転生孤児ウマ娘の奮闘記   作:しょうわ56

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オグリ騒動とクラシック

 

 

 

三冠ロード初戦の皐月賞が目前に迫った。

 

今年の本命は、昨年のジュニアチャンピオン・サクラチヨノオー。

トライアルの弥生賞をも快勝し、万全の態勢で臨む。

 

前年の阪神JFを勝ち、対抗1番手に挙げられていたサッカーボーイは、

足首の関節炎を患ってしまい、無念の出走断念となった。

 

その他のメンバーは、共同通信杯でサッカーボーイを降して

3連勝となった娘が屈腱炎でリタイアするなど、

重賞級やオープンクラスの子たちが次々と消える事態に。

 

ほかスプリングSを勝ったモガミナインが目立つくらいで、

チヨノオーの勝利は固いと見られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皐月賞の枠順抽選会の前に、出走者の確定抽選が行われる。

フルゲート18人に対し、21人の登録者が出たためだ。

 

同じ賞金額で16位タイに6人が並んだので、2分の1の確率となる。

6枚のくじの中に、3枚だけの当たりくじ。

五十音順で、順番に抽選箱からくじを引いていく、抽選対象の子たち。

 

その中に、見事な流星を持つ娘、ヤエノムテキもいた。

 

現時点では、ダートで2勝してはいるものの、

芝ではまだ未勝利の存在にすぎない。

 

(……残り物には福がある)

 

名前の順の関係で1番最後にくじを引いたヤエノ。

はたして当たりくじは残っていたのか、それとも?

 

「開封してください」

 

主催者の声で、それぞれが一斉にくじを開く。

 

「やった!」

 

「……あー」

 

「外れだ……」

 

当落対照的な声が聞こえてくる中、

ヤエノも、己が引いたくじの中身を確かめる。

 

「(南無三!)……当たった」

 

結果は、見事当選。

こうしてヤエノムテキは、最後の出走枠に滑り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金曜日の夜。

 

逃げに近い先行脚質の彼女にとっては有利な2番枠を引いて、

幸先よしと息巻いていたチヨノオーのもとに、

さらなる吉報がもたらされる。

 

「……電話? わっ、わっ、リアンさんからだ!」

 

イギリスにいるリアンからの、直接の電話だった。

慌てて通話ボタンを押す。

 

『もしもし、チヨちゃん?』

 

「はいっ、チヨノオーです」

 

『時間、大丈夫だったかな?

 時差は計算したつもりなんだけど』

 

「大丈夫ですよ! 全然問題ありません」

 

『ならよかった』

 

夕食も入浴も済ませた後の自由な時間帯。

わざわざそんな時間を選んでくれたのだろう。

 

「リアンさんもお忙しいでしょうに、すいません」

 

『なーに、かわいい後輩のためだからね』

 

「本当にありがとうございます!」

 

電話口で頭を下げる勢いのチヨノオー。

元々そうではあるが、妹の件といい、

もはや下げた頭が上がらないくらいであった。

 

『調子はどう?』

 

「上々です。レースするのが楽しみなくらいです」

 

『それはよかった』

 

実際、チヨノオーは好調を維持しており、

自身の中でも、今まででの最高の状態と言ってよかった。

 

『サッカーボーイさんは出られないんだってね』

 

「そうなんです。関節炎とかで、残念です」

 

『これで皐月賞は、チヨちゃんの独壇場になったかな?』

 

「ぜ、全然そんなことありませんよ」

 

リアンからそのように言われ、否定するチヨノオー。

咄嗟に手を振る身振りが出てしまうほどに、思ってもみないことである。

 

「確かに実績では私が1番ですけど、

 他の子たちも強力ですし、簡単に勝てるとは思いません」

 

『うん、そうだね。よかった安心したよ』

 

「え?」

 

『慢心してないし、驕ってもいないみたいで安心した。

 認めてたら、叱り飛ばしてやろうと思ってたんだ』

 

「大丈夫です。私はそこまで天狗じゃありません」

 

『よし』

 

チヨノオーの言葉に、短く頷いたリアン。

頼もしさすら感じるくらいだったろう。

 

