転生孤児ウマ娘の奮闘記   作:しょうわ56

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第76話 孤児ウマ娘、記者会見する

 

 

 

今回の『ファミーユリアンちゃんについて語るスレ』のコーナー

 

 

(有記念リアルタイム視聴組の反応)

 

:最大の注目は逃げ対決やな

 

:ファルコとフルマーは確実として、

 リアンちゃんはどう出るのか

 

:逃げてくれたほうがおもしろい

 

:そして、ファルコとフルマーを叩き潰すんですね、

 わかります

 

:今度こそ三つ巴の逃げ対決を何卒

 

:ダイナも絡んでくれんかなあ

 

:四つ巴とかw

 

:ダイナには理性があるからな*1

 

:急に暗くなってきた

 

:雨降ってきたぞ

 

:まあこれくらいなら、さしたる影響はあるまい

 

:寒いし雨だし、ほんとウマ娘は大変だ

 

:屋外競技ならみんなそうだろ

 

:さあ大注目のスタートや!

 

:はたして……

 

:!!

 

:リアンちゃん行ったー!

 

:あんな言い方しておいて

 結局は行くんじゃないですかヤダー(歓喜)

 

:いいぞ俄然面白くなった

 

:外枠のフルマーはともかく、最内ファルコが前に出られんとは

 

:ファルコの逃げは高速逃げじゃないからな

 

:ダッシュ力はリアンちゃんに軍配か

 

:なんて素敵なトライアングル

 

:後輩2人を引き連れて逃げるリアンちゃん

 イイ

 

:実に画になる

 

:57秒9!?

 

:はやすぎぃ

 

:なんてペースだよ

 

:通常運転だ

 ……いや、それにしても早いな(汗)

 

:リアンちゃんなら大丈夫と信じたい

 

:お?

 

:あ

 

:幻惑キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

 

:4番手との差が!

 

:あ

 

:あ

 

:ファルコ!?

 

:そのまま行くのかお前!?

 

:フルマーは一緒にペース落としたな

 

:前に行ったファルコ、控えたフルマー

 この差が果たしてどう出る?

 

:リアンちゃん再加速!

 

:再加速キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

 

:菊花賞以来の、これぞ幻惑!

 

:並びかけて最後の直線だ!

 

:3人の叩き合い!?

 

:あー

 

:ああファルコ……

 

:そりゃ、あのペースで逃げたままならそうよね

 

:もう一杯一杯だったか

 

:リアンちゃん先頭!

 

:後ろはイナリとタマモだが離れてる

 

:やっぱりこの2人!

 

:最後の加速!

 

:二段階ならぬ三段階や!

 

:三段ロケットリアンちゃん!

 

:やったあああああああああ

 

:おめええええええええええ

 

:グランドスラムキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

 

:シンザン越え!

 

:すげぇ、まさにそれしか言えない

 

:20戦20連対! 連対率100%を維持!

 

:リ・ア・ンっ!

 

:リ・ア・ンっ!

 

:リ・ア・ンっ!

 

:フライングだぞおまえらw

 

:気持ちはわかるが、現地よりも先走るのはやめいw

 

 

 

(翌日)

 

:いやしかし、見事な幻惑だったな

 

:結果的に見れば、控えたフルマーが正解だった

 

:ファルコにしてみれば、高い授業料になったな

 

:でも間近で見られたし体験できたんだし、

 これで来年また頑張ってくれれば

 

:あれで5着に粘れてるんだから、ファルコも凄いよ

 

:年間無敗でグランドスラムか

 もう日本でできることはやり尽くした感があるな

 

:まさに皇帝以上の絶対王者

 

:であればやはり、皇帝“以上”を期待してしまうな

 

:クラシック勢は当然として、

 リアンちゃんやフルマーは来年も走るんだろうか?

 

:フルマーは、その方向で、って答えてたぞ

 

:俺もそんな記事見たな

 

:なんか微妙に浮かない表情してたのが気になるけど

 

:ライブ直後の囲み取材でのことだろ?

 レースとライブでの疲れが出てたんじゃないの?

