転生孤児ウマ娘の奮闘記   作:しょうわ56

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第72話 孤児ウマ娘、偉大な『皇帝』に並ぶ

 

 

 

 

『サクラチヨノオーが芙蓉ステークスを制しました!』

 

チヨちゃんが出走したジュニア級のオープン戦。

見事なレースぶりで勝利を収めた。

 

デビュー戦は8月の合宿中だったから、見に行けなかった。

その代わりと言ってはなんだが、今日は現地に来てます。

 

「チヨちゃん」

 

「あ、リアンさん!」

 

引き揚げてきたチヨちゃんに声をかける。

気付いた彼女はパッと顔を輝かせて、うれしそうに駆け寄ってきた。

 

やっぱりどう見てもワンコ。

しっぽがぶんぶん振られているから、余計にそう見えてしまう。

 

「おめでとう。強かったね」

 

「ありがとうございます!」

 

満面笑みを浮かべるチヨちゃんだ。

今日も3バ身の差をつけての快勝だったし、この分なら、

とりあえずは心配いらないかな?

 

「次は朝日杯かな?」

 

「まだわかりませんけど、一応その予定です。

 間にもう1戦挟むかもしれませんが」

 

「がんばってね。また応援に来るから」

 

「恐縮です。がんばりますっ!」

 

ふんすっ、と力いっぱい頷いて見せるチヨちゃん。

 

この世界では、ジュニア級最優秀賞を獲れるだろうか?

ジュベナイルとホープフルもあるからなあ。

サッカーボーイとヤエノあたりの動向次第になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第50回菊花賞

主な出走ウマ娘枠順

 

2枠3番シエルアンバー

3枠5番バンブービギン

4枠8番リアルアニバーサル

7枠13番オサイチジョージ

7枠14番ウィニングクラブ

8枠17番トウショウファルコ

8枠18番タマモクロス

 

 

 

『記念すべき50回目の菊花賞、まもなく発走となります』

 

『締め切り直前の1番人気は、ダービーウマ娘タマモクロス。

 2番人気は皐月賞ウマ娘トウショウファルコ。

 3番人気は神戸新聞杯2着のバンブービギン。

 4番人気はセントライト記念2着のオサイチジョージとなっております』

 

実績が順当に反映された人気順と言える。

以下、シエルアンバー、リアルアニバーサル、ウィニングクラブと続く。

 

『人気の2人が大外枠に入りました。

 影響はありそうですか?』

 

『ありますね。特にトウショウファルコにはつらい枠になりました。

 京都3000のスタート地点は3コーナーに近いですから、

 逃げ戦法を取る彼女にとっては、スタートにプレッシャーがかかります』

 

『ここまでの5戦では非常に良いスタートが切れています。

 今回も同様の反応が求められますね』

 

『はい。まあ1番人気のダービーでも良かったわけですから、

 重圧には負けないと信じましょう』

 

『そのダービーウマ娘のタマモクロスはいかがですか?』

 

『彼女は後方から行くタイプですから、

 包まれる可能性が低い分、逆に気楽に走れるのではないでしょうか』

 

1番人気と2番人気で、脚質の関係もあって

明暗が分かれた枠順。それがどう響いてくるか。

 

『展開はトウショウファルコが逃げますね?』

 

『そうですね。それに続くのが1番あたりでしょうか。

 シエルアンバー、リアルアニバーサル、

 オサイチジョージらも前目につけると思います。

 先ほども言いましたがタマモクロスは後方待機ですね』

 

『ペースは?』

 

『うーんどうでしょう。さほど早くならない気がします。

 1番がトウショウファルコに絡んでいくとわかりませんが』

 

と、ここでスターターが動いた。

ファンファーレが生演奏されて、各ウマ娘がゲートに入っていく。

 

『各ウマ娘、ゲート入り完了。

 1番強いのはダービーウマ娘か、それとも皐月賞ウマ娘か。

 はたまた第3のヒロイン誕生となるのか。

 第50回菊花賞、スタートしました!』

 

『揃ったスタート。外からトウショウファルコ行きます』

 

