歩兵にできることはまだあるかい   作:鶴岡

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誤字報告ありがとうございます。助かりました。

あと、昨日4/4とか偶に次話投稿した訳でも無くアクセス数が跳ね上がる時があるんですけど、一体何が起きてるんです?

なろうではこんな事が無かったので少し戸惑ってる作者です。


大統領令第6609号

 星歴2139年9月28日

 サンマグノリア共和国

 マルート県シャリテ

 シャリテ=ロバンソン空軍基地

 

 共和国における対帝国国境防衛の要であるシャリテ=ロバンソン空軍基地は、しかし本来の家主であった共和国空軍の第7航空団と第91航空団が保有する戦闘爆撃機が開戦からの1週間で壊滅して以来、防衛線で戦う第3歩兵師団で損傷して後送されてきた車両が格納庫を占有している。

 

 機体とパイロットを失い、本来の仕事を失った彼ら空軍の整備士達は第3歩兵師団の戦車や装甲車の修理や重整備などの後方支援を新たな仕事としているのだ。

 

 そんな折、この基地で新たな部隊が編成式を執り行う運びとなった。

 

 第112歩兵連隊。

 

 壊滅に等しい水準にまで損耗した第3歩兵師団の隷下部隊への補充人員とは別に、師団を増強させる追加の歩兵連隊。

 

 曰く、西部戦線でレギオンの撃退と組織的後退を成功させた指揮官。

 

 曰く、共和国工廠きっての才媛が開発した試作兵器の数々が配備された実験部隊。

 

 曰く、共和国政府でふんぞり返る政治屋共の思い付きによるスケープゴート。

 

「おいおい、あんなに()()()()部隊は久々に見たぞ。白は……3割、いや多くて3割か?」

 

「有色種の奴らをよく見てみろよ。半分は女子供だぞ」

 

「装甲車両もIFVは新型が1両と旧型が2両だけ。APCは1両しかなくて、あの6両あるのは……LAVを改造した自走砲か?」

 

「そんで残り全部は徴発した民間車両。あんな有象無象の整備は嫌だぞ」

 

「第3歩兵師団の他の部隊には少ないながらもマトモな車両が補充されたんだろ?」

 

「挙句、今日しばらくの寝座は基地宿舎じゃなくて空いてる格納庫らしいじゃないか」

 

「ああまで分かり易い捨て駒も中々無いよな」

 

「お、連隊長訓示が始まるようだぞ」

 

 

 

 壇上から見渡せば、困惑、戸惑い、不安、あらゆる負の感情が第112歩兵連隊の将兵の顔に浮かんでいるのが見えた。

 

「傾注!」

 

 しかしヴァーツラフの掛け声と共に、一応の静粛が訪れた。

 7割の正規軍人である訓練された彼らが口を閉じれば、残りの3割も同調して口を閉ざしてくれる。

 

 とはいえ、困惑しているのはこの場にいる全員の総意でもある。―――が、だからといって責務が変わる訳でも無し。

 

「7割の共和国軍将兵諸君!動じる事は無い。何故なら、やる事は変わらないからだ。敵を見て、撃つ。ただそれだけだ。唯一今までと違うのは、我々の手に屑鉄を穿つ術があるという事だ!」

 

 右手でそれを掲げれば、見慣れぬ新兵器に兵達が期待にどよめく。

 

 XM6重自動小銃〈フェルギネア〉。

 

 鉄を蝕むバクテリアの名を冠する、37mm弾を吐き出す自動小銃。

 1週間に満たない僅かな期間で連隊の歩兵1200名分を揃えてくれたリュシェール中尉には感謝しか無い。

 

「そして残り3割の()()()()()()()の諸君!」

 

 共和国軍補助員。

 共和国が戦前の内から国家総力戦に備えて制定していた制度の1つで、共和国工廠職員や従軍司祭などのような軍属待遇ではなく、正規の共和国軍人として、戦闘以外を職務とする支援要員である。

 基本的には志願制ではあるが、軍人の家族にはその全員が()()する事を推奨されており、戦前の実態としては軍人の家族に軍の業務に関して理解してもらう場を設け、家庭内での不和を抑えるための制度として機能していた。あるいは戦時には良心的兵役拒否者の受け皿として機能するはずだった。

 

 そう、戦前までは確かに―――。

 

「諸君らの為すべき事も変わらない!事務作業から物品管理、衛生救護、洗濯、調理―――もはや言い切れない程に数多の、戦闘以外の全てだ!」

 

 そしていつまで、そうであれるのか?

