転生孤児ウマ娘の奮闘記   作:しょうわ56

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第77話 孤児ウマ娘に脳を焼かれた者たち

 

 

 

 

今回の『ファミーユリアンちゃんについて語るスレ』のコーナー

 

 

(緊急記者会見リアルタイム視聴組の反応)

 

:すげぇな、各局こぞって生中継しとるわ

 

:N〇Kまで

 

:さすがのリアンちゃん

 

:もう国民的ウマ娘なんよ

 

:テ〇東は? 〇レ東はどうなの?

 

:察しろ

 

:通常放送です

 

:いつもと変わらないテレ〇東京

 

:さすがブレないな

 

:別の意味で感心する

 

:〇レ東が臨時放送したら日本滅亡だからな

 

:時間だ

 

:来た

 

:時間に正確なリアンちゃん大好き

 

:さすがの体内時計

 

:さあ何が語られるのか

 

:俺はまだ希望を捨てちゃいない

 

:引退じゃないとしたら、何を発表するというんだ?

 

:黙って聞けおまえら

 リアンちゃんの言葉、一言一句聞き逃すわけにはいかんのだ

 

:相変わらず堂々としてるのう

 

:故障というわけではないようだな

 

:ひとまず安心

 

:ファッ!?

 

:……海外?

 

:いま海外って言ったような?

 

:海外挑戦だと!?

 

:海外キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

 

:うおおおおおおお!!!

 

:ついに世界へ!

 

:リアルで声出ちまった

 職場でこっそり見てるのに(怒られた

 

:なんじゃこの記者

 

:スピードシンボリさんがお怒りです

 

:目力すげぇ

 

:さすが往年の名ウマ娘

 

:もうこいつ出禁だろ

 

:最初に引退報道出したの、こいつのとこだ

 

:なるほど

 

:マッチポンプにも程がある

 

:よし、出ていけ

 

:追い出されないだけありがたいと思えよ

 

:ドバイ!?

 

:ドバイ!

 

:それもワールドカップかよ

 

:真っ先にダートで世界一に挑戦とは

 

:思い切ったなあ

 

:でもそういう心意気嫌いじゃない

 

:中継見られないんだ

 ここの文字情報だけが頼りなんだ

 頼む、挑戦するレース教えてくれ

 

:心得た同志よ

 ドバイワールドカップ→コロネーションカップ→

 キングジョージ→フォワ賞→凱旋門賞

 

:恩に着る!

 長期遠征! キングジョージに凱旋門!

 

:本命は抑えた感じか

 

:コロネーションカップって???

 

:イギリスで6月にあるG1だな

 伝統のある格式高いレースだぞ

 

:そうなのか

 

:恥ずかしながら知らんかった

 

:なんでこれを選んだんだろう?

 

:このあと語られるだろう

 理由がないわけはない

 

:ドバイでもダートを選んだ理由を知りたいんご

 

 

 

:質疑応答来た!

 

:あ、乙名史さんだ

 

:府中CATVの名物記者さんw

 

:珍しい苗字の乙名史さんw

 

:リアンちゃんファンの間ではお馴染み乙名史さんw

 

:そう、それだ!

 

:なんでダートなんだ?

 

:さすがの乙名史さん、1番聞きたいことを聞いてくれた

 

:せっかくだから、私は世界一のレースを選ぶぜ!

 こういうこと?

 

:えらくシンプルだった

 

:全ウマ娘ファンの思考

 「ダートでの実績がありません」

 

:リアンちゃん

 「大井でならありますよ(キリッ」

 

:まあ、そうやな

 

:アレを実績と言っていいのやら(困惑)

 

:でもまったくゼロってわけじゃない

 

:あのときも、ドバイ挑戦や!って言ってる奴いただろ

 

:日本の希望リアンちゃん!

 

:さすが乙名史さん、いいこと言う

 

:サムズアップw

 

:そうか、ムーンマッドネス経由か

 

:友達だもんなあ

 

:スピードシンボリも出走経験あったか

 

:両人にアドバイスとか案内とか頼めるな

 

:納得の選出理由

 

:エプソムの2400m*1

 

:なるほど

 

:本場イギリスのダービーコース

 

:ダービーウマ娘としては外せなかったのか

 

:なんだかんだで、リアンちゃんもレース狂の部分あるんやね

 

:ウマ娘なら、多かれ少なかれそうだろうよ

 

:よくわからんのだが、そこまでのコースなの?