不利な外枠をもろともせず、好反応でスタートしたファルコが先手。

坂を上って下っていく。

 

『1周目坂を下りきって先頭はトウショウファルコ。

 2番手1番、3番手シエルアンバーとオサイチジョージ並んでいる。

 リアルアニバーサルとバンブービギン続きます。

 ウィニングクラブは中団前目、タマモクロスは後方の模様』

 

『直線に向いて先頭トウショウファルコ、快調に逃げています。

 2番手3バ身差で1番、オサイチジョージ早め3番手』

 

『1000mは63秒1で通過しました。

 ゆったりとした流れになっています』

 

レースはファルコの単騎逃げ、スローペースで進行。

スタンド前を通過時は大歓声が上がった。

 

『1コーナーから2コーナー、先頭はトウショウファルコ変わりません。

 1バ身差まで詰まって1番が2番手、3番手シエルアンバー追走。

 その後ろにリアルアニバーサルがいます 並んでバンブーとオサイチ。

 タマモクロスは最後方ですが、外から徐々に上がっていく』

 

『このあたりでバ群がギュッと詰まりました。密集しています。

 先頭から最後方までおよそ8バ身くらい』

 

向こう正面の中ほどあたりで、さらにペースが落ちたか、

バ群の密度が上がった。

内にいる娘たちは窮屈そうにしている。

 

『さあ勝負所。2周目の京都の坂にかかります』

 

『トウショウファルコ先頭で坂を上る。リードは1バ身』

 

『下りに入ったトウショウファルコ、ここでスパートしたか?

 2番手1番との差が3、4バ身まで開いた』

 

下りに入った段階で、ファルコがスパート。

一瞬で2番手に3バ身の差をつけて坂を下っていく。

 

『リアルアニバーサルとバンブービギン並んで2番手に上がる。

 外からタマモクロスも上がってきた。3番手を窺っている』

 

坂を下りきると、逃がさんとばかりに人気上位たちが揃って上がってきた。

 

『4コーナーを回って最後の直線。

 トウショウファルコ抜け出した。後ろとは3バ身。逃げきれるか!』

 

4コーナーを回ってファルコが単独先頭。

後続とは3バ身の差をつけた。

 

『リアルアニバーサルとバンブービギン、身体をぴったり合わせて追っている。

 その外からタマモクロス! 一気にかわして2番手!』

 

『今日も白い稲妻が炸裂か! ダービーウマ娘の末脚!』

 

内側2人の争いをよそに、外から白い稲妻が一息でかわしていった。

 

『トウショウファルコ逃げる!

 2番手タマモクロス、その差は2バ身。200を通過!』

 

抜け出したのは2人だけ。

そのどちらもがクラシックウマ娘。

 

『2人が完全に抜け出した。どちらが勝っても二冠達成だ!』

 

皐月と菊の二冠か、ダービーと菊の二冠か、という争い。

3番手とはジリジリ開いていっており、勝負はこの2人に絞られた。

 

『徐々に差が詰まる! ダービーの再現!

 残り100! 並んだ。最後の最後で叩き合い!』

 

逃げるファルコをタマモクロスが捉え、ダービーに続いての叩き合いに。

 

『内トウショウファルコ、外タマモクロス!

 まったく譲らない両者。さあどっちだ? どっちだぁー!?』

 

『これはわかりません!

 勝負は写真判定に持ち込まれます!』

 

肉眼では判別がつかない状況で両者はゴール板を通過。

 

ターフビジョンではすぐにゴールの瞬間がリプレイされるが、

スロー再生されても全くわからない。

見守る観客たちからも、歓声ともため息ともつかない声が盛大に漏れた。

 

スタンド前に戻り、肩で息をしながら、

並んでビジョンでVTRを見ながら結果を待つファルコとタマモクロス。

 

長い長い写真判定。結果は――

 

『あっ、いま掲示板に数字が上がりました。18番、

 勝ったのはタマモクロスです。ダービー菊花の二冠達成!』

 

勝利の女神は、タマモクロスへと微笑んだ。

 

『2着ハナ差でトウショウファルコ!