 

:で、肝心のリアンちゃんはいかに?

 

:まだ情報出てないな

 

:ファンクラブのサイトにも、府中CATVにも出てないから、

 本当にまだ挙がってきてないんだろうな

 

:大本営にないならしょうがない

 

:発表を待とう

 

:急報! ファンクラブに動き!

 

:言ってる傍からか

 

:明日16時より緊急会見、重大発表とのこと

 

:緊急会見? 重大発表?

 

:なんだ?

 

:会見開くほどの重大発表?

 

:いや、まさかとは思うけど……

 

:はは、まさかあ

 

:まさかな、まさかだよな?

 

:でも年齢を考えると……

 

:そうであったとしても驚かない

 非常に残念ではあるが……

 

:そんな……

 

:嘘だと言ってよリアンちゃん!

 

:各社も一斉に報じ出したな

 

:どこも重大発表という表現にとどめる中、

 ひとつだけ『電撃引退』なんて報じてるところがある……

 

:は?

 

:マジかよ

 

:どこ?

 

:〇〇って出版社

 

:なんだ、ゴシップ屋か

 

:専門ならまだしもゴシップかよ

 

:安心した、確証があるわけじゃないんだな

 

:ちょっと待って

 ほかも『引退』言い始めよったで!

 

:ええええええ

 

:ウマ娘ニュースにも来てしまった……

 

:本当なのか? 裏とれたのか?

 

:ああ、来るべき時が来てしまった……

 

:誰にもその時が訪れるとはいえ……

 

:まだだ! まだ府中CATVは報じてない!

 

:そうだ、ソレを報じるならまず、誰よりも親しい府中CATVのはず

 そこが来てないなら俺は信じない!

 

:だけどそう考えると、現役続行宣言した時のフルマーが、

 何とも言えない顔してたの納得できるんだよな

 レース後、リアンちゃんとなんか話してたみたいだし、

 そこで打ち明けられてたんだとしたら……

 

:俺はレース前の会見で、『集大成』って言ってたのが引っかかる

 最後だからって意味じゃないよな?

 

:今の今まで気にも留めてなかったけど、そう言われると、

 現役最後の一戦だからって意味にしか聞こえないぞ……

 

:状況証拠が次々と……

 

:ええい、すべて推測に過ぎん

 俺は本人の口から出るまで何も信じないぞ!

 

:ファンクラブ鯖落ちとるやんけ

 

:殺到しすぎィ

 

:おまえら、わかっているとは思うが、

 本当に確定するまで、要らんことしてリアンちゃんを困らせるんじゃないぞ

 いいな!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

記念翌日の月曜日。

世間は衝撃的なニュースに戸惑っていた。

 

『ファミーユリアン引退か!?』

 

ファンクラブのホームページにて、翌火曜日に記者会見するとの

情報が載せられたのが午前10時。

報道各社がそれを一斉に報じ出したのが10分後。

 

そして、10時半には、『引退か?』の文言が出回り始める。

テレビで字幕での速報が同40分ごろに流れ、

『ファミーユリアン明日緊急会見、電撃引退発表か』という内容。

 

ファンクラブホープページにはアクセスが殺到し、サーバーがダウン。

また、情報を求めたファンたちが同じようにこぞって閲覧に走ったか、

府中CATVのサイトも、繋がりにくい状況に陥ってしまう。

 

グランドスラム達成という歓喜に沸いたファンたちへ、

突然投げかけられた、まさに冷や水だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふわ~」

 

目が覚めたら、午前11時を回っていた。

うむ、久しぶりに良く寝たね。

 

遅刻じゃないよ? もう冬休みに入っているし、

今日はトレーニングも全休だから、

久しぶりにゆっくり寝てようと思った結果がこれだ。

 

さすがに疲れてたし、下手すると夕方まで起きないかも、

なんて思ってたけど、案外自然に目が覚めるもんだね。

 

改めて室内を見てみると、ルドルフはいなかった。

今日も生徒会でのお仕事かな?