 最年少で14歳の少女から、最高齢で63歳の老夫婦まで。彼らを戦闘に従事させずに済むのだろうか?

 

「我々は明日から数日ほどの訓練を行った後、ここシャリテより北東へ25kmにあるバールを拠点とし、さらに北東へ最短で30kmにあるD964道路及びマッズ川を防衛線として展開している第3歩兵師団への支援を行う」

 

 幸いにして、この防衛線より向こうは第3歩兵師団が膨大な犠牲を代償としてマッズ川とその支流に掛かる橋の数々を爆破し、ダムを破壊して地域一帯を水浸しとした事で、戦車型の機動を制限させる事に成功。防衛戦で有利を得ているらしい。

 

 向こう半世紀レベルで耕作と放牧が不可能となった事により現地住民からは非難轟々だったようだが。

 

「いいか諸君!我々は期待されているのだ!与えられた数々の新兵器を我々が十全に活用し、勝利が我々の手の届く所にあると証明する事を!共和国に栄光あれ!」

 

「「「共和国に栄光あれ!!!」」」

 

 

 

 星歴2139年9月30日

 サンマグノリア共和国

 マルート県シャリテ

 シャリテ=ロバンソン空軍基地

 

「失礼します。コバ技術准尉であります」

 

「ああ、コバ准尉か。お疲れさん。どうだい新兵器は?」

 

 2日間の訓練で得られたXM6重自動小銃〈フェルギネア〉とXM1グレネードランチャー〈アスホール・ペネトレーター2〉、そして急造の自走平射迫撃砲のデータを取り纏めるため、野戦指揮通信車両へと改造された元・シャリテ運輸の大型トラックの管制室、その隅の方を間借りしようと入室すると、本来の住人である中佐達とアルラン少尉がいた。

 

「とりあえず大きなトラブルは無く、慣らしを出来ています。新編の部隊の割に新兵が少なく兵役経験者が多くて助かってますよ」

 

「それは良かった」

 

 その返事とは裏腹に、中佐達の顔色は渋いようだが。

 

「しかし、この連隊の有色種の多さ。いつ不和に発展するか気が気でないぞ」

 

「今でこそ補助員という別の異物もあって落ち着いているが、これでどうなる事やら」

 

 ああ、連隊の人種事情か。

 訓練を見て回った限り、人種比率の割に不思議と問題は無さそうだったが。

 

 カールシュタール中佐とミリーゼ中佐が頭を悩ませていると、何を思ったのか補助員として無線機を操作する為に同乗していた金髪碧眼の、連隊で最年少である青玉種の少女が反応した。

 

「なあオッサン達、その心配はたぶん大丈夫だと思うよ」

 

 通信席の椅子の背もたれをギイと鳴らしながら背を倒し、仰向けに顔だけ此方に向け、両腕に至ってはだらしなく重力任せにぶら下げたままの余りにも礼を失した態度で。

 

白系種(アルバ)の兵隊さんみんな。ん~といや、みんなというか6割くらい、お嫁さんが有色種(コロラータ)だって。残りの白系種も何かしらで有色種と縁がある人達ばっかりだったよ」

 

 連隊編成から僅か3日目で、この少女が既にそこまで言える交友関係を築いている事にも驚きだが、話の内容はもっと不自然で、ありえなかった。

 

 有色種の人口比率が2割でしかない共和国で、白系種兵士の6割が有色種と婚姻している?

 

 ありえる筈が無い。

 

「それにオッサン達も、そこの極東黒種(オリエンタ)のお兄さんと同じ車に乗ってて、顔を顰める所か挨拶までしてたし。たぶんこの部隊、上から下までみんな()()だよ」

 

 嫌な予感がして、不意に腰のホルスターに腕を当ててその感触を確認してしまう。

 

 リュシェール中尉から受け取った、余りにも縁起の悪いベレッタ86。

 

 ()()?一体何が?

 

「それに私たち補助員も、私はお父さんが先週戦死してて、だからお母さんと弟を家に残してこの部隊に参加してる。他の補助員も同じ、誰かしら家族をこの戦争で失ってる。だから、仇を討ってくれるオッサンたち兵隊さんには全力で協力するよ」

 

 先週に家族が戦死したばかりの補助員を戦地に動員?