 ダービーに続いての悔しい敗戦になりました。

 あ、膝から崩れ落ちています!』

 

数字が上がったのを見届けて、ガッツポーズと共に雄叫びを挙げるタマモクロス。

一方、がっくりと膝を落としたトウショウファルコ。

 

枠順と同様に、僅かな差が明暗を分ける結果となった。

 

 

 

「ファルコ」

 

「タマモさん……」

 

ひとしきり喜んだ後、タマモクロスはファルコに声をかけた。

 

「ええ勝負やったな。また一緒にやろうや!」

 

「……はい。次こそは、あなたに勝ちます」

 

手を差し出し、ファルコを立ち上がらせるタマモクロス。

再戦を誓い、ファルコは次こそは勝利を、と決意を新たにする。

 

ライバル同士の美しい光景に、観客たちからは大歓声と、

十重二十重の拍手喝采が贈られた。

 

 

 

第50回菊花賞  結果

 

1着 18 タマモクロス    3:06.7 

2着 17 トウショウファルコ   ハナ

3着  5 バンブービギン     3

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふ~っ」

 

菊花賞を見届けて、息を吐きながら

椅子の背もたれに深く身体を預ける。

 

もちろん現地には行けず、寮の自室でテレビ観戦だった。

カフェテリアでも良かったんだけど、落ち着いて見たかったんでね。

 

部屋にしておいて正解だったよ。

あまりのデッドヒートに、思わず声を上げそうになっちゃったくらい

興奮してしまった。

 

カフェテリアにいたら、周りの空気も合わさって、

もっと興奮して大声上げてしまっていたかも。

 

「おめでとうタマちゃん。

 ファルコちゃんは悔しいなあ。立ち直れるといいけど」

 

タマちゃんはこれで二冠達成。

なんかこっちの世界では、ダービー菊の二冠多くない?

現実ではタケホープ*1しかいないのに不思議だ。

さっそくお祝いのメッセ送っておこう。

 

そして、ファルコちゃん。

ダービーに続いて僅差で大物を取り逃してしまった。

その悔しさはいかほどだろうか。

 

結果が出た瞬間に座り込んじゃってたくらいだし、

相当悔しかったに違いない。

ガックリ来ちゃってなければいいんだが。

 

この悔しさをバネにして、さらに大きく飛躍してほしい。

 

「あれかな、俺の真似しようとしたのかな?」

 

ファルコちゃんのレースぶり、もしかして

ペースコントロールを試みたのでは、と思う。

 

中盤でバ群が一気に詰まったのがその証拠。

でもその割には、前半の入りがスローすぎた。

ハイペースで行くまでの勇気は持てなかったかな?

あるいは、スタミナにそこまで自信がなかったか?

 

おかげでそれ以降、他の子たちが付かず離れずになってしまって、

4コーナーで思ったより突き離せなかったんじゃないかなあ。

 

惜しいなあ。実に惜しい。

もう少し上手くやれば、勝っていたのはファルコちゃんだったのに。

 

まあこんな博打まがいな戦法はうまくいかなくて元々。

俺の時がハマりすぎた感があるし、そうそう上手くいくもんじゃない。*2

相手がタマちゃんっていう手練れだったこともあるし。

 

2人とも実にあっぱれ、そしてお疲れさん。

 

来週は俺の番だな。

待っとれよ~イナリ~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第100回天皇賞 主な出走ウマ娘

 

2枠2番レジェンドクイーン

2枠3番ミスシクレノン

3枠4番ファミーユリアン

4枠5番マティリアル*3

5枠7番イナリワン

5枠8番フリーラン

 

 

 

先週の菊花賞が50回記念だったのに引き続き、

この天皇賞も100回目のメモリアルだ。

 

100回目のウィナーに、ぜひとも名前を刻んでおきたいところ。

去年は盛大にやらかして勝てなかったことだしね。

 

 

『圧倒的1番人気、3枠4番ファミーユリアンの登場です』

 

 

一層気合を入れて、パドックへ。

いつもの横断幕に迎えられて、心が少しほっこりする。

 

