歩兵にできることはまだあるかい   作:鶴岡

1 / 22
開戦日を原作から見つけられなかったので、1巻と2巻の記述により星歴2139年9月15日と仮定しています。


諦観の開戦

 星歴2139年9月22日

 サンマグノリア共和国

 首都リベルテ・エト・エガリテ

 共和国工廠(RMI)本部厚生棟地下2階バー

 

「いやあ、まいったね」

 

 煙草の煙と共に溢れた彼のぼやきが、この国の窮状を端的に示してしまった。

 

 共和国工廠で戦車の開発に関わっている彼が、前線視察から帰ってきた彼がそう感じたのであれば、そうなのだろう。

 

「それほどまでに、帝国の無人陸上機(UGV)は貴方の戦車じゃ太刀打ち出来ないの?」

 

「なあエニセラ、いつもの事だが俺の担当は戦車じゃない、歩兵戦闘車だ。装輪6x6で40mm機関砲1門と対戦車ミサイル2門の」

 

 彼と私の何時もの問答は、戦車と戦車モドキの違いが全く分からない私がいつものように放置する事で終わる。というか、実際のところ彼は戦車の開発にも深く関わっているし。

 

「あー、我が軍の装甲戦闘車両(AFV)全般と比較して、まずもって向こうが無人兵器という時点で差が大きい。例え走攻守がこちらと同じでも、乗員区画が無い分だけ遥かに小型化されて投影面積が小さいから射撃管制システム(FCS)の要求水準に差が出る。更に向こうは全て装脚式だ。あれは要求する技術水準が馬鹿みたいに高い代わりに、いかなる地形だろうと正面装甲を敵に向けたままあらゆる方向へ機動できるメリットがある。それに加えてさっき言った小型化も正面投影面積の極限に振っている機体が多かった。アレはどんな時であろうと、小さく頑丈な正面装甲のみを見せてくるんだ」

 

「つまり、()て辛く、抜き辛いと?」

 

「そうだ。それだけなら良かったんだ。それだけなら既存のAFVでも戦術でどうにかなった。問題は1つ、とにかく数が多い事だ。数が多過ぎてそもそも採れる戦術が極限されるし、それをどうにか撃退した所で所詮は無人機、帝国軍の実質的な損失はゼロ。共和国軍は大量の死傷者を積み上げているのにだ」

 

 同席している、ミシェルと共に前線から戻って来たカールシュタール中佐が頭を抱えて呻く。

 

「つまり、こちらも同等の性能を持つ無人機が無いと、戦線が拮抗しようと一方的にすり潰されていく」

 

 そして彼は煙草を深く吸い、また吐き出す。

 共和国の国是に因んだ兵隊煙草「5色」は彼のではない。

 

「リュッテ副局長が、言ったんだ」

 

 共和国軍学産連合緊急視察チーム。

 開戦から間もなくほぼ全ての戦線が未知の装脚兵器に食い破られた事を受け、唯一撃退に成功した西部戦線で獲得した帝国軍の装脚兵器の残骸を検分する為に向かった、共和国の俊英達。

 

 視察初日、残骸の後送先となっていたと大隊本部基地の格納庫に到着したチームを手厚い歓迎が待ち受けていた。

 

 早速残骸を検分した所、持ち込んだ電波測定器が謎のシグナルを検知したのだ。

 

 そのシグナルは残骸から発信されていた。

 

 退避、退避、残骸のすぐ近くでその電波測定器を持っていた彼は顔を青醒めさせて叫んだ。彼こそがRMIで索敵システムの開発を担っていた。

 

 瞬間、格納庫の天井をナニカが突き破って、残骸に命中。そして爆発した。

 

 150mmクラスの榴弾が、その弾殻の破片と、装脚兵器の残骸を砕いた破片とを格納庫中に撒き散らした。

 

 視察チーム24名の内、その場に居た15名が即死した。 

 

 リベルテ・エト・エガリテ首都工科大学で多脚車両を開発していた教授、コントワール製鋼で複合装甲を開発していた技術主査、サシロール精密機械で火砲を開発していた開発部長、ベルフォール技研で装甲車両用エンジンを開発していた第2エンジン開発部次長を始めとする、共和国国防の未来を背負っていた彼らが、一瞬で死んだ。

 

 偶々、彼は残骸視察から省かれていた為に、別の格納庫で帝国軍の装脚兵器に撃破された共和国軍の歩兵戦闘車を、自らの成果物の成れの果てと対面していたから難を逃れた。

 

「俺たちがいれば勝てるって、副局長が言った」

 

 続けざまに降って来た榴弾の雨。

 大隊司令部建屋への直撃弾により、視察チームに同行していた共和国軍将校ら4名が死んだ。

 

「お前達がいれば勝てるって」

 

 そして現れた帝国軍装脚兵器の大群。

 大隊本部の残余と共に残存車両による退避行が始まった。

 最後のトラック1台の荷台を巡る諍いを発端に有色種の3名が白系種の共和国軍兵士に殺された。

 彼は戦車や装甲車の操縦や修理が出来る数少ない生存者だったから生かされた。

 

「お前達が生きていれば勝てるって」

 

 後方への退避行の最中、共和国工廠銃器開発部の副部長が錯乱した。

 護衛の兵からアサルトライフルを奪い、周囲へ乱射。そして自殺した。

 

「お前が生き残れ、なんて。っは、共和国兵器廠の予算を着服して肥え太った豚から、そんな言葉が聞けるなんてな」

 

 リュッテ副局長が右脚に1発、左脚に1発、左腕に1発。

 

 彼の左脚に2発と左腕に1発。

 

 共和国工廠最新型のボディアーマーは至近距離から放たれたライフル弾から2人の胴体を守り抜いた。

 しかし、残りの止血帯は2本しか無かった。

 

「てっきり他の負傷兵、それこそ有色種(アルバ)に使われてた止血帯でも奪うと思ってたのに」

 

 共和国の俊英たる緊急視察チームで彼だけが生き残った。

 

 5色はリュッテ共和国工廠統括局副局長お気に入りの煙草だった。

 

「俺はもう共和国で戦えない。負けだよ」

 

 彼の緋色の髪から透けて見える金色の瞳は諦観に濡れていた。

 

 共和国の有色種に対する悪感情は留まる事を知らない。

 

 それは共和国工廠始まって以来の功績を上げながらも、緋鋼種と金晶種の混血、いや有色種というだけで傍流に追いやられた彼の居場所すら危ぶまれる程に。

 

 白銀種のリュッテ副局長が守ろうとした彼の類稀な能力、それを活かせる場所は85区内から消えつつあった。




本作で一番カッコいいのは白豚リュッテ副局長(故人)、を目指しています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。