 

:日本みたいな何もかも

 綺麗に整ったレース場とコース想像してるんならたまげるぞ

 

:丘そのもの、ってコースだもんな

 

:丘???

 

:まあ1度映像を探してみることをお勧めする

 

:その後はフランス行って、ひと叩きして大本命か

 

:ロンシャンのバ場はいろいろ特殊と聞くから、

 そりゃ本番前に経験しておきたいだろうな

 

:この人も励ましていくやん

 

:良い流れだ

 

:そう、俺も気になってた

 

:凱旋門賞後の予定について

 

:凱旋門の結果次第

 

:結果が良ければアメリカ遠征も

 

:おお

 

:アメリカにも行くのか!

 

:BCターフかクラシックの二択とのこと

 

:ドバイ勝って、凱旋門勝って、BCも勝っちゃったら……

 

:それはもう世界的というか、

 全地球的名ウマ娘なんよ

 

:史上最強確定

 

:リアンちゃんなら勝てる、と思わせてくれるな

 

:勝算がある、と思わせてくれるのがリアンちゃんの凄さよ

 

:スピードに加えてパワーもあるから、

 ヨーロッパの重い芝も苦にしなさそう

 

:本当ワクワクする

 

:海外G1ウマ娘になったリアンちゃんを、

 ジャパンカップか有で見られるわけだな!

 

:俺もぜひともそうなってほしい

 

:みんな応援していくやん

 

:俺も俺も

 

:いまだかつて、こんな質疑応答があったか?

 

:みんなの意思が統一されている感

 

:一体感すげぇ

 

:まさしく日本の希望!

 

:あ、さっきの○○の記者は別ね

 

:誰か! ○○を摘まみ出せ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メジロフルマーの場合

 

ある意味、リアンの引退報道に1番やきもきしていたのは、

この娘かもしれない。

なにせ事前に、“それらしき”言葉をかけられていたのだから。

 

「あのお言葉……そういう意味だったのですか?」

 

来年()、という、たった1文字のことだが、されど1文字。

 

「来年は、()が、トゥインクルシリーズを背負って立てとの仰せと?」

 

直接、後を託されたということだろうか。

いなくなった後のことを頼む、と。

だから来年も走るのかと聞いてきたのか?

 

「………」

 

非常に光栄なのことではあるのだが、同時に、

とてつもない重圧がのしかかってくるのを感じる。

 

もう彼女と一緒にレースを走ることはない。

そう考えると、猛烈な寂しさも襲い掛かってきた。

 

「とにかく、明日の会見、一言一句聞き逃さないようにしなければ……!」

 

もしかしたら、自分への言及があるかもしれない。

そう考え、他の用事をほっぽり出してでも、

生中継されるであろう会見にかじりつくことを決めた。

 

 

 

そうして会見を迎え、中継を見て、会見は無事に終わった。

 

「……よかった」

 

カフェテリアに設置してあるテレビの前で、

他の娘たちと同様にして、食い入るように中継を見つめていたフルマー。

会見が終了するのと同時にそう呟いて、ぺたんとその場にへたり込んでしまう。

 

「フルマーさん!」

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

慌てた周りの子たちに声をかけられる。

 

「立てますか!?」

 

「ほ、保健室行きます?」

 

「……大丈夫です」

 

心配する声にこう答え、自力で立ち上がった。

そして笑みを見せる。

 

「ちょっとホッとしてしまっただけですので」

 

「フルマーさん……」

 

フルマーとリアンの関係性を知らないものなどいるわけがない。

だからこそハラハラしながら見守っていたのであるが、

微笑みを浮かべた様子に、彼女たちこそがホッとした様子だった。

 

「では自室へ戻ります」

 

そう言って、カフェテリアを後にしたフルマー。

 

内心では、色々な感情がもみくちゃになっている。

だがひとつ確かなのは

 

「お任せください。日本は、私が引っ張ります」

 

以前にも増して、エネルギーが満ち溢れてきているということだ。

意識も非常にすっきりしている。

 

「だから貴女は何の心配もせずに、

 ご自分のレースに集中してくださいね」

 

リアンにおんぶにだっこだった状況も、少しは変える努力をしなければ。

来年、彼女がいないことは確定したのだ。

幸い引退ではなかったが、もう彼女に頼ることはできない。

 

差し当たっては、自身の距離の壁か?