毎度のお披露目をこなして、地下バ道へ。

その途中。

 

「よぉ姐御」

 

初披露となる勝負服を着こんだ、イナリが待っていた。

 

「今度こそ姐御の本気の走り、見せてもらうぜ」

 

「いいよ。後ろからよ~く眺めてね」

 

「お生憎様、最後はあたしが前に行く算段なんで、よろしくな!」

 

「こちらこそよろしく」

 

お互いの健闘を称えて、笑顔で握手。

そしてもう1人、俺を待っていたのは……

 

「リアン」

 

「ルドルフ?」

 

制服姿のルドルフだった。

いいのかおまえ。まあ関係者と言えば関係者だけど。

 

「今日はぜひとも、直接激励したくてね」

 

「直接プレッシャーを与えに来た、の間違いじゃない?」

 

「ひどいな」

 

軽口を言って笑い合う。

もうそんなことすら超越した関係だもんな。

 

わかってるよ。

この天皇賞を勝てば、おまえに並ぶG1・10勝目になるからな。

俺としてはいつもと同じ感覚で走るだけだが、周りは違うと。

 

「期待しているよ」

 

「はいはい、がんばってきますよ」

 

「ああ」

 

ハイタッチして別れる。

 

二言三言交わしただけだけど、言葉だけじゃ測れない何か。

とてつもなく大きなものを背負わされた感じがする。

やっぱりプレッシャーを与えに来たんじゃないの?

 

まあとにかく、精一杯頑張りましょ。

 

 

 

 

 

本バ場に出てきただけで巻き起こる大歓声。

そんな中で、聞き慣れた俺を呼ぶ声に気付く。

 

「リアンちゃ~ん」

 

おっちゃんと、居並ぶファンクラブの重鎮たち。

そしてその中に、珍しい顔がある。

 

「気張れや先輩!」

 

「応援しています。がんばってください!」

 

タマちゃんとファルコちゃんじゃないか。

なんとまあ……君たちが来ていることもそうだけど、

ファンクラブの連中に交じって、ゴール前最前列にいるとはね。

 

これはぜひとも、こちらからも声をかけなければ。

そう思って、外ラチいっぱいまで駆け寄る。

 

「タマちゃんとファルコちゃんまで来てるとは思わなかったよ」

 

「驚いたやろ? ファルコと相談してな、

 いつも応援されてばっかりやったから、今度ばかりは

 ウチたちも応援しに行かなあかんってな」

 

「今回を逃したら、チャンスがないですから」

 

確かに、次のジャパンカップは国際招待だし、

雰囲気的にそうそう出しゃばれたものじゃないからな。

一念発起して来てくれたってわけか。

 

「ありがと、がんばるよ。

 また日本レコード更新してくるから見てて」

 

「大きく出たな。でもよう言うた、その意気や!」

 

「期待しています。ファイトですよ!」

 

2人の言葉に頷いて、返しウマに――

 

「リアンちゃ~ん!」

 

――行こうと思ったんだが。

 

「オレたちにも何か一言おくれ~!」

 

おっちゃん……

やれやれ仕方ない。

 

「G1・10勝目の祝勝会しましょう。

 派手にやりますから、ほかのメンバーにも声かけておいてください」

 

「お、おおっ! 任せてくれ!」

 

「それじゃ」

 

「おうよ! がんばれよー!」

 

まったくもう、大の大人たちがおねだりとは、はしたない。

本当しょうがないよね。だけど、程よく気合は乗ったかな。

 

おっちゃんたちもありがとよ。

では、いってきます!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『100回目という節目になります天皇賞、発走が迫りました。

 秋晴れの東京レース場、バ場状態は良で行われます』

 

『注目は、なんといっても皇帝シンボリルドルフに並ぶ、

 G1・10勝目なるかというファミーユリアンです。

 いかがですか?』

 

『アクシデントがなければ確勝という感じでしょう』

 

レースが始まる前から、勝利を確信している解説者。

世の中の雰囲気も同じで、2着争いのほうに視点が向けられている。

 

