、いろいろ検討していたというわけ」

 

「……」

 

スーちゃんがそう言った後に、お父様お母様の表情を窺うと……

お二人とも、とても良い笑顔でいらっしゃいました。

 

そうか、そういうことだったのか……

 

「リアン君には、ルドルフの件での借りがあることだしね。

 海外に遠征するとしても、完全バックアップをさせてもらうよ」

 

「もちろん何の心配もいらないわ。

 リアンちゃんはレースだけに集中してもらえればいいからね」

 

「……はい」

 

俺のことになると、すごく乗り気になるお二人のことだからなあ。

こんなド平日の昼間から学園に来ていたのにも納得だ。

 

でもなんだかなあ……

うれしいのは確かで、大変ありがたいお話ではあるんだけれども……

素直に喜べないのは、俺がひねくれているんだろうか。

 

「それで、どれにする?」

 

「えっと、今ここで決めなきゃいけませんか?」

 

「もちろんまだ時間はあるけど、基本的な考えは聞いておきたいわね。

 トレーニングの方針もあるし」

 

「うーん……」

 

要は、芝かダートか、くらいは聞いておきたいと?

うぬぬ、悩むな。

 

普通なら実績を積んだ芝の一択なんだけど、

大井の件を含めて考えるに、実はダートもそこそこにはイケルっぽいんだよね。

周りの反応がそれを物語っている。

 

無論、大井で走れたからと言って、ドバイでも通用するとは限らないが。

 

「むーん……」

 

散々考え抜いた挙句に、俺がとった行動は

 

「……ルドルフ」

 

隣にいて、ずっと黙ったままの()()に相談することだった。

 

「ここで私に振るのか」

 

苦笑というか、なんてことを聞いてくるんだというルドルフ。

自分の海外遠征中止の件があるから、負い目だとでも思っているのかもしれない。

 

大丈夫。別に恨んじゃいないし、気にしてもないよ。

 

「主催者がどれでもいいと言ってくれているんだから、

 君が出たいレースに出ればいい。どれに出たいんだ?」

 

「……」

 

やはり普通に考えれば、実績面からシーマクラシックなのは明白。

しかし、わざわざ海外にまで出るんだから、

メインレースに挑戦してみたいという気持ちもある。

 

……悩むけど、トレーニングのことでスーちゃんに負担かけても悪いし、

何より自分のことなんだから、はっきりさせておかないといかんよな。

 

……よし!

 

「スーちゃん」

 

「決まった?」

 

「『ワールドカップ』で、お願いします」

 

「……了解よ。方々に通達しておくわ」

 

せっかくだから、俺は『世界一』を選ぶぜ!

 

()()答えた瞬間、室内の空気が瞬間的に凍った気がした。

そして間髪入れずに、猛烈な熱気を帯び始める。

それは、スーちゃんをはじめとする、みんなの表情からして明らかだった。

 

「反対しないんですね?」

 

「言ったでしょ? あなたの意向が第一だって」

 

ダートだから反対されるかも、という懸念がないとは言えなかった。

しかしスーちゃんは笑って言う。

 

「でも大井の件がなかったら、少なくとも意見はしていたかもね」

 

「ですよね」

 

俺でもそう言うわ。

初めての海外遠征で、実績も何もないコースを選ぶとは、

頭おかしいと言われても文句は言えない。

 

そう考えると、あの大井のイベントは、結構重要だったのでは?

 

大井レース場の皆さん、ありがとうございます。

普通にひどいこと考えたりしちゃってたかもしれない。ごめんなさい。

 

「私からは月並みなことしか言えないが、がんばってくれ。

 父様ではないが、最大限のサポートを約束する」

 

「うん。ありがとルドルフ」

 

さすがに私の分まで、とまでは言えないか。

だけどおまえの気持ちは十分に理解しているつもりだ。

最終的な目標に関してもね。

 

まあ、まずは国内の秋3戦をしっかり勝たないとね。

ここで負けてたんじゃ話にならない。ましてや、

何の実績もないダートの、それも世界一に挑戦しようというのだから当然だ。

 

では、タマちゃんやファルコちゃんとも戦うだろうし、

きっちりとけじめをつけて、後腐れなく海外へと飛び出したいものだ。

 

 

その後も、ドバイ遠征後の予定などについても話し合って、

世間への発表は、有終了後に行われることに決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃあああっ!!」

 

夏休みを目前に控えたある日。

何気なく廊下を歩いていたら、突然聞こえてきた悲鳴にビクッとした。

しかもこのお馴染みな変な声、タマちゃんじゃないか?

