歩兵にできることはまだあるかい   作:鶴岡

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救国兵器()の名は

 星歴2139年9月22日

 サンマグノリア共和国

 首都リベルテ・エト・エガリテ

 共和国工廠本部厚生棟地下2階バー

 

「いや、まだ諦めるには早い。リヴィエール准尉」

 

「……少佐?」

 

「一時的にせよ、我が軍は西部戦線でレギオンを押し返した実績を残している。勝利を得られている」

 

 レギオン。カールシュタール少佐が言った聞きなれないその単語にミシェルと共に疑問が浮かぶ。

 

「ああ、これは明日にも周知される事項だから問題無いだろう。開戦前より東部戦線で傍受していた帝国軍の暗号通信だが、情報部がこれの解読に成功してな―――」

 

 そういって少佐が差し出したタブレットの画面に映し出されていたのは、共和国周辺の地図、いや帝国や連合王国の一部すら写っているこの地図に示された記号の数々は。

 

「これは、まさか帝国軍部隊の配置図?しかも部隊毎に無人機の機種別編成数まで?」

 

「そうだ。そして次はつい先日に傍受したものだが」

 

 少佐の右手人差し指でスワイプされた画面に新たに映し出されたのは、見慣れぬ角ばった機体の3Dデータ、蝶のような機体を除けば全てが装脚で、幾つかは正面投影面積が極限された、まさか?

 

「リヴィエール准尉、君も現物を見た事があるだろう?」

 

「これは、これらは、どうやって?何のために?」

 

 ミシェルの手が、目が、唇が、震えながらに絞り出された言葉は、誰に向けた嘆きだったのか。

 

「どうして、帝国軍がこんな杜撰な通信をしたのか、その意図は一切不明だ。だが、その内容の信頼性は准尉達視察チームがあの惨状の最中にも出来得る限り残骸の解析を行い、そのデータを准尉が持ち帰ってきてくれたことで保証されたんだ。君たちが、この情報が信頼に足るものだという確証を与えてくれた。君が生き残ってくれたからだ」

 

 リュッテ副局長達の死が無駄では無かった。その証は何よりも救いだったのかもしれない。

 

「このレギオン、レギオンというのは暗号解読により判明した帝国軍無人兵器の総称であるが、この内、阻電攪乱型(アインタークスフリーゲ)斥候型(アーマイゼ)近接猟兵型(グラウヴォルフ)、自走地雷については撃破例を得られているし、このリストの中で最も重装甲と思われる戦車型(レーヴェ)も脚部を破壊して擱座させた戦例を得られている。撃破出来ない敵では無いのだ。我々が対レギオン戦略のパラダイムシフトを成し得れば、この戦争は勝てない戦争ではない」

 

 だが、私は知っている。

 

「それにな、空を埋め尽くまで大量に飛ぶ阻電攪乱型を除いて最多数の斥候型、そしてそれに次ぐ近接猟兵型はリュシェール中尉、君のAPでかなりの数を撃破できているんだ。歩兵でもレギオンの数的主力に、つまり歩兵相当のユニットに対抗できる。これは防衛線を支える上で何よりも代え難いし、そのお陰で私や私の連隊の多くの戦友があの絶望的な戦場を生き残る事ができた」

 

 10年後には共和国が滅んでしまう事を。

 

 いや待て?

 

「……あの、APって何ですか?」

 

 バーの空気が、何故か止まった。

 

「えっと、少佐、ちょっとソレは駄目です」

 

 ミシェルが何故か私ではなく少佐に注意をする。それは酒の席とはいえ上官である少佐に失礼だし、何故か私にも失礼な気がした。

 

「まさか、リュシェール中尉は、知らない?いやだってAPは中尉が発明した兵器―――」

 

 少佐の顔が驚愕に染まっていく。

 

「少佐!それ以上いけません!!!」

 

 私が発明した兵器?

 

 それもレギオンとの戦闘にそれなりの数が投入されるほど配備された兵器?

 

「ライフルグレネード、ですね?」

 

「そう、それだ。そうとも言う。いや、そう、言う……」

 

 最早ミシェルは頭を抱えている。話を聞いていたバーの店主(共和国軍主計曹長)に至ってはカウンターの陰に崩れ落ちて笑いを堪えるのに必死な有様。

 

「APって、何を意味しているのでしょうか?もしや徹甲弾(Armor Piercing)の頭文字ではありませんよね?」

 

「その、だな……、聴いても私にしないで欲しいのだが、良いだろうか?」

 

 何ら意味の解らない事に対して、何を承諾してなるものか。

 私はその意思を無言でもって押し通す。

 

 そして、少佐は吐いた。

 

「あ、アス……」

 

「アス、何です?」

 

アスホール(Asshole)……ペネトレーター(Penetrator)……」

 

 

 

ケツの穴を貫きしモノ(Asshole Penetrator)

 

 このロクでもないペットネームを知らぬ間に付けられていた私の兵器群が、よもや共和国の、いやこの戦争の趨勢すら大きく左右する事になるなど、この時の私には知る由も無かった。

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