とはいえ、『絶対』はないのがレース。

現に昨年は、それが起こってしまっているのだ。

 

『死角らしい死角が見当たりません』

 

『お墨付きをいただけたところで、2着争いに目を向けましょう。

 2番人気、大井からやってきたイナリワンですが』

 

『前走、毎日王冠での走りを見れば、筆頭で間違いないです。

 どこまでファミーユリアンに迫れますか』

 

『ほかの娘たちはノーチャンス?』

 

『失礼ですが、正直、ねぇ』

 

苦笑するしかない、というレベル。

もうとっくに、リアンとは勝負付け、ランク付けが済まされてしまっている。

事実、苦笑し合うくらいしか、反応のしようがなかった。

 

『スターターが旗を振って、100回目メモリアルのファンファーレです!』

 

ファンファーレが響いて、枠入りも順調。

程なくして態勢は整った。

 

一瞬の静寂が場内を支配する。

 

『スタートしました! 全員綺麗に走り出しました』

 

『しかしその中でも1人だけ明らかに違う出足!

 ファミーユリアン、タイミングよく飛び出して早くも先頭』

 

揃ったスタート。

中でも、いつにも増して早く飛び出したのがリアンだった。

 

『レジェンドクイーン続いていきます。外のほうから10番も行った。

 ですがファミーユリアン飛ばしていく。

 もう7、8バ身のリードを取りました』

 

2コーナーをカーブして向こう正面に出るころには、

すでに相当の差がついている。

 

『さあグングン飛ばすファミーユリアン。

 後続はもうこれだけ離れた。もう10バ身以上はつきました。

 2番手レジェンドクイーン、6番上がってきて3番手』

 

早くも引き気味になっているカメラアングル。

それでも後方まで収まりきらない。

 

『1000m、どれだけのタイムを記録するでしょうか』

 

まもなく中間地点の1000mを通過する。

誰もが注目するそのタイムは……

 

『57秒4! 大阪杯を上回る自身過去最速のタイム*4

 1000mを通過しましたファミーユリアンです』

 

彼女の戦績の中でも、1番早い1000m通過になった。

満員の観客たちから早くも大歓声が上がる。

 

『後続とはもう目視ではわからないくらいの差!』

 

悲鳴に近い実況の声。

それもそのはずで、誰がどう見ても、

もう何バ身という単位が意味をなさないくらいの差がついている。

 

実際、2番手のレジェンドクイーンとは2秒以上離れた。

 

『大変な縦長になりました。後方からはイナリワン動いた。

 内を突いて上がっていきます』

 

後方に構えていたイナリワンが動いた。

内が空いていると見るや、これ幸いとばかりに上がっていく。

 

『大欅を過ぎて4コーナーへ向かいますファミーユリアン。

 これだけのリードを取っています。この段階でもう安全圏か!?』

 

ただ1人4コーナーへと入るリアン。

後続はまだ3コーナーすら曲がり終えていない。

 

『さあファミーユリアンだけが直線へ向いた。

 後続はまだまだ追いついてこない』

 

2番手とは100m以上離れている。

いや、下手をするともっと、200m近くあるかもしれない。

 

『イナリワンするっと内を突いて上がってきた。

 いつのまにやら3番手』

 

後続の争いは、レジェンドクイーンが脱落。

あのまま内を突いて上がってきたイナリワンが、さらに差を詰める。

 

『しかしファミーユリアンは遥か前方だ。

 坂を上がっても脚色はまったく衰えない!』

 

坂を駆け上がり、ゴールまで一直線。

もはや大勢は決した。

 

『絶対王者ファミーユリアン、今日も今日とて異次元の逃げ足を発揮です!

 やはり付いていけるものは誰もいなかった』

 

『ファミーユリアン圧勝も圧勝でゴールインッ!

 2着離されてイナリワン入線です!』

 

リアンが大圧勝でゴールイン。

イナリワンが離されたが2着に入った。

 

『ついにあの皇帝に並んだぞ、G1・6連勝で10勝目!

