転生孤児ウマ娘の奮闘記   作:しょうわ56

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第9話 孤児ウマ娘、完治する

 

 

 

 

5月末。

もう何度目かの通院の日。

 

「ふむ」

 

「……」

 

医者がレントゲン写真を見ている。

無論、俺の右足のものだ。

 

もう痛みは感じられなくなって数日過ぎている。

ワンチャン、完治した可能性もあるんじゃね?

 

期待して、ドキドキしながら医者の次の言葉を待つ。

 

「骨はくっつきましたね。ギプス取りましょうか」

 

「本当ですか!」

 

「ええ」

 

やった! これはうれしい。

当初の見込みが、固定だけで1ヶ月だったから、

かなり治りが早い。1週間以上早いか。

 

これもルドルフが紹介してくれた、あの研究所のおかげかな。

 

とはいえ、喜んでばかりもいられない。

骨はくっついたが、もちろん即復帰というわけにはいかず、

まずはリハビリに励まなければならない。

 

研究所の本領発揮だ。

帰ったら、またルドルフに相談だな。

 

そんなわけで3週間ぶりに、松葉杖なしでの歩行。

筋力がだいぶ落ちているので、気を付けるようにと言われたとおり、

なんか自分の足のような感覚じゃなくてビックリ。

 

いただいたカードをありがたく使わせてもらい、タクシーで寮へ帰宅。

なんせ手持ちの現金がないんでね、こういうときだけはしょうがない。

 

「そうか、おめでとう」

 

しばらくしてルドルフもトレーニングから帰ってきて、

ギプスが外れたことを伝えると、彼女は自分のことのように喜んでくれた。

 

「研究所へも伝えておこう。

 で、入念なリハビリプログラムを組んでもらうんだ」

 

「うん」

 

その点も俺にはよくわからんから、ルドルフと研究所に丸投げです。

俺は、組んでもらったメニューを黙々とこなすのみ。

 

「だがそういうことは、もっと早く連絡してほしいな。

 もう少し早ければ、今日中に伝えられたんだ」

 

時計を見やりつつ、ルドルフが言う。

確かに、今日の通常の営業時間はもう終わっている時間だ。

 

「今日伝わっていれば、来週の頭には、

 メニューが組みあがって出来ていたかもしれないぞ。

 あそこの仕事は迅速で確実だからな」

 

「そう言われても、どうやって?」

 

「すぐに電話くらい……そうだ、君は携帯を持っていなかったな」

 

「うん、とてもじゃないけど買えないし」

 

そうなんだよ。俺は携帯を持っていない。

俺の境遇をちょっと考えてもらえればわかるだろ?

買える金も、利用料を払う金もないんだ。

 

思い出されるな。入学したての頃、携帯やアプリ関連の話で

クラスメイト達が盛り上がっている中、輪に入れず恐縮していたのを。

 

気を遣って話しかけてくれる子もいたが、

「あー私、携帯持ってないんだよね」って言うのがつらかった。

向こうも、『あ……ご、ごめんね』ってなって、気まずくなるし。

 

地獄の時間やったでぇ……

 

「もう買えるじゃないか。父から、援助を始めると聞いたぞ」

 

しかし、シンボリ家の援助が得られた今、その言い訳は通用しない。

 

でも渡されたカード、病院に行く際のタクシー代と病院代には

使わせてもらっていたが、それ以外ではまだ1度も使ってないんだよね。

 

基本、トレセン学園にいれば生活費はかからないし、

やはりなんだか恐れ多くてさあ。

 

怪我の治療費はあとで学園が清算してくれるって話だし、

お金が戻ってきたら、この分はシンボリ家にお返しするつもりでいる。

レシートちゃんと保管しておかなきゃ。

 

「あのさ、金銭面とかの援助受けている子って、

 ほかにも結構いたりするの?」

 

「例がないわけじゃない。

 優秀なウマ娘に対する援助金というか、そういう補助制度はあるぞ」

 

「そうなんだ」

 

「または君みたいに、個人的な関係で協力しているところもあるんじゃないか。

 スポンサーと言えばいいのかな」

 

「なるほど」

 

なんとか育英会とか、そういう感じなのかな?

でもそういうのって、いまルドルフが言ったみたいに、

優秀なことが前提だよね?