 

「あっ先輩! ちょうどええところに!」

 

確かにタマちゃんだった。

彼女は慌てた様子で、正面からこちらへ向かって走ってくる。

 

「ちょう助けてや!」

 

「え?」

 

若干涙目になっているタマちゃん。

何かから隠れるようにして、俺の背中へと張り付いた。

 

「えーと、何事? それと廊下を走っちゃだめだよ」

 

「そないなこと気にしてる場合じゃあらへんのや。

 捕まったが最後、ウチは……うぅ、あかん、震えが止まらん……」

 

確かにそう言うタマちゃんは、小刻みに震えている。

顔面蒼白で、何かとても恐ろしいものに遭遇したようだ。

 

「なんだっていうの?」

 

「説明するのも寒気が走るんや。じきにわかるで……」

 

「?」

 

わからん、まったくわからん。

タマちゃんがこれほど怯える存在ってなんだ?

何があった?

 

「ほら、来よったで……」

 

「ん?」

 

 

『タマちゃあ~ん?』

 

 

「っ……」

 

こ、この声は……

瞬間的に悪寒が全身を駆け抜け、冷たいものが背筋を走る。

まさか……まさか!

 

「どこに行ったんですか~?」

 

おっとりした声を響かせつつ、『奴』は、廊下の奥から現れた。

タマちゃんを追いかけていたとは思えない、ゆっくりとした動きで。

 

「あっタマちゃん、見つけました♪」

 

「ひいっ」

 

()()の青い瞳がタマちゃんを捉え、にっこりと微笑む。

“悪魔”に捕まったタマちゃんからは、再び悲鳴が上がった。

 

「も~、だめですよ。廊下を走ったら危ないですし、

 それじゃゆっくりお話もできないじゃないですか」

 

「え、ええ加減にせぇ! ウチはおまえの話なんか聞かんで!」

 

俺の服の裾をつかんでいるタマちゃんの手に、ぎゅっと力がこもる。

 

「そ、そもそもやな。ウチのほうがジブンより年上なんやで。

 年上をちゃん呼びするやつがあるかい!」

 

「え~? だって、タマちゃんはタマちゃんですし」

 

「理由になってへん!」

 

威勢良く反論するタマちゃんだが、震えはまったく収まっていない。

それどころか激しくなっていく一方で、手には一層の力がこもっていく。

 

気持ちは俺もよくわかるが、タマちゃんもいい加減にして?

俺の制服のライフがどんどん削られてるから。

 

「と、とりあえずタマちゃんは落ち着こうか。

 そちらの、ええと、『スーパークリーク』さんも」

 

「せ、せやな」

 

「あら……」

 

俺がそう言うと、タマちゃんはようやく止まってくれた。

もう一方のあちらさんも、もうみんな分かっていると思うが、

スーパークリークも俺が名前を出したことで、驚いた様子でこっちを見る。

 

「先輩、知ってたんか」

 

「まあ、名前と顔くらいはね」

 

「あらあら、とても光栄です」

 

そりゃあもう、この界隈では色々と有名ですからね。

でちゅねの悪魔だの、走る西〇屋だの、これはひどいとは思うものの、

その名の通りなんだからタチが悪い。

 

「改めまして、はじめまして、ですねファミーユリアン先輩。

 私、スーパークリークと申します」

 

そう言って、頭を下げるクリーク。

普通にしている分にはかわいいんだけどなあ、普通には、さあ。

 

「それで、どういう状況なのかな? 説明してもらいたいな」

 

「それがな、聞いてや先輩。

 ダービー勝った後、こいつになんか変に目ぇ付けられてしもうて……

 事あるごとに付き纏わられてるんや」

 

「私はタマちゃんとお話ししたいだけです」

 

「んなわけあるかい! 他にももっとあるんやろ!」

 

再び興奮してまくしたてるタマちゃんだが、俺は逆に、

()()と顔を合わせてみてからは、とても落ち着いていた。

 

確かに最初は、『げえっクリーク!?』というフレーズと共に、

頭の中ではジャーンジャーンって銅鑼の音が盛大に響き渡っていたけれども、

今はもうそんなことはなくなっていた。

 

なぜかって?