休みだというのにご苦労さんです。

 

「さて、着替えてメシでも……って、うわ!」

 

枕元に置いていたスマホを手に取って、あらビックリ。

 

「着信だらけ……全部乙名史さんじゃん」

 

10時を過ぎたころから、彼女からの着信が鬼のように来ている。

ゆっくり寝てようと思って、音もバイブも切っていたから気付かなかったのか。

 

何かあったのか?

こんなに電話かけられる覚えなんかないんだけど?

なんだってんだいったい。

 

まあとにかく腹が減った。

着替えてカフェテリアに行くか。

 

そう切り替えた瞬間、着信を告げるスマホの画面。

相手を見ると、やはりというか、乙名史さんだった。

 

やれやれ、仕方ないな。

 

「もしも──」

 

 

『なんで出てくれないんですかあっ!!!』

 

 

「──……」

 

通話ボタンを押して、お馴染みのセリフを言いかけるや否や、

轟いてきた乙名史さんの大音声。

スピーカーフォン越しなのに、思わず耳がツーンとなる。

 

やめてくれ乙名史さん。そんな大声はウマ娘に効く。

 

『やっと繋がった! リアンさんっ!?』

 

「すいません寝てました」

 

『寝てっ……!? ああもうっ、こんなときに!』

 

「……?」

 

聞こえてくるのは、焦りに焦ってどうしようもない、

そんな感じの声。だからなんなのよ?

 

『リアンさん! 引退するってウソですよね!?』

 

「……は?」

 

『引退するって報道が出てるんですけど、飛ばしですよね!?

 私何も聞いてませんよ! 嘘だと言ってください!』

 

「え? ちょ、ちょっと待ってください……?」

 

引退する? 誰が?

もしかして俺が? はああ!?

 

「い、いったいどこからそんな話に?」

 

『ファンクラブのページで、明日会見するって情報出しましたよね?』

 

「ああ、はい」

 

スーちゃんやおっちゃんたちと相談して、

来年のことに関する記者会見するっていう情報を、

最初にファンクラブで発表するってことにしてたんだっけな。

 

『重大発表を行います、って書かれていたものだから、

 みんな邪推したか早合点したかで、引退会見になるって言ってます!』

 

「……」

 

『確かにそう言われてもおかしくはないですが……

 邪推ですよね? 早合点ですよね?

 まさか他社にはもう喋ってたりするんですか?

 仮に引退するとしても、私に言う前に引退したりしないですよねぇえええ!!?』

 

「ちょっ、落ち着いてください乙名史さん!」

 

再び昂ぶっていく乙名史さん。

彼女を落ち着かせるのには大変苦労した。

 

「事実無根です。誰もそこまでは言ってません」

 

『でも会見して重大発表するんですよね?』

 

「それはそうなんですが」

 

『じゃあやっぱり引退するんですねぇっ!!?』

 

「ですから、そこまでは言ってません」

 

だから落ち着け。

とりあえず、重大発表=引退、という発想から離れようか。

 

話をまとめよう。

 

会見して重大発表するというのは事実。

しかし引退というのはマスコミの勝手な推測でしかない。

 

『本当ですね? 本当の本当に引退しないんですね!!?』

 

そう説明すると、うれしさなのか安堵なのか、

もはや涙声になっている乙名史さん。

 

『じゃあいったい何を、どういう記者会見になるんですか?』

 

この様子では、真実を伝えてあげないと、

本当に落ち着いてくれそうにない。

 

「しょうがない。明日の会見までは、

 あなたの中に留めて、絶対口外しないでくださいよ?

 実は──」

 

『──本当ですかッ!!!』

 

再びの、お耳ツーン。

 

興奮するのはわかるけど、少しは声量絞ってくれ。

ウマ娘の耳は人間よりも敏感なんだ。

 

『それは、なんとも心躍る話ですねっ!』

 

「一応念を押しますけど」

 

『わかってますって、お任せください。

 ここまで築き上げてきたリアンさんとの絆を、

 こんなことで台無しにするわけにはいきませんからね!』

 

まあ信じてますけどね。

あくまで一応です、一応。

 

『会見にはもちろん私も行きますから、

 質疑応答の際はぜひ指名してください!

