「ファミーユリアンさん、災難だったね」
「痛そう……大丈夫?」
「何かできることがあったら言ってね」
怪我した翌日、松葉杖をついた俺に、
クラスメイト達は過剰なくらい優しかった。
こうしてみんな声をかけてくれるし、移動教室の際は
荷物を持ってくれるし、何かと世話を焼いてくれる。
ウマ娘は基本的に善性だというが、大いに実感できたわけである。
みんな良い子たちやでぇ……おっちゃん泣いちゃう。
「リアン」
まあその中でも筆頭なのが、我らが皇帝陛下なわけでして。
「昼は食堂に行くだろう?」
「うん、そのつもり」
「なら一緒に行こう。昨日の件で話があるんだ」
「わかった」
わざわざ申し合せなくても、
だいたいは彼女と一緒に昼食摂ってるんだけどね。
昨日の件、というと……
ルドルフが自ら申し出てくれた件だな。
正直に言って、乗らない手はない。
これ以上ないくらいの好条件を示してくれている。
俺なんかが行っていいのかと思ってしまうくらいだ。
というか、昨日の今日で、もう話をつけてきたのか。
贔屓されているんじゃないかと、周りから妬まれやしないかと、
実は内心ヒヤヒヤしている。
で、あっという間に昼休みになった。
ルドルフに支えてもらいつつ食堂に移動して、空いている席に着く。
着席する際に、椅子を引いてもらっちゃったりして、
執事やメイドのような役割をさせてしまって、さすがに申し訳なさが浮かんでくるぜ。
「私が取ってこよう。何がいい?」
「ありがと。じゃあ、今日は日替わりにする」
「わかった、行ってくる」
しかも、俺の分を先に取ってきてくれるという。
なんかもう優しすぎない?
みんなといいルドルフといい、なんでこうも優しいのかねぇ。
自分の不甲斐なさばかりが目立って、嫌になってくるレベルですらある。
自己嫌悪に落ちかけていれば、ルドルフが戻ってきた。
「おまたせだ」
「全然待ってないよ」
「では先に食べていてくれ」
「いや、待ってるよ。一緒に食べながら話そ」
「すまない、手早く行ってくる」
せめて、揃うのを待ってあげるくらいはしてあげなければね。
しばらく待つと、ルドルフは何品も大盛りにして戻ってきた。
「いつも思うが、君はそれで足りているのか?」
「うん、多いくらいだよ」
ここのは、普通のメニューでもウマ娘仕様の特別製なんだ。
だから、なんでもなくても食べきるのは割と苦労する。
「「いただきます」」
お互い軽く手を合わせてから、食事を開始。
「早速だが、昨日の件だ」
「うん」
食べ始めてすぐに、ルドルフが切り出してきた。
「話はついたよ。なんなら今日からでも利用できる」
「そうなんだ。非常にありがたくはあるんだけどさ」
「不都合があるか? あるなら言ってくれ。
最善を尽くすように取り計らってもらうからな」
「いや、そうじゃなくてね……」
むしろ、“ソッチ”方面に行っているのが逆に怖いんですよ。
本当ただのモブ娘たる俺が、そこまでしてもらっていいのかと。
「本当に、私なんかが行ってもいいの?」
「もちろんだ。友達の力になりたいんだと打ち明けたら、
うちの両親も施設の人も、是非にと言ってくれた」
「そう、なんだ」
あはは、それは参っちゃうな。
苦笑するしかないな、あはは(汗)
ルドルフ、わかっているかな?
底辺オブ底辺の出身たる俺にとっては、
そういう上流階級の世界は、あんまり関わりたくないものなんだよ?
しかしまあ、純粋な厚意から言ってくれてるんだろうし、
力になりたいっていうのも本心なんだろうしなあ。
ルドルフにとって、シンボリの娘や、将来就くであろう生徒会長という
肩書など度外視して付き合ってくれる存在というのは、貴重なんだろうね。
実際、生徒会メンバーや後輩たちにすごく慕われてはいたけど、
対等な関係というとマルゼン姉さんくらいのものだったろう。
アプリ版でダジャレに染まっているのも、
皆から親しみを持ってもらいたいという思いからだったと記憶。
現に、今はそんなこと言わないしな。
「で、どうする? いつからにしようか?」
「うーん、でもそこって、リハビリ施設なんだよね?