 

「大阪杯、出なければならないでしょうね。

 天皇賞も、要検討です」

 

フルマーは早速、担当トレーナーの部屋へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タマモクロス、トウショウファルコ、イナリワンの場合

 

月曜日、昼前。

 

「ファルコっ! おるかっ!?」

 

「ここです」

 

「おう、おったか!」

 

タマモとファルコは、例の件について事前に連絡を取り、

学園内の一角で落ち合うことに成功していた。

 

「ジブン、何か聞いとるか?」

 

「いいえ」

 

タマモからの問いに、ファルコは首を振りながら問い返す。

 

「タマモさんこそ、何か聞いてないんですか?」

 

「それがさっぱりなんや」

 

「あなたが知らないのに、私が知るはずありませんよ」

 

少々の嫉妬と羨みを込めつつ、ジト目で見つめ返した。

親密さで言えば、相手のほうが上なのは認めざるを得ない。

 

「まーまー、そう怖い顔すんなや。

 何もわからなくて困っとるのは同じや」

 

「はあ」

 

「しかしまー、唐突やったな」

 

「いきなりでしたね」

 

今日になって突然降って湧いて出た、リアンの引退報道。

ほんの数時間前までは影も形もなかった。

 

「ホンマなんかなあ」

 

「わかりません。マスコミの勇み足という可能性もあります。

 でも、ファミーユリアンさんは、あまり表に出さない方ですから」

 

「そうなんよなあ」

 

内に秘めるというか、上手く本音を隠すタイプなのだ。

数々の行動言動から、それは明らかである。

 

「ちゅうか、なんで引退決定みたいな報じられ方しとるん?

 先輩が誰かに打ち明けたのをリークされたんか?」

 

「いま言ったような性格の方ですから、

 その可能性は低いように思います」

 

自分たちでも何も知らないのだ。

外部の人間が何かを掴んだとは思えないし、

そこまでリアンと親しい人物が事前にリークするとも思えない。

 

だからこそ、断定的な報道は不思議だった。

 

「というかタマモさん。あなた、

 お昼の便で帰省すると仰っていませんでしたか?

 早く行かないと間に合わないのでは?」

 

「ん? ああ、キャンセルというか延期や。

 家族には悪いけど、こんな状態で帰る気にはなれんわ」

 

実はタマモは、昼過ぎの新幹線で実家に帰省する予定だった。

しかしこんな状況なので、はっきりするまでは留まることにしたようである。

 

「しっかし、どうする?

 他に知っていそうといえば、やっぱり会長さんか?」

 

「確かに、会長以上に知っている人はいないでしょうけど」

 

「生徒会に突撃しよか?」

 

「やめましょう。知っているとは限りませんし、

 ただでさえお忙しいのに、たぶん学園内外からの問い合わせで、

 てんやわんやでしょうから」

 

「そっか、そやなあ」

 

ルームメイトで自他ともに認める大親友のルドルフ会長。

他に内情を知っていそうなのは彼女以外にはありえないだろうが、

ファルコが慮ったように、今はそれどころではないだろう。

 

「しかし、先輩も水臭いよなあ。

 そうならそうで、なんで先に知らせてくれへんねん。

 ウチらのこと、そんなに信用できへんかあ」

 

「少なくとも、きのうのあの結果では、

 頼りなく思われてしまっても仕方はないでしょうね……」

 

「うぐ……」

 

前日の有記念での結果から、

包み隠さず話すには、まだまだ頼りないと思われてしまったか。

ファルコからの指摘に、さしものタマモも言葉に詰まった。

自分で言っておいて情けなくなり、ファルコも俯いてしまう。

 

「そ、そやったとしてもや!

 一言くらいは何かあっても良かったんとちゃう?

 来年は頼むとか、そんなんでもええねん!