 それではっ!』

 

言うだけ言ってピシャッと通話を切る乙名史さん。

相変わらず嵐のような人だ。

 

ところが、一難去ってまた一難。

話はそれだけでは終わらなかった。

 

 

 

 

 

「「「ファミーユリアン先輩っ!!!」」」

 

カフェテリアに行くと、居合わせた後輩のウマ娘たちに囲まれてしまった。

みんな総じて我慢できないという様子で、必死な表情を見せつつ尋ねてくる。

 

「引退するって本当なんですか!?」

 

「みんなそう言ってます!」

 

「ウソだと言ってくださいぃい!!」

 

中には、半べそになってしまっている子すらいる。

 

やれやれ勘弁してくれ。

マスコミに踊らされるなって良い見本だよこれ。

 

「「「先輩ぃい!!」」」

 

「ああ、はいはい、わかったら落ち着いて。ね?」

 

結局、彼女たちをなだめるのに精いっぱいで、

とてもとても食事だなんて状況ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で、生徒会と学園側にも取材の申し込みが殺到し、

両者を困惑させていた。

 

「まったく、明日会見すると言っているのだから、

 それまで待っていてほしいものなんですがね」

 

「それだけファミーユリアン先輩の人気がすごいってことと、

 ウマ娘レースが社会現象化したってことですね!」

 

「まさにうれしい悲鳴ってことかなあ」

 

「………」

 

ここは生徒会室。

自分の作業をこなしつつ、他の生徒会メンバーたちの会話に聞き耳を立てるルドルフ。

彼女の耳がぴくぴくと細かく動いているのがその証拠だ。

 

「でも学園側が抑えているとはいえ、いつ何時、

 不法侵入してくる輩がいないとは限りませんよね?」

 

ひとつ心配事を口にするメンバーの1人。

マスコミの学園内への立ち入りは、学園の許可がなければ不可能で、

今は表立っては不遜な動きは出ていないが、過熱してくると、

何をしでかすのかわからないのが、マスコミという人種でもある。

 

強行侵入を図る不逞者が現れないとも限らない。

 

「そこは学園に目を光らせてもらうしかないね。

 私から改めて申し出ておくよ。それでいいかな、会長?」

 

「ああ、頼みます副会長」

 

「了解」

 

ルドルフが聞き耳を立てていることは

とっくに承知済みのピロウイナー副会長。

 

そう言ってお伺いを立てると、

案の定、ルドルフは即座に了承した。

苦笑して頷くピロウイナー。

 

「でも引退するって言われてますけど、本当なんですかね?」

 

「今まさに無敵の全盛期って感じで、惜しい気もするけど、

 ファミーユリアン先輩も結構いいお年……げふんげふん」

 

このあたりは噂好きの女学生の面目躍如。

仕事中なのに、噂話に花が咲く。

 

「引退しててもおかしくない、というか

 ほとんどすべてのコは引退しているような年だからなあ」

 

「実際、ファミーユリアン先輩より年上の人っているんです?」

 

「どうだろう? 調べてみないとわからないね。

 ただいたとしても、片手で足りるほどじゃないかな?」

 

指折り数える仕草をして見せるピロウイナー。

 

大半は、高校卒業までの年齢には引退しているのが普通。

実際、ルドルフやピロウイナーほどの実績を積んだとしても、

身体のピークやその他さまざまな事情で、引退しているケースが9割以上だろう。

 

「会長は何か聞いてないんですか?」

 

「ん? たとえ知っていたとしても、

 ここで私から話すわけにはいかないな」

 

「ですよねぇ」

 

メンバーの子からの問いを、こう言って煙に巻くルドルフ。

 

そんな質問を待っていたかのような返答であり、

彼女の口角は明確に上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリスマスも明けた12月26日火曜日。

指定された時刻16時ちょうど。

トレセン学園内に設けられた会見場に、リアンが姿を見せた。

 

