転生孤児ウマ娘の奮闘記   作:しょうわ56

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第87話 孤児ウマ娘、欧州を本気にさせる

 

 

 

コロネーションカップを勝った後、周囲がにわかに騒がしくなった。

 

ドバイに続いて、本場欧州でもG1を制したことで、

ヨーロッパ各国のマスコミがこぞって取材に来たのがひとつ。

 

まあ主に対応してたのはスーちゃんなので、

俺に直接の影響はあんまりなかったんだけどさ。

 

凱旋門賞挑戦を公言しているので、フランスのマスコミが1番多かったな。

そのフランス各社に対して、流暢なフランス語で応じるスーちゃんが印象的。

いやフランス語も話せたんですかい。

 

孫のルドルフも、フランス語わかるみたいな描写はあったような気がするけど、

祖母譲りだったのかと納得した。

俺たちを通じて、日本のレース界のことも広く知ってくれるといいね。

 

また、日本からも取材の申し込みが殺到したのがもうひとつ。

特に一般紙や、普段ウマ娘のレース関係を扱わないところからの

取材依頼が格段に増えた。

 

ドバイの時もあったんだが、専門じゃないところからの申し出は

大変ありがたい半面、非常にめんどくさいこともまた事実。

 

基本的なことをイチから説明しないといけないこととかね。

そういうのは最低限の勉強してから来いよ、と思うのは俺だけだろうか。

まさか断るわけにもいかないし、ストレスしかないわけよ。

 

こういう日本人のミーハー気質というのかな?

オリンピックとかでメダルを取ると、そのときだけワ~ッと盛り上がって、

露出が一気に増えたりするけど、その後が続かないのはなんだかなあ。

 

まあ俺自体が頑張って、その火が衰えないようにしないといけないわな。

 

ああ、あと、プライベートに土足で踏み込んでくるような質問だけはやめてくれ。

マジでキレる5秒前だったよ本当に。

顔に出すわけにもいかんから、穏便に飲み込むしかないのがまたストレス。

 

何はともあれ、次走はキングジョージ&クイーンエリザベスステークス。

凱旋門賞と並ぶ世界のトップレースだ。

 

気張っていくとしましょうかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シリウスがロイヤルアスコットのひとつ、

プリンスオブウェールズステークスに出走した。

 

結果は……大善戦の2着!

 

あいつ、ドバイの前後からまた覚醒したんじゃないの?

史実の海外遠征でも何回かは入着していたと思うけど、

一線級の馬が揃うG1とかでは、着外ばかりだったはず。*1

 

前走のタタソールズゴールドカップでも3着に来たし、やっぱり覚醒してるよなあ。

 

その割には音沙汰ないのが気になるけど。

メッセもメールも何も来ないんだよ。

 

もしかして、もう1回勝つまでは連絡しないとか思ってるのか?

極めて馬鹿らしいが、あいつらしいっちゃあらしい。

 

俺から連絡するのも癪なので、なんも言ってやらない。

ざまーみろ(寂)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて7月も末となり、キングジョージが迫った。

出走バも固まって、枠順抽選も行われて、

俺は1番枠からの発走に決まった。

 

今日はこれから、トニーとムーンも呼んでの作戦会議が行われる。

 

「やあリアン」

 

「来てあげたわよ」

 

「トニー、ムーン、いらっしゃい。ありがとね」

 

ニューマーケットの間借りしている建物の一部屋に、

トニーとムーンはわざわざやってきてくれた。

笑顔で出迎えて2人の手を取る。

 

「今日は良いアドバイス期待してるよ」

 

「私はアスコットで勝ったことがない*2から、

 あんまり期待しないでくれ」

 

「ふふん、私は勝ったことあるわよ。

 それもキングジョージと同じ距離でね」

 

2人にそう言うと、トニーはすまなそうに苦笑する。

一方のムーンは、同じコースで勝利した経験があるからか、

得意げにふんぞり返った。

 

へえ、そうなんだ。

さすが地元のムーン、これは期待させてもらうしかない。

 

