転生孤児ウマ娘の奮闘記   作:しょうわ56

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今回の海外編から、海外勢との会話を便宜上、
日本語表記にさせていただきます。
もちろん本人たちは英語などを使って会話しております。
ご了承ください。


第82話 孤児ウマ娘、ドバイ上陸

 

 

 

ドバイに無事に到着して、さっそく、

トレーニングを開始しようと思うんだが……

 

暑いっ!

 

そりゃ中東の砂漠地帯なんだから覚悟はしていたが、

実際に体感すると、それはもう暑いのなんのって。

 

一応、同じ北半球だから、こっちでも3月は冬季に当たるようだけど、

気温は普通に30度近く、日によってはそれ以上になるし、

湿度も割とあるのでとにかく熱いのだ。

 

特に、冬の日本から来た身としては、非常に堪える。

まずはこの環境に慣れないといかんなあ。

 

そんなわけで、スーちゃんにお願い。

1発目のトレーニングは……

 

「ゲート練習させてください」

 

「……はい?」

 

 

 

 

 

またまた目を丸くさせちゃったけど、

ゲート練習は大事だよ。逃げウマにとっては特にね。

出遅れなんてことになっては、それだけで勝機を失う。

 

ダートはただでさえ先行勢が有利で、差しが決まりにくい。

俺の場合、採れる戦法がそのどちらかという状況なので、

ならば逃げるという一択しかなくなる。

 

必然的にスタートで失敗するわけにはいかない。

そのために、練習しておく必要があるわけだ。

 

日本と海外とでは、ゲートの開くタイミングとか違うかもしれないし、

もしかすると特殊な癖とかがあるかもしれない。

あるんだとしたら、早めに特徴を掴んでおきたかった。

 

一定以上のレベルになると、こんなこと普通はやらないんだけどさ。

スーちゃんが驚いていたのはこういう理由。

 

でも万全を期してね。やれることはやっておきたい。

出の反応の良さで、逃げるときは一歩先んじることができていたので、

その長所はドバイでも活かしたいと思うわけで。

 

ということで、ゲートを用意してもらって練習します。

 

で、実際ゲートに収まってみた感想としては……

 

「ふむ……特段変わったことはない、か」

 

これといった印象は受けなかった。

何の変哲もない、ごく普通のスターティングゲートという感じ。

 

だが、開くタイミングはどうか。

 

「開けるわよ」

 

「はい、お願いします」

 

 

──ガッシャン

 

 

「………」

 

開ける前に一声かけてもらって、ゲートを開けてもらう。

 

「すいません、続けて何回かやってもらっていいですか?」

 

「わかったわ」

 

お願いして、何回か閉じて開ける、という動作を繰り返してもらって、

ゲートのタイミングを掴もうと試みる。

 

「リアンちゃん、どう?」

 

「なんとなくは。次は実際に出てみますね」

 

「了解よ」

 

まあ百聞は一見に如かず。で、見てみた後は、

実際に体験して確かめてみるしかない。

 

「……ふ~っ」

 

実戦さながらに息を吐いて、心を落ち着かせて。

今ゲートイン完了を想定。発走を待つ。

 

「よし──ガンッッッ!!──ぶへっ……!?」

 

顔面に激しい衝撃を感じると共に、鈍い金属音が響いた。

同時にゲートブロックが振動する。

 

「~~~ッ……」

 

「リアンちゃん!」

 

鼻を押さえてその場にうずくまってしまう俺。

 

いってーっ!

くそっ、ほんのわずかに早すぎたか。難しいもんだ。

やっぱり日本のとは微妙に違うらしい。

 

「大丈夫っ!?」

 

「大丈夫です……」

 

慌てて駆け寄ってきたスーちゃんにそう答える。

鼻を強打してしまったけど、どうってこと……

 

うぐぐ、でも痛ぇ……

衝撃で脳が揺れたか、少し変な感じもする。

 

つ~

 

「ぁ……」

 

手を離したら鼻血が一筋。

 

「大丈夫じゃないわ! 早く手当てしないと」

 

「は、はい。すいません」

 

スーちゃんに連れられて、医務室に直行。

 

現地での初トレーニングで流血沙汰だなんて、

日本で報じられたらどうなるのか、想像したくない。

俺は考えるのを放棄した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなリアンの初トレーニングの様子を、

遠巻きにだが、注意深く見つめていた人物が2人いる。

 

報道陣というわけではない。2人とも、現役の競技ウマ娘だ。

それも、北米チャンピオンとその強力なライバルという、

世界でも屈指のダートでの実力者であった。

 