今のうちから行っても、あんまり意味ないんじゃないかな?」
そう。ルドルフが紹介してくれたところというのは、
国内でも有数なスポーツ医学の権威で、
怪我や病気等からの復帰を目指すアスリートたちのための総合研究所だ。
ウマ娘も対象ということで、シンボリ家もたびたびお世話になっているという。
そんなところにルドルフの口利きで、彼女の両親に話が行って、
施設側も二つ返事でOKしてくれた、というのが現時点。
俺が恐れ多く思う理由は、
そんな超一流の施設を俺なんかが使っていいのかというのがひとつ。
もうひとつは、相応の利用料がかかるであろうに、
今回はご厚意もご厚意で、無料で使っていいとの話だからである。
本当に、俺なんかに投資してもらっても、何の見返りも用意できませんよ?
逆に元本割れが保証されますよ?
それでもいいの? あ、いいんですか……
アッハイ、ワカリマシタ。
そんなわけで話はとんとん拍子に進み、
こうして最初に伺う日取りを決める段取りまで来ているのであった。
「いや、リハビリだけじゃないぞ。
故障中の食事や過ごし方も指導してもらえるから、意味はあると思う」
「そっか」
「それに、私の祖母は長く活躍したウマ娘なんだが、
祖母がたいした故障もせずに現役をまっとうできたのは、
そこの力が大きかったとよく聞かされた。
だから効果のほどは保証する。大船に乗ったつもりでいてくれていい」
「へえ」
ルドルフの祖母……誰だっけ?
リアルのほうなら、母父、祖父に当たる、確か有名な馬がいたはずなんだが……
ダメだ、競馬にわかの知識では思い出せない。
「えーと、じゃあ、今度の週末に、まず行ってみようかな?」
「週末だな? わかった、手配しておくよ」
「よろしくお願いします」
「うん」
満足そうに頷くルドルフ。
彼女が言った『手配』という言葉の範疇が、
俺の想定をはるかに超えるものだということが、後日明らかになる。
週末の朝。学園は休み。
なのに、どうして制服に着替えているかと言えば、
これからお出かけするからである。
そう、ルドルフが掛け合ってくれた施設に、今から向かう。
かといって俺はお出かけ用の服なんか持ってないから、
こういうとき学生は便利だね。制服があれば事足りるんだから。
「リアン、支度はできているか?」
「うん」
携帯片手に尋ねてきたルドルフに、頷いて見せる。
つい今しがたかかってきた電話に出て、なにやら話していたが?
「では寮の正面へ。はい、お願いします」
ルドルフはそう言って、電話を切った。
「じゃあ行こうか」
2人連れ立って部屋を出て、寮の玄関へ。
すると、すぐ外に、やけに立派な黒い車が停まっている。
あれは……く、黒塗りのリムジン!? 実在していたのか!
どうしてあんなものが……URAのお偉いさんでも来ているのか?
視察ってやつかな? こんな朝早くからご苦労なこって。
「リアン? どうした? こっちだ」
「え……?」
ところがルドルフは躊躇なく、リムジンに向かっていく。
どういうこと?