『頑張ってね。期待してるとか言うと、

 プレッシャーになっちゃうかな?』

 

「いいえ。確約はできませんけど、

 最大限努力することはお約束できます」

 

『うんうん』

 

確かめるように2度3度と頷いたリアン。

これで目的は果たせた。

 

『それじゃ、直前に長電話もなんだから、これで切るね。

 レース後にまた連絡するよ』

 

「はい、お待ちしてます。ありがとうございました!」

 

『じゃあね、おやすみ』

 

それだけ言って、通話は終わった。

 

「………」

 

電話が切れて、しばらくそのまま佇んでいたチヨノオー。

 

向こうは昼過ぎくらいだろうか。

昼食休憩のついでにでも電話してくれたか。

 

慣れない海外でのトレーニングで大変だろうに、

こちらを気遣ってくれていると思うと、

非常に申し訳なく感じるのと共に、活力が溢れてくる。

 

ぎゅっと拳を握って立ち上がり、叫んだ。

 

「よ~し、やるぞー。チヨノ、オーッ!」

 

「あらあら、チヨノオーさん、元気がいいですね」

 

「はわっ!? す、すいませんアルダンさん!」

 

「しかもファミーユリアンさんから直々に、

 海外から激励のお電話だなんて、羨ましい限りです。

 明日、言い触らしてしまおうかしら?」

 

「や、やめてください~」

 

「ふふふ、冗談ですよ♪(羨ましいのは本当ですが)」

 

元気が良すぎて、同室のアルダンにからかわれてしまったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皐月賞当日。

天候は晴れ、良バ場。

 

1番人気はチヨノオー。2番人気モガミナイン。

両者の間はかなり離れている。

チヨノオーが1人抜けて圧倒的な人気。

 

ヤエノムテキは9番人気で発走を迎えた。

 

『クラシック第1弾皐月賞、態勢整いました。

 ゲートが開いてスタート! 内サクラチヨノオー好スタートです』

 

『そのチヨノオーをかわして4番が前に行った。

 もう1人先行します』

 

2番枠スタートのチヨノオーが、ポンッと飛び出した。

彼女をかわして4番と9番の2人が逃げに入る。

チヨノオーは難なく3番手の好位に取りついた。

 

ヤエノムテキはチヨノオーの後ろ、4番手で1コーナーを回る。

レースはそのまま進み向こう正面へ。

 

『前半1000mを、いま通過。59秒8。平均ペースです』

 

実況が触れたように、流れは至って普通。

どの子も力を出し切れる展開か。

 

『3コーナーを回って4コーナーへ向かいます。

 サクラチヨノオーいい展開だ』

 

逃げ2人の直後のチヨノオー、抜群の手ごたえ。

逆に逃げる2人には余力が感じられない。

 

『4コーナーから直線へ。サクラチヨノオー、

 満を持して追い出した。あっという間に先頭!』

 

直線に入って間もなく、チヨノオーが外から先頭へ。

 

『内からヤエノムテキ伸びてきた』

 

そこへ、内のほうからヤエノムテキが突っ込む。

両者の差はみるみる詰まっていった。

 

『先に抜け出したサクラチヨノオー逃げる!

 追うヤエノムテキ! 差が詰まる!』

 

上がる大歓声。

中山の急坂を前にして、両者が並びかける。

 

『坂での叩き合い!』

 

『チヨノオーか、ヤエノムテキか!

 2人が完全に抜け出して、後ろは後方だ!』

 

『チヨノオー僅かに出たか!?

 サクラチヨノオー!!』

 

坂を登ってからの攻防で、チヨノオーがわずかに出た、

そこがゴールだった。

 

『朝日杯に続いて皐月賞も制覇!*1

 ジュニアチャンピオンはクラシックでも健在です。

 サクラチヨノオー勝ちました!』

 

『ヤエノムテキ僅差で悔しい2着!』

 

 

 

皐月賞  結果

 

1着 サクラチヨノオー  2:01.3

2着 ヤエノムテキ      クビ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オグリが出走するマイルカップが翌週に行われる。

その取材に府中CATVのスタッフが訪れ、オグリが応じていた。

 