会場に入りきらないくらいに溢れた報道陣のまばゆいフラッシュの中を、

彼らに向けて一礼したリアンは、そのままゆっくり進んで用意された席へと着いた。

彼女の後ろからスピードシンボリも現れて、同じように隣の席に着く。

 

各テレビ局は、通常の番組を中断させてまで、

この模様をこぞって生中継している。

改めて、リアンとウマ娘レースの人気ぶりが分かる事態だ。

 

「本日は、お足元も悪く寒い中をお集まりいただきまして、

 まことにありがとうございます。私ファミーユリアンの、

 これ以降の活動に関する記者会見を始めさせていただきます」

 

関係者と目配せして軽く頷いた後、リアンはそう言って会見の口火を切った。

昼頃から雨が降り出した東京地方、

夕刻を迎え、暮れの寒さが一層増してきている状況だった。

 

「まずは有記念後の体調に関してですが、

 特に問題はないことを合わせてご報告させていただきます」

 

前々日に激闘を終えたばかり。

最初に、現段階では問題がないことを伝える。

 

「えーそれでは、本題に入ります。

 来年、私は……」

 

ここでリアンはひと呼吸置いて、固唾を飲んで見守っている

報道関係者たちをいったん見まわした後、こう続けた。

 

「海外に挑戦いたします」

 

瞬間、再びのシャッター音、フラッシュの嵐。

たっぷり十数秒間はそんな時間が過ぎていった。

 

「挑戦するレースとスケジュール等につきましては、

 このあと──」

 

「お、お待ちくださいッ!」

 

「……なんでしょう?」

 

少し落ち着いたところで、再び話し始めたリアンだったが、

そんな彼女の話の腰を折る事態が発生する。

ある1人の記者が、大声をあげて遮ったのだ。

 

「この記者会見は、引退を発表されるとのことだったのでは?」

 

「はて?」

 

嫌な顔ひとつせずに応じたリアンだったが、

記者の更なる言葉には、首を傾げざるを得なかった。

 

「いつ、誰がそのように言いましたか?」

 

「し、しかし、確定的に明らかだという報道が……」

 

「それはあなた方の勝手な憶測に過ぎませんわ」

 

リアンがそう問い返し、記者がそこまで言ったところで、

たまらずにスピードシンボリも口を挟む。

 

「あなた、どこの会社ですか?」

 

「〇〇ですが……」

 

「そう、覚えましたからね」

 

「………」

 

彼女の鋭い眼光に晒された記者は、さすがに委縮して黙らされる。

以降、会見中に彼が発言することはなかった。

 

なお、彼が口にした出版社は、典型的なゴシップ誌の発行元であること、

また調べれば、最初に引退発表するとの記事を書いたことがすぐにわかる。

 

「リアンちゃん、続けて頂戴」

 

「はい。えーと、どこまで言いましたっけ?

 ああそうそう、具体的な発表をするところでしたね」

 

スピードシンボリから促されたリアンは、

突発的なアクシデントに少しも動じず、先を続ける。

 

「それでは、挑戦するレースを発表いたします。

 皆様、そちらのスクリーンをご覧ください」

 

そう言って、報道陣から見て向かって右に用意されている、

壁に掛けられた白いスクリーンを指し示す。

それと同時に室内の一部の照明が落とされ、プロジェクターが始動した。

 

 

 

ドバイワールドカップ(G1)

 ドバイ メイダンレース場 ダート2000m

 

 

コロネーションカップ(G1)

 イギリス エプソムダウンズレース場 芝12F6yd

 

 

キングジョージ&クイーンエリザベスステークス(G1)

 イギリス アスコットレース場 芝11F211yd

 

 

フォワ賞(G2)

 フランス パリロンシャンレース場 芝2400m

 

 

凱旋門賞(G1)

 フランス パリロンシャンレース場 芝2400m

 

 

 

シンプルな文字だけの画面が表示される。

 

数瞬の静寂の後、報道陣の間にどよめきが広がった。

挙がっているレースが、日本でも著名なものばかりだったからだ。

 

「ご質問は後から受け付けますので、

 先にひと通りの説明をさせていただきます」

 