「おはようございます、お嬢様」
「ご苦労様です」
「………」
車の側で待機していた執事の格好をした男性が、
ルドルフに歩み寄って一礼する。ルドルフも慣れた様子でそう返した。
呆然と見守るしかない俺。
そうか……『名門』という言葉の意味を忘れていたよ。
普通にいいとこのお嬢様なんだよな、あいつ。
そりゃリムジンの1台や2台、電話一本で呼び出せるし、
当然運転手付きというわけだ。
本当に、ただのモブ娘たる俺が友達付き合いできていることが不思議なんだ。
「友人のファミーユリアンです」
「はじめまして、ファミーユリアン様」
「あ、ど、どうも、ファミーユリアンと言います」
ルドルフから紹介されて、恭しく俺にも頭を下げる執事の人。
『こういう』世界の人間なんだなあ、さすがは皇帝陛下。
「ではどうぞ、お乗りください」
執事の人がドアを開けてくれる。
リムジンでの送迎とか、浮世離れしすぎてて、逆に、
今現在体験しているというのに実感が湧いてこない。
乗り込もうとして、ハタと気づいた。
あ、靴の裏とが汚れてないか? 汚すのは申し訳ない……
「大丈夫でございますよ」
そんな俺の様子に気づいたのか、執事の人は、
笑顔でやさしくそう言ってくれた。
そうは言いますがね、なんだか恐れ多くて……
車に乗り込むだけなのに、人生(転生後)で1番緊張した。
内部も広く、豪華。
普通車の中だというのが信じられないほどだ。
「狭くて済まないが、少し我慢してくれ」
「いやいや」
隣に乗ってきたルドルフは、普通な様子で言うけれども、
これで狭いというなら、世の車の大半はアリの巣も同然ということに。
すぐさま否定したが、どれだけブルジョワやねん。
というか、あれ……?
「ルドルフも行くの?」
「変なことを聞くな? 当然じゃないか」
「アッハイ」
何か問題でも?と首を傾げるルドルフ。
いやまあ君の紹介だし、ついてきてもらっても一向にかまわないし、
初めての場所だから一緒に来てもらえるのは心強い。
でもそういうことは、前もって言っておいてもらえたらうれしいかな~?
突然だとびっくりするじゃん。
そういえばルドルフも制服だったな。
わかっていて然るべきだった。
「お嬢様、出します」
「お願いします」
ほどなく出発し、目的の施設へ向かう。
はてさて、どのようなところなのやら。
「久しぶりだな、ルドルフ」
「え」
ところが、施設に着いて、車から降りてみて第2のドッキリだ。
これはルドルフも知らなかったみたいで、顔が驚愕に染まっている。
彼女の視線の先には、ナイスミドルというには早すぎる、
30歳前後という感じの美男美女がいる。
「父様、母様」
え、彼らがルドルフのご両親?
なるほど、お二人あってのルドルフというのがよくわかる。
美男美女のカップルだ。
「どうしてここに?」
「なに、久しぶりに顔を見たくなってな」
「あなたときたら、滅多に帰ってきてくれないんだもの」
「トレーニングで忙しいんです。
電話やメールはしているではないですか。
それに久しぶりとは言いますが、連休明けに帰ったでしょう」
「それでもだよ」
「親というのはそういうものなんです」
「……そうですか」
にっこにこ顔のご両親とは別に、嵌められたという感じで
目を吊り上げて、不機嫌そうなルドルフ。
ああ、安心した。
皇帝陛下も、親の前ではただ1人の女の子なんだな。
ゲームでは見られない姿を見られて、得した気分だ。
「で、彼女が?」
「はい」
感動の再会もそこそこに、3人の視線がこっちへ向いた。
いかん、ご挨拶ご挨拶……
「はじめまして、ファミーユリアンと申します。このたびはまことに――」
「ああ、堅苦しいことは抜きにしよう。プライベートだからね」
「……え、あ、はあ、はい」
きちんとした挨拶をせねばと張り切ったのだが、途中で遮られてしまった。
なんだよ~と思わなくもなかったが、笑顔で言われちゃ何も言えない。
「学園でのルドルフの様子はどうかな?」
「とても優秀なので、こちらとしても助かっています。
みんなすごく頼りにしていますよ」
「そうかそうか」
「安心したわ」
「……本人の前で本人の話はしないでほしいな」
お二人の表情はとても暖かい。
プラス俺の生暖かい視線という3人分が一気に集中して、
ルドルフは恥ずかしそうに頬を掻いた。
「コホン。父様、母様も、リアンは足を怪我しているんです。
施設の方も待っているでしょうし、早く行かせてください」
「おう、そうだな」
「あら、ごめんなさい。そうね、立ち話はつらいわよね」
わざとらしく咳払いし、ルドルフが逆に意味ありげな視線を送ってくる。
俺をダシにして逃げたな?