スーパークリークが、()()()()()()()()じゃなかったからだよ。

 

ウマ娘でのクリークが、その性格もさることながら、

母性の塊とかお姉さんだという雰囲気なのは、

その長身と、大変ふくよかな胸部装甲の存在が大きいと思う。

 

だが今のクリークは、この春に入学してきたばかりの子供。

身長もまだまだ大きくないし、

胸に至ってはぺったんこもいいところだった。

 

そう、『子供』なのだ。

孤児院で相手にしていたやつらと全く同じ。

 

そう考えたら、怖さや焦りなんてものは霧散して果てた。

今の俺のほうが圧倒的にお姉さんなんだということもあるしね。

 

自分で自分を“お姉さん”だとかいうの、

いまだに慣れないし、すげえ複雑だが。

 

「ほか? 他ってなんですか?」

 

「そ、それは……」

 

クリークから聞き返され、言葉に詰まるタマちゃん。

具体的には、でちゅねとか、オギャるとかですねわかります。

 

でもいかんぞタマちゃん、そこで言い淀んだら、相手の思う壺だよ。

 

「言ってみてください♪」

 

ほら、あの嬉々としたクリークの表情。

もう構いたくて構いたくてしょうがないって顔だ。

 

「うぅ……ウチはこれでも年上なんや……お姉さんなんや……」

 

俺の背中に隠れたまま、ブツブツ呟くタマちゃん。

どうやら限界が近いようだ。ここまでかな。

 

「はいはい、そこまで」

 

2人の間に割って入る。

いやまあ、物理的には最初から、間に挟まっているけど。

 

「タマちゃん、年上だって自覚あるんなら、

 年下の子とはもう少し上手くやれるようになろうね」

 

「うぅ、そないなこと言われても……」

 

キャラ的には難しいかなとは思いつつ、ちょっと厳しいことを言ってみる。

すべて真に受けないで、軽く流せるような気持ちの余裕は必要やんな。

 

信じられるか? これが今年のダービーウマ娘なんだぜ?

俺の背中にしがみついて小さくなっている様子からは、とても信じられん。

 

「クリークさんも」

 

代わって、クリークにも声をかける。

構いたいのはわかるが、無理強いしたらあかん。

 

「タマちゃんがかわいくて構いたくなるのは、私にもよくわかるよ」

 

ちょっ、という抗議の声が背中から聞こえた気がしたが、

ここはあえて無視する。かわいいのは本当だからね、仕方ないね。

 

「でもね、タマちゃんこの通り嫌がってるから。

 相手が嫌がることをしたらいけないって、教わらなかった?」

 

「むぅ……」

 

実家が託児所を経営してて、クリーク自身も親を手伝って

よく子供の相手していたみたいだから、こういう言葉はよく効くだろう。

実際、若干不満そうではあるものの、納得はしてくれたみたいだ。

 

「わかったら、タマちゃんに言うことあるでしょう?」

 

「はい。タマちゃん、ごめんなさい」

 

「わかればいいんや。……って、ちゃん呼びはやめへんのかいっ」

 

俺の背中から顔だけ出して、したり顔のタマちゃん。

 

安堵したのはわかるけど、そういうのは完全に相手の前に出てからにしようか。

ほら、俺の服の裾掴んでる手も離して、どうぞ。

 

「さっきも言いましたけど、タマちゃんはタマちゃんです」

 

先ほどと同じことを言うクリーク。

原作補正なのか、はたまたウマソウルの導きか何かか、頑として譲らない。

 

「……しし仕方あらへんな。百歩譲って、それは許したる」

 

「ありがとうございますタマちゃん♪」

 

「うぅ……」

 

結局はタマちゃんのほうが折れた。

クリークのニッコリ笑顔に、早くも気圧されている。

 

虎の威を借りてもだめか。やれやれだねぇ。

 

「ここは私がまとめておくから、タマちゃんは先に行きな」

 

「そ、そか? じゃあ頼んだで先輩。助けてくれておおきにな!」

 

このままではまたこじれそうなので、タマちゃんを先に逃がす。

これ幸いとタマちゃんは小走りに去っていった。

 

さて、残ったクリークのほうだが……

ああ言ったはいいものの、どうしたものやら。

 

ゲーム内ではタマちゃんとクリークは同級生っぽいんだよね。

でも、この世界線ではクリークが年下になってしまっている。

史実準拠というわけだ。

 

だから、こんなやり取りもゲームでは同級生同士の戯れで済むんだけど、

年齢が違うから話が余計にややこしくなっている。

 

「あの~、ファミーユリアン先輩」

 

「うん?」

 

「お手数おかけして申し訳ありませんでした」

 

そう言って頭を下げるクリーク。

さっきのこともそうだけど、すぐに自分の非を認めて謝れるのは良いことだ。

だから基本的にはとっても良い娘なんだけどねぇ。

 

