歩兵にできることはまだあるかい   作:鶴岡

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そういえば彼が居たのを思い出しました。


はじめまして、リュシェール様。わたくしは―――

 星歴2139年12月1日

 サンマグノリア共和国

 首都リベルテ・エト・エガリテ

 共和国工廠本部

 屋外射場

 

 そういえば今日の午後は、向こうだとこの世界(エイティシックス)の第2巻の発売日なんだなと、ふと寒空の下でそれを見ながら感慨に耽る。

 

 そのエイティシックスの情報を元にして私が装甲車両開発部に開発を依頼したそれが、その現物が今は私たちの目の前に鎮座している。

 

「このXM101〈バーレット〉はレギオンに対抗すべく大重量化が進む昨今の歩兵装備の運搬を支援する無人機であり―――」

 

 XM101〈バーレット〉。

 

 それが目の前の装甲車両開発部の男、ミシェルの上司だった技術少佐が共和国軍上層部や私達RMIの職員の面々に向けてプレゼンテーションしている機体の制式名称だ。

 

 オレンジ色の角ばった体躯に短い4本の脚、2本の伸縮式クレーンアーム、1基のコンテナマウントを備え、単機で5tの積載量に加えて牽引により追加の運搬を可能とする、正真正銘の無人機。

 

 レギオンに対抗可能な無人兵器の開発に行き詰った装甲車両開発部が、それでも何らかの成果を上層部に示すべく、ちょうど私からの要求があった事もあって、非武装とはいえ装脚式車両の実戦運用によるデータ収集も目的として開発した機体だ。

 

 そんないくらか消極的な理由により生まれた目の前の機体は、しかし鉄道輸送を鑑みて車両限界ギリギリで設計されたその全高2.5mの図体で居ながらも何故か中々に愛嬌があるように見えた。

 

「ぴっ」

 

 ?

 

 ……喋った?

 

「―――それではデモンストレーションとしてXM101〈バーレット〉によってM324重迫撃砲〈グリボーバル2〉を設営させて見せましょう」

 

 そう言って技術少佐が手元のタブレット端末で何かの操作をすると、XM101〈バーレット〉はアームを使って背部のコンテナから1つの弾薬コンテナを取り降ろし、その中身を取り出して組み上げていく。

 

 先々月に私が開発して先月に制式採用されたM324重迫撃砲〈グリボーバル2〉、それの模擬弾頭と成形済みコンクリート製砲身を組み合わせた訓練仕様だ。

 

「あのアームで門管に引索を結び付ける事さえ出来るのか。中々に器用じゃないか」

 

 そして私の隣には何故か作戦部のアンリ・クリーブ少将が居る。何故だ。

 

「どうした?リュシェール君の発案なんだろう、あれ」

 

「ええ、確かに私が装甲車両開発部に開発依頼をしていましたが……、まさかテストベッドとはいえ主力機を差し置き先行して開発されるとは想定外でした」

 

「確かにな。試作機が出来たと見に来てみれば、出来上がったのは非武装の支援機。それも―――」

 

 クリーブ少将の視線の先ではちょうど装甲車両開発部の技術少佐がXM101〈バーレット〉から引索を受け取った所だった。

 

「それではXM101〈バーレット〉が設営したM324重迫撃砲〈グリボーバル2〉を撃ちます。―――3、2、1、発射!」

 

 ばしゅっと発射音を響かせて撃ち出された砲弾、あくまでデモンストレーションという事で装薬を減らされ300mの射程しかないそれが小さな放物線を描いて飛んでいく。

 

「アームの能力的には迫撃砲の設営から装填、そして発射まで可能だが、敵味方識別システム(IFF)の開発が完了していない為に自律システムとしての発射動作にはプロテクトを掛けており不可能。……惜しいな」

 

「それでも支援機として割り切れば中々優秀かと」

 

「作戦部としては機動戦を行う為の主力機が欲しかったのだがなあ。いや、XM101〈バーレット〉で得られた知見が主力機の開発に寄与するのを期待しておこう」

 

 そのXM101〈バーレット〉は今度は陣地設営をやり始めた。スペックシートにも書いてあったけど中々に多芸だな?

 

「ああそうだ、一応君にも関係する話だから教えておこう。アークエンシエル連隊(Régiment Arc-en-ciel)だが、第112歩兵連隊(112eRI)以外の全てが一昨日までに全滅したそうだ」

 

「……え?」

 

 どういう事?