 

やはり、俺なんかが無償で貰っていいお金じゃないよなあ……

むぅ、まずます使いづらい。

 

「ふむ、明日は土曜だし、ちょうどいい機会だ。

 快気祝いということで、街に出ないか」

 

ルドルフは俺の葛藤をよそに、少し考えてこう言い出した。

 

「え、街に?」

 

「ああ。この際だ、必要なものはすべて揃えてしまおう」

 

「必要なもの?」

 

「いま言ったように、連絡用に携帯と、靴なんかの練習道具だな。

 失礼を承知で言わせてもらうが、君の練習環境は控えめに言っても悪い。

 例えば君が履いているトレーニングシューズ、もうボロボロだっただろう」

 

そうなんだよな。使い古しもいいところだった。

 

ウマ娘の強大な脚力に晒される靴は、はっきり言って消耗品である。

早いと月単位で履き潰してしまう子もいるとかって話だ。

 

俺はそこまでじゃないけど、安いものでもないので、

おいそれとは手を出せない。

高級高機能品ともなれば、万は軽く超えていくものだから。

 

しかし、ルドルフ、他人の足元までよく見てるね。

レースで勝つには、そういう洞察力や観察眼も必要なんだろうな。

 

「形から入ることも、時には大切だ」

 

「うーん、そっかぁ」

 

そう言われても、以前の俺には高嶺の花もいいところなんだよ?

今の靴とかだって、たぶん施設の人とか、だいぶ無理して買ってくれたものだと思う。

 

「あとは、蹄鉄とか、トレーニングウェアも一式――」

 

「ええと……」

 

またもや『掛かって』しまった皇帝陛下。

1人であれやこれやと考えては、あーでもないこーでもないと

うんうん唸っている。

 

息を入れるタイミングがあればいいんですが?

 

普段は冷静沈着を地で行くのがルドルフなのに、

どうしてこうなってしまうんだろう?

 

俺は困惑しつつ、ついていくのが精いっぱいだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後11時。

 

リアンはもう寝てしまったようだ。

ケガもあって久々の外出だと言っていたから、疲れてしまったかな?

 

暗い部屋、私もベッドの中にいるが、

手にしている携帯端末の明かりが、私の手元だけをぼんやりと照らしている。

 

 

 ファミーユリアン

 090-〇〇〇〇-●●●●

 

 

「ふふ……」

 

画面に表示されている情報に、私は思わず笑みを漏らしてしまった。

いわゆる『お友達』の番号が登録されたのは、リアンのものが初めてだ。

 

もちろん家族や、重要連絡先の番号はとうに登録されているが、

こうしてみると、一段と感慨深いものがある。

 

もっと早くに勧めてみるべきだった。

とはいえ、リアンには普通ではない事情があるし、

これまで携帯を持っていなかったことも致し方ない。

 

だが、これでリアンとはいつでも、即座に連絡を取り合うことができる。

無料通話アプリも入れてもらったので、その気になれば24時間でも。

 

「ふふ……」

 

楽しいな、ああ、楽しい。

こんなに楽しいのはいつ以来だろう。

 

想像するだけでこんなに楽しいのなら、

実際に携帯で話してみたときは、また格別だろうな。

早く試してみたいものだ。

 

今日のお出かけも楽しかった。

 

まずは、先日に私がプレゼントした服を、リアンが自発的に着てくれたことがうれしい。

余所行きの服がほかにないから、私の柄じゃないけど仕方なく、

なんて気恥ずかしそうに言い訳していた。

 

だが君もウマ娘なのだから、似合わないということはない。

実際すごくかわいかったんだ。もっと自信を持っていい。

 

街に出て最初に携帯ショップに行って、端末を2人で選んだ。

 

最低限の安物でいいと言って、お年寄り用のものを選ぼうとするのを、

全力で止めた。それはない。ないぞリアン。

少なくとも、10代の若者が選ぶようなものでは、断じてない。

 

結局は説得の甲斐もあって、2世代型落ちの機種で落ち着き、

料金プランも、1番安いものになった。

 

あんまり負担をかけるのも嫌だから、などと言っていたが、

父様は負担だなんて思っていないと思うぞ。

思っているのなら、最初から援助なんて申し出ないはずだからな。

 

本当に君というやつは、他人思いの優しい子だ。

それはそれで美徳だが、もう少し自分のことを考えても、罰は当たらないと思う。

 

君はもっとわがままであるべきだな、うん。

我の強いウマ娘が多い中での、稀有な存在。

そんなやさしさが、レースでの厳しい状況で足枷にならないといいのだが。

 