立ち話でも一向に構わなかったけど、まあそういうことにしておきましょうか。
「リアン、行くぞ」
「あ、うん」
「お二人はどうされるんです?」
「仕事があるからいったん離れるが、また来るよ」
「何時ごろまでの予定?」
「寮の門限があるので、夕方、そうですね、5時前くらいでしょうか」
ご両親、週末まで仕事とはお忙しそうだな。
そんな折に、一目だけとわかっていても娘に会いに来たのか。
「じゃあその頃にまた来るよ」
「ファミーユリアンさん、お大事にね」
「はい、ありがとうございます」
お二人はそう言って、軽やかな足取りで去っていった。
良いご両親やでぇ。
名門の金持ちでハンサムで美人で人柄も良いって、非の打ち所がないってもんだ。
「良いご両親だね」
「そうか? いつまでたっても子離れできない親だぞ。
仕事が忙しいというならなおさら悪い。まったく」
だからついつい、そんな言葉が漏れてしまう。
ルドルフは口ではそう言うが、目元は笑っていた。
「……っと、すまない」
「なんで謝るの?」
「……そうだな、なんでかな」
「うん」
急に表情が曇ったからなんだと思ったら、俺のことを気にしたか。
とことん良いやつだ。そんなのどうでもいいのにね。
「私は何もわからないから、案内してくれる?
ルドルフは来たことあるんでしょ?」
「ああ、こっちだ」
松葉杖をついているから、今はできないけれども、
可能ならば、俺の手を引いていきそうな、そんな気配のルドルフさんです。
そして、夕方。
ここでの話や指導は、とても参考になった。
食事療法なんかは、今すぐにでも実践したい。
少しでも早く治して復帰して、トレーニングを再開したいからね。
一応、来週に再検査して、全治とかの診断が正式に下る予定。
梅雨が明ける前までには復帰したいなあ。
夏には合宿があるようだし、それまでには万全の態勢を整えておかないと。
時刻は4時過ぎか。
予定よりは少し早いが、そろそろお暇させていただきますかね。
「やあ」
「父様、母様」
外に出たところで、ルドルフのご両親が再び現れた。
俺たちが出てくるのを待っている節があるので、
タイミングを計っていたようだ。
いかん、待たせてしまったかな?
「ルドルフ、ひとつお願いがあるんだが」
「なんです?」
「これを、ここの所長に持っていってくれないか。
大事な書類なんだ」
「大事なものならご自分で……んん、わかりました。行ってきます。
リアン、少し待っていてくれ」
「うん」
お父様はそう言って、ルドルフに1通の茶封筒を差し出す。
渋るルドルフだったが、わがままなところを俺に見られたくないとでも思ったか、
受け取って施設の中へ戻っていった。
この場には、俺とご両親だけが残される。
「ファミーユリアン君、ちょうどいい機会だ。そこで話さないか」
そう言って、研究所の広大な庭にある東屋を示すお父様。
……なるほど、そういう意図か。
「わかりました」
こうなると俺に拒否権はない。
東屋へと移動し、備え付けられている椅子へと腰を下ろした。
「話と言っても、簡単なことだから安心してくれ」
「はあ」
「聞きたいのはひとつだ。ルドルフの様子はどうかね?」
「どう、と言われましても……」
先ほどお会いしたときにお答えした通りなんですがね。
チラリとお母さまを窺うと、彼女は微笑みを浮かべて見守っていた。
「本当に頼りになります。完璧すぎて怖いくらいです」
「完璧、か。私たちが心配しているのは、まさにそこなんだ」
「?」
完璧なのが心配? どういうこと?
親としては、子供が完璧なのは安心なんじゃないのか?