「調子はいかがですか?」

 

「引き続き好調だ。良い結果を出せると思う」

 

笑顔で頷きながら答えるオグリ。

 

リアンからの紹介だけあって、編入前に要請を受けたオグリ側は取材を快諾。

中央への編入の模様を、ネットチャンネルにて余すことなく報じた。

 

前走のNZTにて、2番人気にまでなったのは、

オグリ自身の実力に加えて、動画の力が大きいと思われる。

 

NZT勝利後も、府中CATVからの取材にはたびたび応じており、

局側にとっては早くも、リアンに次ぐ看板となりつつあった。

 

「地方出身者が中央のG1を勝つとなれば、

 あのハイセイコーさん以来の出来事ですね。

 グレード制導入後では初めてになりますよ」

 

「すまない、その人のことは良く知らないんだ」

 

「そ、そうですか」

 

「すまねえな。そういう知識面でこいつに期待しちゃいけねえよ。

 オレでも呆気に取られるからな。ハハハッ」

 

ハイセイコー*2を知らないとは、と微妙な空気になりかねるが、

トレーナーが割って入って、豪快に笑い飛ばしたことで、

空気は悪くならずに済んだ。

 

局側も信頼関係が第一と考え、

これ以降は、()()()の質問は控えるようになっていく。

 

「では改めまして、G1初出走に際してのお気持ちをお聞かせください」

 

「もちろんがんばるし、勝ちたい。

 勝って私の力を証明したいし、笠松のことをもっとよく知ってほしい。

 それと、こんな私を拾ってくれたトレーナーに恩返ししたい」

 

「これはオグリらしからぬ殊勝な心掛けだな」

 

オグリの言葉を受けて、意外そうに言うトレーナー。

 

「勝って腹いっぱい食べたい、とでも言い出すのかと思ったぞ」

 

「さすがに失礼じゃないか? 確かに勝ったら、

 おなかいっぱいになるまで、飛び切り美味しいものを食べたいが」

 

「別にG1じゃなくたって、いつも通りだろ。

 それにおまえさんは、食えるもんなら何でもいいんだろ。なあ?」

 

「そうなんだが」

 

「よーしわかった! 勝ったら寿司でも食いに行くか。

 それとも、焼き肉のほうがいいか?」

 

「お寿司! 焼肉!」

 

「ふふ、良いコンビですね」

 

2人のやり取りを見聞きして、笑ってしまう記者。

オグリとトレーナーが契約を交わして、まだ1ヶ月にもならないが、

とても良い関係を築けているようであった。

 

「でも、そうですね。確かにチームシリウスは、

 このところG1勝利からは遠ざかっていますし……」

 

「痛いところ突かれたな」

 

チームシリウスのトレーナーは百戦錬磨の名伯楽で、

数々の名バを育ててきた敏腕トレーナーではあるが、

記者が資料を見やりつつ言ったように、最近はG1から見放されていた。

 

思わず苦笑するトレーナー。

 

「孝行娘となれるよう願ってます」

 

「ああ、がんばる」

 

「ぜひともそうなって欲しい。

 いや、そうさせてやらにゃあいかんな」

 

意気込むオグリに対し、まるで自身の娘、いや孫を見るかのような、

優しい目を向けていたのが印象的なトレーナー。

 

その後も取材は続き、和気藹々としたまま終了した。

もちろんこの模様も動画としてアップされ、

オグリの素の姿が良いとして、人気向上の一助となるのである。

 

 

 

 

 

さて、本番のレースであるが……

 

『直線に入って早くもオグリキャップ先頭』

 

『差が開く。これは一方的になった』

 

『オグリキャップ圧勝も圧勝で堂々のG1初制覇! ゴールインッ!』

 

『この娘の実力は本物だ!』

 

2着に7バ身もの差をつけて圧勝する。

しかも、レースレコードを大幅に更新というおまけつき。

チームシリウスに久々のG1勝利をもたらした。

 

テレビ中継で解説を務めていた、辛口で知られる大御所の解説者*3が、

「桁違いですね」と発言するほどの圧倒的なレース。

これでもう、表立ってオグリの実力を疑う者は、誰1人としていなくなった。

 