態度や言動も、年齢にしては大人びている。

やはり育った環境というのが大きいんだろう。

 

同じような経験をしてきた身としては、なんとかしてやりたいところだが。

 

「うん、すぐに謝れるのは良いことだよ。

 お姉さんが褒めてあげよう。よしよし」

 

「あっ……!」

 

「お?」

 

ついつい孤児院の子供たちにしていたような感覚で、

頭に手を伸ばして撫でてしまった。

クリークはそれが嫌だったか、咄嗟の反応で飛び退く。

 

「あ、ごめんね? 嫌だった? そうだよね、もう中学生だもんね」

 

「い、いえ……」

 

いかんいかん、子供と評したとはいえ、もう中学生だ。

背伸びしたい微妙なお年頃でもある。気を付けないと。

 

「………」

 

「クリークさん?」

 

「えと、その……ファミーユリアン先輩?」

 

「うん」

 

しばらく俯き加減で押し黙っていたクリークが、

飛び退いた分以上に近づいてくると共に、上目遣いで放ってきた言葉が、これだ。

 

「も、もう1度、いいですか……?」

 

「……」

 

ぐはっ、こ、この恥ずかしそうにお願いする様は、まさにクリティカル!

 

いかん、いかんいかん! 俺はロリコンじゃない、ロリコンじゃない!

それに、近い将来、この子はバインバインになるんだ!

 

「先輩?」

 

「あ、ああうん、いいよ。いくらでも撫でてあげる」

 

「お願いします……」

 

「よしよし」

 

「………」

 

すまない、取り乱した。

 

気を取り直し、お願い通りに頭を撫でてやる。

その間、クリークは微動だにもせず、ただされるがままになっていた。

サラサラの髪の毛の感触が、こちらとしても気持ちいい。

 

「もういいかな?」

 

「……もっと」

 

「はいはい」

 

「………」

 

正直言って驚いたね。

他人を甘やかすことに情熱を注ぐであろうクリークが、

こうやって他人に甘えてくるなんてさ。

 

これが、ギャップ萌えというやつか。

 

まあいいんだけどさ。

クリークさんや、ここが衆人環境だということをお忘れでないかい?

校舎内の普通の廊下なんですけど、ここ。

 

「え~と、クリークさん?」

 

「いくらでも、って言いました」

 

「はいはい」

 

「………」

 

そう言われてしまっては、ぐうの音も出ません。

 

まあ、いいんだけどさ。

ああ、時折通りかかってく子たちの視線が痛いなあ。

 

 

*1
ドバイワールドカップミーティング。中東ドバイのメイダン競馬場にて3月下旬に行われる国際招待競走群の総称。ドバイワールドカップナイトとも呼ばれる

*2
主な競争はD2000mのワールドカップ、芝2410mのシーマクラシック、芝1800mのドバイターフ、D1200mのドバイゴールデンシャヒーン、芝直1200mのアルクオーツスプリント




リアン、悪魔を返り討ちにする

クリークは育った環境から、褒められた経験がほとんどないんじゃないか、
っていう考察をどこかで見ましてね。
忙しかった両親も、娘に手伝ってもらうのが当たり前になっていて、
いつしかそれが普通の光景になっていったと。

他人を甘やかすことで、自分が甘えられなかった欲求を満たしているんじゃないか。
褒められ慣れてないところがこうなると、呆気なく堕ちるんじゃないかと思いました(マテ



以前に実施したアンケートの結果も踏まえまして、
初めての海外遠征はドバイ、それもワールドカップのほうに決めました。
たくさんのご協力ありがとうございました。

はたして無事に向かえるでしょうか。



そしてリアンの獲得賞金額
大雑把ですが、現代基準で計算してみました

    着 賞金(万円)
新馬    1 720
葉牡丹賞 1 1070
青葉賞  1 5400
ダービー 1 20000
セントラ 1 5400
菊花賞  1 15000
有馬   2 20000
日経賞  1 6700
天皇賞春 1 22000
宝塚   1 22000
オールカ 1 6700
天皇賞秋 2 8800
JC     1 50000
有馬   1 50000
大阪杯   1 20000
天皇賞春 1 22000
宝塚    1 22000
    合計297790

すでに30億稼いでます
現実の馬たちなんて目じゃない
寄付した額も計算すると7億近くになりますね

わーお(小並感


仮にリアンが海外遠征する場合、初戦は何が良いですか?

  • ドバイワールドカップ
  • ドバイシーマクラシック
  • ガネー賞(仏)
  • クイーンエリザベス2世カップ(香港)
  • アメリカ遠征
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。