リアンがそう言うのと同時に、消されていた照明が再び灯される。

 

「現時点での大まかなスケジュールといたしましては、

 3月上旬にドバイへ渡り、レースに備えます。

 ドバイ後は日本には戻らずにイギリスへ渡り、調整ののちに2レースに出走。

 その後はフランスに移動し、ロンシャンでの2レースということになります」

 

おおっ、という歓声が上がった。

ただでさえ海外遠征と言うだけでも意気が上がるのに、

シーズンの途中で日本に戻らない、長期滞在という本格的なものだったからだ。

 

「ファンの皆様からの海外遠征を望む声はひしひしと感じておりましたし、

 私自身もこうして発表できて、非常に興奮しております。

 現地での調整がうまくいくかは、そのときになってみないとわかりませんが、

 海外G1制覇という日本レース界の悲願を、ぜひとも達成したいと思っております。

 ひとまず私からは以上です」

 

そこまで一気に言って、いったんマイクを置くリアン。

3度、シャッター音とフラッシュの嵐となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは、質疑応答の時間に移ります」

 

「はいっ!」

 

質疑応答になってから、最初に名乗り出るのと同時に、

手を挙げてきたのは、案の定、最前列にいる乙名史さんだった。

まだ指名されたわけではないのに、すでに立ち上がってすらいる。

 

「海外遠征初戦という大事な一戦に、実績を積まれてきた芝ではなく、

 ダートを選ばれたのはどうしてなんでしょうか?

 それも、ドバイワールドカップという世界一を決める一戦に、です」

 

彼女は指名を受けると、

入念に用意してきたであろう質問を、一気に声に出した。

カンペを見ることなく、すらすらと。

 

事前に教えていたとはいえ、必死に考えてきたんだろうなあ。

 

「招待をいただきましたので、どうせ出るのなら、

 世界一の舞台で走ってみたい、ということで決めました」

 

「しかし、ダートでの実績がありません」

 

「大井でならありますよ。

 まあ、アレを実績と言っていいのかどうかわかりませんけど」

 

俺がそう答えると、乙名史さんは2度3度と首肯してから、

こう言って励ましてくれた。

 

「あなたは日本の希望です。がんばってください!」

 

「はい、もちろん」

 

俺も力強く頷いて応じる。

乙名史さんは質問を終える間際に、サムズアップまでして見せた。

 

他の記者たちもいる前で何やってるんだ。

まったく仕方のない人だよ。

 

「遠征先とレースは、どのように選ばれたのでしょうか?」

 

次の記者さんからの質問は、遠征先とレースについて。

 

これも当然の疑問だろう。

俺も様々なレースから選ぶのに苦労したんだ。

 

「イギリスを選んだのは、友人から色々と聞いていた*2のと、

 トレーナーも滞在したことのある国というのが大きいです」

 

スーちゃんも現役時代に遠征して、出走したことのある国だ。

そして引退後も、英国中心にいろいろ修行していたそうので詳しい。

 

「コロネーションカップはですね、エプソムの2400m、

 あのダービーコースを走ってみたかったというのが1番です」

 

エプソム競馬場の2400m、あの本場ザ・ダービーのコース。

海外に行くなら、1度は走ってみたいと思っていた。

坂が続く非常に過酷なコースらしいけど、どんなものか。

 

「キングジョージは言うまでもなく、世界を代表するレースの一つですし、

 憧れでもありました。ぜひとも勝ちたいレースです」

 

「その後はフランスですね?」

 

「ええ。最大目標はなんと言っても凱旋門賞ですので、

 本番の前にコースを経験しておきたいと思いまして、

 同じ条件のフォワ賞を選びました」

 

日本ウマ娘の悲願、そしてなにより、シンボリの、ルドルフの夢。

是が非でも勝ちたい1番のレース。

 

「ありがとうございます。

 私どもも応援しております。がんばってください」

 

「はい、最大限の努力をお約束します」

 

これは乙名史さんが最初にやったせいなのか、

以降の質問してきた記者さんたちが全員、

質問終わりに激励してくれるようになった。

 

何気ないことだけど、すごくうれしい。

 

「一覧には凱旋門賞までしか載ってませんでしたが、

 それ以降の予定はお決まりなんでしょうか?