「勝ったとはいっても、一般戦での話だろう?」

 

鼻高々状態のムーンに、意地悪そうな顔と声で、トニーが口を挟む。

 

「肝心のキングジョージではどうだったかな?」

 

「うぐ……よ……4着が最高*3よ」

 

「私と大差ないな」

 

「う、うるさいわね! 勝ったことが大事なのよっ」

 

すると、急所を突かれたかのごとく言葉に詰まるムーン。

な、なるほど、そういう戦績なのか。

 

「それに、重賞でも勝ってる*4んだからね!」

 

「そうだったか。それは失礼した」

 

「ま、まあまあ、私は初めて走るコースなんだから、

 2人の話は全部貴重だよ。遠慮しないで何でも申し出てね」

 

「ああ、わかった」

 

「任せておきなさい」

 

何はともあれ、経験のない俺には、何事も貴重な体験談になる。

期待してるぜ2人とも。

 

「それじゃ、始めましょうか」

 

スーちゃんもやってきて、各種資料を机上に広げて、

作戦会議はスタートした。

 

「まずは基本的なデータのおさらいからね。

 アスコットレース場のデータとしては──」

 

アスコット*5は、芝コースのみ、おむすび型の三角の形のレース場で、

右回りの1周14ハロン。それに加えて、

1つのシュートと1つの直線コースが伸びる形で、

最後の直線は500メートル以上の長さがある。

 

平坦そうに見えて20メートルもの高低差があって、

向こう正面の三角形の頂点付近がコースの最低地点になる。

そこからコーナーを挟んで上りに転じ、

最終直線も残り200付近までは上り坂が続く。

 

うへぇ、エプソムほどじゃないけど、ここもタフなコースだよなあ。

はぁ~やだやだ、日本馬が苦戦するわけだよ。

 

「次に、出走各バと枠順ね」

 

1番枠発走は俺。

 

2番枠、ドバイでシリウスと争ったオールドヴィック。

前走、先月の同じアスコットでの2400m戦(G2)を3着からの転戦。

 

3番枠、こちらはコロネーションカップで争ったインザウイングス。

2着からの巻き返しとリベンジを狙っていることだろう。

余談だが、彼女がその後サンクルー大賞(G1)を勝ったことで、

俺への評価が相対的に上がっているとかいないとか。

 

5番枠、ドバイでシリウスと走ったリーガルケース。

イギリスチャンピオンSを制している実力者。

前走はシリウスとプリンスオブウェールズSを走り4着だった。

 

8番枠、昨年の英ダービー2着のテリモン。

こいつもドバイでシリウスと走り、4月のG3を勝利。

前走はエクリプスSで2着に入っている。

 

10番枠、懐かしい顔、ジャパンカップ以来の再会になる凱旋門賞ウマ娘アサティス。

オールドヴィックと同じ前走で、こっちが勝っている。

 

11番枠、去年のキングジョージ2着、ドバイSC5着だったカコイーシーズ。

前走オープン戦を4着から。

 

大外12番枠、クラシック級ながら愛ダービー3着から臨むベルメッツ*6

こいつの名前も聞いたことがあるな。要注意や。

 

以上、出走12人。

有力と見られているメンツはこんな感じだ。

 

強豪が揃うからしょうがないとはいえ、

シーマクラシック組とコロネーションカップ経由が多いなあ。

まあその分、ある程度は把握できるから、よしっちゃあよしか。

 

「嫌な枠に入ってしまったな」

 

「そうね」

 

「え、そう?」

 

出バ表を見て、唸るトニーとムーン。

思わず聞き返す声が出てしまった。

 

「最内の絶好枠でラッキーだって思ってたんだけど」

 

「リアン、日本の感覚でいると、痛い目を見るぞ」

 

「ここはヨーロッパなのよ」

 

「う、うん」

 

そう言うと、鬼気迫る顔で2人から睨まれた。

お、おう、なんだっていうんですか?