しかし父様がリアンを気に入ってくれて、本当に良かった。

 

実は、私が話を持って行った段階で、大筋のことは決まっていた。

研究所の利用はゴーサインだったが、その先、

今後の援助まで行うかについては、その時点では決めかねていたとのことだった。

 

実際に顔を合わせてみて決める、との判断だったらしい。

そうなると、研究所にわざわざ来ていたのも納得だ。

対面できる機会を窺っていたんだな。名門の当主は伊達ではない。

 

そのあとに行ったデパートでは、練習用の靴選び。

 

ここでも安いものをだなんて言うから、思い切って最高級品を勧めてやった。

嫌味で言ったのではなく、本当におすすめだから言ったんだ。

 

安物買いの銭失いというだろう?

 

それに、君は故障明けなんだ。

下手に安いものを使って身体に合わず、状態を悪化させたり、

さらなる故障を誘発するのはまずい。

 

リアンは値札の数字を見て目を丸くしていた。

軽くて丈夫な良いものの相場はこんなものだ、覚えておけ。

保証も付くし、もし早くにダメになった場合も安心だぞ。

 

その後、2人でファミレスに入って昼食を摂った。

 

ここで食べたニンジンハンバーグの味、私は一生忘れないだろう。

なにせ、親友と初めてのお出かけで、一緒に食べた食事だ。

忘れるわけがないし、絶対に忘れないと言い切れる。

 

君は相変わらずの小食だったな。

それもウマ娘用のメニューではなく、通常のランチセットだった。

いつも次の食事までそれで持つのかと不安になる。

 

そんなことでは大きく強くなれないぞ。

栄養をより多く取らなければならない時期でもあるんだし、

多少無理をしてでも食べるべきだと思う。

 

そう伝えたら、顔を引きつらせつつ、善処すると言っていた。

うん、ぜひそうしてくれ。

女の子にとって複雑かもしれないが、ウマ娘としては必須も同然だぞ。

 

午後からは、リアンの希望で、ゲームセンターで遊んだ。

リアンが自ら進んで意見を出してくるのは珍しいから、当然承知したさ。

 

とはいえ私は、恥ずかしながらゲーセンに行くのは初めてで、リアンに頼りきりだった。

普段とは逆だったな。新鮮で面白かった。

 

私が何回もやって1個も取れなかったクレーンゲーム、

リアンは1度に何個も取ったりして、経験の差を見せつけられた。

 

今も枕元には、リアンが取ってくれたぬいぐるみが置いてある。

 

しかし彼女、お金がないという割には遊び慣れている様子だったが、

不思議なこともあったものだな。

 

ふとそんな疑問を口にしたら、リアンは口ごもって

「ぜんせ……アプリでも……ごにょごにょ」なんて呟いていた。

詳しい単語まではよく聞き取れなかったが、まあ彼女にも事情がある。

 

人当たりの良いリアンのことだから、羽振りの良い友人でもいたんだろう。

 

「ふう」

 

今日の振り返りはここまでにしておくか。

もうけっこうな時間だ。明日も学校だし、寝るとしよう。

 

携帯をスリープモードにし、カバーを閉じて脇に置く。

 

「……さて」

 

思考を切り替え、自分自身のことだ。

来週から6月になる。

 

トレーナーによれば、来週あたりから、

私のデビュー戦について詳細に検討するとのお達しだ。

 

おそらくは夏の早い段階での中距離戦になると思う。

 

早いデビューは早熟バのイメージが付きまとうが、

それで終わる気など毛頭ないし、トレーナーも私も勝利を確信している。

 

レース場が決まれば、展開などもイメージできる自信はある。

やれる、大丈夫だ。

 

リアンを励まし、焚きつけている手前、無様な姿は見せられない。

 

「おやすみ、リアン」

 

先ほども、直接伝えた言葉をもう1度呟いて、私は目を閉じた。

自分でも驚くくらいの、スムーズな寝入りだった。

 

 

 

 

 




ルドルフの愛が重くなってきた(汗)



PC直りました。
更新再開します。

仮にリアンが海外遠征する場合、初戦は何が良いですか?

  • ドバイワールドカップ
  • ドバイシーマクラシック
  • ガネー賞(仏)
  • クイーンエリザベス2世カップ(香港)
  • アメリカ遠征
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