 

「それに合わせて112eRIの称号は唯一の虹色連隊(Régiment L'Arc-en-ciel)に改称される。共和国軍で唯一となった虹色連隊として―――中尉、どうした?」

 

 目の前でXM101〈バーレット〉は戦車壕を掘り終え、今度は四隅に突き刺した支柱に偽装網を展開している。

 

「全滅?……()()、虹色連隊?」

 

「何だ、知らなかったのか?捨て駒が1つだけな訳無かろう。君の開発した兵器の有用性を実証する為の比較対照として、旧来の装備と編成の部隊と、あるいは作戦部の他の派閥が推す別の戦術を採用した部隊があったのだよ」

 

 対照実験という検証手法が脳裏に過ぎる。

 レギオンに対して旧来の装備と編成の部隊がどうなるかなんて、開戦から今日までにいくらでも実証されてきたのに?

 

「ちなみに、別の戦術というのは?」

 

「君の兵器がなければ、それが新型機甲兵器の開発までの時間を埋める事になっていただろうね。……対戦車地雷や即席爆弾(IED)を抱えての自爆攻撃だよ」

 

 自爆攻撃が、戦術?

 

「それは、以前に私が断った梱包爆薬用起爆装置の?」

 

「ああ、君の所にも開発要求が来ていたのか?確か民間の火薬製造企業が発破用炸薬で作られたものが採用されていたが」

 

 ああ、確かに共和国で火薬を扱っているのはRMIだけでは無い。

 だから私が断って、そして私以外のRMIの他部署が多忙で手が塞がっていようとも、他が作れてしまう。

 

「結局はロクに戦果も挙げられず全滅したよ。それこそ旧来の部隊の方が良く戦えていたくらいだ。まあ()の要求であった虹色の処分という面ではその方が良かったのかもしれんが」

 

「それじゃ112eRIは、唯一となってしまった虹色(L'Arc-en-ciel)は、どうなるんです?」

 

 まさか()()()()()()のような決死作戦なんて。

 

「そう心配しなくていい。112eRIはもはや捨て駒にするには惜しい。これだけは作戦部の総意だ。何せ共和国で唯一、レギオンに対抗可能な部隊なのだから。それは君の開発した兵器を優先的に配備しているからというのもあるが、それ故に戦技開発や他部隊への教導を担わせたい」

 

「つまり、後方に?」

 

「いや、しばらくは前線で遅滞を行いながらだ。シャリテの北にある要衝ランスが陥ちて第3歩兵師団全体が半包囲されている現状で、その中から112eRIを引き抜けば東部戦線そのものが崩壊する。今や112eRIは東部戦線の要だ」

 

 つまり、危機的なれど決死ではない。

 

「だから、コレも君に預ける事になる」

 

「……コレ?」

 

 クリーブ少将の視線の先を見てみようと視線を正面に戻してみれば。

 

「ぴっ」

 

 その巨体は何時の間にか目の前に居た。

 

「ひッ」

 

 思わず半歩下がって右手がホルスターに掛かる。

 いや、……大丈夫か?

 

「ああ、リュシェール技術中尉、驚かせてすまないな」

 

 そんな私に声を掛けたのはXM101〈バーレット〉の横に立つ装甲車両開発部の技術少佐。ええと、確か、そう、アレン・ラフロア技術少佐だったか。

 

「ええ、はい。なんとか。吃驚しました」

 

 ふと辺りを見回せば人は疎ら、何時の間にかXM101〈バーレット〉のプレゼンテーションは終わっていたらしい。

 ラフロア技術少佐と、そしてXM101〈バーレット〉の巨体を見上げつつクリーブ少将へと問い掛ける。

 

「コレ、というのはまさか?」

 

「そうだ。XM101〈バーレット〉の試験運用を112eRIで行うにあたり、君の方で事前評価を行ってもらいたい」

 

「ぴぴぴっ」

 

 ……いや、何か喋ってますよねコレ?

 

「ちなみに何機を、ですか?」

 

「……それがだな」

 

 何故か途中で言い淀むラフロア技術少佐。

 

「実は、まだAIが完成していなくてな。出来上がったのはこの1機だけなんだ」

 

「ぴぴっ」

 

 ?

 

 いや、AIといっても所詮はプログラムでしかない訳で。

 

「この、目の前のXM101〈バーレット〉に使ってるAIを複製すれば増やせるのではないでしょうか?」

 

「それが、出来ないんだ」

 

「ぴっ」

 

 ??

 

 プログラムの複製が、出来ない?

 そして何故かラフロア技術少佐の額には12月の寒空の下にも関わらず汗が浮き始めていて。

 

「それは一体、何故です?このAIを開発したのは貴方方なのでは?」

 

「違う……。コイツに入ってるAIは、我々が開発したものでは無いんだ!」

 

「ぴっぴっ」

 

 ???

 

 は?

 

「それじゃ一体、これは何によって動いているんです?」

 

「ぴっ」

 

「分からない。分からないんだ!複製も解析も出来ない!何処から来たのかも分からないんだ!」

 

「ぴっぴぴっ」

 

 もはやラフロア技術少佐の表情は亡霊に憑りつかれてしまったかのようで。

 

「どういう事なの……」




早すぎたファイド
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