 

「7番、10番、11番に気をつけろ。

 あと、8番9番、2番12番にもだ」

 

具体的に番号を挙げてくるトニー。

 

え、えーと?

有力どころで言うと、8番はテリモンだな。

10番は凱旋門賞ウマ娘アサティスだ。

2番、オールドヴィックも入ってるの?

 

その3人はわかるが、他の子はなんだ?

実績で見れば明らかに劣っているんだが?

 

「気が付かない? 7番10番11番の3人と、8番と9番、2番と12番、

 それぞれが同じトレーナーじゃない」

 

「……本当だ」

 

確かにムーンの言うとおり、3人、2人、2人の組み合わせで、

同じトレーナーに師事している。

 

最高峰のレースに複数人を送り込むなんて、

やっぱりすごいトレーナーなんだろうなと思う反面、

2人がそこまで危機感を覚える理由はわからなかった。

 

「わからないか? つまり、自陣の実績上位の娘を勝たせるために、

 格下の娘をわざわざ出してきた、ということだぞ」

 

「……それって、まさか?」

 

「ああ。連携して何か企んでいるかもしれない。

 各陣営が手を組んでいる可能性すらある。

 そういう意味での気をつけろ、ということだ」

 

「………」

 

首を傾げていると、トニーが畳みかけてきた。

衝撃の事実に言葉が出ない。

 

そうか……()()()では、そういうこともありうるのか。

ラビット戦術も普通にやるっていうし、

反則ギリギリのダーティープレイも考えておけってことね。

 

「こっちでもG1を勝ったことで、

 ヨーロッパ勢を()()()()()()()()()()、ということだろうな」

 

「逆に言えば、それだけあなたを恐れているってことよ。

 誇っていいわよリアン。ヨーロッパはあなたを強敵として認めたわ。

 こうなると、絶対に勝たせないように仕向けてくるわよ」

 

「……うれしくないなあ」

 

唸るトニーに、意味深な微笑みを向けてくるムーン。

これだけ嬉しくない認められ方も、そうそうないぞ。

 

「スーちゃん?」

 

「ありえるわ*7

 

スーちゃんの表情を窺うと、一言そう言って頷く彼女。

そのあとは難しい顔で腕組みして、押し黙ってしまった。

 

……覚悟が必要なようだな。

2人に参加してもらって、本当に良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7月28日、バ場状態は日本換算で良。

40回目を数えるキングジョージの発走が迫った。

 

日本馬の過去最高成績は、ハーツクライだったかな?*8

史実ではスーちゃんをはじめ、シリウスも走ってたっけか。

 

ゲート前に各出走ウマ娘たちが集まってきた。

お、アサティス発見。

凱旋門賞を制した実績がありつつも、9番人気と評価は高くない模様。

 

2回目の顔合わせになるし、声をかけておくかな?

 

「ハーイ、アサティスさん。お久しぶり」

 

「っ……ファミーユリアン……!?」

 

近寄って声をかけたら、なんか大層驚かれてしまった。

ビクッと身体を震わせるほどに。

 

そ、そこまで驚かなくてもいいじゃない。

逆にこっちが驚くところだったぞ。

 

「お互い頑張りましょう」

 

「ソ、ソウダネ……それじゃ……!」

 

握手しようと手を差し出そうとしたんだけど、

彼女は俺と目を合わせようともせずに、

足早に離れていってしまった。

 

………。

 

なにこれ?

 

「……!」

 

しばし唖然としてしまったところで、あることに気付いた。

視線が俺に集中している。それも、()()のあるものが、だ。

 

誰からのものかはお察し。

露骨に睨んできているヤツすらいる。

 

そうかそうか、完全アウェーというわけですか。

なるほどねぇ……トニーとムーンの話がなかったら、

気付けてなかったかもな。改めて2人には感謝だ。

 

まあいい。

そっちがそういうつもりなら、こっちもそのつもりで臨むだけよ。

 

どういう手を打ってくるかまではわからんが、

それを打ち破ってこそ、価値ある勝利にもなろう。

 