「G1勝利、おめでとうございます」

 

「ありがとう」

 

レースが確定し、勝利ウマ娘インタビューとなる。

まずは形式通りに始まって、いくつかの定番の受け答えの後。

 

「これほどの強さを見せつけられますと、

 次走に関してが非常に注目されますが……」

 

と、突っ込んだ発言がなされ、

周りの空気が急速に重くなる。

 

なお、インタビュアーの独断であったことが、

のちに明らかとなって、賛否両論となった。

 

すでにクラシック登録がなされていないことは周知の事実であって、

オグリがダービーに出られないことは確定していた。

『ダービー』に対する何らかの反応なり発言なりを

引き出そうとしているのは、明らかだったからだ。

 

「お決まりでしょうか?」

 

「オレから言おう」

 

隣で見守っていたトレーナーが前に出て、代わりに答える。

下手な発言をさせないよう庇ったのもあるが、

大注目のこの場で発表するのも乙だという、彼の考えである。

 

勝利インタビューでトレーナーが次走を公表するという、

これまた異例の事態になった。

 

「オグリの次走は、安田記念だ」

 

「安田!? クラシック級での安田記念出走は、

 極めて異例*4となりますが……」

 

驚くインタビュアーの発言に、それはそうだろ、と

中継を見ていた人は多くがそう思ったことだろう。

 

なんせダービーがあるのだから、有力娘はそちらに進むのが当然。

また、クラシック級の春シーズンにシニア級の娘と対戦するのは、

実力的にも精神的にもきつい。

 

前例がないわけではなかったが、インタビュアーの言う通り異例中の異例。

もちろんクラシック級での安田記念制覇は、ただの一例もなかった。

 

()()()()G1を狙えば、自然とそうなるのよ。

 なあオグリ?」

 

「ああ。やすだきねん?とやらも、勝つ」

 

「人事は尽くした。あとは天命を待つってな」

 

言われるがままに頷き、次走への意気込みを見せるオグリ。

周りの関係者たちは、総じて色めき立っていた。

 

 

 

 

 

このインタビューのこともあってか、

オグリがクラシックに出られない問題は一気に過熱し、

SNS等での炎上騒ぎはもちろんのこと、

URAに脅迫状が送られるという事件にまで発展する。

 

が、URA側は規則であるとの一点張りで強硬姿勢を崩さず、

オグリ陣営がこの件に関してはこれ以上は口をつぐんだため、

頑固なURA、健気なオグリ、という図式が出来上がってしまったことも、

ファン心理をさらに沸騰させたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オグリのクラシック登録関連で逮捕者まで出たことにより、

今年のダービーは、超厳戒体制の下で行われる。

 

入場規制がかかるのは例年通りだが、

いっそう厳しい制限がかけられ、場内のいたるところに

警察官が配置される、物々しい雰囲気になった。

 

まるで海外から超VIPが来日するときのようだ。

 

『さあ日本ダービー発走が迫りました。

 1番人気は皐月賞ウマ娘サクラチヨノオー。

 2番人気は阪神JFの覇者サッカーボーイ。

 皐月賞2着のヤエノムテキが3番人気となっております』

 

ジュニア級のG1の前とは、正反対の評価になった。

一冠目の皐月賞を制したのだから、それも当然。

サッカーボーイが故障明けという点も、割り引かれた一因になっている。

 

(いよいよダービー……落ち着いて走れば、いける)

 

正面スタンド前の発走地点において、

ゲートの手前で自分を落ち着けているチヨノオー。

 

おとといの夜には、リアンから再び励ましの電話をもらった。

そればかりか、昨日の朝には、マルゼンスキーが

わざわざ向こうから訪ねてきて、激励されていた。

 

(マルゼンさん、よく私のこと気にかけてくれてるけど、

 なんでなのかな?)