「自慢するようで悪いが、あの子が優秀なのは私たちも認めている。
本人も、周りが期待していることはわかっているだろう。
だからこそ心配でね。いつか、周囲の過度な期待に壊れてしまうんじゃないかと」
「……」
まあ、そう言われればわからなくもないな。
俺は人の親になったことはないから、親の気持ちはわからないが、
人の心配をする気持ちくらいはわかるつもりだ。
期待というのは、裏を返せば、失望、落胆へと繋がる。
結果が出ているうちはいいが、いざ失敗したとなったとき、
果たして本人がそれを受け止められるか。
それまで挫折を経験していないだけに、ショックは大きいだろう。
だけど、心配ご無用!
あいつはシンボリルドルフ。
無敗で三冠を達成し、前人未到の七冠を制する皇帝陛下だ。
もちろんプレッシャーはあるだろうけど、そんなものに負けるほどやわじゃない。
前世の史実やゲーム上だけの話ではなく、こうして実際に
ともに生活してみて、実感できたこともである。
「大丈夫ですよ」
だから俺は、自信を持って言い切れる。
「ルドルフは、ルドルフですから。
今にきっと、誰にも成しえなかったことを達成すると思いますよ」
「そうかね」
「お友達にそこまで言ってもらえるなんて、あの子は果報者ね」
笑みを浮かべるご両親。
前世カンニングで申し訳ないが、心配ないのは事実だからね。
「実はね、あの子……」
「おい母さん、その話は」
「いいではありませんか。内緒にしておけば済みます」
「仕方ないな。というわけで、あの子には内密に頼むよ」
おや、お母様、内緒のお話ですか。
雰囲気からして、口止めされてるっぽいが?
俺もお口にチャックしないといけない話のようだ。
「あの子、電話やメールはしているって言っていたでしょう?
何の話をしてくれると思います?」
いたずらっぽく微笑むお母様。
「ほとんど、あなたのことなんですよ、ファミーユリアンさん」
「え……」
「あの子がこんなことをしていた、何を話してくれた、
今日は一緒にあんなことをした、とね。それはもう、楽しそうに」
「………」
あ、あいつ、何を話してくれちゃってんの!?
俺のプライベート筒抜けやんけ!
「不快に思わせてしまったのならごめんなさい。
でもね、あの子にとってはそれくらい、あなたは大事なお友達なの」
「君も薄々、感じているかもしれないが……」
ここで、ご両親の表情に影が差した。
「生まれと境遇のせいで、親しい友人と呼べる間柄の人物は
極めて少ない。いないと言ってもいいかもしれない。
本人はあのような性格だからそんな様子は見せないが、
内心はとても寂しいと思うんだよ」
「だから、ファミーユリアンさん。出来る限りで構わないから、
あの子と仲良くしてあげてほしいの。
親ばかだと思われても仕方ないけれど、私たちにできるのはこれくらいだから」
まあね、娘を心配する親心はわかる。
介入したくないのも本心だけど、手助けしてあげたいのも本心。
概ね想像していた通りの状況だってことね。
「何せ初めてのことだから、多少過激なことをしちゃっても、
許してあげてちょうだい。まだ適切な距離感が掴めないのね」
「そうですよね。この前、服をたくさん持ってきたのは驚きました」
「あれね……」
苦笑するお母様。
どうやらあちら側でも、あれはやりすぎと思われたようだ。
「せめて2、3着くらいに絞ったらと言ったんだけれど」
「まあ、ただでいただけたから万々歳なんですけどね」
「そう言ってもらえると助かるわ」
お互い苦笑するしかない。
そうだよ、2、3着くらいでよかったんだよ。
それをあんなに……
おかげでタンスが一気にパンパンやでぇ。
「お気に召してもらえたかしら?」
「はい。外出するときは着させていただきます」
「それならよかったわ」
実際問題、そういう機会でもないと着る気にはならないけどさ。
正直、あんなひらひらかわいい系の服、自分じゃ絶対選ばん。
「ファミーユリアン君」
と、和やかな気配で俺たちの話を聞いていた
お父様の表情がまた変わり、真剣なものになった。
「失礼ながら、君のことを調べさせてもらった。
孤児院の出身だそうだね?」
「はい」
まあ、名門の両親としては当然の行為だと思う。
愛娘と親しくなったのがどういう人物か、気にはなるだろう。
どこのウマの骨かと。
「そのことを含めての提案なんだがね。
今後、我がシンボリ家は、君の全面バックアップを約束する」
「へっ……? ばっくあっぷ?」
「ああ。トレーニングからプライベートなことまで、全部だ。
金銭面も心配しなくていい」
「………」
ちょ、ちょい待ち……
あまりに突然で、しかもスケールがでかすぎて、何が何やら……
「もちろん打算がないわけではないよ?