さあて、鬼が出るか蛇が出るか……

いざ勝負!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『日本の皆さんこんばんは。本日はイギリスはアスコットレース場から、

 キングジョージ&クイーンエリザベスステークスの模様をお伝えいたします』

 

日本向けの衛星生中継。

リアンが出走するレースになれば、もはや恒例となった。

 

『出走します我らがファミーユリアンですが、

 コロネーションカップに続いての1番人気に支持されております。

 現地のファンの心も掴んだということでしょうか、

 解説のゴーダさん?』

 

『そうですね、認められたと言っても過言じゃありません。

 ここでも勝つようなことになれば、

 その評価は揺ぎ無いものになると思います』

 

なんと言ってもキングジョージ。

凱旋門賞と並ぶ、世界の大レースなのだ。

これを勝ちでもすれば、もはや疑われることもない。

 

『最内枠に入りました。

 この点はどう見ますか?』

 

『いつものように逃げるのであれば、

 絶好枠と見て間違いありません。

 スタートは抜群に上手い彼女のことですので、

 ただまっすぐ走るだけでいいですからね』

 

『ファミーユリアンは今日も、世界を相手に大逃げを見せてくれますか。

 期待しましょう。さあゲートインが始まります』

 

実況も解説者も、このときはまだ気付いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『40回目のキングジョージ、スタートしました!

 ファミーユリアン今日も好スタート!』

 

 

 

……よしっ、今日も決まった。

このまま逃げて──ん?

 

 

 

『外からも数人が良いスタートを切りました。

 ファミーユリアンに被せていきます』

 

 

 

スタートしてすぐに、外から数人が猛然とダッシュしてきた。

ハナを奪わせないつもりか? いや、これは……

 

 

 

『6番、9番、10番、11番の4人が出てきました。

 ファミーユリアンと先頭争いを演じます』

 

 

 

試しにさらにペースを上げる素振りを見せると、

1人はもっと加速して俺の前に出る勢い。

ほか3人は、すぐ外側に並んできた。

 

……嫌な予感がするぞ。

 

 

 

『7番が先頭に出ました。ファミーユリアン2番手。

 ほか先行勢は3人。ファミーユリアンと並んでいます』

 

 

 

先頭に出たやつは、確か人気も1番低いやつだ。

何が何でもハナを押さえろと厳命でもされたか。

先頭に出るとすぐに内に入ってきて、目の前に出られてしまった。

 

そして俺の記憶が定かならば、外に被せてきてるやつらも、

例の話に出てきたやつらで、やはり人気にはなっていないはず。

 

このまま勝負所になっても意地でもどかず、

俺を内側に閉じ込めるつもりか!

 

これは伝説の『ヒゲ戦法*9』!!

 

 

 

『ファミーユリアン逃げられませんでした。

 これはどうなる? どうするファミーユリアン?』

 

『まずい展開ですよ……』

 

 

 

嫌な予感は当たってしまったか。

……落ち着け。予想はしていたじゃないか。

対処法を考えろ。

 

何はともあれ、この位置にい続けるのはまずい。

本当に勝負所で身動きが取れなくなってしまう。

 

ならば、どうするか?

 

……いっそのこと、最後方まで下がるか?

 

そうだ、それがいい。

後ろからなら閉じ込められる恐れもないし、

レース全体の展開を見ることもできる。

 

俺に()()()()()して、一緒に最後方まで下がるほどの

度胸と勇気があるか、拝見するとしましょうかね。

 

幸いにして、アスコットは直線が長く、コース幅もある。

1番枠だったことも幸運だった。

このまま真っ直ぐ下がれば後ろまで行ける。

 

よし! そうするか。

さあ包囲網の娘ちゃんたちよ、君たちはどうするんだい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……!! ファミーユリアン下がっていく!?

