星歴2139年9月23日
サンマグノリア共和国
首都リベルテ・エト・エガリテ
第3区
アルバス銃砲店
―――なんて事。
ベレッタ86を求めて4件目のガンショップに入った所で、目当ての護身用拳銃が陳列されているであろうガラスショーケースの前で筋肉ダルマが身を屈めて呻っているのを見つけてしまった。
見つけてしまったのだ。
共和国軍作戦部のアンリ・クリーブ少将、昨日の講習会にアポ無し参加してきた偉丈夫を見つけてしまったのだ。
私の所属が共和国軍ではなく共和国工廠とはいえ軍属として技術中尉である以上、天上人である少将閣下と居合わせて話し掛けずスルーというのは、例えその時に当人同士が気付いていなかったとしても何時か私の評価に響く。
ああ、憂鬱だ。
最初に行った馴染みの銃砲店で売れ残っている適当な拳銃で済ます予定だったのに。
どうして安価なんてしてしまったのだろう。
「おはようございます少将閣下、奇遇ですね」
あなたも勤務時間だろうに何をしているのかと若干の棘を含ませておく。
「んん?……ああ、リュシェール君か。昨日はお邪魔してすまなかったね。それで、ちょっと悩んでいてね」
そう言う巨漢の視線の先に並ぶ拳銃はどれも護身用の、かなり小型なコンパクトキャリーから中型サイズが並んでいて―――。これでは少将閣下の30mm機関砲弾のような
となると。
「贈り物ですか?部下か、あるいは奥方へ?」
「うむ、あー、そう。部下へだ。ジブリールへの」
妙に歯切れの悪い返答が気になったが、ジブリール・アルラン少尉へのか。
そういえば昨日もファーストネーム呼びだったなと気になって、そして気付く。アルラン少尉は共和国軍の少尉だから我々軍属と違ってP226が支給されるはずでは?
共和国において軍属が持つ拳銃の威力に制約があるのは、誤射などの事故でその弾丸が味方に命中しても致命傷となるリスクを低減するためで、昨日の独特でいて慣れた射撃姿勢の癖がある程度には射撃を習熟しているアルラン少尉にその心配は考えられず、そもそも共和国軍将校で
それなのに、少将閣下の視線の先に並ぶのは.380ACPの、あるいは更に低い威力の.32ACPなどを使用する小型拳銃や中型拳銃の数々。
余程、P226では何かの不都合がある?
あれこれと考えが浮かんで言葉に纏められなかった私が少将を見上げるに終始していると、少将の方から説明してくれた。
「手が小さいんだ。ジブリールは」
「ああ、なるほど。P226は私も手に余りがちであんまり合わないですからね」
ふと気になって視線を下げ、自分の手を見る。
白銀種の白く澄んだような肌色の、
「……
私がなんでそんな事を言ったのか私自身で理解が出来ず、それでいて直感は間違っていないと告げている。
そんな違和感を抱えたまま視線を少将へと戻せば頭を抱えている始末。
あー、これが正解なのか。
「とりあえず、何も聴かなかった。という事で良いでしょうか?」
「そうだな。それが……、あーいや。それとは別として、選ぶのを手伝ってくれないか?」
「わかりました。ええ、もちろん」
私は逃げたいのだが?
「ですがその前に、私の用事を先に済ませても?」
何しろ少将のはかなり時間が掛かりそうだし。
「ああ、構わないよ」
「ありがとうございます。―――すみません店員さん、こちらのベレッタ86をお願いします」
「はい只今、少々お待ちください」
唯でさえ希少なモデル、それに加えてレギオンに完全包囲された共和国において外国製のベレッタ86だ。ようやくその目の前まで辿り着いたというのに、少将と話し込んでいる間に売れてしまうなんてマヌケにも程がある。
「ベレッタ86とはまた、珍しいな。隣の85でも無く?」
「ええ、コバ准尉に渡す為だったのですが、知人からコレが良いと勧められて。あの、カールシュタール中佐の部隊に預ける私の部下です」
「それは、なんというか……、少し縁起が悪いな」
おや?掲示板でそんな話題は出なかったが?
「その拳銃、86は
「あー、なるほど。確かに、戦地に向かう部下に渡す銃としては……。まあ、でも勧めた知人も何か思って勧めたのでしょう。今回の戦争、腕を失ってでも生き残れば幸運でしょうし」
何しろ10年後には国が滅びるらしいのだ。
それで生き残れるなら腕の1本など対価としては破格だろう。
「中尉。君はなんというか、達観しているな」
「ええ、まあ、少将に向かって言う事ではないでしょうが、そういう事です」
原作では滅びるのが確定している国なのだ。今更になってから私がどうこうした所で大勢に然したる影響を及ぼせるはずも無し。
「なるほど、これがリュッテの置き土産という人物か」
何故かそれで納得した少将。何故にして故リュッテ統括局副局長の名前が出て来たのかは分からないけど。
「何かあったら
あの白豚、試作のレポートは見ていたのか。
「つまり、昨日の梱包爆薬の話は口実だったと?ですがそれは、そもそも開戦前のRMIはオフィスの席
「いや、梱包爆薬は
嫌な予感がした。
『ジャガーノートってのは共和国工廠が開発した―――エイティシックスを載せている無人機』
それならば、ジャガーノートが完成する前は、どうやって?
「やはり、君は察しが良いな。奴ら曰く、
「112eRIが、捨て駒?」
「それが私の、そして作戦部の総意という訳ではないぞ。だが、
捨て駒かあ。
まあ、カールシュタール中佐は10年後まで生き残ってるから大丈夫か?
しかし上?共和国軍作戦部の上となると、下手に触れない方が良いのかも―――と、上の方を見上げて、壁に吊るされている1丁の銃が視界に入った。
そうかこの店、警察にも卸しているのか。
「そうだ、アレなんてどうです?B&TのGL06。ちょうど共和国向けの37mm仕様なので重自動小銃の弾も撃てますよ」
「……君はジブリールに何をさせようと?そもそもアレは拳銃では無く信号銃やガス銃というものだろう」
「それはもう、レギオン討伐を。それに軍の規定では護身用火器の携行を求めているのみで、拳銃である事を要求されているのは我々軍属だけですよ」
「なんだと。いやしかし、護身用としてマトモな拳銃をだな」
良いアイデアだと思ったのに。
となると、目の前のガラスショーケースに並んでいる拳銃を見渡して、ちょうど安価から外れた1つが目に留まる。
まあベレッタ86より縁起も良さそうだし、良いのではないだろうかと、指し示す。
「では、これなんてどうでしょう?SIG P365、貴女の事を365日いつも想っていますと彼女に託してはいかがでしょうか?」
「それは……、それは、良いな。ジブリールを、365日いつも―――」
おい惚気るな妻帯者。
「オホン。ちなみに規定では護身用火器の数についても規定はありませんよ?」
「……正気か?」
「もちろん。なんならGL06は私からという事で、私が支払いしますよ。ちょっと改造したい所もありますし」
流石に銃身の強度が少しばかり不足しているし、照準器も弾道に合わせておきたい。
なんなら擲弾課の予算で1ダース纏めて買って改修しても良いな。
しかし、
自走平射迫撃砲もある程度仕上がった所で早めに試作量産型として中佐達に送った方が良さそうね。
さて、エイティシックスを戦わせる理由として原作には、5年間の兵役期間満了か戦死かで市民権を与えるとありましたが、開戦から有色種排斥前までの2週間の間に戦死した有色種の遺族はどうなるんでしょうね?
共和国「すり潰せ」