星歴2139年10月5日
サンマグノリア共和国
東部戦線
第3歩兵師団管区
ロレーヌ自然公園外縁部防衛線
シャリテでアルラン少尉が何かやらかしたらしい。
例の大統領令第6609号やら、戦時特別治安維持法とか何とかで、共和国副都として大都市でもあるシャリテに有色種率の高い112eRIが駐留するのは危険だという事で、施行に際し急遽訓練スケジュールを切り上げて第3歩兵師団が布陣しているロレーヌ自然公園外縁部防衛線へと向かったのだが―――。
訓練期間中にシャリテ=ロバンソン空軍基地で受領する予定だった諸々の追加物資を受領する為、連隊副長としてミリーゼ中佐、随員としてアルラン少尉と連隊から白系種を何人か残していった所、そこでアルラン少尉が何かやらかしたらしい。
らしい―――というのは、当のアルラン少尉がここ数日姿を見せず、ミリーゼ中佐や他の白系種兵士達さえもがその件に対して口を噤んでしまい、僕が何も聞き出せなかったからなのだが。
しかしついで付け加えると、追加物資の一つであるリュシェール技術中尉によって改造されたB&TのGL06、それに付属していたはずの37mm榴散弾が1発減っていた。
そして今日、当のアルラン少尉から『
確かに連隊の各員には各種の試作兵器の運用に際して、RMIから出向している僕に対してレポートの提出を依頼していたが……。
曰く―――、
シャリテ市街にて共和国軍兵士2名が自動小銃を用いて
両者の救命は不可能と判断し、介錯のため拳銃にて情けの一撃を施した。
そんな事、これは明確におかしいのだ。
断言できるがゴム弾と榴散弾を取り違えるのは、
そもそも追加物資に含まれている37mm弾は榴散弾の他には
加えて共和国と共和国軍の医療インフラは、特に共和国副都として大病院を数多擁するシャリテにおいては、両脚を失くしたところで救命自体はそこまで難しくない。
なにしろ戦前には各国から、トリアージタグ・ブラックが最も稀な軍隊と評されていた共和国軍である。
さらにはよく整備された国民健康保険制度により、例え二等兵が負傷退役したとしても、それで得られる僅かな傷痍軍人恩給とでさえも再生医療により失った脚を取り戻す事さえ可能である。
負傷してもなんとかなる。
その保証があるからこそ、共和国軍とその将兵は精強だったのだ。
国境線の全周を戦線とした為に戦況が逼迫している今日に至っては、撤退戦の多さから負傷兵の収容が困難であったり、撤退に伴う装備の遺棄による救命キットの欠乏といった混乱によってその屋台骨が揺らいでこそいるが、こんな戦況でさえ共和国軍がまだ戦えているのはその屋台骨があるからこそなのだ。
まあ多少脱線したが、つまるところ明確に、アルラン少尉のそれは故意の殺人である。
複数の人間を殺傷するのに最適な弾種を選択し、そしてまだ五体満足へと復帰する事さえ難しくなかったはずの負傷者に対し、情けの一撃。
アルラン少尉の射撃の腕を考えれば、必要以上の苦痛を与える為にわざわざ脚を撃った可能性さえある。
ああ、止めだ止め。
起きてしまった事を今更になって考えた所で何も変わらない。
それよりも、今日にも来襲してくるかもしれないレギオンへの対抗手段を考えた方がマシだ。
そう切り替えるべく連隊司令部が置かれているトロワイヨンの教会を出て、村落の外縁で補助員が構築している最中の陣地の方へと足を運べば、その当人がいた。
「もっと深く!退避壕はもっと深く掘って下さい!」
「もっとふかくー」
???
どうやら補助員によって行われている陣地構築の指揮監督をしているらしいのだが。
「お疲れ様です、アルラン少尉」
「ああ、コバ技術准尉、先ほど送ったレポートは役立ちそうですか?」
互いに敬礼を交わしての次に出て来た、逃げて来た話題そのものに自分の頬が引き攣った。
「あー、まあ、とりあえずは。それにしても、陣地構築を補助員にやらせてるんですか?」
「それはまあ多いですからね、補助員が。兵隊なら訓練で手隙時間を潰させる事が出来ますが、補助員には炊事洗濯の他は今のところ穴掘りくらいしかやらせる仕事が無いので。仕事量に対して人数が多過ぎるんですよ」
「くれなもあなほるー」
「それはなんというか。……ところで、その子は?」
アルラン少尉の足元を見れば、先程からずっとアルラン少尉の右裾にしがみつきながら、もう片方の手で園芸用の小さなスコップを振り回している、赤系種の髪色と金系種の瞳を持つ、恐らく就学前の幼女。
「くれなはくれなだよ!ごさい!」
かわいい。
いや、おかしいな。112eRIで最年少は連隊司令部で通信助手を務める14歳のクトニア・イルマ二等兵だったはずなのだが。
「ええと、先ほど送ったレポートでの1件でですね……」
なぜか、説明の途中でアルラン少尉が言い淀む。
レポートにあった惨劇とこの幼女に関係がある?
「ちょっと待って下さい―――、これを、決して読み上げないように」
そう言って差し出されたのは件のレポートが表示された情報端末で、しかし1ヵ所だけ書き換えられていた。
『シャリテ市街にて共和国軍兵士2名が自動小銃を用いて
「なにしでかしてるんですか?」
アルラン少尉も、シャリテの共和国軍も、一体どうかしている。
「しょうがないでしょう。この子と、12歳の姉とでこのまま2人を強制収容所に放り込んで、ロクな事にならないのは明白。それに、その……クレナちゃんが手を離してくれないので……」
「じぶりーるおにいちゃん、つぎどこほるのー?」
クレナちゃん、かーわいい。
いや、うん。
確かに踏み絵とは言ったが、白い方を踏むとは思わなかった。
グロい話を書こうとしたら、クレナちゃんがかわいいので止めました。
後々、ミリーゼ中佐視点での語りを入れる予定。
あとジブリール・アルラン少尉は112eRIの中で、判断が早い&躊躇が無いという点で一番ヤベー奴です。
そしてクレナちゃん、原作通り両親を殺した白豚は嫌いになったけど、その白豚を目の前で惨殺した
白豚を一番惨いやり方で殺してくれる人という認識での、幼児性を一番ヤベー方向で発露した懐き方ですが。
こればかりはアルラン少尉も想定外。
12歳の姉の方も生きてます。なんとか掃除洗濯といった仕事の手伝いをしつつ、
両親を亡くしたショックに暮れるより、目先の問題に頭を悩ませられるだけ、メンタル的にはマシか?
なお112eRIの将校を除いた兵士からのアルラン少尉の評価は爆上がりした模様。主に裾にしがみついたクレナちゃんのお陰で。