 

 何かがおかしい。

 

 ふとアルラン少尉へと、作戦部のクリーブ少将お気に入りの青年士官へと視線を向ける。何か知っているのかと。

 

 だが、いつも無表情なようで内心の分かり易い少尉の顔からは何も読み取れず。

 

 つまり、動揺してないって事は知っているって事だ。

 

 知らないのは、アルラン少尉以外の僕や中佐達を含めた全員。

 

 そんな時だった。

 

 中佐達の持つ情報端末が何かを受信した通知を鳴らす。

 

「なんだ?共和国軍作戦部に加えて内務省治安総局からの連名で通達?」

 

「……大統領令第6609号?……戦時特別治安維持法?待て、何だコレは?」

 

 中佐達が、僕を見る。補助員の青玉種の少女を見る。

 

 いや、見ているは僕と彼女の瞳、髪、そして肌の色……。

 

『有色種である事を理由に共和国工廠を放逐されてから一兵卒として徴兵され最前線』

 

 ふと、僕は先週にリュシェール中尉から言われた言葉を思い出した。

 

「中佐、まさか?」

 

「え、何?何があったの?」

 

 だけど、彼女は何も知らなくて。

 

「落ち着いて、落ち着いて、聞いてほしい」

 

 きっとこの時、この車内で最も落ち着いていなかったのは、そう言ったミリーゼ中佐と―――。

 

「これが落ち着いていられるか!!!」

 

 カールシュタール中佐だったのだろう。

 

有色種(コロラータ)を敵性市民と認定して市民権を剥奪だぞ!ギアーデ帝国の内通者だという名目で!例外無く!全ての有色種を!」

 

 ああ、なるほど。

 

 有色種を配偶者としていたり、懇意にしていて、こういった事態に際して有色種の味方(共和国政府の敵)になり得る白系種将兵の隔離も目的だった訳だ。この連隊は。

 

 そして補助員は?

 

『それに私たち補助員も、私はお父さんが先週戦死してて』

 

 なるほど、共和国軍外人部隊の規定の援用か。

 

 規定の兵役期間を満了する事で本人の、あるいは戦死した場合には遺族の市民権を回復させるという名目で有色種を徴兵し、実際そんなつもりは全くなくて、だから都合の悪い既に生じてしまった遺族を、前もって共和国軍補助員という制度に志願という形で兵役に就かせる。

 

「なるほど。なるほど、確かにこの連隊、上から下までみんな()()ですね」

 

 いや、あるいは。

 

「どういう事だ、コバ准尉。これでどうして、そんな冷静にしていられるんだ?」

 

「カールシュタール中佐、落ち着いて下さい。私たちは、この連隊は捨て駒であり、中佐達白系種にとっての踏み絵なんですよ」

 

「なんだと?詳しく説明してくれ」

 

「この連隊は、私達有色種と中佐達有色種に親しい白系種を処分する為の捨て駒であり、中佐達にとっては私達有色種を踏み躙る事でもって出世コースに戻る事が出来る踏み絵なんですよ」

 

「……何という事だ」

 

 これまで少なからず人種差別に直面し、人種を差別する事に興味の無いリュシェール中尉から事前に警告され、その対策としてこの連隊にいる僕と違い、あるいは作戦部という共和国軍の頭脳に関わっていたアルラン少尉と違い、どの程度までかは分からないにせよ共和国の理想を信じていたらしい中佐達には酷だろう。

 

「あのー、すみません。ソレって私が聞いてても大丈夫な話でした?」

 

 そういえば、居たなと共和国軍補助員の少女の存在を思い出す。

 

「あー、いや、問題ない。そもそも通信に関わる任務の都合、君はこれからも軍の機密と密接に関わる事となる。他へ漏らさなければ何の問題も無いよ」

 

「あぁ、良かったー」

 

 市民権を失った事よりも、今処罰されない事に心底安心したような少女の反応が少々おかしくて、車内の雰囲気が多少は柔らかくなる。

 

「それよりも、自己紹介がまだだったね。私はこの112eRIの連隊長であるジェローム・カールシュタール中佐だ。こっちは副連隊長のヴァーツラフ・ミリーゼ中佐。何かあれば私達2人に相談すれば大抵どうにかなる。それでこっちがジブリール・アルラン少尉とタック・コバ准尉だ」

 

「はい!クトニア・イルマ二等兵です!よろしくお願いします!」

 

 にしても、全ての有色種の市民権剥奪までして、共和国は何をするつもりなのだろうか?




共和国「欲しいのは、捨て駒と戦費」
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