歩兵にできることはまだあるかい   作:鶴岡

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ようやく戦闘話が始まります。

ゴルシウィークでウマ娘をしていたら、本作の登場人物を走らせたくなりました。
なお出来上がったのはタイムリミットまでにゴール板へ辿り着かないとミンチになるデスレースの模様。

ほら走れ走れ、三途の川の先まで逝ってしまうぞ。


愉快なかけっこ

 星歴2139年10月7日

 サンマグノリア共和国

 東部戦線

 第3歩兵師団管区

 ロレーヌ自然公園外縁部防衛線

 トロワイヨン東部防御陣地

 

 その日も112eRIは、補助員達による陣地構築と兵士達による訓練を予定していた。

 

 といっても陣地構築の殆どは112eRIと入れ替わりに後退した第3歩兵師団の第62歩兵連隊(62eRI)が残していった陣地の修理拡張が殆ど終わり、今日からはよりトロワイヨンに近い位置で新しく予備陣地の構築を。

 

 兵士達には、出来上がった陣地を使ってのより実戦的な実弾射撃訓練を第1歩兵中隊に実施させる予定で、それを指揮するのはミリーゼ中佐とアルラン少尉、そして火器運用の補佐として僕ことコバ技術准尉。

 そして今日も今日とてアルラン少尉の右裾にしがみついているクレナちゃん。

 

 実弾射撃訓練で少なからず危険もあるからと、姉のいる補助員洗濯小隊の方へ任せようとしていたのだが、どうやら失敗したらしい。

 大人達によるせめてもの抵抗として、頭部と聴覚の保護の為に戦車帽を被らせるのはアルラン少尉の手によって成功したので、まあ訓練なら一緒にいてもたぶん大丈夫だろう。

 

 そう楽観視していた。

 

 前方、トロワイヨンから2km東にあるランジエール(Ranzières)市街の方から赤い信号弾が昇るのを見るまでは。

 

 えっと、あれ、何だったっけ?

 

 見えるのは赤の信号弾が2発。

 続いて37mmの、YM1重自動小銃(フェルギネア)の銃声が2発が微かに届いてきた。

 

 ああ。

 

 赤の信号弾が2つ。

 

 赤がレギオン接近中、それが2つって事は中隊規模。

 

 ランジエールに哨戒のため派遣していた分隊による急報。

 

「退避ッ!総員、退避壕に突っ込め!」

 

 誰かの、もしかしたら僕かもしれない、その誰かの叫びと共に第1歩兵中隊が息を吹き返し、散らすように陣地各所の退避壕へと潜っていく。

 

「連隊本部へ通報!第1歩兵中隊は現位置で防御戦闘を実施。各部隊による支援を求む!」

 

「駄目です!無線感度不良!」

 

「じゃあ有線でだ!線は引いてあるだろう!」

 

「了解!―――あぁ!繋がりました!やった!」

 

 ミリーゼ中佐は第1歩兵中隊の中隊長らと共に通信機に齧りついている。

 

「クレナちゃん、良いね?良いって言うまで、絶対にこの穴から出ちゃ駄目だよ?」

 

「うーん?わかった!」

 

「よし、良い子良い子」

 

「じぶりーるおにいちゃんも、どこかにいっちゃうの?」

 

 本来は戦場に居てはならないはずのクレナちゃんは、アルラン少尉と大事なお約束をしている。

 

 じゃあ、僕の仕事は。

 

「―――開けろ」

 

 ああ、駄目だ。口の中が乾いて上手く回らない。

 舌を噛んで無理やりに唾液を絞り出して、それで口を湿らせて。

 

「手隙要員、弾薬箱を開けろ!弾倉に弾を込めるんだ!」

 

「「「了解!」」」

 

 そう、ちょうどこれから実弾射撃訓練というタイミングで、誰のフェルギネアの弾倉にも弾が込められていないのだ。

 

「ミリーゼ中佐、他の退避壕にも弾込めをさせるように連絡を」

 

「ああそうだった!おい、聞いてたな?他の退避壕に繋げ!」

 

 さて残る問題は、僕達がいるここの他に退避壕があと5ヵ所あり、その内の2ヵ所はまだ有線電話が引かれていないという事だ。

 

 幸いにしてまだレギオンの、長距離砲兵型(スコルピオン)が装備する155mm榴弾砲の砲声も、その155mm砲弾の飛翔音も聞こえていない。

 

 さあ、非情になろう。

 