 帰国してジャパンカップに参戦、なんてこともありますか?」

 

お次は、これも来るだろうなと思っていた質問。

あえて凱旋門までしか載せなかったんだからな。

 

「その先は凱旋門賞での結果次第で変わりますので、

 先ほどの一覧には載せませんでした」

 

「では逆に、凱旋門賞までは途中の結果如何にかかわらず、

 遠征を継続するということですね?」

 

「はい。突発的なアクシデントが起こらない限りは、

 凱旋門賞までは必ず出走します。

 結果が良ければ、さらにアメリカに遠征、

 というプランもあります」

 

「アメリカというと、ブリーダーズカップですね?

 どのレースに参戦する*3かもお決まりなんでしょうか?」

 

「そこはまだ決めていません。芝かダートか、

 ドバイでの結果も関わってくることです。

 まあ出るとしたら、ターフかクラシックかの二択*4になると思います」

 

考えたくはないが、ドバイの結果が悪ければ、

以降にダートに出走するなんてことには絶対にならないし、

凱旋門での結果が芳しくなければ、アメリカ行き自体がなくなる。

 

その場合は早々に帰国して、状態次第だけど、

ジャパンカップと有ということになるのかな?

 

負けて帰ってきて総大将扱いとか、想像したくないなあ。

お通夜ムード待ったなしだもんなあ。

 

いや、スターオーちゃんが復帰するまで、負けないと誓ったじゃないか。

勝つことだけを考えればいい。余計なことは一切考えるな。

 

「我々も海外で勝つところを見たいです。

 何もできませんが応援させていただきます」

 

「ありがとうございます。励みになります」

 

この記者さんも、締めで励ましてくれた。

軽く頭を下げて応じる。

 

はい、次の人。

 

「仮に勝てた場合は、帰国するのはアメリカ遠征後ということになりますか?」

 

「そうなると思います」

 

「そのままジャパンカップや有記念に参戦、

 なんてことも期待してしまうわけですが、いかがでしょうか?」

 

「状態次第ですね。良ければ出走するでしょう」

 

「そうなることを願っております」

 

「はい、できうる限りの全力を尽くします」

 

口々に励ましてくれるものだから、こちらとしても気分が良い。

初めて、やっていて楽しいと思える会見だった。

 

 

 

その後も、ひとつひとつ丁寧に質問に答えていき、

スーちゃんが滞在先とトレーニングについて説明したりもした。

 

会見終了時に立ち上がって頭を下げた時には、

満場の拍手が鳴り響いて、思わずグッと来てしまったのは内緒である。

 

 

 

 

*1
宝塚記念時、スレはその手の話で盛り上がった

*2
同国出身のムーンから聞いていたと思われる

*3
ブリーダーズカップには、説明しきれないくらいの様々な条件のレースがある

*4
メインのクラシックD2000mか、準メインのターフ芝2400m





フルマー
「……よかった(心の底から安堵)」

トニー
「ようやくか」

ムーン
「待たせてくれたわね」

シリウス
「………」



ついに海外遠征を発表。
初戦からいきなりかなりハードな舞台になりますが、大丈夫でしょうか?
なにせ相手は……


そしてついでに、ひとつ疑問をば。

ウマ娘世界の中東というか、イスラム圏ってどうなってるんでしょう?
現実に即すると、女性は肌を見せられないことになります。
ウマ娘も女性ですので、当然、勝負服とかも規制されるのでは?

………

ま、まあ細かいことはいいか!(楽観)


リアンより感謝の印です。お納めください
https://youtube.com/shorts/zg_cXQ_0-RQ
https://www.nicovideo.jp/watch/sm42424657

仮にリアンが海外遠征する場合、初戦は何が良いですか?

  • ドバイワールドカップ
  • ドバイシーマクラシック
  • ガネー賞(仏)
  • クイーンエリザベス2世カップ(香港)
  • アメリカ遠征
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