 左後方を気にしながら後退! どうした、アクシデント発生か!?』

 

『いや……違いますね。自ら下がったようです』

 

『なんとファミーユリアン、ここで後方待機策を採った模様!』

 

左後ろを見やりつつ、突如としてペースを落としたリアンに、

実況は悲鳴に近い声を上げる。

解説者は冷静に見ていたようで、状況を正しく理解していた。

 

『逃げられなかったからスパッと作戦変更。

 思い切りの良さに感心しますね。それに……』

 

さらには、リアンの決断を称賛する。

しかしそのあとは不自然に言葉を切った。

口にするのをためらうというよりは、意図的に言わなかった。

 

現地の情勢に詳しい彼もまた、

嫌な予感を感じ取っていたのかもしれない。

 

『ファミーユリアンはさらに後退して、最後方まで下がりました。

 先頭は依然7番で、ほか4人が2番手集団を形成』

 

『その後ろ2番オールドヴィックがいて、インザウイングス並んでいる。

 さらにはテリモン、ベルメッツなどもこのあたり』

 

『凱旋門賞ウマ娘アサティス中団。

 リーガルケースとカコイーシーズ』

 

『そしてファミーユリアン最後方!』

 

こういった態勢で、レースは最終コーナーへ向かう。

 

リアンを“包囲”しようとしていた娘たちは、最後まで

リアンの突然の作戦変更には対応できず、

そのままの位置取りとペースを維持することしかできなかった。

 

『直線へ出ます。

 6番以下、2番手集団は早くもバ群に吸収されました』

 

最終コーナーを回って直線へ出る前に、

旧包囲網の娘たちは脚が上がってしまって失速する。

 

『ここでオールドヴィック先頭に立った。

 外からアサティス、ベルメッツも上がってくる』

 

『ファミーユリアンはどうした!? ……来たっ、

 ファミーユリアン大外から上がってくる!』

 

『逃げた時の脚もすごいが、追い込んだときはもっとすごいぞ!

 さあ魅せてくれファミーユリアンッ!』

 

アサティスとベルメッツのさらに外。

大外を回して遅れて直線に入ったリアンは、ここで追い出しにかかる。

 

実況の私情の入った嬉しそうな声が、

衛星生中継に乗ってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、彼女たちは()()()()()してくれなかったね。

俺を捉まえられなかったときのことは聞いていなかったか。

 

残念だよ。

 

おそらくは自分の意志ではなく、

トレーナー命令なんだろうけど、残念でならない。

 

次は、普通の勝負をしたいものだね。

まあ何はともあれ……

 

大外に持ち出して、あとはゴールまで遮るものはない。

行こうか!

 

「うおおおおっ!!」

 

上体を倒すのと同時に、心のスイッチを押した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『来た来た、ファミーユリアン来たぞっ!

 先頭オールドヴィックに襲い掛かる!』

 

『抜けたぁっ! 一気に突き抜けたあっ!』

 

1人だけ脚が違っていた。

オールドヴィックなどが内側で競っている中を、

バ場のど真ん中を豪快に突き抜ける。

 

『やはりこの娘の末脚は一味も二味も違った。

 世界の強豪でもなすすべなし!』

 

やはり、リアンを捕えるために無理に逃げた反動が大きかった。

その証拠に、逃げた当人や先行した娘たちは早々に離脱。

作戦を切り替えて最後方に構えたリアンだけが、次元の違う末脚を発揮する。

 

差し切った上に、あっという間に差が開いていく。

 

『ファミーユリアン勝ちました、ゴールインッ!』

 

『5バ身差ベルメッツ2着入線。

 3着は僅差でオールドヴィック入りました』

 

2着争いはベルメッツが制した。

そのあとは僅差で、オールドヴィック、アサティスと続く。

 

『キングジョージも制して、いよいよ欧州制圧だ!