「アレが日本から来たっていう、“史上最強”娘か?」

 

「そのようだな」

 

漆黒の長い髪のやや小柄なウマ娘の問いに、

打って変わって大柄で見事な金髪のウマ娘が頷く。

 

「ハッ、笑止な。この期に及んでゲート練習とは」

 

腕組みをしつつ、小馬鹿にしたように言う黒髪の娘。

 

「まあ最強とは言いつつも、極東の島国でのことだ。

 程度が知れるというものだな」

 

「侮るのは良くない。今までがそうだからと言って、

 彼女もそうだとは限らないからな」

 

引き続き馬鹿にする黒い娘に対して、

金髪の娘は、悠然と仁王立ちしたまま、

それを窘めるような発言をする。

 

「基本は大事だ」

 

「フンッ。いまだ海外でのG1勝利のない国の奴なんざ、

 どうでもいいんだけどな」

 

「ふふ、そう言いつつ、こうして見ているではないか」

 

「オマエが言うから仕方なくだ。

 俺様はハナから眼中になんかないんだからな」

 

「そういうことにしておこう」

 

「本当に仕方なくなんだぞ!」

 

そのうち、半ば口論のようになる2人。

といっても、金髪のほうは余裕を見せて微笑んでおり、

黒髪の娘が一方的に食って掛かっている感じである。

 

「おいおい、頭ぶつけやがった」

 

「そうだな」

 

話しているうちに、リアンがゲートにぶつかる事故が発生。

トレーナーらしき人物に連れられて、

早々に退場していく様子は2人からも見て取れた。

 

「とんだお笑いヤローだ。ゲート難持ちだったか?」

 

「いや、そんなことはないはずだが」

 

質問に応えつつ、金髪の娘は内心、ほくそ笑む。

 

(そなた、十分に気にしているではないか)

 

最初に会った時からからこういうやつだったな、と苦笑する。

しかし、それを口にするとまた先ほどのようにこじれるので、

心中で思うだけにする。

 

「大事に至らなければよいが」

 

「どうでもいいけどな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、初日のトレーニングはあれだけで終わった。

鼻血もすぐに止まったし、骨にも異常はなさそうだったので、

俺としてはもっとやりたかったんだけど、

スーちゃんが大事を取って安静にしましょうって言うからさあ。

 

数日は時差と暑さに慣れることに集中して、

コースに出ることは控えていた。

 

で、満を持してコース復帰。

 

ちなみに、密着取材中の乙名史さんの手によって、

例の顔面強打流血事件はすぐさま記事にされて報道されたらしく、

日本での狼狽ぶりは相当だったらしい。

 

中には、レース回避か、なんて飛ばし記事もまた出回ったらしいが、

あくまで軽傷で、今後のスケジュールに影響はないと

スーちゃんが即座に火消ししたおかげで、騒ぎはすぐに収まったそうだ。

 

引退騒動があったばかりなのに、ホントよくやるよ。

マスコミさんは反省して、どうぞ。

 

促すだけ無駄かな。なんせ()()()()だからね。

 

ゲート練習はあれからも続けて、タイミングはバッチリ掴んだぜ。

これなら絶対先手を取れる。痛い思いをした甲斐はあったってもんだ。

 

そろそろ身体も馴染んできたんで、

本格的にトレーニングを始めようかと、そう思っていた時。

 

「よぉジャ〇プ!」

 

「っ!?」

 

思いがけずにかけられた声。

 

「1度も国外のG1で勝ったことのない、

 レース後進国からよく来たな! その心意気だけは認めてやる」

 

ビックリして振り返ると、やや小型で細身の体型、

長い黒髪のウマ娘が、腕組みをして立っていた。

異様なくらい長い前髪のひと房が特徴的。

 

ガハハとでも笑い出しそうな勢いで、挑発的な言葉を投げかけられた?

 

「差別用語は良くないぞ。連れが失礼した」

 

そして、もう1人。

 

先の彼女とは対照的に、2mはあろうかという超大柄で

ガッチリした体躯の、鮮やかな金髪をサイドテールにしたウマ娘。

【挿絵表示】

 

【挿絵表示】

 

こちらの彼女は、相方の態度を謝罪してくれはしたものの。

えっと、ど、どちら様で?

 

もちろんこっちに知り合いなんていないわけです。

声をかけられる覚えなんてありませんけど?