「おい、お前と、お前。お前ら2人でC壕に弾込めするよう伝令に行け」

 

 その2人の兵士から嘘だろ?今から退避壕の外に出るのか?という恐怖を浮かべた顔が返答として帰ってくる。

 

 それならばと、腰のホルスターからベレッタ86を抜いてスライドを引き、初弾を装填してみせ―――。

 

「行け!」

 

 再度の命令と共に、それで理解した2人が退避壕から飛び出していく。そうだ、それで良い。

 

 僕は、技術准尉。

 

 少なくとも10月1日まではそうだったし、両肩には未だに階級章が載っている。

 共和国工廠の軍属として共和国軍に籍が無いながらも、決して小さくない指揮権を持つ階級の士官だった者として、僕には責任と使命がある。

 

「それと、お前も。僕と一緒にF壕へ伝令だ」

 

 指揮官先頭、士官が兵から信頼を得る、最も手っ取り早い手段である。

 

 さあ、ここから一番遠い退避壕まで愉快なかけっこだ。

 

 僕たちがF壕に辿り着くのと、レギオンの155mm榴弾砲の効力射が着弾するのと、どっちが早いかな?

 

 

 

 星歴2139年10月7日

 サンマグノリア共和国

 東部戦線

 第3歩兵師団管区

 ロレーヌ自然公園外縁部防衛線

 トロワイヨン西部砲兵陣地

 

 第112歩兵連隊第1迫撃砲中隊。俺の新しい部隊だ。

 

 共和国工廠(RMI)才媛(爆弾魔)が開発した新兵器。

 なんと発案から僅か2週間で今日を、試作兵器としての呼称すら決まる前に実戦参加を迎える事となった急造兵器。

 

 共和国軍制式の4輪駆動軽装甲機動車に、1週間で開発試作された後装式自動平射迫撃砲などというキテレツな砲を載せた新型自走砲。

 

 レギオンに対して有効ではない81mm迫撃砲の弾薬在庫処分用自走砲。

 

 それの試験運用部隊でもある。

 

「マァ、やるっきゃねえか。中隊長ってのを」

 

 栄えある第40砲兵連隊(40eRA)で40門の155mm自走榴弾砲を率いた連隊長サマだった俺が、今じゃ最大射程5000mしかない81mm迫撃砲弾をぱんぱか撃ち出すちんまい自走砲が6門だけの中隊の中隊長サマだ。

 前は上級部隊も第2機甲旅団(2eBB)なんていうイイトコロだったんだが、今や40mm機関砲搭載のIFVを3両しか持たない貧乏所帯の第112歩兵連隊(112eRI)

 

 まあ、連隊が保有していた全ての155mm自走榴弾砲と半分の部隊将兵を代償に得た戦果が、僅かにレギオン2個中隊だけだったのだ。

 普通だったら降格処分も有り得た大失態で、そうならなかったのは、共和国軍の全ての砲兵がレギオンに対抗出来ず同じ大失態をやらかしたからに過ぎない。

 

「連隊長!A小隊及びB小隊の射撃準備完了しました!」

 

「バカ、中隊長だ。バカ」

 

「失礼しました!」

 

 ()()()副官である40eRAを生き残った部下を叱りつけるが、視線と姿勢は前に向けたまま。背後に並ぶA小隊の自走迫撃砲3両には振り向かない。

 

 信頼出来る良い部下達だ。今更慣れない新型自走砲が配備された所で戸惑うような奴らじゃあ、無い。

 

 マッズ川沿いの土手の斜面に伏せ、川向こうのトロワイヨン市街の更に向こう、既に阻電攪乱型の群が上空に展開しているその直下、レギオンが来るであろう方向を双眼鏡でじっと見続ける。

 あるいは時折、傍に置いた風速計と温湿度計を確認する。

 

 まず疑うべきは自分の勘から。部下に見せるべきは自分の背中ってな。

 

「オォ?来るぞ、準備砲撃だ」

 

 地面から微かに響く振動。

 伏せているからこそ、遠方からでも腹に響くのが感じられる特徴的なソレ。

 

 レギオンの長距離砲兵型が155mmを撃つ振動が、彼方の地面伝いに伝わって来た。

 

 ちらりと遥かな稜線の向こうを双眼鏡で見れば、微かに発砲炎が阻電攪乱型の雲に反射して見える。―――だいたい27kmってトコロか。

 