君を手助けしたほうが、我が家の発展に繋がると判断したまでだ。
今日の様子からしてみて、君を気に入ったことも事実だけどね」
「その代わりと言っては何だけど、あの子のこと、お願いね」
……なるほど、ご両親の心中が少し読めた。
つまり、俺の心象と体調を良くして頑張ってもらう。
俺が好調であれば、親友でルームメイトのルドルフの調子も比例して上がって、
大活躍が見込めるだろうと、そういう魂胆なんだな?
これ、俺が断れる余地ある?
すでにここまでしてもらっちゃってるわけだしさ。
破格の好条件だし、もとよりルドルフとは上手くやっていくつもりだから、
断るつもりなんて最初からないけどね。
それにしてもご両親の戦略よ。
いつから考えてたんだろうな?
もしかして、今日仕事だというのは嘘で、ハナから仕組まれてたんじゃないか?
そんな疑念さえ浮かんできてしまう。
「わかりました。よろしくお願いします」
「おお、物怖じせずに即決できるその胆力、すばらしい。
ますます気に入ったよ。わはは」
「ルドルフは非常に良い友人を作ってくれましたわね」
普通の13歳の子供に、1人でこんな決断できますかね?
保護者も呼んで話し合いたいところだ。
あ、今の俺にはいなかった。
「では、これを渡しておこう」
お父様はそう言って、カード状のものを差し出してきた。
「今後、支払いはそれで済ませるといい。大体のところで使えるはずだから。
無くさないようにはしてくれよ」
え、まさかこれって、クレジットカード?
そんな大事なもの渡しちゃっていいんですか?
全面バックアップって本当だよ。
シンボリ家おそるべし。ヒェッ……
おそるおそる、まるで神様からいただくかのごとく、
それはもう丁重に受け取らせていただきました。
「どこに行ったかと思えばこんなところに」
「おおルドルフ、戻ったか」
と、ここでルドルフが戻ってきた。
どうやら少々お冠なご様子。
「リアンは足を怪我しているんですよ。
わずかな距離とはいえ、歩かせるような真似をさせないでください」
「すまんすまん」
「あなたを待っている間、話をしていたのよ。
立ち話もなんだから、ね?」
「まったく」
自分がパシられたことより、俺のほうにだったのかよ。
ホントにもうこいつは、『多少』では済まないと思います。
文句をこぼしつつも行われる、親子の他愛のないじゃれあいを見ながら、
俺は笑っていた。
帰りの車中。
「父様母様と、何を話してたんだ?」
ルドルフがこう尋ねてきた。
「ん~、気になる?」
「まあな。嫌なことを言われなかったか?」
「いや全然。ちょっと世間話しただけ」
「そうか、ならいいんだ」
安心した様子のルドルフ。
噓は言ってないよ?
それよりもずっと重いことは決まっちゃいましたけどね。
「ねえルドルフ」
「なんだ?」
「家族って、いいよね」
「……ああ」
俺の言葉に、ルドルフは複雑そうな表情を見せつつも、頷いてくれた。
捏造両親設定。
親の前ではこんなルドルフだと嬉しい。
PC壊れました。
今は何とか動いてますが、映らなくなりどうなるかわかりません。
次回更新は未定とさせていただきます。
仮にリアンが海外遠征する場合、初戦は何が良いですか?
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ドバイワールドカップ
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ドバイシーマクラシック
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ガネー賞(仏)
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クイーンエリザベス2世カップ(香港)
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アメリカ遠征