 

きのうのことだけではない。

思い返してみると、そんなことが何度もあった気がする。

 

(……まあいいか。今はレースに集中しなきゃ)

 

それよりも、今はレースのことだ。

しかもダービーなのだから、より一層の気合を入れていかなければ。

 

「……よしっ」

 

首を振って邪念を追い払い、自ら頬を叩いて気合を入れる。

 

「チヨノオーさん」

 

「アルダンさん」

 

そこへ近づき、声をかける人物。

淡い水色の長髪のウマ娘、メジロアルダンであった。

 

「どうにか私もダービーに間に合いました。

 今回ばかりは、友人でルームメイトであるということは置いて、

 真剣勝負でお願いしますね」

 

これがデビューして4戦目となるアルダン。

3戦2勝。トライアルの青葉賞2着*5から、栄光のゴールを目指す。

ちなみに6番人気になっている。

 

「もちろんです」

 

アルダンからの申し出に、力強く頷いたチヨノオー。

 

「正々堂々、勝負しましょう!」

 

「よろしくお願いします」

 

自ら右手を差し出して、アルダンもその手を取る。

両者笑顔で頷き合い、手を離した。

 

「………」

 

一方で、そんな2人を見つめている視線が。

ヤエノムテキだ。

 

(……今度こそ)

 

彼女にも期するものがある。

世代のトップにあそこまで肉薄できたという自信に、

あと一歩及ばなかったという悔しさ。

 

そして、幼いころから悩まされ続けている、

自らの奥底に秘められた、熱く滾る“何か”。

 

『日本ダービー、ファンファーレです!』

 

ここで時間となり、ファンファーレが生演奏されて、

各ウマ娘がゲートに収まっていく。

大きな混乱はなく、程なくして態勢は完了。

 

『スタートしました!』

 

『大外枠オーバーアドバンス飛び出していった』

 

大外の子が好スタートを決め、そのまま逃げていく。

そのほかにも大きな出遅れなどはなかった。

 

『後続を引き離して大逃げになった』

 

『皐月賞ウマ娘サクラチヨノオー、

 7、8バ身離れて2番手』

 

向こう正面へ出ていく過程で後続との差は広がり、

チヨノオーは楽に2番手を追走する格好。

 

『ヤエノムテキは中団の前あたり。

 サッカーボーイは中団の後ろのほうにつけています』

 

人気の各娘たちの位置取りはバラけた。

 

『1000m通過は59秒9』

 

早めの平均ペース。

見た目ほど早くはなっていない。

 

『先頭と2番手との差が詰まってきた』

 

『オーバーアドバンス、集団に吸収されます』

 

先頭を行く子が3コーナー付近で早くも失速し後退。

後続のバ群に吸収される。

 

『サクラチヨノオー、外側から進出』

 

『4コーナーを回ります。

 サクラチヨノオー、バ場の中ほど、先頭に立った』

 

直線に向いたところで、チヨノオーが徐々に進出して先頭。

東京コースの坂へと差し掛かる。

 

『内からメジロアルダン、チヨノオーに並んできた。

 大外からはヤエノムテキ!』

 

そこへ内側からアルダンが伸びてきて身体を合わせ、

1番外からはヤエノムテキも脚を伸ばしてくる。

 

『メジロアルダンかわしたか? 前に出た!』

 

『メジロアルダン先頭に変わった!

 半バ身のリード!』

 

坂を登りきると、アルダンがわずかに前に出る。

しかしチヨノオーも負けておらず、

前走に続いての激しい叩き合いへと移行した。

 

『しかしチヨノオーも粘る!』

 

『ヤエノムテキ3番手だが前とは差がある!』

 

『残り100メートル!』

 

チヨノオーとアルダンが競ったまま、最後の100m。

ヤエノも伸びてはいるが、前の2人には届きそうにない。

 

『さあ二冠か、メジロの夢*6か!』

 

『あと50!』

 

アルダンも譲らず、チヨノオー万事休すかと思われた、そのとき。

 

 

「私が……私が勝つんだからぁあああ!!!」

 

 

チヨノオーが咆哮。

驚異の末脚を発揮する。

 

『チヨノオー差し返す! なんと差し返した!

 土壇場でサクラチヨノオー先頭っ!』

 

ゴール直前でアルダンを差し返し、ほんの僅か前に出る。

そこがゴールだった。

 

『サクラチヨノオー栄光のゴール!

 皐月賞に続いての接戦を制して、二冠達成!