 直接じゃなくても、こうなってから考えれば、

 『ああそうだったんや』って思えるやん。

 またがんばろう、来年こそは、って切り替えが効くやん!」

 

「そうですけど……」

 

悔しさと自分の不甲斐なさが込み上げてきて、

一気にまくし立てたタマモクロス。

ファルコが同意しかけたところで

 

「あーあー、ピーチクパーチクうるせえなあ」

 

突如として、割って入ってきた第三者の声。

 

「ダービー菊の二冠ウマ娘に、皐月賞ウマ娘。

 天下のクラシックウマ娘様たちが、揃いも揃って情けねぇ。

 他にやることはないのか?」

 

「なんやと?」

 

通りすがりの娘に、とやかく言われる筋合いはない。

憤慨して、視線を向けたその先にいたのは

 

「まったく、情けない限りだぜ」

 

「イナリ!」

 

「イナリさん」

 

イナリワンであった。

彼女は、鋭い視線で2人を見据えている。

 

「イナリぃ、ワレは気にならへんのか?」

 

「そりゃ確かに、気にならねえって言ったら嘘にならあ。

 だけどな、あたしらが気にしたってしょうがねえじゃねえか」

 

イナリはタマモとファルコへ順番に視線を向けると、

静かに目を閉じ、腕を組んだ。

 

「あたしは姐御を信じてるぜ。

 そして姐御がどういう決断しようと、尊重するだけだ」

 

「……」

 

「……イナリさんは、達観していますね」

 

「達観だあ? よせやい、ケツがかゆくならあ」

 

イナリの全く動じていない様子に、何も言えなくなるタマモ。

ファルコは感心までしているようだった。

地方出身という境遇が、自分たちよりも精神的に成熟させているのか。

 

「とにかく、今は四の五の言っても始まらねえ。

 あたしらが聞いても教えてはくれねえだろうしよ。

 おとなしく明日の会見を待つとしようぜ」

 

「……そやな」

 

「そうですね」

 

イナリの説得で2人は平静を取り戻し、

何もせずに翌日の会見を待つことになった。

 

(姐御、必ずもう1回、戦える機会があるって信じてるぜ)

 

あのように言ったイナリではあったが、実は、

内心では2人と同様に穏やかではなかった。

 

イナリもリアン引退のニュースを見て、居ても立ってもいられず、

誰かと話したい一心で相手を探していたところ、

タマモとファルコを偶然見つけ、これ幸いとばかりに近づいた。

 

ところが当の2人は、自分以上に狼狽し動揺している。

こんなんじゃだめだと一念発起し、あのような言動に至ったのだ。

 

(……信じていいよな、姐御!)

 

もうひと伸びで届きそうだったあの背中に、そう誓った大井での一戦。

最初より圧倒的に離れてしまったあの背中に、改めて誓った2度目の敗戦。

 

冗談ではない。勝ち逃げなど誰が許すものか。

イナリは3度、固く誓うのだった。

 

 

 

そうして訪れた、火曜日の会見の時間。

前日も邂逅したクラシック同期3人組は、今日も同じように落ち合い、

カフェテリアのテレビの前で一部始終を見届けた。

 

そして、安堵と興奮に震えた。

 

「海外……海外やって! なあファルコ、イナリぃっ!」

 

「そうですね。私も足が震えてます……!」

 

「さすが姐御。あたしらなんかにゃできないことを、

 平然とやってくれるぜ!」

 

文字通り興奮して、派手にリアクションを取るタマモ。

一見落ち着いているようでも、実は興奮しまくりのファルコ。

ニヤリと微笑んで、続けてシビれるあこがれるとでも言い出しそうなイナリ。

 

三者三様の反応だったが、大いに興奮し、

意気高揚しているのは共通している。

 

「先輩は海外で不在になるんやな。

 先輩がおらん間は、ウチらで盛り上げにゃあならんで。

 なあファルコ、イナリぃっ!」

 

「はい。いらっしゃらない間に、トゥインクルシリーズが

 衰退したなんてことになっては、顔向けできません」

 

「合点承知よ。来年のG1戦線は、

 あたしらで席巻してやろうじゃねえか!」

 

もはや引退報道が出ていたことなど忘れ、

早くも来年のことで盛り上がり始める。

 

鬼に笑われないように気を付けてもらいたいところである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スーパークリークの場合

 

「お姉さまのことですから、心配はしてませんでしたけど」

 