 

なんだろう、この超凸凹コンビは。

 

「私はアメリカからやってきたビーフィーゴア(BeefyGoer)という。

 こっちは友人でライバルでもある、サンデーセレニティ(SundaySerenity)だ。

 セレン(Seren)、自己紹介しろ」

 

「サンデーセレニティだ。よく名前とは正反対な性格だって、

 ヤジられるぜ。なんといってもSerenity(静けさ、落ち着き)だからな。

 ワッハッハ!」

 

豪快に笑いそうだなと思っていたら、その通りなやつだったでござる。

というか、ゴアにサンデー? ゴア……? サンデーって……もしや!?

 

「セレンは去年のアメリカ二冠を制し、BCクラシックも勝っている。

 エクリプス賞*1最優秀ウマ娘にも輝いた。

 三冠最後のベルモントステークスでは私も一矢報いたが、通算では負け越しだな。

 なんにせよ、現在のアメリカレース界ではともにトップだと自負しているよ」

 

「勝負は時の運。二冠のいずれも俺様が負けていてもおかしくなかった。

 俺様も強いがベフィ(Befy)も強いぜ。ガハハ!」

 

「あ……そ、そうですか」

 

戸惑っていたら、彼女たちのほうから名乗り出てくれた。

 

こいつは参ったね。

正直、見落としてたというか、脳内になかったぜ。

 

まさかここで、あの『サンデーサイレンス*2』と

その最大のライバルである『イージーゴア*3』が出てくるとはな。

 

どう考えたって、その2頭がモデルの2人だ。

こいつらと対戦するの? うわあ、引くわ(素直)

 

そう言われてみれば、サンデーはウマ娘のマンハッタンカフェにそっくり。

実馬でも瓜二つだったというから、やっぱり“お友達”の正体はこいつか。

カフェとは違って目つきが悪いし、雰囲気からして()()

 

……そっかー、ここでこいつらが登場するのか。

ドバイ自体がまだ存在しない年代だし、世界一決定戦なんだから、

そりゃレースがあればアメリカから来てますよね~。

 

年代被っちゃったな~。ハハハ、参ったねこりゃ(遠い目)

 

「で、君は? わかっていて声をかけたつもりだが、

 確認をさせてもらえないか?」

 

「あ、うん……。日本から来たファミーユリアンです」

 

「20戦18勝2着2回、G1を12勝。間違っていないな?」

 

「そうですね」

 

良く調べてるなあ、さすがだ。

それに比べて俺の迂闊さよ。

自分のことしか考えてなかったのが嫌になるね。

 

「G1を12勝ねぇ。こいつが? はっ、冗談だろ!

 こんなのがそんなに勝てるんじゃ、レベルは相当低いらしい。

 海外で勝てないのも納得だ」

 

「だから見た目だけで判断するな。確かに顔は合っている」

 

「………」

 

見下した感じだが、背は低いから『下から』見下されるという変な感じ。

現状では、欧米から見たら日本は明らかな格下だから、

当然の印象だろうな。悔しいが。

 

「今日は顔合わせのつもりで来た。突然で無粋だったのはお詫びする。

 では、また。セレン、行くぞ」

 

「へーへー。精々いい夢見るこった。あばよ!」

 

「ど、どうも」

 

サンデーとゴアは、そう言い残して去っていった。

 

終始、圧倒されっぱなしだった俺。

こりゃいかんな。出走予定の子について、調べてみないと。

 

 

 

 

 

その日のトレーニング後、スーちゃんに頼んで、

対戦する予定の子のデータを出してもらう。

 

まずは基本の、ドバイ、メイダンレース場の仕様から。*4

 

ダートコースは1周1750mで幅員25m、直線400mは京都外回り(404m)とほぼ同じ長さ。

コーナーのバンクは6%と芝コースより角度がある。

 

へえ、コーナーにバンクがあるのか。

日本のコースよりも走りやすそうだ。砂質と脚抜きはどうか?

 

それで肝心の、出走予定のライバルたち。

戦績は現時点でのものだ。

 

 

 

サンデーセレニティ

12戦8勝 G1・5勝 昨年度エクリプス賞最優秀ウマ娘

 

 ケンタッキーダービー1着、プリークネスS1着、BCクラシック1着、

 サンタアニタダービー1着、スーパーダービー1着

 

 人呼んで「運命に嚙みついたウマ娘」

 幼少時にウイルス性の腸炎で衰弱して数日間生死の間を彷徨う

 さらには交通事故に逢い、

 同乗者がすべて死亡する中を奇跡的に一命と競走能力を取り留めた

 脚質は先行、好位抜け出しを得意とする

 

 

ビーフィーゴア

17戦12勝 G1・7勝

 