 やや遅れて砲声も聞こえて、さらに遅れて、着弾。初弾から夾叉、すぐに効力射が降ってきて、今日までに補助員が構築した防御陣地へ次々と命中していく。

 

「全く腕が良い。あとどっかに観測の斥候型がいるな」

 

 まああれだけ深く掘って、天蓋を2.5m厚のコンクリートで堅めた退避壕だ。155mm榴弾砲弾じゃあダースで当てても抜けやしない。

 

 アレで死ぬとしたら退避壕から出てる馬鹿だけだ。

 

 そして、待望の敵がようやく双眼鏡に映り込む。予測針路にドンピシャ。もう一度だけ風速計と温湿度計を確認する。

 

「よーし、来たぞ来たぞ!射撃用意ッ!緒元修正、手前2!右1!」

 

 既に112eRI連隊司令部との無線は途絶しているから、全ては俺の采配に掛かっている。

 

 ついでに部下達との無線も通じないから指揮の伝達は手旗か回光通信機なんていう古典的通信手段に頼るしかなく。

 

 さあもっと引き付けろ。ああいや、早めに撃って長距離砲兵型の気をコッチに逸らして防御陣地の損壊を軽減させるのも良いな。

 

「―――マァ、こんなもんか。撃て」

 

 号令と同時に副官が信号旗を振り下ろす風切り音が鳴き、砲が鳴く。

 

 6門それぞれが毎秒1発よりも早いペースで、僅か5秒で挿弾子(クリップ)2つ分、8発の81mm迫撃砲弾を撃ち終わる。

 合計で48発。普通の迫撃砲なら同じ6門で24秒って所だ。

 

「陣地転換ッ!急げ急げ!()()()()()()()()()!」

 

 流した血で得た、得難い教訓の1つ。

 

 レギオンの対砲兵射撃(カウンター)は155mm自走榴弾砲の、共和国軍砲兵が今まで保有していた全ての砲の陣地転換よりも早い。

 最短記録はなんと17秒、運悪く長距離砲兵型から僅か8kmという至近距離に射点を置いちまった第93山岳砲兵連隊(93eRAM)が食らったそれだ。

 

 だが、この新型自走砲はそれよりも、迅い。

 

 なにせ積んでるのは81mmなんていうちんまい口径でいながら駐退器の付いた迫撃砲だから展開格納に時間の掛かる駐鋤が無く、砲が軽いから車としての重心が低く、そして何よりベース車両は4輪駆動軽装甲機動車で。

 

 陣地転換の指示から僅か1秒で発進した自走迫撃砲の内の1両、A小隊の小隊長車が傍に寄せて来て、―――それに停車させず飛び乗る。続いて来た2号車には副官が。

 

「連隊長!これ良いですねぇ!足は軽快で!撃つ時ずらかる時はパーキングギヤとサイドブレーキだけ!これなら()()()()()カウンターされませんよ!」

 

 A小隊の小隊長はコレを甚く気に入ったらしい。だが俺がまず返すべき言葉は。

 

「バカ!中隊長だ!」

 

「失礼しました連隊長!」

 

 ああまったく、―――後ろ、20秒と少し前まで俺らが81mmをぱんぱか撃っていた射点を振り向けば、長距離砲兵型の対砲兵射撃が何も無い地面を矢鱈滅多に穿り返していて。

 

「ああ!()()()()()ならずに済んだな!あと中隊長だ!バカ!」




連隊長第1迫撃砲中隊中隊長
 白系種の大佐。名前はまだ無い。
 元第40砲兵連隊(40eRA)連隊長。
 上級部隊である第112歩兵連隊(112eRI)の連隊長であるカールシュタール中佐より階級が上だが、部隊編成の都合でこうなっただけで指揮権はカールシュタール中佐の方が上という事になっている。
 当人としても緒戦で失敗した自分と、成功したカールシュタール中佐という対比もあり下の階級に指揮されるのには納得しているが、カールシュタール中佐としてはそもそも阻電攪乱型の通信妨害のせいで指揮権の上下どころではないため、砲兵運用に関してはその一切を大佐に任している。
 第1迫撃砲中隊そのものが第40砲兵連隊の生存者で編成されており、第112歩兵連隊の中でもその練度は高いが、連隊長中隊長が戦前から部下の登用を人種や家系ではなく才覚ありきで行っていた為に、練度とは裏腹に上層部からは疎まれており、第112歩兵連隊(虹色連隊)に新型自走砲が配備されるという事で都合良く連隊の生存者丸ごと送られたという面もある。
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