引退報道を目にしても、さほど動揺はしていなかった。

 

自分もレース直後で、それどころではなかったというのがひとつ。

また、レース前も後も、メッセをもらっていたというのもひとつ。

 

「やっぱりホッとしますね」

 

だがそれでも、来年も走る姿が見られるのだと思うと、

安心したというのが第一だった。

しかし、喜んでばかりもいられない。

 

「私もしっかりしないと。3月にはお姉さまは海外なんだから」

 

秋まで不在になるのは確定した。

直接再会できるのは、菊花賞や天皇賞が終わった後になる。

 

「そのころには、私もG1に出られるようになって、

 出来たら勝って、お姉さまと対戦できたら……」

 

甘えてばかりもいられない。

まずは独り立ちを目指さなければ。

 

「待っていてくださいねお姉さま。

 私も“大きく”なって、堂々とお姉さまを甘やかしちゃいますからね」

 

早く大きくなって実績を残して、

遠征帰りで疲れているであろうところを癒してあげるんだ。

 

「ふふふ、楽しみです♪」

 

頬に手を当てて、にっこりと微笑んだクリーク。

“悪魔”の胎動が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サクラチヨノオー、サクラスターオーの場合

 

「スターオーさん。海外、ですって」

 

「うん」

 

並んで中継を見ていたチヨノオーとスターオー。

海外遠征の発表に釘付けになっていた。

 

「すごいなあリアンさん。記者さんたちもあんなにいっぱい……

 それでもあれだけハキハキ喋って……」

 

チヨノオーはただただ圧倒された。

わかっていたつもりだったが、まだまだ認識不足だった。

あの人はどれだけ凄いのだと。

 

「私なんてとても……」

 

「何を言っているの。

 チヨちゃんはクラシックが控えてるじゃない。

 それも最有力なんだから」

 

「そうですね……」

 

スターオーからそう言われても、どこか他人事のようであった。

 

あれだけの対応をし続ける、トップで居続けることの大変さ。

改めてリアンの凄さを実感する。

 

「……いっそう頑張らないと」

 

少なくとも、余計な心配をかけるようなことになってはいけない。

あの人のことだから、たとえ海外にいても、気にかけてくれるに違いないのだ。

 

ならばどうするか? 勝つしかない。

決意を新たにするチヨノオー。

 

「秋には、私も……」

 

一方のスターオーも、期するものがあった。

 

研究所のバックアップが完璧なこともあって、

退院してからのリハビリは非常に順調。

 

医師が驚くくらいのスピードで回復して、

来月あたりには、軽いトレーニングを始められそうだ。

 

リアンの帰国に間に合うだろうか。

 

「まずは復帰。それから、それから……」

 

走れるところまでは来た。

あとは、レースができるまでになれるか。

 

信じて待つ、と言ってくれたあの人のために。

 

「………」

 

「………」

 

以後、中継が終了するまで、2人ともに無言で、

テレビの画面を食い入るように見つめ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シンボリルドルフの場合

 

 

『海外に挑戦いたします』

 

 

「海外!?」

 

「海外ですって!」

 

「すごい!」

 

「凱旋門!」

 

リアンの会見中は、さすがに手を止めて、

設置してあるモニターでその中継を見守っていた生徒会メンバーたち。

 

「………」

 

彼女たちが総じて興奮と喜びに沸き立つ中、

ルドルフは1人席を立って、後ろの窓際へと無言で立つ。

 

「会長。いや、ルドルフ」

 

同じように立ち上がったピロウイナーが追随し、

隣に立って声をかける。

 

「“知ってた”ね?」

 

「ふふ。さあどうかな?」

 

ピロウイナーからの質問に直接は答えず、

はぐらかすルドルフだったが、聞くまでもない様子だった。

 

「海外、それも凱旋門賞か。

 わたしには想像もつかない世界だなあ」

 

マイルが主戦場だった身からしてみれば、そう思うのも無理はない。

だが、思いはほかの娘たちと一緒である。

 

「がんばってほしいね。勝って欲しい」

 

「ああ」

 

短く相槌を打ったルドルフ。

おそらくは個人に留まらず、日本中の願いである。

 

かつてはその想いを背負った者として、

その胸中によぎるのは、どのようなことだろうか。

 

「………」

 