 あとは秋に、長年の悲願を達成するのみ!』

 

『ファミーユリアンならやってくれるでしょうっ!』

 

心底嬉しそうなアナウンサーの声と、

それに応えるような解説者の実感十分な声で、

実況中継は完遂された。

 

 

 

キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスステークス 結果

 

1着  ファミーユリアン   2:28.60

2着  ベルメッツ         6

3着  オールドヴィック     クビ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おめでとうございますっ!」

 

「ありがとうございます」

 

レース確定後、日本のテレビのインタビューを受ける。

今日もファンの人からもらった日の丸を、マントのように羽織っての応対。

 

「今日も素晴らしい末脚でしたねっ!」

 

インタビュアーの人の声も弾んでいる。

顔も紅潮していて、すごくうれしそうなのが丸わかり。

それだけで、こっちまでうれしくなってくるよ。

 

まあ勝ったんだから、当然なんだけどね。

 

「レースを振り返っていただきたいのですが、

 好スタートを決めたものの、途中で最後方まで下がりました」

 

「はい」

 

「あれはどういった意図で?

 レース中の作戦変更は、何かがあったということでしょうか?」

 

「ええと、そうですね……」

 

これは、具体的には言えんわなあ。

下手すると、こっちでの風当たりが今以上に強くなりかねない。

今さらという気がしないでもないけど。

 

「直感が働いた、とでも言いましょうか」

 

「直感ですか」

 

「ええ。あのままあそこにいるとまずい、と。

 逃げられなかったということもありますし、

 ならばいっそのこと、最後方まで下がるかということで」

 

「なるほど、レース勘が働いたということですね」

 

そういうことにしておいてください。

すぐに判断できて、囲まれなくて本当に良かったよ。

 

「相変わらずの素晴らしい眼力をお持ちで」

 

「周囲の方々のご協力と、

 良いアドバイスがあったからこそですよ」

 

これはマジ言葉の通り。

トニーとムーンには、あとでお礼をしなきゃいけないね。

何か考えておかないとなあ。

 

「しかし、一気に最後方まで下がるというのは、

 やはり相当な決断で、絶対の自信がないとできないと思いますが」

 

「まあ、どういう決断をしようとも、

 最後まで自分の足を信じて走りきるだけですので」

 

こういうとき、追い込みでも実績があるというのはいいよね。

逃げ一辺倒ではできなかったことだ。

 

そういう意味でも、あのとき決断を促してくれたスーちゃんには、

重ねて感謝しなければいけないね。

 

「次からは、いよいよ最大目標の地、

 フランスへと乗り込まれますね」

 

「はい」

 

「引き続き応援しています」

 

「自分でも楽しみです」

 

「ファミーユリアンさんでした。ありがとうございました!」

 

「はい、ありがとうございました」

 

今の問答のように、次走からはフランスになる。

最大目標に向けてまっしぐら、と行きたいね。

 

 

*1
一応、バーデン大賞4着、ロワイヤルオーク賞3着などはある

*2
キングジョージに2回挑み、5着、3着

*3
ムーンも2回挑んで、4着と10着

*4
カンバーランドロッジS、アスコット芝2400mのG3

*5

*6
史実勝ち馬

*7
日本では興行的な面が大きいが、あちらさんでは、元が貴族の趣味から始まっているため一種のステータス的なところが大きく、面子や沽券を重んじるイメージ

*8
2006年、3着

*9
「みどりのマキバオー」の作中で、マキバオーに勝たれたくないライバル馬主が、多頭出ししてマキバオーを内側に閉じ込める作戦を採った





欧州勢の結託をもろともせずに完勝
最後の決め手があると本当に有利ですね
重い芝も苦にしないようです



おまけ
キングジョージをテレビ観戦中のシリウスさん

「(ガタッ)まさか、連中、囲んでリアンを潰す気か!」

「やめろッ! あいつはバ群がっ……!」

「……下がったか。良い判断だ(ホッ)」

「(直線入口)こうなったらもう、あいつの楽勝だな」

「よーし、よくやった! ……ハラハラさせやがって(どっかと座り込む)」

「ふ~っ……(安堵の表情で天を仰ぐ)」

仮にリアンが海外遠征する場合、初戦は何が良いですか?

  • ドバイワールドカップ
  • ドバイシーマクラシック
  • ガネー賞(仏)
  • クイーンエリザベス2世カップ(香港)
  • アメリカ遠征
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