 なんというウマ娘でしょうか! もう言葉が出てきません!』

 

『勝ち時計1分56秒4! 大阪杯での日本レコードをさらに更新です!

 天皇賞春秋連覇も達成! これも初めての大記録!』

 

タイムも従来の東京コースのレコードを大幅に更新し、

自身の記録をも更新する日本レコード。

おまけに、春秋の天皇賞を同一年に連覇するという、史上初の偉業。

 

『そして同時に重賞14勝目。これも皇帝が持っていた

 重賞最多勝利記録を更新しました!』

 

『次なるターゲットはどんな記録だ!?

 恐るべきウマ娘! ファミーユリアンですっ!!』

 

 

 

第100回天皇賞(秋)  結果

 

1着  4 ファミーユリアン  1:56.4R

2着  7 イナリワン       7

 

12.4-11.2-11.1-11.3-11.4-11.9-11.9-11.8-11.6-11.8

4F 47.1

3F 35.2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これが姐御の本気、かあ。

 な~にが『芝なら』だよ。おっそろしい……」

 

ゴール後、コースへ大の字に寝転んでしまったイナリワン。

乱れた呼吸を整えつつ、負けを認めた。

 

「完敗でぇ……!」

 

これだけ負けると逆にすがすがしくすらある。

 

「……だがいつか、姐御に……」

 

抜けるような高い青空を見やりつつ、

イナリワンはしばらくそのままターフ上に仰向けで過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファンへの対応も程々に、地下バ道へと戻ってきた。

 

「おめでとうリアンちゃん」

 

「……っ」

 

出迎えてくれたスーちゃんに笑顔でそう言われると、何かが込み上げてきた。

いつもと変わらないことなのに、なんぞこれ?

 

瞬間、デビュー戦でのことがフラッシュバックした。

ああ、駄目だ。またアレだ……

 

「あらあら」

 

感極まって、思わずスーちゃんに抱き着いてしまう。

 

いくら同じ距離、同じコースといっても、

同じことの繰り返しはいかんでしょ。進歩ないよね。

 

でも仕方ないんだ。本能には逆らえないんだ。

グズりつつもなんとか堪えてスーちゃんから離れると、今度は――

 

「やったな、リアン」

 

ルドルフからの追い討ち。

 

「君に並ばれたのなら本望だ。

 むしろ、さっさと超えていってくれると嬉しいな」

 

「ルドルフぅ……っ」

 

「あ、こら……やれやれ仕方ないな」

 

にっこり笑顔でこんなことを言うものだからさあ。

当のご本人様が言うもんじゃないよ。

引っ込んだかと思った何かがまた込み上げてきて……

 

ルドルフにもがばっと抱き着いてしまった。

 

「本当に仕方ないな、君は」

 

ルドルフの声がとてもやさしい。

背中をポンポンされつつ、こんなの聞かされたら我慢できなくなる。

 

ああもう、どうにでもなるがいいさ!

 

 

 

 

 

当然、この様子はマスコミにばっちり撮られていたわけで。

音声も記録されていて、ファンたちの間では、“お祭り”状態だったという。

 

そして、インタビュー時になっても到底落ち着かず、

終始グズりつつの受け答えになり、ある意味伝説と化した。

 

 

 

 

*1
クリフジも該当するが、純粋な二冠ではないのでここでは除外

*2
セイウンスカイと横山典弘がお見事だったとしか言えない

*3
史実のマティリアルは、これに先立つ京王杯AHで……

*4
サイレンススズカが記録したタイムと同じ。しかし史上最速かと言われるとそうではない。トーセンジョーダンがレコードを出した第144回に、シルポートが逃げて56秒5を記録している




あの日曜日もこうなるはずだった(´;ω;`)ブワッ


まったく関係ないですが、会見時の涙というと、
F1のシューマッハが、セナの記録に並んだ時を思い出すおっさんです(;´∀`)


仮にリアンが海外遠征する場合、初戦は何が良いですか?

  • ドバイワールドカップ
  • ドバイシーマクラシック
  • ガネー賞(仏)
  • クイーンエリザベス2世カップ(香港)
  • アメリカ遠征
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