窓から見える景色は、暗くなり始めた一面の雲。

降り出した雨が、いつ雪に変わってもおかしくはない寒さだ。

 

(『私の分まで』などとは口が裂けても言えないが……

 がんばれリアン。君は日本の()()なんだからな)

 

そんな寒さなど気にならない、熱く燃え上がるほどの思い。

自然と口の端に角度がついた。

 

「さあみんな、仕事に戻るぞ」

 

「えー!?」

 

「最後まで見させてくださいよぉ!」

 

「遅くなってもいいなら構わないが?」

 

「ぶーぶー!」

 

「会長、おーぼー!」

 

「……ふふ」

 

メンバーたちの不満を受けながらも、

ルドルフは満足そうに笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミスターシービーの場合

 

「海外だってよ!」

 

「おおお!」

 

「応援するぞ! いやいつもしてるけど!」

 

街頭に置かれているテレビの前に殺到している人たち。

もちろんリアンの記者会見の模様を見つめていた。

 

当初は引退もやむなしという雰囲気で沈み切っていたのだが、

海外遠征と聞いて息を吹き返し、大変盛り上がっている。

 

「………」

 

そんな彼らを遠巻きに見る、1人のウマ娘。

史上3人目の三冠ウマ娘にして、2人目の五冠を達成し、

一世を風靡したミスターシービー、その人である。

 

「……『海外』かあ」

 

何も持たずに散歩に出て、ずぶ濡れになることもある彼女だが、

さすがに今日はコートを着込み、傘も持っていた。

 

この寒さでは自殺行為にも等しい。

それでも彼女ならありえなくもない、と思えてしまうのはなぜか。

 

「いいね、ゾクゾクする」

 

シービーの口角も、他者と同じように上がった。

 

「ファミーユちゃん、まったく君ってば、

 つくづく人を飽きさせないコだね」

 

忘れかけていた何かが、再び蘇ってくる。

心の奥底に湧いて出てくる、現役時代さながらの“何か”。

 

「……アタシも行っちゃおうかな?」

 

彼女のつぶやきは、誰に聞かれるわけでもなく、

雑踏の中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シリウスシンボリの場合

 

「……ふん」

 

1人、自室で佇み、携帯で中継を見ていたシリウス。

海外挑戦という最初の文言を聞いただけで、

アプリを落として携帯をポケットにしまった。

 

「そんなこったろうと思ったよ」

 

もしかしたら、とは思っていた。

 

というのも、()()の動きが怪しかったからだ。

無論、シンボリの、という意味である。

 

間違っても、引退するなどとは思わなかった。

 

「リアンのやつ、黙ってやがったな」

 

シンボリのほうはまだいい。

本家とは自分から距離を置いているのだから、

蚊帳の外にされても文句は言えない。言うつもりもない。

 

当然の措置だとすら思う。

しかしリアンのほうは別だった。

 

「……まあいい。それなら私にも考えがある」

 

負の感情が向かいそうになるが、それは抑え込んだ。

逆に()()()()のことを思うと、好奇心と期待感が勝ったのだ。

 

「なんのために秋のレースに出なかったと思う?」

 

シリウスは宝塚記念以降、レースに出走していない。

それどころか、学園にいることのほうが少なかった。

 

うるさく言われるのは目に見えていたので、

トレーナーと学園の許可はもらっている。

学業のほうは、すでに卒業の単位は得ているから問題ない。

 

すべては、()()()()のため。

 

「くくく、見てろ。今度は私が、おまえをあっと言わせてやる」

 

また別の意味で、シリウスは笑った。

不敵な笑みだった。

 

 

 

 

*1
参考、JRA-VANによるコース紹介https://world.jra-van.jp/course/gb/epsom/






リアンに脳をやられた娘たちの集い


新シナリオ発表されましたね
まさかの凱旋門、さらなる海外ウマ娘?の登場
テンション上がりました

そしてそしてシリウス実装!
これはリアンに出し抜かれた腹いせですね間違いない(違)

仮にリアンが海外遠征する場合、初戦は何が良いですか?

  • ドバイワールドカップ
  • ドバイシーマクラシック
  • ガネー賞(仏)
  • クイーンエリザベス2世カップ(香港)
  • アメリカ遠征
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