 ベルモントステークス1着、ジョッキークラブ金杯1着、トラヴァーズS1着、

 ホイットニーハンデ1着、ウッドウォードS1着、等

 

 母と祖母もG1ウィナーの名門一家の生まれで、

 破格のバ体から「超重戦車(Super-heavy Tank)」の異名をとる

 脚質は好位以降ならどこからでも行ける自在型

 

 

バヤコヤ

29戦16勝

 

 ここまででG1を11勝の名ウマ娘 前年BCディスタフの覇者

 アルゼンチン生まれで当地でデビューした後、アメリカに移籍した

 戦績を見る限り圧倒的だが、2000m以上での勝ち星はない

 かなり神経質でカリカリしやすいタイプ

 舌を出して走る癖が?

 

 

クリミナルタイプ

17戦6勝

 

 アメリカ生まれだがフランスでデビューし、アメリカに戻ったウマ娘

 今年に入ってG2を連勝し、直前のG1で2着した成長株*5

 

 

 

主だったところではこの4人か。

 

ほかに、ヨーロッパからの参戦で、

少なくとも俺が名前を知っているような著名な子はおらず、

アメリカ大陸からも目立った子はいないようだ。

 

とにかく北米の『ビッグ2』の存在が大きすぎる。

 

後世にもその名を轟かせる2人を前にして、

俺は勝利を捥ぎ取ることができるだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドバイに来て1週間後。

調整に余念がない中、衝撃的な出来事が!

 

「よおリアン」

 

「シリウス!?」

 

なんと、シリウスが突如として姿を見せた。

 

応援しに来てくれたのかと思ったが、

それにしては気が早くないか?

 

「あ、応援しに来てくれたの?

 でもちょっと早すぎない?」

 

「おまえは何を言っているんだ。

 レースをしに来たに決まっているだろ」

 

「は? レース?」

 

レースって、いったいなんのレースに出るつもりなんだ?

普通に出られるようなのってあったっけ?

 

「鈍い奴だな。シーマクラシックに出るんだよ」

 

「シーマ……って、ええっ!?

 ワールドカップデーのシーマクラシック!!?」

 

「そうだ。ハハッ、期待した通りの顔をしてくれたな」

 

満足そうに笑うシリウスだが……

まさかまさかの事態だ。

俺以外にドバイミーティングへの出走者がいたとは。

 

完全に知らなかったよ。

だって、誰も何も言ってくれなかったもの。

 

「よ、よく審査通ったね!?」

 

「ふん。私の実績をもってすればなんてことはない」

 

そりゃ確かに、G1を3勝は十分な実績だとは思うけど、

最近は……だし、そもそも秋のシーズンは走ってすらないじゃないか。

それどころかロクに顔も見なかったし、どこで何をしていたのやら。

 

出たいからと言って、

そのまま出られるようなレースじゃないはずなんだが……

 

最低でも、URAの推薦は必要なはず。

どういうことなんだよいったい???

 

「多少はコネを使ったがな」

 

「あっ、ふーん」

 

ニヤリとあくどい笑みを見せつけてくるシリウス。

 

要はシンボリの力ということか。

結局はおまえもそうかというか、名門というのは大きいよなあ。

使えるものは使う精神、良いと思います。

 

それはそれとして、あとでルナちゃんと“お話”しなきゃいかんね。

 

「というわけで、喜べ。私が一緒に調整してやる」

 

「ノーサンキュー」

 

「はっはっは! そんなに喜ぶなよ」

 

また満足そうに笑いおって。

これが喜んでいるように見えるんなら、眼科に行ったほうがいいぞ。

言葉が分からないんなら、英語で良ければ通訳してやる。

 

 

 

*1
アメリカの年度表彰

*2
言わずと知れた「SS様」。競争成績もさることながら、日本において史上空前のスーパーサイアーとして大活躍した

*3
SSの最大のライバル。クラシックやBCでは後れを取ったが、自身もG1を9勝した超名馬である

*4
メイダン競馬場紹介https://www.jra.go.jp/keiba/overseas/country/uae/racecourse.html

*5
史実では当年後半以降、G1を連勝しエクリプス賞に輝くが、この時点ではまだG1未勝利





さすがに実名では出せませんでした
今後何が起きるかわかりませんから

そして当然のように追いかけてきたシリウス
経緯については次回にて

仮にリアンが海外遠征する場合、初戦は何が良いですか?

  • ドバイワールドカップ
  • ドバイシーマクラシック
  • ガネー賞(仏)
  • クイーンエリザベス2世カップ(香港)
  • アメリカ遠征
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