 恐るべき底力、恐るべき根性!

 中山で開花した桜が、府中でも咲き誇りました~!』

 

2戦続けてのクビ差での決着。

アルダンは僅差で大金星を逃した。

 

 

東京優駿(日本ダービー)  結果

 

1着 サクラチヨノオー  2:26.3

2着 メジロアルダン     クビ

3着 ヤエノムテキ       3

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝った……私が、ダービー……」

 

ゴール後、掲示板を見上げて呆然とするチヨノオー。

 

まるで実感などなかった。

ただそこに、1着欄に自分の番号がある、それだけのこと。

 

「チヨちゃーんっ!」

 

「あ、マルゼンさん……」

 

そこへ、ゴール前最前列の客席から声がかかった。

視線を向けたチヨノオーの目に映ったのは、マルゼンスキーの姿。

すぐに駆け寄っていくチヨノオー。

 

「おめでとうっ、チヨちゃん!

 自分のことのようにうれしいわ。やったわね!」

 

「ありがとうございます……」

 

本当に自分が勝ったかのような喜びようのマルゼン。

いまだ実感が湧いてこず、片言のように呟くことしかできない。

 

「ほら、他のお客さんたちにも応えなきゃ。

 今年の二冠、ダービーウマ娘は私だぞっ、ってね♪」

 

「……はいっ!」

 

マルゼンと会話しているうちに、周りの歓声も耳に入ってきた。

徐々に実感が湧いてくる。そして、完全に自覚した。

 

「ありがとうございました~っ!」

 

チヨノオーがそう叫んで両手を掲げると、大歓声が沸き起こる。

その歓声は、いつまでも、チヨノオーの耳に残り続けた。

 

 

 

 

 

「……おめでとうございます、チヨノオーさん」

 

歓声に応えるチヨノオーを称えるアルダン。

あそこからの巻き返しは正直驚いたが、負けは負けだ。

悔しいが素直に認めるしかない。

 

「次は、負けませんから」

 

秘かに決意を固めるアルダン。

だが……

 

「っ……」

 

突如、右足から響いてきた鈍い痛みに、

嫌な予感を感じずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

「また負けたッ……!」

 

もう一方で、四つん這いの体勢で悔しがっているヤエノ。

何度も拳で地面を叩く。

 

「どうして……私はっ……!」

 

勝利にはあと一歩足りない。

その一歩が、果てしなく遠い。

 

「いったい、どうすれば……」

 

身体の奥底から吹き上がってくるどす黒いものを、必死に抑える。

ここでソレを出してしまうのは、あまりにもまずい。

 

「くっ……!」

 

係員が呼びに来るまで、

ヤエノは必死に黒い衝動に抗い続けた。

 

 

 

*1
朝日杯はクラシックに直結するレースとして有名。グレード制導入以降、メリーナイス、サクラチヨノオー、アイネスフウジン、ミホノブルボン、ナリタブライアン、ロゴタイプ、ドウデュースなどが朝日杯勝利後にクラシックを制している

*2
22戦13勝。大井出身で中央移籍後も大活躍し、第1次競馬ブームを巻き起こした。いわば直系系譜のオグリの大先輩。主な勝ち鞍・73年皐月賞、74年宝塚記念

*3
O川K次郎氏。関係者に対しても公然と批判することがしばしばあった

*4
安田記念はG1昇格後オークスの前週に行われていたため、この時代に3歳馬が出走することはほぼなかった。96年にダービーの翌週に変更。2011年にリアルインパクトが初めて3歳で制した

*5
史実では、当時トライアルであったNHK杯2着

*6
メジロは結局、ダービーを勝てなかった





リアンブーストもあってチヨちゃんが皐月勝利からの二冠達成
ヤエノファンの方には申し訳ない
東京コースだったらそれでも勝っていたかもしれませんが
(ヤエノ勝利時の皐月賞は中山改修のため府中開催)

仮にリアンが海外遠征する場合、初戦は何が良いですか?

  • ドバイワールドカップ
  • ドバイシーマクラシック
  • ガネー賞(仏)
  • クイーンエリザベス2世カップ(香港)
  • アメリカ遠征
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